3. 重力波と沿岸 赤道ケルビン波見延庄士郎 ( 海洋気候物理学研究室 ) 予習課題 hp://www.sci.hokudai.ac.jp/~minobe/class/po_clm/03_e_propagaion.pd を印刷解答の上, 授業冒頭で提出してください. 予習のための課題なので, 冒頭のみ提出を受け付けます. また以下の you ube のビデオを見ておくこと. 個々のビデオは全部は見ずに, 雰囲気がつかめる程度見ればいいです. 大気の重力波 :hp://www.youube.com/wach?v=yxnkzecu3be (30 秒 ) 津波シミュレーション :hp://www.youube.com/wach?v=buhkmir5e1e の 3:50 から日本海の津波沿岸ケルビン波シミュレーション :hps://www.youube.com/wach?v=jswmhkcpshw 赤道ケルビン波, 海面高度観測 hps://www.youube.com/wach?v=ccquqnaqna (1997 年 1 月 ~4 月に赤道ケルビン波が伝播しエルニーニョのきっかけとなった様子 ) 2014 年 9 月 30 日 16:35 重力波見えるかな? 1 2 2014 年 9 月 30 日 16:59 2014 年 9 月 30 日 17:25 3 4
第二回まとめ をコリオリ パラメータといい, Ω を地球自転の角速度,θ を緯度として,=2 Ω sin θ で表される. 密度一様な一層流体の, 運動方程式と連続の式からなる, 閉じた方程式系を, 浅水方程式系という. 摩擦が, 運動に伴う減速の場合, 潜水方程式系の運動方程式は, v = v g ru (2.4a) = u g rv y 摩擦が風応力である場合には, 運動方程式は y τ v τ = v g + (2.5a) = u g + H y H 連続の式は ρ 0 v = H + y (2.6) ρ 0 (2.4b) (2.5b) 5 本日の目的 波は離れた場所に, 物質が移動することなく, エネルギーを伝えるので, さまざまな波動現象は社会生活でも非常に重要である. 電磁波 : 視覚 ( 可視光 ), 電波 (TV, 携帯 ), 赤外線 ( ヒーター, 輻射熱 ) 音波 : 聴覚 地球流体 ( 大気 海洋 ) にも, いくつかの重要な波が存在する. これらの波が離れたところにエネルギーを伝えることが, 多くの大気 海洋現象で重要な役割を果たす. 本日は, エルニーニョ理論でも重要となる, 赤道ケルビン波とその近縁である, 沿岸ケルビン波, そして重力波について学ぶ. これらの波はいずれも前スライドの浅水方程式系で記述でき, その場合の伝播速度はとなる. 扱う順序は, 重力波 沿岸ケルビン波 赤道ケルビン波 地球流体には, もう一つロスビー波または惑星波と呼ばれる重要な波が存在する. それについては次回学ぶ. 6 伝播方程式 ( 一階線形偏微分方程式 ) の基礎 1/2 空間一次元 (, ) の場合,u +cu =0の伝播方程式と呼ぶ. この式の特徴を理解するために, u= u (ξ)=u(-c), ξ=-cを上式に代入し, 解となることを確認しよう. なお解がu(-c) で表されるということは次のスライドに示すように,- 平面上の直線上を伝搬することを意味する. 右の式変形の中で, 下に示す偏微分についての合成関数の微分を使う. 伝播方程式 ( 一階線形偏微分方程式 ) の基礎 2/2 u=u(ξ)=u(-c) で ξ=-c が解であるということは,-c= 一定であれば, ξ が一定で, したがって u(ξ) も一定となる. -c= 一定とは,- 平面の直線にほかならない. 左右の図は同じ情報を色塗りと ( 左 ), 俯瞰した高さと色 ( 右 ) で描いている. u ξ u= u (ξ)=u(-c) であるということは, 左図の依存関係があるので, ξ du u( ξ ) = dξ ξ du u( ξ ) = dξ ここで ξ=-c なので ξ ξ = 1, = c u + cu = u( ξ ) + c u( ξ ) ξ du ξ du = + c dξ dξ du du = c + c = 0 dξ dξ 7 結局,u +cu =0 (c は正の定数 ) という方程式は, u( c ) という解をもち, その解は速度 c で正の方向への伝播を表す. 同様に,u -cu =0 (c は正の定数 ) という方程式は, u( + c ) という解をもち, その解は速度 c で負の方向への伝播を表す. 正か負を入れる 8
波動方程式 空間二次元 (, y) の場合は u c 2 u =0 を, 空間一次元 () の場合, u c 2 u =0 を波動方程式と呼ぶ (uは未知変数,cは定数) 空間一次元では,の正の方向と負の方向にそれぞれcの速度で伝播する. このことは, 以下のように簡単に理解できる 2 u c u = 0 なら c c u 0 2 2 + = なので u cu =0 または u +cu =0 が解である. これらは二つ前のスライドから, それぞれ,の負の方向に速度 c で伝播, 正の方向に速度 c で伝播する解をもつ. 正か負を入れる 伝播 波動方程式のまとめ u +cu =0 (c は正の定数 ) という方程式は, u( c ) という解をもち, この解は速度 c で正の方向への伝播を表す. u -cu =0 (c は正の定数 ) という方程式は, u( + c ) という解をもち, この解は速度 c で負の方向への伝播を表す. 空間一次元 () の場合, u c 2 u =0 を波動方程式と呼ぶ. この式は u +cu =0 または u cu =0 を解として持ち, それぞれ, の正の方向に速度 c で伝播, 負の方向に速度 c で伝播を表す. 9 出発方程式系 波動の基本的な性質を考える上で, 運動方程式 (2.4ab) にあった外力である風応力および (2.5ab) にあった摩擦力は無視しよう. したがって, 出発方程式系は運動方程式 v = v g (3.1a) = u g y および連続の式 v = H + (2.6) 再掲 y である. (3.1b) 運動方程式のスケール解析 1/3 運動方程式 ( 摩擦, 風応力は無視, 右の式 ) に 3 つ項があるけれど, 場合によっては主な 2 項のバランスで近似できて, 話が簡単になる. そこでどの場合にどのバランスとなるのかを, スケール解析よって調べよう. 現象のスケールを 長さスケール L, 時間スケール T, 速度スケール U, と置く. = v g U?, U, g T L 加速度コリオリ圧力傾度 バランスが成り立つように決まると考えて, 積極的にスケール解析には使わない. 11 12
運動方程式のスケール解析 2/3 Q1. コリオリ項と圧力傾度項がバランス ( 地衡流バランス ) する ための,Tの条件はなにか? なお, 記号ずっと大きいを使おう. A1. 加速度項がコリオリ項よりはるかいに小さいなら, 加速度項以外の他の2 項のバランスとなる. この場合 U U T 1 T = v g U?, U, g T L 加速度コリオリ圧力傾度 運動方程式のスケール解析 3/3 Q1. 加速度項と圧力傾度項がバランスするための,Tの条件はなにか? A1. 加速度項がコリオリ項よりはるかいに大きいなら, 加速度項と圧力傾度項のバランスとなる. この場合 U U T 1 T 時間スケールが 1/ よりも十分短い. おおざっぱに言えば,1 日よりも十分短い. = v g U?, U, g T L 加速度コリオリ圧力傾度 13 14 時間スケールが短い場合の支配方程式 東向き運動方程式 (3.1a) から 北向き運動方程式 (3.1b) から 連続の式は (2.6) のまま ( ) h = H u + v y 1 式 1 変数の式に帰着させる. そのためには,(3.2ab) の対称性から,hを残すのがよさそう. (2.6)/ (3.2ab) から未知変数にhのみを含む式が得られる h gh h + h = (3.3) これは二次元の波動方程式にほかならない. u v = gh = gh ( ) 0 yy y (3.2a) (3.2b) 時間スケールが短い : 非回転重力波 ( ) 0 h gh h + h = (3.3 再掲 ) yy この波の復元力は重力であるので, この波を ( 非回転 ) 重力波と呼ぶ. 重力波には, 海洋の津波, 大気の山岳波などがある. 重力波の伝播速度は c = ± gh (3.4) である. 水深が 4000 m で, 重力加速度を 10 m/s 2 とすると, 重力波の伝播速度は 200 m/s である. 15 16
ロスビー変形半径 空間一次元で, 長さ L に渡って初期水位を与えたとする. L 圧力傾度力重力波応答の加速 盛り上がりを逃がすように, 圧力傾度力の向きに流体が加速される. これは重力波として応答している. 重力波伝播速度は gh なので, 距離 Lを伝播するのに要する時間スケールは, L /. gh この時間スケールが 1/ よりも十分大きいなら, 流れがコリオリ力で曲げられ, 圧力傾度力はコリオリ力でバランス. L / gh 1/ gh L = R O ロスビーの変形半径 L 圧力傾度力 コリオリ力 17 18 地衡流の収束 発散?( 一定の場合 ) 1) 初期水位 2) 流れは? 北 赤道東 3) 収束発散? 4) 移動方向? 収束発散はゼロ, 伝播はしない 岸に沿う波 コリオリ力によって, 流体粒子の運動が曲げられる. しかし岸があると, 岸に流が当たってしまい, 異なる運動をするだろう. 岸にくっついて, 水位が盛り上がっている状況を考えよ方北う. コリオリが効くとどうなるか? 向半どういう流れどんな水平収元の水位はどっに球岸ができる? 束発散分布? ちに移動? 伝でコリオリが播は効く流れ収し岸束よを う右とに発す見散る次は定量的理解に式を使おうるこの波を沿岸ケルビン波という 19 20
沿岸ケルビン波の解 1/3 岸が邪魔するために, 岸に直交する流速は, 岸に沿う流速よりもはるかに小さい. 実は沿岸ケルビン波は, 岸に直交する方向の流速 ( 今 v としよう ) がゼロとなる解で表現さ れる. その際の式は, (3.2a 再掲 ) u v = gh u =, gh (3.2b 再掲 ) v + u = ghy u = gh y (2.6 再掲 ) h = H( u + vy) h = Hu 岸に沿う 方向には,(3.5a)(3.6) からhのみの 1 式を得ることは容易で h ghh これは非回転重力波と同じく,の正負の2 = 0 (3.7) 方向に速度 で伝播する波を示している. しかし物理ではときどきあることだが,2つの解がともに成り立つとは限らない. (3.5 a) (3.5b) (3.6) 沿岸ケルビン波の解 2/3 岸に直交するy 方向には,u, hがそれぞれ特定の構造を持つと仮定する. ただし,(3.5a) または (3.6) が成り立つには, その構造 Y(y) が同一である必要がある. したがって, ( u, h)(, y, ) = Y ( y) ( uɶ (, ), hɶ (, )) (3.8) y 方向の構造を決めるために,(3.5b) (3.6) H h = Hu = ( ghy ) (3.8) 上式 gh Yhɶ = Yyhɶ (3.9) 21 22 沿岸ケルビン波の解 3/3 ところで速度で伝播するなら伝播方程式は hɶ + gh hɶ = 0 (3.10) であり, 一方速度で伝播するなら伝播方程式は hɶ gh hɶ = 0 (3.11) である. したがって, 正方向の伝播なら (3.9)(3.10) からYについて Y = Y gh / (3.12) y であって,Y は沖に向かって減衰する. 逆に負方向の伝播なら,(3.9)(3.10) からは Y について (3.13) Y = + Yy gh / となりYは沖に向かって増加する. 物理的に存在可能な解は前者のみなので,(3.10)(3.11) の式の組が成り立ち, 波は正の方向に伝播することが確認できた. 23 赤道に沿う波 岸が支える沿岸ケルビン波のように, 両半球の水位が互いに支えることによって, 赤道にも同様の波が生じる この波を赤道ケルビン波と呼ぶ. 北 1) 初期水位 東 赤道 2) 流れは? 3) 収束発散? 4) 移動方向? 発散収束 発散収束 伝播は東向き. 速度はやはり gh 24
ケルビン波の補足 導出時の概念図では分かりやすさのために, 静止状態から考えたので, 岸 ( 赤道 ) に直交する流れもあるように描いたが, その流れはケルビン波によるのではない. 純粋なケルビン波では, 伝播方向の速度成分のみを持つ. 収流れ束コリオリ力圧力傾度力発散高発散 収束 第 3 回のまとめ おおざっぱにいうと, 時間スケールが 1 日よりも短い現象では, コリオリ項を無視することができる. その場合に重要となる波は, ( 非回転 ) 重力波である. 層厚が H の 1 層モデルでは重力波の伝播速度は. 上の波が 1/ の時間で伝播する距離を, ロスビーの変形半径と言い, これよりも大きいスケールでは一般に地衡流バランスが成り立つ ( 摩擦無しの場合 ) 岸があることで生じる波が, 沿岸ケルビン波で,1 層モデルの伝播速度はで, 岸を右に見る方向に伝播する. それと近い関係にあるのが, 赤道ケルビン波で, 1 層モデルの伝播速度はで赤道に沿って東向きに伝播する. 25 26