1 仕事と仕事の原理 仕事の原理 解説 1 エネルギー電池で明かりをともすことができる 音を出すことやモーターを動かすことにも利用できる 電池には光, 音, 物を動かすといった能力がある 車の燃料はガソリンが一般的だが, 水素を燃料とするもの, 太陽光で動くものもある ガソリン, 水素, 太陽光それぞれには, 車を動かすという能力がある 電池, ガソリン, 水素, 太陽光 には, 光, 音, 物を動かす, 物を壊すといったさまざまな現象を生み出す能力がある ここで, さまざまな現象を生み出す能力をエネルギーという エネルギーの単位はジュール J である 解説 1 仕事とはさまざまな現象どうし, その程度の差は簡単には比べられない そこでエネルギーの大きさを比べるための モノサシ ( 共通の基準 ) が必要になる これが仕事である 仕事は, 物体に力を加えて移動させることである 例えば, みかん 1 個 ( 約 100g) を支える手は 1 N の力を出している そのままゆっくりと 1 m 持ち上げるとき, その間, 手は少なくとも 1 N の力を出し続けなければならない このように, 物体に 1 N の力を加え続け, その力の向きに物体を 1m 動かすとき, 手は 1J の仕事をしたという 仕事は次の式で表される 単位はジュール J 仕事 J = 力の大きさ N 力の向きに動いた距離 m 130
ここで, 力の向きに動いた距離 とあることに注意しよう 仮にみかんを支えながら, 手を水平に 1 m 移動させる場合, 手がした仕事は 0 である 手がみかんに加える力の向きは鉛直上向き ( つまり真上 ) で, みかんが移動した向きはこれに垂直 みかんは力の向きに動いていないからである 解説 1 仕事が 0 になるとき 仕事が 0 になる ( 仕事をしていない ) のは, 次のような場合である 1 加えた力の向きと, 移動の向きが垂直の場合 2 力を加え続けたが, 物体が移動しなかった場合 3 加えた力の大きさが, ほぼ 0 の場合 摩擦のない水平面上で, 物体を等速直線運動させる場合が3に当たる 摩擦 ( や空気抵抗 ) が無視できるほど小さい場合, 物体の運動方向に力を加え続ける必要がないので, 仕事は 0 になる 例題 1 次の問いに答えよ ただし,100g の物体にはたらく重力の大きさを 1N とする (1) 1.2kg の荷物を, 床から 2m 持ち上げた このとき何 J の仕事をしたか (2) 摩擦のある平面で, 質量 900g の物体をゆっくりと引いて 2 m 移動させた 物体を引いているとき, バネはかりは 400g を示していた 手は何 J の仕事をしたか 例題 1の解答 (1) 24 J (2) 8 J (1) 1.2kg = 1200g 荷物に加わる重力の大きさは 12N 12 N の力を加え続けて荷物を 2 m 持ち上げたことになる 12 2 = 24 J (2) 重力の向きは鉛直下向きで, 物体は水平方向に移動する 互いに垂直なので, 物体に加わる重力 9N は, 手がする仕事に無関係 バネはかりの値から, 手は右方向に 4N の力を加え続けたことがわかる 物体は力の向きに 2 m 移動したので, 手がした仕事は, 4 2 = 8 J 解説 1 仕事の原理我々は日常, 斜面, 滑車のほかいろいろな道具を使っている 道具には 小さな力で大きな力を取り出せる という利点がある しかし, 力を加え続ける距離が長くなるので, 仕事の量としては同じになる 現実的には, 斜面や滑車の回転には摩擦の影響があり, ロープや滑車には質量があるので, 道具を使うと仕事の量は増えてしまうが, 通常これらの影響を無視して考える 131
仕事の原理 ( 道具を使って ) 必要な力を小さくしても動かす距離は長くなり, 仕事で得す ることはない ( 必要なエネルギーは変わらない ) ここでは, 仕事の原理を理解するために,30 kg の物体を 2m の高さに引き上げるのに要す るエネルギーを考える 直接引き上げる, 斜面を利用する, 滑車を利用する, それぞれの場合 の仕事の量を求めてみる 解説 1 直接引き上げる場合 30 kg(=30000g) の物体に加わる重力は 300N 直接引き上げる場合に必要な力は 300 N である 300N の力を 2m 出し続けることになる したがって手がする仕事は, 300 2 = 600 J 表現上の注意手は 300N の力で 2m 引き上げた 一方, 物体は 300N の力で 2m 引き上げられた 手がした仕事 に対して 物体がされた仕事 ともいう 解説 1 斜面を利用する場合 図のような斜面上では, 重力の斜面高さ方向の分力の大きさは, 重力 斜辺であるから (106 ページ参照 ), 300 2 5 = 120 N したがって, この斜面で物体を引き上げるためには 120N の力が必要になる これは, 直接引き上げるときの 300N より小さな力である 小さな力で引き上げることが可能になるが, 引き続ける距離は 5m と長くなる 手がする仕事は, 120 5 = 600 J 斜面を利用すると, 小さな力で済むが, 力を加え続ける距離は長くなる 仕事の量は, 直接引き上げる場合と同じである 実際には, 斜面と物体の間の摩擦の影響で, 直接引き上げる場合より仕事の量は大きくなる 132
解説 1 定滑車を利用する場合 定滑車は, 中心軸を天井 ( など ) に固定した円板に, ロープをかけて回転させる道具で, 力の向きを変え るはたらきをするものである ロープを下向きに引くことで物体は持ち上がる 必要な力の大きさは, 直接持ち上げる場合と変わら ない 300N の力でロープを 2 m 引き続けるので, 手がする仕事は, 300 2 = 600 J 仕事の量は, 直接引き上げる場合と同じである 滑車はなめらかに回転し, ロープの質量は無視できるほど小さいものとして考えてよい 解説 1 動滑車を利用する場合 動滑車を利用すると, 加える力を小さくすることができる 動滑車はロープにつられた円板で, この円板と持ち上げる物体を固定する 図の場合, 物体に加わる重力 300 N を, 動滑車の両側のロープ 2 カ所で支えることになる そのためロープの左端の天井には 150 N の力が加わる ロープの右端を支える手には 150 N の力がかかる 150N の力で引き続けることで, 物体を持ち上げることができる ただ, 物体を 2m 持ち上げるためには, 動滑車の両側のロープ 2m ずつ, 合わせて 4m 分をロープ右端で引き下げなければならない したがって 150 N の力を 4m 加える必要がある 手がする仕事は, 150 4 = 600 J 仕事の量は, 直接引き上げる場合と同じである 133
解説 1 仕事率 例えばピラミッドのような建造物をつくる場合を考えてみる クレーンのような動力機械が なかった時代, 多くの人手と時間を要したことであろう 人力でも機械でも仕事の量 ( 必要な エネルギー ) は変わらない しかし, 仕事の能率という点では違いがある 仕事やエネルギーは, その全体量だけではなく仕事の能率を問題にすることがある これを 仕事率という 仕事率 W = 仕事 J かかった時間 秒 仕事率は, 単位時間 (1 秒間 ) 当たりにする仕事の量である 1 秒間に 1 J の仕事をするとき の仕事率が 1 W 単位のワット W は, 電力と同じ単位である まとめ 1 新しい理科のことばと単位 仕事 と 仕事の量 の区別はない 同じである 134
練習問題 111 解答は 242 ページ 1 100 g の物体にはたらく重力の大きさを 1 N として次の問いに答えよ また, 動滑車と糸の質量は無視できるほど小さく, 摩擦力の影響はないものとする (1) 図 1 のように, 質量 200 g の物体にニュートンはかりをつなぎ, 静かに引き上げ た 物体が床から離れるとき, はかりの目盛りは何 N になるか (2) 物体が床を離れて床から 18cm の高さになるまでに, 手が物体にした仕事は何 J か (3) 図 2 のように動滑車を使って, 質量 200g の物体を静かに引き上げる 物体が床から 離れるときのはかりの目盛りは何 N になるか (4) 物体が床から離れてから 18cm の高さに引き上げるには, ニュートンはかりにつない だ糸を何 cm 引き上げる必要があるか (2001 年岩手県 改題 ) 135
2 摩擦力のはたらかない斜面を使って実験を行った 重さが 500g のおもりをニュートンはかりにつるし, 操作 1, 操作 2 を行った 100 g の物体にはたらく重力の大きさを 1 N として次の問いに答えよ [ 操作 1] 図 1 のように, ゆっくりとおもりをもとの高さから15cm 真上に引き上げた [ 操作 2] 図 2のように, 摩擦力のはたらかない斜面にそって, 点 A から点 Bまでゆっくりとおもりを引き上げ, もとの高さよりも15cm 高くした (1) 操作 1 で, おもりを 15cm 引き上げるために必要な仕事は何 J か (2) 図 2 の点 B でおもりにはたらく重力を, 斜面に垂直な方向と斜面方向に分解して図に矢印でかき入れよ 作図のために用いた線は消さずに残せ (3) 操作 2 で, おもりを摩擦力のはたらかない斜面にそって引き上げているとき, ニュートンはかりの目盛りは 2.5N であった AB 間の斜面にそった距離は何 cm か (2002 年島根県 改題 ) 136