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平成 27 年度修士論文 N-path 構成を用いた狭帯域バンドパスフィルタの 解析及び実験的考察 指導教員弓仲康史准教授 群馬大学大学院理工学府理工学専攻 電子情報 数理教育プログラム 亀井成保

目次 第 1 章緒言... 3 第 2 章 N-path フィルタに関する基礎的考察... 5 2.1 N-path フィルタの基本構成... 5 2.2 N-path バンドパスフィルタの構成... 5 2.3 N-path バンドパスフィルタの動作原理... 6 2.4 N-path ノッチフィルタの構成... 7 第 3 章 N-path フィルタの特性シミュレーション... 8 3.1 回路シミュレータ SIMetrix/SIMPLIS... 8 3.2 N-path バンドパスフィルタの特性... 9 3.2.1 周波数特性... 9 3.2.2 パラメータとの相関... 10 3.2.3 アクティブフィルタへの応用... 12 3.2.4 中心周波数のチューニング特性... 15 3.2.5 差動回路構成... 17 3.2.6 オン抵抗の影響... 19 3.2.7 多相クロックの変化の影響... 20 3.3 N-path ノッチフィルタの特性... 23 3.3.1 周波数特性... 23 3.3.2 中心周波数のチューニング特性... 24 第 4 章 N-path バンドパスフィルタの過渡解析... 25 4.1 Passive N-path バンドパスフィルタの過渡解析... 25 4.2 N-path バンドパスフィルタのディジタル変復調への応用... 27 4.2.1 OOK 波の分離シミュレーション... 27 4.2.2 リアルタイムでのチューニング... 30 4.3 アクティブ 4-path バンドパスフィルタの過渡解析... 31 1

第 5 章 N-path バンドパスフィルタの実験的考察... 32 5.1 実験環境... 32 5.2 基本特性... 33 5.2.1 周波数特性... 33 5.2.2 中心周波数のチューニング特性... 35 5.3 過渡解析... 37 5.4 ディジタル変復調への応用... 39 第 6 章結言... 42 参考文献... 43 謝辞... 45 2

第 1 章緒言近年 携帯電話 無線 LAN WiFi 等の無線通信分野において 周波数帯の逼迫が課題となっており 既存の周波数帯を有効活用する動きが高まっている 例えば 周波数帯間での混信を防ぐために設けられたホワイトスペースの活用や超広帯域通信を目的とした 既存周波数帯との干渉帯域のピンポイント除去等が提案されている しかしながら このような狭い周波数帯域の信号の通過 除去を目的とした狭帯域フィルタの実現には以下のような課題がある 第一に 狭帯域の特性を実現する すなわちフィルタの鋭さを示す Q 値を高くするためには 外付けの SAW ( 弾性表面波 : Surface Acoustic Wave) フィルタやサイズの大きな L( インダクタ ) が必要となるが 実装面積が大きくなり コストも高くなる これは回路規模の縮小 低コスト化の観点から大きな障害となる 第二に 狭帯域フィルタは L 等を用いるために素子感度が高く 素子ばらつき等により特性が劣化すると共に 中心周波数の制御が難しくなるため チューニング回路が複雑化する問題点もある これに対して 1 次のパッシブフィルタを並列に配置し 多相クロックを用いて周期的にスイッチングすることにより 等価的に狭帯域フィルタを実現可能な N-path フィルタが過去に提案 [1] され 近年再着目されている [2][3] N-path フィルタは L 等を用いることなく スイッチング動作により狭帯域のバンドパス ノッチフィルタが構成可能であることから 低コストかつ実装面積に関しても有利となる また フィルタの中心周波数はスイッチング周波数により制御されるため 中心周波数が素子ばらつきの影響を受けないという利点がある 本研究は N-path フィルタの特徴であるスイッチング周波数帯での狭帯域特性の実現 スイッチング周波数による中心周波数のチューニング特性に関して シミュレーションおよび実測により検証を行うことを目的とする まず N-path フィルタの設計指針となる フィルタの中心周波数 f0 バンド幅 BW Q 値 パス数 N スイッチング周波数 fs 等の関係及び素子ばらつきによる中心周波数のチューニングへの影響を数式を用いて検証を行う 次に 先行研究例の少ない過渡解析を用いた N-path フィルタの動作検証 およびディジタル変復調への応用について検討する さらに CMOS スイッチ等の個別素子を用いた原理実験を行い 理論およびシミュレーション結果との比較 ディジタル変復調への応用等について実験的な考察を行う 3

本論文は以下の以下に示す 6 章より構成されている 第 1 章は緒言であり 本研究の背景及び目的について述べる 第 2 章では N-path フィルタの理論 基本構成 N-path 構成を用いたバンドパスフィルタの構成と動作原理について述べる また 同様の構成をとるノッチフィルタについても概説する 第 3 章では N-path フィルタの特性を回路シミュレータ SIMetrix/SIMPLIS 8.0 を用いて確認し 各種パラメータとの関係 スイッチング制御による中心周波数のチューニング特性について検証する また バンドパスフィルタにおける差動回路構成についても述べる 第 4 章では N-path バンドパスフィルタの過渡解析を用いた考察を行う ディジタル変復調への応用 動的チューニングについてシミュレーションを通して考察し N- path フィルタの有用性を検討する 第 5 章では N-path バンドパスフィルタの基本特性 パラメータ間の相関 過渡解析 ディジタル変復調への応用 フィルタ特性の動的チューニングについて 個別素子を用いた原理実験により考察を行う 第 6 章は結言である 4

第 2 章 N-path フィルタに関する基礎的考察 2.1 N-path フィルタの基本構成 図 2-1 N-path フィルタ原理図 図 2-2 制御用多相クロック N-path フィルタは図 2-1 に示すように入出力間に N 個の複数の並列パス構成をとり 各パスにはパッシブフィルタ 1 つと 同じタイミングで開閉動作をするスイッチ (SNm)2 つを有する 各スイッチは図 2-2 に示す多相クロックにより開閉制御され クロックデューティ D はパス数 N に依存する [2] 2.2 N-path バンドパスフィルタの構成 (a) 基本構成 (b) SE 構成 図 2-3 N-path BPF 構成図 5

図 2-3(a) は N-path バンドパスフィルタ (BPF) の基本構成である BPF では各パスのフィルタはパッシブ 1 次 RC ローパスフィルタ (LPF) となる 各パスのパッシブ RC LPF は同じ構成なので 抵抗 R を共通化できる さらに各パスの 2 つのスイッチは多相クロックにより同じタイミングで動作するため 図 2-3(b) のようなシングルエンド (SE) の構成として簡略化することが可能である [2] 2.3 N-path バンドパスフィルタの動作原理 図 2-4 N-path フィルタ構成図 N-path BPF の動作原理を 図 2-3(a) の回路構成における各パスの動作に着目し て概説する 各パスに配置される一つ目のスイッチ動作より入力信号がスイッチン グ周波数で変調され RF 帯の入力信号が直流成分近傍のベースバンド帯にシフト する その後 LPF で信号の低周波成分のみを通過させ 二つ目のスイッチ動作に よりベースバンド帯に変調された信号を元の RF 帯に戻す これらの処理を各パス で行い 加算したものが出力となる ( 図 2-4) このように LPF 回路をクロック周期 でスイッチングすることにより クロック周期に比例した周波数シフトが施され 等価的に狭帯域バンドパスフィルタが実現される [4] スイッチングに用いるクロッ クが入力波形と同期していないと平均電圧の形で表される出力の値が変動し 入力 の情報が失われる そのため N-path BPF はスイッチング周波数が中心周波数と なり Q 値も鋭くなる [5] また スイッチと RC LPF の構成はサンプルホールド回路と同様なため 周波 数特性において LPF 成分のコピーが生じる それに加え 時間領域でのスイッチ ング動作は矩形的な窓関数の特性を持つため N-path BPF の周波数特性は sinc 関 数の影響を受ける 各パスに二つのスイッチがあることから 特性は sinc 関数の 二乗で畳み込まれた形状となる [3] 1 次のパッシブ RC LPF の帯域は時定数 RSC に依存する また スイッチング 動作を考慮するとクロックデューティ D の影響も受けるため LPF の等価的なバン ド幅 BWLPF は次式のようになる [3] BW LPF = D 2πR S C (1) 6

BPF のバンド幅 BWBPF は BWLPF の 2 倍に等しくなるので BW BPF = D/πR S C (2) となる ここで クロックデューティ D はパス数 N の逆数となるので次のように書き換えられる BW BPF = 1/πNR S C (3) (3) 式から N-path フィルタの特性は時定数 RSC パス数 N により決定されることがわかる また バンドパスフィルタの中心周波数 f0 は次式のようにスイッチング周波数 fs と等しくなる f 0 = f S (4) 一般に BPF の鋭さを示す Q 値 (Quality Factor) は中心周波数 f0 バンド幅 BW を用いて Q = f 0 BW (5) と表されることから (3), (4), (5) 式より N-path BPF の Q 値は (6) 式のようになる Q = πnr S Cf S (6) 2.4 N-path ノッチフィルタの構成 (a) 基本構成 (b) SE 構成 図 2-5 N-path Notch Filter 構成図 N-path BPF と同様の考え方で N-path ノッチフィルタも構成可能である ノッチフィルタを構成する際には 図 2-5(a) に示すように 各パスに配置されるパッシブフィルタをハイパスフィルタ (HPF) とする BPF と同様に回路をシングルエンドの構成にすることが可能である ( 図 2-5(b))[6] 7

第 3 章 N-path フィルタの特性シミュレーション 3.1 回路シミュレータ SIMetrix/SIMPLIS SIMetrix は使いやすさと高速化を目的に設計されたミックスドシグナル回路シミュレータである 使用されている解析エンジンコアのアルゴリズムはカリフォルニア大学バークレー校電気電子工学 コンピュータサイエンス学科の CAD/IC グループにより開発された SPICE プログラムを基にしている ディジタルイベントドリブンシミュレータは ジョージア工科大学ジョージア技術研究所のコンピュータサイエンス 情報技術研究室により開発された XSPICE を基にしている SIMPLIS( SIMulation for Piecewise Linear System) は スイッチング電源システムの高速モデリング用に開発された回路シミュレータである スイッチング回路のシミュレーションに関しては SPICE よりも通常 10~50 倍高速に解析可能である SPICE のように非線型方程式を解くのではなく 直線分を用いてデバイスのモデリングを行うことにより 高速化を実現し SIMPLIS はシステム全体を線形回路トポロジーの周期的連続として表している [7] SIMetrix/SIMPLIS は比較的解析時間が早いシミュレータで 波形の細かい応答は SIMetrix で マクロ動作は SIMPLIS でとシミュレーションの目的に応じて使い分けることができる SIMPLIS の特徴は スイッチング状態での AC 解析が可能であることであり 負帰還のループ特性をシミュレーションできる これは SPICE 系シミュレータにはない最大の特徴である [8] N-path フィルタはスイッチの開閉動作を含む非線形回路であるので 周期点動 作解析による AC 解析が可能な SIMPLIS を用いてフィルタの周波数特性を確認す る 本研究で用いたソフトは SIMetrix/SIMPLIS 8.0 である 8

3.2 N-path バンドパスフィルタの特性 3.2.1 周波数特性 (a) 対数軸 (b) 線形軸 図 3-1 Passive 4-path BPF SE の周波数特性 図 3-1 はスイッチング周波数を 10MHz に設定した Passive 4-path BPF SE の周波数特性である (N = 4, RS = 1kΩ, C = 1nF) 本シミュレーションでは スイッチのオン抵抗 100μΩ 多相クロックも理想的なものとしている 10MHz 帯に鋭いバンドパス特性が観測される また スイッチング周波数以降にも 10MHz の整数倍の周波数帯に狭帯域のバンドパス特性が確認できる これは サンプリングによる成分のコピーであるが サンプリング定理によりスイッチング周波数 ( 中心周波数 ) の kn 倍の周波数帯には特性は生じない (k : 整数, N : パス数 ) さらに低周波帯域では LPF と同様の通過特性も確認できる 9

3.2.2 パラメータとの相関 (a) 抵抗 RS 変化 (b) パス数 N 変化 図 3-2 Passive N-path BPF SE の特性の変化 表 3-1 Passive N-path BPF SE の Q 値 10

図 3-3 Passive N-path BPF SE の特性の変化 (10MHz 周辺 ) 図 3-2 は 図 3-1 と同様に中心周波数を 10MHz とし 抵抗 RS, パス数 N の値を変化させた場合の BPF のシミュレーション結果である シミュレーションの結果より バンド幅 (BW) を読み取り (5) 式を用いて計算した Q 値と 理論式 (6) より求めた値を表 3-1 に示す 表 3-1 より 抵抗 RS = 1kΩ, パス数 N = 4 を基準とすると 抵抗値のみを 1/2(RS = 1kΩ から RS = 500Ω) にすると Q 値は約 1/2 パス数のみを 1/2(N = 8 から N = 4) としても約 1/2 となることがわかる したがって 時定数 RSC, パス数 N が増加することによりバンドパス特性は鋭くなり (Q 値がパラメータに比例する ) 高い Q 値が得られることが確認できる ( 容量 C の変化は抵抗 RS の変化と同様 ) また (6) 式を用いた計算結果とシミュレーション値との比較から 理論式が正しいこともわかる 表 3-1 からわかるように 抵抗 RS, パス数 N のどちらを変化させても Q 値の値に違いは見られない しかし 中心周波数における減衰量には差があり パス数を 1/2 にした方が中心周波数における挿入損失が大きくなっていることがわかる ( 図 3-3) 11

3.2.3 アクティブフィルタへの応用 図 3-4 Active LPF 図 3-5 Active N-path BPF 図 3-6 Active N-path (a) 多重帰還型 2 次 BPF (b) フリーゲ型 BPF 図 3-7 従来型 BPF 12

N-path BPF は LPF に多相クロックを用いたスイッチング動作を取り入れ た回路構成であるため アクティブ 1 次 LPF の帰還部に N-path 構成を導入 することでアクティブ構成にすることもできる ( 図 3-4, 5)[4][9][10] 図 3-6 は利得 2 の Active 4-path BPF である 同程度の利得を持つ従来型の 多重帰還型 2 次 BPF, フリーゲ型 BPF と中心周波数周辺の周波数特性を比較 する ( 図 3-7) ここで Active 4-path BPF のパラメータは (R1 = 470Ω, R2 = 1k Ω, C = 1nF, N = 4) 多重帰還型 2 次 BPF の素子パラメータは (R1 = 160Ω, R2 = 620Ω, R3 = 1.6Ω, C1 = 500pF, C2 = 500pF) フリーゲ型 BPF の素子パラメ ータは (R1 = 330Ω, R2 = 16Ω, R3 = 16Ω, R4 = 1kΩ, R5 = 1kΩ, C1 = 1nF, C2 = 1nF) と設定した また 多重帰還型 2 次 BPF の中心周波数と Q 値は f 0 = 1 2π R 1 + R 3 C 1 C 2 R 1 R 2 R 3 (7) Q = πf 0 C 1 R 2 (8) フリーゲ型 BPF の中心周波数と Q 値は f 0 = 1 2π C 1 R 2 (9) という式で表される [11] Q = R 1 R 2 (10) 13

図 3-8 バンドパス特性比較 (10MHz 周辺 ) シミュレーション結果から 従来型と比較して N-path 構成を取り入れた BPF の方が 10MHz を中心とした鋭いバンドパス特性を実現可能であることがわかる ( 図 3-8) さらに アクティブ構成を採用したことにより パッシブ構成では不可能であった通過帯域のゲインを設定可能であることが確認できる ゲインは通常の負帰還型のアクティブ LPF と同様に R2/R1 の比により決定される また 表 3-1 との比較より アクティブ構成においても Q 値が N-path フィルタの理論式を満たしていることがわかる Active 4-path BPF は同規模の多重帰還型 2 次 BPF フリーゲ型 BPF と比較し 極めて高い Q 値を有する狭帯域フィルタを実現する可能性があることを示唆している 14

3.2.4 中心周波数のチューニング特性 図 3-9 Passive 4-path BPF SE のチューニング特性 (a) 多重帰還型 2 次 BPF (b) フリーゲ型 BPF 図 3-10 従来型 BPF のモンテカルロ解析結果 15

(a) 8MHz ~ 12MHz (b)9.9mhz ~ 10.1MHz 図 3-11 Active 4-path BPF のモンテカルロ解析結果 図 3-9 はスイッチング周波数 fs を変化させた場合の Passive 4-path BPF SE の特性の変化である (4) 式に従い 各スイッチング周波数と等しい中心周波数に最も急峻なバンドパス特性が現れる このことから 制御クロック信号のスイッチング周波数により BPF の中心周波数をチューニング可能であることがわかる ここで N-path フィルタの素子ばらつきの影響を見るために抵抗に 5% コンデンサに 10% の誤差を与え モンテカルロ解析を行う ( 試行回数 30 回 ) 図 3-6, 7 に示した Active 4-path BPF 多重帰還型 2 次 BPF フリーゲ型 BPF でのシミュレーション結果が図 3-10, 11 である 従来型の BPF は (7), (9) 式にあるように素子値の変化が中心周波数に影響するため バンドパス特性が所望の帯域からずれてしまう 一方 N-path BPF は (4) 式で示したように 中心周波数がスイッチング周波数に制御される 素子の値からは独立した関係にあることから 素子ばらつきの影響を受けないことが確認できる ( 図 3-11) この特徴は フィルタを実装する上での素子精度の要求を緩和可能であることを示唆している 素子値のばらつきは中心周波数には影響しないが (6) 式に従い特性 (Q 値 ) には影響を与えるので 特性の劣化をどの程度許容できるかといった観点も重要となる 16

3.2.5 差動回路構成 図 3-12 差動 4-path BPF (a) 対数軸 (b) 線形軸 図 3-13 周波数特性の比較 17

図 3-1 に示したように シングルエンド構成の N-path バンドパスフィルタは急峻なバンドバス特性以外にも LPF 同様の低域の通過帯域が存在し 理想的なバンドバス特性が得られていない これに対して 図 3-12 に示すように N-path BPF を差動構成にすることにより 偶数倍の成分がキャンセルされ コムフィルタのような周期特性が得られる ( 図 3-13)[2] 図 3-13 は 図 3-1 に示した Passive 4-path BPF SE と同様の条件でのシミュレーション結果である (fs = 10MHz, N = 4, R = 1kΩ, C = 1nF) 中心周波数に最も隣接している 2 倍の周波数帯の特性がキャンセルされるため 組み合わせるプリフィルタの構成が容易となる また 差動構成は DC 近傍のローパス特性をキャンセル可能であるなどの利点も有するが 図 3-13 に示すように スイッチング周波数でのバンドパス特性の Q 値が小さくなり 狭帯域フィルタとしての特性がやや劣化する 差動構成回路における Q 値は次式のように表され [4] シングルエンド構成と同様にパス数 N 等のパラメータに依存する Q = πnr S Cf S /4 (11) シミュレーションにおいて 通常の SE 構成では Q = 126.1 を示したが 差動構成では Q = 31.4 となっている 18

3.2.6 オン抵抗の影響 (a) オン抵抗 100μΩ R SW R SW + R S (b) オン抵抗 50Ω 図 3-14 オン抵抗の周波数特性への影響 19

これまでのシミュレーションではスイッチのオン抵抗を 100μΩ ほぼ理想としていたが 実際のスイッチのオン抵抗はもっと大きい値となる 図 3-14 はオン抵抗を 100μΩ から 50Ω にした場合の Passive 4-path BPF SE の周波数特性である ( 各パラメータは図 3-1 と同様 ) スイッチング周波数にバンドパス特性が生じることは同様であるが 理想状態で見られた逆ノッチのような特性がなくなり 減衰値が一定値 ( 約 -27dB) に収束することがわかる この一定値はスイッチ抵抗 (RSW) を用いて RSW/(RSW+RS) と表現される [12] RSW = 50Ω で計算を行うと 0.048 となり 図 3-14(b) から読み取れる収束値 -27dB は 0.045 となるので シミュレーション結果がほぼ一致していることが確認できる 3.2.7 多相クロックの変化の影響 (a) ±1% のずれ (b) ±4% のずれ 図 3-15 多相クロック変化の周波数特性への影響 20

(a) 理想クロック ( 条件 1) (b) 1% 狭い ( 条件 2) (c) 1% 広い ( 条件 3) (d) 4% 狭い ( 条件 4) (e) 4% 広い ( 条件 5) 図 3-16 多相クロック変化のバンドパス特性への影響 図 3-15 は多相クロックに次のような変化を与えた場合の Passive 4-path BPF SE の周波数特性である (N = 4, RS = 1kΩ, C = 1nF, fs = 10MHz) 条件 1: 理想クロック ( 各クロック幅が 25ns) 条件 2: スイッチ 2, 4 のクロック幅が 24.75ns(1% 狭い ) 条件 3: スイッチ 2, 4 のクロック幅が 25.25ns(1% 広い ) 条件 4: スイッチ 2, 4 のクロック幅が 24ns(4% 狭い ) 条件 5: スイッチ 2, 4 のクロック幅が 26ns(4% 広い ) 図 3-15 より スイッチ 2, 4 のクロックが狭くなると オン抵抗の影響を受けた時のように減衰量が一定の値に収束する 条件 2 では約 -40dB 条件 4 では約 -30dB に収束していることから クロック間隔が開き過ぎると近接周波数との分離能力が低くなってしまうことがわかる クロック幅が広がった際も減衰値は収束する さらに スイッチング周波数の倍数周波数帯に生じる特性が消える 条件 3, 5 で波形に大きな違いは見られない また 中心周波数周辺を 21

比較するとクロック幅が広がり 重なりが生まれると中心周波数での減衰が大きくなることがわかる 以上のことから クロックのずれはバンドパス特性の近接周波数との分離能力 中心周波数帯での減衰量などに影響を与えることが確認できる 一方で 今回の検証での誤差範囲では中心周波数のずれは見られなかった 22

3.3 N-path ノッチフィルタの特性 3.3.1 周波数特性 (a) 対数軸 (b) 線形軸 図 3-17 Passive 4-path Notch Filters SE の周波数特性 23

図 3-17 はスイッチング周波数を 10MHz に設定した Passive 4-path Notch Filters SE の周波数特性である (N = 4, R = 1kΩ, C = 1nF) 10MHz 帯に鋭いノッチ特性が観測される また スイッチング周波数以降にも 10MHz のスイッチング周波数の倍数成分として 狭帯域のノッチ特性が確認できる さらに低周波帯域では HPF と同様の遮断特性も確認できる 3.3.2 中心周波数のチューニング特性 図 3-18 Passive 4-path Notch Filter SE のチューニング特性図 3-18 はスイッチング周波数 fs を変化させた場合の Passive 4-path Notch Filters SE の周波数特性の変化である 各スイッチング周波数と等しい中心周波数に最も急峻なノッチ特性が現れることが確認できる このことから BPF と同様に制御クロック信号のスイッチング周波数により ノッチフィルタの中心周波数をチューニング可能であることがわかる 24

第 4 章 N-path バンドパスフィルタの過渡解析 4.1 Passive N-path バンドパスフィルタの過渡解析 (a) 入力 5kHz (b) 入力 10kHz (c) 入力 15kHz 図 4-1 Passive 4-path BPF SE の過渡応答 25

(a) 入力 5kHz (b) 入力 10kHz (c) 入力 15kHz 図 4-2 パス数 N 変化時の過渡応答 (N=8) 26

図 4-1 はスイッチング周波数を 10MHz に設定した Passive 4-path BPF SE に周波数 5, 10, 15MHz の正弦波 ( 最大値 1V, 最小値 0V) を入力した際の SIMetrix による過渡解析の結果である 図 4-1(b) から 出力波形が入力正弦波の情報を矩形的に表していることがわかる サンプリングと同様に各パスが入力された電圧を保つために N-path BPF の出力は階段近似のようになる 一方 入力正弦波の周波数が中心周波数からずれていると出力は大きく減衰する ( 図 4-1(a), (c) 参照 ) このことからも N-path BPF が極めて鋭いバンドパス特性を持つことがわかる 図 4-2 は図 4-1 と同様の条件で パス数 N = 8 とした Passive 8-path BPF の過渡応答である 図 4-1 と比較すると N = 4 のときと同様に 設定したスイッチング周波数と同じ周波数の入力波は通過するが その他の入力波は減衰することがわかる また パス数が増えたことで入力波の情報をより細かく再構成することができるため 図 4-2(b) からわかるように 出力される近似波形がより入力波に近いものとなる したがって N-path BPF におけるパス数の増減は サンプリング周波数の増減と同様の効果をもたらすと考えられる 以上のことから 過渡解析においても N-path BPF が鋭いバンドパス特性を持ち (6) 式に従い Q 値が N, RS, C といったパラメータに依存することがわかる また 3.2.2 節において時定数よりもパス数を減らすほうが 挿入損失が大きくなることについて述べた これは サンプリングの原理と同様な形で中心周波数の波形を再構成するために Q 値が同等であってもパス数が多い方が入力波の情報を厳密に表現できるためであると言える 4.2 N-path バンドパスフィルタのディジタル変復調への応用 4.2.1 OOK 波の分離シミュレーション 図 4-3 OOK 波ディジタル変復調の方式の一つとして 振幅の大きさで 0 と 1 の情報を区別する振幅変調 (ASK : Amplitude Shift Keying) がある その中でも 搬送波の有無でディジタルデータを表現するものが OOK(:On Off Keying) である ( 図 4-3 参照 )[4] 27

図 4-4 解析用 OOK 波 図 4-5 混合 OOK 波入力時の BPF の過渡応答比較 28

図 4-6 BPF の特性比較 (10MHz 近傍 ) 表 3-2 BPF の減衰量比較 図 4-4 に示す 搬送波を 8, 10, 12MHz に設定した 3 つの OOK 波を多重混合したものを中心周波数 10MHz に設定した Active 4-path BPF SE(Q = 126.1) フリーゲ型 BPF(Q = 20) に入力し 過渡解析を行った シミュレーション結果が図 4-5 である フリーゲ型の BPF は 隣接した搬送波 8, 10, 12MHz の混合波から 10MHz の成分を取り出せているが 8, 12MHz の成分がカットしきれていない これに対して Active 4-path BPF は 8, 12MHz の成分をカットし 10MHz の成分のみを取得していることがわかる これは Active 4-path BPF とフリーゲ型 BPF では 8, 12MHz における減衰量に差がある (Q 値の差が大きい ) ためである ( 図 4-6, 表 3-2) このことから N-path BPF は近接した搬送波で変調されたディジタル信号の復調に関し 従来型のフィルタよりも適していると言える 一方で フィルタの Q 値が極めて高いために 立ち上がりが遅くなり 取得波形が扇形のような形になるため Q 値は搬送波成分を取得可能なレベルに調整する必要がある 29

4.2.2 リアルタイムでのチューニング 図 4-7 OOK 波 ( 搬送波 10MHz & 15MHz) 図 4-8 動的チューニングによる OOK 波選択 30

図 4-7 は それぞれ搬送波を 10, 15MHz とした OOK 波である これらの混合波を Passive 4-path BPF SE に入力し 過渡解析を行う ここで スイッチング周波数を 200μs 毎に切り替えると 図 4-8 のような結果が得られる 図 4-8 より スイッチング周波数を 10MHz に設定すると混合波から 10MHz の成分を 15MHz に設定すると 15MHz の成分を取得していることが確認できる したがって スイッチング周波数を切り替えることにより BPF の中心周波数をリアルタイムに変更可能であることがわかる 一般的な BPF では 中心周波数を変えるには素子値を変更する必要があるが N-path BPF の中心周波数は素子値からは独立しているため 同一の回路で中心周波数を動的に選択することが可能である 4.3 アクティブ 4-path バンドパスフィルタの過渡解析 図 4-9 混合 Active 型 Passive 型の過渡応答比較 図 4-9 は 図 3-5 に示した利得 2 の Active 4-path BPF と Passive 4-path BPF に 10MHz の正弦波 ( 最大値 2V, 最小値 0V) を入力した際の過渡応答の結果である Passive 型の出力は入力正弦波の情報を直接再現する 一方 Active 型は負帰還構成のため位相が反転して値も負の方向となるが 入力に対して 2 倍の出力が得られていることがわかる N-path BPF は Active 構成によって容易に利得を稼ぐことができるが 適切な反転回路等を用いる必要がある 31

第 5 章 N-path バンドパスフィルタの実験的考察 5.1 実験環境 (b) ANALOG DISCOVERY (b) WaveForms 図 5-1 実験ツール 図 5-2 実験システム 32

この章では 個別素子を用いた実験により Passive 4-path BPF の特性を検証する 回路のスイッチ部分には CMOS 素子 MC74HC4066 抵抗 コンデンサは共に誤差 1% のものを用いた 測定は DIGILENT 社の評価ツール ANALOG DISCOVERY と解析ソフト WaveForms により行った( 図 5-1 参照 )[13] ANALOG DISCOVERY はアナログ / ディジタルオシロスコープ パターンジェネレータ アナログ / ディジタル任意信号発生器 ネットワークアナライザ等の機能を持ち [14] SIMetrix/SIMPLIS によるシミュレーションと同様に N-path BPF 回路の特性を取得可能である 図 5-2 は実験システムの全体図である [15] 5.2 基本特性 5.2.1 周波数特性 (a) パス数 N = 4 (b) パス数 N = 8 図 5-3 実験回路の周波数特性 33

表 5-1 バンド幅 (BW) at 10kHz 表 5-2 Q 値 at 10kHz 図 5-3(a) はスイッチング周波数を 10kHz に設定した Passive 4-path BPF の周波数特性である シミュレーションと同様に設定したスイッチング周波数 10kHz 帯に鋭いバンドパス特性が確認できる 図 5-3(b) はパス数を 2 倍 (N = 4 から N = 8) にした場合の特性であり バンドパス特性がより鋭くなっていることがわかる 表 5-1, 2 は 実験結果と同条件での SIMPLIS によるシミュレーション結果 (6) 式 (Q = πnrscfs) より導出したバンド幅 (BW) と Q 値をまとめたものである [13] また 今回のシミュレーションでは使用した CMOS スイッチのオン抵抗を考慮している (50Ω に設定 ) 表 5-1, 2 より 同程度のバンド幅 Q 値が確認できることから 理論式である (6) 式の正当性を実測においても確認できる また パス数 N の増加に伴う Q 値の向上が見られたことから N-path BPF とパラメータの関係も示せている 34

5.2.2 中心周波数のチューニング特性 図 5-4 実験回路のチューニング特性 図 5-4 は スイッチング周波数を 10, 20, 40kHz と変化させた場合の周波数特性である スイッチング周波数の変化に伴い バンドパスの中心周波数が変化することが実験からもわかる [13] また 設定するスイッチング周波数の増加に比例して 特性が鋭くなることもわかる これはバンドパス特性の Q 値がスイッチング周波数に比例するためである ((6) 式参照 ) 35

(b) 抵抗誤差 1%, コンデンサ誤差 1% (a) 抵抗誤差 5%, コンデンサ誤差 10% 図 5-5 素子ばらつきの影響図 5-5 は 抵抗 コンデンサ共に誤差 1% のものを使用したときと 抵抗誤差 5% コンデンサ誤差 10% を使用した際の周波数特性の比較である 素子の誤差が大きくなっても中心周波数 (10kHz) のずれが見られないことから N- path BPF が素子精度要求を緩和可能であることが実験からも確認できる 36

5.3 過渡解析 (a) 入力正弦波 5kHz (b) 入力正弦波 10kHz (c) 入力正弦波 15kHz 図 5-6 過渡応答比較 ( 左図 : シミュレーション, 右図 : 実験 ) 37

(a) 入力 5kHz (b) 入力 10kHz (c) 入力 15kHz 図 5-7 パス数 N 変化時の実験結果 (N=8) 38

図 5-6 はスイッチング周波数を 10kHz に設定した Passive 4-path BPF SE に周波数 5, 10, 15kHz の正弦波 ( 最大値 1V, 最小値 0V) を入力した際の SIMetrix による過渡解析の結果と実験結果を比較したものである シミュレーションと同様 中心周波数 10kHz は通過させ 5, 15kHz は減衰していることがわかる 図 5-7 は パス数を 8 に増加させた場合の実験結果である N = 4 の時と同様 設定したスイッチング周波数と同じ周波数の入力波は通過するが その他の入力波は減衰することがわかる また パス数の増加に伴い BPF の中心周波数付近における出力の近似波形がより入力波に近くなることが実験からも確認できる ( 図 5-7(b) 参照 ) 実測においては 入力波形とスイッチングのずれが顕著になるので パス数の増加は中心周波数の波形を正確に取得するうえで時定数の増加よりも重要であるとも考えられる 5.4 ディジタル変復調への応用 (a) 搬送波 10kHz (b) 搬送波 15kHz 図 5-8 実験用 OOK 波 39

図 5-9 混合 OOK 波入力時の出力 図 5-10 動的チューニングによる出力 40

図 5-8 は各搬送波の成分を 10kHz, 15kHz とした OOK 波 ( 電圧振幅 100mV) であり これらの混合波を中心 ( スイッチング ) 周波数 10kHz に設定した Passive 4- path BPF に入力した場合の出力を図 5-9 に示す 実験結果から 10kHz の成分のみ分離できていることが確認できる また シミュレーションと同様に高 Q に起因して波形が扇形になる様子も確認できる 図 5-10 は混合波 ( 電圧振幅 20mV) の入力に対し スイッチング周波数を 40ms 毎に 10kHz と 15kHz で動的に切り替えた場合の出力結果である 設定したスイッチング周波数時にその成分を取得できていることが確認できる このことから N- path BPF がリアルタイムで中心周波数をチューニング可能であることが実験からも確認できた 動的チューニングを行うための多相クロックの切り替えは CMOS スイッチ TC74HC4053 により行った 41

第 6 章結言 N-path 構成による狭帯域フィルタの理論を SIMetrix/SIMPLIS を用いたシミュレーションにより検証を行った まず N-path 構成によるフィルタの特徴である 1 使用面積の大きいインダクタを用いずに高い Q 値のフィルタ特性を実現する 2 中心周波数をスイッチング周波数でチューニング可能で 素子のばらつきの影響を受けにくいという特徴を実証した さらに 回路構成のアクティブ化による利得の設定が可能であり 従来型の多重帰還型 フリーゲ型の BPF と比較して 中心周波数のチューニングが容易であることを示した また 先行研究事例の少なかった過渡解析を用いることで 出力される近似波形の様子を確認し ディジタル変復調への応用やリアルタイムでのチューニングが可能であることも実証した 加えて 上記の N-path フィルタの特徴 応用を 個別素子を用いた実験により確認した 一方で シングルエンド構成では 低周波数帯域にローパス特性が残り スイッチング周波数帯域以降にもサンプリングによりコピーされたバンドパス特性が生じることから 用途に応じて適宜プレフィルタを用いる必要がある しかし 実際の無線通信においては倍数の周波数での選択性が問われることは少ないので アナログ部分の処理に用いる分には十分に有効であると考えられる 低周波数帯域のローパス特性 偶数倍の周波数帯でのバンドパス特性は 回路構成の差動化により解消されるが Q 値が犠牲になり 素子数も増加するため 回路全体の設計条件を含めて検討する必要がある また 今回の実験は CMOS スイッチのスイッチングの動作周波数を考慮したもの (khz 帯 ) であり 無線通信分野での実用に向けて 高周波帯域での検証を行う必要がある N-path フィルタは理論上パス数 N, 時定数 RSC を上げれば性能が向上するが パス数の増加は回路規模の拡大 高周波でのクロックのオーバーラップ対策 時定数の増加は消費電力の増大といった課題がある また Q 値があまりに高くなると本研究で提案した OOK への適用に関しての条件が厳しくなる可能性もある 今後は 実際のセルラ応用を目的とし gm-c フィルタ等を用いた より高周波動作が可能な狭帯域フィルタ構成の考察 高周波動作に適した CMOS スイッチを用いた実験を行う予定である また 本研究では Q 値の高さに着目したが 可変抵抗などによる Q 値の調整なども考慮に入れることで より有用性の高いフィルタ回路を実現できると考えられる N-path ノッチフィルタについても 各種パラメータの変化 回路構成の差動化 過渡応答についても検証を行いたいと考えている また セルラ応用等で実際に使用されている BPF 回路の代用に向け 回路構成の全体設計 SAW フィルタとの比較 具体的な損失の検証にも取り組んでいきたい 42

参考文献 [1] L.E. Franks and I.W. Sandberg, An alternative approach to the realization of network transfer functions: The N-path filters, Bell Sys. Tech. J., Vol.39, pp.1321-1350, 1960. [2] A. Ghaffari, E.A.M. Klumperink, M.C.M. Soer and B. Nauta, Tunable high-q N-Path band-pass filters: Modeling and Verification, IEEE Journal of Solid State Circuits, Vol.46, pp.998-1010, 2011. [3] L.C. Fortgens, Approximation of an ideal bandpass filter using an N-path filter with overlapping clocks and harmonic rejection, University of Twente Master Thesis, 2012. [4] 亀井成保, N-path 構成を用いた狭帯域フィルタ回路, 平成 25 年度群馬大学工学部電気電子工学科卒業論文 [5] 江村稔, 高橋晴雄 : パルス工学, コロナ社 (1983) [6] A. Ghaffari, E.A.M. Klumperink and B. Nauta, Tunable N-Path Notch Filters for Blocker Suppression: Modeling and Verification, IEEE Journal of Solid State Circuits, Vol.48, pp.1370-1382, 2013. [7] SIMetrix/SIMPLIS ユーザーズマニュアル株式会社インターソフト [8] 遠坂俊昭 : 電子回路シミュレータ SIMetrix/SIMPLIS による高性能電源回路の設 計, CQ 出版株式会社 (2013) [9] M. Darvishi, R. Zee and B. Nauta, Design of active N-Path filters, IEEE Journal of Solid State Circuits, Vol.48, pp. 2962-2976, 2013. [10] 亀井成保, 弓仲康史 : N-path 構成を用いた狭帯域フィルタ回路に関する基礎 的考察,'' 電気学会第 4 回栃木支所 群馬支所合同研究発表会 ( 優秀発表賞受賞 ), ETG-14-51, 桐生 (2014-3). 43

[11] 保谷和男, 山越芳樹, 弓仲康史, 遠坂俊昭, OP アンプと基本回路と応用回路, 群馬大学アナログナレッジ養成拠点電子回路基礎ナレッジ養成コース A11 電子 回路実習講座 Ⅰ 講義資料 (2013) [12] Joung Won Park and Behzad Razavi, Channel Selection at RF Using Miller Bandpass Filters, Journal of Solid State Circuits, Vol.49, No.12, pp.3063-3078, 2014. [13] Analog Discovery Technical Reference Manual DIGILENT 社 https://reference.digilentinc.com/_media/analog_discovery:analog_discovery_r m.pdf [14] トランジスタ技術 2015 年 4 月号, CQ 出版株式会社 [15] 亀井成保, 弓仲康史 : N-path 構成を用いた狭帯域バンドパスフィルタの解析 及び実験的考察,'' 電気学会第 6 回栃木支所 群馬支所合同研究発表会 ( 優秀発表 賞受賞 ), ETG-16-49, 前橋 (2016-3). 44

謝辞 本論文は 著者が群馬大学理工学府理工学専攻電子情報 数理教育プログラム情報通信システム分野第 3 研究室 弓仲研究室で行った研究成果をまとめたものである 本研究を進めるにあたり 適切な助言並びに丁寧なご指導をして頂きました弓仲康史准教授に深く御礼申し上げます また 主査を受けて頂きました小林春夫教授 副査を受けて頂きました本島邦行教授に適切な助言を賜りましたことを感謝致します そして 原理実験に際し ご協力頂きました同大学客員教授の遠坂俊昭先生に心より御礼申し上げます 最後に 共に研究に励み 日頃より有意義な助言を頂いた同専攻弓仲研究室の皆様に感謝の意を表し 謝辞と致します 平成 28 年 3 月 45