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誌面講座 地下熱利用技術 7. サーマルレスポンス試験の原理と解析法 調査事例 藤井光 * * 駒庭義人 1. はじめにサーマルレスポンス試験 (Thermal Response Test 以下 TRT と略す ) は地中熱利用ヒートポンプ (Geothermal Heat Pump 以下 GeoHP と略す ) システムにおける垂直型地中熱交換井を主な対象とした 地層の熱伝導率と熱交換井の熱抵抗の評価のための試験である TRT によって推定された熱伝導率や熱抵抗は 地中熱交換井の熱交換挙動を予測する上で不可欠な情報であるため GeoHP システムにおいて TRT を実施して適正な地中熱交換器の本数 長さを決定することは同システムの初期投資の削減にきわめて重要である TRT は 1970 年代に考案されたが 欧米で一般的に実施されるようになったのは GeoHP システムが本格的に普及し始めた 1990 年代であり (Sanner et al., 2005) 日本国内で TRT が一般的に実施され始めたのは 2000 年以降である なお TRT には別名として 熱応答試験 温度応答試験 という呼び名もあり いずれも広く用いられているが これらはすべて同一の試験を指すため 本稿では TRT という名称を一貫して用いることとする 本講座 地下熱利用技術 は 地中熱利用分野におけるオープン方式とクローズド方式の双方を対象としている ( 藤縄 2011) このうち オープン方式は汲み上げた地下水を熱源として用いるため 揚水井の地下水産出能力と地下水の温度が地下からの熱供給能力を決定する したがって オープン方式においては TRT によって推定される地層熱伝導率などのパラメータがシステム設計に及ぼす重要性は低く TRT の意義は小さいと考えられる また クローズド方式システムにおける地中熱交換器は 垂直型地中熱交換器と水平型地中熱交換器に大別できる ( たとえば 長野 2011a) このうち 水平型地中熱交換器の場合は 施工の際に土壌サンプルを採取して熱伝導率を実験室で測定する または 施工途中の水平溝内において原位置で熱伝導率を測定するということが容易であるため 地層熱伝導率の推定を目的とした TRT は不要である 以上より 本稿ではクローズド方式の垂直型地中熱交換井において実施する TRT を主な対象として その原理 実施法 実施例に関する説明を行うこととする ただし 水平型地中熱交換器においては数値計算モデルの実証や最適な熱交換器形状の検討を目的とした TRT は有意義であるので これに関する簡単な説明を第 3 章の TRT 実施例に加えることとする 2.TRT の実施方法 TRT は近年 GeoHP システムを導入している世界各国で行われており 国によってはシステムの規模により TRT が法令で義務付けられている例もある ( たとえば 中国では空調面積 5,000m 2 以上 10,000m 2 以下で 1 回 10,000m 2 以上で 2 回など ) 一方 TRT の実施方法については各国の研 * 九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門 ( 819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744) 391

究機関や企業が独自に設定しており これまで世界的な統一基準が確立されていなかった そこで IEA の蓄熱実施協定 (ECES) では 2007 年 11 月より ANNEX21 において各国の TRT 専門家による統一的ガイドラインの作成を行っており 現在も継続中である ( 日本代表 : 北海道大学大学院長野克則教授 ) その報告書は本稿執筆時点 (2011 年 8 月 ) では未出版であるが 内容はほぼ確定しているので その要約版 ボアホール型地中熱交換器に対する加熱法による熱応答試験の標準試験方法 Ver.2.0 ( 長野 2011b) を参考にして TRT の試験装置と実施方法について以下に述べる 2.1 試験装置 TRT 装置は 熱媒体を加熱し 循環を行うための循環系と 熱媒体温度 消費電力 循環流量などを計測する計測系より構成される 循環系の主な構成要素は循環ポンプ 電気ヒーター 水タンクなどであり 計測系は温度センサー 流量計 電力計 データロガーなどである TRT 装置の概念図を図 1 に示す この装置では 水タンク内に設置した電気ヒーターによって加熱された熱媒体が 循環ポンプにより熱交換井内を循環し 地中にて放熱する 試験装置の設計 設置における注意点を以下に記す 熱負荷には電圧の安定した電源に接続した電気ヒーターを用いる 電気ヒーターは実使用 図 1 TRT 装置の一例 ( 長野 2011b) 392

時と同等程度の熱負荷をかけられる容量を有することが必要である なお ヒーターにはサーモスタットと温度ヒューズを設け 過熱事故を防止する 循環ポンプは実使用時と同等の流量を循環可能な能力を有することが必要である また 流量を調整するバルブかインバーターを設置する 流量計には ± 0.5% 以下の精度を持つ工業用電磁流量計が好ましい 熱交換井出入口温度を測定する温度センサーには白金測温抵抗体温度計を用いる 精度は想定される温度範囲において ± 0.1 以下が望ましい データロガーは電気的に高い耐ノイズ性を持つものが望ましい 地上配管における熱損失が大きいと負荷が不安定になるので 地上配管の長さは最小限にし 十分な断熱 防水を施す 断熱材の厚さは 40mm 以上とし 屋外部には日射を反射する保護被覆をつける 配管頂部にはエア抜きを設置し 熱媒体の熱膨張による漏水を避けるために膨張タンクを設ける ヒーター ポンプへの配線と主電源との間にはブレーカーを設置する 欧米では TRT 装置はトレーラーに搭載して牽引し 試験現場に運搬設置することが多いが 国内では近年パーツの小型軽量化や設計の改善により 小型 TRT 装置が開発されている たとえば 九州大学において製作した TRT 装置は 幅 93cm 奥行 62cm 高さ 53cm の市販樹脂ケースに電気ヒーター 循環ポンプ バッファタンクを 幅 60cm 奥行 36cm 高さ 33cm のケースにデータロガー 安全回路 電力計をそれぞれ収納したもので ( 図 2) 後部座席を倒せばスモールカーや軽自動車でも運搬可能である ヒーター出力は電源電圧 200V で 2 4 6kW の切り替えが可能であり 様々な熱交換能力をもつ坑井における試験に対応できる GeoHP システムでは初期投資の削減のために TRT は可能な限り低コスト化すべきであるため このような小型 TRT 装置の開発 普及は重要と考えられる 2.2 試験方法垂直型 U 字管式地中熱交換井における 標準的な TRT 実施手順を以下に記す なお 二重管式の同軸型地中熱交換井は地中熱交換量を深度方向に関して一定とみなすことができず 解析が複雑となるため 以下に説明する通常の TRT は適さない 1 熱交換井掘削 仕上げ後は最低 3 日間熱交換井を放置し 地温を自然状態へ回復させる 試験を行う熱交換井周辺 ( 半径 6 m 以内 ) において 他の掘削工事が行われていないことに留意するとともに 近隣での地下水のくみ上げが行われている場合にはそれを休止しておく 2 TRT 装置を設置する前に ± 0.1 の確度を持つ温度計を用いて坑井内温度 ( 自然地温 ) を地表から坑底まで測定する 測定深度間隔は 10m 以下が望ましい 3 断熱を施したホース等で TRT 装置と熱交換井を接続し 配管を熱媒体で満たした後 エア抜きをする 熱媒体としては 安価で取り扱いが容易な水が最も適当であるが 熱抵抗の推定を重視する場合は システム完成後に実際に使用する熱媒体を使用する 4 温度センサー 流量計をデータロガーに接続する 熱媒体の熱交換井出入口温度の測定は熱交換井の出入口にできるだけ近い位置 ( できれば地表面以下 ) で行う 5 熱媒体を充填して数時間放置し 熱媒体温度が図 2 TRT 装置の設置状況の一例 393

地層温度と等しくなった後 ヒーターへの通電 熱媒体の循環を開始する 流速は実使用時と同等の流速とするが これに加えて熱媒体の流速が乱流域 (U 字管の直径を代表長さとして計算したレイノルズ数が 2,300 以上 ) となること 温度測定の測定誤差 (± 0.1 ) を考慮して可能であれば熱交換井出入口での熱媒体の温度差が 4 程度以上生じるよう設定することが望ましい 6ヒーターによる熱負荷 ( ヒーターの加熱容量 ) は実際に設置予定の GeoHP システムの負荷に近い大きさとする 7 熱媒体の循環時間は 3. で説明する時間と熱媒体平均温度との片対数プロットにおいて 試験時間の後半に充分な長さの直線が得られる時間 (48 時間以上 ) とする これは 試験開始直後は地中熱交換井の熱物性の影響が大きく 加熱の影響範囲が地層部分に達した後 初めて地層の熱伝導率により傾きが決まる直線部が得られるからである なお 精密な分析が必要な場合は 100 時間以上循環することが望ましい 8 循環終了後は TRT 装置と地上配管の水抜きをし TRT 装置を撤収する 3.TRT の解析方法 TRT では 測定データにより 以下の情報を推定することができる 1 地盤に関する情報 熱伝導率 熱容量 2 熱交換井に関する情報 熱抵抗このうち最も重要な情報は地盤の熱伝導率であり これを用いて GeoHP システムにおける熱交換井の規模を決定することができる 熱抵抗は熱交換井の仕上げ (U 字管の材質 サイズ 充填材の種類など ) と熱交換井の運転条件 ( 熱媒体の熱物性 循環流速 ) により決定されるが これらの条件を決定すれば TRT の実施前に簡単な計算で求めることができるため ( たとえば Okubo et al., 2006) 熱伝導率に比べて重要性は低い また 地盤の熱容量も同様に地盤の土種 岩種 水飽和状態などを参考にデータブック ( たとえば 日本熱物性学会 1990) より予測できるため TRT 解析ではこれらを用いて既知とする場合が多い TRT で得られる地盤の熱伝導率は必ずしも岩石や土壌固有の熱伝導率ではなく 地下水流れの影響を受けた 見かけ熱伝導率 である すなわち 地下水流速が大きい地盤では 地下から採取したコアについて熱伝導率計を用いて測定される岩石や土壌固有の熱伝導率と比較して 見かけ熱伝導率は地下水の熱移流効果により大きな値が示されることが多い 岩石や土壌固有の熱伝導率は上記と同様に地盤の土種 岩種 水飽和状態などによりデータブックより一定の範囲で予測できるが TRT での推定値がデータブック値より大きい場合は地盤中に流速の速い地下水流れが存在する可能性が高い TRT の代表的な解析法としては ケルビンの線源関数や円筒型熱源関数 ( いずれも Ingersoll et al., 1954) に基づく解析的手法 および有限差分法や有限要素法を用いた数値モデルによる解析法がある 数値モデルを用いた解析法は 地層の不均質性 地下水流動の考慮が可能であること 同軸型などの U 字管以外の井戸における TRT の扱いが可能であること などの長所を持つ一方 計算時間の長さ 入力データ作成の煩雑さといった短所を持つ 本稿では 適用が容易であり かつ TRT の解析においてより広汎に用いられている解析的手法についての解説を行う なお 数値モデルを用いた解析法は盛田ほか (1984) 長野ほか (1994) などに詳説されている 解析的手法には 地盤に熱負荷を与え続けた状態での熱媒体温度の経時変化より熱伝導率を推定する作図法 および 地盤の熱伝導率などをマッチングパラメータとして 解析解に基づく熱交換井モデルを用いて熱交換井出口温度を計算し 実測値とのマッチングにより地盤情報を推定するヒストリーマッチング法がある いずれの手法もケルビンの線源関数や円筒型熱源関数などの解析解を用いることにより 熱交換井を中心とした円筒座標系における熱伝導問題として地層内の温度分布と熱媒体温度を計算する 3.1 作図法作図法では循環時における熱媒体の温度データの経時変化を用いる方法と循環停止後の地中温度の回復データを用いる方法があるが 循環時の 394

データを用いる解析が一般的に行われている これは 回復時のデータ解析を行う場合は (1) 回復データを測定するための温度センサーを地中に設置する必要があり 追加費用を要する (2) 回復期間を循環期間と同程度設ける必要があり TRT に要する期間が長くなる といった理由による ただし 回復データは循環時の負荷変動に影響されにくく 後述する時間と熱媒体温度 ( 地層温度 ) のプロットで明瞭な直線が得られやすい場合が多いので 時間と費用に余裕がある場合には実施を検討する価値がある 以下に循環時のデータを用いた TRT 解析の理論を述べる 作図法で使用されるケルビンの線源関数は 線熱源を中心とした円筒座標における熱伝導方程式 ( 式 (1)) を井戸の半径を r w とし 以下の初期条件 境界条件を用いて解いたものである (1) 初期条件 : 境界条件 1: 境界条件 2: ただし α s は地層の温度伝導率 [m 2 /s] T は温度 [K] T i は初期地層温度 [K] r は半径 [m] q は地中熱交換器長さあたり熱交換量 [W/m] t は時間 [s] λ s は地層の見かけ熱伝導率 [W/(mK)] である 式 (1) より 熱交換井での熱媒体平均温度 T( 入口温度と出口温度の平均値 ) の経時変化は式 (2)~ 式 (4) を用いてあらわされる (2) (3) (4) ただし E(X) は指数積分関数である 式 (4) における E(X) は X が十分に小さい範囲において ( 一般に X < 0.05 で誤差が 2.5% 以下 ) 式 (5) により近似される (5) したがって 式 (2) は式 (6) によりあらわさ れる (6) 式 (6) において 熱交換量一定条件の下で時 間とともに変化する変数は時間 t のみであるの で m' = q /(4πλ s ) として時間に依存しない項を 定数 b にまとめると 式 (6) は以下のように簡 略化される (7) 式 (7) において m' = m/ln(10) とすると 自 然対数が常用対数に変換され式 (8) となる (8) 一方 地層の見かけ熱伝導率 λ s は次の式 (9) に示すように地中熱交換量 q と m 値を用いてあ らわされる (9) 循環時データを用いた作図法では式 (8) に基 づいて 熱媒体平均温度の経時変化を示す片対数グラフの傾きより m 値を決定し 式 (9) より地層の見かけ熱伝導率を求める なお 地中熱交換井中には地中熱交換器や充填材などの熱伝導率 熱容量が地盤の熱物性と異なる材料が存在するため TRT 開始直後には地盤の熱伝導率を表す直線部は得られないことが多い その後は 温度挙動が地盤の熱伝導率を反映して直線部が観察されるため この区間のデータより m 値を決定する 図 3 は地下水流速が小さく 熱伝導が支配的な地盤における時間と平均熱媒体温度との片対数グラフの一例である なお 同図中の cycle とは t = t 1 と t = 10t 1 の間をあらわす 循環開始直後の熱媒体温度は同図上において直線ではないが 約 10 時間経過後から明瞭な直線部分が観察されている 直線区間の出現する時間は熱交換井の孔径によるが おおむね 10 時間後以降であり 2.2 節に記したように循環時間は十分な長さの直線区間 395

図 3 作図法における片対数プロットの一例 が得られるように 48 時間以上が推奨されている 熱交換井における熱抵抗 R[mK/W] は 1 m 当たり 1W の熱交換をする場合に 熱抵抗により R[K] の温度変化があることをあらわす 熱抵抗が大きい熱交換井では安定した温度を持つ地層と熱媒体の温度差が大きくなるので 夏には熱媒体が高温化し 冬には低温化する すなわち 高い熱抵抗は GeoHP システムにおいて成績係数 (COP) を低下させる大きな要因となるため 熱抵抗はできるだけ低く抑えることが重要である 伝熱学における熱抵抗は 2 点間を通過する熱量で両端の温度差を除した値として定義される これを地中熱交換井に適用すると 熱媒体平均温度 T ave [K] と熱交換井外壁温度 T ro [K] を用いて熱抵抗 R = (T ave - T ro )/q となる つまり 熱抵抗を考慮した場合 式 (6) は以下のように書きかえられる (10) 熱交換井の熱抵抗は 作図法を用いて地盤の見かけ熱伝導率 λ s を決定した後に 式 (10) を用いて求める 3.2 ヒストリーマッチング法ヒストリーマッチング法では 3.1 節で紹介したケルビンの線源関数や有限な半径の円筒状熱源 を内側境界条件とする円筒型熱源関数などの熱伝導を表す偏微分方程式の解析解を用いて 与えた地中熱交換量 ( ヒータによる加熱量 ) に対する地盤中の温度変化を計算する そして これに基づいて 地盤の見かけ熱伝導率 初期地層温度などをマッチングパラメータとして 循環時における熱媒体の熱交換井入口温度から出口温度を計算し この出口温度の計算値と実測値の比較により熱伝導率 初期地層温度などを決定する なお 地層内の熱伝導計算には 熱交換井を線熱源とみなさないため熱交換井の温度変化を正確に表現でき TRT 開始直後から熱媒体温度を精度よく計算できる円筒型熱源関数の利用が好ましい 円筒型熱源関数 G は熱源の中心からの無次元距離 P( = r/r 0 ) の点における フーリエ数 Z( = α s t/r 2 0 ) に相当する時間経過後の温度変化を示し 式 (11) であらわされる (Ingersoll et al., 1954) (11) ただし r 0 は熱交換井半径 [m] J 0 および J 1 は第 1 種ベッセル関数 Y 0 および Y 1 は第 2 種ベッセル関数 βは積分定数である G は数値積分を用いた計算が必要なため 計算ステップが多い場合には計算時間が多大となる 地中熱交換井の温度挙動計算は 式 (11) において P = 1 のケースに相当するので P = 1 とした場合の以下の G の近似式を用いることにより 計算時間の削減が可能である Z < 1 G=0.1443 Z 0.3374-0.0162 (12) 1 < Z < 100 G=0.5414 Z 0.0986-0.4166 (13) 100 < Z G=0.1827 log Z+0.0668 (14) ヒストリーマッチング法では熱伝導率を仮定し 以下の式 (15) を用いて熱交換井外壁温度 T ro [K] を計算し 式 (16) に基づいて熱媒体平均温度 T ave [K] を求める (15) 396

(16) ただし q gc は地中熱交換量 [W] L は地中熱 交換器長さ [m] h eq は総括熱伝達率 [W/(m 2 K)] A は地中熱交換器外壁の表面積 [m 2 ] であり h eq はグラウト材や熱交換器における熱抵抗と熱交換器内の熱媒体と熱交換器との対流熱伝達率より算出される 熱媒体平均温度 T ave は入口温度と出口温度の平均値であるため 入口温度を与えることにより出口温度を計算することができる そして 計算された出口温度と実測値との差が十分に小さくなるまで反復計算を行う ヒストリーマッチング法では入口温度に対して 出口温度を計算する際に反復計算が必要となり 手計算では実施は困難である この計算は簡単なプログラムを作成すれば可能であるが これが難しい場合は市販ソフト ( たとえば Ground Club( 長野 2011a)) を使用することにより 実施することができる また 地中熱交換量が一定ではない TRT では 式 (15) に重ね合わせの原理を適用し 熱交換量の変動を考慮することができる 4.TRT の実施例 本章では 通常の TRT とは実施方法や地盤条件が異なる TRT について数例を紹介する 4.1 地下水流れの影響を受けた TRT 先述のように 地下水流速が速い地盤では TRT によって得られる見かけ熱伝導率が岩石や土壌固有の熱伝導率と比べて大きな値となる場合がある また 地下水流速が非常に速い場合には TRT 実施時の加熱による熱媒体温度の上昇は加熱開始後数時間で見られなくなり 地中熱交換は定常状態となる 図 4 に示した TRT データは 青森県弘前市の地下水流れが非常に速い地盤に設置された地中熱交換井で測定されたものであり 地中熱交換量は 90W/m 以上と大変大きいが出入口温度は循環開始直後より一定となっている ( 初期地層温度は約 12 ) このような場合には 作図法における時間と熱媒体温度のプロットは傾きが 0 となり 見かけ熱伝導率の推定は不可能となる ただし この場合は定常状態に達した熱媒体 図 4 地下水流速の大きい地盤における TRT で測定された熱媒体温度と熱交換量平均温度と初期地層温度の差を熱交換量で除した値 (= (T ave - T i )/q ) が一定となるため 熱負荷に応じた GeoHP システムの挙動予測はこの値を用いて容易に行うことができる 4.2 光ファイバー温度計を用いた熱伝導率の評価循環時の熱媒体温度データを用いた TRT では 熱交換井出入口での熱媒体温度の経時変化より地盤の熱伝導率を推定する よって 推定される熱伝導率は熱交換井全体の平均値であり 地盤の深度方向の熱伝導率分布に関する情報を得ることはできない すなわち 層序により熱伝導率が大きく異なるような不均質性の高い地盤において 井戸深度を適正化することにより 掘削区間における熱伝導率の高い地盤の割合を増やすということはこの熱伝導率の平均値のみからでは不可能である 深度方向に高密度で温度測定が可能である光ファイバー温度計を用いた TRT は著者らの研究グループが開発したもので ( たとえば Fujii et al., 2009) 熱交換井内の温度プロファイルより地盤の熱伝導率分布を深度方向に詳細に推定することができる 光ファイバー温度計を用いた TRT では U 字管型地中熱交換井の U 字管内に光ファイバーセンサーを設置する TRT 以降も長期間同センサーを用いて温度モニタリングを行 397

う場合は U 字管外壁に設置することも可能であるが 光ファイバーセンサーは高額であるため TRT 後にセンサーが回収可能な U 字管内への設置が推奨される 不均質性の高い地盤では地層の熱伝導率は深度方向に対して一定ではないので 地中熱交換量は深度ごとに差がある 試験解析では地層を深度方向に 1 m ~ 2 m 間隔程度 ( 一般的な光ファイバー温度計の最小分解能 ) に分割し 熱伝導率分布をパラメータとして 非線形回帰法を用いて試行錯誤的に深度ごとの熱交換量と熱伝導率を推定する 図 5 は福岡市博多区で実施された TRT において 光ファイバー温度計の測定データを用いて推定された地盤の熱伝導率と同坑井での地質柱状図を示す 地質柱状図より 同坑井では地表より深度 15m までは表土と砂質土で覆われており 15m 以深は花崗岩が存在し 深度とともに硬質となることがわかる 未固結の土壌の熱伝導率は低く 花崗岩は石英分が多いため熱伝導率が高い さらに 風化せず孔隙率の小さい花崗岩の熱伝導率は特に高い傾向がある 図 5 にみられる熱伝導率分布は 以上の地質から推定される傾向とよく一致しており 光ファイバー温度計を用いた TRT での熱伝導率推定が高い信頼性を持つことが推定される 4.3 水平型地中熱交換器における TRT 水平型地中熱交換器は 浅部地盤に 1m ~ 2m 程度の水平溝を掘削し その底部に地中熱交換器を敷設 その後埋め戻して完成する したがって 同地中熱交換器では 土壌サンプルを採取して熱伝導率を実験室で測定することや ポータブル式熱伝導率測定器 ( たとえば Decagon 社製 KD2Pro) を使用して水平溝内において原位置で熱伝導率を測定するということが容易であり 地層熱伝導率の推定を目的とした TRT は不要である 一方 同地中熱交換器は地表近くに設置されるため その挙動は地中熱交換量だけでなく 気象条件 ( 日射量 気温 風速 降水量など ) に影響される このため 同地中熱交換器の挙動を高精度で予測する計算法はこれまでのところ確立しておらず 数値シミュレーションを用いたモデル開発と TRT データに基づくモデル実証は重要な研究課題である 本節では これまでに著者らがフィールド実証試験で得た水平型地中熱交換器における TRT データを紹介する TRT は福岡市西区の九州大学伊都キャンパス内の屋外実験フィールドにて実施した 同フィールドには深度 1.5m 全長 72m の水平型地中熱交換器を 4 系統設置し それぞれにおいて TRT を実施した 各系統は図 6 に示すとおり 系統 1-a 図 5 光ファイバー温度計を用いた TRT によって得 図 6 TRT を実施した水平型地中熱交換器の土中埋 られた地盤の熱伝導率分布と地質柱状図 設方法 398

から 1-c はコイル式熱交換器 ( ポリエチレン製パイプ ) を水平に巻き密度 ( ループの間隔 ) を変えて水平溝底に設置し 系統 2 は垂直に設置した 系統 2 の巻き密度は系統 1-a と同じ 0.4m である 本 TRT では 循環期間を 5 日間 熱負荷を約 4.5kW として 熱媒体温度の経時変化を測定し 地中熱交換器の設置法による熱交換能力の違いを検討した 地中熱交換器を埋設した浅部地盤は季節変化や日変化により温度が変化しやすい また 水平型地中熱交換器の温度挙動 熱交換能力等は TRT 実施時の地盤温度に影響される そこで 本 TRT では試験実施時期の違いの影響を排除するために 以下の単位熱交換量あたり温度変化量 ΔT/q (K/(W/m)) を考案し 各系統の熱交換能力を評価した (17) ただし T ff は TRT の影響を受けない地点での地温 [ ] であり q は地中熱交換量を水平溝長さで除した値である ΔT/q の計算では熱媒体温度と熱交換の影響を受けない地点での自然地温の差を評価に用いることにより地盤温度変動の影響を排除し さらにこれを水平溝長さあたりの熱交換量で除しているため 条件の異なる TRT における地中熱交換器の熱交換能力の比較が可能となる すなわち ΔT/q が他の系統より大きい系 統では 同量の加熱を行った場合の熱媒体温度の増加 ( 採熱の場合は減少 ) 速度が大きい また GeoHP システムでは熱媒体温度が加熱時では増加 ( 採熱時では減少 ) するにしたがってヒートポンプの成績係数は減少するため ΔT/q が小さい地中熱交換器はより高い熱交換能力を有する 各 TRT におけるΔT/q を図 7 に比較する 巻き密度が 0.4m と等しい系統 1-a と系統 2 を比較した場合 系統 1-a の熱交換能力が高いが これは系統 2 と比べて熱交換器の埋設深度が大きい系統 1-a は外気の影響を受けにくく 熱源として安定しているためである 同じ水平埋設形式をとり ループピッチの異なる系統 1-a ~ 1-c の比較では ΔT/q が巻き密度の減少とともに増大した これは コイルのピッチ増加に伴いコイルの総延長が減少したために 水平溝における熱交換面積が減少したためである 以上のように 水平型地中熱交換器における TRT には熱伝導率の推定という意義はないが 熱交換器の設計の最適化や数値モデル開発の検定データといった目的には重要な試験と考えられる 5. まとめ地質条件の複雑さなどにより熱交換井掘削費が諸外国と比べて高額な我が国では 必要十分な地中熱交換井の本数や長さを決定することにより GeoHP システムの初期投資を最小化することができる よって 信頼性の高い TRT を実施し GeoHP システムの挙動を正確に予測することは今後一層の GeoHP システムの普及に重要である 近年 国内で TRT の実施数は大幅に増加しているが 背景となる理論を理解せずに行った解析では 貴重な時間と費用をかけて取得した TRT データが活かされていことになる 本稿が TRT を行う技術者の TRT に関する理解の手助けとなれば幸いである 参考文献 図 7 各水平型地中熱交換器において測定された ΔT/q 長野克則 落藤澄 西岡純二 (1994): 土壌熱源ヒートポンプシステムに関する研究 ( 第 2 報 ). 空気調和 399

衛生工学会論文集 56 25 ~ 34. 長野克則 (2011a): 誌面講座 地下熱利用技術 2. 地下熱利用技術とは. 地下水学会誌 53 83 ~ 90. 長野克則 (2011b): ボアホール型地中熱交換器に対する加熱法による熱応答試験の標準試験方法 Ver.2.0. ( 財 ) ヒートポンプ 蓄熱センター地下熱利用とヒートポンプシステム研究会 IEA ECES( 蓄熱実施協定 ) ANNEX21 16p. 日本熱物性学会 (1990): 熱物性ハンドブック. 養賢堂 489p. 藤縄克之 (2011): 誌面講座 地下熱利用技術 1. はじめに. 地下水学会誌 53 81 ~ 82. 盛田耕二 山口勉 唐澤広和 速水博秀 (1984): 地熱井内温度解析プログラムの開発と検証 - 地熱井内外の温度挙動の解析 ( 第 1 報 )-. 日本鉱業会誌 100 1045 ~ 1051. Fujii, H., H. Okubo, K. Nishi, R. Itoi, K. Ohyama, and K. Shibata (2009) : An improved thermal response test for U-tube ground heat exchanger based on optical fiber thermometers. Geothermics, 38, 399 ~ 406. Ingersoll, L. R., O. J. Zobel, and A. C. Ingersoll (1954): Heat conduction with engineering, geological, and other applications. McGraw-Hill, New York, 325p. Okubo, H., H. Fujii, and R. Itoi (2006): Experimental study on thermal resistance of ver tical ground heat exchangers. Geothermal Resources Council Transactions, 30, 559 ~ 563. Sanner, B., G. Hellström, J. Spitler, and S. Gehlin (2005): Thermal Response Test Current Status and World- Wide Application. In: Proceedings of the 2005 World Geothermal Congress, Antalya, Turkey, April 24 ~ 29, 2005, paper No. 1436, 9 p. ( 受付 :2011 年 9 月 15 日 受理 :2011 年 10 月 13 日 ) 400