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TOPICs 世界の原油需給 by OPEC Oil Market Rerort 214 年 3 月号より 世界の原油需要 世界の原油需要 28 年 29 年 21 年 211 年前年比 212 年前年比 213 年 OPEC Oil Market Report 214 年 3 月号 前年比 28

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原油価格の動向 2019 年 2 月 株式会社三井住友銀行 コーポレート アドバイザリー本部企業調査部 本資料は 情報提供を目的に作成されたものであり 何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません 本資料は 作成日時点で弊行が一般に信頼できると思われる資料に基づいて作成されたものですが

北米からの原油供給量は 2011 年は前年比日量 +21 万バレル増であったが 2012 年は前年比 +158 万バレル増となり 2013 年は +130 万バレル増 2014 年は +92 万バレル増と見込まれている 北米を含めた OECD 先進諸国からの供給は 2011 年は +1 万バレル増

週刊原油190509米国石油週報 EIA短期需給予測5月号.xlsx

産業トピックス

(2) 主要シェール オイル鉱床シェール オイルの 3 大産地 ( テキサス州のパーミアン地域とイーグル フォード地域 ノース ダコタ州のバッケン地域 ) での生産量は 全体の約 50% を占めている 広い鉱床を有し 生産性 経済性に優れるテキサス州中西部パーミアン堆積盆地に開発が集中している 20

2007年12月10日 初稿

2010年における原油価格の見通しについて

スーパーメジャー: 「スケール」から「クオリティ」へ

国際エネルギー機関(IEA) 月報 国際エネルギー機関 (IEA) は13 日公表した月報で 石油輸出国機構 (O PEC) と非加盟産油国が ( 協調減産を通じて ) 世界の原油在庫を望ましい水準に引き下げる役割を達成したようだと分析 さらに 供給抑制が続いた場合には 石油市場が逼迫する可能性を示

2. シリアへの軍事介入が回避された後も高値圏にとどまる原油価格 (1) シリア エジプト プレミアムの剥落 6 月末にエジプトで大統領の辞任を要求するデモが発生し 次いで内戦の続くシリアへの軍事介入が取り沙汰されたことから 原油価格は夏場に高騰した しかし 9 月上旬をピークにシリア問題を巡る緊張

た21 年ごろから 米国をはじめとする国際社会の経済制裁は一段と強化された 米国では 21 年に包括的イラン制裁法 (Comprehensive Iran Sanctions, Accountability and Divestment Act of 21) 211 年にはイランへの追加制裁を含む国

Microsoft Word - 世界のエアコン2014 (Word)

Invesco Premia Plus Fund

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原稿メモ

地域別世界のエアコン需要の推定について 年 月 一般社団法人 日本冷凍空調工業会 日本冷凍空調工業会ではこのほど 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果を まとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行 なっているもので 今回は 年から 年までの過去 ヵ年について主


週刊原油170713米国石油週報 短期需給予測

情勢分析_世界の石油需要の動向と中東産油国の対応,将来の石油価格の展望

週刊原油171026米国石油週報・EIAの短期需給予測

2016年度までの日本の経済・エネルギー需給見通し

週刊原油170406米国の石油週報・中国に対する非OPEC諸国原油の増加

2012 年 10 月 15 日号

2016 年 メキシコペソ もとの状況と今後の 通し <メキシコペソ / 円は下落 > < 政策 利とインフレ率の推移 > メキシコペソは もとまで軟調に推移してきました しかし 原油先物価格は2016 年 2 に安値をつけて下落が続いてきた理由として 1 統領選 2メ以降 持ち直す展開

地域別世界のエアコン需要の推定について 2018 年 4 月一般社団法人日本冷凍空調工業会日本冷凍空調工業会ではこのほど 2017 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果をまとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行なっているもので 今回は 2012 年から 20

情勢分析_中東の石油・ガス産出国をめぐる最近の動向と今後の予測

米国における石油企業の開発動向

週刊原油 xlsx

第 15 表 OPEC 総会の主要決議事項 (2) ~26 ウィーン 半年毎の通常総会の開催時期を今後 6 月 11 月から3 月 9 月に変更する 現行の260 万 BDの自主減産を1999 年 6 月末まで遵守する 次回通常総会において状況が改善されていなければ価格是

2017年上半期の為替相場展望

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週刊原油170518米国石油週報・OPEC5月号

エコノミスト便り

MENAなんでもランキング・シリーズ その1

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

MENAなんでもランキング・シリーズ その1

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

中東 IMF は 4.1% 成長を予測 注目される 5 月の大統領選 年の経済見通し-( イラン ) テヘラン発 2017 年 01 月 04 日 IMF はイランの 2017 年の GDP 成長率を 4.1% と予測しているが 経済の動向は 5 月の大統領選と米国新政権の対イラン政策が

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PowerPoint プレゼンテーション

米国は 上院外交委員会で軍事行動を認める決議を9 月 4 日に採択し G20 後 (20カ国 地域首脳会議 9 月 5 日 ~6 日 ) にシリアのアサド政権を非難する11カ国 1 の共同声明を発表するなど 軍事介入が国内外の 民意 を反映したものであるお墨付き作りを進めていた しかし シリアのムア

平成 29 年 7 月 地域別木質チップ市場価格 ( 平成 29 年 4 月時点 ) 北東北 -2.7~ ~1.7 南東北 -0.8~ ~ ~1.0 変動なし 北関東 1.0~ ~ ~1.8 変化なし 中関東 6.5~ ~2.8

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【ロシア最新経済金融週報】

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[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

平成 25 年 3 月 19 日 大阪商工会議所公益社団法人関西経済連合会 第 49 回経営 経済動向調査 結果について 大阪商工会議所と関西経済連合会は 会員企業の景気判断や企業経営の実態について把握するため 四半期ごとに標記調査を共同で実施している 今回は 2 月下旬から 3 月上旬に 1,7

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

参考資料 1 約束草案関連資料 中央環境審議会地球環境部会 2020 年以降の地球温暖化対策検討小委員会 産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同会合事務局 平成 27 年 4 月 30 日

調査結果の概要 1. 自社チャンネルの加入者動向について 横ばい との見方が拡大自社チャンネルの全体的な加入者動向としては 現状 では 減少 (40.0%) が最も多く 続いて 横ばい (35.6%) 増加 (23.3%) の順となっている また 1 年後 については 横ばい (41.1%) が最も

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第 1 四半期の売上収益は 1,677 億円となり 前年からプラス 6.5% 102 億円の増収となりました 売上収益における為替の影響は 前年 で約マイナス 9 億円でしたので ほぼ影響はありませんでした 事業セグメント利益は 175 億円となり 前年から 26 億円の減益となりました 在庫未実現

GM OEM GM GM 24 GM 16 GM

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2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

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グローバル株式市場を俯瞰する~2015年8月末データで見る市場動向~

一部新興国市場が動揺 アルゼンチンは前四半期から経済危機に陥っていましたが トルコでは 6 月に再選された大統領が米国と対立したこと等を契機に 8 月に通貨が急落しました ブラジルや南アフリカ インドの通貨も下落が加速する局面が見られ 中国元も緩やかに値を下げました これまでのところ個別国の問題とい

けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

平成14年1月20日

第 60 回法人企業景気予測調査 ( 平成 31 年 1-3 月期調査 ) 福島県の概要 平成 31 年 3 月 12 日財務省東北財務局福島財務事務所 調査要領 1. 調査の目的と根拠我が国経済活動の主要部分を占める企業活動を把握することにより 経済の現状及び今後の見通しに関する基礎資料を得ること

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

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週刊原油171207米国石油週報・米国中西部の原油輸入増加

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今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

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産業組織論(企業経済論)

( 出所 : 各種資料を基に JOGMEC 調査部作成 ) 図 1 メキシコ湾油流出事故発生後の海底からの漏油箇所 (5 月 3 日 ) ( 左から右に : 海底に横たわるライザーパイプの端 ライザーパイプから突き出た掘管 BOP の損傷部分 ) この背景を油田開発の歴史から説明します 1960 年

<4D F736F F F696E74202D DC58F4994C5817A8CB496FB89BF8A6989BA978E82CC89658BBF82C982C282A282C42E >

ガス市場について

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

インドネシア港(%) ラリア査対象とするが 一部の国については統計上の制約から部分的な言及にとどめている 2. 原油価格上昇の影響に関する理論的考察 (1) 油価上昇と交易条件 交易利得 / 損失本稿では 交易条件の変化により起こる国家間の所得移転を示す交易利得 / 損失を油価上昇の影響を測る手段と

株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

最近の石油市場の動きに関する一考察

原油高で消費者物価と家計のエネルギー負担額はどうなる?

リムLNG年鑑2010

第2章_プラントコストインデックス

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原油価格上昇がもたらす全国・中部圏経済への影響について

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

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北陸 短観(2019年6月調査)

北陸 短観(2016年12月調査)

北陸 短観(2019年3月調査)

ニュースリリース 農業景況調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 1 8 日 株式会社日本政策金融公庫 平成 30 年農業景況 DI 天候不順響き大幅大幅低下 < 農業景況調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日本政策金融公庫 ( 略称 : 日本公庫 ) 農林水産事業は 融資先の担い手農業者

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2013 年 8 月 19 日号

Transcription:

Jul 13, 2018 No.2018-033 Economic Monitor 研究員古瀨礼子 03-3497-3211 furuse@itochu.co.jp 中東情勢と原油相場 : 需給がほぼ均衡する中で浮上する供給不安 中東では 原油供給に影響を与えかねない事象が発生している イランでは 原油取引禁止を含 む米経済制裁が復活される イラクは 復興や継続的な油田開発を含め多くの課題を抱える このような状況下 原油の供給は OPEC 加盟国の減産を上回る米国の増産により全体で増産 需 要は世界的な好景気を背景に拡大ペースが加速し 需給はほぼ均衡する見通し 主要産油国によ る協調減産は原油在庫を減少させるため下値は支えられ ベネズエラおよびイランにおける供給 不安は原油価格を押し上げ 今後の原油相場は上昇基調が続くと予想される さらに これまで 上値を抑えていた米シェールオイル増産にボトルネックが出現したことで上振れリスクが高ま る 原油先物価格はブレントで 2018 年 4 月以降 $70 を継続的に超え 足元は $70 台半ばで推移している 原 油価格上昇の背景には 主要産油国による協調減産で世界の原油在庫が減少して需給が均衡しつつあるこ とに加え 世界の原油生産量の 4 割強 日本の原油輸入の 87% を占める中東などにおける供給リスクがあ る ここでは中東情勢を中心に 世界の原油需給を左右する主な要因を整理した上で 今後の原油価格の 先行きを見通したい イラン : 米国が離脱した後の核合意の行方 米国のトランプ大統領は 5 月 8 日に国際的な核合意 (JCPOA) 1 から離脱することを表明した これを受け て 2016 年 1 月に解除された米国の対イラン経済制裁は 2018 年 11 月までにすべて復活する 2 欧州 3 ヶ国 ( 英仏独 ) は 核合意を存続させてイランの核開発を抑制するとともに イランとのビジネス を継続したい このため 米制裁の対象から欧州企業を除外するよう求めているが トランプ大統領は米 議会中間選挙を 11 月 6 日に控えているため 制裁の緩和は期待できない また 欧州勢は 欧州企業が 第三国の経済制裁に従うことを禁じる ブロッキング規制 発動に向けた手続きを開始することで米国に 対抗しようとしているが 米国とビジネスをする企業が米ビジネスを犠牲にしてまでイランとのビジネス を継続することは考えにくく 大企業は撤退や縮小を表明している 一方のイランも 欧州勢とのビジネス継続を望んでいる イラン国民は 核合意で外資による経済の立直 しを期待していたため 核合意を遵守しても経済的な利益を享受することができなければ反発する そこ でイラン政府は 欧州勢に経済的な利益が享受できる方策を早期に提示するよう求めるとともに 6 月上 旬 ウランを濃縮する遠心分離機製造の準備作業を開始 国際原子力機関 (IAEA) にこの旨報告している これは核合意の範疇であり イランが欧州勢にプレッシャーをかけるためにとった行動とみられる 復活する米制裁の内 原油相場に直接影響してくるのはイランとの原油取引禁止である オバマ前政権時 1 包括的共同作業計画 (JCPOA) 米英仏独中露とイランが 2015 年 7 月に合意 2016 年 1 月に履行された イランが核関連活動を制限することと引き換えに 多くの欧米経済制裁が解除された 2 トランプ大統領が合意からの離脱を表明した日から 分野により 90 日あるいは 180 日の手仕舞い期間を経て制裁は復活する 手仕舞い期間はそれぞれ 8 月 6 日および 11 月 4 日まで 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 作成時点で が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが その正確性 完全性に対する責任は負いません 見通しは予告なく変更されることがあります 記載内容は 伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません

代は段階的な取引削減による制裁の適用除外が認められたが 3 トランプ政権は期限の 11 月までに取引をゼロにするよう求めている 4 米国の強硬な姿勢を受けて イラン産原油輸出先の内 欧州諸国 韓国および日本は 制裁を避けるために取引を中止すると見込まれる これらの国は合せて輸出の 3 割強を占めるため ( 右図 ) イラン産原油の輸出は 全体の日量 220 万バレルの内 70 万バレル弱減少する可能性が高い 5 一方 輸出の 4 割強を占める中国とインドは前の制裁下においてもイラン産原油を輸入していたことを踏まえると 米国の制裁が復活しても輸入を継続する可能性が高いが 中国政府はまだ方針を明らかにしていない なお インド政府は 国連制裁以外には従わないとしている 6 ため 輸入増の可能性も考えられる イランの国別原油輸出 (2017 年 ) その他 13% 中国 24% 日本 5% インド 18% 韓国 14% ( 出所 ) 米 EIA 米制裁により原油収入が大幅に減少することになれば 地域大国イランの国内は不安定化しかねず 中東の地政学的リスク悪化ならびに原油供給 7 の不安定化につながる懸念も出てくる これは欧州勢の望むところではない よって 欧州勢は不十分ながらも何らかの方策をイランに提示することが見込まれる これを受けたイランは 核合意を離脱して得るメリットはない反面 合意に留まれば 少なくとも米ビジネスを持たない欧州中小企業とのビジネスが期待できるため 核合意から離脱する可能性は低いと考える イラク : 総選挙を実施するも復興への道のりは遠いイラクの原油生産は 2003 年のイラク戦争で一時ゼロ近くまで落ち込んだが フセイン政権が崩壊して国連制裁が解除されると メジャーなどが出資をして 日量 448 万バレルまで大きく拡大している ( 右図 ) イラクは現在 OPEC 加盟国第 2 位の産油国となっており その生産動向は国際原油市場に影響を与える また イラクは中東 OPEC 加盟国の中で輸出に占める石油の割合が最も大きく 8 経済安定化のためには継続的な油田開発が重要となる イラクの原油生産および輸出 ( 万バレル / 日 ) 500 450 400 輸出 生産 350 300 250 200 150 100 50 0 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018 ( 出所 ) 米 EIA 米 Federal Reserve Bank of St. Louis (IMF 2018.6.8データ ) ( 備考 )2018 年の生産は2018.1-6 平均 輸出はIMFの予測 さらにイラクは 2017 年 12 月 イスラム国 (IS) に勝利宣言したが IS との戦いで破壊されたインフラの復 3 米国防授権法 2012 では 原油取引量を 180 日毎に 著しく 削減した場合は制裁対象から除外される オバマ政権時代は 著しく を 20% と解釈した 4 2018 年 6 月 26 日 米国務省高官がインタビューで発言 (https://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2018/06/283512.htm) 5 ポンペイオ国務長官は 7 月 10 日 イラン産原油取引禁止の適用除外に言及したが トランプ政権の厳しい制裁適用方針に変更はないと考えられる ( U.S. will consider requests for waivers from Iran oil sanctions - Pompeo, Reuters, July 10, 2018.) 6 インド スワラジ外務大臣の発言 ( India says it only follows U.N. sanctions, not U.S. sanctions on Iran, Reuters, May 28, 2018.) 7 イランは サウジアラビア イラクに次ぐ OPEC 加盟国第 3 位の産油国 8 イラクの総輸出に占める石油の割合は 94% 続いて クウェート 92% サウジアラビア 69% イラン 48% カタール 42% UAE 32% (OPEC Annual Statistical Bulletin 2018) 2

興に加え 汚職問題 9 クルド問題 国内避難民の処遇など多くの課題に直面している このように外資を必要とするイラクであるが 2018 年 4 月に実施された油田開発の入札で落札されたのは 11 件中 6 件に留まった 10 イラクは原油埋蔵量が世界第 5 位と多いものの 外資の誘致に成功しなければ復興への道のりは遠のく このような状況下 5 月 12 日に国民議会選挙が実施され 329 議席に対して 7,000 千人弱が立候補した イラクでは多数の政党連合が連立を組んで与党を形成する 11 すなわち イラク国民の約 3 分の 2 を占めるシーア派の政党連合が中心となり スンニ派やクルド人の政党連合を加えて過半数を確保する 今回の選挙は IS 崩壊後初めての総選挙であったが 腐敗などによる政治不信で国民の既存政治家への期待が薄 れたため 投票率は過去最低の 44.5% となった 12 そんな中 反腐敗を訴えたサドル師率いる政党連合が第 1 党となり これまでに 3 人の首相を輩出してきた政党連合は大きく議席を減らした 与党形成の中核となる主なシーア派政党連合の獲得議席数 ( 暫定 ) 13 の差は比較的小さく 親イランが目立つ ( 右表 ) 主なシーア派政党連合の獲得議席数 ( 暫定 ) 議席数 政党連合 備考 ( リーダー他 ) 54 サーイルーン サドル師 反米 イランと距離 共産党他と組む 47 ファタハ連合 シーア派民兵組織リーダー アミリ氏 親イラン 42 勝利連合 アバディ首相 米 イランとの距離をバランス 25 法治国家連合マリキ前首相 親イラン 19 ヒクマ潮流 ハキム師 親イラン 現在 第 1 党 ( サーイルーン ) を率いるサドル師 14 が 第 2 党 ( ファタハ連合 ) や第 3 党 ( 勝利連合 ) との連立協議を進めているが いずれの組み合わせも あるいは 3 党合わせても過半数の 165 議席には届かない 米国やイランとの距離は連立政権内の構成で決まってくるが 最終的にはほとんどの政党連合が連立に参加して利権を分け合う体制となる可能性が高いため 新政権の政策はこれまでのものから極端な変更はなく 強くイランに傾いて米国の反発を招くような政権になることは考えにくい なお 通常イラクでは組閣まで数ヶ月を要する このため 原油増産に向けて政策を立てることができるのも先となろう 15 需要の拡大は加速原油需要は 世界経済の成長加速を背景に拡大ペースが加速する見込みである 米 EIA の予想によると 世界全体の原油消費量は 2017 年の前年比日量 158 万バレル増に対し 2018 年および 2019 年はそれぞれ 172 万バレル 171 万バレル増へと加速する ( 次頁左上表 ) 地域別には 米国 中国 インドが原油需要をけん引する 3 ヶ国の需要は 2018 年は合計 119 万バレル増 2019 年は 109 万バレル増と世界全体の増加分の 6 割以上を占めると見込まれている 9 イラクは 国際 NGO トランスペアレンシー インターナショナルの腐敗認識指数 (Corruption Perceptions Index) で 調査対象の 180 ヶ国中 169 位と低い評価 10 落札されなかった油田は 戦争による汚染やアクセスの悪さが要因だったと指摘されている 11 前回 2014 年の選挙では 9 つの政党連合が連立を組み 328 議席中 262 議席を持つ与党が誕生した 12 過去の投票率は イラク憲法制定後初の 2005 年選挙は 70% 超 2010 年は 62% 2014 年は 62% と 50% を下回ることはなかった 13 今回の選挙で初めて導入された電子投票集計システムの不正が指摘され 最高裁は 6 月 21 日 手作業による票の再集計を承認し 現在再集計中である なお 再集計をしても暫定結果からは大きく変わらないとの見方が多勢 14 サドル師は立候補しなかったため 連立交渉を進めることはできても 首相になることはできない 15 イラク国民議会は 2018 年 6 月末に任期満了を迎えた 7 月以降は アバディ首相が暫定政権を率いていくが 新たに法案を 通すことはできなくなる 3

地域別の原油消費量 ( 万バレル / 日 ) 2017 2018 2019 北米 2,423 2,466 42 2,501 35 米国 1,988 2,035 47 2,068 33 中南米 702 697 5 704 7 欧州 1,502 1,514 12 1,523 9 ユーラシア 486 495 8 500 6 中東 862 878 16 893 15 アシ ア オセアニア 3,447 3,534 88 3,625 90 中国 1,326 1,372 46 1,419 47 日本 394 386 9 378 7 インド 455 482 26 511 29 アフリカ 426 437 11 445 9 合計 9,848 10,020 172 10,191 171 ( 出所 ) 米 EIA ( 備考 ) 液化ガス等を含む石油ベース 原油の需給がほぼ均衡する中 供給不安が浮上 2018 年の原油供給は OPEC 加盟国の減産を上回る米国の増産により全体で日量 215 万バレル増加する 見通し ( 右上表 ) 需要は先述の通り拡大ペースが 172 万バレルへ加速するため 需給は 2017 年の供給 不足からほぼ均衡する見通しであった ただし ここにきてベネズエラ イランに加え リビアの供給不 安が浮上している ベネズエラでは 2017 年 8 月の米国経済制裁を受 けて国営石油会社が資金調達困難となり 昨年後半 以降 原油生産は急激に減少している ( 右図 ) ベ ネズエラの生産は 2018 年 5 月時点で協調減産の 生産目標を 58 万バレル下回っているが 減産の背 景にある資金不足や人手不足が解消される見込み がないため 減産傾向は続くとみられている OPEC 加盟国は 6 月 22 日の定例総会で 行き過ぎた減産による原油価格の上昇を避けるため 2018 年 5 月の減産実施率 152% を 100% に是正 すなわち約 60 万バレル増産することで合意した この増産は 現 在のベネズエラ供給不足分 (58 万バレル ) に相当するため 今後のベネズエラの供給不足拡大 ならび に冒頭で触れたイラン産原油の取引を禁止する米経済制裁発動に伴い OPEC 加盟国の供給は減少するこ とが見込まれる 地域別の原油生産量 ( 万バレル / 日 ) 2017 2018 2019 OPEC 3,928 3,883 46 3,895 12 非 OPEC 5,873 6,133 260 6,360 227 北米 2,285 2,517 232 2,683 166 カナダ 499 529 30 554 25 米国 1,560 1,770 210 1,913 143 中南米 533 549 16 584 35 欧州 404 400 3 400 0 ユーラシア 1,432 1,447 15 1,469 22 ロシア 1,120 1,125 5 1,145 20 アシ ア オセアニア 923 925 2 928 2 中国 478 478 0 479 1 アフリカ 188 185 3 183 2 合計 9,801 10,016 215 10,254 239 ( 出所 ) 米 EIA ( 備考 ) 液化ガス等を含む石油ベース さらに リビア 16 における状況が供給不安に一時拍車をかけた リビアの原油生産は 足元 100 万バレル 弱であったが 7 月上旬に反政府勢力が主な原油輸出港を封鎖したことを受けて 国営石油企業は 85 万 バレルの供給減になると発表した その約 10 日後に封鎖は解かれ 85 万バレルの供給不安は解消された しかし リビアにおける状況は何も変わっていないため 再び供給不安が浮上するリスクを意識しておく 必要がある 5 月現在 OPEC 加盟国の余剰産油能力は 300 万バレル強 17 あるが 複数の供給減要因の重な 240 220 200 180 160 140 ( 出所 )OPEC ベネズエラの原油生産 ( 万バレル / 日 ) 目標生産量 120 2015 2016 2017 2018 16 リビアは OPEC 加盟国ではあるが 協調減産対象国ではない 17 協調減産非対象国のリビアおよびナイジェリアを除いた値 (IEA, Oil Market Report, June 13, 2018) 4

りは 有事の供給不足に対応する余力を縮小しかねない このような状況下米 EIA は OPEC 加盟国の 2018 年供給は前年比 46 万バレル減 ( 前頁右上表 ) とみているが 各国の米対イラン制裁への対応やベネズエラの状況によっては 減産幅がさらに拡大する可能性がある 北米 : カナダのオイルサンド施設の操業停止および米シェールオイル増産のボトルネック米 EIA は 非 OPEC 加盟国は 2018 年に前年比日量 260 万バレル増産するとみているが その内 30 万バレルをカナダ ( 約 12%) 210 万バレル ( 約 81%) を米国が担うとみている ( 同表 ) カナダの原油生産は OPEC 加盟国第 3 位のイランに次ぐ規模の 400 万バレルである 18 そして カナダ産原油の増産を牽引するのはオイルサンドであるが 6 月 20 日 処理能力日量 36 万バレルのオイルサンド製油プラントが停電で操業を停止した 操業を再開するためには プラント内の油を除去して点検する必要があり 復旧の目途が立ちにくかった しかし 7 月 9 日に今後の見通しが発表され 7 月後半以降の段階的な稼働を経て 9 月半ばまでに本格稼働するため 停電の影響は限定的であることが判明 2018 年の 30 万バレル増産見通しは変更ないとみられる 一方 米国増産の大部分を担うシェールオイルについてみると 米国の増産をけん引してきたシェール由来の原油増産が今後も続くとみられていることから シェールオイルの増産動向が今後の供給拡大のカギを握る ところが 今年に入り 特に 4 月以降 シェールオイル増産のボトルネックが出現している シェールオイルは 原油価格が WTI で $60( ブレントで $66 程度 ) を超えるとリグ稼働数が大幅に増加 19 ひいては増産 20 するとみられており 足元でブレントが $70 台半ばで推移する原油価格では増産が加速することが見込まれる それが実現していない背景には シェールオイルの主産地であるパーミヤン盆地から製油所や輸出設備があるメキシコ湾岸に輸送するパイプラインの容量不足がある この地域では これ までに複数のパイプラインを逆走させ また 新設することで輸送能力を拡大してきた しかしそれでも容量が不足していることは パーミヤン盆地の原油価格 (WTI Midland) と国際的な原油価格 (WTI Cushing) のスプレッドが 4 月に入り急拡大したことが示している これは原油を生産しても輸送できない事業者が値下げをしてでも売ろうとしているためであり 生産を見合わせる事業者もあるという ( 右図 ) WTI Cushing-Midland の原油スポット価格スプレッド ($/b) 4 2 0-2 -4-6 -8-10 -12-14 -16-18 2018/1 2018/2 2018/3 2018/4 2018/5 2018/6 2018/7 ( 出所 )Bloomberg 現在 複数の新規パイプラインが計画されているが 運用が開始されるのは 2019 年後半から年末にかけてであり それまでは輸送能力の不足状態は続き シェールオイル増産のボトルネックになるとみられている このため 2018 年に 210 万バレル増産することは厳しいと考えられる 18 カナダの 2017 年産油量は液化ガス等を含む石油ベースで日量 499 万バレル ( 前頁右上表 ) 内 400 万バレルが原油 (U.S. Energy Information Administration, Monthly Energy Review, June 26, 2018.) 19 Federal Reserve Bank of Dallas, Dallas Fed Energy Survey, Fourth Quarter, December 28, 2017. 20 リグは石油掘削装置のこと リグ稼働数は米シェールオイル生産動向の先行指標的な側面を持つとされる 5

今後の原油相場は上昇基調以上を踏まえて最近の動きを振り返ると 2018 年 2 月以降上昇傾向が続いていたブレント原油先物価格は 4 月中旬に $70 を超えた後 一旦は $80 近くまで上昇したが 足元は $70 台半ばで推移している ( 左下図 ) 原油価格が上昇した背景には 4 月中旬の米国がシリア化学兵器工場を攻撃する懸念 イスラエル イラン間の紛争がぼっ発する懸念など 中東の地政学的リスクが意識されたことがあった 一方 同時期に米国の原油在庫は増加傾向に転じたが ( 右下図黒矢印 ) 米国の原油在庫が過去 5 年平均水準以下と少なかったため原油価格が下がることはなかった その後 米国のイラン核合意離脱 米国のベネズエラ追加制裁 ならびに主要産油国による協調減産の緩和観測などが要因となり $70 台半ばの原油価格水準を支えていると考えられる 140 120 100 80 60 ( 出所 )Bloomberg ブレント原油先物価格 ( ドル / バレル ) $70/b 40 減産合意 20 $27.88/b 0 (2016/1) 2013 2014 2015 2016 2017 2018 米国の原油在庫日数 ( 日 ) 36 34 原油在庫日数 32 30 過去 5 年レンジ 28 26 24 過去 5 年平均 22 20 18 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 2017 年 2018 年 ( 出所 ) 米 EIA 以上をまとめると 需給がほぼ均衡する状況下で 主要産油国による協調減産は原油在庫を減少させるため下値は支えられ ベネズエラの減産およびイランの減産懸念は原油価格を押し上げ 今後の原油相場は上昇基調が続くと予想される さらに これまで上値を押さえていた米シェールオイル増産にボトルネックが出現したことで上振れリスクが高まる 6