レーザー発振の原理

Similar documents
第9章

Microsoft Word - note02.doc

Microsoft Word - Chap17

<4D F736F F F696E74202D F8088CA8CB48E7182C6838C815B B8CF582C682CC918A8CDD8DEC97702E707074>

Microsoft Word - 5章摂動法.doc

多次元レーザー分光で探る凝縮分子系の超高速動力学

Microsoft Word - 素粒子物理学I.doc

2009 年 11 月 16 日版 ( 久家 ) 遠地 P 波の変位波形の作成 遠地 P 波の変位波形 ( 変位の時間関数 ) は 波線理論をもとに P U () t = S()* t E()* t P() t で近似的に計算できる * は畳み込み積分 (convolution) を表す ( 付録

<4D F736F F D FCD B90DB93AE96402E646F63>

Microsoft Word - 9章(分子物性).doc

スライド 1

Microsoft PowerPoint - H21生物計算化学2.ppt

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

プランクの公式と量子化

2018/6/12 表面の電子状態 表面に局在する電子状態 表面電子状態表面準位 1. ショックレー状態 ( 準位 ) 2. タム状態 ( 準位 ) 3. 鏡像状態 ( 準位 ) 4. 表面バンドのナローイング 5. 吸着子の状態密度 鏡像力によるポテンシャル 表面からzの位置の電子に働く力とポテン

3 数値解の特性 3.1 CFL 条件 を 前の章では 波動方程式 f x= x0 = f x= x0 t f c x f =0 [1] c f 0 x= x 0 x 0 f x= x0 x 2 x 2 t [2] のように差分化して数値解を求めた ここでは このようにして得られた数値解の性質を 考

以下 変数の上のドットは時間に関する微分を表わしている (ex. 2 dx d x x, x 2 dt dt ) 付録 E 非線形微分方程式の平衡点の安定性解析 E-1) 非線形方程式の線形近似特に言及してこなかったが これまでは線形微分方程式 ( x や x, x などがすべて 1 次で なおかつ

Microsoft Word - 8章(CI).doc

横浜市環境科学研究所

Microsoft Word - thesis.doc

Microsoft Word - 1-4Wd

第1章 単 位

ଗȨɍɫȮĘർǻ 図 : a)3 次元自由粒子の波数空間におけるエネルギー固有値の分布の様子 b) マクロなサイズの系 L ) における W E) と ΩE) の対応 として与えられる 周期境界条件を満たす波数 kn は kn = πn, L n = 0, ±, ±, 7) となる 長さ L の有限

Microsoft PowerPoint - 卒業論文 pptx

DVIOUT-SS_Ma

s とは何か 2011 年 2 月 5 日目次へ戻る 1 正弦波の微分 y=v m sin ωt を時間 t で微分します V m は正弦波の最大値です 合成関数の微分法を用い y=v m sin u u=ωt と置きますと dy dt dy du du dt d du V m sin u d dt

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

1/17 平成 29 年 3 月 25 日 ( 土 ) 午前 11 時 1 分量子力学とクライン ゴルドン方程式 ( 学部 3 年次秋学期向 ) 量子力学とクライン ゴルドン方程式 素粒子の満たす場 y ( x,t) の運動方程式 : クライン ゴルドン方程式 : æ 3 ö ç å è m= 0

Microsoft PowerPoint - 11JUN03

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - siryo7

: (a) ( ) A (b) B ( ) A B 11.: (a) x,y (b) r,θ (c) A (x) V A B (x + dx) ( ) ( 11.(a)) dv dt = 0 (11.6) r= θ =

電気電子工学CH-2_1017_v2済

有機4-有機分析03回配布用

( 慣性抵抗 ) 速度の 2 乗に比例流体中を進む物体は前面にある流体を押しのけて進む. 物 aaa 体の後面には流体が付き従う ( 渦を巻いて ). 前面にある速度 0 の流体が後面に移動して速度 vとなったと考えてよい. この流体の質量は単位時間内に物体が押しのける体積に比例するので,v に比例

スライド 1

フィードバック ~ 様々な電子回路の性質 ~ 実験 (1) 目的実験 (1) では 非反転増幅器の増幅率や位相差が 回路を構成する抵抗値や入力信号の周波数によってどのように変わるのかを調べる 実験方法 図 1 のような自由振動回路を組み オペアンプの + 入力端子を接地したときの出力電圧 が 0 と

スライド 1

数値計算で学ぶ物理学 4 放物運動と惑星運動 地上のように下向きに重力がはたらいているような場においては 物体を投げると放物運動をする 一方 中心星のまわりの重力場中では 惑星は 円 だ円 放物線または双曲線を描きながら運動する ここでは 放物運動と惑星運動を 運動方程式を導出したうえで 数値シミュ

第 5 章 構造振動学 棒の振動を縦振動, 捩り振動, 曲げ振動に分けて考える. 5.1 棒の縦振動と捩り振動 まっすぐな棒の縦振動の固有振動数 f[ Hz] f = l 2pL である. ただし, L [ 単位 m] は棒の長さ, [ 2 N / m ] 3 r[ 単位 Kg / m ] E r

スライド 1

微分方程式による現象記述と解きかた

H AB φ A,1s (r r A )Hφ B,1s (r r B )dr (9) S AB φ A,1s (r r A )φ B,1s (r r B )dr (10) とした (S AA = S BB = 1). なお,H ij は共鳴積分 (resonance integra),s ij は重

Microsoft Word

三重大学工学部

SE法の基礎

DVIOUT

三重大学工学部

PowerPoint Presentation

基礎から学ぶ光物性 第8回 物質と光の相互作用(3)  電子分極の量子論

Microsoft Word - t30_西_修正__ doc

固体物理学固体物理学固体物理学固体物理学 B ここではフェルミ球内における電子の総和を考えているから 次元極形式の積分により si (.) となるから は以下のようになる 8 (.) 単位体積当たりの電子数 つまり電子密度 / を用いると フェルミ波数 は以下のように求められる. / (.) が求め

物性基礎

1/10 平成 29 年 3 月 24 日午後 1 時 37 分第 5 章ローレンツ変換と回転 第 5 章ローレンツ変換と回転 Ⅰ. 回転 第 3 章光速度不変の原理とローレンツ変換 では 時間の遅れをローレンツ変換 ct 移動 v相対 v相対 ct - x x - ct = c, x c 2 移動

喨微勃挹稉弑

素粒子物理学2 素粒子物理学序論B 2010年度講義第4回

PowerPoint プレゼンテーション

パソコンシミュレータの現状

交流 のための三角関数 1. 次の変数 t についての関数を微分しなさい ただし A および ω は定数とする 1 f(t) = sin t 2 f(t) = A sin t 3 f(t) = A sinωt 4 f(t) = A cosωt 2. 次の変数 t についての関数を積分しなさい ただし

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2

<4D F736F F D20824F B CC92E8979D814696CA90CF95AA82C691CC90CF95AA2E646F63>

s と Z(s) の関係 2019 年 3 月 22 日目次へ戻る s が虚軸を含む複素平面右半面の値の時 X(s) も虚軸を含む複素平面右半面の値でなけれ ばなりません その訳を探ります 本章では 受動回路をインピーダンス Z(s) にしていま す リアクタンス回路の駆動点リアクタンス X(s)

破壊の予測

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - H22制御工学I-10回.ppt

Microsoft PowerPoint - 10.pptx

反射係数

スライド 1

( 全体 ) 年 1 月 8 日,2017/1/8 戸田昭彦 ( 参考 1G) 温度計の種類 1 次温度計 : 熱力学温度そのものの測定が可能な温度計 どれも熱エネルギー k B T を

Microsoft PowerPoint - 11MAY25

PowerPoint プレゼンテーション

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

Microsoft Word - 力学12.doc

Microsoft PowerPoint - 第2回半導体工学

有限密度での非一様なカイラル凝縮と クォーク質量による影響

ニュートン重力理論.pptx

Microsoft PowerPoint - zairiki_3

Microsoft PowerPoint - シミュレーション工学-2010-第1回.ppt

PowerPoint Presentation

物性物理学 I( 平山 ) 補足資料 No.6 ( 量子ポイントコンタクト ) 右図のように 2つ物質が非常に小さな接点を介して接触している状況を考えましょう 物質中の電子の平均自由行程に比べて 接点のサイズが非常に小さな場合 この接点を量子ポイントコンタクトと呼ぶことがあります この系で左右の2つ

Microsoft Word - 量子化学概論v1c.doc

PowerPoint Presentation

(Microsoft Word - \216\221\227\277\201i\220\333\223\256\201jv2.doc)

平面波

<4D F736F F D2089F082AF82E997CD8A7796E291E A282EB82A282EB82C8895E93AE2E646F63>

数学 t t t t t 加法定理 t t t 倍角公式加法定理で α=β と置く. 三角関数

領域シンポ発表

2011年度 筑波大・理系数学

ポリトロープ、対流と輻射、時間尺度

素粒子物理学2 素粒子物理学序論B 2010年度講義第2回

画像処理工学

ÿþŸb8bn0irt

FEM原理講座 (サンプルテキスト)

人間科学部研究年報平成 24 年 (1) (2) (3) (4) 式 (1) は, クーロン (Coulomb) の法則とも呼ばれる.ρは電荷密度を表し,ε 0 は真空の誘電率と呼ばれる定数である. 式 (2) は, 磁荷が存在しないことを表す式である. 式 (3) はファラデー (Faraday)

Microsoft PowerPoint - 東大講義09-13.ppt [互換モード]

<4D F736F F D2097CD8A7793FC96E582BD82ED82DD8A E6318FCD2E646F63>

ハートレー近似(Hartree aproximation)

Probit , Mixed logit

Microsoft PowerPoint - LectureB1handout.ppt [互換モード]

1/12 平成 29 年 3 月 24 日午後 1 時 1 分第 3 章測地線 第 3 章測地線 Ⅰ. 変分法と運動方程式最小作用の原理に基づくラグランジュの方法により 重力場中の粒子の運動方程式が求められる これは 力が未知の時に有効な方法であり 今のような 一般相対性理論における力を求めるのに使

Transcription:

第 6 章光と原子との相互作用光の吸収と放出前章では 光と相互作用する原子の束縛電子状態は定常状態とは異なるが 定常状態の状態ベクトルで展開して表現できることが示された 原子 個の微視的双極子モーメントの期待値から 巨視的な物質分極が導かれ 我々の観測できるマクロ的な光学定数が関連付けられた 本章では 状態の変化と それに伴う光の吸収と放出について議論する 6. 量子論に基づく A 係数と B 係数分散理論では 原子が光と相互作用している定常的な状態で双極子モーメントの期待値がどのよな時間変動をするかという議論をしてきた 状態ベクトルは時間的に変動するが 電磁波のように周期的な擾乱にさらされたときの状態ベクトルの変化も周期的であった 本節では時刻ゼロにおいて電磁波を原子に当てたとき その後状態ベクトルはどのような変化をするか ということについて考える まず 原子に束縛されている電子についてのシュレーディンガー方程式である (5.5) 式から出発する ψ = Hψ = ( H + V ) ψ (5.5) ここで 相互作用ポテンシャル V は ( 5. ) 式の双極子 E ( e ω + e ω μe ω V = e + e ) とのカップリングとして (5.) 式の ( μ = er と (5. ) 式の電場 ω ) として与える シュ レーディンガー方程式の解を摂動の次数で展開し ゼロ次と 次の摂動項を摂動の無い定常状態での 固有ベクトルで展開する ここでは状態は と だけと考える ψ = ψ + ψ として ψ ψ ( r) ( r) ( r) ( r) = u e = u e + u e ω ω ω ω ω ω = u e = u( r) e + u( r) e ( ) ω ( { ) ω u r e u( r ) e } ψ = ψ + ψ = + { ω ω u r e u( r ) e } + + ( ) ω ( { } ) ω u r e { } u( r ) e = + + ++ である 摂動が無いときは状態 にいるとする そうすれば ゼロ次摂動の展開係数は ( ) よび ( ) = お = となる 双極子モーメントの行列要素の対角成分はゼロなので V = V = であり 次摂動の展開係数は (5.3) 式と (5.4) 式にこれらの条件を代入することで ( ) = V e ω = および ( ) ω ω = Ve = Ve で決められるが これ 等の解としては まず 状態 の 次摂動係数 は定数なので これをゼロとする つまり 次 7

摂動の精度では電場の影響を受けた状態ベクトル ψ の準位 への展開係数はほとんど変わらず の ままである さらに 準位 への展開係数としてダンピング項を入れた (5.7) 式を用いる ω μ E ω ω ω = Ve γ = e + e e γ (5.7) この微分方程式の解は定数変化法により容易に解けて 解は同次方程式の一般解と非同次方程式の特解の和で与えられる だだし 電場印加の摂動は時刻ゼロから始まったとすると < では E = で あったとして { ( μ E μ E ) } e e d e e ( ω + ω γ ) ( ω ω γ ) γ γ = + ( ω + ω) ( ω μe e e = + ω + ω γ ω ω γ ( ω + ω) ( ω μe e e γ e = + ω + ω γ ω ω γ (6.) として与えられる ここで 初期条件より = であることを用い 通常 γ << なので e γ と した 次に 原子にあたっている光の角周波数が準位 間の遷移周波数に近いとする つまりほぼ共鳴している状況である ω ω の条件を (6.) 式に適用すると 分母に ω + ω を持つ項は ω ω の項に比べ無視できる そうすると ( ω μe e = ω ω (6.) が得られる これを回転波近似 (Roonl Wve Approxmon) という ここでは 話を簡単にす るために分母に入っているγ も落とした したがって ( ω ω) μe cos( ω μe = = ( ω ( ω となる ここで は準位 から へ単位時間当たりに遷移する確率と考えられる したがって この結果から準位 へ励起される確率は時間的に周期的に変化することがわかる もし ω sn (6.3) ω が大 きいなら つまり入射する光子のエネルギーが二準位間のエネルギー差と大きく異なる場合は (6.3) 式の分母が大きくなるために この周期変動の幅は大変小さいと考えられる 実際 ω やω などは の桁なので 分母は 3 の桁となり 分子の sn する部分は大変小さな値である ところが ω ( ω ω) は 以上になれないので (6.3) 式の時間変動 ω が小さいとき つまり光子のエネルギーが準位間 のエネルギー差に近いとき 言葉をかえるならば 光が原子遷移に共鳴するときは異なった振る舞いをする ω ω のとき 5 7

( ω ω) ( ω ω ω ω ω ω ω ω ω ω ω sn sn cos cos sn (6.4) 4 となるので 時間の 乗に比例して遷移確率は増大する 振動しないのは ω ω が小さいときは振 動の周期が長くなり その極限では (6.4) 式のようになるからである あるいは見方を変えて 光子エ ネルギーが共鳴エネルギーに近いときは光の吸収放出の測定時間に比べて振動周期が長く (6.4) 式の ような変化に見えるということである ここまでの結果では (6.3) 式で与えられる状態 への遷移確率 ( 準位 に居る確率 ) は光が原子遷 移に共鳴する場合は時間の 乗に比例して増えることがわかった 原子が光と相互作用して励起され る場合 原子の共鳴周波数は厳密に決まった値ではなく ある程度の幅を持つ これは様々な要因で生じる 例えばエネルギーと時間との不確定性原理などが一例である したがって 関数 (6.4) 式の最初の式をω で積分する必要が生じ 積分した結果はπ を与える つまり 時間に比例する結果と なる 以上の考察と光エネルギー密度 W = ε E を用いれば (6.3) 式は μe π πew x = = ε (6.5) となり 準位 に原子が居る確率は時間に比例して増えていく その比例係数として 光エネルギー密度と双極子モーメントの行列成分が関与する つまり 原子に当たる光りが強ければ あるいは双極子モーメントの行列成分が大きければ 状態 へ励起される確率が増大する 原子数密度を N とす れば 準位 に励起されている原子数は N で与えられると考えると このことは 光が当たり 続けていると準位 に励起される原子数 N が時間に比例して増加することを物語る このとき光は吸 収されている (6.5) 式を = WB と書くと = WB ここに π e x B = (6.6) ε と書くことで の単位時間あたりの遷移確率を表現できる ここで 係数 B をアインシュタインの B 係数という ここでの議論は まず摂動の 次まで考慮していること および遷移過程の経過時間が短いことを条件としている 時間が無限に長くなると遷移確率が無限大になるということはない 励起時間が長い場合は (6.6) 式は成り立たない また 次摂動以上の項を取り込む必要がある場合はここでの議論は成り立たない 高次摂動を考慮する必要性は光強度が非常に強い場合である そのときは高次効果により非線形応答が得られる 今までは 初期状態として 電場が印加されていないとき つまり = において原子は状態 に居たとした 代わって今度は状態 に居たとする つまり 初は高いエネルギー状態に居たとする 今場合 次摂動までの近似においては 上述の議論をそのまま使える ただし 状態ベクトルの展開 係数であると の役割が交代する 今の場合 ゼロ次摂動の展開係数は ( ) ( ) = および ( ) = と 7

なる 双極子モーメントの行列要素の対角成分はゼロなので V = V = であり 次摂動の展開係数は (5.3) 式と (5.4) 式にこれらの条件を代入することで ( ) = Ve ω = および ( ) ω ω = Ve = Ve で決められるが これ 等の解として は定数であることが分かる この定数をゼロとする というのは ( ) = と固 定値を取っているので その後の時間展開において これが定数であるということはゼロであるべき である 状態 の 次摂動係数 をゼロとする つまり 次摂動の精度では電場の影響にもかか わらず 状態ベクトルψ の準位 への展開係数はほとんど変わらず のままである 次に準位 の展開係数は次の微分方程式で与えられる ω μe ( ω ω ) = Ve = e + e ω e (5.7) この微分方程式を積分するに当たって 電場印加の摂動は時刻ゼロから始まったとすると < では E = であったとして ( ω ) ( ω ω) ( ω ω) = { ( e e ) d μ E } + + μ E + ω ω ω μ E e e = + (6.7) ω + ω ω ω が得られる これは (6.) 式で γ = とした場合と同じ形をしていて ω = ω ω < であることに注意 すれば 第 項を取ればよいことが分かる そこで (6.) 式までの議論と同様の考察で とし て (6.5) 式と同形のものが得られる これから μ E π πew x = = ε (6.8) = WB ここに πe x πe r B = = [s - ] (6.9) ε 3ε r は電子の位置ベクトルの行列要素で r = x + y + z であり 空間的に等方的なので = = であることから 3 x y z x = r と置いた の単位時間あたりの遷移確率を表現 できる ここで 係数 B を遷移 におけるアインシュタインの B 係数という ここまでの議論の物理的背景を確認する まず単位時間当たりの遷移 と遷移 の確率を与えるものはアインシュタインの B 係数であり これ等は同じ表現を持つ つまり同じ値である B = B (6.) さらに これ等は原子と相互作用している光のエネルギー密度 あるいは強度に比例している 強い光と相互作用すると遷移する確率は光の強度に比例して増大する これ等の遷移を誘導遷移という 73

エネルギー保存の故に 遷移 では原子がエネルギーを頂く代わりに光子が 個吸収され 光子は 個消滅する 遷移 では原子がエネルギーを失い 代わりに光子が 個生成される 遷移 では光子を放出するので この過程を誘導放射という 誘導放射の強さは原子に当たる光の強度に比例する また 遷移 は誘導吸収ということになるが 単に吸収ということが多い ところで 次摂動まで考えた近似では上準位 に居る確率は ( ) ( + = ) = で時 間と共に変化しないことになる ところが 実際は時間と共により低いエネルギー状態へ自然に遷移することが知られている この現象は原子に光が当たっていなくても生じる 原子に束縛されている電子を減衰振り子としてモデル化した (5.38) 式で 強制振動の項に含まれる電場振幅をゼロにす ることで表現できる この場合 強制振動項がなく自由に振動する減衰振動で電子の双極子モーメン γ トの動きを表現する つまり μ = er = ere cosω である 振動する双極子モーメントはその振動数の光を放射するので 原子遷移のエネルギーに対応するフォトンのエネルギー ω で振動しながら 減衰定数 γ で減衰する光を放射する このモデルは古典的な描写であるが 量子論的に言うなら ば 単位時間あたりに放出されるエネルギーが ω のフォトン数が e γ で時間的に減少するということである このことを 原子が上準位に居る確率が減少するという見方で捕らえる まず 光が入射していない場合では上準位への展開係数は = e γ (6.) は = における展開係数の初期条件である この関係 のように減衰すると考えられる ここに は摂動を用いた近似では出てこない 第 9 章で説明するように 原子と電磁場を同時に量子化するこ とで 必然的に現れる項である (6.) 式を観測される現象と結びつけるために を原子が状 態 に居る確率と考えることを確認する ここで 原子の数密度を N とすると 準位 に居る原子数密度は N = N e γ (6.) と考えられるが (6.3) 式は時刻 とともに状態 に居る原子の数密度が減少することを物語る N = N で時刻 における原子数密度を与えると = γ N あるいは γ dn dn = N d d (6.3) を満たす (6.3) 式を積分すると N = N e γ d (6.4) が得られる このことは γ は N が e 倍まで減る時間を与えることを示す 単位時間に γ N 個の原子が準位 から準位 へ遷移するなら 単位時間にエネルギーが ω であるフォトンを γ N 個放出する 今の場合は外部から光が入射していない場合なので これは自然放射 ( 自発放射 ) を意 味する ここで E 74

A = γ [s - ] (6.5) と書いて アインシュタインの A 係数と呼び 単位時間当たりの自然遷移確率を与える 第 9 章で説明するが A 係数の具体的な表現として 3 3 3 3 A = e ω x πεc = e ω r 3πε c = (6.6) τ が得られる ここで τ spon は準位 の寿命 (lfe me) と言われ 原子が自然遷移により準位 に居る確率が e まで減少する時間である 準位 に居る原子の数密度を N とすると τ で N e まで減少すると考える A 係数と B 係数の間には (6.9) 式と (6.6) 式から は の関係がある B b 3 ca 3 spon = (6.7) 4hν spon の時間 A 径数がゼロであれば電気的双極子遷移は生じない しかし 自然遷移が決して生じないかというと 非常に弱いながらも生じる 原子に束縛された電子と光との相互作用として 電気的双極子遷移は第 近似である さらに 高次の近似を行えば 電気的四重極子遷移 あるいは磁気的双極子遷移が無視できなくなり 大変弱いながらも自然遷移が起こる しかしながら 分光学的言葉として 準位間の遷移を許容遷移 A 禁制遷移 A = と表現することが多い これまで 自然放射と誘導放射 そして ( 誘導 ) 吸収について基本事項を議論してきた 単位時間に単位体積中で状態 から に遷移する原子数はAN( 個 / m 3 s) であるので 原子 個が遷移すればフォトン 個を放出するということに注意すれば 自然放射で単位時間当たりに放出するフォトン数は A N ( 個 /m3 s) (6.8) である このとき単位体積から単位時間に放出される光のエネルギー あるいは別の言い方をすれば 単位体積から放射される光のパワーは A N hν ( J/m 3 s あるいは W/m 3 ) (6.9) で与えられる 自然放射では光子 (phoons) は全方向に放射されることに注意すること ころで 状態 に励起された原子が周波数 ν の光のなかにさらされていると 誘導遷移により原子はフォトンを 個放出して状態 に落ちる 光が強ければそれだけ遷移しやすい 誘導遷移を起こす単位時間当たりの確率は (6.9) 式で与えられ WB (6.) である ここで W は光 ( 電磁波 ) のエネルギー密度である 状態 にある原子数密度をとすると 単位体積当たり単位時間において 状態 から状態 へ誘 導遷移で落ちる原子数は N NWB ( 個 /m3 s ) (6.) 75

で与えられる このとき単位時間に単位体積から誘導放射で放出されるフォトン数は NWB ( 個 /m3 s ) (6.) であり 単位体積から単位時間に放射される光のエネルギー あるいは単位体積から放射される光のパワーは NWB hν ( J/m 3 s あるいは W/m 3 ) (6.3) で与えられる このとき誘導放射される光子は 原子がさらされている光と同じ方向と周波数を持つことに注意する また もし状態 の原子が光にさらされていればフォトンを 個吸収して状態 に励起される この単位時間あたりの遷移確率は (6.6) 式より WB (s-) の形で与えられる 状態 にある原子の数密度をとすると 状態 から状態 へ単位時間に遷移す る原子数密度は N NWB ( 個 /m3 s ) である このとき単位体積内で単位時間当たりに吸収されるフォトン数は NWB ( 個 /m3 s ) であり 単位体積内で単位時間当たりに吸収される光のエネルギー あるいは単位体積内で吸収される光のパワーは NWB hν ( J/m 3 s あるいは W/m 3 ) で与えられる 次章ではこれ等の考えを使って レーザーについて考察する 76