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調査結果のポイント 従業員採用状況について 平成 28 年度 (H28.4 ~ H29.3) は 計画どおり もしくは計画より多く採用した と回答した企業が69% 採用計画について 29 年度 (H29.4 ~ H30.3) は 28 年度実績と比較し 増やす と回答した企業と 減らす と回答した企

今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

短時間 有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針 について ( 同一労働同一賃金ガイドライン ) 厚生労働省雇用環境 均等局有期 短時間労働課職業安定局需給調整事業課

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

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日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

の手支援策の紹介事例の紹介1 ページに記載した法改正の趣旨や内容を十分に理解した上で 以下の手順で制度導入を進めましょう STEP 1 STEP 1 STEP 2 STEP 3 STEP 4 有期社員の就労実態を調べる社内の仕事を整理し 社員区分ごとに任せる仕事を考える適用する労働条件を検討し 就業

契約の終了 更新18 無期労働契約では 解雇は 客観的に合理的な理由を欠き 社会通念上相当であると認められない場合 は 権利濫用として無効である と定められています ( 労働契約法 16 条 ) 解雇権濫用法理 と呼ばれるものです (2) 解雇手続解雇をする場合には 少なくとも30 日前に解雇の予告

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(2) 労働者人口の減少 一方労働人口は減少しつつあり 推計値では 2025 年には 6300 万人まで減少見込みとなっております 問題点 以下のような状況の中で今後どのように労働者を確保して 企業を活性化させるか? 条件 1 労働者人口が減少する 2 フルタイム労働者が減る 3 未熟練従業員が増え

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自動的に反映させないのは133 社 ( 支払原資を社内で準備している189 社の70.4%) で そのうち算定基礎は賃金改定とは連動しないのが123 社 (133 社の92.5%) となっている 製造業では 改定結果を算定基礎に自動的に反映させるのは26 社 ( 支払原資を社内で準備している103

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今後 この政府のガイドライン案をもとに 法改正の立案作業を進め 本ガイドライン案については 関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて 最終的に確定する また 本ガイドライン案は 同一の企業 団体における 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正することを目的としているため

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参考 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに 家

定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

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( 様式第 1 号 ( 共通 )) 共通事項 1 キャリアアップ管理者 情報 ( 氏名 ): 役職 ( 配置日 ): 年月日 2 キャリアアップ管理者 の業務内容 ( 事業所情報欄 ) 3 事業主名 4 事業所住所 ( - ) 5 電話番号 ( ) - 6 担当者 7 企業全体で常時雇用する労働 者

第 Ⅰ 部本調査研究の背景と目的 第 1 節雇用確保措置の義務化と定着 1. 雇用確保措置の義務化 1990 年代後半になると 少子高齢化などを背景として 希望者全員が その意欲 能力に応じて65 歳まで働くことができる制度を普及することが 政策目標として掲げられた 高年齢者雇用安定法もこの動きを受

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

共通事項 1 キャリアアップ 管理者情報 ( 氏名 ): 役職 ( 配置日 ): 年月日 2 キャリアアップ管理者 の業務内容 ( 事業所情報欄 ) 3 事業主名 印 4 事業所住所 ( - ) 5 電話番号 ( ) - 6 担当者 7 奨励金対象労働者数 ( 全労働者数 ) 9 企業規模 ( 該当

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平成 27 年改正の概要 ( サマリー ) 一般労働者派遣事業 ( 許可制 ) 特定労働者派遣事業 ( 届出制 ) 26 業務 期間制限なし 26 業務以外 原則 1 年 意見聴取により最長 3 年まで 規定なし 規定なし 1. 許可制への統一 2. 派遣契約の期間制限について すべての労働者派遣事

(1) はじめに 何故この 3 点のみご案内させていただくのかと申しますと 他の要件と比較し導入がしやすい点にあります 非正規労働者の職業訓練や賃金テーブルの見直し 法定外の健康診断制度は導入する敷居が若干高く また それらは一度制度として導入してしまうと助成金の申請期間が過ぎた後も通常続けざるを得

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2019 年 3 月 経営 Q&A 回答者 Be Ambitious 社会保険労務士法人代表社員飯野正明 働き方改革のポイントと助成金の活用 ~ 働き方改革における助成金の活用 ~ Question 相談者: 製造業 A 社代表取締役 I 氏 当社における人事上の課題は 人手不足 です 最近は 予定

平成 31 年 4 月 1 日から平成 34 年 3 月 31 日まで 63 歳平成 34 年 4 月 1 日から平成 37 年 3 月 31 日まで 64 歳 4 定年について 労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはなりません ( 均等法第 6 条 ) ( 退職 ) 第 48 条前条に定める

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目次 問 1 労使合意による適用拡大とはどのようなものか 問 2 労使合意に必要となる働いている方々の 2 分の 1 以上の同意とは具体的にどのようなものか 問 3 事業主の合意は必要か 問 4 短時間労働者が 1 名でも社会保険の加入を希望した場合 合意に向けての労使の協議は必ず行う必要があるのか

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法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

平成 年 2 月 日総務省統計局 労働力調査 ( 詳細集計 ) 平成 24 年 10~12 月期平均 ( 速報 ) 結果の概要 1 Ⅰ 雇用者 ( 役員を除く ) 1 1 雇用形態 2 非正規の職員 従業員の内訳 Ⅱ 完全失業者 3 1 仕事につけない理由 2 失業期間 3 主な求職方法 4 前職の

労働力調査(詳細集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要

( 様式第 1 号 ( 共通 )) 共通事項 ( 事業所情報欄 ) 1 事業主名 ( - ) 2 事業所住所 3 電話番号 ( ) 5 雇用保険適用 - 事業所番号 4 事業所の 担当者 - 都道府県所掌管轄基幹番号枝番号 6 労働保険番号 - ( 代理人 社会保険労務士による提出代行者または事務代

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Ⅲ コース等で区分した雇用管理を行うに当たって留意すべき事項 ( 指針 3) コース別雇用管理 とは?? 雇用する労働者について 労働者の職種 資格等に基づき複数のコースを設定し コースごとに異なる配置 昇進 教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます ( 例 ) 総合職や一般職等のコースを設定し

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4-1 育児関連 育児休業の対象者 ( 第 5 条 第 6 条第 1 項 ) 育児休業は 男女労働者とも事業主に申し出ることにより取得することができます 対象となる労働者から育児休業の申し出があったときには 事業主は これを拒むことはできません ただし 日々雇用される労働者 は対象から除外されます

2. 有期契約労働者を雇用しているか 設問 1 パート アルバイト 契約社員 嘱託 派遣社員などの有期契約労働者を雇用していますか 選択肢 1 雇用している 2 雇用していないが 今後雇用する予定 3 雇用していないが 以前雇用していた 4 雇用しておらず 今後も雇用しない予定 全体

第27号

9-1 退職のルール 職することは契約違反となります したがって 労働者は勝手に退職することはできません 就業規則に 契約期間途中であっても退職できる定めがある場合には それに従って退職できることになりますが 特段の定めがない場合には なるべく合意解約ができるように 十分話し合うことが大切です ただ

第41回雇用WG 資料

Transcription:

2017 08 人事 人口減少時代に労働力を確保する非正規社員戦力化のポイント ❶ 生産年齢人口の減少時代における企業の課題 ❷ 非正規雇用労働者を守るための労働契約法改正 ❸ 非正規雇用労働者の戦力化に向けた手法 ❹ 60 歳を超えた社員の戦力化のポイント 日新税理士事務所

生産年齢人口の減少時代における企業の課題 労働力確保のために企業が取り組むべき喫緊の課題 今後 長期にわたって生産年齢人口が減少していく中で 人手不足がわが国の経済成長の制約になることが懸念されます 自社の成長及び生産性の向上を図るという点においても 労働力を確保するための対応を急がなければなりません そのために 働く意欲と能力のある未就労者の労働参加機会の拡大や 企業における人材活用の在り方の見直しなど 取り組むべき課題が多くあります 特にわが国の労働市場においては 女性パート 高年齢者の契約社員や嘱託社員などの非正規雇用労働者の戦力化が必要となっています 本レポートでは このような非正規雇用労働者の早期戦力化に向けた取り組みについて解説します わが国の労働市場において企業が取り組むべき課題 生産年齢人口の減少下による労働力の確保 非正規雇用労働者の雇用改善 高年齢労働者の戦力化 多様な働き方への対応による未就労者の確保 脱時間給 制度の導入後への対応 社員の定着に向けた職場環境改善等 非正規雇用労働者数が増加している日本の労働市場とその要因 平成 28 年には 役員を除く約 5,391 万人の雇用者のうち 37.5% にあたる 2,023 万人が非正規雇用労働者となっています さらに 非正規雇用労働者のうち約 1,400 万人が有期雇用で働き 約 3 割弱の 420 万人が通算 5 年を超えて働いているといわれています このような身分の安定しない非正規雇用労働者を守るために 平成 25 年 4 月に改正労働契約法が施行されました この法律の改正により 契約を更新し続けている通算 5 年以上働く非正規労働者は 平成 30 年 4 月から無期雇用を申し出ることが可能になり 企業は原則それを受け入れなけれ 1

ばなりません この法律は 労働者の3 分の1 超まで増えた非正規雇用労働者の雇用安定を図ることを目的としていますが 企業としては 非正規雇用労働者の無期雇用への転換にとどまらず 戦力化に向けた対応も必要となってきています 全労働者のうち約 4 割を非正規雇用労働者で 正規雇用労働者と非正規雇用労働者数の推移占めている ( 資料出所 ) 平成 11 年までは総務省 労働力調査 ( 特別調査 ) (2 月調査 ) 長期時系列表 9 平成 16 年以降は総務省 労働力調査 ( 詳細集計 ) ( 年平均 ) 長期時系列表 10 多様化した非正規雇用労働者の戦力化の必要性 1 非正規雇用労働者はまだ十分に戦力化されていないこれまで 人事制度を始めとする組織と人材のマネジメントは 基本的に雇用期間に定めのない 正社員を前提に設計されてきました したがって 多くの企業の新入社員の育成プログラムやキャリアプランなどは 将来的に組織に長期貢献することを前提として策定されています 一方 非正規社員の育成プログラムやキャリアプランの整備は 遅れているという指摘があります しかし 前述のとおり 非正規雇用労働者が増加している傾向を踏まえると 非正規雇用労働者にも目を向け 戦力化に向けた雇用形態を整備し 育成システムの構築も必要となってきています 2

雇用期間と形態 平成 30 年 4 月より勤務年数が 5 年を超える社員より申し出を受けた場合には 無期雇用に転換しなければなりません サービス業や流通業 福祉関連の事業などでは パートタイマーやアルバイトでも店舗や現場のオペレーションの主要な部分を担当しているケースが増えています また 団塊の世代が大量退職し 若年労働者のスキル不足している企業においては 熟練労働者を嘱託社員として継続雇用するケースも増えています 2 生産性向上のためには非正規雇用労働者の戦力化が急がれる業績の好転や生産性向上を図るために非正規労働者の戦力化を行い正社員への転換を進めている企業では 生産性や利益率においてより競争優位に立つことが明らかとなっています 非正規雇用労働者の正社員への登用を実施している企業側は 非正規雇用労働者から人材を発掘できること 非正社員で雇用している間に従業員の資質をチェックしながら本当に必要な人材を確保できること 正社員への転換という目標を設定することで非正社員の就業意欲の向上につながっているというメリットもあります 企業の側から見ても 非正規労働者を戦力化して活用することや 非正社員から正社員への転換の実施など 非正規労働者のキャリア形成機会を提供することは 非正社員のなかの優秀な人材の確保 採用におけるミスマッチの回避や非正規雇用労働者のモチベーション向上などの好影響をもたらします 3

非正規雇用労働者を守るための労働契約法改正 改正労働契約法の改正により雇止めの減少が期待される 平成 25 年 4 月に改正労働契約法が全面施行されました この法律は 有期労働契約に関する新しいルールを定めるものであり 有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し 働く方が安心して働き続けることができるようにすることが目的です リーマンショック以来 雇止めをする企業が続出し 雇止めを不服とする労働者と企業間での個別労働紛争が急増しました こうした紛争を解決するための民事的なルールや判断基準が十分でなかったため 労働契約についての基本的なルールを定めた労働契約法を改正し 働く意欲のある非正規雇用労働者の確保を図ることとなりました 改正労働契約法の改正点は 有期労働契約に関する次の3 点です 本法の施行日は 下記の1と3については平成 25 年 4 月 1 日です 2については公布日 ( 平成 24 年 8 月 10 日 ) です 1については 平成 30 年 4 月になると施行日から5 年を超えることとなり 同法への対応が必要となります 改正労働契約法の主な改正点 12つ以上の有期労働契約が通算 5 年を超えて反復更新された場合における 労働者の使用者に対する申込みによる 期間の定めのない労働契約 ( 無期労働契約 ) への転換 ( 労契法 18 条 ) 2 有期労働契約のみなし更新等 ( 雇止め法理 の法定化)( 同法 19 条 ) 3 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止 ( 同法 20 条 ) 無期雇用労働者への転換要件 1 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換有期労働契約が5 年を超えて反復更新された場合は 労働者の申込により 無期労働契約に転換させるしくみを導入しなければなりません ただし 6ヶ月以上の空白期間 ( クーリング期間 ) があるときは 空白期間の前契約期間は通算されません 無期契約への転換後は 別段の定め がない限り 転換前と同一の労働条件となります 4

期労働契約へ期労働契約の人口減少時代に労働力を確保する非正規社員戦力化のポイント 込働あ者転りの申換更更1 年目新労2 年新更3 年新更4 年新更5 年新6 年目目目目目労有働ま者し無6 ヶ月以上の空白期間があるとこれまでの期間 (1~3 年 ) は通算されません 込なの申ま更新2 有期労働契約のみなし更新等 ( 雇止め法理 の法定化) 有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している または 有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき 労働者の合理的期待が認められる場合には 雇止めが客観的に合理的な理由を欠き 社会通念上相当であると認めらないときは 有期労働契約が更新されたものとみなされます 3 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止有期契約労働者の労働条件が 期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合 その相違は 職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮し 不合理と認められるものであってはなりません 無期雇用転換ルールの適用者 無期雇用転換ルールの適用者は以下が対象となります 無期転換ルールは 船員や公務員等の本法の規定の適用が除外されている者以外 全ての労働者に適用されますので社員側の年齢や雇用側の業種や規模による適用除外はありません 無期雇用転換ルールの適用者 1 年収 103 万円未満の有期契約パートタイム労働者 アルバイト 260 歳定年退職後に再雇用された嘱託 契約社員 3 派遣社員 4 学校の非常勤講師等 5

働者の申込あ人口減少時代に労働力を確保する非正規社員戦力化のポイント 高年齢者雇用安定法では 事業主に高年齢者の 60~65 歳の間の雇用確保を義務付けています 使用者がこの規定に基づき 60 歳で定年後 有期労働契約の形態で嘱託 契約社員として再雇用した場合でも 有期労働契約が通算 5 年を超えれば その高年齢者は無期転換の申込ができることになります しかし 定年後の再雇用者が無期転換した場合は 65 歳を超えて再現なく雇用を継続しなければならないわけではありません 無期転換した労働者を対象として 別途 当該社員を対象とした就業規則等で定年を定め その定年に達すれば雇用を終了させることは可能です その際には 定年を定めることについての合理性が認められ 労働者へ周知することが必要となります 60~65 歳の再雇用期間を通算 5 年までにしておくことで無期転換権を発生させないことも可能です また 派遣社員についても 派遣元事業主 ( 人材派遣会社 ) との労働契約が有期労働契約である場合には 無期転換ルールが適用されます この場合には 派遣社員と労働契約を結んでいる派遣元事業主との有期労働契約について 通算契約期間を計算します 起算日は法施行日以後の契約から開始となる 通算 5 年を超えて契約更新された場合には 無期雇用へ転換しなければならないとなっていますが 期間の計算は 改正労働契約法の施行日 ( 平成 25 年 4 月 1 日 ) 以後に締結した有期労働契約期間から起算されます したがって 施行日前よりも前の有期労働契約については 通算契約期間には参入されません 平成 25 年 4 月 1 日以降 6 年目 1 年 平成 25 年 4 月以前はカウント 更更1 年新更1 年新更1 年新労1 年 1 年新1 年 り無期労働契約へ転換6

非正規雇用労働者の戦力化に向けた手法 非正規雇用労働者をマネジメントするための課題 コスト削減 および即戦力の獲得という観点から 非正規雇用労働者は 現代の経営においては なくてはならない人材です しかし 単に契約期間の定めをなくすという法への対応だけでは 戦力化は図ることは難しいでしょう そこで非正規雇用労働者をマネジメントする上で課題となるのは 以下 3 点です 非正規雇用労働者をマネジメントするための課題 1 正社員中心に偏重しない業務分担 2 仕事そのものへの動機づけ 3ビジョンや方針 戦略の共有 1 正社員中心に偏重しない業務分担非正規雇用労働者には 単純作業や臨時の定型作業のみ任せるという方法もありますが このような業務の任せ方では 非正規雇用労働者のモラルやモチベーションが下がる危険性があります すでに 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の両者を区別せずに パート社員にも店長 現場責任者 売り場の企画などを任せ 成功している企業が増えています 非正規雇用労働者は 正社員の補完あるいは定型的なサポート業務を担当する役割 という正社員中心の考え方を改めることが大切です 2 仕事そのものへの動機づけ非正規雇用労働者は 正社員に比べると組織に対するロイヤルティが形成されにくいといわれます そこで 非正規雇用労働者のロイヤルティを高める工夫をする必要があります 例えば 専門性の高い業務を任せている派遣労働者に対しては さらに高い専門性を発揮できる役割を与えるなどで仕事そのものに動機づけられるようにします パートやアルバイトに対しても 限定した仕事を与えるだけでなく 能力に応じてより高度な業務を任せることも考えられます この場合も仕事自体に興味を感じてもらい モラルを高めてもらう事が狙いです 7

3ビジョンや方針 戦略の共有さらに 積極的に非正規雇用労働者の組織へのロイヤルティを高めるためには 正社員と区別することなく 組織のビジョンや方針 戦略を共有することです 一時的な関係なのだからといって共有しないのではなく たとえ一時的でも一緒に働く仲間なのだという意思を見せることが重要です マネジメント層からのこうしたメッセージによって 非正規雇用労働者が組織との一体感を持つようになります 非正規雇用労働者の能力開発への取り組み パート アルバイトには単純作業や定型作業を任せ 現場の運営管理や売り場の企画 新商品の開発などは正社員が担うという業務分担が一般的ですが パート アルバイトに新入社員への業務指導や 勤務シフトの作成 在庫管理や商品企画の一部を担わせることで人材活性化を図っている企業も多く見られるようになってきています 一方で 長期間勤務していても補助的業務の範囲を越えられないような業務分担では 下図に示すようなパート アルバイトのニーズに応えられず 非正規雇用労働者の定着 活用からは程遠い状況といわざるを得ないでしょう このような環境下で 様々な就業志向や勤続期間が見られるパート アルバイトをマネジメントしていくためには 以下 3 点の取り組みによりキャリアアップ プランを明示することが必要です このキャリアアップ プランの明示により パート アルバイト社員の就業意欲の向上と離職率の逓減 事業運営の安定化を図ります 1 役割と職務の階層化 2 賃金制度の整備 3 定期的な評価の実施 1 役割と職務の階層化パート アルバイトが担うべき役割を考えるためには 自社の実状に合わせて パートタイム労働者の格付け ( 役割等級 ) 制度を設計します 目的は パートタイム労働者の活用戦略を具体化することです 8

非正規雇用労働者対象の役割等級制度例 格付け ( 役割等級 ) 格付け段階 ( 役割等級 ) の定義 ( 例 ) パート ❺ パート ❹ パート ❸ パート ❷ パート ❶ 全体の業務を熟知した幅広い視点から自社において培われた知識 スキルを体系化し 下位者に対して教示した上で チームメンバー全体のレベルアップを図っている 部門の調整役としてチームメンバーや正社員と連携を図り 快適な職場環境作りに努めている 担当の業務における専門的な知識 スキルを有し 新規採用者に対して適切な指導教育を行っている 主体的なアプローチ 顧客ニーズの把握 ニーズに沿った提案を徹底し 顧客満足向上に努めている 豊富な知識 スキルを有し 期待どおりのサービスを提供している 担当業務についての問題意識を常に持ち 上位者や正社員に対して改善提案を行っている 基本的な知識 スキルを有し 与えられた仕事を 1 人で着実にこなしている 他メンバーに対して 積極的にフォローを行っている 具体的な作業指示を受けながら 与えられた仕事に従事している 日々の業務を通じて 少しでも仕事を早く覚えられるよう 努力している 出典 ) 厚生労働省 要素別点数法による職務評価の実施ガイドライン より さらに 等級別の役割基準別の達成レベルを明示し レベルチェックを行いながら レベルアップを図るための育成への取り組みも有効です 非正規雇用労働者対象の役割基準例 ( スーパーマーケット業 ) 出典 ) 厚生労働省ホームページより 2 賃金制度の整備建設や飲食 福祉関連事業をはじめ様々な業種で採用難が深刻化し 採用時の時給が高騰している現在こそ 採用後の賃金体系を整備し 一律的な昇給による総額人件費上昇を抑止する必要があるでしょう そのためには 上記の等級フレームに応じた基本給 ( 時給 ) テーブルが有効です また一方では 事業への貢献度に応じた人件費分配の仕組みを作ることで 非正規社員の更なる活用が図れます 9

力考課績考課人口減少時代に労働力を確保する非正規社員戦力化のポイント 非正規雇用労働者を対象とした賃金体系例 基本給 ( 時給 ) パート等級職責 主な役割時給水準 ( 募集時 950 円の場合 ) 3 2 1 店長補佐パートリーダーとして統括中堅 ~ベテラン発注業務 新人指導新人 ~ 中堅レジ打ち 陳列 1,100 円以上とし 以降は 1 年ごとに評価により決定 (1,100 円 ~1,300 円 ) 1,000 円以上とし 以降は 1 年ごとに評価により決定 (1,000 円 ~1,100 円 ) 1 年目 950 円とし 以降は 1 年ごとに評価により決定 (950 円 ~1,000 円 ) 諸手当 手当区分繁忙期手当年末年始特別手当責任者手当賞与 内容土日祝出勤 1 日あたり : 時給 30 円加算出勤 1 日あたり :2,000 円店長補佐 : 出勤 1 日あたり 500 円 / パートリーダー : 出勤 1 日あたり 300 円夏期 冬季に所定労働日数のうち出勤日数及び勤務時間を考慮して支給 3 定期的な評価の実施様々な勤務形態のパート アルバイトへの一律的な評価は現実的ではないと思われることから まずは評価対象となる水準の検討から始めましょう その上で評価視点を等級ごとに設け 年 1 回程度評価を行う方法が望ましいでしょう 非正規雇用労働者対象の評価制度例 区分評価項目定義 1 等級 2 等級 3 等級情意考課要求レベル 規律性職場のルール 規則を守っているか 協調性 積極性 仕事を進める上で同僚 上司 部下とのコミュニケーションが取れているか新しい仕事にチャレンジしようという意欲を 持ち業務に取り組んでいるか能 理解力状況をわきまえた対応ができているか 創意工夫力 問題解決力 専門性 より良いやり方について提案や工夫を行っているか 成現場における課題を抽出し 解決に向けて取り組んでいるか 仕事を進める上で必要となる専門スキルや技 能を発揮できているか 部下指導部下 後輩の指導に熱心に取り組んでいるか - 10

メリットデメリット継続雇用制度定年延長人口減少時代に労働力を確保する非正規社員戦力化のポイント 60 歳を超えた社員の戦力化のポイント 中小企業における 65 歳雇用のあり方と選択肢 厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられていくことに伴い 平成 25 年 4 月から改正高年齢者雇用安定法が施行されました 平成 37 年まで 65 歳までの雇用が段階的に義務化されていく中で 企業の選択肢は 継続雇用制度 の導入 あるいは 定年延長 の2 種類です 継続雇用制度と定年延長のメリット デメリットをまとめると 代表的な部分は以下のようになります 雇用が一旦リセットされるため 役職 給与条件等の変更がしやすい 勤務日 時間など個別事情に合わせた勤務 賃金支払いができる 技術や専門スキルを引き続き社内に留保することができる 安定した人員の雇用を維持することができる 技術や専門スキルの高い社員の社外流出 やる気の減退を招く危険性がある 労働力が不安定になる危険性がある 職務内容を変化させないのであれば 大幅な給与減額が難しい 勤務日 時間数など 個別事情に合わせた勤務形態 賃金支払いが取りづらい このように見ると 技術や技能の習得に長い時間を要する製造業やサービス業においては 定年延長の対応がふさわしいと考えられます 一方 職務の習熟が早く定型的な業務が多い業種では 継続雇用制度の採用が望ましいといえるでしょう このようなメリット デメリットを整理した上で 自社にどちらの対応がふさわしいか判断が必要です 定年制を定めている企業の割合 調査年 定年制を定めている企業の割合 60 歳 61 歳 62 歳 63 歳 64 歳 65 歳以上 平成 28 年 95.4% 80.7% 0.5% 1.0% 1.3% 0.4% 16.1% 平成 27 年 92.6% 80.5% 0.3% 1.3% 0.7% 0.3% 16.9% 平成 26 年 93.8% 81.8% 0.8% 1.0% 0.7% 0.1% 15.5% 平成 25 年 93.3% 83.0% 0.3% 1.2% 0.9% 0.6% 14.0% 平成 24 年 92.2% 82.7% 0.2% 1.1% 0.9% 0.5% 14.5% 11

上記は定年制のある企業の比率と 定年年齢の変化をみた統計 ( 厚労省 ) ですが 定年 年齢を引き上げている企業はほとんど見られないことがわかります 65 歳以降の高年齢者の雇用の検討 高年齢者雇用安定法改正により 企業における希望者全員の 65 歳までの雇用確保措置が図られたことで 60 歳代前半の雇用情勢に一定の成果が見られました しかしながら一方では 既に団塊の世代が継続雇用の終了を迎えているなど 65 歳以降の働く意欲のある高年齢者への対応には課題が見られます 65 歳以降の雇用状況を見ると 約 3 割の企業で働くことができないとなっており 希望者全員が働くことができるとしている企業は全体の1 割にとどまっています 65 歳以降の高年齢者の雇用状況 従業員数 働くことができない 希望者で基準該当者 のみ働くことができる 希望者全員 働くことができる 無回答 合計 29.6% 55.5% 10.4% 4.5% 100 人未満 25.5% 57.2% 12.0% 5.2% ~300 人未満 31.3% 55.8% 9.6% 3.3% ~1000 人未満 37.4% 54.0% 6.5% 2.2% 1000 人以上 21.5% 47.8% 13.9% 16.7% なお 65 歳以上の社員が 希望者全員働くことができる あるいは 希望者で基準該当者のみ働くことができる としている企業では 7 割超が雇用に関する上限年齢を設けていないという結果も示されています 本人の意向や企業の人材不足の実態を踏まえ 高年齢者の積極的な活用も必要となっているといえます これまで解説してきた改正労働契約法への対応や非正規雇用労働者の戦力化に向けたスキルアップを図るための取り組みを推進していただき 自社の非正規雇用労働者の定着を図り 競争力を高めていただければ幸いです 12

参考文献 知って得する! 非正規社員の労務管理 ( 労働調査会 ) 今日からはじめる無期転換ルールの実務対応 ( 第一法規 ) 13