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月刊国際税務 Vol.30 No.9 平成 22 年 9 月 5 日発行 アジアにおけるサプライチェーンの再構築 西田宏之 アーンスト アンド ヤングタイ事務所 Anthony Loh Contents 1. はじめに 2. サプライチェーン マネジメントと国際税務戦略 3. プリンシパルストラクチャーの概要 (1) 製造の集約 (2) の集約 4. プリンシパルストラクチャーへの移行と税務上の留意点 (1) プリンシパルに対する優遇税制の適用要件 (2) 付加価値税 (VAT) と恒久的施設 (PE) (3) 関税 5. 税制面以外の主な留意点 (1) 法規制の問題 (2) 外為規制 (3) 人的資源の移動及びマネジメントの関与 1. はじめに 製品 サービスの提供のために企業が行う様々な活動の一連のプロセス たとえば研究開発 製品の原材料の調達 製造 マーケティング 配送 ( アフターサービスを含む ) を サプライチェーンといいます サプライチェーンの最適化を行うことを 一般にサプライチェーン マネジメントといい これには 事業上の理由により行われる 適地生産 余剰在庫の排除 リードタイムの短縮 管理コストの削減等があげられます これまで サプライチェーン マネジメントは欧米 ( あるいは日本 ) 企業がヨーロッパやアメリカを対象として行っていましたが 近年では アジア市場の急激な拡大を受けて アジアを対象としたサプライチェーン マネジメントが増加しています ただし 税制の枠組や法規制が整備されているヨーロッパやアメリカに比べて アジアではサプライチェーン マネジメントを行う余地 / メリットが大きい一方で 潜在的なデメリットにも気をつけなければなりません 6. 日本の税務リスク 7. まとめ

2. サプライチェーン マネジメントと国際税務戦略 サプライチェーン マネジメントと国際税務戦略には密接なつながりがあります グローバルに事業を展開している多国籍企業のサプライチェーンは 複数の国の複数の関係会社を通じて行われているのが通常であり 関係会社間の製品やサービスの取引価格は 移転価格税制の理論により サプライチェーンに関与する各社それぞれのやリスクに応じて決定されます したがって 多くの及びリスクを有する会社に より多くの利益が配分されることになります そのため 高い及びリスクを低税率国に所在する関係会社に集約することが可能であれば 一連のサプライチェーンにより稼得した利益を 高税率国に所在している関係会社には少なく 低税率国に所在している関係会社には多く配分でき 結果として 連結ベースの実効税率が低減されます このように サプライチェーン マネジメントでは 企業の事業活動最適化に 連結実効税率低減を加味するのが一般的です 以下では アジアにおける TESCM としてシンガポールを物流 管理の拠点 中国 タイを製造の拠点とするケースとそれに対応する税務上の留意点を解説します ( 図 1) サプライチェーン マネジメントと国際税務戦略の一例 < 高税率国で課税されるような取引価格 > 総利益 400 税金 107 実効税率 27% < 低税率国で課税されるような取引価格 > 総利益 400 税金 85 実効税率 21% 利益 100 法人税 10 税率 10% 最終的にはそれぞれの国で 250 でに リスクを移転 利益 200 法人税 20 税率 10% 最終的にはそれぞれの国で 250 でに ( 低税率国 ) ( 低税率国 ) 完成品 ( 原価 50) をそれぞれ 100 で ( 合計利益 100 =200-100) 利益 150 法人税 52 税率 35% 利益 150 法人税 45 税率 35% 完成品 ( 原価 50) をそれぞれ 150 で ( 合計利益 200 =300-100) 利益 100 法人税 35 税率 35% 利益 100 法人税 30 税率 30% ( 図 2) TESCM の考え方 企業の事業活動最適化の観点からのサプライチェーン マネジメント 実行可能なサプライチェーン マネジメント 連結実効税率最適化の観点からのサプライチェーン マネジメント 2

3. プリンシパルストラクチャーの概要 サプライチェーン モデルの 1 つに プリンシパルストラクチャー があります プリンシパルは 特定の地域ごと ( 例 : 米州 欧州 アジアごと ) における 製造 ( 原材料の調達を含む ) や ( マーケティングを含む ) を統括 / 管理する会社です TESCM においては サプライチェーンの各とリスクを以下のようにプリンシパルに集約させ プリンシパルが効率的な運営や管理をすることで 納期短縮や不必要な製造 / コストの削減 さらに 連結実効税率の低減が達成されます (1) 製造の集約 プリンシパルは 製品製造に必要な原材料等を調達し これを関係会社または第三者 ( 受託製造会社 ) に無償で提供して 受託製造会社には加工賃のみを支払います プリンシパルは 原材料及び製造中の製品の在庫リスクを負い さらに特許権や製造ノウハウ等を受託製造会社へ提供します 受託製造会社はプリンシパルの指示管理に従い製品を製造するのみで 受託製造会社の製造及びリスクは制限されます (2) の集約 プリンシパルは 受託製造会社から完成品を引き取り 世界中のにしますが その際に に関する ( ノウハウ等 ) を できるだけプリンシパルに集約させる一方で プリンシパルとの契約により 各会社はに関するリスク ( 在庫リスク 売掛金回収リスク プロダクトライアビリティーに関するリスク等 ) を原則として負いません (1) (2) により プリンシパルは サプライチェーンにおける重要な無形資産と高いを有し 大きなリスクを負担します そのため 設置国には 信頼できる情報 / 物流インフラストラクチャー 法律 安定した政治体制 スキルの高い労働者の確保といった条件があることから アジアにおけるプリンシパルの本拠地としては 世界水準のインフラとロジスティクスに優れているシンガポールが選択される傾向にあるようです 加えて シンガポールは中国の 25% タイの 30% と比較して法定税率が 17% と低く さらに 課税当局との交渉により 状況によっては 10% 以下の軽減税率の適用が受けられる点でも魅力的です 3

4. プリンシパルストラクチャーへの移行と税務上の留意点 プリンシパルストラクチャーへの移行に際しては どのような問題点が考えられるのでしょうか 図 3 のように 中国 タイの製造会社やアジアにある会社からシンガポールのプリンシパルへ重要な製造 及びリスクを移転するケースを検討してみます プリンシパルへの及びリスクの移転について 中国やタイの現地課税当局から 無形資産 ( たとえば 製造ノウハウ リスト 関係を含むマーケティング関連の無形資産 ) の譲渡益の認定課税が行われる可能性があります さらに サプライチェーンの変更後におけるプリンシパルと現地製造 会社との間の新しい移転価格について 改めて独立企業間価格であるかどうかがレビューされます ( 図 3) 中国 / タイからシンガポールへの リスク 無形資産の移転 < 製造 + 会社の場合 > < 製造委託契約 + リスク / を制限したアジア販社 > 原材料の輸送 日本親会社 ( 製造 ) 製造会社 ( 中国 タイ ) 調達 完成品の輸送 会社 ( アジア各国 ) ( ) 商品の輸送 製造 について重要なを移転 調達 日本親会社 原材料の輸送 製造委託契約 製造受託者 ( 中国 タイ ) 完成品の輸送 ( ) 統括事業会社製造委託者 ( シンガポール ) ( 製造 ) リスク / を制限したアジア販社 商品の輸送 原材料サプライヤー 原材料サプライヤー 物理的な原材料及び完成品の流れ 原材料及び完成品のインボイスの流れ 4

その他 アジアでの TESCM を検討する際には 税務上 以下の点に留意する必要があります (1) プリンシパルに対する優遇税制の適用要件 プリンシパルに対して税制上の優遇を与えるのは 外国投資を通じた自国の産業活性化のためです そのため 優遇税制の適用要件は 最低資本金 最低年間業務支出 一定水準の報酬が支払われる専門家の新規雇用者数 プリンシパルの拠点へ ( から ) の物品の輸送に関連する 現地での空港 海港活用の最低限の増加等が一般的であり かつ これらの要件が 優遇措置の適用を受ける前 に満たされていることが重要です (2) 付加価値税 (VAT) と恒久的施設 (PE) プリンシパルストラクチャーでは 製品の原材料等はシンガポールのプリンシパルが購入しますが 原材料等が中国 タイの現地サプライヤーから中国 タイの現地製造会社に直接発送される場合 購入された原材料に対し プリンシパルに VAT が課されます プリンシパルが中国 タイで VAT 事業者として登録されていない場合は 課された VAT は還付されないため プリンシパルのコストとなります さらに 例えばタイの現地製造会社によって製造された製品が 同じタイのに対してされる際 プリンシパルはタイの現地製造業会社から現地に商品を納入させます この場合も プリンシパルは現地国で VAT 事業者として登録する必要があります ここで留意すべきことは VAT 登録をすることが 国によっては プリンシパルが現地国において法人税法上の恒久的施設 (PE) を有すると見なされる可能性がある点です 現地国において PE 認定された場合 プリンシパルの現地国における事業活動に起因する利益について 現地国で法人税課税されますので 課税当局に対して事前確認 ( 説明 ) をする あるいは別途プランニングすることで PE 認定されないようにする必要があります (3) 関税 利益に対して課される税金以外に 取引価格そのものについて課される関税コストについても考慮する必要があります 関税は 国内産業の保護を目的として または税源確保のために 輸入貨物に対して課される税金であり 貨物が国境を通過する際に関税が課せられることで 結果として製品コストを押し上げることとなります 特に 関税は一定の国同士で特恵関税率を設けている場合もあるため サプライチェーン モデルの再構築により最終への請求方法が変更する結果 特恵関税率の適用資格を失い関税費用が増加する可能性があります 5. 税制面以外の主な留意点 (1) 法規制の問題 外国企業による事業運営には現地で許可等が必要となる場合があります たとえば 通常の製造業者から受託製造会社への転換といった現地製造会社の事業内容の変更に際して 管轄当局の事前承認が必要となる場合や プリンシパルが現地国で事業を営む企業とみなされて プリンシパルが営業許可を取得しなければならない場合もあります (2) 外為規制 現地企業が海外へ送金を行うにあたり 国によっては 厳格な外為規則が課される場合があります たとえば プリンシパルが 中国の受託製造会社から中国の現地に物品を直送させる場合 中国では そもそも輸入書類が無いとして からプリンシパルに売買代金を送金できない可能性があります (3) 人的資源の移動及びマネジメントの関与 サプライチェーン モデルの変更により プリンシパルへの ( 実質的な ) 集約のために親会社や現地製造 会社から幹部スタッフが実際に移動しなければならない場合があります また 現地マネジメントからの継続的なサポートも引き続き必要となります 5

6. 日本の税務リスク TESCM の場合 日本親会社においては タックスヘイブン税制の適用可否を中心に課税関係を検討することとなります 特に 海外子会社であるプリンシパルがタックスヘイブン課税により合算課税の適用を受ける場合には 適用税率が日本の法定税率である 40% まで上昇してしまうため 税務上のメリットは生じません 日本のタックスヘイブン税制は 原則として実効税率が 20% 以下かどうかにより判定されますが 20% 以下であっても 会社が低税率国で事業を行う実態を有していると認められる場合には 適用除外規定の適用が受けられる可能性があります そのため プリンシパルを法定実効税率が 20% 超である国に配置するか または 法定実効税率が 20% 以下の場合には 適用除外要件を満たすような事業形態を構築する必要があります 図 3 のように プリンシパルがシンガポールにあり 製造 ( 製造委託契約 ) とを併せ持つ場合は 製造業あるいは卸売業のどちらかと判断されます なお そのいずれであっても 以下のように 適用除外要件を満たさずに合算税制の適用を受ける可能性がある点にも留意する必要があります プリンシパルの主たる事業が製造業と判定される場合 実際の製造活動はその所在地国 ( シンガポール ) ではなく 現地製造会社の所在地国 ( 中国 タイ ) の工場で行っており プリンシパルのシンガポールでの事業実態が乏しいとして 適用除外要件を満たさない可能性があります プリンシパルの主たる事業が卸売業と判定される場合 実際の卸売先 / 元が自己の関連者 ( 日本親会社 / アジア販社 ) だけのような場合には 同様にシンガポールで卸売業を行う理由が乏しいとして 適用除外要件を満たさない可能性があります ( 脚注 ) ( 脚注 ) ただし 平成 22 年度税制改正において タックスヘイブン税制の適用除外要件が 企業の事業統治自体に その地で事業活動を行う十分な経済的合理性を認める点で緩和されました つまり プリンシパルが 2 以上の子会社を有し 十分な実態を持って当該子会社群 ( 例 : 子会社 ) の事業を統括しているような場合には 卸売業と判断された際に プリンシパルが自己の子会社である会社と主として取引を行っていても タックスヘイブン税制が適用されない可能性があります ( 図 4) タックスヘイブン税制による合算課税の適用有無 実効税率による判定 適用除外要件による判定 ( プリンシパルの主要な事業に基づき判定 ) タックスヘイブン税制による合算課税 20% 超の場合 製造業の場合 プリンシパルの 製造実態 で判断 十分な製造実態不十分な製造実態 実効税率あるいは適用除外要件を満たすことで合算課税無し 20% 以下の場合 卸売業の場合 関連者との取引量 で判断 第三者取引中心 ( ) 関連者取引中心 適用除外要件を満たさず合算課税 関連者取引については 売上や仕入の いずれか が第三者取引が中心である場合または プリンシパルが統括持株会社として 日本の税務上の一定の要件を満たす場合は適用除外要件を満たす可能性有り 6

7. まとめ アジア市場の発展により アジアにおけるサプライチェーン マネジメントは今後の必須の検討事項と言えます また 平成 21 年度税制改正により 日本で外国子会社配当益金不算入制度が導入され 現地国での税務プランニングが連結実効税率に直接影響を与える点も 日本企業の TESCM を後押しすると考えられます 最後に サプライチェーンの再構築に際しては 日本企業の関連事業部及び日本 アジアの税務専門家が共同で下記の事項について検討することを推奨致します 新しいビジネスモデルはどのようなものか 潜在的な障害や税務リスクがあるか そのような障害を克服する解決策や代替的な選択肢 リソースはあるか 再構築をサポートする根拠資料を作成できるか Contact インターナショナルアンドトランザクションタックスサービス部 西田宏之 シニアマネージャー hiroyuki.nishida@jp.ey.com Ernst & Young アーンスト アンド ヤングについて アーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクションおよびアドバイザリーサービスの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり サービスは提供していません 詳しくは www.ey.com にて紹介しています について は 長年にわたり培ってきた経験と国際ネットワークを駆使し 常にクライアントと協力して質の高いグローバルなサービスを提供しております 企業のニーズに即応すべく 国際税務 M&A 組織再編や移転価格などをはじめ 税務アドバイザリー 税務コンプライアンスの専門家集団として質の高いサービスを提供しております 詳しくは www.eytax.jp にて紹介しています 2010 Ernst & Young Shinnihon Tax All Rights Reserved. EYTAX SCORE CC20101005-1 本記事全般に関するご質問 ご意見等がございましたら 下記までお問い合わせ下さい コーポレート コミュニケーション部 Tax.Marketing@jp.ey.com 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません