本講義の範囲 都市防災工学 後半第 回 : 導入 確率過程の基礎 千葉大学大学院工学研究院都市環境システムコース岡野創 http://oko-lb.tu.chib-u.c.jp/oshibousi/. ランダム振動論 地震動を不規則波形 ( 確率過程 ) と捉えて, 構造物の地震応答を評価する理論. 震源モデルによる地震動評価 断層の動きを仮定して, 断層から発せられる地震動を評価する方法 ( 運動学的モデル ) 3. 確率論的地震動評価 ( 地震危険度解析 ) 地震発生と ( 地震が発生したときの ) 地震動予測の不確定性を考慮した地震動予測の基礎理論 参考書 ランダム振動. 耐震構造解析 6 章, 柴田明徳, 森北出版 *. Probbilistic Structurl Dics, Y K Li *** 3. 確率論手法による振動解析, 星谷勝, 鹿島出版会 ** 地震動 ( 震源モデル ). 地震の物理, 金森博雄, 岩波書店 ** 5. 地震動-その合成と波形処理-, 理論地震動研究会, 鹿島出版 会 ** 6. 地震学 定量的アプローチ, 安芸敬一, 古今書院 *** 地震危険度解析 7. 5. の5 章 の7 章 ( 結果のみ ) 数学公式集 8. 数学公式 Ⅰ, Ⅱ, 岩波書店 ( 講義中で引用 ) 講義の進め方 評価 難易度はやや難 高度な数学的知識を必要とするわけではないが, 易しくはない単なる式の誘導ではなく, 工学的な意味合が分かるように説明 ただし, 準備段階で長い式の誘導に耐える必要があることはある 講義の中で式の誘導は詳しく説明 適当な教科書がないので, 講義資料で完結させる 評価 出欠 (3%) とレポート (7%) 星は難易度 :* *** 易 難 3
講義予定. 導入 確率過程の基礎. 確率過程の周波数特性と入出力関係 3. 時間領域の定常 非定常ランダム応答. エネルギーバランス 5. 最大値分布 ( ピークファクター ) 6. 断層モデルと地震動のスペクトル特性 7. 地震動の特性を表す各種スペクトル間の相互関係 8. 確率的地震評価 ( 地震危険度解析 ) 調和振動の場合 調和外力に対する地震応答 ( 学部の 振動工学 の復習 ) c k : 地動に対する相対変位 両辺をで除して, : 地動加速度 h k h c h=.5 ipt 地動を調和地動と e とし, 8 ipt その解を Ce と置くと, p=ω では, p p h p h.5.5.5 3 6 h=. h=. h=. 導入 : 振動解析の手法を振り返る 5 地震応答の場合 () 地震応答解析は, 一般に ( 含非線形 ), 直接数値積分法により求める ステップの変位増分は, K P ここで, K K t C M t t P M M C t 速度, 加速度の増分は, t t t t t 以上の手続きを繰り返す 導入 : 振動解析の手法を振り返る 6 地震応答の場合 () 線形の場合に限れば フーリエ変換を用いて 以下のような手続きで地震応答を求めることができる まず 地動加速度をFFを用いてフーリエ変換する Y t e it 振動系の伝達関数を周波数領域で求めて 地動加速度のフーリエ振幅に乗じて 応答のフーリエ振幅を求める Y H Y FF を用いた逆フーリエ変換により 応答の時刻歴波形を求める Y H Y e it 導入 : 振動解析の手法を振り返る 7
( アンサンブル平均向ランダム振動論とは 地震動を不規則波形 ( 確率過程 ) と捉えて, 構造物の地震応答を評価する理論 調和振動の場合のように, 地震応答を数式で求めることができる場合がある ただし, 全ての問題がランダム振動論で解ける分けではない 確率過程とは 確率過程 (rdo processまたはstochstic process) とは 時間とともに変化する確率変数 ある時刻の状態 ( 変数 ) が確率的に記述される現象と言ってもよい 例 : ポアソン過程 単位時間の発生確率 λが一定 ( 定常到着 ) t 時間に 回発生する確率 : ポアソン分布 導入 : ランダム振動論の利点は? 8 確率過程が適用される分野 経済の動的変動は確率過程として扱われている ( 動学的確率的一般変更 Dic Stochstic Geerl quilibriu, DSG) 株価などの変動 9 地震動を確率過程 (rdo process) として扱う 各時刻 t の振幅 X(t) が確率分布として記述される時刻歴は確率過程とみなせる 乱数位相を用いて作成される模擬波は 確率過程の サンプルと見なすことができる 右図のようなサンプル波の確率密度関数が与えられているとする f ;t X f X ; t, ; t この確率過程の平均値 μ X は これを X t t t f td X ; サンプル方向の期待値 と呼ぶ (.) (.) (.3) 確率過程 Xのサンプル波の集合 ( アンサンブル ) 自己相関と相互相関関数 自己相関関数 t =t の場合 t, t t t t t f X ; t, ; t dd アンサンブル平均 φ t, t t 相互相関関数 X, Y t, t t t f X, Y ; t, ; t dd (t) 期 待値を 求(t) め る方) 確率過程 X( 入力 ) 確率過程 Y( 出力 )
定常確率過程 (sttior rdo process) 確率的な特性が原点に依存しない確率過程を 定常確率過程 (Sttior rdo process) と呼ぶ 定常確率過程 ( 以下 定常過程と略記 ) では 原点を任意の c だけ移動しても確率分布は変わらないので 次式が成り立つ f X ;t f X ; t, ; t 定常過程では 原点 t に依存しないので 自己相関関数は以下のように書くことができる t, t t t t t (.) (.5) (.6) 自己相関関数の性質 定常過程においては 以下に示すように自己相関関数は偶関数となる X t X t X t' X t' また 次の性質も成り立つ (.7) 上式が成り立つことは次のように証明できる X t X t X t t t X t 上式は常にゼロ以上であることから 判別式が負でなければならない 直感的には当然 定常過程の性質 隔たりの時間だけに依存する (.8) (.9) (.) 3 相互相関関数の性質 () 相互相関 t, t t t X, Y 定常過程では t t X, Y X,Y を入れ替えると t t t t X X, Y Y, X 定常過程の性質 (.) (.) 相互相関関数の性質 () 以下の期待値を考える t t t t t t XY XY YY YY この期待値は常に 以上であることから 判別式は負でならなければならない (.) この期待値は常に 以上となるので 判別式は負より XY XY ( ) ( ) YY YY, を考慮すると 右側の式のように書いても良い YY 式 (.5) は 例えば X が入力 Y が出力とすると 入出力の自己相関で基準化した相互相関の絶対値は より小さくなることを表している 定常過程の性質 (.3) (.5) 5
エルゴード過程 (ergodic process) 定常確率過程において アンサンブル確率密度関数と サンプル波形の時間的確率密度関数が同一となるものをエルゴード過程と呼ぶ アンサンブル平均を [ ] 時間軸方向の平均を < > で表すと 確率過程のエルゴード性は次のように表せる アンサンブル平均 = 時間平均 t t (.6) エルゴード性は 検証が難しいので多くの場合は単なる仮定であるが 便利なのでしばしば用いられる 具体例に確率過程の性質を調べてみよう 乱数位相を持つフーリエ級数 t ( ) cos t 確定 確定 一様乱数 f このフーリエ級数は確率変数を含んでいるので 確率過程である この確率過程の性質を調べてみよう 三角関数の加法定理より, 振幅の平均 ( 次モーメント ) は, t cost cos sit si cos cos d si 確率密度 si si d cos t 6 次モーメント f X d 7 自己相関関数 () t t cos t cos t 加法定理で展開すると t t cost cos sit si cos t cos si t si 下線部がアンサンブル平均の対象 の場合 ( 以下 しばらくアンサンブル平均のみ ) cos cos cos cos si si si si cos si cos si ψ と ψ は独立なので個別に期待値を取ってよい 8 自己相関 () = の場合 cos si si cos cos d ψ は ~π に一様に分布する 確率密度 cos si d t si d cos d si 9
自己相関 (3) 以上をまとめると = の同種の三角関数の積のみが残り t t cost cos t sit si t cos 加法定理 となり 時間差 τ のみの関数となり原点に依存しないことから 定常過程であることが分かる 時間軸方向の期待値を考えてみる エルゴード性を持つかどうか調べてみる 振幅の時間平均 t li cos ( t ) li si ( t ) に比例する項を含まない は時間平均を表す 時間軸で平均した自己相関 () t t li cos t cos t li の場合 cos t cos t si t si t cos t si t cos t cos cos t cos si t si si t si t に関する積分なので で囲った項のみ取り出す 時間軸で平均した自己相関 () = の場合 cos t cost sit cos t si t t si si t 以上より cos t t si t si si t cos t t li cos cos si si cos アンサンブル平均に等しい エルゴード過程 比例の項のみ残る 3
まとめ 今回の講義のキーワード ランダム振動論確率過程定常過程エルゴード過程自己相関相互相関 次回は確率過程の周波数特性について