第15回日本臨床腫瘍学会 記録集

Similar documents
第16回日本臨床腫瘍学会学術集会 共催セミナー報告集

腫瘍崩壊症候群 (Tumor Lysis Syndromes; TLS) 中川直人 Pharm.D., Ph.D. はじめに 2007 年 4 月よりがん対策基本法が施行され, 放射線治療や外来化学療法が日本のがん治療に浸透してきた. それに伴い, 病院や薬局でがん治療を受けている患者さんに会う頻度

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

DRAFT#9 2011

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

<4D F736F F D B A814089FC92F982CC82A8926D82E782B95F E31328C8E5F5F E646F63>

用法 用量 発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制 mg mg mg mg kg 30kg 40kg 20kg 30kg 10kg 20kg 5kg 10kg 1900mg mg mg mg

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d


CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

第79回日本血液学会学術集会 共催セミナー報告集

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

B. 医療関係者の皆様へ 1. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) の診断基準 TLS の診断は 2010 年に発表された TLS panel consensus に基づいている 具体的には高尿酸血症 高カリウム血症もしくは高リン血症の 3 つのうち 2 つ以上の異常が化学療法開始 3 日前から開始後 7

D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

医科_第20次(追加)審査情報提供(広報用)

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

試験デザイン :n=152 試験開始前に第 VIII 因子製剤による出血時止血療法を受けていた患者群を 以下のい ずれかの群に 2:2:1 でランダム化 A 群 (n=36) (n=35) C 群 (n=18) ヘムライブラ 3 mg/kg を週 1 回 4 週間定期投与し その後 1.5 mg/k

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

DRAFT#9 2011

PowerPoint プレゼンテーション

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品


1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

第6号-2/8)最前線(大矢)

中医協総 再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて 再生医療等製品の保険適用に係る取扱いについては 平成 26 年 11 月 5 日の中医協総会において 以下のとおり了承されたところ < 平成 26 年 11 月 5 日中医協総 -2-1( 抜粋 )> 1. 保険適

頭頚部がん1部[ ].indd

ダラツムマブってどんな薬? 初発の患者さん ( 初めて治療を受ける患者さん ) の治験募集についてー 米国で承認された ダラツムマブ という新薬について Q&A 形式でご紹介します Q&A の監修は 名古屋市立大学病院血液 腫瘍内科診療部長飯田真介先生です Q1 ダラツムマブという薬が米国で承認され

鑑-H リンゼス錠他 留意事項通知の一部改正等について

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

検査項目情報 6475 ヒト TARC 一次サンプル採取マニュアル 5. 免疫学的検査 >> 5J. サイトカイン >> 5J228. ヒトTARC Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital Ver.6 thymus a

<4D F736F F D2082A8926D82E782B995B68F E834E838D838A E3132>

負荷試験 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 検体ラベル ( 単項目オーダー時 )

論文要旨抗 H I V 薬多剤併用療法の適正使用に関する臨床薬学的研究実践医療薬学研究室田中博之 序論 世界におけるヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染症患者数は 2016 年末の時点で約 3,670 万人と推定されている 日本国内においては 2016 年の新規 HIV 感染者報告数は 1,011

1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

減量・コース投与期間短縮の基準

心房細動1章[ ].indd

米国で承認された エロツズマブ という新薬について Q&A 形式でご紹介します Q&A の監修は 新潟県立がんセンター新潟病院内科臨床部長張高明先生です Q1: エロツズマブという薬が米国で承認されたと聞きましたが どのような薬ですか? エロツズマブについてエロツズマブは 患者さんで増殖しているがん

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

スライド 1

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

者における XO 阻害薬の効果に影響すると予測される 以上の議論を背景として 本研究では CKD にともなう FX および尿酸の薬物体内動態 ( PK ) 変化と高尿酸血症病態への影響を統合的に解析できる PK- 薬力学 (PD) モデルを構築し その妥当性を腎機能正常者および CKD 患者で報告さ

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

( 図 1 アンケート用紙を送付しなかった理由 (n=248)) その他 4 % 住所又は両親の名前不明 1 7 % 他科にてフォロー中 3 % 音信あり 1 6% 他院にてフォロー中 28 % 3. 方法まず患者の保護者に対して郵送によるアンケート形式で病院より今後コンタクトをとることについての可

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

(別添様式1)

95_財団ニュース.indd

2. 改訂内容および改訂理由 2.1. その他の注意 [ 厚生労働省医薬食品局安全対策課事務連絡に基づく改訂 ] 改訂後 ( 下線部 : 改訂部分 ) 10. その他の注意 (1)~(3) 省略 (4) 主に 50 歳以上を対象に実施された海外の疫学調査において 選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

資料2 ゲノム医療をめぐる現状と課題(確定版)

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

悪性黒色腫(メラノーマ)薬物療法の手引き version

スライド 1

01-02(先-1)(別紙1-1)血清TARC迅速測定法を用いた重症薬疹の早期診断

助成研究演題 - 平成 27 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 改良型 STOPP を用いた戦略的ポリファーマシー解消法 木村丈司神戸大学医学部附属病院薬剤部主任 スライド 1 スライド 2 スライド1, 2 ポリファーマシーは 言葉の意味だけを捉えると 薬の数が多いというところで注目されがちで

Amino Acid Analysys_v2.pptx

現況解析2 [081027].indd

の主要な治療薬として日本ならびに世界で広く使用されている MTX の使用により 関節リウマチの臨床症状の改善 関節破壊進行抑制 QOL 改善のみならず 生命予後の改善や心血管合併症リスクが軽減されることが示されており 現在の関節リウマチ治療においては必要不可欠な薬剤である 1990 年前後から MT

Microsoft Word - all_ jp.docx

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

スライド 1


2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

PowerPoint プレゼンテーション

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

汎発性膿庖性乾癬の解明

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性


Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

B型平成28年ガイドライン[5].ppt


Transcription:

報告集 第 15 回日本臨床腫瘍学会学術集会 モーニングセミナー 6 日時 : 2017 年 7 月 28 日 ( 金 ) 会場 : 神戸国際会議場 腫瘍崩壊症候群のリスクマネジメント 司会 演者 福岡大学医学部腫瘍 血液 感染症内科学教授 山梨大学医学部血液 腫瘍内科教授 桐戸敬太 髙松泰 2017 年 10 月作成

モーニングセミナー 6 腫瘍崩壊症候群のリスクマネジメント 司会 演者 福岡大学医学部腫瘍 血液 感染症内科学教授 山梨大学医学部血液 腫瘍内科教授 髙松泰桐戸敬太 TLS の病態とリスク評価 腫瘍崩壊症候群 (TLS) は 抗がん剤や放射線によって腫瘍細胞が急速に崩壊し 細胞内から DNAやリン サイトカイン カリウムなどが放出されることで起こる代謝異常であり 急性腎障害や痙攣 不整脈などを引き起こす TLSは2 段階に分かれ 高尿酸血症 高カリウム血症 高リン血症 / 低カリウム血症のうち 2つ以上が化学療法開始の3 日前から7 日後までに発現した状態がLaboratory TLS(LTLS) LTLSに加えて腎機能低下や不整脈 突然死 痙攣などの合併症を1つ以上認めた状態がClinical TLS(CTLS) である TLS 発症例の予後は非常に悪く 約 4 割が透析などの腎代替療法を要し 死亡のオッズ比は2.45に及ぶため 1) リスクに応じた予防が肝心である TLSのリスク評価は 1LTLSの有無 2 疾患別のリスク評価 3 腎機能によるリスク調整の3 段階で行う LTLSがあり CTLSを発症している場合は治療を行い CTLSを発症していない場合は高リスクの予防措置を行う LTLSがない場合は疾患別に低 中間 高リスク疾患に分類し 腎機能でリスクを調整後 各リスクに応じた予防措置を行う 2) 尿酸値に加えリン値の是正も重要 尿酸値 リン値が高い多発性骨髄腫患者に対してラスブリカーゼを投与したところ 尿酸値は速やかに低下したが リン値は低下せずに急性腎障害を発症し 透析が必要になったというケースが臨床試験で報告されている TLS 高リスクの血液腫瘍患者 153 例を対象にCTLS 発症率を前向きに検討した臨床試験では 全例でラスブリカーゼや尿酸生成阻害薬による尿酸コントロールを実施したが LTLS が11.1% CTLSが19.6% で発症した 1) TLS 発症例と非発症例との間で各指標を比べると TLS 発症例では入院時の尿酸値やリン値が高く ラスブリカーゼにより尿酸値は低下したが リン値は高値のままであった ( 図 3) ラスブリカーゼを投与した日本人の血液腫瘍患者 52 例を対象にTLS 発症に影響を及ぼす因子を検討したレトロスペクティブ研究においては LTLS 発症例では非発症例に比べ ベースライン時の尿酸値は高値であったが ラスブリカーゼの投与 24 時間後ま図 1 リスク別の TLS 予防 TLS の予防と治療 TLSの予防と治療は尿酸および電解質のコントロールが主体であり 尿酸コントロールには尿酸生成阻害薬 ( フェブキソスタットなど ) や尿酸分解酵素薬であるラスブリカーゼが使用される 尿酸生成阻害薬は主に低 / 中間リスクに用いられ ラスブリカーゼは尿酸生成阻害薬の効果が不十分な中間および高リスクに用いられる ( 図 1) 3) ラスブリカーゼは臨床試験において迅速かつ強力な尿酸低下効果が示されている ( 図 2) 4) しかし 尿酸値の低下だけではCTLSの発症予防や死亡率の低下につながるかどうかはっきりとした結論が出ていないため 尿酸値以外の臨床検査値にも注目することが重要である 低リスク 中間リスク 高リスク 通常量の補液 高尿酸血症に対する予防投与は不要 1 日 1 回のモニタリング ( 尿酸 K P Ca LDH クレアチニン ) 大量補液 (2,500~3,000mL/m 2 / 日 ) フェブキソスタット ラスブリカーゼ ( 上記においても尿酸が増加する場合 ) 8~12 時間ごとのモニタリング ( 尿酸 K P Ca LDH クレアチニン ) ICU もしくはそれに準ずる環境での治療 大量補液 (2,500~3,000mL/m 2 / 日 ) ラスブリカーゼ 4~6 時間ごとのモニタリング ( 尿酸 K P Ca LDH クレアチニン ) 日本臨床腫瘍学会編. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) 診療ガイダンス, 金原出版, 東京, 2013 より作図

でに正常化した 一方 リン値はラスブリカーゼの投与 24 時間後および7 日後においても高値のままであり LTSL 発症例では非発症例に比べてリン値が高かった 5) ラスブリカーゼによって尿酸値のコントロールが可能になった現在 高リン血症はTLSによる腎機能障害の重大な因子と考えられており 今後はリン値のコントロールがTLS 予防における課題の1つである 最新分類に基づいたリスク評価の必要性 悪性リンパ腫のサブタイプは多岐にわたるため TLSのリスク評価では判断に迷うことがある 例えば WHO 分類 2008 年版で登場したびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) とバーキットリンパ腫の中間型の場合 バーキットリンパ腫はTLS 高リスクであるが DLBCLは低リスク ~ 高リスクである このような症例では ラスブリカーゼ投与により尿酸値が低下しても リン値などが上昇して LTLSを発症することを度々経験する また DLBCLの中には治療が難しい CD5 陽性のサブグループが存在しており そのような場合 TLSリスクが高い可能性も考えられる つまり かつての疾患分類に従った TLSリスク評価の妥当性が問われているのである 現行のTLSリスク評価は2010 年以前の知見に基づいているが 悪性リンパ腫の分類は2016 年に改訂され 遺伝子の 変異や発現により分類が変更されている 6) 実臨床においても従来のTLSリスク評価では対応できないケースが増えていることから 新しい知見に基づいてTLSリスク評価をアップデートする必要があると考える 新規薬剤使用時のリスク評価 近年 血液腫瘍の薬物療法は目覚ましい進歩を遂げたが その一方でTLSリスクが上昇するというジレンマに遭遇している 本来 多発性骨髄腫はTLS 発現率が1% 程度の低リスク疾患である 7) しかし 新規薬剤であるプロテアソーム阻害剤投与時のCTLS 発現率は0.4~17.1% である 8,9) 日本人の多発性骨髄腫患者 63 例を対象としたレトロスペクティブ研究では 10) CTLSを発症した 8 例 (12.7%) の全例にプロテアソーム阻害剤が投与されていた一方 ( 図 4) 免疫調節薬の投与によるTLS 発症は認められなかった 今後 新規薬剤使用時のTLSリスク評価を検討する必要があると考えられる 近年 さまざまながん腫で分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新たな薬剤が開発され 治療成績の向上に寄与している その反面 従来はTLS 低リスクと考えられてきた疾患において TLSリスクが高まっている可能性があることを認識して治療を行うことが求められている 図 2 ラスブリカーゼによる尿酸低下効果 ( 国内第 Ⅱ 相試験 : 成人 ) 平均血漿中尿酸値の経時推移 ( 副次評価項目 ) 7 ラスブリカーゼ 6 5 4 3 有効率 ( 主要評価項目 ) 対象 0.20mg/kg 群 :96.0%(24/25 例 ) 急性高尿酸血症を有する あるいは発症する可能性が高い初発あるいは再発の悪性リンパ腫又は急性白血病患者 50 例 (18 歳以上 75 歳未満 ) 方法ラスブリカーゼ 0.15mg/kg/ 日又は0.20mg/kg/ 日を1 日 1 回 5 日間 30 分かけて点滴静注した 血漿中尿酸用量 0.15mg/kg 0.20mg/kg (mg/dl) 2 1 評価項目有効率 血漿中尿酸値の経時推移 薬物動態 安全性など 0 ベースライン 4 8 24 48 72 96 104 120 168 336 追跡期間 ( 時間 ) 安全性 50 例中 23 例 (46.0%) に副作用が認められ その内訳は0.15mg/kg 群が25 例中 10 例 (40.0%) 0.20mg/kg 群が25 例中 13 例 (52.0%) であった ラスブリカーゼの 効能又は効果 がん化学療法に伴う高尿酸血症 用法及び用量 通常 ラスブリカーゼとして 0.2mg/kg を 1 日 1 回 30 分以上かけて点滴静注する なお 投与期間は最大 7 日間とする Ishizawa K, et al. Cancer Sci. 100(2):357-362, 2009( 承認時評価資料 ) 本試験は Sanofi の資金提供により実施された

リン1)Darmon M, et al. Br J Haematol 162(4): 489-497, 2013 2)Cairo MS, et al. Br J Haematol 149(4): 578-586, 2010 3) 日本臨床腫瘍学会編. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) 診療ガイダンス, 金原出版, 2013. 4)Ishizawa K, et al. Cancer Sci 100(2): 357-362, 2009 5)Usami E, et al. Mol Clin Oncol 6(6): 955-959, 2017 6)Swerdlow SH, et al. Blood 127(20): 2375-2390, 2016 7)Fassas AB, et al. Br J Haematol 105(4): 938-941, 1999 8)Suzuki K, et al. Jpn J Clin Oncol 44(5): 435-441, 2014 9)Howard SC, et al. Ann Hematol 95(4): 563-573, 2016 10)Oiwa K, et al. Anticancer Res 36(12): 6655-6662, 2016 図 3 値ラスブリカーゼ投与後のリン値 ( 海外データ ) 2.5 TLS 未発症例 (n=106) LTLS 発症例 (n=17) CTLS 発症例 (n=30) 2.0 1.5 対象 TLS 高リスクの血液腫瘍患者 153 例 (mmol/l) 1.0 方法 TLSの有病率及び急性腎障害のリスクを 前向き多施設共同コホート試験として検討した 0.5 評価項目主要評価項目 TLS 有病率副次評価項目 急性腎障害のリスク因子 その他の予後不良因子 0 入院時 Day1 Day2 安全性文献中に記載なし Darmon M, et al. Br J Haematol 162(4):489-497, 2013 図 4 治療法別の TLS 発症数 10 TLS症例数( 例 ) 8 6 4 対象 2006 年 4 月 ~2015 年 12 月に福井大学医学部附属病院にて化学療法を実施した多発性骨髄腫患者 64 例方法化学療法に伴うTLS 有病率をレトロスペクティブに検討した 2 評価項目主要評価項目 TLS 有病率その他の評価項目 TLSリスク因子 0 LTLS CTLS プロテアソーム阻害剤 LTLS CTLS 免疫調節薬 LTLS CTLS その他 安全性文献中に記載なし 治療法 Oiwa K, et al. Anticancer Res 36(12): 6655-6662, 2016

SAJP.RAS.17.09.2085