許容応力度設計の基礎 圧縮材の設計 ( 座屈現象 ) 構造部材には 圧縮を受ける部材があります 柱はその代表格みたいなものです 柱以外にも トラス材やブレース材 ラチス材といったものがあります ブレースは筋交いともいい はりや柱の構面に斜め材として設けられています この部材は 主に地震などの水平力に抵抗します 一方 ラチス材は 細長い平鋼 ( 鉄の板 ) を組み合わせて はりや柱をつくることがありますが このとき せん断力を負担するために設けられる斜め材を指します いずれにしても 細長い部材で 引張力や圧縮力を負担します これらの部材に圧縮力が作用するとき 座屈という現象が起こりやすくなります 今日は この座屈について学びます 1
今日の授業の目的 座屈現象とは何か? 不安定現象 座屈荷重の求め方オイラーの座屈荷重式 座屈応力度と細長比そして設計では 座屈長さ支持条件が変わると座屈長さも変わる 今日の授業は 難しい内容を含みます そこで 何を学ぶのか また キーワードとなる用語は何か 最初に 見ておきましょう 最初に 座屈現象とはどのような現象を指すのでしょうか ここでのキーワードは 不安定現象です では その座屈荷重はどうやって求めるのでしょうか それは オイラーの座屈荷重式を用いて求めます 次ぎに 設計ではどうしているのでしょうか ここでは 座屈応力度や細長比について学びます 最後に オイラーの座屈荷重式は 実は両端ピン支持の部材について 求められた式です 支持条件が変わるとどうすれば良いのでしょうか それは 支持条件によって 座屈長さを変えることになります 座屈長さをどのように変えるのかを学ぶことになります 2
棒を引っ張れば 棒を引っ張れば棒は伸びる どんどん引っ張れば 棒は最後には引きちぎれて ( 破断して ) しまう 破断は 材料に発生している引張応力がその材料固有の限界応力 ( 破壊強度 ) に達したために生じたもの 破断するまでは 棒はじわじわ伸びているだけなので 安定した現象である 棒を圧縮する前に 棒を引っ張る場合を考えてみましょう 棒を引っ張ると最後に引きちぎれてしまいます 皆さんにとっては少し先になりますが この様子は 建築実験という科目において 実際に目で見ることができます 材料力学の世界では 応力度とひずみ度との間には常に比例関係が成り立っていますが 現実の世界では 非常に大きな力を受けると この関係は成り立たなくなってしまいます 最後は 引きちぎれてしまいます これを破断と呼んでいます 破断は 引張応力度がその材料固有の限界応力 ( 破壊強度 ) に達したために生じたものです 鋼材であれば 降伏点強度が破壊強度にあたります しかし 破断するまでは 棒は少しずつ伸びていく 安定した現象を示します 3
棒の両端を押すとどうなる? 棒の長さに比べて 棒の断面積が十分大きければ 棒は破断強度までじわじわ縮んで圧壊する しかし 棒の断面積がある値よりも小さければ 棒はいわゆる座屈を起こす 今度は 逆に棒の両端を押すとどうなるでしょうか ふと短い棒では 棒は破断強度までじわじわ縮んで 最後は圧壊します しかし 細長い棒を押すと 押している途中で 急に棒ははらみ出してしまうことがあります この現象を座屈と呼んでいます 4
座屈とはどんな現象? 座屈はある釣り合い状態 ( 変形モード ) からある釣り合い状態 ( 変形モード ) へ分岐する現象で 材料自体が破壊強度に達する前に 材料の構造が不安定になって崩壊してしまう現象である 座屈は ある釣り合い状態からある釣り合い状態へ分岐する現象です これは 材料の構造が不安定になって崩壊してしまう現象なので 不安定現象であると言えます 5
柱の座屈現象は? 圧縮の釣り合い状態 (A) から曲げの釣り合い状態 (B) に分岐する不安定現象 柱の座屈は 圧縮の釣り合い状態から 曲げの釣り合い状態に分岐する不安定現象です 6
はりでも座屈現象は起きる 曲げの釣り合い状態からねじれの釣り合い状態へ分岐する横座屈がある 座屈ははりでも生じます はりが曲げを受けているときに 面外 ( 横 ) 方向に急にはらみ出すことがあります この座屈は 曲げの釣り合い状態からねじれの釣り合い状態へ分岐する不安定現象です このはりの座屈を横座屈と呼んでいます 7
ブレースに生じる座屈現象 鳥取県西部地震で見られたブレース材の座屈現象 上の写真は 鳥取県西部地震で見られた座屈したブレース材です 8
柱の座屈荷重はどうやって求める オイラーの座屈荷重 P cr = p 2 EI l 2 座屈荷重の大きさは 柱の曲げ剛性と座屈長さで決まる それでは 座屈荷重はどうやって求めたら良いのでしょうか それには オイラーの座屈荷重を使用します オイラーの座屈荷重式をみると 座屈荷重は 部材の曲げ剛性 (EI/l) と座屈長さ (l) によって決まることがわかります 9
座屈応力度と細長比 座屈応力度 p 2 E p 2 E p 2 E scr= =(l/i) = l 2 2 /(I/A) k 2 λ: 柱の細長比 i: 断面 2 次半径 上式は 弾性範囲内で降伏点強度以下において成り立つ 設計する上では 応力度で表す方が都合が良いので 座屈荷重を柱の断面積で割って 応力度を求めてみましょう この応力度のことを座屈応力度と呼んでいます 座屈応力度の分母は 細長比と呼ばれる係数の二乗で表されることになります つまり 座屈荷重は細長比の二乗に反比例していることになります しかし 材料にはその材料の破壊強度と呼ばれる限界があります 鋼材では降伏点強度です 従って 上に示す座屈応力度は 弾性範囲内で 降伏点強度以下で成り立ちます 10
設計ではどうする? 設計では 座屈破壊を考慮して 細長比に応じて許容応力度を低減している 設計では 座屈破壊を考慮して 細長比に応じて許容応力度低減しています 11
座屈荷重は支持条件によっても変わってくる 最後に lのことを部材長さと呼ばずに座屈長さ (lk) と呼んでいました これには理由があって オイラーの座屈荷重は 実は柱の両端がピン支点のときの荷重なのです 従って 支持条件が違えば それに応じて座屈長さを変えてやらなければなりません 12
P 例題 一辺 600mm の正方形断面を持つ長さ 4m のコンクリート柱がある 両端部がピン支持の場合 座屈荷重はいくらか 4m P コンクリート柱の座屈荷重を求めてみましょう 13
解答 断面 2 次モーメントは I= 0.64 12 0.01(m4 ) コンクリートのヤング係数は E=20500(N/mm 2 )=20.5 10 6 (kn/m 2 ) 座屈荷重は Pcr= 3.14 2 20.5 10 6 0.01 126300(kN) 4 2 座屈荷重は 上の図に示すような値になります ここからは コンクリート柱の座屈について 考察してみます あまり難しく考えずに 気軽に読んでみてください 上記のコンクリート柱の座屈荷重は 非常に大きな値です なぜなら 14
鉄筋コンクリートの柱は座屈しない コンクリートの圧縮強度を F C =20(N/mm 2 )=20 10 3 (kn/m 2 ) とすれば 柱の圧縮耐力は P=20 10 3 0.6 0.6=7200(kN) であるから コンクリートの柱は通常座屈しない コンクリート柱の圧壊時の圧縮耐力と比較するとよくわかります ですから 通常 コンクリート柱は 座屈に対しては考えなくて良いのです 15
座屈するのは どのくらいの長さ? 鉄筋コンクリートの柱が座屈するのはどのくらいの長さだろうか 7200 3.142 21 10 6 0.01 = 2.07 106 l 2 l 2 l 2 287.5 l 17(m) では 柱の長さがどのくらいになれば コンクリート柱は座屈するのでしょうか 上に示す不等式を解くと 17m 以上になると コンクリートの柱は座屈する危険性が出てくることになります しかし 少し待ってください 鉄筋コンクリート構造はラーメン構造なので 座屈長さを半分に考えなければなりません 16
ちょっと待てよ 鉄筋コンクリート構造はラーメン構造なの P で 両端は剛接合 この場合 座屈長さは半分になる 7200 2.07 106 (0.5 l) 2 l 2 1150 0.5l l 34(m) そのことを考慮して計算すると 柱の長さが34m 以上になると座屈の危険性が出てくることになります だけど これで本当に良いのでしょうか 17
しかし 上階が水平移動する場 P 合は 座屈長さは l 17(m) なので 柱の径と長さを比較すると D 1 l 28 l 通常 鉄筋コンクリート柱の長さが柱の最小径よりも 15 倍以上大きくなると座屈に対する検討が必要 上階が 地震や大風を受けて 水平移動する可能性を考えると やはり座屈長さは 17m 以上になります 柱の径 ( 一辺の長さ ) と柱の長さを比較すると 柱の長さが柱径の30 倍になると 座屈の危険が生じることになります 実際の設計では 安全率を考えて 15 倍以上大きくなると 座屈に対して検討する必要が生じます 柱の長さが15 倍というのは 例題の一辺 60cmの柱であれば 9mの長さになりますが たとえば これは3 階分を吹き抜けにしたときの柱の長さに相当します 鋼構造の柱は ( 柱には限らないが ) できるだけ少ない断面で 効果的に曲げに対して抵抗できるように製作されています これは 鋼材の重量が重く また コンクリートに比べて高価なためです しかし コンクリートよりも信頼性が高いので 断面をできるだけ少なくして設計することが可能になります だけど 断面を少なく設計するということは別のリスクを背負い込むことにもなります それが 座屈に対する危険性なのです ですから 鋼構造の場合は 必ず座屈に対する検討や座屈に対して安全に設計するための構造制限 ( たとえば 幅厚比など ) が設けられているのです 18