ICU における 薬物性肝障害 1 ー基礎編ー 2014 年 9 月 2 日 東京慈恵会医科大学附属病院 薬剤師五十嵐貴之

Similar documents
日本内科学会雑誌第104巻第5号

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

スライド 1

本日の内容 ビスホスホネートによる 顎骨壊死 食道粘膜障害 NSAIDs LDA による 胃粘膜障害 小腸粘膜障害 コラーゲン大腸炎 薬物性肝障害

健康食品の摂取により薬物性肝障害を発症することがあります

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

Microsoft Word - ③中牟田誠先生.docx

095 自己免疫性肝炎


ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

BA_kanen_QA_zenpan_kani_univers.indd

C 型慢性肝炎に対するテラプレビルを含む 3 剤併用療法 の有効性 安全性等について 肝炎治療戦略会議報告書平成 23 年 11 月 28 日

日本胆道学会機関誌第23巻第2号

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

自己免疫性肝炎 1. 概要中年以降の女性に好発し 慢性に経過する肝炎であり 肝細胞障害の成立に自己免疫機序が想定される 診断にあたっては 肝炎ウイルス アルコール 薬物による肝障害 および他の自己免疫疾患の基づく肝障害を除外する 2. 疫学好発年齢は 50~60 歳代であり 男 : 女 =1:6 と

Microsoft Word docx

2015 年 8 月 27 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 3 シンポジウム2 基調講演薬疹の最新動向と今後の展望 昭和大学皮膚科教授末木博彦 はじめに本日は薬疹の最新情報と今後の展望についてお話しさせていただきます 最初に薬疹の概念が変遷しボーダレス化が進んでいるというお話 続

インフルエンザ(成人)

の場合は特徴的なものを挙げることは困難である 肝障害のタイプからみた所見の特徴肝細胞障害型 胆汁うっ滞型 混合型に特徴的な所見を挙げることは困難である なお肝不全に至った場合 播種性血管内凝固症候群 (DIC) を併発すれば血小板減少 出血傾向に伴う貧血を認め 感染を併発すれば白血球増多や血液像で核

<4D F736F F D D8EA98CC896C AB8ACC898A82C68B7D90AB8ACC >

Budd-Chiari 症候群は肝静脈や IVC の閉塞により起こるが 通常著明な肝腫大をきたし 痛みに過敏で重篤であり 難治性の腹水を伴う この患者は 8 か月前に施行された画像検査ではこのような所見は見られなかった 加えて 急性肝不全に至る経過が Budd-Chiari 症候群で予想されるよりも

Microsoft PowerPoint - Ppt ppt[読み取り専用]

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

目次 C O N T E N T S 1 下痢等の胃腸障害 下痢について 3 下痢の副作用発現状況 3 最高用量別の下痢の副作用発現状況 3 下痢の程度 4 下痢の発現時期 4 下痢の回復時期 5 下痢による投与中止時期 下痢以外の胃腸障害について 6 下痢以外の胃腸障害の副

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

スライド 1

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]

PowerPoint プレゼンテーション

日産婦誌58巻9号研修コーナー

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

スライド 1

消化器病市民向け

貧血 

第41回日本薬剤師会学術大会

課題名

< 混合型 > 肝細胞障害と胆汁うっ滞の両者の特徴を呈するものもあり 高度で広範な肝壊死により胆汁うっ滞が引き起こされたもの 胆汁うっ滞型で 炎症の程度が高度なものなどが含まれると考えられる 病理検査所見は それのみでは起因薬物を決定できないことに加え 肝生検という侵襲的な検査を伴うという欠点はある

B型平成28年ガイドライン[5].ppt

要旨 平成 30 年 2 月 21 日新潟県福祉保健部 インターフェロンフリー治療に係る診断書を作成する際の注意事項 インターフェロンフリー治療の助成対象は HCV-RNA 陽性の C 型慢性肝炎又は Child-Pugh 分類 A の C 型代償性肝硬変で 肝がんの合併のない患者です 助成対象とな

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

資料 2-4 イソプロピルアンチピリン製剤の安全対策について 平成 23 年 6 月 23 日平成 23 年度薬事 食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 ( 第 2 回 ) 1. イソプロピルアンチピリン製剤の安全性に係る調査結果報告書 ( 別紙 ) 1 ページ

95_財団ニュース.indd

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

2. 改訂内容および改訂理由 2.1. その他の注意 [ 厚生労働省医薬食品局安全対策課事務連絡に基づく改訂 ] 改訂後 ( 下線部 : 改訂部分 ) 10. その他の注意 (1)~(3) 省略 (4) 主に 50 歳以上を対象に実施された海外の疫学調査において 選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び

平成 24 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 555 号付録 ) 免疫血清部門 尿一般部門 病理部門 細胞診部門 血液一般部門 生化学部門 先天性代謝異常部門 細菌部門 B 型肝炎に関する最近の話題 ~ 免疫抑制によるB 型肝炎ウイルスの再活性化 を中心に~ 検査 1 科血清係 1

<4D F736F F D D8ACC8D6495CF8AB38ED282CC88E397C38AD698418AB490F58FC782C982A882A282C48D4C88E E B8

既定の事実です 急性高血糖が感染防御機能に及ぼす影響を表 1 に総括しました 好中球の貧食能障害に関しては ほぼ一致した結果が得られています しかしながら その他の事項に関しては 未だ相反する研究結果が存在し 完全な統一見解が得られていない部分があります 好中球は生体内に侵入してきた細菌 真菌類を貧

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

, , & 18

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

Real-time Tissue Elastographyを 用いた非アルコール性脂肪肝炎に おける肝硬度測定の確立

④資料2ー2

2 抗インフルエンザウイルス薬と異常行動の議論と今後の予定 平成 21 年に取りまとめられた報告書以降の知見を改めて報告書にまとめ 以下の議論がなされた 平成 21 年以降の非臨床研究及び 10 年に及ぶ疫学研究の科学的な知見を総括し 以下の事実から タミフル服用のみに異常行動と明確な因果関係がある

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)


日歯雑誌(H19・5月号)済/P6‐16 クリニカル  柿木 5

監修 愛知医科大学病院 肝胆膵内科 准教授 角田圭雄先生

Microsoft Word - DI News 2007 No 35.doc

減量・コース投与期間短縮の基準

診療情報を利用した臨床研究について 虎の門病院肝臓内科では 以下の臨床研究を実施しております この研究は 通常の診療で得られた記録をまとめるものです この案内をお読みになり ご自身がこの研究の対象者にあたると思われる方の中で ご質問がある場合 またはこの研究に 自分の診療情報を使ってほしくない とお

スイッチ OTC 医薬品の候補となる成分についての要望 に対する見解 1. 要望内容に関連する事項 組織名日本消化器病学会 要望番号 H28-11 H28-12 H28-16 成分名 ( 一般名 ) オメプラゾール ランソプラゾール ラベプラゾールオメプラゾール : 胸やけ ( 胃酸の逆流 ) 胃痛

, , & 18

Microsoft Word - 参考資料1-1 肝臓作業班資料

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

DLST の実際実際に DLST を行う手順を簡単にご説明します 患者末梢血をヘパリンや EDTA 添加の採血管で採取します 調べる薬剤の数によって採血量は異なりますが, 約 10 20mL 採血します. ここからフィコール比重遠心法により単核球を得て 培養液に浮遊し 96 穴プレートでいろいろな薬

<4D F736F F F696E74202D202888F38DFC AB38ED28FEE95F182CC8BA4974C82C98AD682B782E B D B2E >

目 次

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

データの取り扱いについて (原則)

Power Point用 スライドマスタテンプレート

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

<4D F736F F D2082A8926D82E782B995B68F E834E838D838A E3132>

プレス発表に関する手引き

14栄養・食事アセスメント(2)

アセトアミノフェンお知らせ文書_案_ _ver09.doc

BMP7MS08_693.pdf

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

医薬品の添付文書等を調べる場合 最後に 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 特定の文書 ( 添付文書以外の文書 ) の記載内容から調べる場合 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 最後に 調べたい医薬品の名称を入力 ( 名称の一部のみの入力でも検索可能

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

本日の内容 1. 薬剤師とは? 2. 薬のチェックポイント 3. 作用と副作用 4. 薬の飲み合わせ

日本内科学会雑誌第103巻第8号

ダクルインザ・スンベブラの使用経験とこれからの病診連携

P001~017 1-1.indd

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

01-02(先-1)(別紙1-1)血清TARC迅速測定法を用いた重症薬疹の早期診断

添付文書情報 の検索方法 1. 検索条件を設定の上 検索実行 ボタンをクリックすると検索します 検索結果として 右フレームに該当する医療用医薬品の販売名の一覧が 販売名の昇順で表示されます 2. 右のフレームで参照したい販売名をクリックすると 新しいタブで該当する医療用医薬品の添付文書情報が表示され

40 高知赤十字病院医学雑誌第 2 1 巻第 1 号 年 表 1 初回入院時検査成績 図 1 腹部エコー ; 異常所見なし 図 2 発症からステロイド開始までの臨床経過 DDW-J 2004 score 1) は6 点であり, ナットウキナーゼを原因とした薬物性肝障害が最も疑われた.

1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

ルギー性接触皮膚炎症候群と診断されました 欧州医薬品庁は昨年 7 月にケトプロフェン外用薬に関するレヴュー結果を公表し 重篤な光線過敏症の発症は10 0 万人に1 人程度でベネフィットがリスクをうわまること オクトクリレンが含まれる遮光剤が併用されると光線過敏症のリスク高まることより最終的に医師の処

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 (PMDA) 医療機関における医薬品安全性情報の入手 伝達 活用状況に関する調査 < 項目 : 薬局での処方監査に有用な検査値等の患者情報の共有など 病院と薬局の連携の推進 > 調査結果 1 院外薬局への患者情報提供 情報提供を要望している患者について行っている

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

Transcription:

ICU における 薬物性肝障害 1 ー基礎編ー 2014 年 9 月 2 日 東京慈恵会医科大学附属病院 薬剤師五十嵐貴之

基本情報

概要 薬物性肝障害 (Drug Induced Liver Damage: DILI) は大きく分けると 中毒性 特異体質性 に分類される 低頻度ながら多くの薬物で肝障害が生じる可能性があり 肝障害が発生した場合はDILIを疑い 速やかに使用を中止すれば重篤化することはほとんどない しかし 気づかずに長期使用すると重篤化することがある 重篤副作用疾患別対応マニュアル : 薬物性肝障害 (H20.4 改訂 )

分類 薬物性肝障害の発症機序による分類 薬事 2014.1 (Vol.56 No.1) 肝酵素による薬物性肝障害の病型分類 日本内科学会雑誌第 98 巻第 9 号

アレルギー性特異体質 薬物服用後 1-8 週間で発症 発熱 皮疹 皮膚掻痒感 好酸球増加が認められる DLSTが陽性となりうる ( メソトレキセート, フルオロウラシル, ウコンなどは偽陽性を示す可能性が高い ) 薬物 代謝産物が蛋白と結合して抗原性を獲得し T 細胞依存性肝障害が惹起される 肝臓 48 巻 5 号 207-209(2007)

代謝性特異体質 CYPやグルタチオン - S- 転移酵素などの薬物代謝関連酵素の遺伝的素因が原因 一部の患者でのみ毒性を有する薬物中間代謝産物が産生され 肝障害が惹起される 肝障害の発症時期は様々で 1 年以上の長期服用後においても発症することがある DLSTは陰性であることが多い 肝臓 48 巻 5 号 207-209(2007)

患者の年齢分布 発症までの期間 90 日以上経過してから肝障害が出現する場合も少なからず存在する 日本内科学会雑誌第 98 巻第 9 号

DILI の原因薬剤 抗生物質は抗結核薬 抗真菌薬が多い傾向 解熱鎮痛薬ではロキソプロフェンが圧倒的に多い 10 年前と比較すると健康食品 漢方薬による肝障害が増加傾向にある 日本内科学会雑誌第 98 巻第 9 号

DILI の被疑薬の報告数 (2004 年 4 月 ~2014 年 7 月までのデータ ) 一般名 商品名 ( 当院採用薬 ) 薬物性肝障害 劇症肝炎 ロキソプロフェン ロキソニン 138 36 レバミピド ムコスタ 66 10 イソニアジド イスコチン 54 42 テルビナフィン ラミシール 53 4 レボフロキサシン クラビット 50 9 クラリスロマイシン クラリス 50 21 ランソプラゾール タケプロン 44 13 ジクロフェナク ボルタレン 41 9 ファモチジン ガスター 38 14 アセトアミノフェン カロナール 35 25 チクロピジン パナルジン 34 11 アロプリノール アロシトール 32 15 アトルバスタチン リピトール 32 25 アスピリン バイアスピリン 30 15 テプレノン セルベックス 30 3 フロセミド ラシックス 29 14 アムロジピン アムロジン 26 10 カルボシステイン ムコダイン 24 14 プレドニゾロン プレドニン 23 30 ワルファリン ワーファリン 20 24 グリメピリド アマリール 18 11 酸化マグネシウム マグミット 16 2 処方数の多さからか ロキソプロフェンによる DILI が多い 抗結核薬 抗真菌薬による肝障害も報告数が多い PMDA データベースより

健康食品 サプリメントによる肝障害 予後不良である劇症肝炎 遅発性肝不全 (LOHF) が全体の 12.8% を占めている 発見が遅れることに起因しているかもしれない

診断 Am J Gastroenterol 2014; 109:950 966

診断 :Roussel Uclaf Causality Assessment Method: RUCAM <=0 excluded, 1-2 unlikely, 3-5 possible, 6-8 probable >8 highly probable Group I: HAV,HBV,HCV, 胆道疾患 (US), アルコール, ショック肝 Group II: サイトメガロウイルス感染, EB ウイルス感染, ヘルペス感染 添付文書に記載あり +2 点添付文書に記載ないが 報告あり +1 点 Am J Gastroenterol 2014; 109:950 966

診断 (DDW- J2004) カテゴリー 1: HAV,HBV,HCV, 胆道疾患 (US), アルコール, ショック肝カテゴリー 2: サイトメガロウイルス感染, EB ウイルス感染, 日本の添付文書ではほとんどの薬剤に肝障害の記載があるため 点数が高くなりすぎることを懸念し +1 のみとしている また DLST 好酸球増多によるスコアリングが記載 判定基準 : 2 点以下 : 可能性が低い 3,4 点 : 可能性あり 5 点以上 : 可能性が高い 日本内科学会雑誌第 98 巻第 9 号

被疑薬の詳細を調べるには Isoniazid で検索

被疑薬の詳細を調べるには

基本情報まとめ 特異体質性肝障害は予測することが難しい 薬物服用後 比較的早期にDILIを発症することが多いが 90 日以上経過してから発症することもある 近年では健康食品や漢方などによる肝障害も増加してきている スコアリングシステムを活用することがDILIの診断に役立つかもしれない

ICU ではどうすべきか?

Use of Hy s Law and a New Composite Algorithm to Predict Acute Liver Failure in Pabents with Drug- Induced Liver Injury Gastroenterology 2014;147:109 118 Hy s law とは FDA が重度の薬剤性肝障害の可能性を評価する際に用いている予後指標で 肝酵素の大幅な上昇と同時にビリルビンも上昇し, 被疑薬以外の原因の可能性が否定されていることをいう u スペインのDILIレジストリ (1994.4-2012.8) より771 人の患者 (801 例のDILI) を抽出 u AST/ALT, T- Bilなどのピーク値を元に 急性肝不全や肝移植に至った症例を解析 u 患者背景

急性肝不全 肝移植に至った症例 抗結核薬 抗菌薬

重症化する検査データの特徴 1 u ALT>3 and TBL>2, R>5 and TBL>2, nr>5 and TBL>2 で比較 Ø nr: (AST or ALT / AST or ALT の正常上限値 ) (ALP/ALPの正常上限値 ) AST or ALTどちらか高値であった方を選択 DILI 判明時 ALT 最大時 TBL 最大時 nr 値を用いたほうが感度 特異度ともに上昇する

重症化する検査データの特徴 2 u タイミングにおける特徴 u 肝不全の予測アルゴリズム DILI 判明時 ALT 最大時 TBL 最大時 AST が基準値の 17.3 倍以下のとき AST/ALT 比が 1.5 倍を超えることが予後不良因子 TBL 高値, AST/ALT 比高値, AST 高値が危険因子と考えられる AST が基準値の 17.3 倍を超えるとき TBL が基準値の 6.6 倍を超えることが予後不良因子

まとめ 肝細胞障害型のDILIを呈する症例では肝不全へ移行する割合が高い AST, ALTのどちらか高い値を使用してR 値を計算する nr 値のほうが感度 特異度ともに高い DILIの診断がついた場合 AST/ALT 比が高い場合は予後不良因子である

HEPATOLOGY, Vol. 60, No. 1, 2014 u EPaNIC trial のサブ解析 u 48 時間以内に PN を入れる群と 8 日間以上 PN を行わなかった群で比較

結果 u 肝酵素の比較 u 超音波の診断結果 Early PN 群でビリルビンは低く ALT, γ- GT は高い 胆泥は Early PN 群で多かった

結果 u TBL の推移 Late TPN, Early TPN Ø Late TPN で最初は TBL が上昇するが 時間が経つと Early TPN と差が無くなる u ICU 入室 1 日目における TBL の値と予後 Ø TBL が基準値の 2.5 倍以上ある場合に死亡率が増加する

まとめ 重症患者におけるビリルビン上昇は起こりうる現象であり 必ずしも胆汁うっ滞を示すというわけではなさそうである 早期 TPNによりビリルビン上昇は抑えられるが ALT, γ- GTは上昇し 胆泥の頻度も増加する TPNを投与するのはなるべく遅らせたほうが良いと考えられる

総括 DILI の診断は難しいが スコアリングシステムなどであ る程度の予測が可能である AST/ALT 比が高い場合 TBL が高い場合などは肝不全 へ移行するリスクが高いため注意が必要 栄養による肝障害も念頭に入れる必要があるが ビリ ルビンの軽度上昇であれば許容できると考えられる