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ウ食事で摂る食材の種類別頻度野菜 きのこ 海藻 牛乳 乳製品 果物を摂る回数が大きく異なる 例えば 野菜を一週間に 14 回以上 (1 日に2 回以上 ) 摂る人の割合が 20 代で 32% 30 代で 31% 40 代で 38% であるのに対して 65 歳以上 75 歳未満では 60% 75 歳以

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関西国際大学研究紀要大学生の孤食と孤独感の関係第 18 号,2017 年,47-55 大学生の孤食と孤独感の関係 Relationship between solitary eating and loneliness feeling in the university students 堀尾強 * 喜多一貴 ** Tsuyoshi HORIO Kazuki KITA Abstract Relationship between solitary eating and loneliness feeling was examined in the 100 university students. There was not different between men and women about the mental need to eating alone. Although most subjects felt fun when they eat in great numbers, the higher than half did not want to always eat with somebody, and had desire to eating alone, and the person who felt it if eating alone was more stable mentally. About the loneliness feeling, a factor analysis was performed and was divided into 3 factors of solitary state, substantial human relations, and connection with others. By a multiple linear regression models, the substantial human relations factor might contribute to be fun when I ate in great numbers. These results suggested that the person who had low substantial human relations might avoid eating together. キーワード : 孤食, 共食, 孤独感, 大学生 Ⅰ はじめに 近年, 食生活や食習慣の変化が問題とされている その問題のひとつが孤食である 誰かと一緒に食事を取る行為である共食は, 家族間や友人間でのコミュニケーションの場としても有効であり, 平成 23 年度から施行された第 2 次食育推進基本計画では 家庭における共食を通じた子どもの食育の推進 が掲げられ, すべての年代において家族との共食頻度の増加が求められている 1) 共食頻度は20 30 歳代の男性で最も低く,20から50 歳代では男性に比べて女性が有意に多く, 週 10 回以上家族と共食していた 2) さらに, 共食頻度が少なく孤食の多い20 30 歳代の女性はストレスを感じていた さらに, 青年期における家族との共食と心理社会的幸福感との関連を検討した研究では, 家族との共食頻度が増加すると喫煙, 飲酒, マリファナの使用の頻度が低下すること, 逆に家族との共食頻度が減少すると抑うつ症状, 自殺願望を有する者の割合が高くなること * 関西国際大学人間科学部 ** 株式会社ジェイアイエヌ - 47 -

関西国際大学研究紀要第 18 号 が報告されている 3) 一方, ぼっち席 というテーブルの上に仕切りを設けて, 対面する人の顔を見えなくした一人で食べる専用の席が大学食堂で作られたことが最近話題になっている 4) 一緒に食事をする相手がおらず一人で食事しているのを見られたくないという心理の大学生に配慮したためのようである このような心理は, 便所飯 というトイレの個室で食事をするといったような行動がみられる場合がある このような行動はランチメイト症候群とも呼ばれ, コミュニケーションの葛藤で, 学校や職場で一緒に食事をする相手がいないことに一種の恐怖を覚えるという説明がなされている 5) 一緒に食事をする相手がいないことに加えて, 誰の気兼ねなく一人だけで食べたいという心理もあるのではないかとも考えられる 食事を一人で食べたい時があるのか, またはずっと一人だけで食べたいのか, それとも他人と食べるのが嫌なのか, なぜ孤食を好むのかという疑問と孤独感と関連があるのではないかと考えられる 一方, 孤独感について, その定義は 人間関係の中でわれわれがこうありたいという願望があるときに, その願望が十分満たされなかったり, 逆に心理的な満足感を低下させるような結果が生じたりしたときに感じる感情の一つである 6) さらに, 落合 (1983) 7) は特に青年期の孤独感を 人と親密な関係を持とうとする志向性を持ちながら, それが実現しないとき, 人間同士の理解 共感は難しいと感じ, 自分は一人だと感じること としている 孤独感の特徴は, 第 1 に孤独感は人の社会的関係の不足から生じるものであること, 第 2 に孤独感は主観的な経験であること, 第 3 に孤独の経験は不快で苦悩を与えるものであることである 8) 生起した孤独感は人間に対してばかりでなく, ペットに対してもネガティブな態度を伴う 9) なお, 孤独感に関する従来の研究については広沢 (2011) 10) を参照されたい 孤独感は人間関係の経験から生じるものであり, 共食により人間関係を維持しようとするのか, 共食を極力せず他の人との人間関係を避けることもありうる 孤食に関してここで, 二つの仮説が立てられる, 孤独感が強いと一人で食べたくない と 孤独感が強いから一人で食べたい という, 相反する二つの可能性が考えられる そこで本研究では, 大学生を対象に孤食と心理的要因の孤独感にどのような関係があるのかに注目し, 孤食への態度と改訂版 UCLA 孤独感尺度との関係を調べた Ⅱ 方法 1. 調査対象調査対象は大学生 100 名 (18~23 歳, 男子 59 名, 女子 41 名 ) であった 本研究は関西国際大学研究倫理委員会の承認を得, 関西国際大学研究倫理憲章に従い, 参加者全員にインフォームド コンセントを得た 2. 質問紙および尺度質問紙を用いて, 孤食への態度と孤独感について調べた 質問の項目は,1 年齢 2 性別 3 孤食への態度についての質問 3 項目 (a. 一人で食事をしたいと思うことがある,b. 大勢で食事をすると楽しい,c. 一人で食事をすると落ち着く ) と改訂 UCLA 孤独感尺度 11,12) であてはまらない, ややあてはまらない, どちらともいえない, ややあてはまる, あてはまる, の5 件法を用 - 48 -

大学生の孤食と孤独感の関係 いた 3. 調査の実施 2013 年 6 月に, 集団自記式で行った 4. 統計的処理孤食への態度の分布について男女の比率比較をするためにχ2 検定を行った UCLA 孤独感尺度 20 項目で因子分析を実施した また, 孤独感と孤食への態度の関係を調べるため重回帰分析を行った 統計処理には SPSS(ver.19) を用いた Ⅲ 結果及び考察 1. 孤食への態度について (1) 一人で食事をしたいと思うことがある という項目に対して図 1に 一人で食事をしたいと思うことがある という項目に対する男女比率を示した 男女間の比率に有意な違いは見られなかった (χ 2 (1,4)=5.86,p=.21) あてはまる ややあてはまる と答えた人が54 人 (54%) であった あてはまらない やや当てはまらない と答えた人は27 人 (27%) おり, 食事は誰かと一緒に食べるもの, あるいは共食したいと感じている しかし, 半数以上はいつも誰かと一緒に食べたいと思っているわけではなく, 時には一人で食べたいという孤食願望がある人も少なからず存在すると推測される 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 図 1 孤食への態度 ( 一人で食事したいと思う時がある ) の人数分布 (2) 大勢で食事をすると楽しい という項目に対して図 2に, 大勢で食事をすると楽しい という項目に対する男女比率を示した 男女間の比率に有意な違いは見られなかった (χ 2 (1,4)=7.04,p=.13) あてはまる ややあてはまる と答えた人が81 人 (81%) であった この結果から, 男性も女性も多くのの人が, 大勢で食事をすると楽しいと感じており, 共食の - 49 -

関西国際大学研究紀要第 18 号 0.5 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 図 2 孤食への態度 ( 大勢で食事をすると楽しい ) の人数分布 楽しかった体験から得られたものと考えられる (3) 一人で食事をすると落ち着く という項目に対して図 3に, 一人で食事をすると落ち着くという項目に対する男女比率を示した 男女間の比率に有意な違いは見られなかった (χ 2 (1,4)=5.18,p=.27) あてはまる ややあてはまる と答えた人が57 人 (57%) のに対して, あてはまらない やや当てはまらない と答えた人は19 人 (19%) であった この結果により, 一人で食事をすると落ち着いて, 安心して食事ができると感じている人が少なからず存在し, 孤食の方が精神的に安定すると感じている人がいることを示している 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 図 3 孤食への態度 ( 一人で食事をすると落ち着く ) の人数分布 (4) 孤食への態度に関する総合的考察 一人で食事をしたいと思うことがある という項目と 大勢で食事をすると楽しい という項目 の相関関係 (γ= -.19,p=.06), および 大勢で食事をすると楽しい という項目と 一 - 50 -

大学生の孤食と孤独感の関係 人で食事をすると落ち着く という項目の有意な関係 (γ= -.16,p=.11) は見られなかった しかし, 一人で食事をしたいと思うことがある という項目と 一人で食事をすると落ち着く という項目 の関係は有意であった (γ= -.60,p=.00) 大勢で食事をすることは楽しいと思っている人は多いが, たまには一人で食事をすることも落ち着いて安心した状態で食事ができ, さらには一人で食事することを楽しみに思っている人もいると推測される 2. 孤独感について孤独感と孤食についてどのような因子によって分けられるか調べるために, 因子分析を行った ( 表 1) 主因子法プロマックス回転を施し, パターン行列を示した 因子負荷量が0.3よりも低い項目を除いた 因子数はスクリープロットを見て3 因子とし3 因子が抽出された 内的一貫性について, クロンバックα 係数は, 因子 Ⅰ.852, 因子 Ⅱ.779, 因子 Ⅲ.709, といずれも0.6 以上で内的一貫性が見られた 尺度の因子名については, 因子負荷量の数値を判断基準にし, 因子名をつけた 因子 Ⅰについては, 項目内容が 他人から独立している, 無視されている, 人との付き合いがない, 頼りにできるに出来る人が誰もいない などの項目から孤立状態因子とした 因子 Ⅱについては, 周囲の人たちと共通点が多い, 本当に理解してくれる人がいる, 周囲の人たちと調子よくいっている, などの項目から充実した人間関係因子とした 因子 Ⅲについては, 一人ぼっちではない, 頼りにできる人たちがいる, 親密感の持てる人がいる などの項目から 表 1 孤独感に関する因子分析結果 - 51 -

関西国際大学研究紀要第 18 号 他者とのつながり因子とした 3. 孤食への態度と孤独感の関係孤食への態度と孤独感の関係を調べるために, 重回帰分析を行い, 図 4にパス図を示した 孤食への態度 ( 一人で食事をしたいと思うことがある ) と孤独感との関係は, 孤立状態因子, 充実した人間関係因子, 他者とのつながり因子のいずれも, 有意な関係は見られなかった 孤食への態度 ( 一人で食事すると落ち着く ) と孤独感との関係も, 孤立状態因子, 充実した人間関係因子, 他者とのつながり因子のいずれも, 有意な関係は見られなかった 孤食への態度 ( 大勢で食事をすると楽しい ) と孤独感との関係では, 孤立状態因子と他者とのつながり因子は, 大勢で食事をすると楽しいに有意な差はなかった 充実した人間関係因子は, 大勢で食事をすると楽しいに標準化係数 0.25* で有意な差があり, 充実した人間関係因子 ( 自分の周囲の人たちと共通点が多い, 親しい友だちの中で欠くことのできない存在である, 自分の周囲の人たちと調子よくいっている ) の人, すなわち孤独感の低い人は大勢で食事をすると楽しいと感じていると考えられる -.57** -.61** -.54** -.25**.17 ** P0.01 図 4 パス図 R 2 =.04 R 2 =.22** R 2 =.02 4. 孤食と共食では, なぜ現代の学生はぼっち席やランチメイト症候群といわれる一緒に食事をする相手がいないことに一種の恐怖を覚える心理が生まれるのだろうか? 共食が勧められる社会的環境によるのか, そもそも一人では食べたくないという心理が存在しているのだろうか? 内閣府 (2012) 13) が作成した 食育白書 にも 国民が生涯にわたって健全な心身を培い, 豊かな人間性をはぐぐむための食育を推進することは極めて重要である 特に, 家族が食卓を囲んで共に食事をとりながらコミュニケーションを図ることは, 食育の原点であり, 子どもへの食育を推進していく大切な時間と場である と述べている 平成 17 年国民健康 栄養調査 14) によると, 朝食を子どもだけで食べる という回答が,38.6% を占め, 昭和 57 年の22.4%, 平成 5 年の 31.4% と比べ年々増加しており, 孤食が増加している 子どもの孤食の原因としては, 塾通いや稽古事などで帰宅が遅くなるといった子どもの事情や, 親の就業時間や通勤時間が伸びたこと, 共働きなどで, 親と子どもの生活サイクルが合わなくなったりするなどして家族揃って一緒に食事が出来ず, 出来合いの食事で夕食を済ませたり, インスタント食品などを夜食に食べて済ませてしまうということから起きると考えられる 15) - 52 -

大学生の孤食と孤独感の関係 孤食の問題点は, 摂取栄養量の過不足や栄養のアンバランスの他に, 食欲がない, 頭痛, 腹痛, などの不定愁訴が多いことがあげられる 16) これらの問題の他に, 子どもが食事の大切さや食文化, 食べ方のマナーなどのしつけを学ぶ機会が少なくなっていることである さらに, 家族との共食頻度が高い小 中学生は, 精神的健康状態が良好であること 17), 食物摂取内容が良好であることが報告されている 18,19) また, 高校生時に家族との共食頻度が高い人は5 年後の青年期において, 野菜, 果物等の摂取量が多く, 女子のダイエット剤等を用いた過度の体重コントロール行動が少ないことが報告されている 20,21) このように, 子どもの頃から青年期に至る共食状況の継続性を成長期の子どもにとって健全な食生活は, 健康な心身をはぐくむために欠かせないものであると同時に将来の食習慣の形成に大きな影響を及ぼすといわれている 2) 成人においては, 家族と一緒に食べることが ほとんどない と答えた人の割合は, 朝食 夕食ともに20 代男性で最も高くなっている 22,23) 20 30 歳代男性は他の年代に比べてバランスのよい食事を摂るための意識が低いこと 24) も報告されている 米国においても思春期の過去 1 週間の共食の頻度 0 回 9.9%,1,2 回 24.7%,3-6 回 39.1%,7 回以上 26.3% と共食の頻度にばらつきがあり, 共食の頻度が少ないと果物や野菜の摂取が少ないという報告がある 25) 英国でも高齢者とくに一人暮らしで食事している男性は, 野菜や果物の摂取が少ないという 26) やもめ暮らしは市販食が多く, 手作り食品が少なく, 食欲が低く, 体重低下が見られ, 食事を楽しまないという報告がある 27) 食や健康への関心の低さや個人のライフスタイルが, 共食頻度に影響を与えている可能性が考えられる さらに, 共食の回数と家族の情緒的な絆は関係しており, 絆が少なすぎても多すぎても, 健康的な食生活は取り入れられないし, 維持もできない 28) 共食と精神的な健康はお互いに影響しあっていると考えられる 本研究により明らかになったことは, 大勢で食べることは楽しいことだと多くの大学生が考えているが, 特に, 孤独感の高い人は一人で食べることにより精神的安定を得られ, 一人で食べる孤食を求めていると考えられる しかし, 孤独感があるから孤食になるのか 共食経験が少ないから, 孤立感が生まれるのか 孤食をするから孤独感が生まれるのか また, このことが青年期特有な現象なのか他の世代にも当てはまる一般的なことなのかは今後の研究を待たねばならない Ⅳ 総括 1. 大学生 100 名を対象に, 孤食への態度と改訂版 UCLA 孤独感尺度との関係を検討した 2. 孤食への態度については, 男女間の有意な違いはなかった ほとんどの人が, 大勢で食事をすると楽しいと感じているものの, 半数以上はいつも誰かと一緒に食べたいと思っているわけではなく, 孤食願望があり, 孤食の方が精神的に安定すると感じている人がいることを示している 3. 孤独感については, 因子分析を行い, 孤立状態因子, 充実した人間関係因子, 他者とのつながり因子の3 因子に分けられた 4. 孤食への態度と孤独感について重回帰分析により解析したところ, 一人で食事をしたいと思うことがある 一人で食事をすると落ち着く は, どの因子も有意な関係は見られなかったが, 大勢で食事をすると楽しい は充実した人間関係因子が貢献していると推察された 5. これらの結果より, 人間関係が充実していない人は大勢で食事をすることを好まない傾向 - 53 -

関西国際大学研究紀要第 18 号 にあることが示唆された 引用文献 1) 内閣府 第 2 次食育推進基本計画 http://www8.cao.go.jp/syokuiku/about/plan/pdf/2kihonkeikaku. pdf(2016 年 8 月 20 日 ) 2) 赤利吉弘, 小林知未, 小林千鶴, 植杉優一, 内藤義彦 成人における年代別 性別の共食頻度と生活習慣, 社会参加および精神的健康状態との関連 栄養学雑誌,73 巻 6 号,243-252 頁,2015 3)Eisenberg, M.E., Olson, R.E., Neumark-Sztainer, D., Story, M. and Bearinger, L.H. Correlations Between Family Meals and Psychosocial Well-being Among Adolescents Archives of Pediatrics and Adolescent Medicine,158, 792-796, 2004 4) 朝日新聞 視線気にせずおひとりさま京大学食 ぼっち席 人気 7 月 29 日夕刊,2013 5) 町沢静夫 学校, 生徒, 教師のための心の健康ひろば 駿河台出版社,34 頁,2002 6)Russell,D., Peplau, L. A. and Cutrona, C. E.:The revised UCLA Loneliness Scale: Concurrent and discriminant validity evidence. Journal of Personality and Social Psychology, 39, 1980, pp.472-480. 7) 落合良行 孤独感の類型判別尺度 (LSO) の作成 教育心理学研究 31 巻 4 号,332-336 頁,1983 8)Peplau,L.A. and Perlman,D.Perspective on lonliness In Peplau,L.A. and Perlman,D. (Eds.), Loneliness: Asourcebook of current theory, research, and theory. John Wily & Sons, Inc. 1982 9) 諸井克英 孤独感とペットに対する態度大学生における孤独感と対処方略 実験社会心理学研究 24, 93-103,1984 10) 広沢俊宗 孤独感に関する心理学的研究(Ⅰ)- 課題と展望 - 関西国際大学研究紀要,12 巻,145-152 頁,2011 11) 工藤力, 西川正之 孤独感に関する研究 (Ⅰ)- 孤独感尺度の信頼性 妥当性の検討 - 実験社会心理学的研究,22 巻,99-108 頁,1983 12) 宮本聡介 改訂 UCLA 孤独感尺度日本語版 堀洋道 ( 監 ) 山本真理子 ( 編 ) 心理測定尺度集 Ⅰ 222-225 頁,2001 13) 内閣府 平成 23 年度版食育白書 ( 本編 ) http://www8.cao.go.jp/syokuiku/data/ Whitepaper/ 2013/ book/html/ 14) 健康 栄養情報研究会編 国民健康 栄養の現状 平成 17 年厚生労働省国民健康 栄養調査報告より 第一出版,51 頁,2008 15) 湯沢雍彦, 宮本みち子 新版データで読む家族問題 日本放送出版協会,26-33 頁,2008 16) 松本晴美, 深沢早苗 中学生の食意識 食行動に及ぼす食生活環境の影響および食意識 食行動との関連 日本家政学会誌,54 巻,913-923 頁,2003 17) 小西史子, 黒川衣代 子どもの食生活と精神的な健康状態の日中比較( 第 1 報 ) 食事状況と精神的な健康状態の関連 小児保健研究,60 巻,739-748 頁,2001 18) 川崎末美 食事の質, 共食頻度, および食卓の雰囲気が中学生の心の健康に及ぼす影響 日本家政学会誌,52 巻,923-935 頁,2001 19)Burgess-Champoux, T.L., Larson, N., Neumark-Sztainer,D., Hannan, P.J. and Story, M. Are family meal patterns associated with overall diet quality during the transition from early to middle adolescence? Journal of Nutrition Education and Behavior, 41, 79-86, 2009 20)Larson, N.I., Neumark-Sztainer, D., Hannan, P.J. and Story M. Family meals during adolescence are associated with higher diet quality and healthful meal patterns during young adulthood Journal of the American Dietetic Association, 107, 1502-1510, 2007 21)Neumark-Sztainer, D., Eisenberg, M.E., Fulkerson, J.A., Story, M. and Larson, N.I. Family meals - 54 -

大学生の孤食と孤独感の関係 and disordered eating in adolescents:longitudinal findings from project EAT Archives of Pediatrics and Adolescent Medicine, 162, 17-22, 2008 22) 内閣府 食育に関する意識調査報告書( 平成 26 年 3 月 ) http://www8.cao.go.jp/syokuiku/ more/ research/ h26/pdf/houkoku_4.pdf(2016 年 8 月 20 日 ) 23) 厚生労働省 平成 24 年度国民健康 栄養調査報告書 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/ eiyou/ dl/ h24-houkoku.pdf(2016 年 8 月 20 日 ) 24) サン クロレラ研究サイト 食生活に関する意識調査 http://lab-sunchlorella.jp/research/ 2013/11/ 29 research_938/(2016 年 8 月 20 日 ) 25)Larson, N., Fulkerson, J., Story, M. and Neumark-Sztaineret, D. Shared meals among young adults are associated with better diet quality and predicted by family meal patterns during adolescence Public Health of Nutrition, 16, 1-11, 2012 26)Holmes, B.A., Roberts, C.L. and Nelson, M. How access, isolation and other factors may influence food consumption and nutrient intake in materially deprived older men in the UK Nutrition bulletin, 33, 212-220, 2008 27)Shahar, D.R., Schultz, R., Shahar, A. and Wing, R.R. The effect of widowhood on weight change, dietary intake, and eating behavior in the elderly population Journal of Aging and Health, 13,189-199, 2001 28)Welsh, E.M., French, S.A. and Wall, M. Examining the relationship between family meal Frequency and individual dietary intake: does family cohesion play a role? Journal of Nutrition Education and Behavior, 43, 229-235, 2011-55 -