日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

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労働法制の動向

図表 29 非正規労働者の転職状況 前職が非正規労働者であった者のうち 現在約 4 分の 1 が正規の雇用者となっている 非正規労働者の転職希望理由としては 収入が少ない 一時的についた仕事だから が多くなっている 前職が非正規で過去 5 年以内に転職した者の現職の雇用形態別割合 (07 年 現職役

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少子高齢化班後期総括

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2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

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70 図 1 非正規雇用労働者の割合や増減率の推移 ( 男女別 ) %

短時間 有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針 について ( 同一労働同一賃金ガイドライン ) 厚生労働省雇用環境 均等局有期 短時間労働課職業安定局需給調整事業課

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- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

今後 この政府のガイドライン案をもとに 法改正の立案作業を進め 本ガイドライン案については 関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて 最終的に確定する また 本ガイドライン案は 同一の企業 団体における 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正することを目的としているため

自動的に反映させないのは133 社 ( 支払原資を社内で準備している189 社の70.4%) で そのうち算定基礎は賃金改定とは連動しないのが123 社 (133 社の92.5%) となっている 製造業では 改定結果を算定基礎に自動的に反映させるのは26 社 ( 支払原資を社内で準備している103

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米国の給付建て制度の終了と受給権保護の現状

職場環境 回答者数 654 人員構成タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % % 質問 1_ 採用 回答 /654 中途採用 % 新卒採用 % タ

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中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル

第 1 子出産前後の女性の継続就業率 及び出産 育児と女性の就業状況について 平成 30 年 11 月 内閣府男女共同参画局

2019年度はマクロ経済スライド実施見込み

埼労連発第03−5号

Microsoft PowerPoint - 9月末公表(栃木県正社員転換・待遇改善実現プラン)

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定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

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資料2

<本調査研究の要旨>

Microsoft Word - ○201701Report(的場)校正会議再修正版.docx

市報2016年3月号-10

第 Ⅰ 部本調査研究の背景と目的 第 1 節雇用確保措置の義務化と定着 1. 雇用確保措置の義務化 1990 年代後半になると 少子高齢化などを背景として 希望者全員が その意欲 能力に応じて65 歳まで働くことができる制度を普及することが 政策目標として掲げられた 高年齢者雇用安定法もこの動きを受

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採用者数の記載にあたっては 機械的に採用日の属する年度とするのではなく 一括 採用を行っている場合等において 次年度新規採用者を一定期間前倒しして雇い入れた 場合は 次年度の採用者数に含めることとしてください 5 新卒者等以外 (35 歳未満 ) の採用実績及び定着状況採用者数は認定申請日の直近の3

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1 なぜ 同一労働同一賃金 が導入されるのか? 総務省統計局労働力調査 ( 詳細集計 ) 平成 30 年 (2018 年 )7~9 月期平均 ( 速報 ) によると 非正規労働者数は 2,118 万人 ( 前年同期比 68 万人増加 ) 正規労働者数は 3,500 万人となっています 役員を除く雇用

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

は 2 割程度です 従業員数の割合を正規か非正規かでくくると 正社員は 59.3% 非正社員は 40.7% となります 最近 総務省の労働力調査をもとに非正規社員が 4 割に迫ったと言われます 同調査によると 非正規の職員 従業員 は 1970 万人に上り 役員を除く雇用者 5245 万人の 37.

農業法人等における雇用に関する調査結果

厚生労働省発表

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

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今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

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若年者雇用実態調査

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Microsoft Word - H29 結果概要

(1) はじめに 何故この 3 点のみご案内させていただくのかと申しますと 他の要件と比較し導入がしやすい点にあります 非正規労働者の職業訓練や賃金テーブルの見直し 法定外の健康診断制度は導入する敷居が若干高く また それらは一度制度として導入してしまうと助成金の申請期間が過ぎた後も通常続けざるを得

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

多様な働き方 時代の賃金設計 図表 1: ランク型賃金表を用いた勤務地限定社員の取り扱い ( 例 ) 基本給表 役割責任 号数ランク月額 Ⅰ 等級 Ⅱ 等級 Ⅲ 等級 Ⅳ 等級 Ⅴ 等級 14 S=14 点 13 S=13 点 A=13 点 12 S=12 点 A=12 点 B=12 点 11 S=

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「多様な正社員」と非正規雇用

JILPT 高齢者の雇用 採用に関する調査結果 (2008) の概要 高齢者の雇用 採用に関する調査 (2008 年 8-9 月実施 ) 高年齢者雇用関連の法制度が整備される中で 企業の高齢者の雇用や採用に関する最近の取組等を把握 全国の常用雇用 50 人以上の民営企業 社を対象 有効回

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(2) 次に これを従業員規模別にみると 100 人以上の企業と 100 人以下の企業とでは傾向が大きく違っている 総じて言えば 規模の大きい企業では減らしているとする企業の割合が多く 規模の小さな企業では増やすか 減らすとしても 減らすと回答する企業は非常に少なくなる傾向にある (4) 総じて言え

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3. 無期労働契約への転換後の労働条件無期労働契約に転換した後の職務 勤務地 賃金 労働時間等の労働条件は 労働協約 就業規則または個々の労働契約等に別段の定めがない限り 直前の有期労働契約と同一になるとされており 無期転換に当たって職務の内容などが変更されないにもかかわらず 無期転換後の労働条件を

付属資料 1. 介護労働の現状について 資料 1 介護労働の現状について 2. 職種別賃金カーブ資料 2-1 産業 職種別賃金カーブ ( 男 企業規模計 ) 資料 2-2 産業 職種別賃金カーブ ( 女 企業規模計 ) 資料 2-3 産業 職種別賃金カーブ ( 男 企業規模 10~99 人 ) 資料

資料2(コラム)

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調査結果 1. 働き方改革 と聞いてイメージすること 男女とも 有休取得 残業減 が 2 トップに 次いで 育児と仕事の両立 女性活躍 生産性向上 が上位に 働き方改革 と聞いてイメージすることを聞いたところ 全体では 有給休暇が取りやすくなる (37.6%) が最も多く 次いで 残業が減る (36

調査結果のポイント 従業員採用状況について 平成 28 年度 (H28.4 ~ H29.3) は 計画どおり もしくは計画より多く採用した と回答した企業が69% 採用計画について 29 年度 (H29.4 ~ H30.3) は 28 年度実績と比較し 増やす と回答した企業と 減らす と回答した企

第 表性別 年齢階層別にみた就業形態別推計実数 H6 H11 H15 H19 男性 女性 合計 男性 女性 合計 男性 女性 合計 男性 女性 合計 正社員契約社員嘱託社員出向社員 常用雇用型派遣労働者 登録型派遣労働者 臨時的雇用者 パートタイム労働者 歳 83,790 0

問題の背景 高齢者を取り巻く状況の変化 少子高齢化の急速な進展 2015 年までの労働力人口の減少 厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げ 少なくとも 年金開始年齢までは働くことのできる 社会 制度づくり ( 企業への負担 ) 会社にとっての問題点 そしてベストな対策対策が必要に!! 2

第41回雇用WG 資料

目 次 1-1. 勤労者財産形成貯蓄制度の概要 財形持家融資制度の概要 勤労者の貯蓄をめぐる状況について 財形貯蓄制度をめぐる状況について 勤労者の貯蓄と財形貯蓄制度をめぐる状況について 勤労者の持家をめぐる状況について 16

ケース教材 年組番氏名 企業の社会的責任について ~ 生活を豊かにする雇用形態, 社会保険, 福利厚生とは?~ 現在 人々の雇用形態や働きたい仕事のニーズは多様化しています 仕事中心に生きたい 家庭や趣味を中心にしたい 同じ企業で定年まで働きたい 短い時間だけ勤務したい 会社の中で偉くなりたい 指示



佐藤委員提出資料

資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

EITC: Earned Income Tax Credit Ⅱ 韓国における雇用動向 , , ,451.41, ,01

短時間労働者への厚生年金 国民年金の適用について 1 日又は 1 週間の所定労働時間 1 カ月の所定労働日数がそれぞれ当該事業所 において同種の業務に従事する通常の就労者のおおむね 4 分の 3 以上であるか 4 分の 3 以上である 4 分の 3 未満である 被用者年金制度の被保険者の 配偶者であ

Microsoft Word - 様式第1号 キャリアアップ計画書 記入例

本日の内容 1. 短時間正社員の定義とそのタイプ 短時間正社員は多様化する正社員のうちの 1 つ 2. 短時間正社員の必要性 社会的要因 労働者側の要因 企業側の要因 3. 短時間正社員制度を機能させるための仕組み : 制度構築 雇用管理 4. 総括

目 次 1-1. 勤労者財産形成貯蓄制度の概要 財形持家融資制度の概要 勤労者の貯蓄をめぐる状況について 財形貯蓄制度をめぐる状況について 勤労者の持家をめぐる状況について 財形持家融資制度をめぐる状況について

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調査の概要 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男

無期雇用転換は進んだのか? | 星野卓也 | 第一生命経済研究所

目次. 独立行政法人労働政策研究 研修機構による調査 速報値 ページ : 企業調査 ページ : 労働者調査 ページ. 総務省行政評価局による調査 ページ

( 注 ) 女性活躍推進法に基づく認定企業 ( 女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な事業主 ) 法に基づき行動計画の策定 届出を行った企業のうち 女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な企業は 都道府県労働局への申請により 厚生労働大臣の認定を受けることができます 1 段階目について

2019 年 3 月 経営 Q&A 回答者 Be Ambitious 社会保険労務士法人代表社員飯野正明 働き方改革のポイントと助成金の活用 ~ 働き方改革における助成金の活用 ~ Question 相談者: 製造業 A 社代表取締役 I 氏 当社における人事上の課題は 人手不足 です 最近は 予定

共通事項 1 キャリアアップ 管理者情報 ( 氏名 ): 役職 ( 配置日 ): 年月日 2 キャリアアップ管理者 の業務内容 ( 事業所情報欄 ) 3 事業主名 印 4 事業所住所 ( - ) 5 電話番号 ( ) - 6 担当者 7 奨励金対象労働者数 ( 全労働者数 ) 9 企業規模 ( 該当

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Microsoft Word - 21教育訓練の考え方について(更新)_

図表 43 男性大卒労働者の所定内給与額 賃金は 勤続年数とともに上昇している ただし 近年はそのカーブが緩やかになっている ( 万円 ) 年 2009 年 1999 年 ( 資料出所 ) 厚生労働省

160 パネリスト講演 1 労働市場における男女格差の現状と政策課題 川口章 同志社大学の川口です どうぞよろしくお願いします 日本の男女平等ランキング世界経済フォーラムの 世界ジェンダー ギャップレポート によると, 経済分野における日本の男女平等度は, 世界 142 か国のうち 102 位です

H1-4

目次 1. 派遣事業の役割とキャリア形成の必要性について 2. 派遣労働者の意向をふまえたキャリア形成のありかた - 派遣スタッフ web アンケート調査結果 ( 速報値 ) より 3. ジョブカード制度の活用による派遣労働者のキャリア形成支援について 1

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1 非正規雇用者用 働き方 に関するアンケート あなた自身についてお答えください F1. 性別 ( ひとつだけ ) 1. 男性 2. 女性 F2. 生年月日 ( 西暦 )19 年月 ( 生まれ ) F3. 最終学歴 ( ひとつだけ ) 在学中の場合は在学中の学校を 中途退学の場合はその前の学歴を選ん

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

年の家族 2-1 世帯モデル設定本章では 3 つの社会変化をもとに世帯モデルを以下のように設定する 1 専業主婦世帯 ( 標準モデル世帯 ) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した夫と 45 年間専業主婦の夫婦 2 生涯単身男性世帯 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加

大学卒女性の働き方別生涯所得の推計-標準労働者は育休・時短でも2億円超、出産退職は△2億円。

1.セキュリティ確認用チェックシート(公募時)

Transcription:

ニッセイ基礎研究所 研究員の眼 2015-11-13 日韓比較 (10): 非正規雇用 - その 4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか? 賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因 生活研究部准主任研究員金明中 (03)3512-1825 kim@nli-research.co.jp 企業は経済のグローバル化による市場での厳しい競争を乗り越える目的で正規職と比べて人件費に対する負担が少ない非正規労働者の雇用をより選好している可能性がある では 雇用形態により賃金や公的社会保険制度の適用率はどのぐらい差があるのだろうか 今回は日韓における雇用形態別賃金や公的社会保険制度の適用率などについて説明を行いたい 厚生労働省 (2014) による 雇用形態別の賃金を見ると 正社員 正職員以外 ( 以下 非正規職 ) の月平均賃金は 20.0 万円で 正社員 正職員 ( 以下 正規職 ) の 31.7 万円の 63.7% に留まっている 図 1 は雇用形態別賃金 ( 月給ベース ) を年齢階層別で見たもので すべての年齢階層で正規職の賃金が非正規職の賃金より高くなっていることが分かる 図 1 日本の雇用形態別賃金カーブ ( 月給ベース ) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 ( 万円 ) 20.2 20.0 23.7 17.0 27.2 18.8 正社員 正職員 30.8 正社員 正職員以外 34.2 37.9 (20.2 万円 ) 39.9 39.0 20.1 20.3 19.9 19.7 19.9 30.6 22.0 月平均賃金正社員 正職員 :31.7 万円正社員 正職員以外 :20.0 万円 29.6 20.5 ( 歳 ) 0 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 資料出所 ) 厚生労働省 (2014) 平成 26 年賃金構造基本統計調査結果の概況 1

さらに 正規職の場合は 年齢が上がれば上がるほど 一定年齢まで賃金水準が上昇しているが 非正規職は年齢が上がっても賃金がほとんど上昇しておらず 賃金格差がますます広がっている 特に 50~54 歳の年齢階層で雇用形態による賃金格差が 20.2 万円で最も大きい つまり 長期的な視点に基づいたキャリアの形成を前提として 正規職の賃金は勤続が長くなるにしたがって賃金が上がる仕組みになっているのに対して 非正規職の賃金は勤続が長くなってもほとんど変化していない 両者における賃金格差は 主に勤続年数に伴う賃金の上昇度の違いにより生じており このことは 職場の高齢化が進むほど 非正規雇用労働者の活用により人件費を大きく節約できるということにつながると考えられる 1 図 2 は 韓国における雇用形態別賃金を年齢階層別で見たものであり 日本との比較のため 最近の為替レート 2 を適用して日本円に換算した 韓国における雇用形態別賃金を見ると 非正規職の月平均賃金は 13.7 万円で 正規職の 28.3 万円の 48.4% 水準に留まっており 日本に比べて雇用形態による賃金格差が大きいことが分かる また 日本と同様に正規職の場合は 年齢が上がれば上がるほど 一定年齢まで賃金水準が上昇しているが 非正規職は年齢が上がっても賃金が大きく上昇しておらず 賃金格差が一定年齢 (40~49 歳 ) まで広がっている 特に 40~49 歳の年齢階層で雇用形態による賃金格差が 16.8 万円で最も大きい 図 2 韓国の雇用形態別賃金カーブ ( 月給ベース ) 35 30 25 ( 万円 ) 21.4 28.3 (16.8 万円 ) 31.8 30.8 24.0 20 15 16.5 15.0 14.7 12.4 10 5 0 11.0 正規職 非正規職 月平均賃金正規職 :28.3 万円非正規職 :13.7 万円 29 歳以下 30~39 40~49 50~59 60 歳以上 ( 歳 ) 資料出所 ) 雇用労働部ホームページ 雇用労働統計 より筆者作成 企業が非正規雇用労働者の雇用により コストが削減できるもうひとつの理由は 非正規職は正規職に比べて公的社会保険の適用例外ルールが適用されることが多いからである つまり 日本と韓国における公的社会保険制度は 週当たりの労働時間等によって 社会保険に加入しなくてもいい社会保険の適用例外ルールが存在する 表 1 と表 2 は 日本と韓国における福利厚生制度の適用状況を正規職と非正規職に区分してみたもので 1 金明中 (2015) 非正規雇用増加の要因としての社会保険料事業主負担の可能性 日本労働研究雑誌 No.659 27-46P か ら一部引用 2 為替レート 1 ウォン =0.105 円 (2015 年 11 月 5 日現在 ) 2

あり 日韓ともに正規職に比べて非正規職の福利厚生制度の適用率が著しく低いことが分かる また 日本における非正規職の 2003 年と 2010 年の適用率の変化を見ると 雇用保険 健康保険 厚生年金の法定福利制度の適用率は 2003 年に比べて上がっていることに比べて 企業年金 退職金制度 財形制度 のように企業の財政的負担が大きい法定外福利厚生制度の適用率はむしろ低下した 一方 韓国の場合はすべての項目で福利厚生制度の適用率が上昇したものの 非正規職に比べて正規職の変化率が大きく 両者における適用率の差はさらに広がっている 表 3 と表 4 は 日韓における非正規職の福利厚生制度の適用状況をより詳細にみたものであり 日本の場合は 契約社員 嘱託社員 出向社員 派遣労働者における 2010 年の社会保険の適用率は 2003 年に比べて上昇していることに比べて 同期間における臨時的労働者やパートタイム労働者の適用率は低下している 一方 韓国の場合は 日本とは異なりすべての雇用形態や福利厚生制度で適用率が上昇した 表 1 日本における雇用形態別福利厚生制度の適用状況 正社員 正社員以外 調査年度雇用保険健康保険厚生年金企業年金退職金制度財形制度 福利厚生施設等の利用 自己開発援助制度 2003 年度 99.4 99.6 99.3 34.0 74.7 46.1 82.4 49.2 27.7 2010 年度 99.5 99.5 99.5 30.7 78.2 43.4 83.2 51.2 31.5 変化 (% ポイント ) 0.1-0.1 0.2-3.3 3.5-2.7 0.8 2.0 3.8 2003 年度 63.0 49.1 47.1 6.9 11.4 7.3 33.6 18.4 7.1 2010 年度 65.2 52.8 51.0 6.0 10.6 6.9 32.4 24.1 9.3 変化 (% ポイント ) 2.2 3.7 3.9-0.9-0.8-0.4-1.2 5.7 2.2 資料出所 ) 厚生労働省 (2003) 平成 15 年就業形態の多様化に関する総合実態調査報告 厚生労働省 (2010) 平成 22 年就業形態の多様化に関する総合実態調査 より筆者作成 表 2 韓国における雇用形態別福利厚生制度の適用状況 正規職 非正規職 調査年度雇用保険健康保険厚生年金 退職金制度 有給休暇時間外手当職業訓練 2006 年度 64.7 76.1 76.1 67.9 67.5 55 53.9 31.2 2014 年度 73.5 84.1 82.1 82 83.5 73.7 58.8 57 変化 (% ポイント ) 8.8 8.0 6.0 14.1 16.0 18.7 4.9 25.8 2006 年度 36.3 40 38.2 30.3 27.7 23.1 21.5 22.2 2014 年度 43.4 44.7 38.4 39.5 39.7 32 24.3 43.1 変化 (% ポイント ) 7.1 4.7 0.2 9.2 12.0 8.9 2.8 20.9 資料出所 ) 雇用労働部 雇用労働統計 より筆者作成 3

表 3 日本における非正規職の福利厚生制度の適用状況 ( 詳細 ) 契約社員嘱託社員出向社員派遣労働者臨時的労働者パートタイム労働者その他 調査年度雇用保険健康保険厚生年金企業年金退職金制度財形制度 福利厚生施設等の利用 自己開発援助制度 2003 年度 79.0 77.4 72.2 7.7 14.6 12.1 46.1 36.1 11.2 2010 年度 85.1 88.5 85.4 7.0 13.2 10.9 48.2 39.0 14.8 変化 (% ポイント ) 6.1 11.1 13.2-0.7-1.4-1.2 2.1 2.9 3.6 2003 年度 83.5 87.7 84.5 15.2 18.2 15.9 58.5 39.7 9.9 2010 年度 84.0 87.8 85.2 18.2 17.0 14.2 53.2 42.5 12.0 変化 (% ポイント ) 0.5 0.1 0.7 3.0-1.2-1.7-5.3 2.8 2.1 2003 年度 87.4 90.9 89.3 44.6 75.3 57.4 80.6 72.8 48.0 2010 年度 90.3 94.9 92.6 52.0 82.7 61.2 88.2 74.8 56.6 変化 (% ポイント ) 2.9 4.0 3.3 7.4 7.4 3.8 7.6 2.0 8.6 2003 年度 77.1 69.9 67.3 2.9 7.3 4.1 15.7 31.9 9.9 2010 年度 84.7 77.9 75.6 3.9 9.3 4.4 16.1 29.1 13.2 変化 (% ポイント ) 7.6 8.0 8.3 1.0 2.0 0.3 0.4-2.8 3.3 2003 年度 28.7 24.7 22.7 0.8 6.6 1.6 9.2 9.5 1.3 2010 年度 16.0 13.5 11.0 0.2 1.5 1.3 3.3 7.7 0.0 変化 (% ポイント ) -12.7-11.2-11.7-0.6-5.1-0.3-5.9-1.8-1.3 2003 年度 56.4 36.3 34.7 4.3 6.0 3.2 29.2 9.8 3.8 2010 年度 55.3 35.3 33.8 2.7 5.4 2.8 25.8 17.4 5.6 変化 (% ポイント ) -1.1-1.0-0.9-1.6-0.6-0.4-3.4 7.6 1.8 2003 年度 70.9 67.0 65.6 5.8 14.2 6.2 35.6 20.4 4.4 2010 年度 74.6 70.0 67.9 3.5 10.9 5.9 39.0 19.7 6.1 変化 (% ポイント ) 3.7 3.0 2.3-2.3-3.3-0.3 3.4-0.7 1.7 資料出所 ) 厚生労働省 (2003) 平成 15 年就業形態の多様化に関する総合実態調査報告 厚生労働省 (2010) 平成 22 年就業形態の多様化に関する総合実態調査 より筆者作成 表 4 韓国における非正規職の福利厚生制度の適用状況 ( 詳細 ) 単位 :% % ポイント 調査年度 雇用保険 健康保険 厚生年金 退職金制度 有給休暇 時間外手当 職業訓練 2006 年度 49.7 53.8 51.7 43.0 38.5 32.8 29.4 23.8 期間制労働者 2014 年度 64.9 69.3 58.5 61.5 55.0 51.1 36.2 56.9 変化 (% ポイント ) 15.2 15.5 6.8 18.5 16.5 18.3 6.8 33.1 2006 年度 65.1 66.3 66.6 50.9 40.6 38.9 35.9 39.3 派遣労働者 2014 年度 77.9 77.2 69.1 72.0 65.1 58.9 45.7 61.8 変化 (% ポイント ) 12.8 10.9 2.5 21.1 24.5 20.0 9.8 22.5 2006 年度 3.2 3.8 3.2 1.6 2.0 2.1 2.4 11.3 パートタイム労働者 2014 年度 19.5 17.8 14.6 13.1 16.5 8.2 9.0 32.4 変化 (% ポイント ) 16.3 14.0 11.4 11.5 14.5 6.1 6.6 21.1 資料出所 ) 雇用労働部 雇用労働統計 より筆者作成 本稿では日韓における雇用形態別賃金水準と公的社会保険制度を含む福利厚生制度の適用状況について調べてみた 日韓ともに正規職に比べて非正規職の賃金水準は低く さらに福利厚生制度の適用率も低いことが確認された 今後 TPP が発効され FTA が拡大されると経済のグローバル化は加速化し 企業を取り巻く環境はさらに厳しくなるおそれがあり 企業の非正規職雇用を含む労働市場の柔軟化は避けられないかも知れない しかしながら 雇用形態の違いにより今以上に格差が拡大されてはならない 格差が拡大されると 憲法第 25 条 ( すべて国民は 健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する ) の趣旨が薄まってしまうおそれが高い つまり 増加傾向にある母子世帯の多くは非正規職として働いており 経済的な余裕がないまま生活をしている また 改正高齢者雇用安定法により高年齢者の多くが 65 歳まで働くようになったものの 法律は再雇用後の個別の具体的な労働条件 ( 賃金水準等 ) までは規制してお 4

らず 短時間勤務などの非正規職として働く高年齢者が増え 公的年金の支給開始年齢の引き上げとともに彼らの生活水準が低下するおそれがある そして 非正規職として労働市場に参加する若者の多くは ずっと非正規職として働くリスクが高く 将来が全く保障されていない このような状況を考えると増え続けている非正規雇用労働者の処遇水準をこのまま放置することはあまりにも無責任なことである 従って 雇用形態の違いにより格差が拡大されないように最低賃金の引き上げなど 非正規雇用労働者の賃金水準を改善することや 福利厚生制度の適用を拡大することを段階的に推進する必要がある 5