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熱対流現象 山中透 2005 年 3 月 概要 流体を熱源に接触させ, 流体に温度傾度を与えたときを考える. 流体の温度傾度が小さいときは, 熱拡散のみが起こるが, 流体の温度傾度が閾値を越えると, 熱拡散だけでは温度傾度を解消できなくなって不安定となり, 対流が生じる. これをベナール対流とよぶ. ここでは, ベナール対流を記述する非線型方程式の線型安定性の解析によって, 流体が不安定化する条件を求め, 熱対流が起こる原理を考える. さらに, いくつかの系に対して非線型方程式を数値計算して, ベナール対流の性質を流れと温度分布の面から研究する. 1 基礎方程式 ベナール対流を表す基礎方程式は, 次の 3 つである. u t +(u ) u = 1 p + ν 2 u gα (T T r ) ρ r (1.1) T t +(u ) T = κ 2 T (1.2) u =0 (1.3) ここで,ν は動粘性係数,κ は熱拡散係数である. (1.1) において, 密度に関するブシネスク近似を用いている. ブシネスク近似では, 流体を非圧縮性流体とし, 流体中の圧力の変化は小さく, それによって密度は変化しないと仮定する. そのため, 密度は主に温度差によって変化することになる. 基準温度 T r からのずれを T 0 (T = T r + T 0 ) とすると, 基準密度 ρ r からのずれ ρ 0 (ρ = ρ r + ρ 0 ) は, ρ 0 = µ ρ T 0 = ρ r α (T T r ) (1.4) T r ここで,α は体膨張係数である. 密度変化による浮力の作用で流動が発生すると圧力 p は, 基準圧力 p r から p 0 ずれる. ここで, 基準を力学的平衡状態にすると, 基準圧力 p r は, 次式で書ける. p r = ρ r (g i x j ) δ ij + 一定 (1.5) これらを重力の効果を含む Navie - Stokes の方程式 u t +(u ) u = 1 ρ p + ν 2 u + g (1.6) に代入し,2 次以上の微小量を無視すると (1.1) が得られる. ただし,(1.1) における圧力 p は, ここでの基準圧力からのずれ p 0 を意味する. 1

2 基礎方程式の無次元化 図 2.1 のようなベナール対流を考える.x 軸,y 軸は水平面内に,z 軸は鉛直方向にとってある.z =0の下面を温度 T 0 の熱源に,z = h の上面を温度 T 1 の熱源に接触させる. 下面の熱源の方が高温である. 図 2.1 ベナール対流の模式図 (T 0 >T 1 ) 基準温度 T r の温度勾配を次のように決める. T r = T 0 T 0 T 1 z = T 0 βz (2.1) h 次に, 表 2.1 を参考に下記のような無次元化を導入する. x = hx 0, y = hy 0, z = hz 0 t = h2 ν t0 u = κ h u0 T = βht 0 + T r p = ρ rκ 2 h 2 p0 Pr = ν κ R = gαβ κν h4 m s kg K g 1-2 h 1 κ 2-1 ν 2-1 ρ -3 1 T 1 β -1 1 α -1 t 1 p -1 2 1 表 2.1 次元対応表 ここで,Pr はプラントル数,R はレイリー数と呼ばれる. (1.1), (1.2), (1.3) を無次元化すると次のようになる. 0 はすべて省略してある. u t + 1 1 (u ) u = Pr Pr p + 2 u + RT k (2.2) Pr T t +(u ) T u 3 = 2 T (2.3) u =0 (2.4) ただし,k =(0, 0, 1). また, 温度, 圧力に対応する無次元数 T,p はいずれも基準状態からのずれである. よって, 高温接触面 (y =0), 低温接触面 (y =1) においては, 常に T =0である. 2

3 線型安定性解析 u =0,p =0,T =0の定常状態から微小変化したときの z 方向の線型安定性を考える. この定常状態は, 熱対流を考えずに長時間放置した力学的平衡状態だと思ってよい. 微小変化を明示するために,u δu,p δp =(0, 0, δp),t δt として,(2.2), (2.3), (2.4) に代入する.(2.2) と (2.3) の左辺の第 2 項は 2 次の微小量なので無視できる. µ t 2 δu = 1 δp + RδTk (3.1) Pr µpr t 2 δt = δu 3 (3.2) δu =0 (3.3) (3.1) に, を作用させ, さらに z について偏微分すると, 2 (δp) z = PrR 2 (δt ) z 2 (3.4) (3.1) に 2 を作用させ,(3.4) を用いると, µ µ 2 2 t 2 δu 3 = R x 2 + 2 δt (3.5) y 2 次の微小波が伝わったときの安定性を考える. δu 3 = eu(z) e i(k 1x+k 2 y) e ωt (3.6) δt = e T (z) e i(k 1x+k 2 y) e ωt (3.7) (3.6), (3.7) を (3.2), (3.5) に代入して整理すると, µ µ d 2 d 2 dz 2 k2 dz 2 k2 ω eu(z) =Rk 2 T e (z) (3.8) µ d 2 dz 2 k2 Prω et (z) = U(z) e (3.9) ここで,k 2 = k1 2 + k2 2. また, 自由境界条件 U(z) e d 2 =0, U(z) dz e =0, 2 T e (z) =0 (z =0, 1) より, eu(z) =A n sin(nπz) (3.10) et (z) =B n sin(nπz) (3.11) (3.10), (3.11) を (3.8), (3.9) に代入して, 行列の表示にすると, Ã!Ã! K 2 + Kω Rk 2 eu(z) = 0 (3.12) 1 (K + Prω) et (z) ここで,K = n 2 π 2 + k 2. 3

µ eu(z) =0 以外の解を U(z), et e T e (z) がもつためには, (z) Ã! K 2 + Kω Rk 2 det =0 1 (K + Prω) KPrω 2 + K 2 (Pr+1)ω + K 3 Rk 2 = 0 (3.13) (3.13) を解くと, ω = K2 (Pr+1)+ p K 4 (Pr+1) 2 4KPr(K 3 Rk 2 ) 2KPr (3.14) δu 3, δt e ωt より,ω > 0 のときは,δu 3, δt は時間とともに増大し, 不安定となる. 逆に ω < 0 のときは,δu 3,δT は時間とともに減少するので, 安定となる. ω =0の条件は,R = (n2 π 2 + k 2 ) 3 R k 2 c ( 臨界レイリー数 ). 以上より,ω > 0 すなわち R>R c のとき, 安定となり,ω < 0 すなわち R<R c のとき, 不安定となる. 4 2 次元ベナール対流の数値シュミレーション ベナール対流の数値シュミレーションを行うにあたって,(2.2), (2.3), (2.4) を用いるわけだが, 圧力を独立に求めることができないので,(3.1) の rotation をとることで, 圧力の項を消去できる ( p =0). x 軸を水平方向,y 軸を鉛直方向にとる. 渦度 ω を 流れ関数 ψ を ω = u = u y x u x y, (4.1) ψ y = u x, ψ x = u y (4.2) で定義する. このとき, 無次元化した基礎方程式は次の 3 つになる. ただし, 無次元化するのに,t =(h 2 /κ) t 0 を用いている. 2 ψ x 2 + 2 ψ = ω y2 (4.3) T t +(u ) T = 2 T (4.4) ω t +(u ) ω = Pr 2 ω + PrR T x (4.5) 4.1 下壁高温, 上壁低温 下壁に高温の熱源を, 上壁に低温の熱源を設置し, 側壁に完全熱伝導体を用いたモデルの数値シュミレーションをいくつか行った. 4

(1) 縦横比 1: 1 縦と横の長さを同じにしたときのシュミレーションの結果を図 4.1,4.2 に記した. 図 4.1 は流れ関数の図で, 流れの回転方向の違いを色の違いで表したものである. 流れ関数の値が正のときは左回り, 負のときは右回りを意味する. 図 4.2 は温度分布の図で, 高温ほど赤色, 低温ほど青色である. 図 4.1 を見ると, それほど時間が経過していない内は,2 つの渦が発生しているのが分かる. 側壁に沿って上昇した流体が上壁の中心付近で収縮し, 下降流が発生し, それが下壁の中心付近で発散し, 側壁に向かって流れるからである. しかし, 時間が経つと,2 つの渦が 1 つの渦になる. これは,2 つの渦の状態より 1 つの渦の状態の方がより安定であることを示している. 一方, 図 4.2 の温度分布は 2 つの角が立った状態, つまり両側から高温部がはみ出し, その間を低温部が突き出している状態から, 片側から高温部がはみ出し, もう片方から低温部がはみ出した状態に変化した. このとき,1 つの渦の状態に対応している. 図 4.3 は, レイリー数が前節の臨界レイリー数 R c より小さいときの場合で, 温度分布を見ると明らかに上記の例とは異なり, きれいな縞模様になっている. また, 流れは 2 つの渦の状態で安定しており, 時間が経過しても 1 つの渦になることなく 2 つの渦が維持された. ただ, 上記の例に比べて, 流れ関数の値が極端に (10 14 倍 ) 小さい. 図 4.1 流れ関数 (R=15000,Pr=7, 縦横比 1:1). ステップ数 ( 左 10 4, 中 2 10 5, 右 3 10 5 ) 図 4.2 温度分布 (R=15000,Pr=7, 縦横比 1:1). ステップ数 ( 左 10 4, 中 2 10 5, 右 3 10 5 ) 図 4.3 左 流れ関数, 右 温度分布 (R=150,Pr=7, 縦横比 1:1). ステップ数 (2 10 5 ) 5

(2) 縦横比 1: 2 縦横比を 1:2 にしたときは, 図 4.4 のように 2 つの渦の状態で安定化した. 図 4.4 左 流れ関数, 右 温度分布 (R=15000,Pr=7, 縦横比 1:2). ステップ数 (2 10 5 ) (3) 縦横比大縦横比を 1:2より大きくすると, 渦の数は増えていくが, 奇数個の渦は生じない.2 つの渦から,4 つ, 6 つ, と増えていく. その一例を図 4.5, 4.6 に記した. 図 4.5 左 流れ関数, 右 温度分布 (R=15000,Pr=7, 縦横比 1:3). ステップ数 (10 5 ) 図 4.6 上 流れ関数, 下 温度分布 (R=15000,Pr=7, 縦横比 1:5). ステップ数 (10 5 ) 4.2 側壁に熱源左側の側壁に低温の熱源を, 右側の側壁に高温の熱源を接触させ, 下壁を完全熱伝導体, 上壁を開放系として空気層に接触させるモデルを考える. 図 4.7 に時間が経ったときの温度分布と流れの様子を記した. この場合, 渦は最初から 1 つで, 右側壁で上昇, 左側壁で下降することで生じる渦である. 図 4.7 左 流れ関数, 右 温度分布 (R=15000,Pr=7). ステップ数 (5 10 4 ) 6

参考文献 [1] JoelH. FerzigerandMilovanPerić. Computational methods for fluid dynamics, 176 178. Springer- Verlag Berlin Heidelberg, 2003. ( 小林敏雄, 谷口伸行, 坪倉誠訳 (2003) コンピュータによる流体力学. Springer-Verlag 東京 ). [2] Tian Ma and Shouhong Wang. Dynamic bifurcation and stability in the rayleigh-bénard convection. Comm. Math. Sci., Vol. 2, No. 2, 159 183, 2004. [3] 北原和夫, 吉川研一. 非平衡系の科学 I 反応 拡散 対流の現象論, 192 196. 講談社サイエンティフィタ, 1994. [4] 吉澤徴, 村上周三, 小林敏雄, 谷口伸行, 戴毅, 黒田明慈他. 乱流解析数値流体力学シリーズ 3, 272 273. 東京大学出版会, 1995. 7