物理数学 1B( 後半部 ) 担当教員 : 山本貴博 講義内容 : ベクトル場における積分定理 第 1 回目講義 : 平面におけるグリーンの定理 ( 線積分 2 重積分 ) (12 月 11 日 ) 第 2 回目講義 : ガウスの定理 ( 面積分 体積分 ) (12 月 18 日 ) 第 3 回目講義 : ストークスの定理 ( 線積分 面積分 ) (1 月 15 日 ) 第 1 回目講義 : 平面におけるグリーンの定理 ( テキスト p144-p149) G.Gree (1793-1841) グリーンの定理に関する原著論文 A Essay o the Applicatio of Mathematical Aalysis to the Theories of Electricity ad Magetism (Gree, 1828) 1
平面におけるグリーンの定理 ( テキスト p.144-145) 線積分 2 重積分 平面におけるグリーンの定理の証明 A R B 左図の黄色の短冊部分に関して x 軸にそって a から b まで積分 a b 単連結領域 R 内で,,, は 1 価連続関数とする (1.1) 証明 ( つづき ) d F c E R 左図の黄色の短冊部分に関して y 軸にそって c から d まで積分 単連結領域 R 内で,,, は 1 価連続関数とする (1.2) (1.1) 式と (1.2) 式を足し合わせて 平面におけるグリーンの定理 を得る ( 証明終了 ) (1.3) 2
多重連結領域 ( テキスト p.146) 単連結領域 : 領域内の任意の閉曲線を連続的に縮めていくと点となる C 1 C 2 閉曲線 C1, C2 とも 点に縮めることができる 単連結領域 多重連結領域 : 領域内の任意の閉曲線を点に縮めることができない 虫食い領域 C 1 C 2 虫食い領域を囲まない閉曲線 C1 は 点に縮めることができる 虫食い領域を囲む閉曲線 C2 は 点に縮めることができない 2 重連結領域 虫食いの数 =N 個 : N+1 重連結領域 多重連結領域でのグリーンの定理 ( テキスト p.146) ステップ 1: バイパスの導入 C A A B C B 経路 C A と経路 C B を結ぶ経路 ABを導入 領域 Rは単連結領域と見なすことができる ステップ 2: 積分経路の分解 A 単連結領域 A B = + + + A A B キャンセル B B (1.4) 3
平面上の線積分が経路に依らないための条件 ( テキスト p.147) B 一般的に 線積分の値は経路に依存する 0 A 線積分が経路に依らないとき (1.3) 式に線積分の性質 [C=C 1 +(-C 2 )] より (1.5) となる したがって 線積分が経路に依らない = 周回積分ゼロ 線積分 が積分経路に依存しないための必要十分条件は (1.6) が成立することである ただし 単連結領域 R において,,, は 1 価連続関数 証明 十分条件 が経路に依存しないということは と等価である したがって 平面におけるグリーンの定理を用いると となる この等式が成立するためには第 2 項の非積分が常にゼロでなければならない ( 証明終了 ) 4
証明 ( つづき ) 必要条件 証明の手続き : が成立するとし として矛盾を導く 領域 R( それを囲む経路 C) 内で が成立するならば, は R 内で 1 価連続である R 内で を満たすような点 を含む領域 R 0 があるとする ( 下図を参照 ) を満足する点 領域 R 0 の境界を C 0 とすれば グリーンの定理より R C R 0 C 0 仮定と矛盾!! 同様に の場合も矛盾を導く ( 証明略 ) R 内で恒等的に ( 証明終了 ) 全微分条件 を満足する P, Q からなる関数 : を導入する A は定点としているので U は (x,y) の関数である y を固定して x 軸方向に Δx だけ並進させると 関数 U(x,y) は 赤線の経路において dy=0 青線の経路 赤線の経路 5
Δx が非常に小さいとすると U(x+Δx, y) は (1.7) となる また U(x+Δx, y) を Δx に関して 1 次までテーラー展開すると (1.8) である (1.7) 式と (1.8) 式を比較すると (1.9) を得る 一方で x を固定して y 軸方向に Δy だけ並進させることを考えると 同様に を得る (1.9) 式と (1.10) 式から (1.10) (1.11) を得る したがって は U(x,y) の全微分を表す 保存力場 力学概論で学んだように 保存力 は (1.12) によって ポテンシャルUから導かれることを学んだ 逆に 保存力ポテンシャルは に対して (1.13) で与えられる この線積分の値は 積分経路に無関係である すなわち任意の閉曲線 C に対して (1.14) が成り立つ いま 平面 (2 次元 ) 運動を考え 保存力を とすると (1.15) (1.16) 6
(1.16) 式に対して 平面におけるグリーンの定理を用いると (1.3) を得るので 全微分条件 : (1.6) を得る その場演習 : 保存力場 保存力の回転 (rotatio) は であることを 力学概論で学んだ 平面 (2 次元 ) 運動の場合に力が とする 全微分条件 (1.6) 式を導きなさい レポート課題 : 平面におけるグリーンの定理の応用 平面におけるグリーンの定理を用いて 次の線積分の値を求めよ ここで 積分路は を反時計まわりにとる レポート提出に関する注意事項 表紙 : 指定のものを用いること ( 以下の HP よりダウンロード ) http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/~takahiro/math1b_07.html 提出期間 : 木曜日 12:00~ 金曜日 16:00 まで 提出場所 : 1 号館 8 階渡辺研前のボックス 7
第 2 回目講義 : ガウスの定理 ( テキスト p.151-157) C.F.Gauss (1777-1855) ガウス生誕の地 (Bruswick) に建つガウスの像 ガウスの定理 面積分 体積分 ガウスの定理の ( 直感的 ) 導出 R: 体積の微小直方体を考える この微小直方体の表面上での面積分 : Q: P: 図 2-1: 積分面 ( ガウス面 ) を計算する ここで は積分面の単位法線ベクトルである 1
直方体の体積 は非常に小さい 各面でのベクトル場を中心の値 で代表させる 平面 S 1 +S 2 の計算 は非常に小さいので テーラー展開を行い のまわりで となり したがって 同様にして 平面 S 3 +S 4 と平面 S 5 +S 6 の計算を行うと, を得る 以上をまとめると 微小直方体に対して を得る 次に 任意の3 次元体積 V( 左図 ) について考える 体積 V( 表面積 S) を体積の N 個の微小直方体に分割する 隣り合う 2 つの直方体の共有する面では面積分はキャンセルしあうので ΔV l 0(N ) の極限で 0 を得る ( ガウスの定理 ) 2
ガウスの積分 ( テキスト p.155-156) 閉曲面 S 上の任意の点 P の位置ベクトル r とするとき 次のガウスの積分が成立する ( 原点 Oが曲面 Sの外 ) ( 原点 Oが曲面 Sの内 ) P r O O r P 原点 O が曲面 S の内 原点 O が曲面 S の外 ガウスの定理を用いて証明 ベクトル公式 : を用いると 原点 O が曲面 S の外の場合にはガウスの定理より (2.1) 次に 原点 O が S の内の場合について考える S. a O S 閉曲面内部に原点 O を中心とする半径 a の空洞 ( 球面 S ) を作る ( 左図参照 ) 閉曲面 S+S ( 左図の水色部分 ) を考えれば 原点 O は S+S の外にある したがって (2.2) (2.1) 式と (2.2) 式をまとめると 任意の閉曲面 Sに対してガウスの積分 ( 原点 Oが曲面 Sの外 ) ( 原点 Oが曲面 Sの内 ) を得る 3
物理例 : 点電荷の作る電場 E 原点 Oに置かれた点電荷 ( 電荷 q) がつくる電場は (2.3) +q である 左図の閉曲面 S 1 と S 2 に対して電場 E を面積分すると S 2 S 1 (S 1 ) (S 2 ) もっと一般的には 任意の電荷分布に対して ( 積分型の ) ガウスの法則 : またはが成立することを電磁気学 (2 年次 ) で学ぶ ρは電荷密度を表す ある領域内に電荷 Q が存在すると その領域から電荷 Q と等しい大きさの電束密度 ( ) という物理量が出入りする 演習問題 2: 磁場に対するガウスの法則 電荷と異なり 磁荷は単独で存在できない そのため磁場 B(r,t) は に従う ( 磁場に対するガウスの法則 : 電磁気学で学ぶ ) したがって 磁場 B(r,t) はベクトル場 A (r,t) を用いて と表すことができる ここで A (r,t) はベクトルポテンシャルと呼ばれる ( 問題 ) 任意の閉曲面 S 上での磁場 B(r,t) の積分値は如何? 4
第 3 回目講義 : ストークスの定理 ( テキスト p157-p167) Sir George Gabriel Stokes (1819 年 - 1903 年, アイルランド 数学者 物理学者 ) 流体力学の分野粘性流体の式 : ナビエ=ストークスの式流体中を落下する粒子の速度 : ストークスの式水面波の ストークス波 粘度の単位ストークス光学の分野ストークス散乱数学の分野ストークスの定理 ストークスの定理 線積分 2 重積分 2 次元ベクトルに対するストークスの定理 2 次元ベクトル A を と書くと ストークスの定理の左辺は となる 一方 右辺は となるので を得る ( 平面に対するグリーンの定理 ) 15
ストークスの定理の ( 直感的 ) 導出 左図に示すような面積の微小長方形を考える この長方形の周 に沿って ベクトル A の線積分 を考える 長方形の面積 ΔS は非常に小さいので 各経路 C i (i=1,2,3,4) を横切るベクトル A を各経路の中心の値 A(i) で代表させることができる したがって 各積分値は と近似できるので,,, と書くことができる Δx と Δy は非常に小さいので と書くことができる したがって 微小長方形に対して が成り立つ ここで は面 ΔS の単位法線ベクトル ( 今の場合は z 方向の単位ベクトル ) 次に 任意の面積 S( 右図 ) の閉曲面について考える 右図のように 面積 S の閉曲面を N 個の微小長方形 ( 面積 ΔS) に分割する この式の左辺は N の極限で 16
一方 右辺に関しては 隣り合う微小長方形が共有する 1 辺での線積分は その積分路が逆向きのために互いにキャンセル ( 右図を参照 ) するので N の極限で となる こうして ストークスの定理 : を得る 保存力とポテンシャル ストークスの定理から導かれる次の 2 つの結果は 物理学を学ぶ上でたびたび用いられる重要な結果である (1) 全ての閉曲線 C に対して となるための必要十分条件は 恒等的に である (2) の必要十分条件はである (1) の証明 [ 十分条件 ] ならば ストークスの定理より [ 必要条件 ] 全ての閉曲線 C に対して とする 証明方法としては ある点 Pで見つけることによって必要条件を証明する とし 上の仮定との矛盾を 次ページ 17
ベクトル が連続であるならば 点 Pのまわりで を満たす領域 Rが 存在する 領域 R 内で 単位法線ベクトルがその周をCとする このときは と同じ方向をもつ曲面 S を考え と書くことができるので ストークスの定理より となる これは仮定 と矛盾するので 恒等的に である こうして 始点を P 1, 終点を P 2 とする線積分 が P 1 から P 2 への路に依存しないための必要十分条件は である レポート問題 3: 保存力とポテンシャル の必要十分条件は であることを証明せよ その場演習問題 : 保存力とポテンシャル (1) 力 調べなさい が保存力であるかを (2) 中心力が保存力であることを証明しなさい 18