はじめに 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) 心不全診療では, 心不全パンデミックと称される疫学, 最新の診断法ならびにエビデンスに基づく標準治療を知ると共に, 心不全予防, 多職種連携, 緩和ケアまで裾野の広い診療を理解する必要がある. 日本循環器学会と日本心不全学会では,

Similar documents
ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた

MRテキスト2018 疾病と治療 臨床 追補2018年6月

2005年 vol.17-2/1     目次・広告

書などで内容を確認することも重要である 心不全発症の誘因 ( 表 2) に留意して 本人および家族に問診することが重要であるが ( 心不全再発予防のため ) 本人が難聴や認知症などで問診困難な場合には 家族や介護者からの情報収集が大変重要である また, 高齢者では一般的に, 脱水状態, または脱水を

今後のがん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会の進め方とスケジュールについて

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会

スライド 1

認定看護師教育基準カリキュラム

心不全とは?(Fig.3) 心機能低下に起因する循環不全 と定義され 心臓が全身の組織における代謝の必要量に応じて 血液を十分駆出できない状態です 発症の仕方により 急性心不全 (acute heart failure:ahf) と慢性心不全 (chronic heart failure:chf)

<4D F736F F D E C CD89F382EA82E982B182C682AA82A082E991BA8FBC90E690B6816A2E646F63>

P002~013 第1部第1章.indd

2019/7/9 市民公開講座 2019 健やかな高齢社会を生きるために心臓を守ろう ~ 心不全を知るコトから始めよう ~ 藤枝市立総合病院循環器内科渡辺明規 2019 年 7 月 7 日藤枝市民会館 1

第1章 1 重症心不全症例のファーストタッチ 1 臨床症状から 臨床症状から ①症状 病歴聴取時に心不全の重症度を正確に評価するためのポ イントは ②病歴 臨床症状をどのように心不全管理に活かすか ③患者の受けとめ方や社会背景は心不全診療に関係するか 臨床症状 病歴聴取は心不全患者を診療するときに最

臨床研究実施計画書

平成 26 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 579 号付録 ) 2.NT-proBNP の臨床的意義 1 心不全 ( 収縮及び拡張機能障害 ) で早期より測定値が上昇するため 疾患の診断や病状の経過観察さらには予後予測等に活用できます 2NT-proBNP の測定値は疾患の重症度

受給者番号 ( ) 患者氏名 ( ) 告示番号 72 慢性心疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 経過 ( 申請時 ) 直近の状況を記載 2/2 薬物療法 強心薬 :[ なし あり ] 利尿薬 :[ なし あり ] 抗不整脈薬 :[ なし あり ] 抗血小板薬 :[ なし あり

心臓静脈動脈体循環 心臓の働き 肺循環 心臓は 全身に血液を送り出すポンプの働きをしています 生命維持に必要な酸素や栄養素などを含む血液を 拍動によって肺や全身へめぐらせます 肺循環心臓と肺のあいだをめぐる血液循環です 肺で酸素を取り入れ 二酸化炭素を放出します 体循環心臓と全身のあいだをめぐる血液

循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1

PowerPoint プレゼンテーション

虎ノ門医学セミナー

者年齢患 心臓財団虚血性心疾患セミナー 心不全の急性期治療戦略 : 現状と課題 絹川真太郎 ( 北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学 ) 心不全の疫学心不全は高血圧, 虚血性心疾患, 弁膜症および心筋症などのあらゆる心疾患の終末像であり, 高齢者の割合が極めて多い病態です. われわれが行った心不

日本内科学会雑誌第106巻第3号

心房細動1章[ ].indd

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

心不全

認定看護師教育基準カリキュラム改正(案)の概要

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

秋山正年 安斉俊久 石原嗣郎 猪又孝元 今村輝彦 岩﨑雄樹 大谷朋仁 大西勝也 葛西隆敏 加藤真帆人 川井真 衣笠良治 絹川真太郎 倉谷 徹 小林茂樹 坂田泰彦 田中敦史 戸田宏一 野田崇 後岡広太郎 波多野将 日高貴之 藤野剛雄 牧田茂 山口修 池田宇一 木村 剛 香坂俊 小菅雅美 山岸正和 山科

Microsoft Word - 資料2-3 先進医療Bの総括報告書に関する評価表(B027_鹿児島大病院)一色大門.doc

50% であり (iii) 明らかな心臓弁膜症や収縮性心膜炎を認めない (ESC 2012 ガイドライン ) とする HFrEF は (i)framingham 診断基準を満たす心不全症状や検査所見があり (ii) は EF<50% とした 対象は亀田総合病院に 年までに初回発症

Microsoft Word - 日本語要約_4000字_.docx

PowerPoint プレゼンテーション

存や入院に何か影響するのか ) を明らかにします 取得する情報 基本情報 : 施設名 施設年間症例 施設地域 記入者 記入日 DPC 番号 ( 患者 ID として使用 ) 心不全患者としての適格性の判定 ( 適格 不適格 ) 入院日 生年月日 性別 身長 体重入院時退院時患者背景 : 心不全入院歴

11.【最終版】プレスリリース修正  循環器内科泉家

<4D F736F F D20926E88E698418C E E38E7495D AB2834A838B E D

印刷用1

Virtual Touch Quantification 法を用いたエラストグラフィによる心不全患者に対する臓器うっ血の評価の有用性に関する研究 [全文の要約]

心障害により心拍出量が十分に得られない (N A) と 拡張終期圧と容積が増加し Frank-Starling の法則により 収縮力が増加し血液を排出しようとする (A B) しかし これにより静脈圧が上昇し 肺うっ血による呼吸困難が生じる さらに 交感神経の亢進により 末梢血管抵抗の増加と心拍数の

ストラクチャークラブ ジャパン COI 開示 発表者名 : 高木祐介 演題発表に関連し, 開示すべき COI 関係にある 企業などはありません.

Microsoft PowerPoint - 表紙 印刷用H24

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

PowerPoint プレゼンテーション

01 表紙

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

埼玉医科大学電子シラバス

2. 延命措置への対応 1) 終末期と判断した後の対応医療チームは患者および患者の意思を良く理解している家族や関係者 ( 以下 家族らという ) に対して 患者が上記 1)~4) に該当する状態で病状が絶対的に予後不良であり 治療を続けても救命の見込みが全くなく これ以上の措置は患者にとって最善の治

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

日本内科学会雑誌第106巻第2号

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

課題名

山田先生.indd

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

更生相談・判定依頼のガイド

日本内科学会雑誌第98巻第12号

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

心不全の疫学 約 130 万人 心不全患者数 ( 合計 ) (Okura Y, et al. Circ J, 2008;72:489-91) 日本の心不全患者は今後 20 年程度は増加の一途をたどると想定されている

PowerPoint プレゼンテーション

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd


様式第1号

存や入院に何か影響するのか ) を明らかにします 取得する情報 基本情報 : 施設名 施設年間症例 施設地域 記入者 記入日 DPC 番号 ( 患者 ID として使用 ) 心不全患者としての適格性の判定 ( 適格 不適格 ) 入院日 生年月日 性別 身長 体重入院時退院時患者背景 : 心不全入院歴

25 年 ₅ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 565 号付録 ) 平成25 年5 月平成 講演 2 心不全バイオマーカーの紹介津川和子 ( 広島大学病院検査部 ) ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体 N 端フラグメント (NT-proBNP) は BNP の前駆体である probnp

というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

面的 包括的なリハビリテーションが多職種 ( 医師 看護師 薬剤師 栄養士 理学療法士等 ) のチームにより実施されます 喪失した心機能の回復だけではなく 再発予防 リスク管理などの多要素の改善に焦点が当てられ 患者教育 運動療法 危険因子の管理等を含む 疾病管理プログラムとして実施されます 急性期

<4D F736F F D D94738C8C8FC782A982E782CC89F1959C82CC8EBF82F08CFC8FE382B382B982E9>

循環器系疾患 特発性拡張型心筋症 1. 概要拡張型心筋症は 心筋収縮と左室内腔の拡張を特徴とする疾患群であり 高血圧 弁膜性 虚血性 ( 冠動脈性 ) 心疾患など原因の明らかな疾患を除外する必要がある 2. 疫学 1998 年に施行された厚生省の特発性心筋症調査研究班による全国調査では 拡張型心筋症

Microsoft PowerPoint - 資料4_救急(ガイドライン)

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

<4D F736F F D CC89EF8FE18A B898CA992BC82B582C991CE82B782E988D38CA98F912E646F6378>

日本呼吸器学会誌第6巻第4号

別紙様式第1

Print

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

適応病名とレセプト病名とのリンクDB

06. 【送付】プレスリリース原稿 LCZ696

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

医療連携ガイドライン改

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

臨床所見 ( 申請時 ) 直近の状況を記載症状告示番号 72 慢性心疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 継続申請用 病名 1 洞不全症候群 受給者番号受診日年月日 受付種別 継続 転出実施主体名 転入 ( ) ふりがな 氏名 (Alphabet) ( 変更があった場合 ) ふりがな以前の登

<4D F736F F D20926E88E698418C E E38E7495D AB2834A838B E D

188-189

「             」  説明および同意書

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

1 解除 (decongestion) という 目に見える治療 LECTURE の重要性を示唆するデータが関心を集めてい ます 心不全急性増悪後 4 8 時間以内の入院 体液貯留管理におけるうっ血解除の意義 患者を対象に 退院時または入院 7 日目のうっ血の程度をCCS(composite cong

Transcription:

はじめに 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) 心不全診療では, 心不全パンデミックと称される疫学, 最新の診断法ならびにエビデンスに基づく標準治療を知ると共に, 心不全予防, 多職種連携, 緩和ケアまで裾野の広い診療を理解する必要がある. 日本循環器学会と日本心不全学会では, 従来から急性と慢性に分かれていた心不全診療ガイドラインを1 本化すると共に, 7 年ぶりに全面的に改訂し,2018 年 3 月に 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) として公表した. 本ガイドラインは, 欧米の最新のガイドラインを踏まえつつ, 我が国におけるエビデンスや実臨床の経験も取り入れることにより, 急性 慢性心不全診療の標準を示したものである. 1. 心不全とは Key words 心不全, ガイドライン, 診断, 治療, 緩和ケア 日内会誌 108:978~985,2019 心不全 とは, なんらかの心臓機能障害, すなわち, 心臓に器質的および / あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果, 呼吸困難 倦怠感や浮腫が出現し, それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群 と定義されている. 一般向けには 心不全とは, 心臓が悪いために, 息切れやむくみが起こり, だんだん悪くなり, 生命を縮める病気です と表現している. 2. 心不全とそのリスクの 進展ステージ ( 図 1) 筒井裕之九州大学大学院医学研究院循環器内科学 Hiroyuki Tsutsui Department of Cardiovascular Medicine, Faculty of Medical Sciences, Kyushu University, Japan. 心不全の多くは, 高血圧 糖尿病等のリスクファクターを基盤として発症し, 心不全発症後も増悪と寛解を繰り返しながら進行し, 最終的には死に至る. 心不全とそのリスクの進展ステージを リスク因子をもつが器質的心疾患がなく, 心不全症候のない患者 である ステージA, 器質的心疾患を有するが, 心不全症候 978 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号

シリーズ 診療ガイドライン at a glance 心不全とそのリスク心不全の進展イベント 器質的心疾患発症 心不全リスク 心不全症候出現 症候性心不全 心不全治療抵抗性 心不全ステージ分類 治療目標身体機能ステージ A 器質的心疾患のないリスクステージ 危険因子あり 器質的心疾患なし 心不全症候なし 高血圧糖尿病動脈硬化性疾患 など ステージ B 器質的心疾患のあるリスクステージ 器質的心疾患あり 心不全症候なし 心不全発症 虚血性心疾患左室リモデリング ( 左室肥大 駆出率低下 ) 無症候性弁膜症など ( 突然死 ) ステージ C 心不全ステージ 器質的心疾患あり 心不全症候あり ( 既往も含む ) 急性心不全 慢性心不全の急性増悪 ( 急性心不全 ) 反復 慢性心不全 危険因子のコントロール 器質的心疾患の進展予防 症状コントロール 器質的心疾患の発症予防 心不全の発症予防 QOL 改善 入院予防 死亡回避 緩和ケア ステージ D 治療抵抗性心不全ステージ 治療抵抗性 ( 難治性 末期 ) 心不全 心不全の難治化 再入院予防 終末期ケア 時間経過 図 1 心不全とそのリスクの進展ステージ ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_ tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) のない患者 である ステージB, 器質的心疾患を有し, 心不全症候を有する患者 を既往も含め ステージC, おおむね年間 2 回以上の心不全入院を繰り返し, 有効性が確立しているすべての薬物治療 非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらずニューヨーク心臓協会 (New York Heart Association: NYHA) 心機能分類 III 度より改善しない患者 を ステージD と分類する. 大多数の心不全は急性心不全として発症するが, 代償化され, 慢性心不全に移行する. その後は慢性に進行するが, 急性増悪により非代償性急性心不全を反復しやすい. さらに, 経過中に突然死を来たすこともある. このように, 心不全はステージCからDへと直線的に増悪するのではなく, 且つ, その経過は, 原因となる基礎心疾患の重症度や併存症による個人差が大きく, 一様ではない. 心不全の各ステージにおける治療目標は, ス テージの進行を抑制することにある. すなわち, ステージAでは 心不全の原因となる器質的心疾患の発症予防, ステージBでは 器質的心疾患の進展抑制と心不全の発症予防, そしてステージCでは 生命予後の改善, 再入院の予防と症状の軽減, ステージDでは, 基本的にはステージCと同様であるが, 終末期心不全では症状の軽減が主たる目標となる. 3. 診断 ( 図 2) 心不全の診断では, 自覚症状, 既往歴, 家族歴, 身体所見, 心電図ならびに胸部 X 線をまずチェックする. 既往歴とは, 冠動脈疾患, 高血圧, 糖尿病ならびに化学療法歴等の心不全発症のリスク因子を指す. 家族歴では, 遺伝性疾患の有無等をチェックする. 慢性心不全の主たる症状は, 呼吸困難, 浮腫 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 979

心不全を疑わせる患者心不全の可能性 1 症状 3 労作時息切れ, 起座呼吸, 発作性夜間呼吸困難など 2 既往 患者背景高血圧, 糖尿病, 冠動脈疾患の既往心毒性のある薬剤使用歴放射線治療歴, 利尿薬使用歴心疾患の家族歴 ( 遺伝性疾患など ) NT-proBNP 400 pg/ml または BNP 100 pg/ml * 1 項目以上該当 4 5 身体所見 ( パルスオキシメータ含む ) ラ音, 下腿浮腫, 心雑音, 過剰心音 (Ⅲ 音,Ⅳ 音 ), 頚静脈怒張など 心電図 胸部 X 線 該当項目なし病的所見 異常項目 (+) 異常項目 / 病的所見 (-) だが虚血性心疾患の疑いが残る 心エコー図検査 ( 負荷心エコー図検査含む ) 病的所見 (+) (-) 心不全の可能性は高くない CT MRI 核医学検査運動 / 薬剤負荷試験 心臓カテーテル検査 病的所見 (+) 心不全の確定診断 原因疾患, 心不全ステージに応じた治療 必要に応じて心不全の発症予防または経過観察 * NT-proBNP が 125 ~ 400 pg/ml あるいは BNP が 35 ないし 40~100 pg/ml の場合, 軽度の心不全の可能性を否定しえない.NT-proBNP/BNP の値のみで機械的に判断するのではなく,NT-proBNP/BNP の標準値は加齢, 腎機能障害, 貧血に伴い上昇し, 肥満があると低下することなどを念頭に入れて, 症状, 既往 患者背景, 身体所見, 心電図, 胸部 X 線の所見とともに総合的に勘案して, 心エコー図検査の必要性を判断するべきである. 図 2 慢性心不全の診断フローチャート ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 980 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号

シリーズ 診療ガイドライン at a glance 表 LVEFによる心不全の分類 ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_ tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 定義 LVEF 説明 LVEFの低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction;hfref) LVEFの保たれた心不全 (heart failure with preserved ejection fraction;hfpef) LVEF が軽度低下した心不全 (heart failure with midrange ejection fraction;hfmref) LVEF が改善した心不全 (heart failure with preserved ejection fraction,improved; HFpEF improved または heart failure with recovered EF;HFrecEF) 40% 未満 50% 以上 40% 以上 50% 未満 40% 以上 収縮不全が主体. 現在の多くの研究では標準的心不全治療下でのLVEF 低下例がHFrEFとして組み入れられている. 拡張不全が主体. 診断は心不全と同様の症状をきたす他疾患の除外が必要である. 有効な治療が十分には確立されていない. 境界型心不全. 臨床的特徴や予後は研究が不十分であり, 治療選択は個々の病態に応じて判断する. LVEF が 40% 未満であった患者が治療経過で改善した患者群. HFrEF とは予後が異なる可能性が示唆されているが, さらなる研究が必要である. 等の臓器うっ血による症状と易疲労感等の低心拍出量による症状であるが, これらは呼吸器疾患, 腎不全ならびに貧血等でも認められることがあり, 鑑別を要する. 自覚症状から判断される重症度の評価法として,NYHA 心機能分類が最もよく用いられる. 身体所見では, 心雑音や III 音, 肺雑音や頸静脈怒張がないか確認する. 次に行うべき検査は, 血中 BNP(brain natriuretic peptide)/n 末端プロBNP(N-terminal pro- B-type natriuretic peptide:nt-probnp) の測定である.BNP 35~40 pg/mlあるいはntprobnp 125 pg/ml 以上で, 心不全が強く疑われる場合, 心エコー検査を行う. 身体所見で弁膜症を疑わせる心雑音が聴取される場合や, 陳旧性心筋梗塞を示す心電図異常を認める場合等は,BNP/ NT-proBNPの値にかかわらず, 心エコー検査を行う. 安静時の心エコー検査所見と自覚症状に乖離がある場合は, 負荷心エコー検査の実施も考慮する. 心エコー検査で左室の構造的 / 機能的異常を認めるものの, 原因疾患の診断に至らない場合等は,CT(computed tomography), MRI (magnetic resonance imaging) ならびに核医学検査等他のモダリティーを用いる. 虚血性心疾患患者において, 主訴が労作時息切れのみの場合があり, このような患者では,BNP/ NT-proBNPや安静時心エコー図で明らかな異常 を認めないことがある. 虚血性心疾患を否定し得ない場合は, 運動負荷や薬剤負荷を用いて心筋虚血評価を行う. 心不全を左室駆出率 (left ventricular ejection fraction:lvef) により40% 未満の LVEFの低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction:hfref) と 50% 以上の LVEFの保たれた心不全 (heart failure with preserved ejection fraction:hfpef) に分類する ( 表 ). 40% 以上 50% 未満の群はHFmrEF(heart failure with midrange ejection fraction) と定義される. HFpEFの診断には,1) 臨床的に心不全症状を呈していること,2)LVEFが正常もしくは保たれていること,3) ドプラ心エコー検査もしくは心臓カテーテル検査で左室拡張能障害が証明されていることの3 点を基準とする. また,HFrEF のなかに治療や時間経過と共にLVEFが改善する症例もある (HFpEF,improved, またはHF with recovered EF:HFrecEF). 頻脈誘発性心筋症や虚血性心疾患,β 遮断薬や心臓再同期療法でLVEFが改善したHFrEFが該当すると考えられる. これらは予後良好とする報告もあるが, 臨床的特徴等について, 今後のさらなる研究が必要である. 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 981

ステージ分類治療内容4. 治療 ( 図 3) HFrEF に対しては, アンジオテンシン変換酵 素 (angiotensin-converting enzyme:ace) 阻害 薬 アンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (angiotensin II receptor blocker:arb) ミネラルコルチ コイド受容体拮抗薬 (mineralocorticoid receptor antagonist:mra) 等の RAA(renin-angiotensin-aldosterone) 系抑制薬や β 遮断薬が, 軽症から重 症までの HFrEF 患者の予後を改善するというエ ビデンスを踏まえ, 推奨される. 一方で,HFpEF に対しては, 現在まで死亡率の低下を示した薬 物療法はない. 従って, 現段階ではうっ血に基 づく自覚症状の改善を目的とした利尿薬の投与 と心不全増悪に結び付く併存症に対する治療を 行う.HFmrEF の臨床的特徴は十分には明らかに なっておらず, 治療の選択は個々の病態に応じ て判断する. ステージ C 心不全ステージ 器質的心疾患あり 心不全症候あり ( 既往も含む ) HFrEF ACE 阻害薬 /ARB +β 遮断薬 +MRA 利尿薬必要に応じてジギタリス血管拡張薬 ICD/CRT 運動療法 HFmrEF 個々の病態に応じて判断 疾病管理 ステージ D 治療抵抗性心不全ステージ 治療抵抗性 ( 難治性 末期 ) 心不全 HFpEF 利尿薬併存症に対する治療 治療薬の見直し補助人工心臓心臓移植緩和ケア 図 3 心不全治療アルゴリズム ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/ JCS2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 5. 急性心不全の初期対応と 治療方針 ( 図 4,5) 急性心不全は急性非代償性心不全とも呼ば れ, 急速に心原性ショックや心肺停止に移行す る可能性のある逼迫した状態である. 早期に治 療介入し, 循環動態と呼吸状態の安定化を図る と同時に診断を的確に行う. その際, できるだ け早期に心不全入院歴, 治療歴, 既往歴, 安定 期のバイタルならびに心機能等の情報の収集を 行う. 可及的速やかに心エコー検査を行うこと で, より的確な診断及び病態の把握が可能とな る. 急性心不全では, 診断と共にその原因を特 定することを絶えず念頭に置く. 原因に対する 治療こそが生命予後の改善につながる. 呼吸不 全の原因として, 肺水腫あるいは慢性閉塞性肺 疾患 (chronic obstructive pulmonary disease: COPD) を合併する場合は, 静脈血 ph,co2 なら びに乳酸の測定を行う. 心原性ショックでは, 動脈血ガス分析を施行する. 急性心不全の原因疾患はさまざまであるが, 病態は 1 急性心原性肺水腫,2 全身的な体液貯 留,3 低心拍出による低灌流の 3 つの病態に集約 できる. 初期対応と共にその病態に合わせた治 療を同時に行う. この際,Nohria-Stevenson 分類 に基づいて, うっ血と低灌流を重症度も含めて 評価し, その経過を把握することが重要である. 6. 緩和ケア 心不全に対しても, 癌と同様に緩和ケアが必 要であるという認識に基づくが, 積極的治療が 終末期には行われない癌とは異なり, 心不全に 対する適切な治療が行われていることが前提と なり, 最期まで心不全やその合併症に対する治 療の継続が必要となる ( 図 6). さらに, 緩和医 療と終末期医療は同義ではなく, 緩和ケアは終 末期から始まるものではない. 心不全が症候性 となった早期の段階から, アドバンス ケア 982 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号

シリーズ 診療ガイドライン at a glance 急性心不全 10 分以内トリアージ 四肢冷感 血圧心拍数 呼吸数 SpO2 体温心電図モニター病態評価 ( クリニカルシナリオ分類 ) 次の 60 分以内 迅速評価 うっ血 末梢低灌流評価血液検査 (BNP/NT-proBNP) 12 誘導心電図心エコー図肺エコー図胸部 X 線 ( 胸部 CT 検査 ) 次の 60 分以内 なし 血行動態安定不安定 血管拡張薬 ± 利尿薬 末梢低灌流 ( 乳酸値 >2 mmol/l を参考 ) SBP<90 mmhg あるいは MBP<65 mmhg 心原性ショック 低灌流性心不全 呼吸不全 あり 酸素吸入 NPPV 気管挿管 並行して基礎心疾患診断 特殊病態把握 急性冠症候群 緊急 CAG/PCI 補液強心薬 IABP ECMO ICU CCU 再評価 四肢冷感 血圧心拍数 呼吸数 SpO2 体温うっ血 末梢低灌流評価 (Nohria-Stevenson 分類 ) 必要に応じて心エコー図心電図などの再検 心不全病態 治療効果の再評価治療の修正を図る 基礎心疾患診断特殊病態治療 MR. CHAMPH Myocarditis Right-sided heart failure acute Coronary syndrome Hypertensive emergency Arrhythmia acute Mechanical cause acute Pulmonary thromboembolism High output heart failure 一般病棟 心不全改善 なしあり 退院 図 4 急性心不全に対する初期対応から急性期対応のフローチャート ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 983

急性心不全急性冠症候群 右心不全の除外 病態収縮期血圧 クリニカルシナリオと治療指針収縮期血圧 (mmhg) クリニカルシナリオ 1( 肺水腫 ) 血管拡張薬 ± 利尿薬 140 クリニカルシナリオ 2( 体液貯留 ) 利尿薬 + 血管拡張薬 100 90 クリニカルシナリオ 3( 低心拍出 ) 体液貯留がない場合は容量負荷 強心薬で改善がない場合は血行動態評価 低血圧 低灌流が持続する場合は血管収縮薬 心原性ショック薬物治療 + 補助循環 肺うっ血起座呼吸 発作性夜間呼吸困難 図 5 急性心不全の初期対応から急性期病態に応じた治療の基本方針 ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_ tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) warm cold うっ血の有無 wet または dry うっ血なし血圧 末梢循環維持経口心不全薬の調整 dry 低灌流の有無 cold または warm 頚静脈怒張四肢冷感肝腫大, 腹水, 冷汗食思不振乏尿末梢浮腫 Nohria-Stevenson 分類と治療指針 体液量減少 ( 脱水 ) 血圧低下 末梢循環不全輸液循環不全が遷延すれば強心薬 wet 意識低下脈拍微弱 うっ血あり血圧上昇型血管拡張薬 ± 利尿薬うっ血あり血圧維持型利尿薬 + 血管拡張薬利尿薬抵抗性は限外濾過うっ血あり, 末梢循環不全血管拡張薬 ± 強心薬うっ血あり, 血圧低下 末梢循環不全強心薬 ( 血管収縮薬も ) 血圧維持後に利尿薬反応のない時は補助循環 診断 死亡 過去の癌の医療モデル 積極的治療 緩和ケア 病態改善のための治療 現在の癌の医療モデル 積極的治療 緩和ケア 遺族ケア 症状緩和のための治療 心不全の医療モデル 積極的治療 緩和ケア 遺族ケア 緩和ケアは終末期医療と同義ではなく, 心不全が症候性となった早期の段階から実践し, 心不全の治療に関しては最期まで継続される. 図 6 心不全における緩和ケアのあり方 ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) プランニング (advance care planning:acp) を実施していく必要がある.ACPとは, 意思決定能力が低下する前に, 患者や家族が望む治療と生き方を医療従事者が共有し, 事前に対話しな がら計画するプロセス全体のことである. 終末期に至った際に, 納得した人生を送ってもらうことを目標とする. 心不全緩和ケアの実践にあたっては, 多職種チームによる患者の身体的, 984 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号

シリーズ 診療ガイドライン at a glance 心理的ならびに精神的なニーズを頻回に評価することも重要である. おわりに 我が国を含め, 世界中で人口の高齢化や生活習慣病の増加により, 心不全患者が増加の一途をたどっている. 世界でも類を見ないペースで人口の高齢化が進行し, 既に超高齢社会を迎えている我が国においては, 高齢の心不全患者の増加が顕著であり, 効果的 効率的対策を打ち出すことが急務となっている. 本ガイドライン が, 心不全診療に携わる全ての医療従事者に活 用され, 一人でも多くの心不全患者に質の高い 診療が提供されることを願っている. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 筒井裕之 ; 講演料 (MSD, 大塚製薬, 小野薬品工業, 第一三共, 武田薬品工業, 田辺三菱製薬, 帝人ファーマ, 日本ベーリンガーインゲルハイム, バイエル薬品, ファイザー ), 原稿料 ( 医学書院, メディカルレビュー社 ), 研究費 助成金 ( アクテリオンファーマシューティカルズジャパン, 田辺三菱製薬, 日本たばこ産業, 日本ベーリンガーインゲルハイム ), 寄附金 ( アステラス製薬,MSD, 第一三共, 武田薬品工業, 田辺三菱製薬, 帝人ファーマ, 日本ベーリンガーインゲルハイム, ノバルティスファーマ ) 文献 1 ) 日本循環器学会, 他 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ).2018. 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 985