研究部 歪み Si/Si1-xCx ヘテロ構造の応力制御 研究代表者名山梨大学大学院 医学工学総合研究部 有元圭介 研究分担者名東北大学 金属材料研究所 宇佐美徳隆 1. はじめに圧縮歪み Si/Si1-xCx ヘテロ構造は 従来素子の 2 倍の高正孔移動度が期待される半導体薄膜構造である 移動度を

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研究部 研究課題名 Cu(In,Ga)Se 2 多結晶薄膜の局所構造と太陽電池性能の相関 研究代表者名立命館大学 理工学部 峯元高志 研究分担者名東北大学 金属材料研究所 宇佐美徳隆 1. はじめに太陽電池が 21 世紀を担うクリーンエネルギーとして期待されている 現状では 結晶シリコンが太陽電池材料の主流である 一方 ガラス等の基板上に金属や半導体などの薄膜を堆積させた薄膜型太陽電池が 低コスト 高効率な太陽電池として期待されている 中でも Cu(In,Ga)Se2(CIGS) 多結晶薄膜太陽電池において 20% を超える高い変換効率が報告されている 一方 達成可能変換効率の理論値は 30% 程度であり まだ伸び代がある CIGS は CuInSe2(CIS) と CuGaSe2(CGS) の混晶である In と Ga の比を制御することによって太陽電池の性能を大きく左右する物性値である禁制帯幅 (Eg) を CIS の 1.0eV から CGS の 1.7eV の範囲で制御できる しかし Eg を自由に制御できるにもかかわらず 最高の変換効率が得られているのは Eg=1.15eV 付近であり これは理想の Eg である 1.4eV よりも小さい この最適 Eg 付近における高品質 CIGS 薄膜の成長が更なる高効率化に必須であり 最適 Eg 付近の CIGS 薄膜の物性評価が重要である 2. 研究経過理論上の最適 Eg 付近で変換効率が減少する原因の一つとして Eg=1.15eV のときに結晶粒が数ミクロン程度まで大きく成長し Eg が大きくなるにつれて結晶粒が小さくなることが報告されている これに加えて Eg を大きくすることによって結晶粒界性格などの局所構造が変化し 結晶粒界における光生成キャリアの再結合が顕著になるといった可能性もあるが これは詳細に検討されていない 本研究では この局所構造と太陽電池の変換効率との相関を明らかにすることを目的とした Ga 濃度 ( つまり Eg) の異なる CIGS 薄膜を蒸着法で成長させ 後方散乱電子回折 (EBSD) を用いて結晶粒界性格を分析した 3. 研究成果図 1 に 550 で成膜した CIGS 薄膜の表面及び断面の SEM 像を示す Ga 濃度が上昇するにつれて結晶粒径が小さくなることが分かる 次に CIGS 表面を Br2 溶液で数百 nm エッチングし 表面を平坦化処理したサンプルを EBSP で評価した結果を表 1 に示す 最も対応格子密度が高い Σ3 粒界の割合を比較すると Ga/(In+Ga)=0.7 では大きく低下することが分かった 表 1 Ga 濃度違いの CIGS 薄膜の粒界性格割合 Ga/(In+Ga) 0.0 0.3 0.7 Σ3 (%) 33.7 39.8 13.7 random (%) 49.4 50.4 69.5 Ga/(In+Ga)=0 Ga/(In+Ga)=0.3 Ga/(In+Ga)=0.7 CIS Mo Glass CIGS Mo Glass 4. まとめ CIGS の Ga 濃度が結晶粒界性格に与える影響をみた Ga/(In+Ga)=0.7 のサンプルでは 結晶粒径の減少と Σ 3 粒界の顕著な減少が見られた 今後は 粒界性格割合と太陽電池特性の相関について詳細に検討していく CIGS Mo Glass 図 1 Ga 濃度違いの CIGS 薄膜の SEM 像

研究部 歪み Si/Si1-xCx ヘテロ構造の応力制御 研究代表者名山梨大学大学院 医学工学総合研究部 有元圭介 研究分担者名東北大学 金属材料研究所 宇佐美徳隆 1. はじめに圧縮歪み Si/Si1-xCx ヘテロ構造は 従来素子の 2 倍の高正孔移動度が期待される半導体薄膜構造である 移動度を 2 倍に向上させることができれば CMOS デバイスの動作周波数 / 消費電力比を 4 倍に向上させることができ 大幅な高性能化 低消費電力化につながる 高移動度を実現するためには トランジスタのチャネルとなる表面 Si 層の格子歪み率を高める必要がある 2. 研究経過本研究では Si/Si1-xCx ヘテロ構造の結晶成長を行い 各層の結晶歪みの成長条件依存性を調べた 結晶成長は ガスソース分子線エピタキシー装置を用いて行った 原料ガス ( ジシラン トリメチルシラン ) の流量と基板温度が Si1-xCx 層および表面 Si 層の格子歪みに及ぼす影響について調べた 前者については X 線回折法 後者についてはラマン分光法を用い それぞれの層の格子歪み量を測定した 3. 研究成果ガス流量は ジシラン = 3.5 sccm トリメチルシラン = 1.0 sccm およびジシラン = 4.0 sccm トリメチルシラン = 1.0 sccm の 2 通りとした 前者の場合 基板温度 = 500 では結晶欠陥の形成が促進されず 歪み緩和が起きなかった 後者の場合 550 でも歪み緩和が起きなかった 歪み緩和が起きた試料に関して 図 1 に X 線回折逆格子マップを示す 前者の場合 525 では試料の上部では歪み緩和が起き始めている 550 近辺で Si1-xCx の歪み緩和がさらに進み 炭素組成が 1.8% で完全に歪み緩和した Si1-xCx 層が形成された より高温では 炭素組成の低下がみられた これは 高温では -SiC 相が形成され Si1-xCx 層の炭素が格子位置から抜けて行くためと考えられる ジシラン = 4.0 sccm トリメチルシラン = 1.0 sccm の条件でも同様の温度依存性が見られたが 歪み緩和が起きる温度は高温側にシフトした これは トリメチルシランの流量比が低い場合は歪み緩和を誘起するための膜内応力が小さく より高温での成長が必要になるためである また ジシラン = 3.5 sccm トリメチルシラン = 1.0 sccm 基板温度 = 550 の条件で 結晶性を向上させるため傾斜組成法を試みた ( 図 1 右上 ) 膜構造は最適化されていないため 歪み緩和は表面に近い部位において起きている しかし この試料では表面 RMS ラフネスが 0.5 nm 以下と平坦性が増しており 傾斜組成法の優位性を示唆する結果が得られた 図 1 X 線回折逆格子マップ

表面 Si 層は ジシラン = 3.5 sccm トリメチルシラン = 1.0 sccm の条件で成長した試料上にのみ形成した 図 2 にラマン分光測定の結果を示す 表面 Si 層を堆積した試料 ( 上部 3 スペクトル ) において いずれも 526 cm -1 付近に圧縮歪み Si の存在を示すピークが見られる 特に 550 で成長した試料では圧縮歪み Si 由来のピークが顕著である ピーク位置から歪み量を算出すると -0.7~-0.8% 程度であった これは 図 1 から見積もられる Si1-xCx 層の格子定数に整合した場合の Si の歪み率と一致している 一方 Si1-xCx 層中の Si-Si 結合に由来すると考えられる 520 cm -1 付近のピークに注目すると ジシラン = 3.5 sccm の試料では 4~5 cm -1 程度の半値幅をもつピークが見られるのに対し ジシラン = 4.0 sccm の試料 ( 下部 3 スペクトル ) では線幅が広がっていることが観察される この原因については現時点では不明であるが Si1-xCx 層中の結晶欠陥の分布状況が 2 つの試料グループ間で大きく異なっていることが示唆される 図 2 ラマン スペクトル 4. まとめガスソース分子線エピタキシー法により Si/Si1-xCx ヘテロ構造を形成し 各層の結晶歪みの成長条件依存性を調べた ガス流量 ( 炭素組成 ) によって 高い炭素組成を維持しながら Si1-xCx 層の歪み緩和が促進される温度域が大きく異なること およびその温度範囲が約 50 程度と狭いことが明らかとなった また 表面 Si 層の格子定数が面内に圧縮されていることが確認された その歪み量は -0.7 ~-0.8% 程度であった 理論計算によると 本研究で実現された圧縮格子歪みでも Γ 点に近い領域では有効質量の低減が期待できる 今後はより炭素組成が高い試料の形成に取り組み より大きな歪み量を実現する必要がある また 組成傾斜法が表面平坦性の点で優位性をもつことが示されたが 膜構造を最適化することにより応力に誘起される転位の分布状況を制御することが今後の課題である

別紙 研究部 MBE 法による立方晶 InN の結晶成長と基礎物性評価 研究代表者名 埼玉大学 大学院理工学研究科 八木修平 研究分担者名 埼玉大学 大学院理工学研究科 折原操 東北大学 金属材料研究所 片山竜二 1. はじめに AlN, GaN, InN およびこれらの混晶である窒化物半導体は直接遷移型であり 且つ広範なバンドギャップをカバーするため 紫外から赤外までの発光デバイス材料や 高効率多接合タンデム太陽電池材料としての検討がなされている これら窒化物半導体の結晶構造には 安定相として六方晶ウルツ鉱構造が 準安定相として立方晶閃亜鉛鉱構造が存在するが 特に立方晶 InN はエピタキシーの制御が難しく高品質の結晶が得られにくかったこともあり その物性には未だ不明な点が多い 本研究では RF プラズマ分子線エピタキシー (RF-MBE) 法により高品質な立方晶 InN を作製し 特に光学的評価を通してその基礎物性を明らかにすることを目的とする 2. 研究経過試料は RF-MBE 法により MgO 基板上に作製した Ga 源 In 源としてそれぞれ金属 Ga および金属 In を N 源として N2 ガスをプラズマにより分解した原子状窒素を用いた 真空中で基板を熱クリーニングした後 下地となる GaN 中間層を基板温度 800 o C で 500 nm 堆積し その上に InN を基板温度 470 o C で 350 nm 成長した 作製した立方晶 InN の構造評価は X 線回折測定により行った また 東北大金属材料研究所電子材料物性学研究部門のフーリエ変換赤外分光 (FT-IR) 装置を用いて光学特性の評価を行った 3. 研究成果 作製した InN 薄膜を X 線回折により評価した結果 立 方晶 InN(002) 面からの強い回折ピークが観測された プラ ズマ出力を 350W GaN 中間層成長時の Ga フラックスを 9.0 10-5 Pa InN 成長時の In フラックスを 7.0 10-5 Pa としたとき作製した立方晶 InN 薄膜の六方晶混入率は 4.4% となり 高品質な立方晶 InN を得る事が出来た この 試料について FT-IR による赤外反射率測定を行った結果を 図 1 に示す 図中には比較のため GaN のみを堆積した試料 の測定結果も示してある InN のスペクトル中には 467 cm -1 に InN の TO フォノンの寄与とみられるピーク構造 と 高波数域にフォノン - プラズモン結合モードの寄与によ るプラズマ端付近の反射率増大が観測された より詳細な Reflectivity 1 0.8 0.6 0.4 0.2 GaN/MgO InN/GaN/MgO 0 400 600 800 1000 1200 Wave number (cm -1 ) 図 1 立方晶 InN の赤外反射率スペクトル フィッティングを行うことで 立方晶 InN 中の残留電子濃度や電子移動度の定量的な評価が可能である 4. まとめ RF-MBE 法を用いて MgO 基板上に立方晶 InN 薄膜の成長を行った その結果 六方晶相混入率 4.4% の高品質な立方晶 InN 薄膜が得られた 今後 赤外反射率スペクトルの定量的な解析により 電子濃度や電子移動度の評価を進めていく

研究部 研究課題名 Si(111) 基板上への一軸歪み Ge チャネル形成と結晶性評価 研究代表者名東京都市大学 総合研究所 澤野憲太郎 研究分担者名東京都市大学 総合研究所 星裕介 久保智史 榑林徹 永倉壮 山田聡東北大学 金属材料研究所 宇佐美徳隆 1. はじめに Si-CMOS は微細化による性能向上に限界が訪れており ゲルマニウム (Ge) チャネル CMOS が非常に大きな注目を集めている これは Ge が電子 正孔ともに Si よりも大幅に移動度が高いことによる Ge においては 従来 Si-MOS で用いられてきた (100) 面方位基板ではなく (111) 基板を導入することで より高い電子移動度の実現が見込めることから Si(111) 基板上の Ge(111) チャネル形成を目指す これまでに Ge(111) 基板を用いたデバイスの報告はあるものの 集積化に重要となる Si 基板上 Ge 形成技術の開発はほとんど進んでいない これは Si と Ge は格子不整合が大きいので 転位などの欠陥発生を抑制することが困難であることが大きな要因である また Ge に結晶歪みを導入することで より高い移動度を得ることが可能となり 歪み制御技術の開発も期待が寄せられている 本研究では 我々が提案したイオン注入法を駆使することにより 高品質歪み Ge(111) 膜の実現を目指す 23 年度は 22 年度に進めた Si 基板上の SiGe 膜成長技術をもとにして さらに絶縁膜上の Ge(111) 膜 (Ge-on-Insulator, GOI) 形成に取り組んだ GOI 構造は SOI(Si-on-Insulator) と同様に低消費電力化に有利であり Ge チャネルの究極的な構造として期待が高いものの 結晶性の高品質な GOI はいまだ実現されていない 今回我々は 高品質 Ge 膜の Si(111) 基板上への結晶成長技術の開発 さらに張り合わせ法による 歪み制御 Ge(111)-on-Insulator 基板の形成を目指した 2. 研究経過これまでにイオン注入法を駆使した Si(111) 基板上への SiGe 膜の結晶成長について検討してきており 低欠陥 SiGe バッファー層の成長条件を確立してきた しかしながら Ge 組成の向上 さらには Ge 膜を成長させると 欠陥密度は増大してしまうことが分かった そこで今回は イオン注入法の類似手法である低温法を改良した 2 段階成長法を用いることで Ge 膜の低欠陥化を目指した そのため まずは低温成長を得意と固体ソース MBE を中心として進めた 作製した試料構造としては Si(111) 基板上に成長温度 350~600 で膜厚 30nm の低温成長 Ge 層 (LT-Ge 層 ) を形成させた後 基板温度を上昇させ 800 という高温にて 膜厚 600nm~1μm の Ge 層 (HT-Ge 層 ) を成長させた このように成長した Ge-on-Si(111) 構造の各種結晶性評価を行った さらに GOI 形成のため この Ge 層を CMP により表面平坦化し 200~300nm の SiO 2 膜を有する Si(111) 基板と貼り合わせ 500 で 2 時間熱処理することで接合強化した これにより得られた Si/Ge/SiO 2 /Si 構造において Ge 上の Si を 研磨と KOH による選択エッチングで除去し 最終的に Ge(111)/SiO 2 /Si(GOI) 構造を形成し 各種評価を行った 3. 研究成果まず 作製した Ge-on-Si(111) 構造について X 線回折 (XRD) 測定を行い ロッキングカーブから得られる Ge ピークの半値幅を求めた また各試料の表面ラフネスを原子間力顕微鏡 (AFM) で評価した 図 1 に半値幅と RMS ラフネスの LT-Ge 層成長温度依存性を示す LT-Ge 層 600 成長の場合 半値幅 RMS ラフネス共に非常に大きいが これは LT-Ge 層成長時の 3 次元的な成長により 大きなラフネスが発生したためである LT-Ge 層成長温度を低下させることで LT-Ge 層の平坦性が向上し HT-Ge 層のピーク半値幅 RMS ラフネスが共に減少している これは HT-Ge 層の結晶性が大幅に向上していることを示している 図 2 に Ge 回折ピークの半値幅 [ ] 0.05 0.04 0.03 0.02 膜厚 600nm 膜厚 1μm 0.01 300 400 500 600 LT-Ge 層の成長温度 [ ] 50 40 30 20 10 図 1 GeX 線回折ピーク半値幅と表面ラフネスの LT-Ge 層成長温度依存性 0 RMS ラフネス [nm]

LT-Ge 層 350 成長 HT-Ge 層 1μm の試料の断面 TEM 像を示す Ge 層中に僅かに欠陥が見られるものの 傾斜組成法など 他の手法で作製した Ge 薄膜と比較して非常に欠陥密度の低い Ge(111) 疑似基板が得られている これらの結果より 2 段階成長法が Ge(111) チャネルデバイス応用に非常に有望であると言える さらにこの Ge 膜は Si 基板との熱膨張差に起因して 0.17% の引っ張り歪みが導入されていることが分かった この歪みはバンド構造を直接遷移型に近づけることが分かっており 光デバイス応用へ向けても有望な構造と言える この構造をもとに形成した 歪み GOI(111) 基板の断面 TEM 像を図 3 に示す 歪み Ge 層中に僅かに転位が見られるものの その密度は十分に小さく また 歪み Ge 層と SiO 2 膜の貼り合せ界面は急峻であり 高品質な歪み GOI(111) 構造が形成できていることが分かった 図 4 に 歪み GOI 構造の (333)XRDRSM の測定結果を示す Ge 層の回折ピークが明瞭に見られており 結晶性が良好であることが分かった また そのピーク位置から Ge 層の 0.17% の引っ張り歪みが完全に維持されていることが分かった より詳細に Ge ピークを見ると ( 図 4(b)) Qy の値が小さい方向に沿ってピークがブロードになっていることが分かる これは 歪み Ge 層の膜厚が厚く 上部で歪み緩和が生じていることを示唆している したがって CMP により歪み Ge 層を薄膜化することで 深さ方向に対して均一な歪みを有する歪み GOI(111) 構造が作製できると考えられる 以上の結果は 本手法が高品質な歪み GOI(111) 構造の作製に 非常に有望であることを示している Ge (111) Si (111) 基板 [111] [-1-12] [-110] 図 2 Ge(111)/Si(111) 基板構造の断面 TEM 像 歪み Ge (111) SiO 2 Si (111) 基板 図 3 歪み Ge(111) on Insulator 構造の断面 TEM 像 [111] [-110] [112] 図 4 GOI 構造の X 線回折逆格子空間マッピング像 4. まとめ 低温成長層を導入した 2 段階成長法により 欠陥密度の非常に低い Ge(111) 層を Si(111) 基板上に成長することに成功した さらに 張り合わせ法 選択エッチング法を駆使することで 歪み GOI 形成に成功した エピタキシャル成長中の欠陥低減化と最終工程の CMP による欠陥領域除去により GOI 中の大幅な欠陥低減を実現した 今後さらなる薄膜化を進める また GOI 中の引っ張り歪みは 0.17% であり GOI 形成プロセス後まで保持されていることが示された