乳腺病理の着実な進歩-これからの課題 乳癌不均質性に関する考察

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,


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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

図 1 乳管上皮内癌と小葉上皮内癌 (DCIS/LCIS) の組織像 a: 乳頭状増殖を示す乳管癌 (low grade).b: 篩状 (cribriform) に増殖する DCIS は, 乳管内に血管増生を伴わない時は,comedo 壊死を形成することがあるが, 本症例のように血管の走行があると,

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4. 研究の背景 : エストロゲン受容体陽性で その増殖にエストロゲンを必要とする Luminal A [3] と呼ばれるタイプの乳がんは 乳がん全体の約 7 割を占め 抗エストロゲン療法が効果的で比較的予後良好です しかし 抗エストロゲン剤の効果が低く手術をしても将来的に再発する高リスク群が 約

1 AML Network TCGAR. N Engl J Med. 2013; 368: 種類以上の遺伝子変異が認められる肺がんや乳がんなどと比較して,AML は最も遺伝子変異が少ないがん腫の 1 つであり,AML ゲノムの遺伝子変異数の平均は 13 種類と報告された.

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1 分子標的治療薬概論 分子生物学の進歩により, がんの特性が徐々に明らかになるにつれ, がん薬物療法における新しい抗悪性腫瘍薬の開発戦略は大きく変わってきている. 本邦においても 2001 年に CD20 に対する抗体であるリツキシマブが B 細胞リンパ腫の治療薬として認可されて以来, 様々な分子

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子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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角田, 中村, 櫻田, 松田, 佐藤, 嘉山 Ⅰ. 緒言神経膠腫は全脳腫瘍の約 4 分の1を占める代表的な悪性脳腫瘍である 病理組織所見と臨床悪性度 ( 予後 ) の両者を併せた総合的な悪性度の分類としてWHO 分類が最も一般的に用いられており グレードⅠからⅣまでの4 段階に分けられている グレー

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して広く用いられてきました この Clark 分類に異を唱えたのが Bernard Ackerman であります Ackerman は 1980 年に発表した malignant melanoma: a unifying concept と題する論文において Clark らの病型分類は無意味であると

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微鏡で観察した際に 他の核内領域に比べて非常に濃く染色される (=DNA 含量に富む ) 領域として 反対に淡く染色されるユークロマチンとの対比から 約 70 年以上も前に定義された言葉である ヘテロクロマチンは 細胞周期を通じて常に分裂期染色体のように凝集したままの状態を維持し 他の染色体領域に比

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乳癌基礎研究 Vol マウス乳癌好発系 C57BL /6MT(+) の樹立 鈴木悠加 1) 平岩典子 2) 螺良愛郎 3) 坂倉照妤 4) 1) 三重大学大学院地域イノベーション学 2) 理研 BRC 験動物開発室 3) 関西医科大学病理学第二講座 4) 三重大学 はじめに マウス

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

Transcription:

第 20 回浜松オンコロジーフォーラム 2017.4.15 乳腺病理の着実な進歩 - これからの課題乳癌不均質性に関する考察 腫瘍間不均質性 intertumor heterogeneity 腫瘍内不均質性 intratumor heterogeneity がん研究会有明病院病理部 堀井理絵 Martelotto LG, et al. Breast Cancer Research. 2014;16:R48 Zardavas D, et al. Nat Rev Clin Oncol. 2015;12(7):381-94. 腫瘍間不均質性 intertumor heterogeneity 例 ) 腫瘍ごとに / 症例ごとに腫瘍の組織像 治療感受性 予後などが異なること 乳癌の組織型分類 / 異型度分類遺伝子発現プロファイリングに基づく intrinsic subtype 免疫組織化学法と in situ hybridization を用いた代替的 intrinsic subtype 腫瘍内不均質性 intratumor heterogeneity 空間的 spatial 同一腫瘍内に性質が異なる癌細胞が存在すること例 ) 浸潤性乳癌紡錘細胞癌バイオマーカーのカットオフ 時間的 temporal 同一症例の原発巣と転移巣が異なる性質を示すこと 腫瘍内不均質性 intratumor heterogeneity 例 ) 空間的な腫瘍内不均質性と時間的な腫瘍内不均質性は密接に関連している 乳癌原発巣は腫瘍径が大きいほど 空間的な不均質性を示す割合が高い 空間的な腫瘍内不均質性の分類 不均質な項目 組織形態遺伝子発現バイオマーカー発現 : ER, PgR, HER2 etc. 異なる性質を持つ細胞の分布 Hanna WM, et al. Mod Pathol. 2014;27:4-18 Nitta H, et al. Pathol Int. 2016;66:313-24 原発巣に空間的な不均質性が見られる症例では 原発巣と転移巣で異なる性質を示す ( 時間的な不均質性 ) 可能性が高い regional/clustered 散在性 scattered/mosaic/mixed 1

紡錘細胞癌 Spindle cell cancer エストロゲンレセプター陽性乳癌 化生癌の一種 腺癌成分と肉腫様に紡錘細胞化生した成分が混在 いわゆる癌肉腫 組織形態が不均質 トリプルネガティブ乳癌 化学療法抵抗性 予後不良 均質 homogenous 不均質 heterogeneous エストロゲンレセプター陽性乳癌 エストロゲンレセプター陽性 HER2 陽性乳癌 組織 細胞形態 不均質 heterogeneous HER2 不均質 heterogeneous ER 不均質 heterogeneous バイオマーカー発現が異なる領域は 組織 細胞形態も異なることがある バイオマーカー発現が異なる領域は 他のバイオマーカー発現も異なることがある エストロゲンレセプター陽性乳癌 腫瘍内不均質性を評価することの意義 均質 homogenous 不均質 heterogeneous 不均質であることから 分子生物学的な特徴や臨床経過をある程度予測できる 各成分に対して治療方法を選択し 組み合わせることで 治療効果の改善が期待される 散在性 バイオマーカー発現が異なっていても 細胞形態は類似しており 見分けがつかないことが多い 他のバイオマーカー発現と連動することはまれ 2

Rudolph Carl Virchow ドイツ人医師 1821-1902 病理学者 先史学者 生物学者 政治家 1856 年ベルリン大学病理学教授 細胞病理学 比較病理学 人類学の基礎を作った 空間的な腫瘍内不均質性 腫瘍内に異なる表現型を示す細胞群があることを初めて指摘した 腫瘍内不均質性を評価することの意義 腫瘍の治療法が手術のみであった時代は 腫瘍内不均質性を評価する意義は乏しかった 手術に薬物療法を組み合わせて治療するようになった現在 腫瘍内不均質性を評価する意義は増加している Beca F, et al. Adv Exp Med Biol. 2016;882:169-89 ウイキペディアフリー百科事典 症例を用いて腫瘍内不均質性を考える 治療開始 4m 12m 21m 手術 再発 死亡 左乳癌 腫瘍内不均質性 T4bN1M0-IIIB 針生検空間的 Luminal B HER2(-) タイプ +HER2タイプ CEFx2 PD wptx+tx11 PD 手術遺残癌 ANA+3wT/PMRT 肝転移巣 Luminal HER2(-) タイプ 腫瘍内不均質性時間的 トリプルネガティブタイプ ER(+) 細胞あり EXE 3 ヶ月 PD HAL 2 ヶ月 PD GEM 2 ヶ月 PD CAP 1 コースのみ治療開始から 21 ヶ月 / 手術から 17 ヶ月 / 再発から 9 ヶ月 DNA とタンパク合成 空間的な腫瘍内不均質性はどのように発生するのか? Martelotto LG, et al. Breast Cancer Research. 2014;16:R48 Kreso A, et al. Cell Stem Cell. 2014;14(3):275-91. Zardavas D, et al. Nat Rev Clin Oncol. 2015;12(7):381-94. Beca F, et al. Adv Exp Med Biol. 2016;882:169-89. RNA 合成 ( 転写 ) GAATAT GAACA GCATC GCCTA AAATG C CTTATA CTTGT CGTAG CGGAT TTTAC G タンパク合成 ( 翻訳 ) DNA 合成 ( 複製 ) GAAUAUG AACAG CAUCGC CUAAA AUGC 開始コドン アミノ酸 終止コドン DNA mrna タンパク質 3

genetic heterogeneity 細胞間で DNA 塩基配列が異なるため 異なる ( 状態の ) タンパク質が合成される DNA 合成 ( 複製 ) DNA GAATAT GAACA GCATC GCCTA AAATG C CTTATA CTTGT CGTAG CGGAT TTTAC G genetic heterogeneity 遺伝子発現の多様性 Genetic diversity :Clone 1 :Clone 2 表現型の多様性 Phenotypic diversity RNA 合成 ( 転写 ) タンパク合成 ( 翻訳 ) GAAUAUG AACAG CAUCGC CUAAA AUGC 開始コドン アミノ酸 終止コドン mrna タンパク質 表現型 phenotype を規定 遺伝子型の相違による HER2 腫瘍内不均質性 HER2 タンパクが過剰発現 HER2 遺伝子増幅がなく HER2 タンパクの発現もない HE 染色 乳管内癌巣 浸潤巣いずれにおいても HER2 タンパク発現の不均質性が認められる 遺伝子型の相違による HER2 腫瘍内不均質性 HE 染色 遺伝子型の相違による HER2 腫瘍内不均質性 HER2 遺伝子増幅がなく HER2 タンパクは 1+ HER2 タンパクも過剰発現 HER2 タンパクが過剰に発現している癌細胞は そうでない癌細胞に比較して 好酸性の細胞質を有し 核異型度がやや強い 4

Bert Vogelstein 乳癌遺伝子発現 Vogelstein B, et al. Science. 2013;339:1546-58. 包括的な遺伝子配列解析の研究結果に基づくヒト癌の遺伝子変異に関する総説 乳癌は平均 33 の遺伝子体細胞変異を有している 遺伝子体細胞変異 driver mutation: 細胞に選択的な異常増殖をもたらす driver gene: PIK3CA, ERBB2(HER2 遺伝子 ), etc passenger mutation: 細胞の異常増殖とは関連がない driver gene は 12 のシグナル伝達系を経由して機能している Bert Vogelstein 乳癌遺伝子発現の多様性 Vogelstein B, et al. Science. 2013;339:1546-58. 全ての癌の遺伝子には不均質性が存在する 1 個の癌細胞が発生した時点では その癌は単クローンである しかし 癌細胞は分裂を繰り返す度に新たな遺伝子変異を獲得する 癌細胞は たとえそれが同じ腫瘍のすぐ近くに存在していても 遺伝子の変異状況が異なる epigenetic heterogeneity 細胞間で 転写 翻訳過程が異なるため 異なる ( 状態の ) タンパク質が合成される DNA 合成 ( 複製 ) DNA GAATAT GAACA GCATC GCCTA AAATG C CTTATA CTTGT CGTAG CGGAT TTTAC G epigenetic heterogeneity 遺伝子発現の多様性 Genetic diversity :Clone 1 表現型の多様性 Phenotypic diversity RNA 合成 ( 転写 ) タンパク合成 ( 翻訳 ) RNA の分解 (RNA 干渉 ) や DNA のメチル化やヒストンの化学修飾による DNA の epigenetic control が想定される GAAUAUG AACAG CAUCGC CUAAA AUGC 開始コドン アミノ酸 終止コドン mrna タンパク質 表現型 phenotype を規定 epigenetic heterogeneity HE 染色 HER2 タンパクが 2-3+ HER2 遺伝子は増幅しているが HER2 タンパクの発現はみられない HER2 タンパクが 2-3+ の癌細胞と HER2 タンパクが発現していない癌細胞が散在性にみられる 5

腫瘍内不均質性の発生には 遺伝子型の相違 エピジェネティックな機序 両方が関与していると考えられる HER2 の腫瘍内不均質性遺伝子型の不均質性 / エピジェネティックな不均質性 遺伝子発現の多様性 Genetic diversity :Clone 1 :Clone 2 :Clone 3 表現型の多様性 Phenotypic diversity HER2 遺伝子増幅の有無 : 遺伝子増幅なし : 遺伝子 Equivocal : 遺伝子増幅あり タンパク発現の多様性 3+ 2+ 1+ 0 遺伝子型の不均質性 :3 色の癌細胞が混在していることエピジェネティックな不均質性 :1 つの色の癌細胞群の中に異なる形状の癌細胞があること 遺伝子型の不均質性 :3 色の癌細胞が混在していることエピジェネティックな不均質性 :1 つの色の癌細胞群の中に異なる形状の癌細胞があること Gene protein assay (GPA) 充実腺管癌 HER2 診断 X600 2012 年 Nitta らが報告 一つの切片上で免疫組織化学法と Dual in situ hybridization 法を同時に行う新技術 個々の細胞におけるタンパク発現と遺伝子増幅の有無を 光学顕微鏡下で 同時に観察できる Nitta H, et al. Diagnostic Pathology. 2012; 7:60 IHC タンパク 3+ DISH 遺伝子増幅あり GPA HER2 GPA HER2 タンパクが過剰発現 HER2 遺伝子増幅がなく HER2 タンパクの発現もない 6

HER2 GPA HER2 タンパクが 2-3+ HER2 遺伝子は増幅しているが HER2 タンパクの発現はみられない 乳癌における HER2 不均質性の臨床的意義に関する研究 臨床的意義 トラスツズマブを含む薬物療法の効果との関連予後との関連 GPA を用いて HER2 の不均質性を評価する 対象トラスツズマブを含む術前薬物療法が行われた HER2 陽性乳癌 7