可制御性 可観測性. 可制御性システムの状態を, 適切な操作によって, 有限時間内に, 任意の状態から別の任意の状態に移動させることができるか否かという特性を可制御性という. 可制御性を有するシステムに対し, システムは可制御である, 可制御なシステム という言い方をする. 状態方程式, 出力方程式が以下で表されるn 次元 m 入力 r 出力線形時不変システム x Ax u y x Du () に対し, 状態量を任意の初期状態 x() から有限の時間 で任意の状態 x( ) に移行させるよ うな入力 u () ( ) が存在するとき, このシステムは可制御である. 可制御性は出 力 y とは無関係であり, 行列 A, のみによって定まるので, ( A, ) は可制御である ということもある. 定理式 () のシステムが可制御であるための必要十分条件は, M A A n (2) として定義される可制御行列 ( 可制御性行列 ) M がフルランクをもつこと, すなわち, rank M n (3) である. 証明 式 () の状態方程式の解として以下が成り立つ. A ( ) () A ( ) e x x e u d (4) 任意の初期状態 x (), 有限時間, 状態 x( ) に対する u() が存在すると仮定する. ここで, e A は状態遷移行列 e A (5) 2! n! 2 2 n n I A A A ( )
であった. ところで, 行列 A にケーリー ハミルトンの定理 (6) n n A a A a Aa I n 2 を適用すると, 状態遷移行列 e A は行列 A のn 次多項式 A e q q q n ( ) ( ) ( ) n I A A (7) と表せる. したがって, A n x x I A A u n e ( ) () { q ( ) q ( ) q ( ) } ( ) d q ( ) q ( ) A A u( ) d q ( ) n n (8) 任意の初期状態 x (), 有限時間, 状態 x( ) に対して u() が存在するためには, でなければならない.( 必要条件 ) n rank A A n (9) 一方, 式 (2),(3) が成り立つならば, 任意の初期状態 x (), 有限時間, 状態 x( ) に対す る入力 u() が存在することを示す. まず, 行列 ( ): e A e A W d () とする ( この行列を可制御性グラム行列, 可制御性グラミアンという ). この行列が正則 であれば, 任意の初期状態 x (), 有限時間, 状態 x( ) に対して, 入力を A ( ) e ( ) A u W () e ( ) x x () と定めることで, 状態方程式の解の式より 2
A A( ) x() u( ) A A A e () e ( e ) d ( ) A x () e ( ) W x x e e d A e () ( ) ( ) A x W W () e ( ) x x x( ) (2) のように, 確かに時間 の状態をx( ) にすることができる. そこで, 次に行列 W () が正 則であることを示す. もしある に対して行列 W () が正則でなければ, となるベクトルy が存在し, yw() y (3) yw() y A A y y 2 A y e e d e d (4) であるから, y (5) A e が任意の で成り立つことになる. そのため, とおいた y (6) に加え, 式 (5) の左辺を で微分して とおいた y A (7) また, この微分を繰り返した 2 n y ya ya ya (8) が成り立つことになる. よって, (9) y A A n 3
となる. しかし, これは式 (2),(3) が成り立つと仮定したことに矛盾する. したがって, 任 意の に対して行列 W () は正則となる.( 十分条件 ) 2. 可観測性 システムの出力を有限時間観測することによって, 観測開始時のシステムのすべての状 態変数の成分を知ることができるか否かという特性を可観測性という. 可観測性を有する システムに対し, システムは可観測である, 可観測なシステム という言い方をす る. 式 () の線形時不変システムにおいて, 初期時間 から有限時間 までの入力 u() と出力 y() から, 初期状態 x() を一意に求めることができるならば, システムは可観測である. 可観測であるならば, 有限な時間区間 での入力 u() と出力 y() の推移から, その 時間区間におけるすべての状態 x() の推移を計算できる. 可観測性は, 入力が既知である ことを仮定しているので行列,D には無関係となり, 行列 A, のみによって定まるの で, ( A, ) は可観測である ということもある. 定理式 () のシステムが可観測であるための必要十分条件は, M A A n (2) として定義される可観測行列 ( 可観測性行列 ) M がフルランクをもつこと, すなわち, rank M n (2) である. 証明 式 () のシステムが可観測ではないと仮定する. すなわち, 初期時間 から有限時間 ま での入力 u() と出力 y() から, 初期状態 x() を一意に求めることができないと仮定する. そこで, 求められる異なった初期状態を x (), x () とすると, A () A A( ) e () e A ( ) d () () A A( ) e () e ( ) d () y x u Du (22) y x u Du (23) 4
を満たす. これら 2 式から であるが, z : x () x () とすると, A e A x () x () (24) A A e z (25) が任意の で成り立つことになる. そのため, とおいた に加え, 式 (25) の左辺を で微分して とおいた z (26) また, この微分を繰り返した Az (27) 2 n z Az A z A z (28) が成り立つことになる. よって, A z Mz n A (29) となる. x (), x () が異なることから成り立つz となるためには, A rank M n (3) でなければならない. 以上で十分性が証明できた. 必要性は逆にたどればよい. 3. 双対性 2 つのシステム システム : x Ax u y x Du (3) 5
システム 2 : x Ax u y xdu (32) を考える. 双対定理システム が可制御 ( 可観測 ) であることと, システム 2 が可観測 ( 可制御 ) であることは等価である. すなわち,( A, ) が可制御であることと,( A, ) が可観測で あることは等価である. また,( A, ) が可観測であることと,( A, ) が可制御であるこ とは等価である. システム とシステム 2 を, 可制御性と可観測性に関して双対なシステムであるとい う. 4. 正準形伝達関数の実現問題において代表的な正準形を述べる. 4. 可制御正準形以下のような可制御なn 次元 入力 出力線形時不変システムがあったとする. x Ax bu y cx du (33) 行列 A の特性方程式 s s n a s n as a n I A (34) の係数 a, a,, a n と可制御行列 M より, 行列 を : ( M L ) (35) a a a 2 n a a 2 3 L a n (36) と定義し, この行列 を変換行列として状態ベクトルx からx への座標変換を行う. x x (37) 6
すると, 次のようなシステムに変換することができる. x Axb u y cx du (38) A A, b b a a a a 2 n (39) c c c c c n2 n (4) この状態空間表現を可制御正準形という. 式 (38),(39),(4) のシステムの伝達関数は c s csc Gs () d n s a s as a n n n n (4) である. すなわち, 式 (4) の伝達関数から式 (38) の状態空間表現が可能である. 4.2 可観測正準形 式 (33) のシステムが可観測であったとする. 式 (36) の行列 L と可観測行列 M より, 行列 を : LM (42) と定義し, この行列 を変換行列として状態ベクトルx からx への座標変換を行う. x x (43) すると, 次のようなシステムに変換することができる. x Axb u y cx du (44) 7
a b a b A A a 2, b b (45) b n2 a n b n c c (46) この状態空間表現を可観測正準形という. なお, 可制御正準形の双対システムを考えるこ とでも可観測正準形は得られる. 式 (44),(45),(46) のシステムの伝達関数は b s bsb Gs () d n s a s as a n n n n (47) である. すなわち, 式 (47) の伝達関数から式 (44) の状態空間表現が可能である. 5. 等価なシステムの可制御性と可観測性 システム : x Ax u y x Du (48) において, 任意の正則行列 を用いて状態ベクトル x を x に x x (49) によって相似変換する. これにより等価なシステムとして システム : x Ax u y x Du (5), A A, (5) が得られる. システム の可制御行列 M と可観測行列 M は, もとのシステム の可制御行列 M と 可観測行列 M の間に, 8
n A A (52) M n M A A M A A M n n A A (53) の関係があるため, rank M rank M (54) rank M rank M (55) ゆえに, 等価なシステムどうしの可制御性, 可観測性の特性は等しい. 6. 不可制御あるいは不可観測なシステム可制御ではないシステムは, 次のような等価システムに相似変換することができる. x A A x u x y 2 Du x 2 2 x 2 A22x2 (56) (57) ここで状態変数ベクトルx の次数は rank M に等しい. これを可制御正準分解という. 同 様に, 可観測でない線形システムは次のような等価システムに相似変換できる. x A x u (58) x y Du (59) x 2 x 2 A A 2 22x2 2 ここで状態変数ベクトルx の次数は rank M に等しい. これを可観測正準分解という. 可制御あるいは可観測ではないシステムの伝達関数表現はどのようになるであろうか. 入力ベクトルu, 出力ベクトルy がスカラー u,y であり, それにともなって行列, 2,, 2 がベクトルb, b 2, c, c 2, 行列 D がスカラー d とする 入力 出力システムを 9
考える. 上の可制御でないシステムの伝達関数は Gs () s I A A 2 b c c 2 si A 22 d ( si A ) ( si A ) A ( si A ) b d 2 22 c c 2 ( s ) I A22 c ( si A ) b d (6) となることがわかる. すなわち, c 2, A 2, A 22 は伝達関数に現れず, その特性多項式の次 数は状態ベクトルの次数より小さい. 上の可観測でないシステムでも Gs () s I A b c A si A b 2 22 2 d ( si A ) b d (6) c ( s ) ( s ) ( s ) I A A I A I A 22 2 22 b2 c ( si A ) b d より同様である. 可制御あるいは可観測ではないシステムの伝達関数は, 特性多項式である分母多項式と分子多項式が共通因子をもち, それらが約分されることで次数を小さくすることができる. これを, 極零相殺 ( 極零点相殺, 極零消去, 極零点消去 ) という. 言い換えると, 伝達関数表現は状態変数表現のうち可制御かつ可観測な部分を表したものであり, 伝達関数表現のシステムの次数は可制御かつ可観測な部分システムの次数といえる. 以前, 伝達関数表現から状態空間表現への実現は一意に定まらず, 特性方程式の次数と状態ベクトルの次数が等しい実現が一般的であることを述べた. ここでの結果からわかるように, 実現問題において次数が最小のものが存在し, それを最小実現とよぶ. 最小実現も一意ではないが, 可制御かつ可観測となる.