基礎現代化学 ~ 第 3 回 ~ 化学結合と分子の形成 教養学部統合自然科学科 小島憲道 014.04.3 1
第 1 章原子 1 元素の誕生 原子の電子構造と周期性第 章分子の形成 1 化学結合と分子の形成 分子の形と異性体第 3 章光と分子 1 分子の中の電子 物質の色の起源 3 分子を測る第 4 章化学反応 1 気相の反応 液相の反応 分子を創る第 5 章分子の集団 1 分子間に働く力 分子集合体とその性質 Ⅰ 3 分子集合体とその性質 Ⅱ 参考書 現代物性化学の基礎 小川桂一郎 小島憲道共編 ( 講談社サイエンティフィク ) 原子 分子の現代化学 田中政志 佐野充著 ( 学術図書 )
x z +e y 電子の確率密度 ψ ( x, y, z) 三次元の波 ( 原子中の電子の軌道 ) n = 1 ( 最もエネルギーが低い ) s 波 動径節 0 方位節 0 s 波 n = ( 二番目にエネルギーが低い ) 動径節 1 方位節 0 節球面 動径節 0 方位節 1 p 波 節平面 波動関数 ψ 1s ψ 節 s 腹 ψ p 腹 ψ ( x, y, z) 節 1s s p 3
三次元の波 三次元の波の表し方三次元の波を 絵に描くことは出来ないので 様々な表記法によって表現される 軌道の y 軸方向だけに注目した波動関数の形 ψ y 一次元の波を表現するには座標と位相の二次元が必要 xy または yz 座標上の波動関数の形 x or z (Å) ψ の値 ψ ψ = 0.08 の曲面 0.16 y (Å) y x xy, yz 座標上で 同じ値の ψ を繋いだ等高線表示 紙面垂直方向に振幅の情報を表示 三つの軸を x, y, z の座標軸で使っているので 振幅を書くための軸がない 三次元座標上で 特定の値の ψ を繋いでできる曲面で表す 4
原子の中の電子 s p x p y p z p x = p y = p z = d xy d yz d zx d x y d z 5
水素原子の電子構造 ( 陽子 1 電子 1) 前回の授業 3s 3p x,y,z 3d xy,yz,zx,x -y,z M 殻 (18 個まで ) 水素の電子構造 n = 3 n = s p x,y,z L 殻 (8 個まで ) 1+ e - n = 1 1s K 殻 ( 個まで ) 6
電子は核 (Z > ) からどのような影響を受けるか - 電子と核との間の相互作用 - 水素原子 水素様原子 1+ Z+ 価数 Z の原子核を持つが 電子はひとつだけの状態 cf. He + イオン 電子 - 核間のクーロン力による安定化 ( e)( + e) 4πε r 0 ε 0h πm( e)( + e) ( e)( + Ze) 4πε r 波動関数の広がり 0 (Bohr 半径 ) πm( e)( + Ze) 0 ε h Z 倍 1/Z 倍 軌道のエネルギーの安定化 m( e) 8ε 0 ( + e) h 1 n m( e) 8ε ( + Ze) 0 h 1 n Z 倍 7
s 軌道と p 軌道でエネルギーに差が出る原因 - s 軌道と p 軌道の波動関数の違い s p 軌道は 内側の 1s 軌道による遮蔽を受ける s 軌道の電子は 1s 軌道の内側まで浸透できるので p 軌道の電子よりも遮蔽を受けにくい 原子核 s 軌道 p 軌道 8
遮蔽効果が軌道エネルギーへ及ぼす影響 軌道に複数の電子が入りだすと s 軌道と p 軌道のエネルギーはもはや同じではなくなる! 水素様原子 ( 電子一個 ) の場合多電子原子の場合 ( 例 炭素 ) E s 1s n = (L 殻 ) p n = 1 (K 殻 ) E s 1s p 同じ L 殻に属する電子でも エネルギーが異なる 9
原子内の電子どうしの相互作用 - その定量化 - ある電子と原子核とのクーロン引力を考える その電子と同じ軌道にある電子も 内側にある電子も その電子が受ける核の引力を遮蔽する 遮蔽効果 有効核電荷 Z eff = Z σ 6+ s p 1s σ 遮蔽定数 ( 内側 ) ( 同じ軌道 ) σ 1s = 0.300(N 1s 1) σ s = 1.7 + 0.360(N s 1) σ p =.58 + 0.333(N p 1) John C. Slater (1900 1976) N 各軌道上の電子数 10
炭素上の電子が受ける遮蔽効果 1) イオン化時 同じ n = に属する軌道でも p 軌道にある電子の方が引きはがされやすい 6+ s p 1s p 軌道上の電子に対する有効核電荷 Z eff = Z σ ( 遮蔽定数 ) = 6 [1.73 + 0.360( 1)] = 3.9 p 軌道上の電子に対する有効核電荷 Z eff = 6 [.58 + 0.333(-1)] = 3.09 ) 同じ軌道上の電子でも 二つ入っている時の方が 一つの時よりも引きはがされやすい p 軌道に電子に対する有効核電荷 ( 炭素原子 p に二個 ) Z eff = 6 [.58 + 0.333(-1)] = 3.09 p 軌道に電子に対する有効核電荷 (C + イオン p に一個 ) Z eff = 6 [.58 + 0.333(1-1)] = 3.4 11
多電子原子の電子の軌道エネルギー E / Hartree 0-5 -10-15 -0-5 -30-35 -40-45 -50 E n 4 me = 8ε h 0 1 n ( Z σ ) H He Li Be B C N O F Ne Na Mg Z 3s (n = 3) p (n = ) s (n = ) 1s 軌道より外側にある軌道 遮蔽の影響で核の電荷 (Z) が増加してもエネルギーはそれほど下がらない Z 1s 軌道 遮蔽の影響をあまり受けず Z に応じて下がる Z 1s (n = 1) ( ) Z σ z Zeff = Z σ Z ~ Z 単位 Hartree( ハートリー ) = 4.35975 10-18 J 1
イオン化エネルギー I p /kj mol -1 500 000 1500 1000 500 H He n = Be B C N O F 第一イオン化エネルギー Ne Mg n = 3 Ar Al Li Na K s 1 3s 1 4s 1 P Si Cl S I P = E Ca Sc Ti n V 4 me = 8ε h 0 第一遷移金属 Fe Ni Cr Mn Co Cu 1 n Zn Ga ( Z σ ) As Ge Br Se Z Kr Rb 0 0 5 10 15 0 5 30 35 40 Z / 原子番号 同じ n の中では Z が増えるほどイオン化エネルギー増大 n が増える度にイオン化エネルギーが減少 13
電子は自転している 古典的イメージにおける 電子の自転をスピンと呼ぶ スピンの向きは電子の公転方向対し右ねじの方向で表し 公転と同じ向きに自転する電子を α スピン 逆を β スピンと呼ぶ 核 e 核 e α β 電子 電子 軌道のエネルギーを横線で表す α スピン β スピン スピンの向きの異なる電子が軌道を占めている様子を上下の矢印で表す μ e 磁気モーメント 参考 電流と磁場との関係 e I 電子スピン 電子は 小さな磁石として振舞う 14
軌道に電子を配置するときの規則 フントの規則 エネルギーの等しい軌道に二個の電子が入る場合 電子はスピンを平行に それぞれ一個ずつ占有する p x p y p z このような配置の時 電子間の反発がもっとも小さくなる 不安定な配置, 15
E 主な原子の電子配置は 下図のようになる p s 1s H He Li Be B 1s 1 1s 1s s 1 1s s 1s s p 1 縦軸 ( エネルギーを表す ) は任意実際には 前の図で示した軌道エネルギーの通り 16
ホウ素からネオンまでの p 軌道への電子の配置 p B C N 1s s p 1 1s s p 1s s p 3 p O F Ne 1s s p 4 1s s p 5 1s s p 6 Neでp 軌道がいっぱいになり 一つの周期が終わる Na 以下は 3s 3p 軌道に電子が配置される ( 同族の原子 ) 3d 軌道が関与すると 振る舞いが異なる遷移金属 17
イオン化エネルギー I p /kj mol -1 500 000 1500 1000 500 H He n = C Be B ( 補足 ) 原子内電子反発のイオン化ポテンシャルへの影響 N F O Ne Mg n = 3 P Si Cl S Ar Al Li Na K s 1 3s 1 4s 1 I P = E n 4 me = 8ε h Ca Sc 第一遷移金属 Ti V 0 1 n Fe Ni Cr Mn Co Cu Zn ( Z σ ) Ga As Ge Br Se Z Kr Rb 0 0 5 10 15 0 5 30 35 40 Z / 原子番号 p p 反発 Be B N O 18
原子核の壊変と放射線 α 壊変 α 壊変では, 放射性元素の原子核が崩壊して α 線 ( 4 He の原子核 ) を放出し, 質量数が 4 ( 陽子 + 中性子 ) だけ減少する. その結果, 原子番号が だけ減少する. ラジウム 6 Ra を例に,α 壊変の原因を考えてみよう. 6 Ra が α 壊変によりラドン Rn になる場合, 6 Ra Rn + 4 He + 4.87 MeV となる. すなわち, 6 Ra であるよりは Rn と 4 He に分裂したほうが 4.87 MeV だけ安定になるので,α 壊変が自然に起きるのである.α 壊変は, 質量数が 00 を超えるような重い原子核における重要な崩壊過程である. β 壊変 中性子数 (N) と陽子数 (Z) の比 N/Z が安定比より高すぎる場合, すなわち中性子が過剰な場合,N/Z が減少するように原子核は電子を β 線として放出する. その結果, 原子核の中では中性子が陽子に変わり原子番号が 1 だけ増加する. β + 壊変 中性子数 (N) と陽子数 (Z) の比 N/Z が安定比より低すぎる場合, すなわち中性子が不足している場合,N/Z が増大するように原子核は陽電子を β + 線として放出する. その結果, 原子核の中では陽子が中性子に変わり原子番号が 1 だけ減少する. 電子捕獲 中性子数 (N) と陽子数 (Z) の比 N/Z が安定比より低すぎる場合, すなわち中性子が不足している場合,β+ 壊変とは別の過程として電子捕獲がある. これは, 原子核が核外電子 (K 殻の 1s 電子 ) を捕獲して陽子が中性子に変わるものであり, 原子番号が 1 だけ減少する. 自然核分裂 35 U( 半減期 7.0 10 8 y), 38 U( 半減期 4.5 10 9 y ) などの原子核は自然 に核分裂を起こす これを自然核分裂と呼んでいる. 19
β 壊変 中性子が過剰な不安定同位体の場合, 原子核は電子を β 線として放出し 原子核の中では中性子が陽子に変わり原子番号が 1 だけ増加する. 原子核物理学 永江知文 永宮正治 ( 裳華房, 000) p.5. β 壊変は当初 原子核から電子 (β 線 ) が放出される反応と考えられていた しかし この反応は 体崩壊であり 運動量の保存則から 放出された電子のエネルギーに分布があることが説明できなかった 1930 年 Pauli( 独 ) は 電気的に中性は粒子 ( ニュートリノ ) がβ 壊変において生成されるという仮説を提案した ニュートリノは1959 年にReines, Cowanに 0 よって発見された
β + 壊変 中性子が不足している不安定同位体の場合, 原子核は陽電子を β + 線として 放出し 原子核の中では陽子が中性子に変わり原子番号が 1 だけ減少する. β + 壊変を起こす不安定同位体 半減期 11 C 0 min 13 N 10 min 15 O min 18 F 110 min Na.6 y FDGはフルオロデオキシグルコースの略で ブドウ糖 ( グルコース ) に似た化合物である 18F-FDGは 18F( フッ素 ) という陽電子 ( ポジトロン ) を放出する放射性同位元素で標識した薬剤で 体にはブドウ糖と同じように取り込まれるが ブドウ糖と異なり 腎臓 尿 管 膀胱を経由して尿と一緒に体外に排泄される 1
PET 検査 癌を検査する診断方法 PET とは 陽電子放射断層撮影 という意味で Positron Emission Tomography の略 通常 癌は 腫瘍ができたり 体に変化が起きてから見つかることが多く 癌細 胞の成長がある程度進んでからでないと発見しにくい病気である PET 検査では 検査薬を点滴で人体に投与することで 全身の細胞のうち 癌 細胞だけに目印をつけることができる PET により 従来の検査にくらべて 小さな早期癌細胞まで発見することが可能 となった PET 検査は 癌細胞が正常細胞に比べて 3~8 倍のブドウ糖を取り込む という 性質を利用している ブドウ糖に近い分子 FDG ( フルオロデオキシグルコース ) を 体内に注射し しばらくしてから全身を PET で撮影する このようにして ブドウ糖 および FDG が多く集まるところがわかり 癌を早期発見する手がかりとなる http//www.jrias.or.jp/pet/pdf/
PET( ペット ) Positron Emission Tomography の略で 陽電子 ( ポジトロン ) を放出する放射性同位元素 (RI) を使った放射性医薬品を患者の体内に投与し 薬が病気の患部に集まる様子を体外から撮影することにより 病気の状態を診断する検査方法である 3 http//www.nmp.co.jp/
放射性同位体を用いた年代測定法 名称放射性同位体半減期 ( 年 ) 最終生成同位体 U Pb 法 38 U 4.47 10 9 06 Pb Th Pb 法 3 Th 1.41 10 10 08 Pb K Ar 法 地球年代測定 40 K 1.8 10 9 40 Ar (11%) 40 Ca (89%) Rb Sr 法 87 Rb 4.75 10 10 87 Sr 14 C 法 14 C 5.73 10 3 14 N 考古学年代測定 4
電子捕獲 中性子が不足している場合,β + 壊変とは別の過程として電子捕獲がある. これは, 原子核が核外電子 (K 殻の 1s 電子 ) を捕獲して陽子が中性子に変わ るものであり, 原子番号が 1 だけ減少する. 電子捕獲を起こす不安定同位体の例 半減期 7 Be 53 d 37 Ar 35 d 40 K 1.8 10 9 y 144 Ti 49 y 57 Co 7 d K 電子捕獲 5
地球 太陽系の年代測定 太陽系の地球や惑星が今から約 46 億年前に形成されたことは良く知られているが,46 億年という数値が得られるようになったのは, 放射性同位体による年代測定法の基礎が確立し, その測定精度が向上した1950 年代以降である. 太陽系において, 星間物質が凝集して鉱物が生成されると, 放射性同位体やその壊変生成物は鉱物に閉じ込められるので, それらの量の測定によって鉱物のできた年代がわかる. 地球の年代決定には, 半減期が10 9 ~10 10 年程度の放射性同位体が利用される. 例えば, カリウムを含む鉱物には 40 Kが含まれている. この 40 Kは半減期 1.8 10 9 年の放射性同位体であり, その 11% は電子捕獲により 40 Arになる. 従って, 鉱物中の 40 Kと 40 Arの比を測定すればその鉱物の年代を知ることができる. このようにして, 地球上において最古の岩石の年代が40 億年を超えること, 最古の隕石の年代が45~46 億年であることが明らかになった. このことから, 星間物質が凝集して太陽系が形成されたのは今から約 46 億年前と推定されている. * 最古の隕石であるアエンデ隕石 (Allende meteorite) は1969 年 月 8 日 メキシコに落下した隕石である 大気中で爆発して数千の破片となった隕石は 総重量は5トンと見積もら れ 年代測定の結果 45.66 億年前に形成されたものであり 太陽系最古の物質とされる 6 http//wired.jp/01/06/8/new-mineral.panguite
水素分子 水素原子同士は 共有結合によって水素分子を形成する 水素分子の形成 ( 高校までの説明 ) e e + e 水素原子 e e + e + e + 水素分子核間や電子間には静電的反発力が働くはず 水素分子はなぜ安定に存在できるのだろうか? e Ψ A Ψ A+B 電子を波として理解することで 化学結合の本質を理解する 7
分子の形成 化学結合 ~ 化学結合を原子軌道の重なりで理解する ~ 1 原子軌道が重なることで分子軌道ができる 分子軌道のエネルギーは節面の数が増えるに伴い上昇する 3 各々の分子軌道が電子を二個ずつ占有することで 結合が形成される ことを理解する 8
水素原子分子の形成 1 1 H +1 電子の行動範囲 H. 共有結合 HH. H 電子対共有 結合形成によりできた新しい行動範囲 エネルギー 電子 V = e r σ* σ 結合形成による安定化 電子 核 r 結合 核 9
二つの波の足し合わせ 同位相の波 逆位相の波 Ψ A 定在波 ( 正 ) Ψ A 定在波 ( 正 ) + x + x Ψ B x Ψ B 定在波 ( 正 ) 定在波 ( 負 ) x Ψ A+B ゼロを横切らない Ψ A+B ゼロを横切る x x Ψ A+B Ψ A+B 中央にも値がある 中央でゼロの部分がある x 連続的 x 不連続 30
水素分子の分子軌道 反結合性分子軌道 ψ = φ a φ b + 節面数 1 エネルギー 原子軌道 φa 反結合性分子軌道 φb 原子軌道 それぞれの原子軌道を占有する電子が干渉を起こす 結合性分子軌道 ψ + = φ a + φ b 節面数 0 H. HH. H 結合性分子軌道核間に存在する電子が正の電荷を帯びた原子核を 31 つなぎとめる
フッ素分子の分子軌道 F. p z p z p F s 1s 1s s p 5 p y x 価電子 p x F F. F z 八隅説 F p y x. p x y p z z F. p x. p z F px. p y y F p y 価電子のうち もっとも外側にあるp y 軌道にある電子のみ結合に関与する 3
フッ素分子の分子軌道 価電子 7 つ p z σ p * 反結合性軌道 p z p y x p x F. p y 原子軌道 σ p 結合性軌道 p y 原子軌道 px. F p y 本当は s ± S p z ± p x p z ± p z 考えるが 結合性軌道と反結合性軌道に つずつ電子が入っているので 結合次数は 0 p y x p x p z z.. p z 孤立電子対 F p x, p z F y 結合次数 p p y x 孤立電子対 フッ素の結合エネルギー 154.6 kj/mol 0 = 1 Fは一重結合 33
フッ素分子の分子軌道 F 原子 p x, p y, p z s. F F 分子 σ p * p x, p z σ p s F F s 新しくできた分子軌道 結合に関与しない軌道 1s 1s 1s 核からの距離 p z p z z p z p y x p x F. p y x p x F. p x. F p y y 34
p y 軌道の重なりによる σ 結合形成 E 節 p y p y σ u + + 反結合性軌道二つの核の中点に関し逆点対称 (ungerade) p y + σ g p y + p y + p y + 結合性軌道二つの核の中点に関し点対称 (gerade) 結合軸の周りの回転に関して対称 σ 軌道 35
酸素分子の形成 16 O 8 1s s p 内殻電子 価電子 O OO 電子対共有 O O=O 36
p 軌道どうしの相互作用 異なる種類の p 軌道同士が重ね合わさっても 分子軌道は形成されない 例 p z 軌道と p y 軌道 軌道の重なった部分の 同位相の重なりと 逆位相の重なりが等しい 従って 重なり合っても結合が出来ない p z 原子軌道 p y ( このような関係を 直交 という ) 同じ種類の p 軌道同士では 分子軌道を造ることが出来る p p dτ = z y 0 例 p y 軌道同士 σ u 反結合性軌道 例 p z (p x ) 軌道同士 p z p z 反結合性軌道 p y 原子軌道 p y σ g 結合性軌道分子軌道 p z p z p z + p z 原子軌道分子軌道 結合性軌道 p z 軌道同士 p x 軌道同士の重ね合わせでは どのような分子軌道が作られるだろうか? 37
p z 軌道の重なりによる π 結合形成 p y p y 反結合性軌道 P y π g * p z π u p y +p y 結合性軌道 結合軸の周りの回転に関して逆対称 π 結合 π 結合性軌道 点対称でない ungerade π* 反結合性軌道 点対称 gerade 38
p x 軌道の重なりによる π 結合形成 π g * p x p x 反結合性軌道 gerade p x π u p x + p x p x 結合性軌道 ungerade π 結合 39
19 9 F p z フッ素と酸素の違い p y x p x F. 1s s p 価電子を一つしか持たないフッ素は p y 軌道同士による σ 結合のみが形成される 16 8 O p y x p x p z. O. 1s s p 二つの価電子を持つ酸素は p y 軌道同士による σ 軌道の他に p x あるいは p z 軌道同士で作られる π 軌道も考える必要がある 40
O 原子 酸素分子の分子軌道と電子の詰まり方 σ py * O 分子 O 原子 p π* π p σ py s σ s * s σ s 1) π π* はそれぞれ縮退している ( 同じエネルギーをもつ軌道が複数あること ) ) エネルギーの等しい軌道が二つ以上ある場合は 電子間の反発を避けるように 電子はそれぞれの軌道をひとつずつ占有する 3) その軌道を占有する電子のスピンの向きは平行 ( 拡張 フント則 41 )
電子の軌道への詰まり方と スピンの向き μ e 磁気モーメント e I 電子スピン 核 電子 e 核 電子 e 電子は 小さな磁石として振舞う α スピン β スピン 一つの軌道に二個の電子 α β 二つの電子のスピンは逆並行スピン同士は打ち消しあう Hund 則 ふたつの軌道に二個の電子 α α 二つの電子のスピンは並行磁石としての性質が残る 4 液体酸素は磁石に引き寄せられる
O 分子の常磁性 直交する つの分子軌道にスピンを平行にして収容される ( フント則 ) 原子軌道分子軌道原子軌道 O の分子軌道 液体酸素は 沸点が 90K の淡青色の液体である 磁石に近づけると 液体酸素は磁石に吸い寄せられる 43 小川桂一郎 小島憲道編 新版 物性化学の基礎 講談社 (010)
まとめ ~ 化学結合を原子軌道の重なりで理解する ~ 分子軌道の考え方 1) 結合に関与する原子軌道の重ね合わせで 分子軌道ができる ) 電子はエネルギーが低い分子軌道から順に入る 3) 原子間に節がない軌道 ( 結合性軌道 ) に入った電子は 結合性を高める 4) 原子間に節のある軌道 ( 反結合性軌道 ) に入った電子は 結合性を低下させる 5) 結合性軌道と 反結合性軌道に入った電子の数の差が 結合次数を決める σ p * p x, p z σ p s 1s F F s 1s 反結合性軌道 p y p y + + p y + p y + 結合性軌道 節 = 電子の切れ目 分子軌道 44