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関節可動域ならびに測定法 I. 関節可動域表示ならびに測定法の原則 1. 関節可動域表示ならびに測定法の目的日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が制定する関節可動域表示ならびに測定法は 整形外科医 リハビリテーション科医ばかりでなく 医療 福祉 行政その他の関連職種の人々をも含めて 関節可動域を共通の基盤で理解するためのものである したがって 実用的で分かりやすいことが重要であり 高い精度が要求される計測 特殊な臨床評価 詳細な研究のためにはそれぞれの目的に応じた測定方法を検討する必要がある 2. 基本肢位 Neutral Zero Position を採用しているので Neutral Zero Starting Position に修正を加え, 両側の足部長軸を平行にした直立位での肢位が基本肢位であり 概ね解剖学的肢位と一致する ただし 肩関節水平 については肩関節外転 9 の肢位 肩関節外旋 内旋については肩関節外転 で肘関節 9 位 前腕の回外 回内については手掌面が矢状面にある肢位 股関節外旋 内旋については股関節 9 で膝関節 9 の肢位をそれぞれ基本肢位とする 3. 関節の運動 1) 関節の運動は直交する 3 平面 すなわち前額面 矢状面 横断面を基本面とする運動である ただし 肩関節の外旋 内旋 前腕の回外 回内 股関節外旋 内旋 頚部と胸腰部の回旋は 基本肢位の軸を中心とした回旋運動である また足関節 足部の回外と回内 母指の対立は複合した運動である 2) 関節可動域測定とその表示で使用する関節運動とその名称を以下に示す なお 下記の基本的名称以外に良く用いられている用語があれば ( ) 内に併記する (1) と多くは矢状面の運動で 基本肢位にある隣接する 2つの部位が近づく動きが 遠ざかる動きがである ただし 肩関節 頚部 体幹に関しては 前方への動きが 後方への動きがである また 手関節 指 母趾 趾に関しては 手掌あるいは足底への動きが 手背あるいは足背への動きがである (2) 背屈と底屈足関節 足部に関する矢状面の運動で 足背への動きが背屈 足底への動きが底屈である とは使用しないこととする

(3) 外転と内転多くは前額面の運動であるが 足関節 足部および趾では横断面の運動である 体幹や指 足部 母趾 趾の軸から遠ざかる動きが外転 近づく動きが内転である (4) 外旋と内旋肩関節および股関節に関しては 上腕軸または大腿軸を中心として外方へ回旋する動きが外旋 内方に回旋する動きが内旋である (5) 外がえしと内がえし足関節 足部に関する前額面の運動で 足底が外方を向く動きが外がえし 足底が内方を向く動きが内がえしである (6) 回外と回内前腕に関しては 前腕軸を中心にして外方に回旋する動き ( 手掌が上を向く動き ) が回外 内方に回旋する動き ( 手掌が下を向く動き ) が回内である 足関節 足部に関しては 底屈, 内転, 内がえしからなる複合運動が回外 背屈, 外転, 外がえしからなる複合運動が回内である 母趾 趾に関しては 前額面における運動で 母趾 趾の長軸を中心にして趾腹が内方を向く動きが回外 趾腹が外方を向く動きが回内である (7) 水平と水平水平面の運動で 肩関節を 9 外転して前方への動きが水平 後方への動きが水平である (8) 挙上と引き下げ ( 下制 ) 肩甲帯の前額面での運動で 上方への動きが挙上 下方への動きが引き下げ ( 下制 ) である (9) 右側屈 左側屈頚部 体幹の前額面の運動で 右方向への動きが右側屈 左方向への動きが左側屈である (1) 右回旋と左回旋頚部と胸腰部に関しては右方に回旋する動きが右回旋 左方に回旋する動きが左回旋である (11) 橈屈と尺屈手関節の手掌面での運動で 橈側への動きが橈屈 尺側への動きが尺屈である (12) 母指の橈側外転と尺側内転母指の手掌面での運動で 母指の基本軸から遠ざかる動き ( 橈側への動き ) が橈側外転 母指の基本軸に近づく動き ( 尺側への動き ) が尺側内転である

(13) 掌側外転と掌側内転母指の手掌面に垂直な平面の運動で 母指の基本面から遠ざかる動き ( 手掌方向への動き ) が掌側外転 基本軸に近づく動き ( 背側方向への動き ) が掌側内転である (14) 対立母指の対立は 外転 回旋の3 要素が複合した運動であり 母指で小指の先端または基部を触れる動きである (15) 中指の橈側外転と尺側外転中指の手掌面の運動で 中指の基本軸から橈側へ遠ざかる動きが橈側外転 尺側へ遠ざかる動きが尺側外転である * 外反 内反変形を意味する用語であり 関節運動の名称としては用いない 4. 関節可動域の測定方法 1) 関節可動域は 他動運動でも自動運動でも測定できるが 原則として他動運動による測定値を表記する 自動運動による測定値を用いる場合は その旨を明記する [5 の 2) の (1) 参照 ] 2) 角度計は十分な長さの柄がついているものを使用し 通常は 5 刻みで測定する 3) 基本軸 移動軸は 四肢や体幹において外見上分かりやすい部位を選んで設定されており 運動学上のものとは必ずしも一致しない また 指および趾では角度計のあてやすさを考慮して 原則として背側に角度計をあてる 4) 基本軸と移動軸の交点を角度計の中心に合わせる また 関節の運動に応じて 角度計の中心を移動させてもよい 必要に応じて移動軸を平行移動させてもよい 5) 多関節筋が関与する場合 原則としてその影響を除いた肢位で測定する たとえば 股関節の測定では 膝関節をしハムストリングをゆるめた肢位で行う 6) 肢位は 測定肢位および注意点 の記載に従うが 記載のないものは肢位を限定しない 変形 拘縮などで所定の肢位がとれない場合は 測定肢位が分かるように明記すれば異なる肢位を用いてもよい [5 の 2) の (2) 参照 ] 7) 筋や腱の短縮を評価する目的で多関節筋を緊張させた肢位を用いても良い [5 の 2) の (3) 参照 ] 5. 測定値の表示 1) 関節可動域の測定値は 基本肢位を として表示する 例えば 股関節の可

動域が位 2 から 7 であるならば この表現は以下の2 通りとなる (1) 股関節の関節可動域は 2 から 7 ( または 2 ~7 ) (2) 股関節の関節可動域はは 7 は-2 2) 関節可動域の測定に際し 症例によって異なる測定法を用いる場合や その他関節可動域に影響を与える特記すべき事項がある場合は 測定値とともにその旨を併記する (1) 自動運動を用いて測定する場合は その測定値を ( ) で囲んで表示するか 自動 または active などと明記する (2) 異なる肢位を用いて測定する場合は 背臥位 座位 などと具体的に肢位を明記する (3) 多関節筋を緊張させた肢位を用いて測定する場合は その測定値を < > で囲んで表示するが 膝位 などと具体的に明記する (4) 疼痛などが測定値に影響を与える場合は 痛み pain などと明記する 6. 参考可動域関節可動域は年齢 性 肢位 個体による変動が大きいので 正常値は定めず参考可動域として記載した 関節可動域の異常を判定する場合は 健側上下肢関節可動域 参考可動域 ( 附 ) 関節可動域の参考値一覧表 年齢 性 測定肢位 測定方法などを十分考慮して判定する必要がある

Ⅱ 上肢測定 部位名 運動方向 参考可動 域角度 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 両側の肩峰を 頭頂と肩峰を 結ぶ線 結ぶ線 両側の肩峰を 肩峰と胸骨上 結ぶ線 縁を結ぶ線 肩甲帯 shoulder girdle 挙上 elevation 引き下げ 下制 depression 前方挙上 forward 後方挙上 backward 外転 側方挙上 abduction 内転 adduction -1-18 床への垂直線 立位または 座位 -18 肩峰を通る 床への垂直線 立位または 前腕は中間位とする. 肩峰を通る 体幹が動かないように固定す 上腕骨 外旋 肩甲帯 external rotation 意する. 体幹の側屈が起こらないよう に9 以上になったら前腕を 上腕骨 VI. その他の検査法 座位 参照 internal rotation -8 を前方に9 にした肢位 肘を通る 前額面への 内旋 回外することを原則とする. 上腕を体幹に接して, 肘関節 6 の動きを 含む る. 脊柱が前後屈しないように注 肩 shoulder 背面から測定する. 尺骨 垂直線 で行う. 前腕は中間位とする. VI. その他の検査法 参照 水平 horizontal horizontal -135 adduction 肩峰を通る 矢状面への 水平 肩関節を9 外転位とする. 橈骨 前腕は回外位とする. 垂直線 horizontal 上腕骨 -3 horizontal abduction 肘 elbow -145 上腕骨 -5 関節可動域表示ならびに測定法(222年4月改訂) 参考図

回内 前腕 forearm pronation 回外 supination -9 手指をし 肩の回旋が入らないよう た手掌面 に肘を9 にする. 橈骨 第2 中手骨 前腕は中間位とする. 前腕の中央線 第3 中手骨 前腕を回内位で行う. 上腕骨 -9 掌屈 -9 palmar flexion 背屈 手 wrist -7 dorsiflexion 橈屈 radial deviation 尺屈 ulnar deviation -25-55 Ⅲ 手指測定 部位名 運動方向 橈側外転 radial abduction 尺側内転 ulnar adduction 参考可動 域角度 基本軸 掌側外転 掌側内転 母指 thumb palmar adduction MCP MCP IP IP 測定肢位および注意点 運動は手掌面とする. -6 以下の手指の運動は 原則 として手指の背側に角度計 -9 をあてる. 示指 橈骨の palmar abduction 移動軸 母指 延長上 運動は手掌面に直角な面 とする. -6 第1 中手骨 第1 基節骨 第1 基節骨 第1 末節骨 -1-8 -1 関節可動域表示ならびに測定法(222年4月改訂) 参考図

MCP MCP PIP PIP 指 finger DIP DIP -9 第2 5 第2 5 中手骨 基節骨 -45 VI. その他の検査法 参照 -1 第2 5 第2 5 基節骨 中節骨 第2 5 第2 5 DIP は1 の過をとり 中節骨 末節骨 うる. 第3 中手骨 第2 4 5 尺側外転とする. 延長線 指軸 VI. その他の検査法 -8 外転 中指の運動は橈側外転 abduction 内転 参照 adduction Ⅳ 下肢測定 部位名 運動方向 参考可動 基本軸 域角度 大腿骨 -125 体幹と平行 な線 外転 abduction -45 両側の hip ぶ線への 外旋 external rotation 内旋 internal rotation 腿骨外顆の中心 を結ぶ線 垂直線 骨盤と脊柱を十分に固定 する. は背臥位. 膝位 で行う. は腹臥位 膝位 大腿中央線 背臥位で骨盤を固定する. 上前腸骨棘 下肢は外旋しないようにする. より膝蓋骨 内転の場合は 反対側の下肢 中心を結ぶ線 を挙上してその下を通し て内転させる. 下腿中央線 -45-45 測定肢位および注意点 で行う. 上前腸骨棘を結 adduction 大転子と大 -15 股 内転 移動軸 膝蓋骨より 膝蓋骨中心 背臥位で 股関節と膝関節 下ろした より足関節 を9 位にして行う. 垂直線 内外果中央 骨盤の代償を少なくする. を結ぶ線 関節可動域表示ならびに測定法(222年4月改訂) 参考図

-13 腓骨 腓骨頭 膝 大腿骨 knee 外転 abduction と外果を結 ぶ線 adduction 足関節 足部 foot and ankle 背屈 dorsi -1 plantar 内がえし inversion eversion MTP 第1趾, 母趾 great toe, big toe MTP IP IP MTP MTP PIP 趾 toe, lesser toe PIP DIP DIP extenshion 度で行う. 矢状面における -45-3 膝関節を位で行う. 直線 前額面における 下腿軸への垂直 足底面 外がえし 膝関節を位, 足関節を 腓骨長軸への垂 足底面 底屈 行う. 第2中足骨長軸 第2中足骨長軸 内転 は股関節を位で 線 -35 膝関節を位, 足関節を 度で行う. 以下の第1趾, 母趾, 趾の 第1中足骨 第1基節骨 運動は 原則として趾の 背側に角度計をあてる. -6-6 第1基節骨 第1末節骨 第2-5中足骨 第2-5基節骨 第2-5基節骨 第2-5中節骨 第2-5中節骨 第2-5末節骨 -35-4 -35 関節可動域表示ならびに測定法(222年4月改訂)

Ⅴ 体幹測定 部位名 参考可動 運動方向 域角度 前屈 基本軸 移動軸 肩峰を通る 外耳孔と頭 床への垂直線 頂を結ぶ線 両側の肩峰 鼻梁と後頭 を結ぶ線へ 結節を結ぶ の垂直線 線 測定肢位および注意点 -6 後屈 頭部体幹の側面で行う. 原則として腰かけ座位と する. 左 回 頚部 cervical spine 回旋 rotation -6 旋 右 回 腰かけ座位で行う. -6 旋 左 側 側屈 lateral bending 屈 突起と第1 仙椎の棘突起 右 側 第7頚椎棘 を結ぶ線 頭頂と第7 頚椎棘突起 を結ぶ線 体幹の背面で行う. 腰かけ座位とする. 屈 前屈 体幹側面より行う. -45 第1 胸椎棘 仙骨後面 後屈 胸腰部 thoracic and lumbar 突起と第5 腰椎棘突起 を結ぶ線 -3 立位 腰かけ座位または 側臥位で行う. 股関節の運動が入らない ように行う. VI. その他の検査法 参照 -4 両側の後上 回旋 腸骨棘を rotation 結ぶ線 両側の肩峰 を結ぶ線 座位で骨盤を固定して行う. -4 spines 側屈 lateral bending ヤコビー 第1 胸椎棘 Jacoby 線 突起と第5 の中点に 腰椎棘突起 たてた垂直線 を結ぶ線 体幹の背面で行う. 腰かけ座位または立位で 行う. 関節可動域表示ならびに測定法(222年4月改訂) 参考図

Ⅵ その他の検査法 運動方向 部位名 外旋 external rotation 参考可動 域角度 基本軸 -9 shoulder 肩甲骨の 内旋 internal rotation 測定肢位および注意点 前腕は中間位とする. 肘を通る 前額面への 肩 移動軸 尺骨 垂直線 肩関節は9 外転し かつ肘関節は9 した肢位で行う. -7 動きを含 む 内転 adduction 母指 対立 thumb opposition -75 肩峰を通る 床への垂直線 2 または45 肩関節位 上腕骨 で行う. 立位で行う. 母指先端と小指基部 または先端 との距離 cm で表示する. 外転 abduction 第3 中手骨 2 4 5 中指先端と2 4 5 指先端 延長線 指軸 との距離 cm で表示する. 内転 指 adduction finger 指尖と近位手掌皮線 proximal palmar crease または遠位手掌皮線 distal palmar crease との距離 cm で表示する. 胸腰部 thoracic and lumbar 最大は 指先と床と の間の距離 cm で表示す る. spines Ⅶ 顎関節計測 顎関節 temporomandibular joint 開口位で上顎の正中線で上歯と下歯の先端との間の距離(cm)で表示する. 左右偏位(lateral deviation)は上顎の正中線を軸として下歯列の動きの距離を左右ともcmで表示する. 参考値は上下第1切歯列対向縁線間の距離5.cm, 左右偏位は1.cmである. 関節可動域表示ならびに測定法(222年4月改訂) 参考図

( 付 ) 関節可動域参考値一覧表 関節可動域は, 人種, 性別, 年齢等による個人差も大きい. また, 検査肢位等により変化があるので, ここに参考値の一覧表を付した. 部位名及び運動方向 注 1 注 2 注 3 注 4 注 5 肩 13 15 17 18 173 8 4 3 6 72 外転 18 15 17 18 184 内転 45 3 75 内旋 9 4 6 8 肩外転 9 7 81 外旋 4 9 8 6 肩外転 9 9 13 肘 15 15 135 15 146 4 前腕回内 5 8 75 8 87 回外 9 8 85 8 93 手 9 6 65 7 8 7 7 8 86 尺屈 3 3 4 3 橈屈 15 2 2 2 母指外転 ( 橈側 ) 5 55 7 CM 15 MCP 5 6 5 5 IP 9 8 75 8 CM 2 MCP 1 5 IP 1 2 2 指 MCP 9 9 9 PIP 1 1 1 DIP 9 7 7 9 MCP 45 45 PIP DIP 股 12 1 11 12 132 2 3 3 3 15 外転 55 4 5 45 46 内転 45 2 3 3 23 内旋 45 38 外旋 45 46

部位名及び運動方向 注 1 注 2 注 3 注 4 注 5 膝 145 12 135 135 154 1 1 足 背屈 15 2 15 2 26 底屈 5 4 5 5 57 母趾 MTP 3 35 45 IP 3 9 MTP 5 7 7 IP 趾 MTP 3 4 PIP 4 35 DIP 5 6 MTP PIP DIP 頚部 3 45 3 45 側屈 4 45 回旋 3 6 胸腰部 9 8 3 2 ー 3 側屈 2 35 回旋 3 45 注 : 1.A System of Joint Measurements, William A. Clark, Mayo Clinic, 192. 2.The Committee on Medical Rating of Physical Impairment, Journal of American Medical Association, 1958. 3.The Committee of the California Medical Association and Industrial Accident Commission of the State of California,196. 4.The Committee on Joint Motion, American Academy of Orthopaedic Surgeons, 1965. 5. 渡辺英夫 他 : 健康日本人における四肢関節可動域について. 年齢による変化. 日整会誌 53:275-291, 1979. なお,5 の渡辺らによる日本人の可動域は,1 歳以上 8 歳未満の平均値をとったものである.