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衝撃を受ける機械構造の力学入門 機能機械工学科強度設計研究室立矢宏. はじめに強度設計で用いる材料力学は, 負荷が静的に作用するとして, すなわち, 時間に対して負荷の大きさが変動しないとして, 材料に生じる応力を求める. しかし, 機械は運動を伴うため, 当然作用している負荷の大きさも変動する. その変化が激しい場合, 機械構造には衝撃力が作用する. また, 単に負荷が作用する瞬間に注目しても, 機械構造には瞬間的な力の変化, すなわち, 衝撃力が作用している. 衝撃力と静的な力による材料 構造の挙動の違いを示す簡単な例を, 身近な例で振り返ってみよう. 材料の変形を弾性域に限定すれば, 単純な形状の材料 構造の変形は, 図 のようなばね- 質量系で近似できる. 図 のばねに質量 m のおもり ( 剛体 ) を積載している状態, または, 徐々におもりをばね上に載せてゆく場合 ( 各瞬間において静的な力の釣合が保持されるとする.), ばねの変形量 x st と負荷との関係は, ばね定数 k を用いて次式で表される. kxst = mg (.) なお,g は重力加速度を示す. これに対して, おもりが急激にばねに積載される場合 ( ただし, ばね上面からおもりまでの高さは無視できる場合 ), ばねの変形量 x d と負荷との関係は, 慣性力の影響を考慮し次式で表される. m d x d + kxd = mg (.) dt 上式を解けば次式が得られる. x d L M N F HG IO KJ P Q L M N mg k k m t x k = cos m t st M P = M cos (.3) P 式 (.) および (.3) より, 静的な負荷および衝撃的な負荷に対して, ばねに生じる力 F s および F d は, それぞれ次式で表される. F = mg (.4) s F HG IO KJ P Q

L NM F HG IO KJ QP F = k mg m t d cos (.5) 式 (.4) はおなじみの結果であり, 通常の材料力学では, 質量 mの物体が構造物に積載されれば,mgの力が作用するとして強度設計を行う. これに対して, 式 (.5) の結果は, 生じる力が時間とともに変化することを示している. さらに, その最大値は, 静的な負荷 F s (=mg) に対して次式となる. Fd,max = Fs (.6) すなわち, 同一質量の物体でも, 静的に負荷する場合に比べて, 動的な場合では, 生じる力の最大値が 倍に達する. 一般の機械構造物をこのような単純なばねおよび質量系に置き換えることは無理があるため, 実際の強度設計 ( 特に, 軸受け, ) 歯車などの機械要素 ) では, これまでの経験より負荷の状態を考慮した係数などが用いられている. しかし, 全ての機械構造, 要素に対して, 動的負荷に対する対策が明らかにされているわけではなく, 提案されている係数も, 目安程度である. そこで, 近年では, 計算機の発達に伴い, 有限要素法, 境界要素法などの数値計算によって, 衝撃負荷に対する機械構造の挙動を明らかにする手法がいくつか確立されている ). これらを利用すれば, かなり精度よく強度設計が行えるが, その準備に要する時間およびコストはかなり大きい. 以上のように衝撃力に対する機械の挙動は複雑であるが, 実際の機械設計においては, 衝撃力に対して生じる応力のおおよその大きさや, 変化を把握すれば十分な場合が多い. したがって, 複雑な数値計算などに頼らず, 応力や変形の評価, 比較が行える考え方, 単純な解法は大変便利である. 本講座は, 以上のような観点から, 衝撃力に対する材料 構造の挙動の簡便な把握 評価方法を紹介する.. ひずみエネルギーによる評価法. ばね系での評価 引き続き, 図 のばね系で, 動的に負荷が作用する場 合を考えよう. 今, おもりが高さ h から自然落下して, 図 のばね上部に衝突する場合を考える. このとき, ばね に生じる力を, 式 (.) のような微分方程式を用いずに検 討する. 考えつく最も単純な考え方は, おもりの持つエ ネルギーが, ばねの変形エネルギーに全て変わるとする 考え方である. すなわち, F mgi k x mgh HG k K J = (.) であり, ばねに生じる最大力 F max は次式となる. 図 質量 m のおもり が作用するばね

Fmax = k mg/ k+ mgh/ k (.) なお,mg/k はおもりの質量によるばねの変形量であり, ばねとおもりの静的な平 衡点からの変形補正量である. この値が, おもりの落下高さ h に比べて十分小さ く無視できるとすれば, 衝突直前のおもりの速度が V = gh (.3) であることから, 位置エネルギーが運動エネルギーに, さらに, ばねの変形エネ ルギーに変換されると考えて次式が導かれる. さらに kx m gh = d i (.4) F = mg max k h = mkv (.5) 式 (.) によれば, 落下高さ h に比べて, 重力のみによる変形量 mg/k が無視でき ない場合は, 最大荷重は落下速度に比例しない. しかし, 落下高さ h が十分大き く, 重力のみによる変形量が無視できるような条件下では, 最大荷重が落下速度 に比例するとみなせることがわかる.. 棒やはりなどでの評価以上の考え方を, 衝撃負荷を受ける棒や, はりの場合に適用する. 図 に示すように, 質量 M の剛体が高さ H から落下し丸棒の一端に衝突する場合を考える. 先と同じく, 剛体の持つ位置エネルギーが棒の変形エネルギーに全て変わると考える. ここで, ばねの変形エネルギーに相当する棒, はりなどの弾性体のエネルギーは一般にひずみエネルギー 3) と呼ばれ次式で表される. J = Eε (.6) E はヤング率,εはひずみを示す. なお, ヤング率, ひずみは, いずれも単位量に対する値であるから, 式 (.6) も, 単位量あたりのひずみエネルギーを表すことになる. ばねの場合と比較すれば, ヤング率 E は, ばね定数 k に相当し,εは, ばねの変位に相当する. なお, σ = Eε (.7) であるから, 式 (.6) はさらに次式で表される. J = σ (.8) E 以上の結果を用いて, 落下物が衝突する図 の丸棒を考える. 剛体の重力のみ 3

による変形が無視しうるとすれば, その位置エネルギーが, すべて丸棒のひずみ エネルギーに変換されるとして次式が導かれる. ただし,V b g (.9) σ Al = MgH = MV E = gh である. なお,A およびlは, 棒の断面積および長さを示す. 上 式より衝突により生じる応力値は次式で表される. σ = E E Mg H M V Al = Al (.0) 以上では, ひずみエネルギーの考え方を示すために, やや複雑な定式化を行っ た. 例えば, 次式で表される丸棒に作用する力 F と変形量 x との関係を求め 等価なばね定数 AE F = x (.) l k AE = (.) l を導き, ばねの場合と同様な過程, または, 式 (.5) に代入すれば, 式 (.0) は容 易に得られる. はりの場合も, 等価的なばね定数 ( 負荷作用点のたわみと荷重の大きさの比 ) を求め, 得られたたわみに対する曲げ応力を求めるなどして, 同様に評価できる. H l A 図 おもりが衝突する丸棒.3 ひずみエネルギー法の妥当性ひずみエネルギーを利用した衝撃力に対する応力の評価法は大変簡便であるが, 今一度, その考え方を吟味する. 先の考え方では丸棒を等価なばねとして考えている. 実際には, 図 3(a) の丸棒に対して, 図 3(b) に示す多数の剛体がばねで連結されたモデルが, より妥当である考えられるので, 同モデルを用いてひずみエネルギー法の妥当性を検討する. ひずみエネルギー法では, 落下物である質量 M の剛体が, 上端面に衝突直後, すべてのばねが一様に縮み, 平衡状態になると考えている. 実際の丸棒では, 落下物の衝突後に, 丸棒中に生じる応力, ひずみが棒全体にわたり一様となることに相当する. しかし, 容易に想像がつくように, 図 3(b) のモデルにおいて, 剛体の衝突後, 作用力は, 剛体から剛体へ, 次々にドミノ倒しのように作用し, ばねが 4

σ (a) 丸棒 図 3 ひずみエネルギー法による 応力状態の検討 (b) モデル 一様に縮むことはない. すなわち, 丸棒にお いても, 衝突後, 最終的な力の釣り合いが成 り立つまで, 言い換えれば, 静的な状態にな るまで, 丸棒中の応力が一様になるとは考え にくく, また, 静的状態になれば, 丸棒に作 用する負荷は剛体の重力のみとなり, 応力値 σ s は次式となる. σ s = Mg / A (.3) 以上の考察より, ひずみエネルギー法は必 ずしも妥当な結果が得られそうもない. これ は, ひずみエネルギー法が, 過渡的な現象に 対して, 静的な力の釣り合いを適用するため である. 次章で示すように, 衝突後, 材料に は複雑な変形が生じ, 各瞬間において必ずし も静的な力の釣り合いは成り立たない. しかし, ひずみエネルギー法が全く無用 であるかといえば, そうではなく, 様々な衝突に対する定性的比較や, また, 特 定の条件下では有用である. ひずみエネルギー法は, 考え方も単純であることか ら, 是非, 覚えておきたい考えである. ただし, 同方法から得られる応力値など から, 強度設計を行うことは必ずしも適切でない. 3. 高速変形の力学 3. 高速変形を受ける材料の挙動丸棒など単純な形状の材料を低速で引張または圧縮する場合, 材料は全体にわたり均一に変形していくとみなせる. 一般の材料力学, さらに, 章で解説したひずみエネルギー法も, このような条件下で応力, ひずみを求めている. しかし, 章の後半で述べたように引張または圧縮速度が高速になれば ( 衝撃負荷となれば ), 変形は試験片全体にわたり一様に進行するとはみなせなくなる. 図 3(b) のモデルで考えれば, 上端の剛体に連結されるばねの伸びと, 下端のばねの伸びが, 衝撃的な負荷に対して大きく異なることは容易に予想がつくであろう. そこで, 高速引張に対する丸棒の変形挙動を, 図 4 を用いて考えてみよう. 図 4 の上図に示すように, 断面積 A である丸棒の一端を, 一定速度 v で引張したΔ t 後の状態を考える. なお, このように衝撃負荷を作用させる端面を衝撃端と呼ぶ. 衝撃負荷作用後, 変形は丸棒全体に瞬時にいきわたるのではなく, ある有限長さの範囲まで進むことが予想される. すなわち,Δ t 後には, 図 4 上図に示すように衝撃端である面 から断面 まで変形が伝わり, 同部分が図 4 下図 `` で示すように変形する. なお, 変形する範囲が伝わる速度をC, 丸棒の体積は不変, 負荷方向に垂直な断面内の変形は一様であるとしている. 図 4 下図は, 丸棒の端 5

v v ` ` v t C t 部が v Δ t だけ移動し, さらに, 上図の衝撃端から C Δ t の範囲まで, 変形が進ん だ状態を示している. したがって,C Δ t の範囲に衝撃負荷の影響が及び, それ 以上の範囲には変形が生じず,C Δ t の範囲のみにおいて v Δ t の変形が生じた とみなせる. したがって, ひずみの大きさは次式で表される. v t v ε = = C t C 図 4 衝撃負荷を受ける丸棒 (3.) 材料の変形が, 弾性域内であれば, 図の `` 内で生じている応力は, 当然, 上式 にヤング率 E を乗じた次式で表されることになる. σ = Eε = E v C (3.) このように, 衝撃負荷によって生じる応力を, 衝撃応力, または動的応力と呼び, 同じく, 衝撃負荷に対するひずみを衝撃ひずみ, または動的ひずみと呼ぶ. 上式からわかることは, 衝撃負荷によって生じる応力値は, 変位速度 v, ヤング率 E, そして伝ぱ速度 C によるということである. すなわち, 衝突直後に生じる応力は, 衝突物体の質量によらず, また, 同一の衝撃負荷を作用させても, 材料の特性により生じる応力値は異なる. 上述の伝ぱ速度 Cの大きさは運動量保存則から求められる. すなわち, 丸棒の密度をρとすれば,Δ t 間の運動量の変化 Δ M は, 質量 ρ C Δ t A である物体の速度が零から v になったとして次式で与えられる. M = ρc t A v (3.3) これに対して, 外部から作用した力積 Δ M は次式となる. M A t E v C A t = σ = (3.4) 式 (3.3) と式 (3.4) は等しくなることから,C を求めれば次式となる. 6

C = E / ρ (3.5) 上式よりわかるように, ひずみおよび応力の伝ぱ速度は音速に等しい. 実は, 衝撃的な負荷に対してひずみおよび応力は, 次節で示すように, 波となって材料 中を伝わり, 応力波と呼ばれる. また, 単一の衝撃負荷に対して無限長の棒に生 じる衝撃ひずみの大きさは, 後述のような応力波の反射の影響を受けない限り, 式 (3.) からもわかるように一定である. これは, 衝撃端が時間に比例して変形し 続けるのに対し, 式 (3.) が示すように, 変形の範囲も時間に比例して広がって行 くからである. すなわち, ステップ状の負荷に対して材料中の応力はステップ状 に変化する. なお, 以上の結果は, 先述のように棒軸方向に垂直な断面内の挙動が一様であ るとし, 位置に関する変数を x 座標のみとした 次元的な取り扱いによるもので ある. そこで, 以上述べた理論を 次元伝ぱ理論とも呼ぶ.3 次元構造を持つ機 械部材においては, 応力波は 3 次元的に伝ぱする. しかし, その様子は非常に複 雑であるため, 本テキストは以後も, 次元伝ぱ理論を中心に解説する. 3. 応力波伝ぱに関する波動方程式前節で述べたように, 衝撃負荷に対して応力は波となり材料中を伝ぱすることを以下に示そう. なお, 本節の結果は前節と同一であるので略しても構わない. 図 5 に示すように, 衝撃負荷を受ける断面積一定な丸棒で, 断面 と で囲まれた微少部分の力の釣り合いを考える. 静的な状態であれば断面 と で応力値は等しい. しかし, 応力が波となって丸棒中を伝ぱしていくとすれば断面 と で応力値は異なる. その変化量を dσ とすれば, 断面 とにおいて力が釣り合うために, さらなる力の成分が必要である. その成分とは, 斜線部分の慣性力である. すなわち, 棒の密度をρ, 変位を u で表せば, 次式が導かれる. u Aσ + ρadx = A σ + dσ t b g (3.6) 左辺第 項が斜線部分の慣性力を表す項であり, 静的な状態であれば同項は零となり, さらに, 右辺の dσ も零となって静的な釣合を表すことになる. すなわち, 材料に生じる静的応力と衝撃応力の差は, 材料自身の慣性力に起因する. また, 式 (3.6) より次式が導かれる. u ρadx x A σ A σ + dσ 図 5 丸棒中の応力波伝ぱ b g 7

u = t E u ρ x = C u x (3.7) 上式は, 波動方程式であり, 速度 C で伝ぱする波を表す. その波が, 応力波およ びひずみ波であり, 特に弾性域内では弾性波と呼ばれる. 3.4 応力波伝ぱ現象の基礎 3.4. 応力波の挙動以上述べたように衝撃負荷が作用した材料中を, 応力 ( ひずみ ) は波となって伝ぱする. 波として伝ぱする現象としては弦の振動がなじみ深い. そこで, 応力波伝ぱの様子と弦の振動とを比較してみよう. 図 6(a) に, 弦の振動を示す. 一般に横波と呼ばれ, 図中 C はその伝ぱ速度,v は弦の上下方向への速度を示し, 変位速度と呼ばれる. 図 6(b) に丸棒中の応力波伝ぱを示す. 先に述べたように, 応力波は音速と同じ速度 Cで材料中を伝ぱする. 応力波が伝ぱした範囲内では, 材料が応力波の伝ぱ方向と平行な方向に向かって変位する. 弦の振動のように, 波の伝ぱ方向と, 変位速度の方向が垂直な波を横波と呼ぶのに対して, このような波を縦波と呼び, その速度 v が弦の振動と同じく変位速度である. すなわち, 弦の振動では, 各微少部分が, 波の伝ぱ方向に対して垂直な方向に上下運動を行うのに対し, 応力波の伝ぱでは, 棒が無限長で弾性変形の範囲であれば, 変位速度の方向は, 応力波伝ぱ方向と同一, または逆方向となる. 図 4 に示した例では, 応力波が伝ぱした範囲において, 材料は衝撃端に向かって伸びようとする, すなわち, 変位速度の方向は伝ぱ速度の方向と逆方向となる. このように, 伝ぱ速度と変位速度の方向が逆の場合, 材料には引張応力が生じ, 同方向の場合は圧縮応力が生じる. 次に, 複数の応力波が伝ぱする場合を考えてみよう. 応力波が伝ぱするということは, 力が作用するということである. 材料力学において同一部材に複数の力が作用した場合の挙動は, 弾性変形内であれば, 個々の作用力に対する材料の変 v 形, 応力などを求め, それらを重ね合わ C x せる ( 加え合わせる ) ことによって, 得られた. 応力波が伝ぱする場合も同じく, 複数の応力波によって生じる応力, (a) 弦の振動 ( 横波の伝ぱ ) ひずみは, 個々の応力波により生じる値 C を加え合わせることによって得られる. すなわち, 単一の応力波に対する応力, v ひずみを求め, 材料中を通過した全ての応力波による成分を重ね合わせることに (b) 応力波の伝ぱ ( 縦波の伝ぱ ) よって, 様々な条件下での動的応力, ひ図 6 応力波の挙動と横波との比較ずみを求めることが可能である. 8

3.4. 固定端および自由端における 応力波の反射 一般に, 音や光など, 波として伝ぱする 現象は, 伝ぱしている媒体の境界で反射 および透過する. 応力波も同じく, 材料の 境界において反射 透過し, 材料中を伝ぱ する. この現象が, 静的な負荷に対しては 見られない, 衝撃力に対する特徴的な現 象を生じさせる. ここでは, 境界条件とし て代表的な固定端 ( 材料の一端が剛体に 固定され, 変形しないとみなせる場合 ) お ( σ I,v I ) ( σ R, v R ) ( σ I,0) (a) 固定端での反射 ( σ I,v I ) ( σ R, v R ) ( 0,v I ) (b) 自由端での反射 図 7 応力波の挙動と横波との比較 よび自由端 ( 材料の一端が無支持であり, 変形自由とみなせる場合 ) における応 力波の反射を示すとともに, 反射後の応力波の影響について説明する. 図 7(a) に示すように衝撃端から他端に向かう応力波によって発生する ( 応力, b 変位速度 ) を σ I,v I g, また, 同応力波が他端で反射することによって生じた応力波が発生させる ( 応力, 変位速度 ) をbσ R,v R gとする.σ b R,v R gの値は, 境界での条 件を用いて, 以下のようにして得られる. 境界では, 入射波が到達すると同時に反射波が生じる. 先述のように, 複数の 応力波が通過した箇所の応力, 変位速度は, 各応力波が発生させる値の和である. したがって, 応力波到達時の境界での応力, 変位速度 σ L,v σ = σ + σ L I R v = v + v L I R これらが境界条件を満たすように,σ R,v U V W b L g は次式で表される. (3.8) b R g を決定すればよい. まず, 図 7(a) に示 す固定端の場合について考える. 固定端においては材料は変形しない, すなわち, 変位速度 v L は零となる. したがって, 式 (3.8) より v R = v (3.9) I すなわち, 反射波が発生させる変位速度は入射波が発生させた変位速度と大きさ が同じで方向が反対となる. ここで, 応力 σ R を検討する. 反射波は, 伝ぱ方向 が入射波と反対方向であり, また, 変位速度の方向も上述のように反対方向とな る. したがって, 応力波の伝ぱ方向と, 変位速度の方向との関係は入射波, 反射 波で同一となる. これは, 圧縮の応力波として伝わった波は, やはり圧縮の応力 波として, また, 引張の応力波として伝わった波は, やはり引張の応力波として 反射することを示している. すなわち, 次式となる. σ = σ (3.0) R I 9

次に, 図 7(b) に示す自由端の場合について考える. 自由端は無支持であり, 同 端面において力が生じることはない. したがって σ L は零であり次式となる. σ R = σ (3.) I すなわち, 変位速度 v R の方向は, 入射波における伝ぱ方向と変位速度の方向との 逆の関係となればよい. 反射波の伝ぱ方向は入射波とは逆になるので, 変位速度 v R の方向は,v I と同一である. すなわち, 次式となる. v R = v (3.) I 以上のように, 固定端または自由端で反射した応力波は, さらに, 衝撃端に到 達し, 再び反射する. このように 往復した応力波が衝撃端で再び反射した結果, 生じる応力波による応力, 変位速度を (σ C,v C ) とし, その値について考えてみ よう. 今, 衝撃端が, 常に変位速度 V O の大きさで引張されているとするれば, 先 の v I は V O に等しく, また, 衝撃端を通過した応力波による変位速度 v I,v R,v C の和も,V O に等しくなる. すなわち, 次式が成り立つ. VO = vi + vr + vc = VO + vr + v (3.3) C 固定端の場合, さらに,v R は -v I (= -V O ) であるから結局, 次式となる. v C = V (3.4) O したがって, 応力波の伝ぱ方向と変位速度の大きさ, 方向が, 初期の状態と同じ であるから次式となる. σ C = σ (3.5) I 自由端の場合,v R は v I (= V O ) であるから次式となる. v C = V (3.6) O したがって, 応力波の伝ぱ方向と変位速度の方向が逆であり, 大きさは同じであ るから, 生じる応力値の正負が初期状態と逆になる. σ C = σ (3.7) I 以上の結果より, 一端が固定および自由である, 長さ L の丸棒に速度 V O の衝撃 引張負荷を作用させた場合の応力, 変位速度の, 棒全体にわたる変化を図 8 に, また, 同棒の中央に生じる応力, 変位速度の変動を図 9 に示す. なお, 図 8 には 衝撃端速度 V O によって負荷直後に生じる応力を σ O とし, 実線で棒各部の応力, 変 位速度の大きさを示した. 矢印に付された符号は, 同方向に伝ぱする応力波が生 じさせる応力, 変位速度の正負を表す. これらの図より, 固定端では同符号の応 力, 異符号の変位速度を発生させる応力波が, 自由端では異符号の応力, 同符号 の変位速度を発生させる応力波が反射する. さらに, 自由端の場合は一定方向の 負荷に対して引張および圧縮の両方向の応力が生じることがわかる. 以上の結果をまとめれば, 衝撃負荷に対する材料中の応力に関する挙動として, 次の大きな特徴が挙げられる. すなわち. 衝撃負荷を受ける構造中に生じる応力の大きさは, 時間および場所とともに 0

0 L 0 L 0 L 0 L 0 L 0 L (a) 固定端での反射 (b) 自由端での反射図 8 応力波の反射による往復 L C 4 L C t L C t 4 L C (a) 固定端での反射 (b) 自由端での反射 図 9 棒中央の応力変動

M L V O σ btg C t O σ O σ O σ O 図 0 棒中の応力波伝ぱ挙動変化する.. 衝撃負荷が作用する構造に生じる応力は, 引張または圧縮の一定方向負荷に対しても, 正および負の両符号の応力が生じることがある. これらの特徴は, 先に述べたひずみエネルギー法では予測できない現象であり, 以上のような応力波の伝ぱ現象の考察によって明らかになる. 3.4.3 剛体と弾性体 ( 棒 ) の衝突 つぎに, 図 0 に示すような丸棒に剛体が衝突する場合の応力について考えてみ よう. 衝突の瞬間に発生する応力波の大きさ σ O は EV / C で与えられるが, 時間 経過につれて衝突面の速度は V O より小さくなるため, 後続の応力は σ O より小さく なる. 応力波の先頭, すなわち応力波頭は, 図 0 のように固定端で反射し, 同一 の大きさの応力 σ O を生じさせる応力波が, また, 衝撃端に向かう. なお, 後続の 反射波が生じさせる応力は, 上述のように衝撃端速度の低下に伴って減少する. 反射した応力波頭はさらに衝撃端に達し反 射する. このとき, 衝突物である剛体が棒に 接している限り, 衝撃端での反射は固定端 に対する反射と同一となり, 同じ大きさ, 符 号の応力を生じさせる応力波が反射する. やがて, 衝撃端の速度は零となり, 剛体が棒 に接していない状態となれば, 境界の条件 は自由端となり棒中に生じていた応力は零 に収束する. 固定端における応力値変動の 概略を示せば図 となる 4). 先に述べたよう σ O O σ max σ max O 図 固定端での応力変動 4) t

4) に衝撃応力は時間とともに激しく変動し, 鋸歯状となる. 計算結果によれば, 剛体の質量が大きいほど, 応力波の往復回数が多くなり, 応力が生じている時間も長くなる. なお, 棒が地面に対して垂直に設置されている場合, 重力による応力も生じるが, 衝撃力が問題となるような場合, その値は十分小さい場合が多く, また, 動的応力は棒中を多数回往復後, 重力のみによる静的な応力値に収束する. この他, 代表的な衝突現象の例として, 棒と棒, すなわち弾性体同士の衝突があるが, 同現象については実際の測定例で示す. 3.5 ひずみエネルギー法と応力波伝ぱ理論の比較 ひずみエネルギー法の適用範囲を示すことは困難であるが,3.4.3 の剛体と棒の 衝突を例に取り, 応力波伝ぱ理論との比較を試みる.3.4.3 において, 棒をばねと して得られる応力変動を図 に破線で示す. 最大値 σ max はひずみエネルギー法に よる値に一致する. すなわち, 棒の断面積を A とし したがって Eε AL = MV O (3.8) EM σ max = Eε = AL V O (3.9) となる. しかし, 実際には太実線で示したような結果となり, ひずみエネルギー 法による結果と異なることが, これまでの説明より理解されるであろう. 剛体と 棒の衝突ににおける, 応力波伝ぱに基づく応力値の最大値 σ max と, σ max の差につ いて以下のような考察がなされている 4). すなわち, 棒の密度を ρ として, 次式 で表される剛体と棒の質量比 α を定義する. α = M ALρ (3.0) α を用いれば式 (3.9) は次式で表される. EM VO E M VO σ max = = = α σ AL C ρ ALρ C E O (3.) 上式より, 剛体に比べ丸棒の質量が相対的に増加するにつれ (α が小さくなるに つれ ) 衝突時に生じる動的応力の値 σ O は, ひずみエネルギー法による最大応力値 に等しい, または大きくなり, 応力波の往復によって,σ max と, σ max の差が増大し ていくことが予測される. しかし,α の値が十分大きければ近似的に σ σ max max α + (3.) α 3

となり, その差は減少することが知られている 4). すなわち, 剛体が十分重ければひずみエネルギー法を用いて応力を推定しても誤差は少ないことがわかる. この他, 式 (.5) で示されるように, 同一質量の剛体の棒に対する衝突に関しては, 生じる応力の大きさに関して定性的な予測が可能であることがわかる. このように簡便な方法として, ひずみエネルギー法も十分有効な場合もある. 3.6 衝撃応力と静的応力以上, 述べたように, 衝撃負荷を受ける構造の強度設計には, 物体の慣性力, 応力波伝ぱの影響を十分考慮する必要がある. ところで, 構造に対して, 低速度で負荷が作用する場合も, 実際には応力波の伝ぱ現象が生じているはずである. これらに対して, 応力を静的または衝撃的ととらえるかの判断は重要である. 今, 一端が固定されている棒を引張した図 8(a),9(a) の結果を用いて, 速度 vが十分小さいとし, 生じる応力を衝撃応力 σ D ととらえた場合と, 静的応力 σ S とした場合とを比較する. 応力波伝ぱに基づけば, 試験片中央の応力は図 8(a) のように応力波頭が到達するごとにσ O ずつ増加する. 例えば, 炭素鋼棒で V O を mm/min とすればσ O は次式となり, その値はかなり小さい. σ O O E V = 7. 0 0 4 MPa (3.3) C さらに, 棒の長さLを00mmとすれば, この小さな応力波が試験片を往復する時間は, たかだか 40 μ s 程度と, きわめて短い. 棒の静的な引張では, このようなきわめて小さい応力が, きわめて短時間に多数回, 試験片内を往復する. 試験片の衝撃応力は応力波が試験片内を往復するたびにσ O ずつ増加し, 十分往復を繰返してn 往復後の時間では, そのときの応力値に比べて増加分 σ O は相対的に無視できる程度となる. したがって, 応力波伝ぱに基づく応力値は次式となる. σ D nσ (3.4) O また, 棒全長にわたる応力も一様であるとみなせる. 一方,n 往復後の時間 n Δ t における棒の伸びδは次式となる. L δ = VOn t = VOn (3.5) C すなわち, 静的応力 σ S は次式となる. σ δ = E = E V n = nσ σ (3.6) L C S O O D したがって, 十分時間が経過すれば衝撃応力 σ D と, 静的応力 σ S は等しくなる. しかし, 引張速度がV O が5m/s 程度となれば,σ O は06MPa 程度となり, 少数回の 4

応力波の往復により材料は降伏する. したがって, 波動伝ぱを考慮した衝撃現象としての取り扱いが必要となる. 運動を伴う現象に対して, 生じる応力を静的ととらえるか, 衝撃的ととらえるかの判断は実際のところ難しいが, 一般には負荷時間が短く, 物体の寸法が大きい場合には応力波伝ぱを考慮した検討を行うべきである. この他, 衝撃負荷に対する強度設計法としては動負荷によって生じる変形の静 5) 負荷によって生じる値の比を示す動荷重係数を用いる方法, また, ねじなどの耐衝撃強度を向上させるための衝撃吸収能を考慮した設計法が検討されている 4). 4. 衝撃負荷を受ける機械構造の応答例これまで単純なモデルを用い一次元伝ぱ理論の下での動的挙動を示した. しかし, 実際の構造物に生じる応力波の伝ぱ現象は 3 次元的であり, また, 反射 透過が多数生じるため複雑である 5). このような場合に, 精度よく変形量, 応力値を求めるには有限要素法などの数値解析に頼らざる得ない. しかし, ある機械構造の代表的な例に対して衝撃負荷に対する解析を行い, 静的負荷に対する結果との関係を把握すれば, 複雑な解析を必要とせずに, 様々な条件に対して耐衝撃強度設計が可能となる場合がある. 以下, 著者らが先に明らかにした, 衝撃負荷を 6) 受けるロボットアームに関する結果の概略を示す. なお, 本章および次章は, 内容的に本講座の範囲を超えているので, 発展例の一部として読んでいただきたい. 図 および 3 に示す機構は, 産業用ロボットとしてよく用いられる代表的な開ループ機構および閉ループ機構である. 有限要素法を用いて, これらの機構の出力点 Pに作用する衝撃負荷に対し, 入力軸に生じる動的トルクの変動を求めた結果を示す. なお, 解析条件は表 に, 出力点に作用する衝撃荷重 F P の時間に対する変化は図 4 に示すとおりである. 図 4 中の T r は, 各機構の一次の固有振動 Y FP Y l P l FP l B E l D P θ B l l θ A X A θ A θ B X O A B (C) O 図 開ループ機構の解析モデル Z 図 3 閉ループ機構の解析モデル Z 5

数を示す. 図 5は図 の開ループ機構においてθ B の角変位を出力する入力軸に生じる衝撃トルクの変化を示している. なお, 出力点にはステップ状の衝撃荷重波形 F P ( 立ち上がり時間 T r が零 ) が作用するとし,θ b A, θ Bgを (00,60 ) とした. 図中, 点線, 実線および破線はそれぞれ機構の代表節長 L(=l +l ) の和が, 0.5,.0 および.0 とした場合の結果であり, 節長比は一定とした. 図中, 直線で示した値は, 衝撃荷重 F P に大きさが等しい静的荷重が負荷したとして得られる静的トルクの値を示す. 図 5に示すように, 入力点に生じるトルクは, 慣性力による動的な影響により, 静的なトルクの値をおおよその中心としてほぼ周期的に振動する. また, その最大値は静的トルクの約 倍となる. さらに, 全節長の増加または減少に対して, 衝撃トルクの値は, ほぼ線形に変化することがわかる. なお, ここでは特に詳細は示さないが, 出力点に作用する衝撃荷重に対して各入力表 解析モデルの諸元 Young's modulus (N/mm ).06 0 5 Poisson's ratio 0.3 Sectional area of beam (mm ) 3.4 0 3 Moment of inertia of area (mm 3 ) 7.85 0 4 Density (kg/mm 3 ) 7.86 0-6 F P (N) 0 5 0 0.5.5.5 t/t 図 4 衝撃荷重波形 T r =0.0 T r =0.5T T r =.0T T r =.0T T dob, T sob (N m) 5 L= 0.5 m L=.0 m 0 5 0 t/t L=.0 m.5 5-5 図 5 開ループ機構に生じる衝撃トルク波形 6

点および対偶点に生ずる対偶作用力は, 入力点のトルクと同様に, 衝撃荷重と等しい大きさの静的荷重に対して生じる値に比べて最大で~3 倍程度となった. 以上のような解析を各機構において節長比, 節のなす角および機構の全節長を種々変化させて行ったところ, いずれも同様な結果が得られた. その結果の一例をまとめて図 5および6に示す. これらの図はロボットアームの作業領域を代表節長 Lで無次元化して表した座標系であり, 同心円は機構の作業領域を示す. 図中の記号は, 図,3に示した各機構の出力点が同座標に位置する場合に求めた衝撃トルクの最大値 T d max を, 同じ大きさの静的荷重に対して作業領域全体にわたり求めた静的トルクの最大値 T smax で無次元化して示したものである. また, 図中の実線は, 各機構の静的単位負荷に対する静的トルクを求め, 代表節長を単位長さとした値を, 機構の出力点位置にプロットし等高線で示したものである. 図 5,6 に示すように, 衝撃トルクの変化は, 静的トルクの変化とほぼ一致する. 他の機構形状に関しても同様な解析を行ったところ, ほぼ同じ結果が得られた. すなわ.0 y 0.333 0.0 ~ 0.5 0.5 ~.0.0 ~.5.5 ~.0.0 ~.5.5 ~.0 y 0.333 0.0 ~ 0.5 0.5 ~.0.0 ~.5.5 ~.0.0 ~.5.5 ~ -.0 o x.0 -.0 o x.0 0. 0. 0.0 0.0 -.0 0. -.0 0. 図 5 開ループ機構の衝撃特性 図 6 閉ループ機構の衝撃特性 Torque (N.m) 5 T r =0.0 T r =0.5T 0 5 0 ア- 5 T r =.0T T r =.0T t / T.5 5 図 7 開ループ機構に生じる衝撃トルク波形 7

ち, 解析が容易な, ロボットアームの静的特性より, 衝撃負荷に対する挙動もおおよそ把握可能となることがわかる. さらに, 荷重波形の立ち上がり時間 T r の影響を示すため, 図 3の閉ループ機構の出力点に図 4に示す複数の波形に対する解析結果を図 7に示す. なお, 機構の代表節長 Lを.0mとし, 角変位 bθ A, θ Bgを (0,40 ) とした. 図 7に示すように衝撃荷重波形の立ち上がり時間に対する衝撃トルクの変化は顕著であり, 立ち上がり時間が長くなるにつれ, 入力点に生ずる衝撃トルクの振幅および最大値の絶対値はともに減少する. すなわち, 何らかの緩衝要素の負荷点への装着は, 衝撃負荷の影響を防ぐための効果が, かなり期待できることがわかる. 5. 機械材料の衝撃特性 ( 材料特性のひずみ速度依存性 ) 以上, 衝撃を受ける機械構造に関して解説した範囲では, 機械材料の変形を弾性範囲内であるとしていた. 弾性変形内であれば, 通常, ヤング率など金属材料の特性は変形速度, すなわち, ひずみ速度に依存しない. しかし, 塑性変形の開始点である降伏強度, さらに, 応力 - 塑性ひずみ関係は, ひずみ速度により変化することがある. これらは, 塑性加工時の加工パラメータの決定, 機械構造の衝撃吸収能の予測などに重要である. 図 8 および 9 は種々のひずみ速度における炭素鋼の動的降伏強度および応力 - 塑性ひずみ関係を示した図である. なお, 動 7) 的降伏強度は当研究室で提案した非常に簡便な測定法および従来からのHPB 法 8) による結果を示した. 図のように動的特性は通常, ひずみ速度とともに増加する. したがって, 強度設計時には安全側となるが, 例えば高速加工で材料を塑性変形する場合, 予想外の力が必要となる. また, 同じく当研究室では衝撃荷重に対する疲労現象の測定を行い, この場合は, ひずみ速度の増加とともに疲労強度が低下する傾向があることを明らかにしている 9). 800 Yield point (MPa) 600 400 Yield point Yield point (HPB) 00 00 400 600 800 000 00 Plastic strain rate (/s) Stress (MPa) 800 700 600 Calculated. (900) Measured. (900) 500 Calculated. (600) Measured. (600) 400 Calculated. (300) 300 Measured. (300) 0.00 0.0 0.0 Plastic strain 0.03 図 8 炭素鋼の動的降伏強度 図 9 動的応力ひずみ関係 8

さらに, 図 9 には単純な衝撃試験の結果から, 広いひずみ速度範囲において, 機械材料の動的応力 - 塑性ひずみ関係を導き, 同式による結果をあわせて図示した 0). 図のように測定結果と計算結果は, よく一致しており, 衝撃荷重を受ける機械構造の数値解析に有用であることが確認される. 6. 棒と棒 ( 弾性体と弾性体 ) の衝突実験 6. 棒 ( 弾性体 ) の衝突 本節では, 棒同士すなわち, 単純な形状の弾性体と弾性体が衝突する場合の現 象について, 実際の測定も含めて説明する. まず, 棒同士の衝突に関して簡単に 説明する. 図 0 に示すように静止している棒 の左端に, 速度 Vで棒 が衝突する場合を考える. 衝突直後, 棒 にはbσ,v g, 棒 にはbσ,v gである ( 応力, 変位速度 ) を 発生させる応力波が生じ, それぞれ他端へ,C および C の速度で伝ぱする. なお, 棒 および棒 に関する諸量にはそれぞれ, 下付け添え字として, および を付 与する. 生じる応力, 変位速度の大きさは, 先と同じく境界条件を満足するように求め ればよい. すなわち, 棒 の端面の変位速度は衝突直前において V であり, 衝突 後変位速度 v を生じさせる波が生じることから, 結局, 端面の速度は V-v とな る. 衝突直後, 両棒の端面が接着して変形しているはずであるから, 接触面では 力および変位速度が等しい. したがって次式が導かれる. V v = v (6.) Aσ = A σ (6.) 式 (6.) において, 式 (3.) の関係より変位速度 v,v を消去すれば次式となる. σ σ V C = C E E (6.3) 式 (6.) および式 (6.3) より,σ および σ を求めれば次式となる. ( Α,E ) ( σ,v ) ( σ,v ) ( Α,E ) 図 0 衝突する 本の丸棒 9

σ = σ = A Eρ Eρ V A E ρ + A E ρ A Eρ Eρ V A E ρ + A E ρ U V W (6.4) 変位速度は次式となる. v v = = A Eρ V A E ρ + A E ρ A Eρ V A E ρ + A E ρ U V W (6.5) これらの応力, 変位速度を発生させる応力波は, 両棒中を複雑に伝ぱする. そ こで, その様子を実際に測定してみよう. 6. 実験の概要図 に実験装置の概略を示す. 落下棒を落下高さhから自然落下させV t = gh の速度で試験棒に衝突させると, 両棒の衝突面には圧縮の応力が発生する. この φ 0 Computer l Striker bar Wave memory h Strain gage 300 000 R b R a Amp. (Gain :G) e Test bar φ 0 E b Bridge circit Unit : mm Material : S45C Young's modulus : 06 GPa Density : 7.86. 0 6 kg/mm 3 図 縦衝撃現象測定装置 0

応力は, これまで述べたようにそれぞれの速度で両棒中を伝ぱし, 各端面で反射する.( 本実験では両棒を同質同径とする ). 実験では試験棒の応力を測定し, 発生する最大応力や応力波伝ぱの様子を応力波伝ぱ理論に基づいて考察する. なお, 試験棒の衝突面から300mmの位置には, ひずみゲージが貼付してあり, これをブリッジ回路に接続して応力の時間に対する変化を電圧に変換し, 波形記憶装置に記憶させる. 波形記憶装置に記憶させた波形をコンピュータに取り込み処理する. なお, 試験棒下端にはゴムシートが設置されており, 近似的に自由端となっている. 6.3 実験およびデータ処理手順 ) 図 に示す実験装置の配線などをチェックし, 波形記憶装置などを設定する. ) コンピュータ上で, 計測用プログラムの設定を確認する. 3) 以後, 実験条件の設定等,CRT 画面に表れるコンピュータの問い合わせに答えながら実験を進める. 4) 長さ l=500,700,000mm である 3 本の落下棒が用意してある. 各々の落下棒につき落下高さをh=00,50mmの3 種類に設定し, 実験を行い波形を記録する. 各測定において, 最大応力を最初の山より読み取り, 落下棒長さ, 落下高さとの関係を表に記録する. なお, 同一実験条件につきそれぞれ 3 回ずつ波形を記録して, 平均を求め, その条件での測定値とする. 5) この他, 時間が在れば棒の境界条件を変えて, 同様に測定を行う. 6) 測定終了後, データ処理を行う場所に移動する. 7) データ処理用コンピュータを用いて, 落下高さh=50mmである場合の測定値について応力波形をグラフ化し, 落下棒長さとの関係を見る. 注 ) 測定に際しては波形ができるだけ長方形状になるように, 落下棒の落し方に注意すること. 実験室内の他の機器に手をふれないこと. 注 ) 測定装置の各条件は以下の通りである : ゲージ率約 00, ブリッジ電圧 0V, アンプゲイン 0, サンプリングタイム μ s, 最大レンジ V. 6.4 データの処理と考察 () 本実験の結果が妥当であるか考察してみよう. まず, 作成した表より, 落下高さと, 最大応力の関係を検討してみる. 表より, 落下高さの増加とともに, 応力値も増加することがわかる. しかし, 同一高さにおいて, 異なる長さの棒を用いた測定では応力値がほぼ等しくなっているであろう. この結果は, 生じる応力が棒の質量によらないことを示している. すなわち,3. で述べた理論の妥当性が確認される. () 次に生じた応力値が妥当であるか確認してみよう. 本実験は同質同径の丸棒

の衝突実験である. したがって, 式 (6.4),(6.5) より, 次式が導かれる. σ = σ = Eρ V = E V (6.6) C v V V =, v = (6.7) なお, 両棒のヤング率, 密度, 伝ぱ速度を,E,ρ,C で表す. また, 落下速度 V は次式で表されるので, 各自実験結果を確認していただきたい. V = gh (6.8) (3) 次に, このようにして得られた最大応力値とひずみエネルギー法により予測 される応力値とを比較してみよう. 式 (.0) より, ひずみエネルギーより予測さ れる応力値は次式で表される. なお, 落下棒, 被衝撃棒の長さを l,l とする. l E σ = ρe V = l C V l l (6.9) 上式のようにひずみエネルギーによれば, 生じる応力は落下棒の長さとともに増 (σ, o V o/) t = t 4 (σ, o V o/) t = t 3 (σ, o V o/) t = t T = l /C T / (σ, o V o/) 0,V o t = t = t 9 t = t 8 t = t 7 t = t 6 t = t 5 t 0,V o t = 0 A a L l T T t t 5 t 6 t 8 t 9 t 0 (σ, o V o/) (-σ, o V o/) (σ, o - V o/) (- σ o, -V o/) (b) 応力波伝ぱの図式解法 t o 0,V o (σ, V o/) - 0,V o ( σ, V o/) o ( σ, V o/) T = L /C ( σ, V o/) 0,V o - - o o (σ, V o/) o 0,V o σ o -σ o t t 5 t 6 t 8 t 9 t 0 t (a) 棒中の応力, 変位速度の様子 (c) 図式解法による応力波形 図 動的有限要素法による解析モデル

加し, 特に両棒の長さが同じ場合, 予測される応力値は応力波伝ぱ理論に基づく応力値の 倍に達する. これは, ひずみエネルギー法では, 落下により費やされる位置エネルギーが全てひずみエネルギーに変わるとするのに対して, 実際には応力波伝ぱに要する運動エネルギーにも変換されるためである. すなわち, この場合ひずみエネルギー法は, 生じる応力値を過大に予想することになる. したがって本実験のケースについて, ひずみエネルギー法により強度設計を行えば, 過剰設計を行うことになる. (4) 次に, 応力波伝ぱ現象についてプロットしたグラフを基に考察してみよう. グラフが示すように, 本実験では基本的に圧縮力を負荷したにもかかわらず, 正負両方向の応力が生じている. これは先に説明したとおりである. また, 棒の長さにより, 波形が大きく違う. この是非を確認するために応力波伝ぱの様子を図示してみよう. なお, 以下の方法は, 応力波の伝ぱ現象を簡便に予測しうる有用な図式解法である. 図 (b) に示すように, 横軸に時間, 縦軸に距離をとり, 距離の上下限を, それぞれ落下棒, 被衝撃棒の長さとする. 同図において時間零を衝突時とし, 原点から上方および下方に向かい, 傾きを応力波の伝ぱ速度 Cとした直線を描く. 直線が, 図の上下限に達した場合, それぞれ反対方向へ, やはり傾きを伝ぱ速度 C として直線を連続的に描いてゆく. この直線は, 応力波の伝ぱを示すものに他ならない. したがって, 図 (a) におけるひずみゲージ貼付位置 A での応力変化は, 以下のようにして得られる. まず, 図 (b) に A の位置から時間軸に平行な直線を描けば, 同直線と応力波伝ぱを示す直線との交点が, 応力波の波頭到達時間である. 次に, 境界で反射される応力波が発生する応力, 変位速度の値を求め, 同位置を通過する応力波が発生させるこれらの値の和をとれば, ある時刻までの応力値の変化がわかる. そのようにして描かれたのが図 (c) である. また, これらの結果に基づき応力波伝ぱの様子を図示したものが図 (a) である. これらの結果より, 落下棒の長さから, 応力波伝ぱの様子を予測し実験結果と比べてみてほしい. その妥当性が確認されるであろう. 7. 衝撃現象の有限要素解析先に述べたように, 実際の機械構造に生じる衝撃応力を精度よく知るには数値解析に頼らざる得ない. そこで, 本実験装置を対象とした動的有限要素法の解析例を見ていただく. 解析モデルの概略は図 3のとおりであり, 材料の諸元は実験と同一である. なお, この解析例では被衝撃棒の支持部を固定端としている. そのため, 実験結果とは異なり応力値が時間とともに階段状に増加していくことが確認できる. また, これまで仮定した一次元伝ぱとした場合の結果と三次元的な解析を行った結果 ( 図 4) も比較してもらい, 本実験の範囲での一次元伝ぱ理論の妥当性を検討してもらう. 3

a L V Strain gage Fixed 図 3 動的有限要素法による解析モデル 500.0 Stress (Mpa) 400.0 300.0 00.0 00.0 Stress [ dim.] (MPa) Stress [3 dim.] (MPa) 0.000-00.0 0 0. 0. 0.3 0.4 0.5 Time (msec) 図 4 動的有限要素法による解析結果 8. 最後に以上, 本講座では衝撃現象の基礎的な説明および評価の方法を説明した. 本講座の内容を用いて, 簡便な耐衝撃強度設計の目安をたてることが可能となれば幸いである. さらに, 応用的な衝撃力に対する機械構造の評価法, 設計法も存在するが, これらは本講座の内容を基礎としたものであるので, 興味のある方は参考 )4)5) 文献などを参照して学習していただきたい. なお, 実際の機械構造に関する衝撃挙動を精確に予測するためには, やはり, 数値計算に頼らざる得ない. 機会があればこれら数値計算法についても紹介したいが, そのためには, まず, 本講座で述べた内容を基に, 身の周りの衝撃現象を考察してみてほしい. 衝撃現象は身の周りに多くありながら, なかなか実感できない現象である. 最近の数値計算プログラムはブラックボックス化されていることも多いので, 実際の現象を把握した上で数値計算を行うのと, そうでないのとでは大きな差があるであろう. 4

( 参考文献 ) ) 例えば林則行他 名, 機械設計法, 森北出版株式会社,(988),66 ) 例えば林卓夫 田中吉之助編, 衝撃工学, 日刊工業新聞社,(988),35-86 3) 例えば中原一郎, 材料力学上巻, 養賢堂,(983),5 4) 茶谷明義,[ 連載講座 ] 衝撃強度設計 ()- 耐衝撃強度設計の考え方 -, 機械の研究,4-5(989),63-67 5) 茶谷明義,[ 連載講座 ] 衝撃強度設計 ()- 耐衝撃強度設計の考え方 -, 機械の研究,4-6(989),79-73 6) 立矢宏 浦野勝巳 茶谷明義 放生明廣, ロボット機構の特性評価と比較 ( 第 報, 衝撃荷重を受けるロボット機構の評価 ), 日本機械学会論文集 (C 編 ),6-598(996),395-407) 7) 立矢宏 茶谷明義 放生明廣, ひずみによる動的降伏強度の簡便測定法, 日本機械学会論文集 (A 編 ),6-584(995),84-848 8) 茶谷明義,[ 連載講座 ] 衝撃強度設計 ()- 衝撃圧縮による強度とその試験法 -, 機械の研究,4-3(990),435-440 9)Slip Bands and Fatigue Life of a Steel under Repeated Impact Tension,A.Chatani A.Hojo H.Tachiya,Key Engineering Materials,Vols. 45-49(988),39-33 0) 立矢宏 三谷芳史 放生明廣 茶谷明義, 情報量規準による動的構成式の決定法, 日本機械学会論文集 (A 編 ),64-67(998),876-88 5