P002~014 1-1-A~B.indd

Similar documents
PowerPoint プレゼンテーション

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

EBM血液疾患の治療

04骨髄異形成症候群MDS.indd

00-00大扉_責了.indd


PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint Presentation

白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

がん登録実務について

PowerPoint プレゼンテーション

dr

PowerPoint Presentation

<4D F736F F D F73696B6B616E C8C8B858C6E82CC8EBE8AB C08C8C897493E089C82E646F63>

白血病

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

BLF57E002C_ボシュリフ服薬日記_ indd

静岡県臨床検査技師会精度管理調査

正常好中球の染色性と比較して判定を行う 細胞分 類において白血球を 200 細胞分類することを基本と する 2 骨髄穿刺 骨髄塗抹標本は末梢血と同様に May-Giemsa また は Wright-Giemsa 染色を行い 有核細胞を 500 細胞 分類するが 骨髄巨核球は異形成を示すものも含め て

メディカルスタッフのための白血病診療ハンドブック

日臨技九州支部血液卒後セミナー 解説 3

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

ハイドレア とは ハイドレア は ほんたいせいけっしょうばんけっしょう 本態性血小板血症 (ET) 6 ページ参照 しんせいたけつしょう 真性多血症 ( 真性赤血球増加症 : PV) 8 ページ参照 まんせいこつずいせいはっけつびょう 慢性骨髄性白血病 (CML) 10 ページ参照 に対して処方され

日本医科大学医学会雑誌第11巻第4号

<4D F736F F D204E6F C82518DC490B C790AB956E8C8C88E38E742E646F63>

Ⅰ 造血器腫瘍の新しい分類 表1 3 骨髄系腫瘍と急性白血病における WHO 分類 2016 案 文献 2 を改変 Myeloproliferative neoplasms MPN Chronic myeloid leukemia, BCR-ABL1-positive Chronic neutrop

<4D F736F F D FAC90EC816994AD955C8CE38F4390B394C F08BD682A082E8816A8F4390B38CE32E646F63>

はじめに 日本で最初の造血幹細胞移植が行われたのは 1974 年ですが 199 年代に入ってから劇的にその件数が増え 近年では年間 5, 件を超える造血幹細胞移植が実施されるようになりました この治療法は 今日では 主に血液のがんである白血病やリンパ腫 あるいは再生不良性貧血などの根治療法としての役

症例 1


愛知県臨床検査標準化ガイドライン 血液特殊染色アトラス 愛知県臨床検査標準化協議会 AiCCLS : Aichi Committee for Clinical Laboratory Standardization

063 特発性血小板減少性紫斑病

貧血 

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成 : 細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連 Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm: association wit


PowerPoint プレゼンテーション

1 AML Network TCGAR. N Engl J Med. 2013; 368: 種類以上の遺伝子変異が認められる肺がんや乳がんなどと比較して,AML は最も遺伝子変異が少ないがん腫の 1 つであり,AML ゲノムの遺伝子変異数の平均は 13 種類と報告された.

白血病(2)急性白血病

(Microsoft Word - \203v\203\214\203X\203\212\203\212\201[\203X doc)

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号添加物 ( キャップ色等 ) 採取容器採取材料採取量測定材料ノ他材料 DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について その他造血器 **-**

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

スライド 1

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

骨髄線維症 1. 概要造血幹細胞の異常により骨髄に広汎に線維化をきたす疾患 骨髄の線維化に伴い 造血不全や髄外造血 脾腫を呈する 骨髄増殖性腫瘍のひとつである 2. 疫学本邦での全国調査では 患者数は全国で約 700 人と推定されている 発症年齢の中央値は 66 歳である 男女比は 2:1 と男性に

発作性夜間ヘモグロビン尿症 :PNH (Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria) 1. 概要 PNH は PIGA 遺伝子に後天的変異が生じた造血幹細胞がクローン性に拡大する 造血幹細胞疾患である GPI アンカー型蛋白である CD59 や DAF などの補体制御因子

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

ANSWER ACUTE MYELOID LEUKEMIA 自分の病気を理解するために 担当医に質問してみましょう 私の白血病の タイプと病状について 教えてください 骨髄検査の結果を 説明してください 治療の選択肢について その目的と利点を 教えてください 私は造血幹細胞移植を 受けられますか 治

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

PowerPoint プレゼンテーション

を作る 設計図 の量を測定します ですから PCR 値は CML 患者さんの体内に残っている白血病細胞の量と活動性の両方に関わるのです PCR は非常に微量の BCR-ABL 設計図 を検出することができるため 残存している病変を測定するものとよく言われます 4. PCR の検査は末梢血と骨髄のどち

各種がん 133

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

Microsoft Word - 01.docx

平成14年度研究報告

別添 3 移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律の運用に関する指針 ( ガイドライン ) 第 1 法第 2 条第 2 項の厚生労働省令で定める疾病に関する事項移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律 ( 平成 24 年法律第 90 号 以下 法 という ) 第 2 条第 2

日本内科学会雑誌第104巻第6号

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

平成 27 年度第 4 回名古屋市立病院臨床研究審査委員会議事録の概要 開催日時 開催場所 出席委員 平成 27 年 7 月 1 日 ( 水 )17 時 00 分から 20 時 00 分まで名古屋市立西部医療センター 2 階大ホール村上善正 村上勇 妹尾恭司 鈴村宏 六鹿浩 千草眞値代 山本靖子 加

第28回血液部門卒後研修会 症例7

ROCKY NOTE 特発性血小板減少性紫斑病 Idiopathic thrombocytopenic purpura:itp(130109) 5 歳男児 四肢に紫斑 特に誘因なし 関節内出血なし 粘膜に出血無

母子感染

2017/8/26( 土 東京大学医科学研究所 MPN-JAPAN インタビュアー :MPN-JAPAN 代表瀧香織 専門家の先生 : 東京大学医科学研究所 ALA 先端医療学社会連携研究部門谷憲三朗先生 MPN(PV ET PMF) の遺伝子治療の開発の現状と今後の展望について 1 ALA

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

血液 血液 知識 技術 技能 症例 頁 7) ヘパリン起因性血小板減少症 HIT A C 造血幹細胞移植 B C 血液疾患に対する特殊治療 B C 318 Ⅴ. 疾患 赤血球系疾患 318 1) 出血性貧血 A A 318 2) 鉄欠乏性貧血 A A 318

白血病治療の最前線

PT51_p69_77.indd

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - MDS診療の参照ガイドH25版.doc

<4D F736F F F696E74202D208FAC8E9982CC8C8C89748EBE8AB A957A8E9197BF>

臨床試験概要詳細画面|一般財団法人日本医薬情報センター 臨床試験情報

Microsoft Word - all_ jp.docx

1. 研究の名称 : 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の分子病理学的研究 2. 研究組織 : 研究責任者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 准教授 百瀬修二 研究実施者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 教授 田丸淳一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 助教 田中佑加 基盤施設研究責任者

家族性樹状細胞欠損症 1. 概要樹状細胞を完全に欠損する免疫不全症 2. 疫学国内で 28 症例が確認されているが 診断されていない症例が多く存在する 3. 原因一部は転写因子 GATA2 遺伝子の変異によることが 2011 年に解明された 他の多くの樹状細胞欠損症の原因遺伝子は解明されていない 4

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

PowerPoint プレゼンテーション

再発小児 B 前駆細胞性急性リンパ性白血病におけるキメラ遺伝子の探索 ( この研究は 小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG)ALL-B12 治療研究の付随研究として行われます ) 研究機関名及び研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示す通りです 研究代表者眞田昌国立病院

kari.indb

2016.3_がんセンター論文_1.indd

難治性貧血の診療ガイド_3章

<4D F736F F D204E AB38ED2976C90E096BE A8C9F8DB88A B7982D1928D88D38E968D >

炎症 免疫系門クラスター 143 科目クラスター炎症 免疫系クラスター 授業科目名免疫 アレルギー学 実習 専担当者名 責任者廣川誠 分担者植木 重治, 大杉義征 単位数 1 単位 ( 選択 ) 開講時間帯 18:00~21:00 中央検査部カンファレンスルーム 1. 免疫 アレルギー学総論, 細胞

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

2012 年 9 月 1 日第 15 回北河内血液症例検討会 骨髄異形成症候群に対する新しい治療 枚方公済病院血液内科 林 邦雄

Powered by TCPDF ( Title 造血器腫瘍のリプログラミング治療 Sub Title Reprogramming of hematological malignancies Author 松木, 絵里 (Matsuki, Eri) Publisher P

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

慢性骨髄性白血病 ~グリベックを服用される方へ~

15髄増殖性腫瘍について.indd

日本医科大学医学会雑誌第11巻第4号


60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

読んで見てわかる免疫腫瘍

はじめに 目次 急性リンパ性白血病 (ALL) は 血液のがんと言われる白血病の一種です 白血病という病名を聞くと 不治の病と思われるかもしれません しかし 治療技術が進歩し 薬の開発が進んだ現在では 治癒が期待できるがんの一つと言われるようになりました また 分子標的治療薬 と呼ばれる薬を用いるこ

Transcription:

1 A WHO 2008 年に改訂された第 4 版 WHO 分類において, 骨髄系腫瘍は 6 の大きなカテゴリーに分けられた ( 表 1-1). 全体としてみれば 2001 年の第 3 版 WHO 分類の形を引き継いでおり, 第 3 版以降に明らかになった個々の疾患の病態などを反映させつつ, 細かなところでの改訂が行われている. 骨髄系腫瘍の分類を全体としてみると, 疾患に同定される遺伝子異常に基づく病型分類という方向性はより明確になっており, 今後も基本的にはこの方針が維持されると思われる. 以下に, いくつかのカテゴリーについて概説を加える. 表 1-1 WHO 分類 2008 年による骨髄系腫瘍の大分類 骨髄増殖性腫瘍好酸球増多症と PGDFRA, PDGFRB, または FGFR 遺伝子異常を有する骨髄 リンパ性腫瘍骨髄異形成 / 骨髄増殖性腫瘍骨髄異形成症候群急性骨髄性白血病および関連する前駆細胞腫瘍系統不明の急性白血病 a ここには表 1-2 に示す疾患が含まれる. いずれも造血幹細胞レベルの未分化な造血細胞が腫瘍化していると考えられ, 一般に成熟した造血細胞の増加を共通の特徴とする. つまり, 細胞の分化 は保たれるが, 細胞数は成熟成分を中心として著増するというパターンをとる. 造血細胞には, 病期が進展した場合を除いて少なくとも著しい異形成はみられない. このカテゴリーのなかではっきりと疾患単位が確立しているのは慢性骨髄性白血病 chronic myeloid leukemia(cml) である. 末梢血, 骨髄において未分化成分から成熟顆粒球まで分化を保った状態で好中球系細胞の著しい増 表 1-2 骨髄増殖性腫瘍の分類慢性骨髄性白血病 BCR-ABL1 融合遺伝子陽性慢性好中球性白血病真性赤血球増加症原発性骨髄線維症本態性血小板血症慢性好酸球性白血病他のカテゴリー以外肥満細胞症骨髄増殖性腫瘍分類不能型 2

加を呈し, 白血球数はときに数十万に至る.CML を特徴づけるのは何といってもフィラデルフィア染色体 (9 番と 22 番染色体長腕の相互転座 ) の形成とそれに伴う BCR-ABL1 融合遺伝子, 融合蛋白質の存在である. 染色体レベルでは転座が確認できない例はあるが,CML の診断基準に BCR-ABL1 融合遺伝子の存在が必須ということになった. ただし, 急性リンパ性白血病の一部, 系統不明の急性白血病の一部でも BCR-ABL1 融合遺伝子はみられるので, 確定診断には特徴的な臨床所見とともに BCR-ABL1 融合遺伝子の存在が必要である.CML に特徴的な BCR-ABL1 融合蛋白質機能を阻害する分子標的薬 (imatinib) の臨床的な著効も本疾患を独立して捉える大きな理由の 1 つである. このように, 病態から治療までみても CML は骨髄系腫瘍全体のなかで疾患単位が最も確立されているといえる. その他, ここに分類される真性赤血球増加症, 本態性血小板血症, 原発性骨髄線維症は経過中に病型移行をきたすことが以前より知られていた. 現在ではこれら 3 疾患の病態に深くかかわる遺伝子異常として JAK2-V617F 変異が同定されており, これらに共通した分子病態が明らかとなっている. 本態性血小板血症, 原発性骨髄線維症においては JAK2 遺伝子異常以外に,MPL 遺伝子異常も一部で存在しており, それぞれ 1~3%,5~10% といわれている.CML に JAK2 遺伝子異常はきわめてまれであることが知られており, 類似の病態を取り得るものの CML と他の 3 病型は分子基盤が異なっている. このカテゴリーの疾患は CML も含めて急性転化をきたし, 病末期には急性白血病化を生ずるがその頻度は疾患によって異なっている. b 好酸球増多症と PGDFRA, PDGFRB, または FGFR 遺伝子異常を有する骨髄 リンパ性腫瘍 このカテゴリーは, 好酸球増加を示す疾患のなかで, 特徴的な遺伝子異常 ( 融合遺伝子 ) を有するものをまとめている. 血小板関連増殖因子受容体 α/β(pdgfrα/β), 線維芽細胞増殖因子受容体 (FGFR) をコードする遺伝子に異常をもつものである. この中で PDGFRα/β 異常をもつ例には, 明らかな臨床試験の結果はないものの,imatinib が効果を示すと考えられている. c 骨髄異形成 / 骨髄増殖性腫瘍 このカテゴリーに分離されるのは表 1-3 にあげる疾患である. 造血幹細胞レベルの未分化な造血細胞に異常をきたして発症すると考えられている. このカテゴリーの疾患は, 造血細胞が増殖傾向を示すことに加えて, そうした細胞が明らかに形態学的に捉えられる異形成を示す. 前述した骨髄増殖性腫瘍と後述する骨髄異形成症候群の両方の特徴をもっている. それほど頻度の高い疾患は含まれないが, 若年性骨髄単球性白血病 juvenile myelomonocytic leukemia(jmml) は小児に多い. 単球が増加する慢性骨髄単球性白血病 chronic myelomonocytic leukemia(cmml) でも異形成を有する単球が増加している. 近年このカテゴリーでは, 遺伝子異常の解析が進んでいる. 特に JMML, CMML では複数の遺伝子異常が確認されており, 両者には共通する遺伝子異常もある. しかし, 遺伝子異常を比較する 498-12519 1. 造血器腫瘍の分類 3

とその頻度は両者で明らかに異なっているとの 表 1-3 骨髄異形成 / 骨髄増殖性腫瘍の分類 報告があり, この 2 つが似てはいるが異なる分子病態をもっていることをうかがわせる. 暫定病型として新たに作られた, 血小板増加と環状鉄芽球を伴う不応性貧血 (RARS-T) では, 骨髄増殖性腫瘍にみられる JAK2 遺伝子変異や 慢性骨髄単球性白血病非定型慢性骨髄性白血病 BCR-ABL1 陰性若年性骨髄単球性白血病骨髄異形成 / 骨髄増殖性腫瘍分類不能型暫定病型血小板増加と環状鉄芽球を伴う不応性貧血 MPL 遺伝子変異が観察される.RARS-T は, 骨髄異形成症候群の亜型なのか, 骨髄増殖性腫瘍が環状鉄芽球をもつだけなのか, あるいは別の疾 患なのか, 明らかになっていない. そのため WHO 分類でも暫定病型となっている. d myelodysplastic syndromes(mds) MDS は造血幹細胞の異常によって発症する腫瘍性疾患で, 血球異形成, 無効造血, 白血病化を特徴としている.MDS には再生不良性貧血 aplastic anemia(aa) や発作性夜間血色素尿症 (PNH) からの移行例がみられる,MDS のなかに PNH 型血球がみられるなど,AA や PNH と MDS との疾患概念の境界は一部で重なっている. さらに, 急性骨髄性白血病への移行, 骨髄異形成 / 骨髄増殖性腫瘍にみられる異形成など, こうした疾患群とも境界を接する疾患である. 基本的に WHO 分類による診断と病型は形態的異形成が認められる血球系統と末梢血, 骨髄中の芽球割合とによる ( 表 1-4). 診断は主に, 臨床的に他に原因を求められない血球減少と造血細胞の異形成によってなされるが, 第 4 版 WHO 分類より,MDS に頻度の高い染色体異常が他に原因を考えられない血球減少症とともに認められれば, 異形成が十分に認められなくとも MDS と診断できることになった. 分子遺伝学的検査法の進展によって, ここ数年, 染色体検査では同定されない遺伝子異常が多数同定されてきているが, 診断, 分類に反映されるまでには至っていない. ただ, こうした遺伝子異常は急性骨髄性白血病や骨髄異形成 / 骨髄増殖性腫瘍にも共通してみられるものがあり, これらの疾患境界が重なっていることを示唆していると考えられる. 染色体, 遺伝子異常が診断に占める割合は急性骨髄性白血病ほど大きくないため, 現在でも形態学的な異形成の判定のもつ意義は大きい. しかし, 異形成の判定は観察者によって差があるため, 特に異形成の軽微な低リスク症例の診断には迷う場合も多く, 十分な経過観察も必要となる. このように MDS は現在でも 症候群 であり, 複数の疾患単位が集まっていると考えられているが, その中にあって 5q-( マイナス ) 症候群 は特徴的な臨床所見, 形態,lenalidomide に対する著しい反応性などからかなり疾患単位に近いと考えられるようになっている. 表 1-4 骨髄異形成症候群の分類単一系統に異形成を伴う不応性貧血 (RCUD) 鉄芽球性貧血多系統に異形成を伴う不応性貧血 (RCMD) 芽球増加を伴う不応性貧血単独の 5 番染色体長腕の欠失を伴う骨髄異形成症候群骨髄異形成症候群分類不能型小児骨髄異形成症候群暫定病型小児の不応性血球減少症 4

また, 新たに暫定病型として 小児の不応性血球減少症 が作られており, 小児においても少数 であるが MDS が存在することが反映された. ここに分類される病型と成人の RCUD /RCMD と の異同について詳細は不明である. e acute myeloid leukemia(aml) および関連する前駆細胞腫瘍 大きく 7 カテゴリーに分類されている ( 表 1-5). ここではそのなかのいくつかを取り上げたい. 第 3 版からと比較すると第 1 カテゴリーの反復する遺伝子異常を伴う AML に含まれる病型が増えている.t(15;17),t(8;21),inv(16) /t(16;16) 以外は,AML における頻度は決して高くないが (5% 未満 ), 染色体転座に伴って形成される融合遺伝子と臨床的な特徴が深く関連していることから, このカテゴリーの病型はほぼ疾患単位に近いと考えられる. 染色体 11q23/MLL 遺伝子が関連する融合遺伝子としては,t(9;11)/AF9-MLL しかあげられていないが,MLL 関連の転座に関しては t(9;11) 以外であっても診断名にその存在を加えることになっている. 今回新たにこの中に暫定病型として CEBPA, NPM1 遺伝子異常を伴う AML が作られた. また, 病型としてあげられてはいないが FLT3 遺伝子異常の有無についても本文中に記載されている.CEBPA, NPM1 遺伝子異常は染色体正常例に多く認められ, 同定には分子生物学的手法が必要である. 興味深いことに正常核型で CEBPA 遺伝子変異, あるいは NPM1 遺伝子変異陽性かつ FLT3 遺伝子野生型の例は化学療法後に予後良好であるといわれており, 正常核型例の層別化に利用できるとされている. 現在は暫定的な病型となっているが, 今後の基礎的, 臨床的検討によっては確立された病型となる可能性がある. 第 3 版 WHO 分類で新たに作られた 多系統に異形成をもつ AML は,MDS から進展した AML,MDS からの AML に高頻度に観察される染色体異常を伴う AML を含むよう変更され, 骨髄異形成関連の変化を伴う AML とされている. このなかに含まれる de novo AML で異形成を有する例と MDS から進展した AML, 染色体異常をもつ AML に病態として差があるのか, 明らかな決着はついておらず, このカテゴリーからはいまだに疾患単位が抽出されていないと考えられる. 治療関連 AML を含む治療関連骨髄性腫瘍は, 病因によって定義されたカテゴリーである. 以前は抗がん治療薬の種類によってさらに分類されていたが, 近年では多くのがんにおいて多剤による治療が一般的となったため, 原因薬剤の系統による分類が難しくなり, 治療薬による分類はなくなっている. ここに含まれる AML と de novo AML との差異を明らかにしていくことは, 白血病化 を考えるうえで重要であると考えられる. がん化学療法や放射線治療の進歩によってこのカテゴリーの AML / 造血器腫瘍が増加してくる可能性がある. 上記以外の AML は, 他にあげた AML カテゴリーに入らない例を取り扱うところで, 基本的には FAB 分類で用いられたのと同様の形態によって細分類される. 主には増殖している芽球ならびに成熟成分の割合と, その系統を用いた分類で, ここにおかれる例からはいまだに明らかな疾患単位が抽出されてきていない. しかし, 染色体検査では同定されない遺伝子異常は次々に同定さ 498-12519 1. 造血器腫瘍の分類 5

表 1-5 急性骨髄性白血病および関連する前駆細胞腫瘍の分類 1. 反復する遺伝子異常を伴う AML(AML with recurrent genetic abnormalities) a. t(8;21)(q22;q22) または RUNX1-RUNXT1 を有する AML b. inv(16)(p13.1q22) または t(16;16)(p13.1;q22) または CBFB-MYH11 を有する AML c. 急性前骨髄球性白血病 t(15;17)(q22;q12) または PML-RARA を有する d. t(9;11)(p22;q23) または MLLT3-MLL を有する AML e. t(6;9)(p23;q34) または DEK-NUP214 を有する AML f. inv(3)(q21q26.2) または t(3;3)(q21;q26.2) または RPN1-EVI1 を有する AML g. t(1;22)(p13;q13) または RBM15-MKL1 を有する ( 巨核芽球 ) 性 AML h. 遺伝子変異を伴う AML 暫定的カテゴリー NPM1 遺伝子変異を伴う AML CEBPA 遺伝子変異を伴う AML 2. 骨髄異形成関連の変化を伴う AML 3. 治療関連骨髄性腫瘍 4. 上記以外の AML(AML not otherwise specified) a. 急性骨髄性白血病最小分化型 b. 急性骨髄性白血病未分化型 c. 急性骨髄性白血病分化型 d. 急性骨髄単球性白血病 e. 急性単球性白血病 f. 急性赤芽球性白血病赤白血病純赤芽球型 g. 急性巨核芽球性白血病 h. 急性好塩基球性白血病 i. 骨髄線維化を伴う急性汎骨髄症 5. 骨髄肉腫 6.Down 症候群に関連した骨髄増殖症 a. 一過性異常骨髄増殖 b. Down 症を伴う骨髄性白血病 7. 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍 れてきており, それぞれの遺伝子異常と病態の関連が今後の研究で明らかとなり, 臨床的にも明らかな特徴をもつことが示されれば疾患単位として独立していくであろう. 以上, 第 4 版 WHO 分類のなかで特徴的な部分について記載した. それぞれについては各論にて詳説されるが,WHO 分類の全容を把握して個々の中身をごらんいただければと思う. 宮㟢泰司 6