消化管出血 肝疾患 内科谷口英明
消化管出血
上部消化管出血 上部消化管出血 非静脈瘤性上部消化管出血 静脈瘤性上部消化管出血 非静脈瘤性上部消化管出血の主因は出血性胃潰瘍と十二指腸潰瘍 ヘリコバクターピロリ菌に起因する潰瘍は減少 一方で, 超高齢社会を背景に アスピリンや NSAIDs などによる薬剤に起因する潰瘍が増加している.
NSAID 潰瘍 予防治療がされていないと胃潰瘍の発生頻度は 10 15% 十二指腸潰瘍の発生頻度は 3% 消化管出血の発生頻度は約 1% である 日本消化器病学会消化性潰瘍診療ガイドライン 2015 より抜粋
日本消化器病学会消化性潰瘍診療ガイドライン 2015 Clinical Question 抗凝固薬 抗血小板薬服用中の出血性潰瘍に対してどのように対応すべきか? 抗血小板薬を中止することによって血栓症イベントの発生リスクが高い症例では抗血小板薬を休薬しないことを推奨する ( エビデンスレベル A) 抗凝固薬を服用中の患者は服薬中止によって血栓症イベントの発生リスクが高くなるので ヘパリン置換や止血確認後早期に抗凝固薬服薬を再開することを提案する ( エビデンスレベル C)
下部消化管出血 原因として 大腸憩室出血 直腸潰瘍 炎症性腸疾患 感染性腸炎 虚血性腸炎などが挙げられる 最も頻度が高いのが 大腸憩室出血 次に頻度が高いのが虚血性腸炎とされる 低用量アスピリン NSAID は下部消化管出血においてもリスクファクター 今後 アスピリンや NSAID の使用者の増加に伴って 下部消化管出血も増加していくことが予想されている
虚血性大腸炎
消化管出血の初期対応 バイタルサインのチェック 出血性ショックの有無を判断する 血圧低下を伴わなくても 頻脈や皮膚冷汗など伴う場合 相当量の出血を疑う バイタルサインが不安定な場合 内視鏡の介入前に輸液により可能な限り安定化させる 血管確保 酸素投与 モニター装着クロスマッチ 血液型
ショック指数 (Shock Index:SI) ショック指数 = 心拍数 ( 分 )/ 収縮期血圧 (mmhg) 例えば脈 100 血圧 100 脈 120 血圧 80 脈 140 血圧 70
問診と診察 問診吐血の性状 ( 鮮血かコーヒー残渣様 ) 黒色便か暗赤色便か血便かどうか 付随症状 : 腹痛 発熱 下痢 悪心最終の食事からの経過時間潰瘍治療歴 手術歴 肝疾患 手術歴 心肺疾患内服薬 :NSAIDs 抗凝固薬 抗血小板薬 ステロイド 抗生剤 腹部症状腹膜刺激症状は? 直腸診 画像検査 血便 下血の区別出血部位の推定 ( 上部 or 下部 ) 内視鏡前に CT や Xp ( 出血部位の推定や 肝硬変の有無などを評価 )
内視鏡的止血術 1. 局注療法 1 2 高張食塩水エピネフリン局注法 純エタノール局注法 2. 機械的止血法 1 クリップ止血法 2 内視鏡的結紮術 (EBL):Mallory-Weiss 症候群 GAVE DAVE といった非静脈瘤性出血にも用いられることがある 3. 熱凝固療法 1 2 3 高周波止血鉗子 4. 薬物散布法 1 アルゴンプラズマ凝固法 ヒータープローブ法 トロンビン散布
出血性直腸潰瘍 造影剤の血管外漏出
胃静脈瘤破裂
胃静脈瘤破裂 B-RTO 後
大腸憩室出血
大腸憩室出血 ダイナミック CT 造影剤の血管外漏出
大腸憩室出血 血管造影 造影剤の血管外漏出
内視鏡的止血が無効であった場合の対応 内視鏡的止血法の進歩により多くの症例で内視鏡治療可能となったが 止血困難例も存在する 初期の段階で内科 外科 放射線科が連携して治療に取り組む
肝疾患
肝臓の働き さまざまな代謝作用を行う. 糖たんぱく脂肪ビリルビン 糖分の貯留と放出を調節アルブミン, 血液の凝固たんぱくなど合成アンモニアの代謝コレステロールの代謝, 脂肪酸の代謝壊れた赤血球からビリルビン合成 解毒や排泄 薬物の解毒, アルコールの代謝 細菌や異物, 毒素を処理する. ホルモンの代謝 加藤眞三編著肝臓病教室のすすめ CD-ROM より引用
血液検査 生化学検査 GOT(AST), GPT(ALT) γgpt アルブミン,PT, コリンエステラーゼ, 総コレステロール 免疫グロブリン (IgG, M, A) ビリルビン,ALP, γgpt アンモニア BTR, アミノ酸 PⅢP,Ⅳ 型コラーゲン, ラミニン ICG 15 血小板数 肝細胞のこわされ度飲酒のマーカー肝臓での合成能炎症の強さ胆道系, ビリルビン代謝代謝能, 脳症栄養状態線維化のマーカー色素の排泄能肝硬変の進展度 加藤眞三編著肝臓病教室のすすめ CD-ROM より引用
肝機能検査 AST(GOT), ALT(GPT) 肝細胞が傷つくと細胞内の GOT, GPT が漏れ出して, 血管内に移行する GOT, GPT( 特に GPT) は他の臓器にあまり含まれていないため, その血液中の高さは肝障害を反映. 細胞膜の障害程度を反映する. 加藤眞三編著肝臓病教室のすすめ CD-ROM より引用
ALT(GPT) の本当の正常値は? 当院の ALT(GPT) 上限値 5-45 IU/l ALT(GPT) の上限値 男性 29-33 IU/l 以下 女性 19-25 IU/l 以下 (Paul Y et al. ACG Practive Guideline:Evaluation of Abnormal Liver Chemistries. Am J Gastroenterol. 2017 Jan;112(1):18-35. ALT が男性で 30 IU/L 以上 女性で 20 IU/l 以上あれば 脂肪肝やアルコール性肝障害などの肝疾患がないか考える 本当の正常な肝機能 Data を目指しましょう
ALT(GPT) 値は健康指標の一つ! Kim WR et al. Hepatology. 2008 Apr;47(4):1363-70.
肝硬変症とは 肝硬変症とは 肝臓に線維が多くなり, 肝臓が硬くなって正常な機能を果たせなくなる状態 原因 C 型肝炎ウイルス B 型肝炎ウイルス アルコール 脂肪肝炎 自己免疫性肝炎, 原発性胆汁性肝硬変, 原発性硬化性肝硬変など 代償期 肝硬変であるが, その症状がない時期 非代償期黄疸, 腹水, 脳症などの症状がある時期 加藤眞三編著肝臓病教室のすすめ CD-ROM より引用
肝硬変症にみられる自覚症状 全身症状消化器 腹部症状その他 全身倦怠感, 疲れ易い, 集中力の低下, 発熱, 体重減少, 黄疸お腹の張り, 腹部膨満感, 肝臓部の圧迫感, 吐血, 下血, 食欲低下, むかつき, 便秘, 下痢褐色尿, 尿量の減少, 下腿浮腫, 皮膚のかゆみ, 不眠, 腰痛, こむら返り, 性欲の減退, 出血傾向, 月経異常, 乾燥症候群 ( 目や口など ) 加藤眞三編著肝臓病教室のすすめ CD-ROM より引用
肝硬変の重症度 肝硬変の重症度は, 肝臓の残された機能で見る. Child Pughの分類 1 点 2 点 3 点 血清ビリルビン 1-2 2-3 3 以上 血清アルブミン 3.5 以上 2.8 3.5 2.8 未満 腹水 なし 軽度 中等度 脳症 なし 1-2 3-4 プロトロンビン時間 % 80 以上 50-80 50 以下 A; 5-6 点,B; 7-9 点,C; 10-15 点 加藤眞三編著肝臓病教室のすすめ CD-ROM より引用
肝性脳症 ( 肝性昏睡 ) とは 肝性脳症 ( 肝性昏睡 ) とは 肝臓の機能が低下して, 有害物質が除去できなくなり精神神経症状をきたした状態 症状とその程度 睡眠障害, 多幸感, 判断力低下 眠りがち, 羽ばたき振戦, 時間や場所がわからない. ほとんど眠る, 意識障害, 暴れたりする. 意識消失, 昏睡 加藤眞三編著肝臓病教室のすすめ CD-ROM より引用
肝性脳症の昏睡度分類 加藤章信ら 日消誌 2007;104:344 351 より引用
肝性脳症の誘因と治療 誘因 便秘 利尿剤の過剰投与による脱水 電解質異常 鎮静剤の投与 出血 治療 便通の改善, 低蛋白食, 出血対策 合成 2 糖類, 抗生物質 ( リファキシミン ) 分岐鎖アミノ酸の点滴 内服
NAFLD/NASH (NAFLD: 非アルコール性脂肪性肝疾患 ) (NASH: 非アルコール性脂肪性肝炎 ) NAFLD の有病率は我が国を含め世界的に増加傾向 ( 肥満人口および平均 BMI の増加 ) 日本人の脂肪肝の有病率は 30% と言われる 日本人の 3% くらいが NASH である可能性ある 肝細胞癌に占める NAFLD/NASH を誘因とする肝細胞癌の割合については 欧米では 10~24% であるが日本では 2~5% とされる 日本においても NAFLD/NASH からの肝細胞癌の発症が増加していると考えられる
肝細胞癌の背景因子の推移 C 型肝炎の割合が減少している 非 B 非 C 型肝癌が増えている NASH や肥満 糖尿病を背景とする肝細胞癌が増えている Tateishi R et al. J Gastroenterol 2015; 50: 350-360 より引用
C 型慢性肝炎 HCV キャリア数 : 日本 150-200 万人 米国 270 万人 世界 1 億 7 千万人 日本の慢性肝疾患 ( 慢性肝炎 肝硬変 肝細胞癌 ) の 7 割が HCV による 自覚症状 : 慢性肝炎 代償期肝硬変は通常無症状である 非代償期肝硬変では黄疸 腹水 浮腫 肝性脳症 出血傾向などを認める 肝硬変に進展すると肝細胞癌を合併する頻度が高くなり 年間 5~8% で肝発癌が認められる ( 男性が女性より高率 )
C 型肝炎治療直接作用型抗ウイルス薬 (DAA) 2014 年 11 月以降 インターフェロンフリー治療の直接型抗ウイルス薬 (DAA) の進歩により C 型慢性肝炎 肝硬変患者の治療は飛躍的に進歩した 副作用は少ない 外来で治療できる 非代償性肝硬変までは治療可能 ほぼ全例で C 型肝炎ウイルス排除可能となった
B 型肝炎 B 型肝炎ウイルスは世界の人口の約 1/3 に当たる 20 億人に感染の既往があり 毎年 50 万人以上が B 型肝炎に関連した肝疾患でなくなっている 我が国では 1986 年に開始された母子感染防止事業に基づく出生児にたいするワクチンおよび免疫グロブリン投与により若年者における HBs 抗原陽性率は著しく減少した 一方で 性交渉に伴う水平感染による B 型急性肝炎の患者数は減少せず 近年では肝炎が遷延し慢性化しやすいゲノタイプ A の HBV 感染が増加傾向にある 平成 28 年 10 月 1 日から B 型肝炎ワクチンが定期接種が行われるようになった ( 対象は平成 28 年 4 月 1 日以降に生まれた 0 歳児から )
B 型慢性肝炎 肝硬変の治療 < 治療目標 > 肝炎の活動性 肝線維化進展の抑制による慢性肝不全の回避ならびに肝細胞癌発生の抑止 HBV 持続感染者における治療対象 肝硬変では HBV DNA が陽性であれば HBe 抗原 ALT 値 HBV DNA 量にかかわらず治療対象とする (B 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ) より引用 )
術前検査 入院時検査で HBs 抗原 HCV 抗体が陽性だったら 検査結果を伝える必要があります ご自身が B 型肝炎や C 型肝炎に罹っていることを知らない患者様もいらっしゃいます 検査結果を伝えないで 適切な検査を受けられない場合 患者にとって不利益となるためです HBs 抗原 (+) または HCV 抗体 (+) であれば 適切な評価がなされていない場合 消化器センターに御紹介ください
免疫抑制 化学療法による B 型肝炎の 再活性化の問題 HBV の持続感染者は ウイルス量が少なく非活動性キャリアの状態であっても 免疫抑制剤や化学療法によって 再活性化することがある HBV 既往感染者は 臨床的には治癒の状態と考えられてきたたが 強力な免疫抑制 化学療法によって再活性化することがある
どのような薬が対象となるの 免疫抑制剤 アザチオプリン シクロスポリン タクロリムス ミゾリビンなど多数 抗悪性腫瘍剤 テガフール ギメラシル オテラシルカリウム配合剤 (S-1) エベロリウム リツキシマブ ベンダムスチン塩酸塩など多数 副腎皮質ステロイド デキサメタゾン プレドニゾロン ベタメタゾン メチルプレドニゾロンなど多数 抗リウマチ薬 アダリムマブ インフリキシマブ エタネルセプト メトトレキセート トリシズマブなど多数
B 型肝炎の持続感染もしくは既往感染の確認 HBs 抗原 HBs 抗体 HBc 抗体の 3 種類を調べる HBs 抗原 + - - - HBs 抗体 - + - + HBc 抗体 + + + - B 型肝炎ウイルスの持続感染の状態 主に B 型肝炎ウイルスの既往感染の状態
B 型肝炎の再活性化を予防するために 化学療法や免疫抑制療法を行う場合 治療開始前に HBs 抗原だけではなく HBs 抗体と HBc 抗体を両方調べる B 型肝炎の既往感染の有無についても調べる HBs 抗体 HBc 抗体いずれかが陽性であれば 化学療法の前に HBV DNA が陰性であることを確認する必要がある その後も定期的 (1-3 ヶ月毎 ) に HBVDNA を測定して再活性化のないことを確認する
B 型肝炎再活性化のリスク HBV キャリア HBV 既往感染 楠本茂ら日消誌 2010:107:1441-1449 より引用
免疫抑制 化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン HBV キャリア 日本肝臓学会編 B 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ) より引用
免疫抑制 化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン 日本肝臓学会編 B 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ) より引用 HBV 既往感染