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論文の内容の要旨 論文題目 Spectroscopic studies of Free Radicals with Internal Rotation of a Methyl Group ( メチル基の内部回転運動を持つラジカルの分光学的研究 ) 氏名 加藤かおる 序 フリーラジカルは 化学反応の過程で生成され 不対電子が存在する故 直ちに他の分子やラジカルと反応し 安定な分子やイオンになる このように フリーラジカルは反応性が非常に高く 短寿命であるため 実験室系で捉えることが非常に困難な分子種である このような不安定な性質は ラジカルの持つ不対電子が原因であり 従ってラジカルの不対電子に関する性質を解明することは ラジカルそのものの性質を明らかにすることと結びつく このようなラジカルに関して それが中間体として様々な化学反応に関わるという性質上 現在では多方面においてその研究が行われている 大気化学においても例外ではなく オゾンホールや地球温暖化現象 環境破壊など解決が必要不可欠な多くの課題に関しても ラジカルの研究が重要視されている 大気化学の研究において重要なのは 大気中のメカニズムのモデリングとモニタリングである 分光学におけるマイクロ波領域での研究は 主に分子の回転遷移を観測するものであり 分子の構造を決定することだけに留まらず その分解能の高さを活かして分子の不対電子に関する性質まで明らかにすることが可能である 従って 大気化学において重要視されているラジカルについてマイクロ波分光により分光学的にアプローチすることにより 大

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V H + H + H = F (pα - ρn ) + ( 1-cos3α) + AN + BN + CN 2 + DNN ( + NN) N N N N V 3 2 2 3 2 2 2 int-rot rot spin-rot z z x y ( ) 4 2 2 4 z x x z N NK z K z 2 δ N ( N N ) δ N ( N N ) + ( N N ) N 1 k k k k + T ( ε) T (, ) + T (, ) T ( ε) k = 0~2 2 N S N S 1-cos3α : 内部回転のポテンシャル関数 2 2 2 2 2 2 2 2 2 N x y K z x y x y z これを用いて最小自乗解析を試みた A 状態とE 状態の同時解析を行うと E 状態のK=1 準位の実験結果を再現できなかった そこで スピン 回転相互作用への内部回転の影響により 内部回転の角運動量が異なるA 状態とE 状態を同一のスピン 回転相互作用定数では再現できないと考え 実効的なスピン 回転相互作用項がA 状態とE 状態で異なるとして最小自乗解析を行った この結果 全ての準位の実験結果を再現することができ 内部回転のポテンシャルバリアV 3 を 327cm -1 と決定した これにより 多くの準位が近接している 60HGz 付近において A 状態の 2 02 と 1 10 とが極めて接近しており それぞれのJ = 3/2 準位がスピン 回転相互作用の非対角項で相互作用していことや E 状態のN = 1, k = ±1 準位間のmixingが大きいことが明らかになった またA 状態とE 状態のスピン 回転相互作用定数を比較すると 内部回転軸と一致したz 軸方向の成分 ε aa でその差が最も大きく 内部回転が微細構造に影響を及ぼしていると考えて矛盾しない結果となった このように 内部回転運動の微細構造への影響を実験的に確認することができた CH 3 SO ラジカルの分光学的研究 硫黄を含んだ化合物は 燃焼 海洋活動により大気中に生成され 酸性雨や大気化学反応に関わる重要な物質として考えられている 中でも 自然起源の含硫黄化合物として大気への放出量が最も大きい硫化ジメチル (CH 3 ) 2 Sは その酸化反応によりCH 3 SOやエアロゾルを生成する また OHラジカルとの反応や光解離により生成したCH 3 SOのような含硫黄ラジカルは 大気中でどのような反応を起こすかといった点で興味を持たれ NO 2 やOHラジカルとの反応など 様々な研究がなされている このように 大気化学においても興味を持たれている含硫黄ラジカルのうちCH 3 SOは 内部回転運動を持つラジカルとして メチル基 - CH 3 の内部回転と水素原子の超微細分裂に伴う複雑なエネルギー構造や 内部回転への不対電子の影響など 分光学的にも興味深いラジカルの一種である このようなラジカルの内部回転運動について系統的な議論を行うことを目的として CH 3 OOの酸素原子の硫黄置換体である CH 3 SOラジカルについて 高分解能分光実験を行った ラジカルの生成にはパルス放電ノズルを用い 酸素 O 2 を 10% 含んだアルゴンの混合試料を背圧 3~6atmでジメチルジスルフィドCH 3 SSCH 3 の溶液上を通し 超音速ジェットとして真空チェンバー内に噴き出した ab initio 計算による予想を基に N = 1-0 および 2-1 のa-type 遷移を探した N = 1-0 遷移について 予想された遷移周波数から 400MHz 高周波数側に

CH 3 OOと類似のパターンを持つスペクトルとして得られた 溶液にジメチルスルフォキシドCH 3 SOCH 3 を用いて測定を行ったところ 溶液の蒸気圧が低いため スペクトルは非常に弱かった さらに 背圧が比較的高いほどスペクトルが強くなる傾向にあった 回転定数やスペクトルパターン および生成条件から 得られたスペクトルをCH 3 SOと帰属した さらに N = 1-0 および 2-1 遷移のFTMWスペクトルをモニターして それぞれ二重共鳴実験を行うことで量子数の帰属を行った 図 2 に得られたFTMWスペクトルを示す 更に 詳細な微細 超微細構造定数の決定を目的として二重共鳴分光法によりN = 1-0 のb-type 遷移を観測した RAM 系でのHamiltonianを用いて最小自乗解析を行った 観測したCH 3 SOのスペクトルをCH 3 OOと 比較すると 図 3 に示したように 内部回転のA stateとe stateの分裂はch 3 OOと同様に小さく A 図 2. CH3SO ラジカルの FTMW スペクトル stateとe stateのスペクトルがほぼ同じ周波数領域に現れた 決定したポテンシャルバリアも 415cm -1 と CH 3 OOと同程度の値になった また スピン分裂はCH 3 OOよりもCH 3 SOの方がより小さいことがわかった CH 3 CO ラジカルの分光学的研究 アセチルラジカル CH 3 COは 大気中においてアセトアルデヒド CH 3 CHOの酸化反応により生成される 生成したアセチルラジカルは更に光酸化され 光化学スモッグや大気汚染の原因となるNO 2 との反応を導く このように CH 3 COは様々な反応過程に寄与する重要なラジカルと考えられている また このようなメチル基を持つラジカルの内部回転運動について系統的な議論を行うことを目的として フーリエ変換型マイクロ波分光器を用いた回転構造の観測を行った CH 3 COの生成は ジアセチルをアルゴンで希釈した混合試料の放電によって行った この混合試料気体を背圧 3 気圧で真空チェンバー内に超音速ジェットとして噴出した パルス放電電圧は 1.5kV が最適であった FTMW 分光器及び二重共鳴分光器を用いて N = 1-0 および 2-1 のa-type 遷移を観測した CH 3 OO およびCH 3 SO と同様に RAM 系での Hamiltonianを用いて最小自乗解析を行った これ らラジカルの得られた N = 1 0 遷移のスティック 図 3. 観測した N = 1-0 遷移のステック図

ダイアグラムを図 3 に示す 観測したCH 3 SOのスペクトルをCH 3 OOおよびCH 3 SOと比較すると 内部回転のA stateとe stateの分裂は上記二つのラジカルとは異なり A stateとe state のスペクトルが 250MHz 程度分裂してあらわれた 決定したポテンシャルバリアも 139cm -1 と CH 3 OOやCH 3 SOよりも小さな値になった