肝炎ウイルス検査の進め方 -HBV HCV について - 愛知県臨床検査技師会生物化学分析班 愛知医科大学病院 坂梨大輔
Menu 肝炎ウイルスについて 肝炎ウイルスマーカーについて B 型肝炎ウイルス (hepatitis B virus:hbv) の検査 C 型肝炎ウイルス (hepatitis C virus:hcv) の検査 肝炎ウイルスPCRについて ( 注意点 )
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肝炎 肝炎はさまざまな原因で起こる肝臓の炎症 肝炎は一般にウイルス 特に 5 種類の肝炎ウイルスが原因で起こる 頻度は低いものの 伝染性単核球症 黄熱病 サイトメガロウイルス感染など 他のウイルス感染が原因で肝炎が起こることもある 非ウイルス性肝炎の主な原因はアルコールの過剰摂取や一部の薬剤の使用で たとえば結核の治療薬であるイソニアジドが肝炎を起こすことがある
肝炎ウイルスの種類 発見年度形態感染経路ワクチン症状 A 型肝炎ウイルス 1973 RNA 経口感染 ( 糞便汚染 ) 急性 B 型肝炎ウイルス 1964 DNA 非経口感染 ( 血液 母子 ) 急性 + 慢性 肝硬変 肝癌へ進行 C 型肝炎ウイルス 1989 RNA 非経口感染 ( 血液 ) 急性 + 慢性 肝硬変 肝癌へ進行 非経口感染 ( 血液 母子 ) D 型肝炎ウイルス 1977 RNA 単独で増殖しない 増殖には HBV が必要 急性 + 慢性 HBV との同時感染では 急性肝炎が劇症化しやすい E 型肝炎ウイルス 1980 RNA 経口感染 ( シカ イノシシ肉の生食 ) 急性 F 型肝炎ウイルス??? 1994 RNA 発見されたものの追試で確認できなかったため存在が無かったことになっている G 型肝炎ウイルス? 1995 RNA 症状が確定しないなど未知の部分が多い 肝炎ウイルスとして扱わないこともある TT 型肝炎ウイルス? 1997 RNA G 型肝炎と同じく肝炎ウイルスとしてまだ認められていない部分が多い
肝癌の原因 本邦では毎年約 3 万 5 千人が肝細胞がんで死亡するが, その約 70% が HCV 約 15% が HBV 感染によるもの その他, 約 15% HBV, 約 15% HCV, 約 70%
HBV
HBV の分布 東南アジア アフリカを中心に世界で約 2 億人の保有者が, 日本では約 130-150 万人の保有者が存在すると推定されているが 母子感染予防により今後は減少していくと予想される
感染年齢による B 型肝炎の経過の違い 1)
HCV
HCV の分布 アフリカを中心に世界で約 1.7 億人の保有者が, 日本では約 150 万人以上の保有者が存在すると推定されている 全国の日赤血液センターにおける初回献血者のデータに基づいて 2000 年時点の年齢に換算して集計した HCV 抗体陽性率は 16~19 歳で 0.13% 20~29 歳で 0.21% 30~39 歳で 0.77% 40~49 歳で 1.28% 50~59 歳で 1.80% 60~69 歳で 3.38% である HCV 抗体陽性者の 7 割が HCV 持続感染者 (HCV キャリア ) であるとすると 15~69 歳までの年齢層の中で 100 万人近い人々が HCV に感染していることを知らずに生活していることになる 2)
C 型肝炎の経過 肝臓は 沈黙の臓器 とよばれ 肝炎になってもほとんど自覚症状がない!! 3)
肝炎総合対策の推進
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輸血後肝炎発生率の年度別変化 1)
肝炎ウイルスの検査 -HBV HCV- 近年の分子生物学的手法によるウイルス検出と 抗原 抗体系の検出が主流である 抗原 抗体系 HBs 抗体 HCVコア抗原 HBs 抗原 HCV 抗体 HBc 抗体 HBe 抗体 HBe 抗原 HBVコア関連抗原量 分子生物学的手法 HBV 遺伝子型 HBV-DNA 定量 HCV-RNA 定量
肝炎ウイルスマーカーの選択基準 ウイルスマーカーの選択は目的に応じて異なる 1. 病因ウイルス検索 2. 病態把握のためのウイルス動態検討 3. 治療方針設定のためのウイルス測定 4. 治療効果判定のためのウイルス動態検討
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HBV 1. 病因ウイルス検索 (HBV に感染している??) 2. 病態把握のためのウイルス動態検討 ( 急性? 慢性?? キャリア?? 既往??) 3. 治療方針設定のためのウイルス測定 4. 治療効果判定のためのウイルス動態検討 HBV 遺伝子型 HBs 抗原 HBe 抗原 HBe 抗体 HBc 抗体 HBs 抗体 HBV コア関連抗原量 HBV-DNA 定量
HBV の構造 2 本鎖 DNA ウイルスで 核 ( コア ) とそれを包む外皮 ( エンベロープ ) からなる 2 重構造 3 つの抗原を有する 外側内側 HBs 抗原 (Surface, 表面 ) HBe 抗原 (Envelope, 外皮 ) HBc 抗原 (Core, 核 )
B 型肝炎ウイルスマーカーの推移 B 型急性肝炎でのウイルスマーカー推移 4) HBV キャリアの病期とウイルスマーカー推移 4)
HBV の検査 - 病因ウイルス検索 screening- HBs 抗原 B 型肝炎の発症において陽性となるため スクリーニングに用いられる HBs 抗原が陽性であるということは現在 HBV に感染していることを示す ( 多くの場合 HBc 抗体も陽性 ) 判定結果が陰性であっても HBV 感染が疑われる場合には経時的に検査し また他の検査結果 臨床症状などを加味して総合的に判断することが必要
HBV の検査 - 病因ウイルス検索 - HBV に感染していても HBs 抗原陰性となる場合 1) ウインドウ ピリオド 2) HBVキャリア 3) HBV 急性肝炎 4) HBs 抗原エスケープ変異株 5) 潜伏感染 de novo 肝炎 6) オカルトHBV 肝炎 経時的に検査 HBs 抗原以外の検査結果 臨床症状を参照し総合的に判断
HBV の検査 - 病態把握のためのウイルス動態検討 - HBs 抗原 HBV に感染している HBs 抗体 HBs 抗原に対する抗体で中和抗体として働く HBs 抗体陽性は HBV 感染を受けたことがある場合 ( 感染既往 多くは HBc 抗体も陽性 ) または HB ワクチン接種を受けたことを示す
HBV の検査 - 病態把握のためのウイルス動態検討 - HBs 抗原 HBs 抗体 HBV に感染している HBV 感染既往 or ワクチン接種 HBc 抗体 HBVのコア蛋白に対する抗体 感染比較的早期から血中に出現し 長年持続するためHBV 感染者を既往感染者も含めて広く拾い出すことが可能 従来より HBc 抗体価によるHBV 感染状態の把握が行われてきた ( 低抗体価 : 既往 高抗体価 : キャリア ) が 研究 測定系の進歩によりHBs 抗原の精密測定 IgM-HBc 抗体測定にそれを譲っている
HBV の検査 - 病態把握のためのウイルス動態検討 - HBs 抗原 HBs 抗体 HBV に感染している HBV 感染既往 or ワクチン接種 HBc 抗体 最近の研究で HBs 抗原陰性で HBc 抗体陽性の場合は HBs 抗体の有無に かかわらず HBV 既往感染であることを示し 体内に HBV が潜伏感染してい ることが明らかになった 免疫能低下で HBV が再増殖し 肝炎が再燃する ことがあるので注意喚起されている 免疫抑制剤や抗がん剤などの使用に際しては HBs 抗原 HBs 抗体とともに HBc 抗体を測定することが推奨されている
免疫抑制 化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン ( 改訂版 )
HBV の検査 - 病態把握のためのウイルス動態検討 - HBs 抗原 HBs 抗体 HBc 抗体 HBV に感染している HBV 感染既往 or ワクチン接種 HBV に感染している or HBV 感染既往 IgM-HBc 抗体 HBV 感染初期に 3~12 ヶ月間一過性に高力価で出現するため B 型急性肝 炎の診断に用いられる HBV キャリアの急性増悪でも低力価で陽性化することがある
HBV の検査 - 治療方針設定のためのウイルス測定 - B 型慢性肝炎の治療方針設定には HBe 抗原と HBV-DNA の検索が必要 5)
HBV の検査 - 治療方針設定のためのウイルス測定 - HBs 抗原 HBs 抗体 HBc 抗体 IgM-HBc 抗体 HBVに感染している HBV 感染既往 orワクチン接種 HBVに感染しているor HBV 感染既往 B 型急性肝炎 orキャリア急性増悪 HBe 抗原 HBe 抗体 HBe 抗原は臨床的にHBV 増殖を反映するマーカーとして用いられている 陽性者ではHBVの増殖力が強く血中ウイルス量は多い 経過でHBe 抗原のセロコンバージョン (HBe 抗原が陰性化しHBe 抗体陽性となる ) が起こると 約 80% の例で肝炎は沈静化に向かう
HBV の検査 - 治療方針設定のためのウイルス測定 - - 治療効果判定のためのウイルス動態検討 - HBs 抗原 HBs 抗体 HBc 抗体 IgM-HBc 抗体 HBe 抗原 HBe 抗体 HBVに感染している HBV 感染既往 orワクチン接種 HBVに感染しているor HBV 感染既往 B 型急性肝炎 orキャリア急性増悪 HBVの増殖力が強い HBVの増殖力が弱い ( 肝炎の沈静化 ) HBV-DNA 定量 血中 HBV-DNA 定量は肝細胞でのHBV 増殖状態を反映するため 病態把握や予後の予測に有用 抗ウイルス薬の適応や治療効果判定にも用いられる 測定レンジ 感度も優れている (2.1-9.0 Log copy/ml)
HBV の検査 - 治療効果判定のためのウイルス動態検討 - HBV-DNA 量測定は感度の高い検査だが あくまで血中 ( 血清 or 血漿 ) の DNA 量を測定している 陰性化後もフォローアップが必要 患者番号 ******** 氏名 ( カナ ) ***** 生年月日 ***** カルテ番号 ******** 氏名 ( 漢字 ) ***** 性別 M 年齢 63 検査日 2011/2/24 2011/5/12 2011/7/21 2011/9/15 2011/11/17 2012/3/22 2012/4/26 2012/7/12 TaqManHBV 検出せず * 検出せず <2.10 * <2.10 検出せず <2.10 * <2.10 検出せず 増幅シグナル検出せず検出せず検出検出検出せず検出検出検出せず 表中 * 印は再検済みコメントを示す
HBV の検査 - まとめ - HBs 抗原 HBs 抗体 HBc 抗体 IgM-HBc 抗体 HBe 抗原 HBe 抗体 HBV-DNA 定量 HBVに感染している HBV 感染既往 orワクチン接種 HBVに感染しているor HBV 感染既往 B 型急性肝炎 orキャリア急性増悪 HBVの増殖力が強い HBVの増殖力が弱い ( 肝炎の沈静化 ) HBVの量を反映 そのほか HBV の感染経路 自然経過や治療効果を予測する HBV 遺伝子型などの検査がある
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HCV 1. 病因ウイルス検索 (HCVに感染している??) 2. 病態把握のためのウイルス動態検討 ( 持続感染? 感染既往??) 3. 治療方針設定のためのウイルス測定 4. 治療効果判定のためのウイルス動態検討 HCV 遺伝子型 HCV 抗体 HCV コア抗原 HCV-RNA 定量
HCV の構造 1 本鎖 RNA ウイルスで 核 ( コア ) とそれを包む外皮 ( エンベロープ ) からなる 2 重構造を有する
HCV の検査 - 病因ウイルス検索 screening- 一般的に HCV 抗体検査が最初に行われる HCV 抗体陽性者の中には 現在ウイルスに感染している人 (HCV 持続感染者 ) と 過去に HCV 感染したが現在は感染していない人 ( 既往者 ) がいる HCV 抗体検査 検出部位 6) HCV 抗体陽性の場合 ウイルスの存在の有無を確認する
HCV の検査 - 治療方針設定のためのウイルス測定 - C 型慢性肝炎の治療方針設定にはウイルス量と HCV Genotype の評価が必要 5)
HCV の検査 - 治療方針設定のためのウイルス測定 - HCV Genotype( セログループ ) について 1) 日本では 1b が全体の約 70% を占め 次いで 2a が約 20% 2b が約 10% となっており これ以外の型はごく少数にみられるに過ぎないことが明らかにされている
HCV 定量検査の感度 測定範囲 7) 一部改変 第一世代コア抗原 第二世代コア抗原 (CLEIA) 第三世代コア抗原 (CLEIA) pg/ml fmol/l fmol/l アンプリコア定性法の感度 (50 IU/mL) 分岐鎖 DNA プローブ法 meq/ml アンプリコア HCV モニター オリジナル法 アンプリコア HCV モニター ハイレンジ法 リアルタイム PCR 法 KIU/mL KIU/mL LogIU/mL 1 2 3 4 5 6 7 8 HCV-RNA 量 (LogIU /ml) * 3 LogIU/mL = 10 fmol/l
HCV の検査 - まとめフローチャート 7) -
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DNA RNA 定量検査の注意 - クロスコンタミネーション - クロスコンタミネーションとは? 検査試料や実験対象になるサンプル間での混入を意味し 例えばある患者から採取した遺伝子サンプルに別の患者のサンプルが少量混入する場合などがこれに当たる このような医療分野でのクロスコンタミネーションは誤った診断結果から医療ミスにつながる可能性があるため 特に注意が必要とされる HCV,HBV の PCR では 取り扱う検体が超高濃度から 検出せず まで幅広い 特に検体を別容器に移しかえるときなど クロスコンタミネーションに充分注意する必要がある
DNA RNA 定量検査の注意 - クロスコンタミネーション - TaqManHBV の場合 10 Log copy/ml(10,000,000,000 copy/ml) の陽性検体が陰性検体 1 ml に 0.00001 μl(10 pl) 混入したら 理論上 その陰性検体は 検出 となってしまう
DNA RNA 定量検査の注意 -DNAse RNAse- 私たちの汗 唾液には DNA RNA を分解する酵素が含まれている 検体に混入した場合 正しい検査結果は得られない ( 偽陰性 )
DNA RNA 定量検査の注意 - まとめ - 正しい検査結果を得るためには 検体を扱う環境を整えることが必要 外部検査委託している場合においても 検査前検体の扱いには充分注意が必要 遺伝子検査検体取り扱いガイドライン ( 遺伝子 染色体検査班 ) 愛知県臨床検査標準化協議会 AiCCLS : Aichi Committee for Clinical Laboratory Standardization 等を参考にされるとよいかと思います
References 1) 2008- 独立行政法人国立国際医療研究センター肝炎 免疫研究センター肝炎情報センター 2) 国立感染症研究所感染症情報センター感染症の話 2004 年第 12 週号 3) Hamada H, et al: Cancer 95:331-9, 2002 4) 田中榮司肝胆膵 60(4):625-630, 2010. 5) 平成 23 年度厚生労働省厚生科学研究費肝炎等克服緊急対策研究事業 ( 肝炎分野 ) ウイルス性肝炎における最新の治療法の標準化を目指す研究班平成 24 年 B 型 C 型慢性肝炎 肝硬変治療のガイドライン 6) 真治紀之日本臨床検査自動化学会誌 33(2):127-130, 2008. 7) 仁科惣治 日野啓輔肝胆膵 60(4):643-648, 2010.
ご静聴ありがとう ございました