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1 ムを知ることは, 治療介入時の注意点を知る上で重要である. つまり, 臓器の組織還流を維持するために腎での水と Na 保持作用は重要な代償機構である. 利尿薬投与によって体液量を減少させれば, 浮腫は減少するが, 同時に組織還流も減少するため, その程度によっては臓器障害をきたしうることをよく理

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

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第 19 回日本病態栄養学会年次学術集会 教育講演 7 BCAA の生理作用とその臨床応用 熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学 佐々木裕

BCAA(Branched Chain Amino Acid 分岐鎖アミノ酸 ) 必須アミノ酸の中で アミノ酸の炭素骨格が直鎖ではなく分岐しているもの ( バリン ロイシン イソロイシン ) 体内では合成できずに 蛋白質の摂取で獲得される 食物蛋白質に含まれる必須アミノ酸の約 50% を占める 筋肉を構成する必須アミノ酸の 35-40%( 筋肉 1kg あたり約 32gr) を占める 筋線維の原料 グリコーゲンや遊離脂肪酸が不足した時に エネルギー源となる ( イソロイシン バリン )

アミノ酸プール ( 遊離アミノ酸 ) 一定量のアミノ酸は蛋白質に組み込まれずに遊離型として存在する 体蛋白質合成の材料であり 食事蛋白質の消化吸収や体蛋白質の分解で供給される 遊離アミノ酸の中では グルタミン (37%) タウリン (33%) の量が多く BCAA は全体の約 1% と少ない BCAA を薬剤 サプリメントで摂取すると遊離 BCAA 濃度が急激に上昇し 生理作用を発揮する

BCAA の生理機能と病態への関与 I. 蛋白質代謝への関与 II. エネルギー代謝への関与 III. 糖代謝への関与 IV. 免疫系への関与

BCAA はアミノ酸センサーである mtor を介して蛋白質合成を促進する 促進 mtorc1 ロイシン イソロイシン mtor Raptor mtor: mammalian target of rapamycin 一種の蛋白質燐酸化酵素 eif4e: 翻訳開始因子 抑制 p70s6 キナーゼ リボソーム生合成 促進 eif4e mrna からの翻訳 オートファゴーム形成 翻訳の場 蛋白質合成 蛋白質分解

肝臓における BCAA の 蛋白質合成作用

血中に最も多く含まれる蛋白質 アミノ酸 585 残基 分子量約 66,500 単純蛋白質 分子内 17 対のジスルフィド (S-S) 結合 N 末端から 34 番目のシステイン (Cys) が唯一遊離のチオール (SH) 基 アルブミン 構造多様性 還元型 / 酸化型アルブミン 糖化アルブミン ニトロ化アルブミン 異性体 機能多様性 膠質浸透圧調節 物質輸送 * 酸化還元緩衝能 アミノ酸供給源 * : 脂肪酸 ビリルビン アミノ酸 ビタミン ホルモン カルシウム 金属イオン ( 銅, 亜鉛 ) 薬剤など

血清アルブミンは酸化ストレスによって構造が変わる 約 74% 酸化ストレス 約 24% 約 2% 還元型アルブミンがアルブミンの機能を発揮する

肝硬変患者に BCAA 製剤を投与することで 血中のアルブミン値は改善するとともに 還元型アルブミン値も上昇した アルブミンのリガンド結合能 ラジカル消去能も有意に改善した BCAA 製剤はアルブミンの量だけではなく 質の改善ももたらした

BCAA 製剤によるアルブミンの量と質の改善 肝硬変患者 BCAA 製剤 酸化型アルブミン比の増加 ( 還元型アルブミン量の減少 ) アルブミン合成促進 トリプトファン結合能低下 結合能低下 易疲労感 酸化ストレス増大 肝発癌? 体水分貯留浮腫 還元型アルブミン量の増加 改善

BCAA は蛋白質代謝 ( アンモニア代謝 ) を促進する

BCAA は骨格筋でアンモニア代謝を促進する Glu; グルタミン酸塩 GLN; グルタミン NH3 尿素尿 BCAA BCAA BCKA CO2 + H2O BCAT α-kg NH3 筋蛋白質 α-kg Glu GLN 骨格筋 Ala Pyr グルコース NH3 血中 NH3 腸内細菌 GLN BCAT: アミノ基転移酵素 正常肝 α-kg NH3 Glu NH3 GLN 腸細胞 (or 腎 )

肝性脳症の発生機序と BCAA 投与の意義 1. 高アンモニア血症 2. BCAA/AAA( フィッシャー ) 比の低下 アンモニア 尿素 サイクル 尿素 肝硬変 高アンモニア血症 分岐鎖アミノ酸 (BCAA) ( バリン, イソロイシン, ロイシン ) 芳香族アミノ酸 (AAA) メチオニン 門脈 門脈副血行路 アンモニアアミン低級脂肪酸 AAA 濃度 モノアミン代謝異常 偽神経伝達物質 窒素化合物 アンモニア, アミン産生 肝性脳症意識障害, 羽ばたき振戦, 痙攣, 筋緊張亢進, 異常行動等 BCAA: 骨格筋 脳で代謝 AAA: 肝臓で代謝

肝硬変患者への BCAA 投与のメリットとデメリット Glu; グルタミン酸塩 GLN; グルタミン BCAA 脳症 NH3 尿素尿 障害肝 BCAA BCAT BCKA CO2 + H2O α-kg NH3 筋蛋白質 α-kg Glu GLN 骨格筋 NH3 Ala Pyr 血中 NH3 腸内細菌 GLN α-kg NH3 Glu NH3 GLN 腸細胞

BCAA の生理機能と病態への関与 I. 蛋白質代謝への関与 II. エネルギー代謝への関与 III. 糖代謝への関与 IV. 免疫系への関与

BCAT: アミノ基転移酵素 BCKDH-C: 分岐鎖 αケト酸脱水素酵素複合体 αケトグルタル酸 (α-kg) グルタミン酸 (Glu) BCATm 分岐鎖 α ケト酸 (BCKA) CoA-SH CO2 ミトコンドリア 骨格筋 BCAA 代謝より見た肝臓 骨格筋相関 BCAA BCKDH CoA 化合物 (BCA-CoA) TCA 回路 BCAA BCATm BCKDH BCKA α-kg Glu CoA-SH CO2 BCA-CoA TCA 回路 肝臓 腸での吸収 蛋白質合成 糖代謝 エネルギー代謝 ミトコンドリア

アセチル CoA を介したエネルギー産生系 脂質 脂肪酸 + グリセロール 糖質 グルコース アセチル CoA アミノ酸蛋白質 クエン酸サイクル サクシニル CoA 2H ATP 産生 2CO2

PEM に BCAA 投与は有用である

PEM(Protein-Energy Malnutrition 蛋白質 エネルギー栄養不良 ) 臨床像 I. 肝硬変では60-90% の頻度 II. 蛋白質栄養不良として 血清アルブミン低下と筋肉量減少 ( サルコペニア ) III. エネルギー栄養不良として 炭水化物の燃焼比率の低下 脂質の燃焼比率の増加 その結果 非蛋白質呼吸商 (nprq) の低下 IV. 骨格筋へのBCAA 取り込み増強による血清 BCAA 値の低下 1 アンモニア解毒に使用 ( 肝での尿素回路での処理能低下による ) 2 エネルギー産生のために分解 ( 肝でのグリコーゲン減少によるグルコースからのエネルギー産生低下 ) V. PEMはQOLと生命予後に影響 治療介入 I. 日中の BCAA 骨格筋の運動エネルギー夜間の BCAA 蛋白質合成 II. BCAA とエネルギー源 ( 例 late evening snack) の同時投与の有用性蛋白質合成に必要なエネルギーが補完されるため BCAA からの蛋白質の合成が促進される

BCAA の生理機能と病態への関与 I. 蛋白質代謝への関与 II. エネルギー代謝への関与 III. 糖代謝への関与 IV. 免疫系への関与

BCAA の糖代謝への影響 mtor をインスリンシグナルを阻害する 肥満やインスリン抵抗性 (IR) の状況では BCAA の代謝が障害されて 血中 BCAA 濃度が上昇する 糖代謝にマイナスに働く 相反する結果 膵 β 細胞からのインスリン分泌を亢進させる 骨格筋への糖の取り込みを亢進させる 全身での糖の酸化 ( 分解 ) を増強する 肝硬変では BCAA により耐糖能が改善 糖代謝にプラスに働く

BCAA の生理機能と病態への関与 I. 蛋白質代謝への関与 II. 糖代謝への関与 III. エネルギー代謝 IV. 免疫系への関与

身体を守る 2 つの免疫機構 自然免疫 獲得免疫 反応の特異性 予想以上に 病原体 抗原特異的 特異的 反応の速さ 速い ゆっくり (First line defense) 免疫記憶 (-) (+) 生物界での分布無脊椎動物 ~ 脊椎動物脊椎動物

炎症性サイトカイン (TNFα IL-6) IFN γ 細胞障害活性 ( パーフォリン, グランザイム ) 貪食好中球 NK 細胞 IFN α, IL-12 細胞性免疫 細胞障害性 T 細胞 (CTL) 自然免疫と獲得免疫 IFN γ, IL-2, TNFα 病原体 TLR 核 共刺激分子 Th1 細胞 貪食 抗原提示細胞 マクロファージ 樹状細胞 MHC クラス II Naïve Th 細胞 (Th0 細胞 ) 抗原提示 ペプチド Th2 細胞 TLR:Toll-like receptor IFN: インターフェロン 自然免疫系 獲得免疫系 液性免疫 IL-4,5,10 B 細胞 抗体

BCAA 製剤と免疫 BCAA 製剤の一つであるバリンは 抗原提示細胞である樹状細胞を成熟化する (Kakazu, et al. Hepatology 2009) BCAA 製剤は好中球の貪食能を改善し 自然免疫系の NK 細胞を活性化する (Nakamura, et al. Hepatol Res 2007) BCAA 製剤が肝細胞内のインターフェロンシグナルを増強する (Honda, et al. Gastroenterology 2011)

栄養障害によるインターフェロンシグナル減弱を BCAA は改善する PEM; protein-energy malnutrition BCAT 活性 BCAA 栄養障害 (PEM) PEM による影響 BCAA の効果 フィッシャー比 (BCAA/AAA) Foxo3a mtorc1 インターフェロンシグナル Socs3

生理作用からみた BCAA の利点と弱点 利点 肝臓における蛋白質合成を促進する 骨格筋におけるアンモニアの解毒を促進する アミノ酸のインバランスを是正する 糖や脂質に代わってエネルギー源となる 糖代謝を是正する 免疫力を増強する 弱点 腸管や腎臓でのアンモニア産生を増強する BCAA 投与の要求度が高い状況 ( 代償性肝硬変 急性肝不全の回復期など ) での投与が重要 そのため フィッシャー比を調べ BCAA が不足しているかの確認が必要 腸や腎でのグルタミンの分解を防ぐ薬剤の併用

BCAA の長期効果

BCAA 製剤の長期投与により重篤な肝硬変合併症が抑制しえた Muto Y. et al. Clinical Gastroenterology and Hepatology 2005; 3:705-713 29

BCAA 製剤の肝硬変 肝発癌に及ぼす影響 BCAA 製剤の長期投与で 重篤な肝硬変の合併症 ( 肝不全 食道静脈瘤の破裂 肝発癌 ) が食事治療群に比べて有意に抑制された (Muto Y. et al. Clin Gastroenterol and Hepatol 2005) BCAA 製剤の長期投与で BMI25 以上の症例で肝発癌が食事治療群に比べて有意に抑制された (Muto Y. et al. Hepatol Res 2006) 食事カロリー 蛋白摂取には関係なく BCAA 製剤によるアルブミン増強効果は認められる (Yatsuhashi H, et al. Hepatol Res 2011)

まとめ BCAA の多岐にわたる生理作用を理解したうえで 適切な治療対象を選択し 病態の改善や QOL の向上を目指すことが重要である