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定義 より, クロス集計表 C ij から, 類似係数 s ij と関連係数 t ij が得られる. 定義 t ij = s ij = a + d [0,1] a + d (a + c) + (c + d) [0,1] ただし, a = c = d = 0 のときは, t ij = 1 とする. 3

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Transcription:

上越数学教育研究, 第 27 号, 上越教育大学数学教室,2012 年,pp.151-158. 対数教材の指導系統の改善に関する考察 - 対数のよさを実感する学習を志向して - 後藤竜太 上越教育大学大学院修士課程 1 年 1. はじめに筆者が高校時代受けた対数の授業は理解しにくく, 対数のよさや対数の具体的なイメージを実感できなかった なぜなら, その授業は公式を利用して形式的 機械的に解くという単調な作業が大部分であったからである しかし, 実際対数が利用されている場面は多い 例えば, 音の強さの単位 ( デシベル ) や星の明るさの単位 ( 等級 ), 地震の規模を表す尺度 ( マグニチュード ), 人間の感じ方の尺度などに利用されている このように, 対数が実生活や自然現象などに利用されていることから対数の有用性を実感する 現在の対数学習は対数のよさを十分に伝えている内容ではなく, それらを生徒が理解できないまま学習を終えているように感じる また, ただ公式を機械的に適用し, 面倒な式変形の計算だけという感想を学生に抱かせると考えられる よって, 対数のよさを実感させる対数学習を行うべきではないか 対数のよさを実感させることにより, 生徒の学習意欲を高め, 事象について考察しようとする探究心が生まれると考えている 筆者が考えている対数のよさとは, 積の計算を和の計算に変換することで計算を簡略化できること, 大きいスケールを小さいスケールで, または小さいスケールを 大きいスケールで見ることができることである 当研究では, このような対数のよさを実感する学習展開について明らかにしていきたい 本稿では, 対数のよさを実感する学習を目指し, 対数教材の指導系統の改善に関して考察することを目的とする そのために, 数学教育における現在の対数学習がどのように行われているのかを把握することから始める そして, その学習の過程での問題点を明らかにし, 考察を加えていく 次に対数の歴史的展開について考察していく 対数のよさや本質は歴史に学ぶことができると考えるからである 最後に, それらを踏まえて, 対数学習の改善点について考察していきたい 2. 現在の対数学習対数のよさを実感する学習を実現するためには, 現在の対数学習がどのように行われているかを把握し, その学習の過程での問題点を明らかにする必要がある そうすることで対数のよさを実感できる対数学習について考察していきたい そのために, この節では, まず教科書分析を行い, 現在の対数学習がどのように行われているかを述べていく 次に,Panagiotou(2011) が挙げた対数の指導において直面する困難や問題について述べる 最後に, それらをもと

に現在の対数学習の問題点を挙げ, 考察していきたい 2.1 教科書分析平成 15 年検定済教科書新編数学 Ⅱ( 数研出版 ) を用いて, 現在の対数学習がどのように行われているかを以下にまとめた 平成 15 年検定済教科書新編数学 Ⅱにおいて, 対数単元の学習は大きく分けて,1 対数とその性質 2 対数関数 3 常用対数となる 1における特徴は, 指数と対数との関係を, グラフを用いて説明し, a>0,a 1 で M>0 とするとき, 次が成り立つ M= a p logam=p ( 大矢雅則ら,2007,p.138) とし, 対数を指数の逆演算として定義している さらに, その指数と対数の関係から真数 M を a p の形に変換して得られる等式を提示している 練習問題では, 指数と対数の関係や真数 M を a p の形に変換して得られる等式を利用して, 対数の値や真数の値を求める問題が出題されている 次に,1=a 0,a=a 1 から,loga1=0,logaa =1 が成り立つことを提示している これも指数と対数の関係を利用している さらに, 対数の性質, 底の変換公式を提示している 対数の性質は指数法則を用いることによって証明され, 底の変換公式は指数と対数との関係から導かれている 練習問題では, 対数の性質や底の変換公式を利用して対数を計算する問題, 対数の性質を証明する問題, 対数の値を簡単にする問題が出題されている 2における特徴は, まず対数関数のグラフを調べるところから始まる y=log2x x =2 y が成り立つことを述べ, 対数関数のグラフが指数関数のグラフと y=x に関して対称であることは記してあるが, 対数関数が指数関数の逆関数であることは記されていない さらに, 対数関数の特徴がグラフ を用いて説明されている 練習問題では対数関数のグラフを書く問題, それぞれの対数関数について値域の条件を満たす定義域を求める問題, 対数関数に関する方程式, 不等式を解くといった関数に関する問題が出題されている 3における特徴は, まず常用対数と常用対数表に関する説明が記されている その説明は, 図による log10a の常用対数表での見方と近似値についてである 練習問題では, 常用対数表を利用して常用対数の値を求める問題, 自然数の桁数に関する問題が出題されている このことから, 現在の対数学習の展開は指数関数から始まり, 指数を中心としたものになっていることがわかる なお, 乗除算の答を, 対数表を用いて加減算で出すことは練習問題としていない 2.2 Panagiotou(2011) による先行研究 Panagiotou(2011) は 対数の指導における歴史の利用 について述べている その中で,Panagiotou(2011) はいくつかの教科書を分析し, 昔や現在において, 高校 2 年生に対数の単元を指導すると以下の困難や問題に直面すると述べている 1 x が無理数のとき, 対数の定義が理解できるように a x の意味をどのように説明すべきか 2 対数の性質の証明に対して必要な指数法則をどのように正当化するのか 3 任意の y(>0) に対して,a x =y を満たす x が存在する ということをどのように証明するのか 4 なぜ, そしてどのように対数の定義へと導かれたのか 5 f(x)=a x に対して指数関数という用語が正当化したようだが, 対数という用語の起源は何か

6 優れた数 e 2.1782 が数列 (1+1/n) n の極限としてどのように導かれたのか 7 なぜ e を底とする対数を自然対数と名付けたのか, またそれらが他の対数と比べてなぜとりわけ便利なのか 8 対数はどのように計算されたのか 9 対数の指導に対する最初の根拠がもはや適用しない今, なぜ対数の指導を続けるべきなのか Panagiotou(2011) は 最初の 3 つの質問 (1~3) に対処する簡単な方法はなく, 他の質問 (4~8) に関しては, 現在の対数の学習内容を教えている限り,1 つの答を与えるのは不可能である と述べている これらの困難や問題が現在の教科書の対数の学習内容において解決されるかどうかを次の節で考察していく 対数の具体的なイメージは生徒に実感されにくいといえる 2について : 現在の対数学習では, 対数の値を真数 = 底の累乗の形に直したり, 対数の性質や底の変換公式を利用して求めるような問題が出題されていることから, 形式的, 機械的な作業が多く, 解法技術ばかりが優先されているといえる 特に, 対数の性質や底の変換公式は問題を解くための公式の一つであり, 対数記号の間の関係式としてイメージされているようである 対数記号を覚えて, 記号を処理する問題を解かされても, 生徒に退屈感や面倒さを与え, 学習意欲を低下させてしまうので, 対数の具体的なイメージは豊かに膨らまないし, 対数を学ぶ意味や必要性を生徒に十分に伝えることができないといえる 2.3 現在の対数学習の問題点現在の対数学習の特徴及び Panagiotou (2011) が述べている対数学習の問題点を踏まえて, 現在の対数学習における問題点を挙げ, それらを項目ごとに考察していく 現在の対数学習において考えられる問題点は以下の通りである 1 指数を介在した学習展開であること 2 形式的 機械的に解く問題が多いこと 3 常用対数表の値の求め方がわからないこと 1について : 現在の対数学習の問題群を見ると, 対数として独自に, 新鮮な学習内容となるようには提示されていないことがいえる 対数は指数の逆演算として形式的に定義され, 対数の性質や底の変換公式は指数法則などを利用して形式的に証明されていることから, これらが対数特有の性質であることは理解されにくい このことから, 3について : 現在の教科書において, 常用対数表の見方や近似値の説明は記載されているが, 常用対数表の値をどのように求めたかの記載はされていない このため, 常用対数表の値はどのように求めたのかがわからない このことから, 現在の対数学習は, 対数の具体的なイメージを認識しにくい内容となっていることがいえる 現在の対数学習における問題点を解決し, 対数の具体的なイメージを実感するためには対数のよさや本質を伝える必要があると考える そこで, 対数のよさや本質は歴史から見出だすことができると考え, 対数の歴史的展開を見ていく 3. 対数の歴史的展開からの考察ここでは, 対数の起源から現在の対数に至るまでの歴史的展開の概要を段階的に述べるとともに, そこに現れる対数のよさと現在の対数学習との関連について考察して

いく 3.1. 対数が成立するまで 16 世紀の後半になると西欧の国々は海外貿易に力を入れるようになる このためには天文観測に基づき, 正しい航路を決定する必要があった そのために球面三角法に関連して三角関数の計算において桁数の多い数の乗法などの複雑な精密計算が要求された 当時は現在の筆算のようなアルゴリズムがまだ発達していなかったため, これらの計算は多くの天文学者を困難にさせ, 多くの時間を浪費させた 対数はこの三角関数の計算を能率的に行う方法として考え出された 1544 年ドイツの数学者 Michael Stifel(1486-1567) は, 算術大全 において, 表 1: 等差数列と等比数列との対応 ( 志賀浩二,1999,p.72) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 1 2 4 8 16 32 64 128 256 を載せている 彼は上の段の等差数列の和が, 下の段の等比数列の積に対応していることに着目した 例えば,1+2=3 は 2 4 =8 に対応している 対数の発明者 John Napier(1550-1617) の発想は, このような等差数列と等比数列との対応を見るところから始まったと考えられている ( 志賀浩二, 1999,p.72) 次に, 上で述べた対数の歴史的展開から, 対数のよさと現在の対数学習との関連について考察していく 対数というのは当時の社会や人間の必要性から生まれたものであることがわかる Napier もこの必要性から, 表 1 にあるような対応の中に掛け算を足し算に変換する一般規則が隠されているかを熟考したことであろう 筆者は現在の対数学習において, この表 1 をもう尐し拡張した表 2 を生徒に与える ことで, 計算を単純化するアイデアを植え付けたり, 対数を導入できるのではないかと考えている 表 2: 等差数列と等比数列との対応 ( 筆者による ) -4-3 -2-1 0 1 2 3 4 1/16 1/8 1/4 1/2 1 2 4 8 16 例えば, この 2 つの数列に何か関係はあるだろうか と質問する 下の段の 2 つの任意の数の積がそれぞれの数に対応する上の段の数の和になることに気づく生徒もいるかもしれない さらに, 考えが進めば, 除法が減法に変換されること, 数の累乗が指数の乗法に変換されること, 累乗根の計算が指数の除法に変換されることを認識するだろう 3-2=1 は 8 4=2,1 3=3 は 2 3 =8,3 3=1 は =2 に対応している 反応がなければ,2 4 のような計算を実際に実行させ, 2 と 4 に対応する数は何か また, それぞれ対応した数の和はいくつか と質問をすることで, 乗法が加法に変換されることに気付かせることもできる このとき, 底を 2 とする対数を定義できる可能性が考えられる 今日, その等差数列の項がその等比数列に対応する項の底を 2 とする対数であることは明白だからである 3.2. 対数の発明 3.1 で述べた対数の歴史的展開の中に現れた表 1 を見ると どんな数の乗法も可能か という疑問が生じる 例えば,128 と 256 の間にある 2 つの数の乗法はどのように考えてよいかわからない さらに, 等比数列の数を大きくしていくと,2 つの項の間隔は段々大きく開いていく この数列が仮に十分な稠密性を持つならば, どのような 2 つの数の乗法も可能になるだろう

Napier はこの部分に着目し, 初項を 10 7, 公比を 1-10 - 7 の等比数列を考えた 初項を 10 7 にとったのは, 当時の三角関数表が 7 桁であり,Napier はそれに合わせて, 対数表の精度も有効数字 7 桁をもつようにしたからである 公比を 1 に十分近くとったのは, 項と項の間隔が十分小さくなることで, 表としての機能を十分に発揮させようと考えたからであろう また, 当時は小数概念がまだ発達していなかったために, 桁数を上げざるを得なかったのだろう Napier は等差数列の項を n, 等比数列の項を 10 7 (1-10 - 7 ) n と考え, 等比数列の対数を等差数列の項とした つまり, n=nlogx X=10 7 (1-10 - 7 ) n ということになる (NlogX を ネピア対数 とし, 現代表記の対数と区別する ) Napier はこの式を基に対数表を作成した 対数表を用いて積を和に変換できることで, 煩雑な計算にかける労力を大幅に減らし, 天文学や商業, その後の科学の発展に大きな貢献をもたらした しかし,Napier の対数の考え方には大きな短所がある 1 つは, 乗法を加法に変換できないことである 実際,10 7 =10 7 (1-10 - 7 ) 0 から,Nlog10 7 =0 であり,Nlog1 0 となる 1 a=a より, 乗法を加法に変換するならば,1 は 0 へと移らなくてはいけない もう 1 つの短所は現在の対数には底が決定されているが,Napier のシステムでは底の概念が不適当である Napier の死後,Henry Brigss (1561-1631) によって,0 を 1 の対数とし, 底を 10 とする常用対数が生み出された そして,Brigss と Adriaen Vlacq(1600-1666) によって 1~100000 の対数表が完成された 次に, 上で述べた対数の歴史的展開から, 対数のよさと現在の対数学習との関連について考察していく 対数は指数から直接導かれたものではなく, 等差数列の項をそれに対応する等比数列の対数 と考えられ たといってよい 現在では, 対数は指数の逆演算として定義されているが, 指数が誕生したのは対数が誕生してからかなり後ということになる 初めて対数関数が指数関数の逆関数であると定義されたのは Euler (1707-1783) によってである それまでは, 対数関数を指数関数の逆関数と見る視点はなかった また, 対数表が社会に大きな貢献をもたらした事実から, 対数の有用性を感じる 対数表における積の計算を和の計算に変換できることは対数のよさである ここで,3.1 で述べた対数の歴史的展開の中に現れた表 1 を見ると, 乗法は特定の数のみ加法に変換されることがわかる 仮にこの表 1 を生徒に与え, どんな数でも掛け算はできるのか と質問をするとする その答えはほぼ否定的になるだろう そのような答えが返ってこない場合,27 243 のような掛け算をやるように指示すれば, 乗法は特定の数のみ加法に変換されることがわかる そして, Napier はどんな 2 つの数の乗法を加法に変換できるようにするために, どのような等比数列を考えたか と質問をし, 対数表をつくる際の Napier の発想を考えさせたい その答えが返ってこなければ, 次の表 3 を与えて, 授業者が説明してもよいと考える 等比数列が稠密性をもつという答は生徒から返ってくるかもしないが, 表 3 のような答が生徒から返ってくることは難しいと考えるからである なお,Napier の対数表を作成するまでの過程については生徒に学習させないほうがよいと考えている なぜなら, その過程は生徒が理解する上で困難で, かえって混乱させてしまうと考えるからである 表 3:Napier が用いた 2 つの数列 (Panagiotou,2011,p.8) 0 1 n 10 7 10 7 (1-10 - 7 ) 1 10 7 (1-10 - 7 ) n

3.3 双曲線の面積 Napier や Brigss は対数の数的側面について考えていたが, 後に対数は数から幾何へ転換され, 視覚的に捉えられるようになった Gregory of Vincent は円の方形化問題を解決したとし,1647 年にそれらをまとめて論文を提出した その論文の中に 直角双曲線の横座標が幾何数列 ( 等比数列 ) 的に増加するならば, その座標によって裁断された表面の面積は算術数列 ( 等差数列 ) 的に増加する という命題が書かれていた このことは重要な意味を持ち, この命題は実際, 直角双曲線の面積は, 横座標の対数となっている ということを述べている 具体的に言えば, 双曲線 y=1/x のグラフと x 軸で挟まれる部分の面積に注目する すなわち,y=f(x)=1/x のグラフと x 軸,x= 1,x=a に囲まれる部分の面積を,f(a) とする ( 図 1 に示す ) このとき,x 軸上に等比数列 {1,k,k 2,k 3, } をとり,{ f(1),f(k), f(k 2 ),f(k 3 ), } を調べると, 等差数列 {0, a,2a,3a, } をなす この関数は, 対数関数となる どにより, 無限級数を用いて対数を計算する非常に改善された方法が考案された 1660 年代において, 双曲線の面積は対数の性質を持つことを一般的に考慮されてきたと言ってもよい (Panagiotou,2011,p.19) そして,17 世紀の終わりまでに対数は指数として定義されるということが認識された 次に, 上で述べた対数の歴史的展開から, 対数のよさと現在の対数学習との関連について考察していく Gregory of Vincent の命題は双曲線の面積は対数であることを証明したことになる この命題の証明に座標を利用することは, 生徒に良い学習課題となるだろう 対数を 数 としてだけではなく, 幾何 として視覚的に捉えることができ, 対数に対するイメージが拡大するからである なぜ自然対数と名付けたのかは横座標が等比数列を成すことによって, 双曲線の面積が等差数列を成す, つまり自然と対数が現れることからわかる 対数の計算に関しては,Mercator や Newton の無限級数による対数計算の考え方を提示し, 実際に計算を行わせることで対数の計算方法を理解できる 図 1: 双曲線の面積としての対数後に,1668 年に Nicholas Mercator (1620-1687) によって,y=1/x の積分を自然対数と命名された 対数と双曲線の面積との関係は, その面積の計算を促し級数の解析的研究と結びついた Newton(1642-1727) な 4. 対数学習の改善点現在の対数の学習展開は指数を介在したものとなっており, 対数として独自に新鮮な学習内容となるようには, 提示されていないことがいえる このことから, 現在の対数の学習内容は対数の具体的なイメージを獲得されにくい内容であると考えられる 対数の歴史的展開の考察では, 対数は社会やその時代の必要性から生まれたものであった 対数表が社会に大きな貢献をもたらしたことで対数の有用性を実感するし, 積の計算を和の計算を変換できる対数のよさを見出だすことができる また, 対数は三角関数, 数列, 双曲線の面積, 無限級数, 指数関数など多くの数学と結びついている

ことがわかった このことから, 現在の対数学習における問題点を解決し, 対数の具体的なイメージを実感するためには, 対数のよさや本質を理解させる学習が必要であると考える その学習を行うために, 以下のような工夫を凝らす必要があると考える 1 数学史を利用すること 2 身近な事象と関連付けること 3 指数を介在しない学習展開 1について : 数学史を利用するメリットについて,Panagioutou(2011) は以下の 3 点を挙げている 数学史は, その数学がどのように発見され, 発展されたのかを示すことでその数学的な概念, 方法, 証明を学生がより良く理解するのを手助けする 数学史は, 数学が社会的要因, 文化的要因に影響される人間的, 動的な活動であり, それぞれの時代の実用的, 知的要求により形成されるということを学生が理解するのを手助けする 数学史は学習に対する学生の興味を刺激し, 彼らの数学に対する理解や学習態度を改善する 対数の歴史を授業に取り入れる根拠は, 対数表が社会に大きな貢献をもたらした対数の有用性, 積の計算を和の計算を変換できることや多くの数学と結びついている対数のよさを実感することができるからである また, 対数の発想, 考え方, 対数の計算方法を理解することができる それを学生に理解させることを目的として教材や授業展開を考えることで, 対数の学習に対する興味 関心を促し, 対数の本質的な理解につながると考える また, 歴史的な側面をそのまま教えるのではなく, 対数のより良い理解に必要な部分を抽出し, それを的確に 説明することも必要であると考える 2について : 地震の規模を表すマグニチュード など, 身近な事象と対数を関連付けた学習を展開することで, 対数の有用性や対数を身近に感じることができる さらに, 身近な事象を関連付けた学習に対数を利用したもの, 例えば計算尺や片対数グラフ用紙などの素材を用いて, 対数のよさや有用性を認識させることができると考えられる なぜなら, それらの素材に対数の性質を見出だすことができるからである 3について : 現在の対数学習の展開は指数を介在したものになっていることから, 対数の具体的なイメージが豊かに膨らむものではないといえる 指数を介在しない対数の学習展開を行うことで, 対数のよさや本質を理解し, 対数の具体的なイメージを実感することができると考える 例えば, 対数表に着目する 現在の対数学習において, 常用対数表の機能が現在の対数学習において十分生かされているとはいえない なぜなら, 常用対数表は問題解決に必要な常用対数の値を引くために利用されるだけだからである しかし, 対数の歴史的背景において, 対数表は膨大な計算の簡略化をもたらした 対数表において, 積を和に変換するという対数のよさを見出だすことができる それは現代の対数記号を用いると, log(xy)=logx+logy であり, これは対数の性質である このことから対数表を見て, 生徒が自然とその対数の性質を見出だすことで, 指数を介在せず, それが対数特有の性質であることを理解すると考えられる 片野善一郎 (1995) は, 対数計算は計算技術としての価値はなくなったことは間違いないが, 同時に数学教育の素材としての価値が失われたわけではない それは対数計算の発想であって, 指数や対数の性質の理解

に役に立つし, 数学と社会との関係を教える良い例でもある (pp.118-119) と述べている また,Panagiotou(2011) は Gregory of Vincent の命題から, 対数の性質を証明する教材を提示している それは y=1/x のグラフと x 軸,x=a,x=b(0<a<b) で囲まれた面積と y=1/x のグラフと x 軸,x= ka,x=kb(0<a<b) で囲まれた面積が等しいことを利用して,log(xy)=logx+logy, log(x/y)=logx-logy,logx r =rlogx (r: 有理数 ) を証明するものである この証明は指数法則を用いることなく, 面積図を用いて証明するものである このことから, 対数を 幾何 として視覚的に捉えることができると考えられる さらに,Panagiotou (2011) は双曲線の面積としての対数の定義から理論的な展開を行い, 指数関数を定義する教材も提示している このことから, 指数を介在せず対数を定義し, 対数から指数関数を定義するような学習展開も考えられる 5. まとめと今後の課題本稿では, 現在の対数学習の特徴を把握し, 問題点を明らかにした その考察では, 現在の対数学習は指数関数から始まり, 指数を中心として展開されており, 対数の具体的なイメージを認識しにくい内容であるといえる また, 対数の歴史的展開からの考察では, 対数が社会や人間の必要性から生まれ, それらに大きく貢献したことから対数の有用性を実感し, 対数表から積を和に変換すること, 対数が多くの数学と結びついていることから対数のよさを見出だすことができた 以上のことから, 現在の対数学習における問題点を解決し, 対数のよさを実感する学習とするためには, 対数の歴史を利用したり, 対数と身近な事象を関連したり, 指数を介在しない学習展開を行い, 生徒に対 数の具体的なイメージを獲得させる必要があると考えられる しかし,Panagiotou (2011) が挙げた問題点において考察できなかった部分や対数の歴史的展開において, 対数関数が指数関数の逆関数と定義された過程については本稿では考察できなかった 今後の課題はこれを踏まえ, 本稿で考察できなかった部分を明らかにし, 実際に現在の対数学習に対する調査を行い, 生徒が抱える対数学習の問題点を浮き彫りにし, 本稿で挙げた対数学習の問題点と照らし合わせて考察していくことである その上で, 対数のよさを実感する対数学習の授業を提案していきたい 対数教育に関する先行研究は尐ないが, 本稿で捉えた視点だけでなく, 対数教材の指導系統の改善に関する考案をさらに深めていきたい 引用 参考文献 Evangelos N.Panagiotou(2011),Using History to Teach Mathematics:The Case of Logarithms,Science & Education,Volume 20,Number 1, pp.1-35. 大矢雅則ら (2007), 新編数学 Ⅱ, 数研出版. 大矢雅則ら (2005), 新編数学 Ⅲ, 数研出版. 小倉金之助 (1997) 補訳, 復刻版カジョリ初等数学史, 共立出版. 片野善一郎 (1995), 数学史の利用, 共立出版. 志賀浩二 (1999), 数の大航海 - 対数の誕生と広がり-, 日本評論社. マルクシェヴィチ (1861) 著, 宮本敏雄 北原泰彦訳, 面積と対数, 東京図書. 文部科学省 (2009), 高等学校学習指導要領, 東山書房. 文部科学省 (2009), 高等学校学習指導要領解説数学編, 実教出版.