はじめに 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) 心不全診療では, 心不全パンデミックと称される疫学, 最新の診断法ならびにエビデンスに基づく標準治療を知ると共に, 心不全予防, 多職種連携, 緩和ケアまで裾野の広い診療を理解する必要がある. 日本循環器学会と日本心不全学会では, 従来から急性と慢性に分かれていた心不全診療ガイドラインを1 本化すると共に, 7 年ぶりに全面的に改訂し,2018 年 3 月に 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) として公表した. 本ガイドラインは, 欧米の最新のガイドラインを踏まえつつ, 我が国におけるエビデンスや実臨床の経験も取り入れることにより, 急性 慢性心不全診療の標準を示したものである. 1. 心不全とは Key words 心不全, ガイドライン, 診断, 治療, 緩和ケア 日内会誌 108:978~985,2019 心不全 とは, なんらかの心臓機能障害, すなわち, 心臓に器質的および / あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果, 呼吸困難 倦怠感や浮腫が出現し, それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群 と定義されている. 一般向けには 心不全とは, 心臓が悪いために, 息切れやむくみが起こり, だんだん悪くなり, 生命を縮める病気です と表現している. 2. 心不全とそのリスクの 進展ステージ ( 図 1) 筒井裕之九州大学大学院医学研究院循環器内科学 Hiroyuki Tsutsui Department of Cardiovascular Medicine, Faculty of Medical Sciences, Kyushu University, Japan. 心不全の多くは, 高血圧 糖尿病等のリスクファクターを基盤として発症し, 心不全発症後も増悪と寛解を繰り返しながら進行し, 最終的には死に至る. 心不全とそのリスクの進展ステージを リスク因子をもつが器質的心疾患がなく, 心不全症候のない患者 である ステージA, 器質的心疾患を有するが, 心不全症候 978 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号
シリーズ 診療ガイドライン at a glance 心不全とそのリスク心不全の進展イベント 器質的心疾患発症 心不全リスク 心不全症候出現 症候性心不全 心不全治療抵抗性 心不全ステージ分類 治療目標身体機能ステージ A 器質的心疾患のないリスクステージ 危険因子あり 器質的心疾患なし 心不全症候なし 高血圧糖尿病動脈硬化性疾患 など ステージ B 器質的心疾患のあるリスクステージ 器質的心疾患あり 心不全症候なし 心不全発症 虚血性心疾患左室リモデリング ( 左室肥大 駆出率低下 ) 無症候性弁膜症など ( 突然死 ) ステージ C 心不全ステージ 器質的心疾患あり 心不全症候あり ( 既往も含む ) 急性心不全 慢性心不全の急性増悪 ( 急性心不全 ) 反復 慢性心不全 危険因子のコントロール 器質的心疾患の進展予防 症状コントロール 器質的心疾患の発症予防 心不全の発症予防 QOL 改善 入院予防 死亡回避 緩和ケア ステージ D 治療抵抗性心不全ステージ 治療抵抗性 ( 難治性 末期 ) 心不全 心不全の難治化 再入院予防 終末期ケア 時間経過 図 1 心不全とそのリスクの進展ステージ ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_ tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) のない患者 である ステージB, 器質的心疾患を有し, 心不全症候を有する患者 を既往も含め ステージC, おおむね年間 2 回以上の心不全入院を繰り返し, 有効性が確立しているすべての薬物治療 非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらずニューヨーク心臓協会 (New York Heart Association: NYHA) 心機能分類 III 度より改善しない患者 を ステージD と分類する. 大多数の心不全は急性心不全として発症するが, 代償化され, 慢性心不全に移行する. その後は慢性に進行するが, 急性増悪により非代償性急性心不全を反復しやすい. さらに, 経過中に突然死を来たすこともある. このように, 心不全はステージCからDへと直線的に増悪するのではなく, 且つ, その経過は, 原因となる基礎心疾患の重症度や併存症による個人差が大きく, 一様ではない. 心不全の各ステージにおける治療目標は, ス テージの進行を抑制することにある. すなわち, ステージAでは 心不全の原因となる器質的心疾患の発症予防, ステージBでは 器質的心疾患の進展抑制と心不全の発症予防, そしてステージCでは 生命予後の改善, 再入院の予防と症状の軽減, ステージDでは, 基本的にはステージCと同様であるが, 終末期心不全では症状の軽減が主たる目標となる. 3. 診断 ( 図 2) 心不全の診断では, 自覚症状, 既往歴, 家族歴, 身体所見, 心電図ならびに胸部 X 線をまずチェックする. 既往歴とは, 冠動脈疾患, 高血圧, 糖尿病ならびに化学療法歴等の心不全発症のリスク因子を指す. 家族歴では, 遺伝性疾患の有無等をチェックする. 慢性心不全の主たる症状は, 呼吸困難, 浮腫 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 979
心不全を疑わせる患者心不全の可能性 1 症状 3 労作時息切れ, 起座呼吸, 発作性夜間呼吸困難など 2 既往 患者背景高血圧, 糖尿病, 冠動脈疾患の既往心毒性のある薬剤使用歴放射線治療歴, 利尿薬使用歴心疾患の家族歴 ( 遺伝性疾患など ) NT-proBNP 400 pg/ml または BNP 100 pg/ml * 1 項目以上該当 4 5 身体所見 ( パルスオキシメータ含む ) ラ音, 下腿浮腫, 心雑音, 過剰心音 (Ⅲ 音,Ⅳ 音 ), 頚静脈怒張など 心電図 胸部 X 線 該当項目なし病的所見 異常項目 (+) 異常項目 / 病的所見 (-) だが虚血性心疾患の疑いが残る 心エコー図検査 ( 負荷心エコー図検査含む ) 病的所見 (+) (-) 心不全の可能性は高くない CT MRI 核医学検査運動 / 薬剤負荷試験 心臓カテーテル検査 病的所見 (+) 心不全の確定診断 原因疾患, 心不全ステージに応じた治療 必要に応じて心不全の発症予防または経過観察 * NT-proBNP が 125 ~ 400 pg/ml あるいは BNP が 35 ないし 40~100 pg/ml の場合, 軽度の心不全の可能性を否定しえない.NT-proBNP/BNP の値のみで機械的に判断するのではなく,NT-proBNP/BNP の標準値は加齢, 腎機能障害, 貧血に伴い上昇し, 肥満があると低下することなどを念頭に入れて, 症状, 既往 患者背景, 身体所見, 心電図, 胸部 X 線の所見とともに総合的に勘案して, 心エコー図検査の必要性を判断するべきである. 図 2 慢性心不全の診断フローチャート ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 980 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号
シリーズ 診療ガイドライン at a glance 表 LVEFによる心不全の分類 ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_ tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 定義 LVEF 説明 LVEFの低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction;hfref) LVEFの保たれた心不全 (heart failure with preserved ejection fraction;hfpef) LVEF が軽度低下した心不全 (heart failure with midrange ejection fraction;hfmref) LVEF が改善した心不全 (heart failure with preserved ejection fraction,improved; HFpEF improved または heart failure with recovered EF;HFrecEF) 40% 未満 50% 以上 40% 以上 50% 未満 40% 以上 収縮不全が主体. 現在の多くの研究では標準的心不全治療下でのLVEF 低下例がHFrEFとして組み入れられている. 拡張不全が主体. 診断は心不全と同様の症状をきたす他疾患の除外が必要である. 有効な治療が十分には確立されていない. 境界型心不全. 臨床的特徴や予後は研究が不十分であり, 治療選択は個々の病態に応じて判断する. LVEF が 40% 未満であった患者が治療経過で改善した患者群. HFrEF とは予後が異なる可能性が示唆されているが, さらなる研究が必要である. 等の臓器うっ血による症状と易疲労感等の低心拍出量による症状であるが, これらは呼吸器疾患, 腎不全ならびに貧血等でも認められることがあり, 鑑別を要する. 自覚症状から判断される重症度の評価法として,NYHA 心機能分類が最もよく用いられる. 身体所見では, 心雑音や III 音, 肺雑音や頸静脈怒張がないか確認する. 次に行うべき検査は, 血中 BNP(brain natriuretic peptide)/n 末端プロBNP(N-terminal pro- B-type natriuretic peptide:nt-probnp) の測定である.BNP 35~40 pg/mlあるいはntprobnp 125 pg/ml 以上で, 心不全が強く疑われる場合, 心エコー検査を行う. 身体所見で弁膜症を疑わせる心雑音が聴取される場合や, 陳旧性心筋梗塞を示す心電図異常を認める場合等は,BNP/ NT-proBNPの値にかかわらず, 心エコー検査を行う. 安静時の心エコー検査所見と自覚症状に乖離がある場合は, 負荷心エコー検査の実施も考慮する. 心エコー検査で左室の構造的 / 機能的異常を認めるものの, 原因疾患の診断に至らない場合等は,CT(computed tomography), MRI (magnetic resonance imaging) ならびに核医学検査等他のモダリティーを用いる. 虚血性心疾患患者において, 主訴が労作時息切れのみの場合があり, このような患者では,BNP/ NT-proBNPや安静時心エコー図で明らかな異常 を認めないことがある. 虚血性心疾患を否定し得ない場合は, 運動負荷や薬剤負荷を用いて心筋虚血評価を行う. 心不全を左室駆出率 (left ventricular ejection fraction:lvef) により40% 未満の LVEFの低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction:hfref) と 50% 以上の LVEFの保たれた心不全 (heart failure with preserved ejection fraction:hfpef) に分類する ( 表 ). 40% 以上 50% 未満の群はHFmrEF(heart failure with midrange ejection fraction) と定義される. HFpEFの診断には,1) 臨床的に心不全症状を呈していること,2)LVEFが正常もしくは保たれていること,3) ドプラ心エコー検査もしくは心臓カテーテル検査で左室拡張能障害が証明されていることの3 点を基準とする. また,HFrEF のなかに治療や時間経過と共にLVEFが改善する症例もある (HFpEF,improved, またはHF with recovered EF:HFrecEF). 頻脈誘発性心筋症や虚血性心疾患,β 遮断薬や心臓再同期療法でLVEFが改善したHFrEFが該当すると考えられる. これらは予後良好とする報告もあるが, 臨床的特徴等について, 今後のさらなる研究が必要である. 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 981
ステージ分類治療内容4. 治療 ( 図 3) HFrEF に対しては, アンジオテンシン変換酵 素 (angiotensin-converting enzyme:ace) 阻害 薬 アンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (angiotensin II receptor blocker:arb) ミネラルコルチ コイド受容体拮抗薬 (mineralocorticoid receptor antagonist:mra) 等の RAA(renin-angiotensin-aldosterone) 系抑制薬や β 遮断薬が, 軽症から重 症までの HFrEF 患者の予後を改善するというエ ビデンスを踏まえ, 推奨される. 一方で,HFpEF に対しては, 現在まで死亡率の低下を示した薬 物療法はない. 従って, 現段階ではうっ血に基 づく自覚症状の改善を目的とした利尿薬の投与 と心不全増悪に結び付く併存症に対する治療を 行う.HFmrEF の臨床的特徴は十分には明らかに なっておらず, 治療の選択は個々の病態に応じ て判断する. ステージ C 心不全ステージ 器質的心疾患あり 心不全症候あり ( 既往も含む ) HFrEF ACE 阻害薬 /ARB +β 遮断薬 +MRA 利尿薬必要に応じてジギタリス血管拡張薬 ICD/CRT 運動療法 HFmrEF 個々の病態に応じて判断 疾病管理 ステージ D 治療抵抗性心不全ステージ 治療抵抗性 ( 難治性 末期 ) 心不全 HFpEF 利尿薬併存症に対する治療 治療薬の見直し補助人工心臓心臓移植緩和ケア 図 3 心不全治療アルゴリズム ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/ JCS2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 5. 急性心不全の初期対応と 治療方針 ( 図 4,5) 急性心不全は急性非代償性心不全とも呼ば れ, 急速に心原性ショックや心肺停止に移行す る可能性のある逼迫した状態である. 早期に治 療介入し, 循環動態と呼吸状態の安定化を図る と同時に診断を的確に行う. その際, できるだ け早期に心不全入院歴, 治療歴, 既往歴, 安定 期のバイタルならびに心機能等の情報の収集を 行う. 可及的速やかに心エコー検査を行うこと で, より的確な診断及び病態の把握が可能とな る. 急性心不全では, 診断と共にその原因を特 定することを絶えず念頭に置く. 原因に対する 治療こそが生命予後の改善につながる. 呼吸不 全の原因として, 肺水腫あるいは慢性閉塞性肺 疾患 (chronic obstructive pulmonary disease: COPD) を合併する場合は, 静脈血 ph,co2 なら びに乳酸の測定を行う. 心原性ショックでは, 動脈血ガス分析を施行する. 急性心不全の原因疾患はさまざまであるが, 病態は 1 急性心原性肺水腫,2 全身的な体液貯 留,3 低心拍出による低灌流の 3 つの病態に集約 できる. 初期対応と共にその病態に合わせた治 療を同時に行う. この際,Nohria-Stevenson 分類 に基づいて, うっ血と低灌流を重症度も含めて 評価し, その経過を把握することが重要である. 6. 緩和ケア 心不全に対しても, 癌と同様に緩和ケアが必 要であるという認識に基づくが, 積極的治療が 終末期には行われない癌とは異なり, 心不全に 対する適切な治療が行われていることが前提と なり, 最期まで心不全やその合併症に対する治 療の継続が必要となる ( 図 6). さらに, 緩和医 療と終末期医療は同義ではなく, 緩和ケアは終 末期から始まるものではない. 心不全が症候性 となった早期の段階から, アドバンス ケア 982 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号
シリーズ 診療ガイドライン at a glance 急性心不全 10 分以内トリアージ 四肢冷感 血圧心拍数 呼吸数 SpO2 体温心電図モニター病態評価 ( クリニカルシナリオ分類 ) 次の 60 分以内 迅速評価 うっ血 末梢低灌流評価血液検査 (BNP/NT-proBNP) 12 誘導心電図心エコー図肺エコー図胸部 X 線 ( 胸部 CT 検査 ) 次の 60 分以内 なし 血行動態安定不安定 血管拡張薬 ± 利尿薬 末梢低灌流 ( 乳酸値 >2 mmol/l を参考 ) SBP<90 mmhg あるいは MBP<65 mmhg 心原性ショック 低灌流性心不全 呼吸不全 あり 酸素吸入 NPPV 気管挿管 並行して基礎心疾患診断 特殊病態把握 急性冠症候群 緊急 CAG/PCI 補液強心薬 IABP ECMO ICU CCU 再評価 四肢冷感 血圧心拍数 呼吸数 SpO2 体温うっ血 末梢低灌流評価 (Nohria-Stevenson 分類 ) 必要に応じて心エコー図心電図などの再検 心不全病態 治療効果の再評価治療の修正を図る 基礎心疾患診断特殊病態治療 MR. CHAMPH Myocarditis Right-sided heart failure acute Coronary syndrome Hypertensive emergency Arrhythmia acute Mechanical cause acute Pulmonary thromboembolism High output heart failure 一般病棟 心不全改善 なしあり 退院 図 4 急性心不全に対する初期対応から急性期対応のフローチャート ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 983
急性心不全急性冠症候群 右心不全の除外 病態収縮期血圧 クリニカルシナリオと治療指針収縮期血圧 (mmhg) クリニカルシナリオ 1( 肺水腫 ) 血管拡張薬 ± 利尿薬 140 クリニカルシナリオ 2( 体液貯留 ) 利尿薬 + 血管拡張薬 100 90 クリニカルシナリオ 3( 低心拍出 ) 体液貯留がない場合は容量負荷 強心薬で改善がない場合は血行動態評価 低血圧 低灌流が持続する場合は血管収縮薬 心原性ショック薬物治療 + 補助循環 肺うっ血起座呼吸 発作性夜間呼吸困難 図 5 急性心不全の初期対応から急性期病態に応じた治療の基本方針 ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 )http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_ tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) warm cold うっ血の有無 wet または dry うっ血なし血圧 末梢循環維持経口心不全薬の調整 dry 低灌流の有無 cold または warm 頚静脈怒張四肢冷感肝腫大, 腹水, 冷汗食思不振乏尿末梢浮腫 Nohria-Stevenson 分類と治療指針 体液量減少 ( 脱水 ) 血圧低下 末梢循環不全輸液循環不全が遷延すれば強心薬 wet 意識低下脈拍微弱 うっ血あり血圧上昇型血管拡張薬 ± 利尿薬うっ血あり血圧維持型利尿薬 + 血管拡張薬利尿薬抵抗性は限外濾過うっ血あり, 末梢循環不全血管拡張薬 ± 強心薬うっ血あり, 血圧低下 末梢循環不全強心薬 ( 血管収縮薬も ) 血圧維持後に利尿薬反応のない時は補助循環 診断 死亡 過去の癌の医療モデル 積極的治療 緩和ケア 病態改善のための治療 現在の癌の医療モデル 積極的治療 緩和ケア 遺族ケア 症状緩和のための治療 心不全の医療モデル 積極的治療 緩和ケア 遺族ケア 緩和ケアは終末期医療と同義ではなく, 心不全が症候性となった早期の段階から実践し, 心不全の治療に関しては最期まで継続される. 図 6 心不全における緩和ケアのあり方 ( 日本循環器学会 / 日本心不全学会 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2017_tsutsui_h.pdf(2019 年 3 月閲覧 )) プランニング (advance care planning:acp) を実施していく必要がある.ACPとは, 意思決定能力が低下する前に, 患者や家族が望む治療と生き方を医療従事者が共有し, 事前に対話しな がら計画するプロセス全体のことである. 終末期に至った際に, 納得した人生を送ってもらうことを目標とする. 心不全緩和ケアの実践にあたっては, 多職種チームによる患者の身体的, 984 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号
シリーズ 診療ガイドライン at a glance 心理的ならびに精神的なニーズを頻回に評価することも重要である. おわりに 我が国を含め, 世界中で人口の高齢化や生活習慣病の増加により, 心不全患者が増加の一途をたどっている. 世界でも類を見ないペースで人口の高齢化が進行し, 既に超高齢社会を迎えている我が国においては, 高齢の心不全患者の増加が顕著であり, 効果的 効率的対策を打ち出すことが急務となっている. 本ガイドライン が, 心不全診療に携わる全ての医療従事者に活 用され, 一人でも多くの心不全患者に質の高い 診療が提供されることを願っている. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 筒井裕之 ; 講演料 (MSD, 大塚製薬, 小野薬品工業, 第一三共, 武田薬品工業, 田辺三菱製薬, 帝人ファーマ, 日本ベーリンガーインゲルハイム, バイエル薬品, ファイザー ), 原稿料 ( 医学書院, メディカルレビュー社 ), 研究費 助成金 ( アクテリオンファーマシューティカルズジャパン, 田辺三菱製薬, 日本たばこ産業, 日本ベーリンガーインゲルハイム ), 寄附金 ( アステラス製薬,MSD, 第一三共, 武田薬品工業, 田辺三菱製薬, 帝人ファーマ, 日本ベーリンガーインゲルハイム, ノバルティスファーマ ) 文献 1 ) 日本循環器学会, 他 : 急性 慢性心不全診療ガイドライン (2017 年改訂版 ).2018. 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号 985