C NSCA JAPAN Volume16, Number 3, pages16-23 SPORTS PERFORMANCE SERIES 26 ハンマー投げ : 基本テクニックと筋力トレーニング計画 The hammer throw: Fundamental technique and strength plan Ed Burke, Chairman, Hammer Throw Development, TAC Ladislav Pataki, Ph D. Kevin Doherty, Los Gatos Athletic Club Training Management Systems Inc. Los Gatos, California はじめにハンマー投げの用具は ワイヤーで繋がれたグリップと硬い金属球からなる ハンマー全体の重さは16ポンド (7.257kg) である このハンマーを投げるときの特徴は 選手は自分を中心とした軌道で大きく2 回ハンマーを予備回転させ ( ワインド ) 続いて3 4 回選手が回転する ( ターン ) そのとき選手とハンマーは一体となり 絶妙なバランスとアンバランスを保ちながら同時に回転する ハンマー投げのトレーニング計画を作成するときに最優先すべき要素は リズムとタイミングとグラデーション ( 力の増大 ) である アスリートが関連スキルを習得し始めた段階では 常にこれらの基本要素に戻って練習することが必要である てき投擲の高度なパフォーマンスを支配する最も重要な要因は ダイナミック バランス すなわち運動中のバランスの原理である ( 図 1) ダイナミックバランスは ハンマー (H) と投擲選手 (T) との間で生じるバランスである 投擲選手の体重 (Tm) はハンマーの重量 (Hm) より重い したがってバランスをとるためには ハンマー側に 何か を足す必要がある この 何か とはすなわち 選手の回転半径 (Tr) よりも長いハンマーの回転半径 (Hr) であり ハンマーの加速により増大した遠心力がハンマーの重量に加わることによってダイナミックなバランスが生じるのである ただしこれはあくまでも一般的な説明にすぎない ハンマーと選手のダイナミックなバランス体系においては 選手の全体重がその重量に比例して使われるわけではない 各身体部位の絶対的質量の貢献度は 回転軸からの距離と回転軸自体の角度に依存して 図 1 運動中のバランスいる したがってTmは 投擲選手の姿勢に依存する変数である 地面にも回転軸にも近い選手の身体部位 ( 下腿と足 ) のTmへの寄与は総じて少ない これに対して 地面から離れ また回転軸からも遠い頭部や体幹の質量は 16 April 2009 Volume 16 Number 3
Tmに大きく寄与する 投擲選手は 円周 7フィート (2.13m) のサークル内で回転し 両足で引きと回転を繰り返しながら ( 両脚支持 図 2) アンバランスを生じさせ 求心力を増大させる 選手は身体の運動エネルギーをハンマーに伝え 再び片足立ちとなり ( 片脚支持 図 3) ダイナミックなバランスを保つ ハンマーのヘッド部分はこの間 傾斜した螺旋形の軌道を回りながら 投げ手がターンするたびに最高点と最下点を通過する 図 2 求心力を生むアンバランス図 3 動的バランスの回復 ワインド選手とハンマーがサークル内で回転を始める前に腕を回す目的は ハンマーが選手の体重と拮抗するために必要な遠心力を生じさせるためである 右利きの選手の場合 左手でハンマーのハンドルを握り その上に右手を重ねて握る 通常は2 回ワインドし 最初の1 回は選手の右側で行われる 肩はボールの動きに伴い前面の軌道と交差するが ボールが選手の後ろを通過するときには肘を頭部より上に上げる 2 回目のワインドで 選手は広い軌道上のハンマーの動きを把握しながらコントロールしなければならず 顔を前方に向けたときに 膝部分の中央を通る最下点までハンマーを回す 選手はハンマーを加速するために動作速度を徐々に上げて 下方へのストロークに力を集中する必要がある これはよく知られている 振り子の原理 である ワインドの動作に関与する主な筋群は 尺側手根屈筋 橈側手根屈筋 腕橈骨筋 上腕三頭筋 上腕二頭筋 大円筋 僧帽筋 棘下筋 脊柱起立筋 広背筋 外腹斜筋 腹直筋および三角筋である ( 図 4 参照 ) 上腕二頭筋三角筋中部三角筋後部僧帽筋菱形筋広背筋脊柱起立筋外腹斜筋図 4 ワインド 上腕三頭筋 大円筋 C National Strength and Conditioning Association Japan 17
かかと- 母指球によるターン選手は ハンマーが右下方から自分の前面を通過するときに ハンマーの力に対抗してハンマーを引きながら体重を回転軸から遠ざけ 足を回転させてアンバランス / バランスを反復して力を生み出す 3 回ターンのテクニックでは デリバリー ( 投げ出し ) へと続く3 回のかかと ( 左足 ) と母指球 ( 右足 ) のターンを行う ここで特に重要なことは アンバランスは両脚支持の下で生じ バランスは片脚支持のときに生じることである このときの鉄球は135 ~ 180 の角度で上方に動いている 4 回ターンのテクニックも同じパターンではあるが 最初のターンでは左足の母指球が360 回転し 続いて前述したかかとと母指球によるターンが 3 回行われる ( 図 5 参照 ) 図 6の最後の図は ハンマーが約 270 の軌道上にあるときに右足が着地することを示している これにより 選手は重力と低い位置に下げた自分の重心を利用して最高点から最下点 すなわち0 まで力を発揮できる またデリバリー局面で より長い軌道を通って力を発揮できる 視線はターンの間を通して鉄球の方向を向いていることが重要である これはかつての 70m 級のスタイルと現在の80m 超級のスタイルとのパフォーマンスの重要な違いである 特筆すべき点は フットパターンの方向がサークルの中心 ( 図 7) からおよそ10 ~ 20 ずれていることである 選手がこの角度で前進することにより ハンマーの加速軌道を長くできる ( 図 6 参照 ) ターンの主要動作に関与する下半身の筋群は 足底屈筋 腓腹筋 ヒラメ筋 大腿四頭筋 ハムストリングス 外側 開始位置 開始から足のターン 爆発的な振り上げ リフティングとクローズ 爆発的な着地 母指球かかと 母指球かかと 足部下腿部下肢全身 図 6 図 5 足の位置とハンマーの角度の関係 18 April 2009 Volume 16 Number 3
広筋 内側広筋 大殿筋 および中殿筋である 上半身の筋群もハンマーをコントロールするために使われる それらは長掌筋 尺側手根伸筋 上腕二頭筋 上腕三頭筋 僧帽筋 大円筋 広背筋 腹直筋 外腹斜筋 前鋸筋および三角筋後部である ( 図 8 参照 ) 投擲方向 デリバリーこの局面で 前述したすべての要素が統合される ハンマーの大きな牽引力は 身体の姿勢によってバランスが保たれ また 筋力の大きな影響を受ける 選手はハンマーの牽引力に対抗して重心を下げ 下半身のセグメントを左に回転させながら力を増大させ 鉄球が最大速度に達し ( 最終的に遠心力が求心力に打ち勝って ) 空中に飛び出すまで 後部上方に向かって爆発的に力を発揮する ( 図 9) ハンマー投げのデリバリー動作に関与する主な筋群は ( 図 10と図 11) ヒラメ筋 腓腹筋 前脛骨筋 内側広筋 外側広筋 大腿直筋 縫工筋 ハムストリングス 中殿筋 大殿筋 脊柱起立筋 僧帽筋および胸鎖乳突筋である 筋力の向上を目標としたトレーニング計画 ( 表 1) には12 週間のスケジュールが含まれ そのスケジュールには 完璧なアスリートを育成するために投擲はもちろん テクニックドリル 映像モデルの学習 スプリント プライオメトリックエクササイズ オリンピックスタイルの爆発的なリフティングエクササイズ 競技特異的な体幹エクササイズ さらに回復のための活動が取り入れられている 目標スケジュール例 ( 表 2) はトレーニングサイクルの統合例であり 短期および中期の投擲目標と筋力トレーニング 高強度のハンマー投げまたはプライオメトリクスを組み合わせてあ 上腕二頭筋上腕三頭筋 ハンマーの軌道を延長するために 足の進行方向は斜めになる図 7 足の進行方向浅指屈筋僧帽筋三角筋後部 大円筋大胸筋広背筋前鋸筋外腹斜筋腹直筋内転筋半膜様筋縫工筋薄筋大腿直筋内側広筋ヒラメ筋外側広筋腓腹筋図 8 ターン C National Strength and Conditioning Association Japan 19
る ハンマー投げは大きな筋力と爆発的な筋活動を必要とする競技である したがって表 3に挙げたエクササイズは この活動を模擬し 筋活動を補う拮抗筋の力を利用できるオリンピックスタイルのリフティングである From NSCA Journal :Volume11, Number 4, pages 4-10, 77-81. 1989. 図 9 デリバリー局面 胸鎖乳突筋 胸鎖乳突筋 僧帽筋 僧帽筋 脊柱起立筋 脊柱起立筋 中殿筋 中殿筋 大腿筋膜張筋大腿直筋 大殿筋 大腿直筋 大殿筋大腿筋膜張筋 外側広筋 ハムストリングス 外側広筋 ハムストリングス 前脛骨筋 腓腹筋ヒラメ筋 前脛骨筋 腓腹筋ヒラメ筋 図 10 ハンマー投げのデリバリー : 最高点の最終姿勢 図 11 ハンマー投げのデリバリー : 最下点の姿勢 20 April 2009 Volume 16 Number 3
エクササイズ補助活動 ハンマー投げ - Syber Vison Systems,Inc. 映像モデルの学習 テクニックのエクササイズドリル ハンマー投げ - 全動作投擲 様々な姿勢からのスタートとスプリントスプリント 8 秒間の静的な全身二重抵抗ストレッチ 動的ストレッチストレッチ ウォーキング ジョギング サイクリング スイミング エアロビックダンス 回復のための活動 有酸素性活動 - リラクゼーション 目標活動 ボックスジャンプ ( 水平および垂直 単独および反復 ) バウンディング 表 1 筋力目標トレーニング計画 トレーニングスケジュール 週 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 トレーニング / 週 2 2 2 0 2 2 2 0 2 2 2 0 分 / トレーニング 20 20 20 0 20 20 20 0 20 20 20 0 トレーニング / 週 2 2 2 2 0 2 2 2 0 2 2 2 分 / トレーニング 20 20 20 20 0 20 20 20 0 20 20 20 トレーニング / 週 3 2 3 3 1 2 3 3 1 2 2 2 投擲 / トレーニング 30 30 20 20 30 30 20 20 30 30 20 20 トレーニング / 週 2 2 1 2 0 2 1 2 0 2 2 2 ランニング / トレーニング 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 トレーニングスケジュール 週 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 トレーニング / 週 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 分 / トレーニング 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 トレーニング / 週 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 分 / トレーニング 30 30 30 30 30 30 30 30 30 30 30 30 トレーニングスケジュール 週 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 トレーニング / 週 3 3 1 2 3 3 1 2 3 3 1 2 セット数 / トレーニング 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 後方オーバーヘッド 前方オーバーヘッド 円盤投げスタイル ハンマー投げスタイル アンダーハンド フォワード 砲丸やパッドを用いた総合的な投擲運動 トレーニング / 週 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 投擲 / トレーニング 40 40 40 40 40 40 40 40 40 40 40 40 スナッチ パワークリーン筋力 : オリンピックリフティング 週に 3 回のトレーニング ベンチプレス ミリタリープレス インクラインプレス 筋力 : 上半身 - 伸筋群 アームカール 筋力 : 上半身 - 屈筋群 エクササイズ / 週 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 セット数 / トレーニング 5 3 5 5 8 3 5 5 8 3 5 3 強度 50 100 55 65 60 95 65 75 70 95 85 100 様々なスタンスと深さで行うスクワット レッグプレス 筋力 : 下半身 - 伸筋群レッグエクステンション バックスクワット 強度分 / トレーニング レッグカール筋力 : 下半身 - 屈筋群 Sedych ツイスト * ベンチツイスト ハンマーツイスト 筋力 : 体幹エクササイズディスカスツイスト エイト ワインド 時間 * プレートかメディシンボールを身体の前で保持し 骨盤を真っ直ぐに保ったまま両腕を左右に捻る 週 C National Strength and Conditioning Association Japan 21
表 2 ハンマー投げのジュニア選手のための目標スケジュール例 週末の日付 6 月 5 日 1 週 2 週 3 週 4 週 5 週 6 週 7 週 8 週 9 週 10 週 11 週 12 週 13 週 14 週 15 週 16 週 190ft ハンマー投げ到達目標ピークの州大会での優勝 筋力増強期トレーニングサイクル休息期開始期筋力期爆発的筋力期 調整期戦術 / 技術期 テスト結果ハンマー投げ 170ft(52m) 中間目標パワークリーン 235lb.(106kg) スクワット 350lb.(158kg) トリプルジャンプ 35ft.(11m) 筋力目標パワークリーン 250lb.(110kg) スクワット 370lb.(167kg) ベンチプレス 295lb.(133kg) ハンマー投げ 180ft(55m) パワークリーン 250lb.(110kg) トリプルジャンプ 38ft.(12m) 試合でウォームアップより遠くに投げる リフティングトレーニング中強度中量 リフティング中強度多量 リフティング高強度少量 高強度スローイング / バウンド 多量 高強度 中強度 中量 中強度中量 高強度少量 22 April 2009 Volume 16 Number 3
表 3 ハンマー投げに適したエクササイズの選択 月曜日水曜日金曜日毎日 デッドリフト ( または ) スクワット ( または ) ベンチプレスストレッチ ハイプル ( または ) レッグプレス ( または ) アームカール Sedych ツイスト パワークリーン ( または ) ラムラック ( または ) ラットプルダウンクランチカールアップ パワースナッチ レッグカール 民間フィットネスクラブ関係者 公共施設関係者 企業の福利厚生担当者 学校 病院関係者 福祉関係者およびその他一般など 計 20,000 名の来場が見込まれるフィットネス業界最大の展示会 ヘルス & フィットネスジャパン 2009 が 6 月 17 日 ( 水 ) から 19 日 ( 金 ) までの 3 日間 東京ビッグサイトを会場に開催されます NSCA ジャパンは下記要項にて 主催セミナーを開催いたします 開催日程 2009 年 6 月 18 日 ( 木 ) HFJ2009 会場 東京国際展示場 東京ビッグサイト ( 東京都江東区有明 3-21-1) 時間帯 講師名 110:00 ~ 11:30 星川佳広 213:00 ~ 14:30 鈴木志保子 315:00 ~ 16:30 竹島伸生 演題 1 一流スポーツ選手 ( ジュニア ~ シニア ) を対象とした体力測定 ~ 測定によりトレーニングを個別化し 長期 継続的に競技力向上をはかる ~ 2 食生活の面から自己管理能力を養う 3First Step Exercise の勧め ~ Well-rounded exercise の実践を目指して ~ 講師略歴 1 星川佳広 ( ホシカワヨシヒロ ) 浜松ホトニクス スポーツホトニクス研究所勤務 NSCA ジャパン主催セミナーのご案内 静岡県体育協会スポーツ科学委員会委員スポーツ選手や一般人の体力に関する研究に従事 2 鈴木志保子 ( スズキシホコ ) 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科准教授 管理栄養士 NPO 法人日本スポーツ栄養研究会副会長健康増進やメタボリックシンドロームの予防 改善 子どもの発育 発達についても研究や指導を行う 3 竹島伸生 ( タケシマノブオ ) 名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科教授 医学博士名古屋市立大学健康教育研究推進センター副センター長高齢者における健康の維持増進と機能的自立に関する研究に取り組む 受講料 1 講座につき 4,000 円 当日参加 5,000 円 ( 空席がある場合のみ ) CEU 1 講座につき 0.15CEU( カテゴリー A) 受付期間 4 月下旬より受付開始予定 申し込み 問い合わせ ヘルス & フィットネスジャパン実行委員会事務局 TEL:045-316-5387 FAX:045-290-1222 E-mail:tfc@touzin.co.jp HP:http://www.hfj.jp/ 申し込み 問い合わせ先はNSCA 事務局ではありません Information NSCA ジャパン事務局 TEL:03-3452-1684 http://www.nsca-japan.or.jp C National Strength and Conditioning Association Japan 23