P71-76_西.ec8

Similar documents
研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

表 1 入院時検査所見 11,500L 471 L 17.0 gdl.3 L ph 7.49 PaCO 37.8 mmhg PaO 67.4 mmhg HCO 3.6 meql B E 1. meql 141 meql K 3.9 meql Cl 108 meql Ca 8.4 mgdl P 4.5

日本呼吸器学会雑誌第47巻第6号

Vol.42 No.10( 2010)

BUN, CRP K mg/ cm, 49.6 kg, BMI /72 mmhg, 92/ Hb 6.7 g/dl PT-INR CT 1 MRI 2a, b T1 T2 T1 MRI

慈大呼吸器_25-1_02T_CS5.indd

心房細動1章[ ].indd

1 正常洞調律 ;NSR(Normal Sinus Rhythm) 最初は正常洞調律です P 波があり R-R 間隔が正常で心拍数は 60~100 回 / 分 モニター心電図ではわかりにくいのですが P-Q 時間は 0.2 秒以内 QRS 群は 0.1 秒以内 ST 部分は基線に戻っています 2 S

2010 年 6 月 25 表 身体所見 134 cm 31 kg /60 mmhg 83/ ,

日本呼吸器学会雑誌第44巻第10号

72 20 Ope / class Alb g/ cm 47.9kg : /min 112/60m

症例_佐藤先生.indd

九州支部卒後研修会症例


心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

日本呼吸器学会雑誌第44巻第6号

胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T

125 2 P 1st washout 2 PB P mg/dL nd washout 2 P 5.5mg/dL< mg/dL <2.5mg/dL P P 2 D D 3 Ca 10

/12/28 UP 3+, TP 4.2g/dl, Alb 1.9g/dl PSL 50mg/day 1/17 PSL 45mg/day PSL 2006/4/4 PSL 30mg/day mpsl mpsl1000mg 3 2 5/ :90 / :114/64 mmhg

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

Sample2 g/dl Target1 : 6.01 g/dl TP Target2 : 8.39 g/dl

PowerPoint プレゼンテーション

呼吸困難を呈し、            臨床的に閉塞性細気管支炎と  診断した犬の2例

2017 a b c 図 3 胸腹部造影 CT 写真大動脈解離なし, 腹腔動脈 SMAに明らかな閉塞なし, 上行結腸の浮腫あり, 水腎症なし ( 左腎なし ), 膵腫大なし, 明らかな腹水を認めない. 明らかな腹水を認めない. 来院後の経過 来院時採血, 心電図, 画像検査所見より, 大動脈解離や急

心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

P001~017 1-1.indd

untitled

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

モニタリングと電気ショック

59 20 : 50 : : : : : 2 / :20 / 25 GTP /28 5/3 5/4 5/8 6/1 1 7kg 6/9 :178.7cm :68.55kg BMI:21.47 :37.3 :78 / :156/78mmHg 1

高等学校「保健」補助教材「災害の発生と安全・健康~3.11を忘れない~」 第3章

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法

Microsoft Word - 平成24年度医学部卒業試験問題-2.docx

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

1 999 年 9 月 30 日 Leiomyomatosis の一例 早坂和正 田中良明 矢野希代志 藤井元彰 奥畑好孝 氷見和久 根岸七雄 * 日本大学医学部放射線医学教室 * 第二外科学教室 Hayasaka, T anaka, Yano, Fujii, Okuhata, Himi, Negi

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

1 2 2 ANCA pouci immune IgG C3 ANCA 68 '01 '02 7 UN 14mg/dl, Cr 0.7 mg/dl, -, - ' UN 45mg/dl, Cr 2.4 mg/dl, Ht 29.5%, 4+, cm 61

狭心症と心筋梗塞 何を調べているの? どのように調べるの? 心臓の検査虚血チェック きょけつ の きょうさく狭窄のチェック 監修 : 明石嘉浩先生聖マリアンナ医科大学循環器内科

<4D F736F F D CA926D817A8EA98CC8928D8ECB82AA89C2945

日本呼吸器学会雑誌第48巻第6号

Print

SpO2と血液ガス

2

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

ウツタイン様式を活用した救命効果の検証

老衰 2% 日本における主な死因 : 動脈硬化性疾患は 25% その他 33% 悪性新生物 ( ガン ) 26% 自殺 3% 不慮の事故 3% 肺炎 8% 脳血管疾患 ( 脳卒中など ) 11% 脳心血管系疾患 25% 心疾患 ( 心筋梗塞など ) 14% 厚生労働省 平成 15 年度人口動態統計

山形医学 2012;30(1):15-22 肝膿瘍の 2 例 CT にて診断された肝膿瘍の 2 症例 1) 2) 2) 2) 1) 杉山恵一郎, 伊関憲, 林田昌子, 清野慶子, 阿部尚弘 2) 篠崎克洋 1) 山形大学医学部附属病院卒後研修センター 2) 山形大学医学部救急医学講座 抄録 肝膿瘍は

< VF / pulseless VT のシナリオ 1 > 想定急性心筋梗塞からの VF 目の前でVFになった場合 ほとんどが 1 回の除細動で戻る 状況設定外来待合室を通りかかったとき 60 代の男性が胸を押さえて目の前で倒れた 背景 ( 聞かれたら答える ): 糖尿病 高血圧で通院中 シナリオオ

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

Microsoft PowerPoint - 当日H3001標準化報告会用hiramitu.pptx

<4D F736F F D E C CD89F382EA82E982B182C682AA82A082E991BA8FBC90E690B6816A2E646F63>

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

<8C9F8DB85F3338E4508CB495612E786C73>

Clinical Training 2007

盗血症候群について ~鎖骨下動脈狭窄症,閉塞症~

埼玉医科大学電子シラバス

BMP7MS08_693.pdf

肺高血圧症の診断と治療 ~ サルコイドーシスに合併した 1 症例 ~ 鹿児島大学大学院心臓血管 高血圧内科学 窪田佳代子 2015 年 4 月 18 日 Reprint is prohibited. / 本資料の無断転載 複写を禁じます.-----

J Hospitalist Network Journal Club! DKAの輸液は生食と乳酸リンゲル液では どちらがいいのか! Fluid management in diabetic-acidosis! Ringer s lactate versus normal saline:! a ran

スライド 1

概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ

sarco2011_1027.indb

Transcription:

山形医学 2011;29(2):71-76 急性冠症候群の 1 剖検例 急性冠症候群と考える院外心停止の 1 剖検例 1) 2) 3) 西勝弘, 刑部光正, 伊関憲 1) 山形大学医学部附属病院卒後臨床研修センター 2) 山形大学医学部人体病理学講座 3) 山形大学医学部救急医学講座 ( 平成 23 年 4 月 21 日受理 ) 要 旨 44 歳 女性 乗用車を運転中に意識消失し 20 分後に救急隊が到着した際には心肺停止状態であった 心電図上は心室細動であり 心肺蘇生法や除細動等を施行しながら 当院救急部へ搬送された 救命処置を行うも反応なく 死亡が確認された autopsy imaging を施行したが 明らかな死因の特定に至らず 剖検を行った 冠動脈 3 枝のいずれにおいても粥状動脈硬化を認め さらに左前下行枝の中枢側には壁在性の新鮮血栓が確認された また左前下行枝の灌流域である心室中隔の前 2/3 の部分に一致して陳旧性心筋梗塞が確認された 一方 心筋線維の波状化や収縮帯壊死 好中球浸潤といった急性心筋梗塞の早期でみられる所見は捉えられなかった なお他臓器に死因につながるような明らかな所見は認められなかった 本症例は左前下行枝における血栓形成 灌流域に陳旧性心筋梗塞を認めたものの 明らかな新鮮梗塞巣は認められなかった 一般に急性心筋梗塞の形態学的変化は発症後 5 ~6 時間を経てようやく観察されるようになるため 本症例のような突然死において急性心筋梗塞の診断は困難である こうした症例の診断に際しては 急性冠症候群の概念に含まれる心臓性突然死が最も合致すると考えられた この疾患概念は 冠動脈病変に起因して発症したという より病態に即した意味合いを持っており 本症例のように急性心筋梗塞の形態学的変化を捉えきれない症例の集積に寄与する可能性がある キーワード : 急性冠症候群 突然死 心臓 病理解剖 緒言発症後短時間の経過で死亡し 死因を明らかとするための臨床経過や検査所見に乏しい突然死の症例では 剖検がその死因解明への有力な情報を提供することが多いとされる 一方 突 然死の原因疾患の1つである急性心筋梗塞は 発症後 6 時間以内の急性期では形態学的変化に乏しく 病理学的診断に苦慮する 今回我々は左前下行枝に壁在血栓を認めた突然死の剖検例を経験したので報告する 別刷請求先 : 西勝弘 ( 山形大学医学部眼科学教室 ) 990-9585 山形市飯田西 2-2-2 71

西, 刑部, 伊関 表 1 来院時検査所見 Hematology WBC 9210 / l RBC 441 10 4 / l Hb 8.1 g/dl Hct 29.6 % Plt 32.2 10 4 / l Blood Gas Analysis (O 2 10 /min mask ph 6.978 PaO 2 16.7 mmhg PaCO 2 71.7 mmhg HCO 3 16.4 mmol/l BE 15.2 mmol/l Biochemistry TP 6.9 g/dl Alb 3.7 g/dl T.Bil 0.4 mg/dl AST 27 IU/l ALT 24 IU/l LDH 238 IU/l ALP 205 IU/l CK 94 IU/l CK MB 3.9 IU/l BUN 12 mg/dl Crea 0.88 mg/dl Na 139 meq/l K 4.5 meq/l Cl 104 meq/l CRP < 0.10 mg/dl BS 302 mg/dl Trop I 0.31 ng/ml BNP 50.4 pg/ml TC 179 mg/dl TG 58 mg/dl HbA1c 5.8 % 症 例 であった 瞳孔径は両眼で5mmと散大し 対光反射は消失していた 患者 :44 才 女性主訴 : 心肺停止 来院後経過 : 両側前腕に静脈路を確保し酢酸加リンゲル液にて急速輸液を開始し 気管挿管を行った 3~5 分おきにエピネフリン1mg を静 既往歴 : 特記すべきことなし現病歴 : 某日 9 時 25 分 患者の運転する乗用車が自宅を出てすぐに蛇行運転となり 道路端の 注し 除細動 ( 二相性 150J) は計 3 回施行 さらにリドカイン アミオダロン 硫酸マグネシウムを使用したが Vf から無脈性電気活動 ビニルハウスに衝突した 9 時 37 分に同乗して (pulseless electrical activity) 心 静 止 いた家族が救急隊を要請し 9 時 46 分に救急隊が現場に到着した 呼吸停止 脈拍は触知不可であり 瞳孔は散大し 対光反射は消失していたため 直ちに救急隊によって心肺蘇生法が開始された 心電図波形上 心室細動 (ventricular fibrilation; 以下 Vf) であり 現場にて除細動 (asystole) となった 当院到着後 約 40 分間心肺蘇生法を行ったが10 時 55 分に死亡確認となった 確認後 家族に既往歴やこれまでの胸痛の有無を聴取したが明らかではなかった また 血液検査上 ( 表 1) でも死因を特定できる所見はなく autopsyimaging を施行した (150J) を3 回施行されたがVf が継続した 9 時 55 分現場を出発し 10 時 09 分車内で除細動 Autopsyimaging 所見 (150J) を1 回施行されたがVf は継続していた 10 時 13 分に当院救急部に到着した 来院時現症 : 意識レベルJCS300 GCS3 点 (E1 V1M1) 心停止状態であり 心電図波形上 Vf 頭部 CT では 大脳において皮髄境界の不明瞭化と浮腫を認め 低酸素脳症の所見を呈していた 頭蓋骨骨折はなく 脳出血 くも膜下出血 72

急性冠症候群の 1 剖検例 図 1 心臓の肉眼所見心臓に割を入れ ( 切片 A-D) 観察した 図 2 切片 D 心室中隔に陳旧性心筋梗塞巣 ( 矢頭 ) を認めた などは認められなかった 胸部 CT では 上行 弓部 下行大動脈いずれにも解離を疑わせる所見は認められなかった 両側肺門部から背側優位に一部浸潤影を含む濃度上昇を認めた 腹部 CT では 腹部大動脈に解離はなく 腹部諸臓器に特記すべき所見はなかった 骨盤部 CT では 子宮筋腫を認める他は 特記すべき所見を認めなかった 臨床経過 およびautopsyimaging においても死因を明らかにすることができなかった 44 才の突然死であり 心電図がVf であったことから 心原性突然死が強く疑われた 他に致死的疾患を有していた可能性もあり 死因特定のために剖検を施行した 剖検結果身長 167cm 体重 77kg BMI27.61 と肥満であった 腹壁の皮下脂肪は肥厚していた 心臓の外表には出血などの所見は認められなかった 図 1のように冠状断にて観察したところ 切片 Dの心室中隔に陳旧性心筋梗塞巣を認めた ( 図 2) 冠動脈は3 枝のいずれにも粥状硬化を認め うち左前下行枝には切片 Cのレベルでプラークを背景とした壁在性の新鮮血栓を認 めた ( 図 3) 左室壁において 組織学的には心筋線維の波状化や収縮帯壊死 好中球浸潤といった急性心筋梗塞早期でみられる所見はいずれの切片でも捉えられなかった また求心性左室肥大を呈していたが 組織学的には心筋線維の錯綜配列など肥大型心筋症を疑う所見は認めなかった 血管系では 左右腎動脈分岐部より尾側の腹部大動脈で高度の粥状動脈硬化を認めた 肝臓の表面は平滑で 割面は黄白色調であったが 組織学的には脂肪変性は約 5% 程度にとどまり 明らかな脂肪肝といえるほどではなかった 両肺ともに肺胞出血のために重量の増加 ( 左肺 ;730g 右肺;875g) を認めた これは胸骨圧迫やマスク換気といった心肺蘇生法の過程で生じた可能性が考えられた また 生前の糖尿病 あるいは耐糖能異常の有無は不明であったが 腎臓と膵臓に糖尿病を疑う所見は認めなかった なお 生前に指摘はなかったが 慢性リンパ性甲状腺炎を認めた 以上より 肥満による動脈硬化症を背景とし 左前下行枝におけるプラーク破綻 血栓形成を機序とした心筋虚血発作が原因で突然死をきたしたと考えられた 73

西, 刑部, 伊関 A B C D 図 3 左前下行枝のミクロ所見左前下行枝を階段切片 ( 切片 A-D) で観察した 各々の切片でプラークによる内腔狭窄を認め 切片 C においてプラークを背景とした壁在性の新鮮血栓を認めた 考察本症例は44 歳の女性が 心原性突然死を来した一例であった 剖検結果では冠動脈 3 枝のいずれにおいても粥状動脈硬化を認めた 特に左前下行枝の中枢側に壁在血栓が確認され 灌流域で急性の心筋虚血を呈したと考えられた 一般に急性心筋梗塞に伴う心室細動は再疎通を契機とした虚血再灌流障害によるものが多い 1) 本症例では搬送時には心室細動を呈しており 切片 Cの左前下行枝の壁在血栓は形態学的に完全閉塞ではなかったことから 再疎通による可能性も示唆された また左前下行枝の灌流域である心室中隔の前 2/3 の部分に陳旧性心筋梗塞が確認された 心筋梗塞の既往は突然死の危険因子であり 心肺停止時の救命は非常に困難であると報告されており 2),3) 陳旧性心筋梗塞を認めた本症例の生前の突然死リスクは高かったものと推定された 他臓器に死因となる明らかな所見は認められず 形態学的に新鮮な心筋梗塞巣は認められな かった しかし 心血管イベントのリスクである肥満による動脈硬化症が背景にあること 左前下行枝灌流域における陳旧性心筋梗塞巣の存在 剖検にて確認された新鮮壁在血栓の存在から 左前下行枝灌流域における心筋虚血が原因となり突然死を来したと推定された 一般に心筋梗塞巣は発症後 5~6 時間を経て形態学的変化を呈するため 発症早期の心筋梗塞は肉眼的 組織学的な診断は困難とされる 4) そこで本症例の死因について 急性心筋梗塞とするか 急性冠症候群とするかは意見の分かれるところである 急性冠症候群とは不安定狭心症や急性心筋梗塞 心臓性突然死の総称である 急性冠症候群の発症メカニズムはプラークの破綻と血栓形成であり 血栓が血管内腔を急激に狭窄または閉塞することにより生じる 5) また高度な冠動脈の狭窄が原因部位ではなく 軽度あるいは中等度狭窄が責任病変になっていることが多いとされる 6) 本症例では不安定狭心症を背景に心室細動を生じた可能性は否定できないことに加え 形態 74

急性冠症候群の 1 剖検例 学的所見が現れていない段階で急性心筋梗塞と診断すると 正確な診断ではない危険性が危惧された 急性心筋梗塞とするだけの形態学的変化を捉えていない本症例では より病態に即した疾患概念である心臓性突然死 ( 急性冠症候群 ) と診断するのが妥当であると考えられた この疾患概念は従来の 心臓性突然死 という表現とは異なり 冠動脈病変に起因して発症したという より病態に即した意味合いを持っている また梗塞としうるだけの形態学的変化を捉えきれない今回のような症例の集積にも 今後寄与していく可能性がある 参照文献 1.Kaneko H,AnzaiT,Naito K,Kohno T, Maekawa Y,TakahashiT,et al.:role of Ischemic Preconditioning and Inflammatory Response in the Development of Malignant VentricularArrhythmiasAfterReperfusedST- Elevation MyocardialInfarction.J Card Fail 2009;15:775-781 2. 笠岡俊志, 鶴田良介, 中島研, 副島由行, 定光大海, 立石彰男, 他 : 院外にて心停止を起こした急性心筋梗塞の検討. 日救急医会誌 1997;8: 201-208 3. 森田大, 西原功, 大野正博, 福本仁志, 冨士原彰 : 院外心肺停止で搬送されてきた急性心筋梗塞の臨床的特徴 : 蘇生に成功した症例からの検討. 日救急医会誌 1998;10:81-90 4. 東海林哲郎, 金子正光, 伊藤靖, 坂野晶司, 今泉均, 小林謙二, 他 : 成人内因性搬入時心肺停止症例における急性心筋梗塞の頻度とその超急性期突然死例の病態 : 剖検時冠動脈造影と病理組織 学的検討. 日救急医会誌 2003;14:158-162 5.FusterV,BadimonL,BadimonJ,Chesebro J:Thepathogenesisofcoronaryarterydisease andtheacutecoronarysyndromes(firstoftwo parts).n EnglJMed1992;326:242-250 6. 海北幸一, 小川久雄 : 急性冠症候群. 綜合臨牀 2008;57:211-215 75

YamagataMedJ2011;29(2):71-76 西, 刑部, 伊関 AnAutopsyCaseofAcuteCoronarySyndromein Out-of-HospitalCardiopulmonaryArrest KatsuhiroNishi 1),MitsumasaOsakabe 2),KenIseki 3) 1) PostgraduateClinicalTrainingCenter,YamagataUniversityHospital 2) DepartmentofHumanPathologyYamagataUniversity,FacultyofMedicine 3) DepartmentofEmergencyandCriticalCareMedicine YamagataUniversity,FacultyofMedicine ABSTRACT 44-year-oldwomancolapsedwhiledrivinganddevelopedcardiopulmonaryarrestbefore theemergencyteam arrived. Theelectrocardiogram showedventricularfibrilation. The woman was transported to Yamagata University Hospital. She did not respond to cardiopulmonaryresuscitationanddied. An autopsywasperformedbecausethecauseof deathcouldnotbedeterminedbyautopsyimaging. Thethreecoronaryarteriesshowed atherosclerosis;thecenteroftheleftanteriordescending(lad)arteryshowedfreshmural thrombosis. Whiletheanteriortwo-thirdoftheventricularseptum (perfusedbythelad artery)showed old myocardialinfarction (OMI),pathologicalfindings typicalofacute myocardialinfarction (AMI),i.e.,a wavy fiber patern,contraction band necrosis,and neutrophilinfiltration,werenotobserved. TheLAD showedmuralthrombosis,andtheventricularseptum (perfusedbythelad artery)showed OMI. However,fresh infarction regionswereunclear. Itisdificultto diagnosesuddendeathcasesasbeingcausedbyamibecausepathologicalfindingsforami areobservedonly5~6hoursafteritoccurs.insuchcases,thediagnosisissuddencardiac deathundertheconceptofacutecoronarysyndrome.thisconceptincludesamicausedby coronary artery disease and contributes to accumulating cases where the pathological findingsforamiareunclear. Keywords:acutecoronarysyndrome,suddendeath,heart,autopsy 76