V R (f, x) = A α k γ k e jφ ke jπf (d k x) となる. ここで,γ k, φ k はそれぞれ k 番目の物体の反射による振幅および位相係数,α k は k 番目の物体 X k に反射した信号の伝搬損による振幅係数である.d k は 送信点から k 番目の物体ま

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FM-CW レーダ技術の応用と電波防御指針について松江英明 齋藤光正 天野敏夫 我孫子拓治 山口一弘 諏訪東京理科大学工学部コンピュータメディア工学科 株式会社 CQ-S ネット あらまし 4GHz 帯を使用した FM-CW 方式レーダの動作原理を解説する そして反射物が複数存在する環境下にて被測定物の変位量および微小変位を検出し表示する差分検出方式の概要を解説する 次に被測定物の変位量および微小変位の計測を応用して 人の位置および呼吸状態を検出し 通信回線を介して遠隔に状態監視して異常時には警報を表示するシステムについて 複数の病院において実証実験を行ったのでその概要およびその結果を紹介する 最後に 電波防御指針を示し そのガイドラインを満たしていることを確認している 1. まえがき 準ミリ波帯を用いたレーダとして特定小電力 ARIB STD T-73 [1] に準拠した 4GHz 帯レーダがあり, 屋内外 で使用できるため広く適用されている. [][3][4][5][6] その中には, 表 1 に示すように移動速度や変動などを図 るドップラーレーダ [6], 移動体の距離などを測る 周波ドップラーレーダ, 静止物体または低速移動体の 距離を測る FM-CW レーダ [][5] などがある. これらは装置構成が簡易であり小型化が可能なため実装上広い 適用範囲が期待できる. 今回, 静止または準静止物体の距離を計測するため FM-CW レーダを取り上げ, 微 小変位量 ±3.1mm まで計測可能でかつ, 複数の物体が存在する環境下においてターゲットとする微小変位 の変位量を精度よく計測可能なよう変動成分のみ抽出可能な画像処理方法を検討している. そして, 計算 機シミュレーションおよび実験により基本動作を明らかにしその有効性を示している. また 被測定物の 微小変位の計測を応用して 人の呼吸状態を検出し 通信回線を介して遠隔に状態監視して異常 時には警報を表示するシステムについて 複数の病院において実証実験を行ったのでその概要お よび結果を紹介する 最後に, この FM-CW レーダを人体の移動や呼吸などの計測への適用性について, 電波防護指針 [7] の立場 から検討している.. FM-CW レーダの動作原理 図 1 に FM-CW レーダの基本構成図を また 動作原理を図 に示す.FM-CW レーダでは,VCO により周波 数変調した電波を送信アンテナ Tx から発射, 対象物に反射した電波をアンテナ Rx により受信し, 送信波 とのミキシングによりビート信号を得る. 得られたビート信号を FFT し解析することで, 対象物までの距 離を算出することができる. 送信信号周波数を f, 振幅を A, 送信機からの距離を x とすると, 送信信号 V T (f,x) は次式で表される. V T (f, x) = Ae jπf x (1) 個の物体による x 点における反射波の信号 V R (f,x) は,

V R (f, x) = A α k γ k e jφ ke jπf (d k x) となる. ここで,γ k, φ k はそれぞれ k 番目の物体の反射による振幅および位相係数,α k は k 番目の物体 X k に反射した信号の伝搬損による振幅係数である.d k は 送信点から k 番目の物体までの距離とすると, 受信機位置 x=0 の点における反射波の信号は () 式で x=0 と おき, V R (f, 0) = A () α k γ k e jφ ke jπf d k (3) 送信信号と反射波の信号を乗算し,LPF を通すと次式を得る. V out (f, 0) = A ここでフーリエ変換による距離スペクトルを求めると, P(x) = α k γ k e jφ ke j4πfd k (4) f 0 + f w V out f 0 f w (f, 0)e j 4πfx df ここで f=f 0 +f Δ とおき, f 0 + f w = A γ k α k e jφ ke j4πfd k f 0 f w f 0 + f w e j4πfx = A α k γ k e jφ k e j4πf(d k x) f 0 f w df df = A α k γ k e jφ k f w f w e j4π(f 0+f Δ )(d k x) df Δ = A α k γ k e jφ k e j4πf 0(d x) sin { πf w (d k x) f w πf w (d k x) (5) となる. 次に距離スペクトルの振幅成分 P(x) は として得られる. P(x) = A α k γ k e jφ k e j4πf 0(d x) sin { πf w (d k x) f w πf w (d k x) sin { πf w (d k x) A f w α k γ k (6) πf w (d k x) ここで (6) 式の等号が成り立つのはすべての k についてφ k + 4πf 0(d k x) が等しい場合である. ここで =1 すなわち対象物の数が 1 として,

P(x) = A α 1 γ 1 e jφ 1e j4πf 0 (d sin { πf w (d 1 x) 1 x) f w πf w (d 1 x) (7) を得る その振幅成分は となる また 位相成分を求めると, とおくと, π θ 1 (x) π として φ 1 = 0 とすれば f 0 = 4.15GHz において P(x) = A α 1 γ 1 f w sin {πf w (d 1 x) (8) πf w (d 1 x) P(x) = 4πf 0(d 1 x) + φ 1 = θ 1 (x) (9) ( π φ 1 ) 4πf 0 d 1 (π φ 1 ) 4πf 0 (10) 3.11 d 1 3.11 [mm] となり, 距離スペクトルの位相特性から ±3.11mm の範囲で微小変位を測定可能と なる. FM 変調における掃引時間を t w, サンプル時間 t s とすると周波数ステップ幅 Δf および測距可能最大距 離 d max が次のように求められる. f = f w t w /t s [Hz] (11) d max = 4 f [m] (1) 例えば,t s =1µs, t w =104µs のとき, 測距可能な最大距離 d max =384m となる. 3. FM-CW レーダのシミュレーション評価 3.1 FM-CW レーダの基本特性 4GHzFM-CW レーダについて, その基本特性を把握するため計算機シミュレーションを行った. 表 1 にシミュレーション諸元を示す. 図 3に距離 10m 点にある対象物に対する距離スペクトルを示す. ここで距離スペクトルはハミング窓関数用いて信号処理をし, 振幅成分について正規化を行っている. 掃引周波数幅を 50MHz,100MHz,00MHz,400MHz としてシミュレーションを行った. 図より, 距離スペクトルの分解能は掃引周波数幅 f w に依存しており,f w が大きいほど分解能が高く, 例えば掃引周波数幅 00MHz の場合, 距離分解能は約 ±1m 程度となることがわかる. 図 4に, 距離 10m 点の対象物について掃引サンプル時間 t s を 0.1µs,1µs,10µs と変化させた場合の距離スペクトルを示す. 帯域幅 00MHz, 掃引時間 104µs において,t s =0.1µs,1µs,10µs に対する周波数ステップ幅 Δf はそれぞれ 19.5kHz,195kHz,1950kHz となる. 図 4から, 掃引サンプル時間が大となると測定誤差が大きくなり, 例えば 10µs では誤差は約 0.5m 程度となる. 図 5に, 対象物の距離を 10m から 0m まで 0.5mステップで可変させたときの距離スペクトルを3 次元

表示の場合を示す. レーダのパラメータは f w =00MHz, 掃引サンプル時間 1µs とした. 図 6は 3 次元表示を上からの視点で表示し, 色が P(x) の大きさを示している. 図から, 距離の変化に対応して測定結果も 1 対 1 に対応して変化している. 図 7に,10m 点においた対象物の微小変位を-5mm から +5mm まで 0.1mm ステップで変化させた場合の変位測定結果を示す. 図より, 中心周波数 f 0 =4.15GHz において ±3.1mm の範囲で被測定物の相対的な微小変位を測定できることが確認できた. しかし,±3.1mm 以上の変位に対しては位相の不確定が存在し, 完全に 1 対 1 に対応していないことに注意する必要がある. 3. 差分検出法複数の反射物の中から動いているもののみを検出する方法として差分検出方法を検討している その概要を図 8に示す 対象とする測定物の距離スペクトルが他の変動しない反射物を除去することで対象物を鮮明に表示することができる 図 9に,15m と 0m 地点に測定対象と別の反射物がある環境にて, 測定対象物を 10m から 0m まで移動させた場合の距離スペクトルを示す. ただし f w =00MHz, 掃引サンプル時間 1µs とし, 対象物は 1 秒ごとに 0.5m ステップでの移動とした. 図 (a) に示すように, 測定対象物以外の反射物が存在する環境においては, 不要な距離スペクトルに測定対象物のスペクトルが埋もれ識別困難となる. 特に, 測定対象物からの反射係数がそれ以外の反射物の反射係数に比べて小さい場合には表示結果が悪くなる. そこで図 (b) に示すように, あらかじめ測定対象物以外のみが存在する状態のスペクトル P 0 (x) を求めておき, 測定対象物を含むスペクトル P(x) から P 0 (x) を減算することにより対象外の距離スペクトルを除去し表示を行う差分検出法を用いている. 図 9から, 差分検出を用いない場合では対象物の動きが不要反射波によりわかりにくく表示されているが, 差分検出を行った場合では反射係数が小さい場合でも測定対象物の動きのみが明確に表示されることを確認した. 4. 実験による特性評価表 3に示す諸元のレーダー機器 ( 外観を図 10に示す ) を開発して実験による特性評価を行った [7][8]. 4.1 差分検出を用いた距離スペクトル表示図 11にレーダ機器からの距離 mから 10mの範囲で人間が歩いて遠ざかり, 再び近づく様子を測定し表示した結果を示す. ここで, 図は測定した距離スペクトルを表示しており, 正規化後スペクトルの大きさに合わせ色分け表示を行っている. 図 (a) では対象となる人間以外の環境物の反射が検出されている. そこで, 図 (b) に示す差分検出を用いた手法では無人の静止状態で測定された信号を測定結果から減算する差分検出表示を行うことで, 対象である人間の動きのみを明確に表示している. 図 1に, 人間の呼吸状態を測定し表示した結果を示す. 相対変位測定範囲の ±3.11mm 内において, 人間の呼吸による胸の上下動が計測されている. 図 8 においては呼吸の周期が約 4s, 上下のきが ± 約 mmとして測定されていることがわかる. 4. 実環境における動作表示例

図 13に, 人間のベッドへの着床から呼吸計測を開始するまでの一連の動作を差分検出を用いて記録した結果を示す. 計測開始時点ではベッドは無人状態であるため反射波は検出されていない. 人間がレーダの検知範囲に入ると反射波が検出され, 頭部, 胴体, 足の各部分による反射波が表示されている. 横たわった状態から微小変位計測を開始し, 動体のみを表示することで胸の上下動をとらえ計測できていることが確認できた. 5 病院などにおける実証実験の概要および評価結果変動量および微小変位の検出能力を人体の呼吸活動のモニタリングに適用するため 図 14に示すようなレーダーライトを開発した レーダーライトでは 変動量および微小変位量を検出するレーダー部 その検出した信号を通信回線を介して集約するための WiFi 通信機能 および LED ライトの計 3つの部分で構成されている 人体に電波を照射するため 電波防御指針に適合しているとともにと特定小電力無線装置として ARIB STD T-73 に準拠していることを証明するための技術審査に合格しなければならない 電波防御指針に関しては次章で詳しく解説する 神奈川県産業技術センターおよび老人介護施設ユーミーケアのか所において 合計 35 名の被試験者に対して1 項目にわたる動作と遠隔からの監視結果の表示との整合性の確認を行った 今回 タブレット端末には6 種類の表示を行うよう表示用ソフトを開発している その結果を図 16に示す 1 項目中 当初から予想された動きおよび状態についてはほぼ正常に表示されていることを確認したが 一方で 当初想定した低いベッドからの転倒の検出や横寝状態の検出は正確には検出できず 今後の課題が明確になった 図 17に将来の医療分野における遠隔監視システムのイメージを示す 6 電波防御指針の立場からの検討について一般に電波を人体に照射する場合, 各機関で定められた基準を満たす必要があり, 国内においては総務省が定める電波防護指針 [9] に, 同様に米国においては IEEE C95.1 [10] に, また, 欧州においては ICNIRP [11] にその基準がそれぞれ定められている. 本 FM-CW レーダを人体に照射して人体の偏移量を計測する場合の人体に対する影響については電波防護指針に基づいて基準を満たしているか否かを検証する必要がある. 今回使用する 4GHz 帯 FM-CW レーダでは図 18に示す環境において, 送信機出力 =7mW, 送信アンテナ利得 =11dBi, 実効輻射電力 =88mW, 送信アンテナのビーム幅約 50 度, 送信点から.5[m] 離れた人体表面上の電界強度 E[V/m] および放射電力密度 P[mW/m ] を算出すると, レーダ方程式より E = 30 0.088.5 = 0.65 [V/m] P = E Z 0 = 0.65 10π = 1.1 10 4 [mw/m ] となる. 一方, 電波防護指針によれば, 条件 G に該当する場合, すなわち, 利用者が電波利用の実情が認識され ない場合に相当する厳しい条件下において, 基準では許容電界強度 61.4[V/m] 以下, 許容放射電力密度 1[mW/m ] 以下であり, 基準を十分に満たしているといえる.

7. まとめ 4GHz 帯を使用した FM-CW 方式レーダ装置について, 動作原理を示した後, 計算機シミュレーションおよび実験によりその基本特性を明らかにした. そして差分方式を用いることで, 被測定物以外の反射物が存在する環境において, レーダ装置から被測定物までの距離および被測定物の微小変位の検出が可能であることを確認した. さらに レーダー技術を活用したレーダーライトを開発して か所の病院などで実証実験を行って実環境における動作確認を行った結果 概ね想定した状況については正常動作を確認できたが 一方で想定していなかった低いベッドからの転倒や横寝動作などは正確に表示することができなかった 今後はこれらの動作や状況検出に対して改善を行って完成度を高めていく 謝辞今回 神奈川県の平成 5 年度エネルギー関連等ベンチャ事業化促進事業において 明日を担うかながわベンチャープロジェクト に採択され その一環で行った. また, 本 FM-CW レーダを人体に適用する場合の電波防護指針からの検証については北海道大学野島俊雄教授に貴重なるご教示をいただいたことに感謝する. 文献 [1] http://www.arib.or.jp/tyosakenkyu/kikaku_tushin/tsush_std-t073.html [] 上保徹志, 0m から測距可能な定在波レーダ, 電学論 C,15 巻 1 号,pp.1641-1651, 005 年 [3] 大窪義博, 上保徹志, 距離 0mから測距可能な定在波レーダの測定原理の実験的検証, 信学論 (B),vol.J89-B No.7 pp.1141-1150,006 年 [4] T.Ihara and.fujimura, Researh and development trends of millimeter-wave short-range appliation systems, IEICE Trans.Commun., vole79-b,no.1,pp.1741-1753,de.1996. [5] T.Saito, T.Ninoyama, O.Isaji, T.Watanabe, H.Suzuki, and N.Okubo, Automotive FM-CW radar with heterodyne reeiver, IEICE Trane. Commun., vol.e79-b, no.1, pp.1806-181, De.1996 [6] H.Rohling and E.Lissel, 77GHz radar sensor for ar appliation, IEEE 1995 International Radar Conferene, pp.373-379, May 1995. [7] 宮坂浩平 斉藤光正 山口一弘 松江英明, 4GHz 帯 FM-CW レーダーの設計と特性 電子情報通信学会 無線通信システム研究会報告 RCS013-60,pp9-34,014 年 1 月 [8] azuhiro Yamaguhi_, Mitsumasa Saitoz, ohei Miyasakay and Hideaki Matsue, Design and Performane of a 4 GHz Band FM-CW Radar System and Its Appliation, IEEE APWiMob 014, Aug.8-30 th,

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