報告集 第 15 回日本臨床腫瘍学会学術集会 モーニングセミナー 6 日時 : 2017 年 7 月 28 日 ( 金 ) 会場 : 神戸国際会議場 腫瘍崩壊症候群のリスクマネジメント 司会 演者 福岡大学医学部腫瘍 血液 感染症内科学教授 山梨大学医学部血液 腫瘍内科教授 桐戸敬太 髙松泰 2017 年 10 月作成
モーニングセミナー 6 腫瘍崩壊症候群のリスクマネジメント 司会 演者 福岡大学医学部腫瘍 血液 感染症内科学教授 山梨大学医学部血液 腫瘍内科教授 髙松泰桐戸敬太 TLS の病態とリスク評価 腫瘍崩壊症候群 (TLS) は 抗がん剤や放射線によって腫瘍細胞が急速に崩壊し 細胞内から DNAやリン サイトカイン カリウムなどが放出されることで起こる代謝異常であり 急性腎障害や痙攣 不整脈などを引き起こす TLSは2 段階に分かれ 高尿酸血症 高カリウム血症 高リン血症 / 低カリウム血症のうち 2つ以上が化学療法開始の3 日前から7 日後までに発現した状態がLaboratory TLS(LTLS) LTLSに加えて腎機能低下や不整脈 突然死 痙攣などの合併症を1つ以上認めた状態がClinical TLS(CTLS) である TLS 発症例の予後は非常に悪く 約 4 割が透析などの腎代替療法を要し 死亡のオッズ比は2.45に及ぶため 1) リスクに応じた予防が肝心である TLSのリスク評価は 1LTLSの有無 2 疾患別のリスク評価 3 腎機能によるリスク調整の3 段階で行う LTLSがあり CTLSを発症している場合は治療を行い CTLSを発症していない場合は高リスクの予防措置を行う LTLSがない場合は疾患別に低 中間 高リスク疾患に分類し 腎機能でリスクを調整後 各リスクに応じた予防措置を行う 2) 尿酸値に加えリン値の是正も重要 尿酸値 リン値が高い多発性骨髄腫患者に対してラスブリカーゼを投与したところ 尿酸値は速やかに低下したが リン値は低下せずに急性腎障害を発症し 透析が必要になったというケースが臨床試験で報告されている TLS 高リスクの血液腫瘍患者 153 例を対象にCTLS 発症率を前向きに検討した臨床試験では 全例でラスブリカーゼや尿酸生成阻害薬による尿酸コントロールを実施したが LTLS が11.1% CTLSが19.6% で発症した 1) TLS 発症例と非発症例との間で各指標を比べると TLS 発症例では入院時の尿酸値やリン値が高く ラスブリカーゼにより尿酸値は低下したが リン値は高値のままであった ( 図 3) ラスブリカーゼを投与した日本人の血液腫瘍患者 52 例を対象にTLS 発症に影響を及ぼす因子を検討したレトロスペクティブ研究においては LTLS 発症例では非発症例に比べ ベースライン時の尿酸値は高値であったが ラスブリカーゼの投与 24 時間後ま図 1 リスク別の TLS 予防 TLS の予防と治療 TLSの予防と治療は尿酸および電解質のコントロールが主体であり 尿酸コントロールには尿酸生成阻害薬 ( フェブキソスタットなど ) や尿酸分解酵素薬であるラスブリカーゼが使用される 尿酸生成阻害薬は主に低 / 中間リスクに用いられ ラスブリカーゼは尿酸生成阻害薬の効果が不十分な中間および高リスクに用いられる ( 図 1) 3) ラスブリカーゼは臨床試験において迅速かつ強力な尿酸低下効果が示されている ( 図 2) 4) しかし 尿酸値の低下だけではCTLSの発症予防や死亡率の低下につながるかどうかはっきりとした結論が出ていないため 尿酸値以外の臨床検査値にも注目することが重要である 低リスク 中間リスク 高リスク 通常量の補液 高尿酸血症に対する予防投与は不要 1 日 1 回のモニタリング ( 尿酸 K P Ca LDH クレアチニン ) 大量補液 (2,500~3,000mL/m 2 / 日 ) フェブキソスタット ラスブリカーゼ ( 上記においても尿酸が増加する場合 ) 8~12 時間ごとのモニタリング ( 尿酸 K P Ca LDH クレアチニン ) ICU もしくはそれに準ずる環境での治療 大量補液 (2,500~3,000mL/m 2 / 日 ) ラスブリカーゼ 4~6 時間ごとのモニタリング ( 尿酸 K P Ca LDH クレアチニン ) 日本臨床腫瘍学会編. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) 診療ガイダンス, 金原出版, 東京, 2013 より作図
でに正常化した 一方 リン値はラスブリカーゼの投与 24 時間後および7 日後においても高値のままであり LTSL 発症例では非発症例に比べてリン値が高かった 5) ラスブリカーゼによって尿酸値のコントロールが可能になった現在 高リン血症はTLSによる腎機能障害の重大な因子と考えられており 今後はリン値のコントロールがTLS 予防における課題の1つである 最新分類に基づいたリスク評価の必要性 悪性リンパ腫のサブタイプは多岐にわたるため TLSのリスク評価では判断に迷うことがある 例えば WHO 分類 2008 年版で登場したびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) とバーキットリンパ腫の中間型の場合 バーキットリンパ腫はTLS 高リスクであるが DLBCLは低リスク ~ 高リスクである このような症例では ラスブリカーゼ投与により尿酸値が低下しても リン値などが上昇して LTLSを発症することを度々経験する また DLBCLの中には治療が難しい CD5 陽性のサブグループが存在しており そのような場合 TLSリスクが高い可能性も考えられる つまり かつての疾患分類に従った TLSリスク評価の妥当性が問われているのである 現行のTLSリスク評価は2010 年以前の知見に基づいているが 悪性リンパ腫の分類は2016 年に改訂され 遺伝子の 変異や発現により分類が変更されている 6) 実臨床においても従来のTLSリスク評価では対応できないケースが増えていることから 新しい知見に基づいてTLSリスク評価をアップデートする必要があると考える 新規薬剤使用時のリスク評価 近年 血液腫瘍の薬物療法は目覚ましい進歩を遂げたが その一方でTLSリスクが上昇するというジレンマに遭遇している 本来 多発性骨髄腫はTLS 発現率が1% 程度の低リスク疾患である 7) しかし 新規薬剤であるプロテアソーム阻害剤投与時のCTLS 発現率は0.4~17.1% である 8,9) 日本人の多発性骨髄腫患者 63 例を対象としたレトロスペクティブ研究では 10) CTLSを発症した 8 例 (12.7%) の全例にプロテアソーム阻害剤が投与されていた一方 ( 図 4) 免疫調節薬の投与によるTLS 発症は認められなかった 今後 新規薬剤使用時のTLSリスク評価を検討する必要があると考えられる 近年 さまざまながん腫で分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新たな薬剤が開発され 治療成績の向上に寄与している その反面 従来はTLS 低リスクと考えられてきた疾患において TLSリスクが高まっている可能性があることを認識して治療を行うことが求められている 図 2 ラスブリカーゼによる尿酸低下効果 ( 国内第 Ⅱ 相試験 : 成人 ) 平均血漿中尿酸値の経時推移 ( 副次評価項目 ) 7 ラスブリカーゼ 6 5 4 3 有効率 ( 主要評価項目 ) 対象 0.20mg/kg 群 :96.0%(24/25 例 ) 急性高尿酸血症を有する あるいは発症する可能性が高い初発あるいは再発の悪性リンパ腫又は急性白血病患者 50 例 (18 歳以上 75 歳未満 ) 方法ラスブリカーゼ 0.15mg/kg/ 日又は0.20mg/kg/ 日を1 日 1 回 5 日間 30 分かけて点滴静注した 血漿中尿酸用量 0.15mg/kg 0.20mg/kg (mg/dl) 2 1 評価項目有効率 血漿中尿酸値の経時推移 薬物動態 安全性など 0 ベースライン 4 8 24 48 72 96 104 120 168 336 追跡期間 ( 時間 ) 安全性 50 例中 23 例 (46.0%) に副作用が認められ その内訳は0.15mg/kg 群が25 例中 10 例 (40.0%) 0.20mg/kg 群が25 例中 13 例 (52.0%) であった ラスブリカーゼの 効能又は効果 がん化学療法に伴う高尿酸血症 用法及び用量 通常 ラスブリカーゼとして 0.2mg/kg を 1 日 1 回 30 分以上かけて点滴静注する なお 投与期間は最大 7 日間とする Ishizawa K, et al. Cancer Sci. 100(2):357-362, 2009( 承認時評価資料 ) 本試験は Sanofi の資金提供により実施された
リン1)Darmon M, et al. Br J Haematol 162(4): 489-497, 2013 2)Cairo MS, et al. Br J Haematol 149(4): 578-586, 2010 3) 日本臨床腫瘍学会編. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) 診療ガイダンス, 金原出版, 2013. 4)Ishizawa K, et al. Cancer Sci 100(2): 357-362, 2009 5)Usami E, et al. Mol Clin Oncol 6(6): 955-959, 2017 6)Swerdlow SH, et al. Blood 127(20): 2375-2390, 2016 7)Fassas AB, et al. Br J Haematol 105(4): 938-941, 1999 8)Suzuki K, et al. Jpn J Clin Oncol 44(5): 435-441, 2014 9)Howard SC, et al. Ann Hematol 95(4): 563-573, 2016 10)Oiwa K, et al. Anticancer Res 36(12): 6655-6662, 2016 図 3 値ラスブリカーゼ投与後のリン値 ( 海外データ ) 2.5 TLS 未発症例 (n=106) LTLS 発症例 (n=17) CTLS 発症例 (n=30) 2.0 1.5 対象 TLS 高リスクの血液腫瘍患者 153 例 (mmol/l) 1.0 方法 TLSの有病率及び急性腎障害のリスクを 前向き多施設共同コホート試験として検討した 0.5 評価項目主要評価項目 TLS 有病率副次評価項目 急性腎障害のリスク因子 その他の予後不良因子 0 入院時 Day1 Day2 安全性文献中に記載なし Darmon M, et al. Br J Haematol 162(4):489-497, 2013 図 4 治療法別の TLS 発症数 10 TLS症例数( 例 ) 8 6 4 対象 2006 年 4 月 ~2015 年 12 月に福井大学医学部附属病院にて化学療法を実施した多発性骨髄腫患者 64 例方法化学療法に伴うTLS 有病率をレトロスペクティブに検討した 2 評価項目主要評価項目 TLS 有病率その他の評価項目 TLSリスク因子 0 LTLS CTLS プロテアソーム阻害剤 LTLS CTLS 免疫調節薬 LTLS CTLS その他 安全性文献中に記載なし 治療法 Oiwa K, et al. Anticancer Res 36(12): 6655-6662, 2016
SAJP.RAS.17.09.2085