広島大学理念 5 原則 平和を希求する精神 新たなる知の創造 豊かな人間性を培う教育 地域社会 国際社会との共存 絶えざる自己変革 MOT とベンチャービジネス 経済学博士 工学博士広島大学大学院工学研究院特任教授伊藤孝夫 1
第 6 回在庫管理 2
今日の内容 1. 在庫管理の目的 2. 在庫管理の方法 3. 定量発注の計算方法 4. 最適発注量の決定 3
1. 在庫管理の目的 在庫管理の目的 : 費用の最小 棚卸資産の最適な在庫水準の決定 = 原材料 仕掛品 製品 商品などの最適な発注量と発注時期を決定 棚卸 : 手持ちの商品 原材料 製品 などの種類 数量などを調査 4
在庫費用 在庫維持費保管料 社内運搬費 保険料 投資額利子 棚卸減耗費など 発注費発注数量 発注回数 在庫費用の最小の実現 5
在庫の問題 在庫過多 : 在庫維持費の増大 在庫過少 : 機会費用の増大 機会費用 (opportunity cost) : 経営資源をある目的に用いたため放棄されたほかの利用方法から得られるであろう利得の最大のもの 6
機会費用の事例 1 ある人が1 時間当たり1,000 円の仕事を依頼されたにもかかわらず 昼寝をしたとしよう 機会費用を無視した場合 昼寝の費用はゼロ円 昼寝の機会費用は1 時間当たり1,000 円である この所得を得る機会を犠牲にしているからである 7
機会費用の事例 2 ある店が1,000 円の弁当を販売 用意された10 個の弁当を完売したのち ある顧客が5 個の弁当を買いたい 機会費用を無視した場合 損失はゼロ 弁当 5 個を用意 :5,000 円の収入が得られるので 機会費用は5,000 円 8
豆知識 : 在庫が少ないまたは在庫ゼロ メリット効率が良く 臨機応変で対応できる : 必要な時だけ持つ 保管費用が少ない 無駄な在庫がないため いつでも新しい商品の仕入れが可能 デメリット 需要の変動に合わせるための費用が高く 作業が複雑 商品の供給システムに問題があれば 品切れ費用の発生商品の供給者に依存性が高い
豆知識 : たくさんの在庫を持つ メリット 突然の需要変化に対応可能 品切れのための機会費用による損失は少ない 大量仕入れのための規模の経済性の享受 デメリット 保管 保険等の費用の増大 資金を在庫に使っているため ほかに使えない ( 研究開発や設備投資等 ) ( 長期 ) 在庫のための品質悪化や盗難の危険性が高い 陳列と在庫
2. 在庫管理の方法 定量発注法 定期発注法 11
在庫管理の方法 定量発注法 : 定量発注法は棚卸資産の在庫がある特定の水準にまで減少したときにあらかじめ定めた一定量を発注する方法 在庫量 一定量 0 時間 12
在庫管理の方法 定期発注法 : 定期発注法は一定期 間ごとに棚卸資産を発注 補給する 方法 在庫量 0 3 月 1 日 4 月 1 日 5 月 1 日 6 月 1 日 7 月 1 日 13
3. 定量発注法の計算方法 ( 発注の ) リードタイム (Leadtime) :L( 発注してから入庫するまでの期間 ) 単位期間の需要 (Demand): D 14
定量発注法の計算方法 リードタイム期間の総需要量 :LD 発注量 =LD: 在庫がゼロになったとき 発注商品の入庫 リードタイム期間 1 か月 1 か月を 30 日とし 一日の需要量が 10 個の場合 総需要量は 30 10=300 個 0 3 月 1 日 4 月 1 日 注文 入荷 15
事例 1: 単位期間の需要は確定的 1 ヶ月の商品需要 D=600 個 ( 毎日 20 個 ) リードタイム (L)=10 日間 単位期間 =1 ヶ月 発注点在庫量 =600 1/3 ヶ月 =200 個 リードタイム期間 1 か月 1 か月を 30 日とし 一日の需要量が 10 個の場合 総需要量は 30 10=300 個 0 3 月 1 日 3 月 10 日 3 月 20 日 4 月 1 日注文入荷 16
事例 2: 単位期間の需要は可変的 1 か月の商品需要 = 個 リードタイム =L(=1/3) 発注点在庫量 = L D この場合 品切れのリスクが生じる そのため 安全在庫の保有でリス クを回避 品切れ確率の計算 : 品切れ確率の D 関数 17
事例 2: 単位期間の需要は可変的 1か月の商品需要 = D 個 毎月の需要 ( 確定 ) 毎月の需要 ( 可変 ) 1 月 600 700 2 月 600 800 3 月 600 600 4 月 600 400 5 月 600 900 6 月 600 200 7 月 600 600 平均 600 600 1000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 毎月の需要は確定 毎月の需要は可変 18
単位期間の需要分布は次の正 規分布に従う リードタイム =L 発注点在庫量 P 3.5 3 3 2.5 2 1.5 1 0.5 1 1 1 1 1 0 200 400 600 700 800 900 19
正規分布の図形 20
Z 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.0.0000.0040.0080.0120.0160.0199.0239.0279.0319.0359 0.1.0398.0438.0478.0517.0557.0596.0636.0675.0714.0753 0.2.0793.0832.0871.0910.0948.0987.1026.1064.1103.1141 0.3.1179.1217.1255.1293.1331.1368.1406.1443.1480.1517 0.4.1554.1591.1628.1664.1700.1736.1772.1808.1844.1879 0.5.1915.1950.1985.2019.2054.2088.2123.2157.2190.2224 0.6.2257.2291.2324.2357.2389.2422.2454.2486.2517.2549 0.7.2580.2611.2642.2673.2704.2734.2764.2794.2823.2852 0.8.2881.2910.2939.2967.2995.3023.3051.3078.3106.3133 0.9.3159.3186.3212.3238.3264.3289.3315.3340.3365.3389 1.0.3413.3438.3461.3485.3508.3531.3554.3577.3599.3621 1.1.3643.3665.3686.3708.3729.3749.3770.3790.3810.3830 1.2.3849.3869.3888.3907.3925.3944.3962.3980.3997.4015 1.3.4032.4049.4066.4082.4099.4115.4131.4147.4162.4177 1.4.4192.4207.4222.4236.4251.4265.4279.4292.4306.4319 1.5.4332.4345.4357.4370.4382.4394.4406.4418.4429.4441 1.6.4452.4463.4474.4484.4495.4505.4515.4525.4535.4545 1.7.4554.4564.4573.4582.4591.4599.4608.4616.4625.4633 1.8.4641.4649.4656.4664.4671.4678.4686.4693.4699.4706 1.9.4713.4719.4726.4732.4738.4744.4750.4756.4761.4767 2.0.4772.4778.4783.4788.4793.4798.4803.4808.4812.4817 2.1.4821.4826.4830.4834.4838.4842.4846.4850.4854.4857 2.2.4861.4864.4868.4871.4875.4878.4881.4884.4887.4890 2.3.4893.4896.4898.4901.4904.4906.4909.4911.4913.4916 2.4.4918.4920.4922.4925.4927.4929.4931.4932.4934.4936 2.5.4938.4940.4941.4943.4945.4946.4948.4949.4951.4952 2.6.4953.4955.4956.4957.4959.4960.4961.4962.4963.4964 2.7.4965.4966.4967.4968.4969.4970.4971.4972.4973.4974 2.8.4974.4975.4976.4977.4977.4978.4979.4979.4980.4981 2.9.4981.4982.4982.4983.4984.4984.4985.4985.4986.4986 3.0.4987.4987.4987.4988.4988.4989.4989.4989.4990.4990 3.1.4990.4991.4991.4991.4992.4992.4992.4992.4993.4993 32 4993 4993 4994 4994 4994 4994 4994 4995 4995 4995 0.025 0.475 1.96 21
標準正規分布表.00.01.02.03.04.05.06.07.08.09 0.0 1.0000.9920.9840.9760.9680.9602.9522.9442.9362.9282 0.1.9204.9124.9044.8966.8886.8808.8728.8650.8572.8494 0.2.8414.8336.8258.8180.8104.8026.7948.7872.7794.7718 0.3.7642.7566.7490.7414.7338.7264.7188.7114.7040.6966 0.4.6892.6818.6744.6672.6600.6528.6456.6384.6312.6242 0.5.6170.6100.6030.5962.5892.5824.5754.5686.5620.5552 0.6.5486.5418.5352.5286.5222.5156.5092.5028.4964.4902 0.7.4840.4776.4716.4654.4592.4532.4472.4412.4354.4296 0.8.4238.4180.4122.4066.4010.3954.3898.3842.3788.3734 0.9.3682.3628.3576.3524.3472.3422.3370.3320.3270.3222 1.0.3174.3124.3078.3030.2984.2938.2892.2846.2802.2758 1.1.2714.2670.2628.2584.2542.2502.2460.2420.2380.2340 1.2.2302.2262.2224.2186.2150.2112.2076.2040.2006.1970 1.3.1936.1902.1868.1836.1802.1770.1738.1706.1676.1646 1.4.1616.1586.1556.1528.1498.1470.1442.1416.1388.1362 1.5.1336.1310.1286.1260.1236.1212.1188.1164.1142.1118 1.6.1096.1074.1052.1030.1010.0990.0970.0950.0930.0910 1.7.0892.0872.0854.0836.0818.0802.0784.0768.0750.0734 1.8.0718.0702.0688.0672.0658.0644.0628.0614.0602.0588 1.9.0574.0562.0548.0536.0524.0512.0500.0488.0478.0466 2.0.04550.04444.04338.04236.04134.04036.03940.03846.03752.03662 2.1.03572.03486.03400.03318.03236.03156.03078.03000.02926.02852 2.2.02780.02710.02642.02574.02510.02444.02382.02320.02260 22.02202 2.3.02144.02088.02034.01980.01928.01878.01828.01778.01732.01684
事例 2 の場合 単位期間 1 か月の平均需要 D 600 個 分散 900 10( 日間 ) 品切れ損失の確率 5% この場合の平均需要や分散など リードタイム期間 10 日の平均需要 D 1 3 600 200 個 リードタイム期間 10 日の分散 1 900 300 3 リードタイム期間 10 日の標準偏差 1 3 1 3 900 17.3. 1.96 23
発注点在庫量 P 24
4. 最適発注量の決定 在庫量と時間の関係 25
在庫管理費用 = 発注費 + 在庫維持費 棚卸資産の年間需要量をR 1 回当りの発注量をQとすれば 年間の発注回数はR/Qとなる 1 回当りの発注費をAとすれば 年間の発注費 (ordering costs)oc 26
棚卸資産の平均在庫量はQ/2であるので 棚卸資産 1 単位当りの年間在庫維持費をCとすれば 年間の在庫維持費 (carrying costs) CC 27
在庫費用合計 (total cost)tc TC を Q で微分し その導関数をゼ ロとおけば TC を最小にする Q 28
Q: 最適発注量 (economic order quantity,eoq) 経済ロット サイズ (economic lot size) OC CCおよび TCの関係 29
事例 3:EOQ ある会社が年間 7,200 個の商品販売を見込んでいるものとする 商品に対する需要はきわめて安定しており 年間を通じて平均的にあるものとみなすことができる 1 回発注するごとに 2,000 円の費用がかかる さらに 商品 1 個当りの在庫維持費は年 180 円である このとき最適発注量 EOQ を求めよ 30
ジャスト イン タイム とかんばん方式 ジャスト イン タイム とは 必要なものを 必要なときに 必要なだけ 生産 提供する かんばん方式 : 生産過程で 在庫を極力持たないようにするための管理方式 31
ご清聴ありがとうございました! 32
予備的知識 単位期間 1 か月の平均需要 D 600 個 分散 900 10( 日間 ) 品切れ損失の確率 5% 33
発注点在庫量 P 600 1.96 900 234( 個 ) 34
統計における検定のお話し ビールの事例 1 プレミアムビール :1ヱビスビール( サッポロビール ) 2ザ プレミアムモルツ ( サントリー ) 3 熟撰 ( アサヒビール ) 2 ビール :1 ラガー ( キリンビール ) 2 一番搾り ( キリンビール ) 3 スーパードライ ( アサヒビール ) 4 ザ マスター ( アサヒビール ) など 3 発泡酒 :1 麒麟淡麗 生 ( キリンビール ) 2 淡麗グリーンラベル ( キリンビール ) 3 淡麗ダブル ( キリンビール ) 4 キリンゼロ 生 ( キリンビール ) など 35
4 第三のビール :1のどごし生( キリンビール ) 2ドラフトワン ( サッポロビール ) 3 ジョッキ 生 のみごたえ辛口 ( サントリー ) 4ストロングセブン ( キリンビール ) 5コクの時間 ( キリンビール ) 6ホップの真実 ( キリンビール ) など 5 ノンアルコールビール : フリー ( キリンビール ) ポイントゼロ ( アサヒビール ) スーパークリア ( サッポロビール ) ファインゼロ ( サントリー ) 36
飲み分け能力 37
飲み分け実験 回数 1 回目まぐれで当たる 2 回目まぐれで当たる 3 回目まぐれで当たる 4 回目まぐれで当たる 5 回目まぐれで当たる 6 回目まぐれで当たる 飲み分ける状態 ( 回 ) まぐれ当たりの確率計算 確率 1 2 3 4 5 6 0.5 50.00% 0.5*0.5 25.00% 38
飲み分け実験 回数 1 回目まぐれで当たる 2 回目まぐれで当たる 3 回目まぐれで当たる 4 回目まぐれで当たる 5 回目まぐれで当たる 6 回目まぐれで当たる 飲み分ける状態 ( 回 ) まぐれ当たりの確率計算確率 1 2 3 4 5 6 =0.5 50.00% =0.5*0.5 25.00% =0.5*0.5*0.5 12.50% =0.5*0.5*0.5*0.5 6.25% =0.5*0.5*0.5*0.5*0.5 3.13% =0.5*0.5*0.5*0.5*0.5*0.5 1.56% 39
実験の結果とその判定 1. でたらめ に言っても 6 回全部当てることは 1.6%: 絶対あり得ないことではない 2.6 回全部当てたこと : まぐれ それとも 飲み分ける能力がある? 3.100 回のうち 1.6 回しか生起しない珍しいこと ( 十分に小さい確率 ): 飲み分ける能力がある 40
帰無仮説と有意水準 1. 飲み分け能力がある : 当てる確率 p>0.5 一意ではない 2. でたらめ = まぐれ である : 一意に定まる p =0.5( 帰無仮説 H 0 ) 3. 設定した帰無仮説 H 0 のもとで 事象が出現する確率を求め その値が十分に小さければ 珍しいことが生起した : 帰無仮説を棄却する 4. でたらめ = まぐれ : 飲み分け能力があるとは言えない を棄却する : 彼には飲み分け能力がある 41
事例 一個のサイコロを 4 回振った時 4 回とも 6 の目が出たので このサイコロは正しく作られていないと判定して良いか ある意見について 出席者の中から 10 人を任意に抽出して尋ねたら 8 人までが賛成であった 出席者の過半数が賛成したと判定して良いか 42
事例 1 の解答 主張 : このサイコロは正しく作られていない 帰無仮説 : このサイコロは正しく作られている 計算 : p 1 4 0.00077 6 0.05 p=0.00077 は 0.05 より小さいので 帰無仮説は棄却されます 帰無仮説 ( このサイコロは正しく作られている ) が棄却されますので このサイコロは正しく作られていない と判定してもよい 43
事例 1 の解答 主張 : 出席者の過半数が賛成している 帰無仮説 : 出席者の賛否は同数である 賛成率 p=0.5 10 9 8 2 計算 : 10 1 10 1 1 10 1 1 p 10 2 9 2 2 8 2 2 0.055 0.05 帰無仮説を採択する :10 人のうち8 人までが賛成したからと言って出席者の過半数が賛成であるという判定は正しくない ( もっと多くの人数を抽出して結論を下す必要がある ) 44
今日の復習 在庫管理棚卸 在庫維持費 発注費 機会費用 在庫管理の方法 定量発注法 定期発注法 最適発注量 EOQ Economic Order Quantity 45
次回のための予習 第 7 回 (5 月 8 日 ) 事例分析とグ ループディスカッション グループディスカッション ( テーマに ついては 実際の企業事例を調べ 経営の基本問題 経営の歴史と未 来 損益分岐分析 在庫と統計学 利益と倫理などについては発表 ) 46
グループディスカッション 14 人一組で 1テーマとその内容 2テーマに関する背景または理由 3テーマに関する異なる見方と分析 4 結論というレポート作成し 発表せよ 47