実験 No 電気回路の応答 交流回路とインピーダンスの計測 平成 26 年 4 月 担当教員 : 三宅 T A : 許斐 (M2) 齋藤 (M) 目的 2 世紀の社会において 電気エネルギーの占める割合は増加の一途をたどっている このような電気エネルギーを制御して使いこなすには その基礎となる電気回路をまず理解する必要がある 本実験の目的は 電気回路の基礎特性について 実験 計測を通じて理解を深めることである 電気回路の基本素子を理解する 2 電圧計 電流計の使い方をマスターする 3 オームの法則を理解する 4 抵抗の測定方法である電圧降下法を理解する 5 交流回路における電圧 電流の関係を実際に計測して 理解を深める 6 交流回路のインピーダンスをフェーザ図で表現し 電圧 電流の位相差を理解する 2 理論 2 基本回路素子 電気回路とは 電源や各種の回路素子が相互に接続されたものをいう 電気回路を構成する基本的な回路素子として 抵抗 インダクタンス キャパシタンスの 3 種類がある 回路図に用いられる各素子の記号を図 に示す インダクタンスはリアクトルまたはコイル キャパシタンスはコンデンサまたは静電容量とも言われている 図 2 に示すように 素子の端子電圧 v と電流 i の方向は一般的に逆向きに選ぶことが多い 電流と逆らう向きにとった電圧を電圧降下 あるいは逆起電力 (counter-electromotive force) という (a) 抵抗 (b) インダクタンス (c) キャパシタンス図 基礎回路素子の記号
電流 i 素子 電圧 v 図 2 素子の電圧 電流の関係 2 抵抗抵抗の電圧 電流特性は v R Ri () である この関係をオームの法則と言い 比例定数 R を抵抗という 抵抗 R の単位はオーム [] で ある 抵抗に電流が流れるとジュール熱を発生するので 抵抗は電気エネルギーを消費する素子で ある 22 インダクタンスインダクタンスの端子電圧 v L と電流 i との間には di v L L, i dt v L L dt (2) の関係があり この比例定数 L をインダクタンスという L の単位はヘンリー [H] である インダクタンスは電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄える素子である 23 キャパシタンスキャパシタンスの端子電圧 v C と流れる電流 i との間には dvc i C, v C dt i dt (3) C の関係があり 比例定数 C をキャパシタンスという C の単位はファラッド [F] である キャパシタンスは電気エネルギーを静電エネルギーに変換して蓄える素子である 22 電圧降下法 抵抗値を直接測定することは難しい そこで 抵抗に直流電流 I d を流すと 端子電圧である直流電圧 d と直流電流 I d の関係は図 3 に示すような比例関係となり () 式のオームの法則を考えればこの比例定数が抵抗 R となる すなわち 電圧 d と電流 I d の関係を測定すれば 抵抗 R を正確に
測定できる この電圧降下法は交流回路においても有効であり また 測定対象がインダクタンス キャパシタンスの場合には 後述するインピーダンスの大きさを測定することができる 直流電圧 d [] 傾き = 抵抗 R 直流電流 I d [A] 図 3 抵抗における d と I d の関係 23 交流回路の基礎 23 瞬時値図 4(a) に示すように 交流電圧の時刻 t における値 v ( t ) は v( t) m sin( t ) (4) で表され これを瞬時値という ここで, m を振幅または最大値 を角周波数 [rad/s] を位相角または位相 [rad] という v ( t ) の電圧波形が 一定時間 T で繰り返される波形である場合 この時間 T を周期という 従って 秒間に繰り返す振動の回数は f (5) T である この f を周波数 [Hz] という ここで T 2, 2, 2 f (6) T である 家庭用コンセントなどのように 周波数が一定のであれば (6) 式よりも一定となることがわかる したがって は定数として扱うことができる 図 4(b) に示すように 電流の瞬時値についても同様に i( t) I m sin( t ) (7) と表すことができる ここで 電圧と電流の位相差 は (8) である
v [] 周期 T m m t [sec] 位相差 i [A] (a) 電圧波形 周期 T I m I m t [sec] (b) 電流波形 図 4 瞬時電圧波形と瞬時電流波形 (i) δ = 0 電圧と電流が同位相 または 同相 (ii) δ > 0( 図 5(a), (b) の状態 ) 電圧が電流より位相が進む または 電流が電圧より位相が遅れる (iii) δ < 0 電圧が電流より位相が遅れる または 電流が電圧より位相が進む (iv) δ = π 逆位相にある なお 電圧 v, 電流 i のように ( t ) を省略して表すことが多いので注意すること!!
232 実効値交流電圧の実効値 e は (9) 式に示すように 瞬時値の 2 乗の平均の平方根として定義されている e T T 0 2 v ( t) dt (9) よって (4) 式を (9) 式に代入すると 正弦波状に変化する交流電圧の実効値 e は e T 2 2 m sin ( t) dt T 0 (0) m 2 となる 同様に 正弦波状に変化する交流電流の実効値 I e も I m I e () 2 となる 正弦波交流の電圧 電流の大きさを表すのに 通常この実効値が用いられる 実効値を用いると抵抗回路で消費する電力の式が 直流の場合と全く同じ式となるためである 一般に 交流用の電流計 電圧計で測定される電流 電圧の値は実効値である よって (4) (7) 式に示した交流電圧 電流の瞬時値も v( t) 2e sin( t ) (2) i( t) 2 I e sin( t ) (3) と表すことが多い また 交流電圧 交流電流の複素表示を, I とした場合 電圧実効値 e, 電流実効値 I e をそれぞれ, I と表すことも多く 交流電圧 電流の瞬時値は v( t) 2 sin( t ) (4) i( t) 2 I sin( t ) (5) と表現することもある 本項目で述べる電流 電圧のそれぞれの表記を表 に示す 表 電流 電圧の表記 交流電圧 交流電流 瞬時値 v ( t ) v i( t ) i 振幅 m I m 実効値 e I e I 複素表示 I
233 交流回路の計算法とフェーザ図 R L v i C 図 5 R-L-C 直列回路 本節では 図 5 に示す R-L-C 直列回路に正弦波状の交流電圧 v を加えた場合を例として考えてみる 瞬時値表示による回路方程式は (), (2), (3), (4) 式より di L Ri i dt 2 sin( t ) (6) dt C である 未知数である交流電流 i の定常電流を (8), (5) 式より i 2 I sin( t ) 2 I sin( t ) (7) と仮定し この電圧と電流の複素表示を, I とした場合 (6) 式は (8) 式のような複素表示の回路方程式で書き直すことができる j L I R I I (8) j C < 複素表示について> (6) 式の電流 i に (7) 式の sin 関数を代入すれば (6) 式左辺の微分, 積分によりそれぞれが係数となるのは明確である また, 微分により sin 関数は cos 関数となるが, これを位相が 90 進んだ sin 関数として扱い,90 の位相の進みを虚数 j L によって表現し di + Ri + i, 同様に dt =, & 積分によって算出される sin(ω t +θ ) (6) -cos dt 関数を c 90 位相が遅れた sin 関数として扱い,90 の位相の遅れ 2 (-90 の位相の進み ) を-j ( = / j ) によって表現している ( j は虚数なので j j = - である ) したがって 図 5 の電流 電圧を複素表示すると図 6 のようになる 交流回路の定常状態のみを求める場合には このような複素表示が便利である R I R L j L I R j L I jc C I jc 図 6 複素表示した R-L-C 直列回路
(8) 式を整理すると 定常状態の電流 電圧の関係を求めることができる R j L I C (9) ここで,(9) 式の下線部をインピーダンス Z と呼ぶ インピーダンス Z は と I の比例定数となる Z R j L (20) C (20) 式において, インピーダンス Z の実部 R を抵抗 下線で示した虚部をリアクタンスという < 素子のインピーダンスについて> 図 6 に示すように それぞれの素子のインピーダンスを考えると 抵抗は ZR=R[]( 抵抗値そのもの ) インダク タンスは ZL=jL [] コンデンサは ZC= / ( jc) [] となり (20) 式はこれらを合成した回路全体のインピーダンスである なお インピーダンスは電流と電圧の関係を示す値であり 単位はすべて [] である 次に (20) 式の複素表示に合わせて横軸を実部 縦軸を虚部 j としたインピーダンス Z のフェーザ図を示すと図 7 のようになる 虚部 j j L j L C Z R 実部 jc 図 7 インピーダンス Z のフェーザ図 このようなフェーザ図から インピーダンス Z の大きさ Z と偏角 を (2) (22) 式のように求めることができる 2 Z R L (2) C 2 L C tan R (22)
ここで インピーダンス Z の大きさ Z は (23) 式のように電流実効値 I と電圧実効値 の関係を表し 偏角 は電流 i と電圧 v の位相差を表す Z I (23) さらに 図 8 にインピーダンスと電流 電圧のフェーザ図を示す 電流 I の位相角 は場合によ って異なるが 電流 I と電圧 の位相差は常にインピーダンス Z の偏角 と等しくなる 抵抗に印 加される電圧 R は電流 I と同じ向きのベクトルとなり インダクタンスに印加される電圧 L は電 流 I より 90 進んだ向き コンデンサに印加される電圧 C は電流 I より 90 遅れた向きとなる これは (8) 式で述べたように 抵抗では電流 電圧に位相差は生じず インダクタンスでは電圧の位相が電流に対して 90 進む コンデンサでは電圧の位相が電流に対して 90 遅れることを示している また それぞれのベクトルの長さは電流 電圧の大きさ ( 実効値 ) を示している ベク トル R L C の和が回路に印加される電圧 となる 虚部 j L C j L C Z R I R 実部 C 図 8 電流 電圧のフェーザ図
3 実験方法 3 < 実験 > 交流抵抗回路 図 9 に示す回路を構成し実験を行う 以下の方法 注意をよく読み実験を進めること I (= I e ) 交流 00 [] スライドトランス A 電流検出器 R (= Re ) 抵抗器 R ch v R GND ( オシロスコープ ch へ ) i ( オシロスコープ ch 2 へ ) 図 9 交流抵抗回路 スライドトランスにより電源電圧を変化させその時の電流計 電圧計の値を記録する < 注意点 > 電流 I が 005A~024A の範囲において 範囲内での偏りなく 7 点以上測定を行うこと 電流計 電圧計の最小目盛の /0 まで読み 分解能を記録すること 結果をグラフにプロットして直線に並ぶか確認すること 測定が終わったら速やかに電源電圧を 0 に戻すこと 2 オシロスコープを用いて電流 I がおよそ 02A のときの電圧 電流波形を観測する < 注意点 > 観測を行ったときの電流計 電圧計の値を記録すること 観測波形の振幅や周期の読み取り方を確認しておくこと オシロスコープは電圧波形を観測する機器である オシロスコープで電流波形を観測する方法を確認しておくこと 測定が終わったら速やかに電源電圧を 0 に戻すこと
電圧降下法測定結果 < 実験 > 電流 I [A] 電流計端子 [A] 分解能 [A] 電圧 [] 電圧計端子 [] 分解能 [] 波形観測時の電流 I 電圧 の値 電流 I [A] 電流計端子 [A] 分解能 [A] 電圧 [] 電圧計端子 [] 分解能 [] 観測された波形は結果としてレポートに貼り付けること
32 < 実験 2> 交流インダクタンス回路 図 0 に示す回路を構成し実験を行う 以下の方法 注意をよく読み実験を進めること I (= I e ) 交流 00 [] スライドトランス A 電流検出器 Lr (= Lre ) インダクタンス L ch v Lr GND ( オシロスコープ ch へ ) i ( オシロスコープ ch 2 へ ) 図 0 交流インダクタンス回路 スライドトランスにより電源電圧を変化させその時の電流計 電圧計の値を記録する < 注意点 > 電流 I が 005A~024A の範囲において 範囲内での偏りなく 7 点以上測定を行うこと 電流計 電圧計の最小目盛の /0 まで読み 分解能を記録すること 結果をグラフにプロットして直線に並ぶか確認すること 測定が終わったら速やかに電源電圧を 0 に戻すこと 2 オシロスコープを用いて電流 I がおよそ 02A のときの電圧 電流波形を観測する < 注意点 > 観測を行ったときの電流計 電圧計の値を記録すること 電流と電圧の位相差 [deg] を求める方法を確認しておくこと 測定が終わったら速やかに電源電圧を 0 に戻すこと
電圧降下法測定結果 < 実験 2> 電流 I [A] 電流計端子 [A] 分解能 [A] 電圧 [] 電圧計端子 [] 分解能 [] 波形観測時の電流 I 電圧 の値 電流 I [A] 電流計端子 [A] 分解能 [A] 電圧 [] 電圧計端子 [] 分解能 [] 電流と電圧の位相差 : [msec] [deg] 観測された波形は結果としてレポートに貼り付けること
33 < 実験 3> 交流 R-L 回路 図 に示す回路を構成し実験を行う 以下の方法 注意をよく読み実験を進めること I (= I e ) A ch 交流 00 [] スライドトランス (= e ) 電流検出器 R (= Re ) Lr (= Lre ) 抵抗器 インダクタンス R L v GND ( オシロスコープ ch へ ) i ( オシロスコープ ch 2 へ ) 図 交流 R-L 回路 3 電源電圧を変化させその時の電流計 それぞれの電圧計の値を記録する < 注意点 > 電流 I が 005A~024A の範囲において 範囲内での偏りなくそれぞれ 7 点以上測定を行うこと 電流計 電圧計の最小目盛の /0 まで読み 分解能を記録すること 結果をグラフにプロットしてそれぞれ直線に並ぶか確認すること 測定が終わったら速やかに電源電圧を 0 に戻すこと 4 オシロスコープを用いて電流 I がおよそ 02A のときの電圧 電流波形を観測する < 注意点 > 観測を行ったときの電流計 電圧計の値を記録すること 測定が終わったら速やかに電源電圧を 0 に戻すこと
電圧降下法測定結果 < 実験 3> 回路電流 抵抗電圧 インダクタンス電圧 回路電圧 電流 I [A] 分解能 [A] 電圧 R [] 分解能 [] 電圧 L [] 分解能 [] 電圧 [] 分解能 [] 波形観測時の電流 電圧の値 回路電流 抵抗電圧 インダクタンス電圧 回路電圧 電流 I [A] 分解能 [A] 電圧 R [] 分解能 [] 電圧 L [] 分解能 [] 電圧 [] 分解能 [] 電流と電圧の位相差 : [msec] [deg] 観測された波形は結果としてレポートに貼り付けること
4 レポート作成の注意点 4 原理 方法について テキストの丸写しでなくてもよい ただし 必要な事項を全て記載し簡潔にまとめること 図はその意味を理解したうえで正確に書くこと 実験方法は実際に行った条件を正確に記載すること なお 原則として過去形で書くのが一般的である 42 結果について 実験により得られた全ての情報を簡潔にまとめること グラフや式 図などを示したうえで 得られた情報を文章で簡潔にまとめること 43 考察について 誰にでも見やすくまとめ わかりやすく丁寧な記述を行うこと 根拠が明確でない数値や式を用いることは認められない 式を示すなどして根拠を明確にすること 全ての計算はその過程が明確となる最低限の途中式などを示すこと 電圧降下法のグラフやフェーザ図などの図は方眼用紙に正確に描くこと 特に フェーザ図では得られた情報を全て正確に記載すること 5 課題本実験の考察において最低限必要な事項を以下に示す これらの課題をすべて満足していることが合格最低点以上の評価を受けるための条件となる ( 本来 何を考察するか ということもレポートの重要な評価項目であるが 本実験レポートに限っては 例年 初回合格者が極端に少ないため 以下に最低限の内容を示す ) 5 実験 電圧降下法により得られた抵抗値と抵抗器の公称値を比較し さまざまな誤差の具体的な数値を挙げて理論的な考察を行うこと 52 実験 2 インピーダンスのフェーザ図を描くこと この実験では 理論的には電流と電圧の位相差は 90 となるはずであるが 実際はそうならない この理由をインピーダンスのフェーザ図を用い 具体的な数値を示して説明すること インダクタンス L の値を求めること 電流電圧のフェーザ図を描くこと 53 実験 3 電圧降下法 および 観測波形の結果からインピーダンスのフェーザ図を描くこと 実験 および 実験 2 の結果を用いてインピーダンスのフェーザ図を描くこと 上記 2 つのインピーダンスの大きさ および 偏角を比較し さまざまな誤差の具体的な数値を挙げて理論的な考察を行うこと 電流 電圧のフェーザ図を描くこと 電圧降下法の実験結果より 全ての測定点において R + Lr となることが確認できる この理由をわかりやすく記述すること ( 図などを用いても良い )