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を対象とした 通常血液透析と間歇補液血液透析を実施し クリットラインモニタ (CRIT-LINE Ⅲ JMS 社製 ) で透析中の循環血液量を観察した また 通常血液透析と間歇補液血液透析で除水量の差異が少なかった (300ml 以内 )3 名で クリットラインモニタから得られたデータを平均して治療時間平均循環血液量減少率を算出し比較した (2) 心拍変動からみた補液効果同意を得た当院の維持透析患者 20 名 (63.7 ± 10.7 歳 透析歴 4.4 ± 4.0 年 男性 9 名 女性 11 名 ) を対象とした 透析中 総除水量の 1/2 の時点で 200 ml の補液 ( 補液速度 100ml/min) を行い その直前直後で Check My Heart(Biomedical 社製 ) を用いて心拍変動を測定し Low Frequency:LF( 低周波成分 交感神経と一部の副交感神経を反映 ) High Frequency:HF( 高周波成分 副交感神経を反映 ) Total Power:TP( 自律神経全体の活動を反映 ) および Low Frequency/High Frequency:LF/HF( 交感神経および自律神経バランスを反映 ) の変化を比較した < 結果 > 1. 間歇補液血液透析の試み間歇補液血液透析開始前と開始後 それぞれ一ヵ月間の透析中に血圧低下が起こった日数を比較した結果を図 1 に示す 間歇補液血液透析開始前後では 血圧低下日数に有意差はなかった 間歇補液開始前後一ヵ月の BUN Cr P の除去率とクリアスペースを表 1 に示す 間歇補液血液透析開始前と開始後とでは 各項目に有意差はなかった 2. 補液効果に関する検討 (1) クリットラインモニタでの観察通常の血液透析時 ( 図 2) と間歇補液血液透析時 ( 図 3) の 除水による循環血液量減少率の変化の記録例を示す 通常血液透析では ほぼ一定の割合で減少しているのに対し 間歇補液血液透析では 補液と同期して減少した循環血液量が補正されていた クリットラインでの観察において 通常血液透析時と間歇補液血液透析時の体重分除水量が 300ml 以内であった 3 名を対象に 治療時間平均循環血漿量減少率を算出して 比較した結果を図 4 に示す 間歇補液血液透析の方が治療時間平均循環血液量減少率は少なかった (2) 心拍変動からみた補液効果透析中に補液 200ml を投与した直前直後における 心拍変動のローレンツプロットを図 5 に示す 透析時 除水の進行とともに心拍変動が小さくなるが 補液後 心拍変動幅が大きくなっていた 補液直前直後の心拍変動パラメータを計測した結果を表 2 と図 6 9 に示す LF LF/HF に有意差はなかったが HF は有意に増加 (p<0.01) し TP は増加傾向 (p<0.10) を示した LF/HF の中央値は低下していたが ばらつきが大きく有意差はなかった 51

表 1. 間歇補液血液透析開始前後 1 ヵ月間の除去率とクリアスペースの比較 開始前開始後 p value 除去率 (%) BUN 75.7 ± 4.7 77.5 ± 5.9 0.25 Cr 69.2 ± 4.6 70.9 ± 6.5 0.47 P 72.4 ± 5.4 70.4 ± 3.3 0.25 クリアスペース (L) BUN 73.2 ± 4.7 75.1 ± 5.7 0.18 Cr 67.0 ± 4.6 68.7 ± 6.1 0.47 図 1. 間歇補液血液透析開始前後の透析中に血圧低下が生じた日数の比較 開始前後各 1 ヵ月間 (13 回分 ) の比較 症例 2 5 は Dry Weight(DW) がきつくなっていた例で DW をそれぞれ 600g 1300g 増加させることにより血圧低下が改善した P 70.1 ± 5.0 68.1 ± 3.6 0.18 mean ± SD (%) 15 (%) 15 10 10 5 5 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 0 0 0.110.230.350.460.58 0.7 0.810.931.051.161.28 1.4 1.511.631.751.861.98 2.1 2.212.332.452.562.68 2.8 2.913.033.153.263.38 3.5 3.613.733.85-5 -5-10 -10-15 -15 図 2. 通常血液透析中の循環血液量の変化 図 3. 間歇補液血液透析中の循環血液量の変化 x 軸を透析経過時間 y 軸を循環血液量減少率として循環血液量の変化を示している 補液に同期した循環血液量の上昇が観察された 補液前 補液後 図 4. 治療時間平均循環血液量減少率の比較 図 5. 補液前後の心拍変動のローレンツプロット R-R 間隔を x 軸に取り その次の R-R 間隔を y 軸に ( 一拍ずつずらして ) プロットした 補液後の心拍変動の幅は 補液前に比べて大きい 52

表 2. 補液前後の心拍変動パラメータ 補液前補液後 p value LF (ms 2 ) 32.0 (12.0-97.5) 42.0 (16.5-103.0) 0.70 HF (ms 2 ) 31.5 (12.8-74.5) 49.0 (20.3-165.5) 0.007 TP (ms 2 ) 155.5 (59.5-382.0) 216.0 (103.3-413.5) 0.07 LF / HF 0.93 (0.50-1.47) 0.60 (0.31-2.44) 0.44 median (25th-75th percentiles) LF( 低周波成分 交感神経と一部の副交感神経を反映 ) HF( 副交感神経指標 ) TP( 自律神経全体のパワー ) LF/HF( 交感神経指標 自律神経バランス ) の補液前後の変化を比較した HF は有意に増加しており TP は増加傾向を示した 図 6. 補液前後の LF の比較 図 7. 補液前後の HF の比較 図 8. 補液前後の TP の比較 図 9. 補液前後の LF/HF の比較 53

< 考察 > 間歇補液血液透析は GC-110 Nの計画補液モードを使用することで 江口ら 1) の報告と同様 手動操作を行う必要がなく 通常血液透析と同程度の簡便性で施行できた 血圧低下日数は間歇補液血液透析開始前後で有意差はなかった 血圧低下日数が増加した 2 症例は 治療中に Dry Weight(DW) がきつくなりつつあった例であり 間歇補液での治療後に DW を高くすると血圧低下の日数が減少したことからも 間歇補液より DW を高くする方を優先すべき例であった BUN Cr P の除去率とクリアスペースは 間歇補液血液透析開始前後で有意差はなかった 間歇補液血液透析での除去率 クリアスペースに関しての報告はいくつかあるが 2 5) いずれも通常血液透析と間歇補液血液透析とでは BUN Cr P のような小分子では明確な差がなく 我々の結果も同様であった また 今回は検討しなかったが 江口ら 1) はα1-MG のクリアスペースが有意に高値であったと述べている 間歇補液血液透析では 補液に同期して循環血液量減少率が低下することが クリットラインモニタにより視覚的に確認できた 得られたグラフでは 補液時に循環血液量が急速に低下し尖鋭化しているが これはダイアライザ部で除水されてヘマトクリットの高くなった血液が 逆濾過による補液で動静脈両側に押し返され センサ面を逆行して生じたアーチファクトと考えられた また 治療時間平均循環血液量減少率は 間歇補液血液透析の方が通常血液透析時に比べて小さかった 江口ら 1) は 間歇補液は循環血液量を増加させ 末梢循環維持に有効であり 治療時間平均循環血液量減少率が小さかったと報告している 我々の結果でも同様であり 間歇補液血液透析は 通常血液透析に比べて治療時間平均循環血液量減少率を軽減できるので 同じ量の除水を行う時に循環血液量の減少が少なく 血圧低下防止に有用であると考えられた 一方 自律神経の変化という観点からみると 補液により心拍変動パラメータは HF の有意な上昇 (p<0.01) と TP の上昇傾向 (p<0.10) があった 一般に循環系と心拍変動パラメータとの関係については 静脈還流量の低下と末梢循環抵抗の増大は HF を低下させると言われている 6) また 心筋虚血に先行して HF の低下と LF/HF の増大がみられる 7) 透析時血圧低下群は 透析時に HF が下降するという報告 8) があり 我々も透析時に HF が下降すると 血圧低下を起こしやすいことを以前より報告してきた 9)10) 今回の間歇補液血液透析の検討では このような心筋虚血時や透析中の血圧低下時とは逆の反応がみられた 瀬戸ら 11) は 輸液が神経性循環調節の正常化に有効である可能性を示唆しており 我々の検討でも補液は循環血液量を増加させ 各臓器の静脈還流量や末梢循環を増加させ その結果 自律神経系を賦活し 血圧低下を起こりにくくしていると考えられた < 結語 > 間歇補液血液透析は全自動機の自動モードを使用することで簡便に施行でき 循環血液量増加 と神経性循環調節の正常化という点で 透析中の血圧維持に有効である可能性が示唆された 54

参考文献 1) 江口圭 宮尾眞輝 山田祐史 他 : 逆濾過透析液を利用した自動モードによる間歇補液血液透析 (intermittent infusion HD) の考案とその臨床評価 ( 他施設共同研究報告 ) 透析会誌 42(9):695-703 2009. 2) 江口圭 池辺宗三人 金野好恵 他 : 新しい HDF 療法 ( 間歇補液 HDF:intermittent infusion HDF) の考案とその臨床効果 透析会誌 40(9):769-774 2007. 3) 中川章郎 大江孝弘 岩隈加奈子 他 : 当院における透析療法の除去性能評価 ( 通常透析 間歇逆濾過補液透析 on-linehdf) 透析会誌 43 supplement 1:400 2010. 4) 大江孝弘 中川章郎 岩隈加奈子 他 :JMS 社製 GC-110N( 間歇逆濾過補液血液透析 ) の長期使用経験 透析会誌 43 supplement 1:453 2010. 5) 堀井宏志 石原奈菜 鈴木陽一 他 : 全自動コンソール GC-110N を用いた計画的逆濾過補液の試み 透析会誌 43 supplement 1:718 2010. 6) 林博史 谷明博 山崎義光 他 : 心拍変動の臨床応用 生理的意義, 病態予測, 予後予測 P8-P9 医学書院 東京 1999. 7)A. J. van Boven, J. Brouwer, H. J. Crijns, et al.: Differential autonomic mechanisms underlying early morning and daytime transient myocardial ischaemia in patients with stable coronary artery disease.br Heart J 73(2): 134-138,1995. 8) 山本壱弥 小林直之 松永篤彦 他 : 維持血液透析時に認められる過剰な血圧低下の出現機序に関する検討 透析会誌 40(11):897-906 2007. 9) 佐藤永淑 能登宏光 大谷匠 他 : 心拍変動からみた血液透析の過剰血圧低下と自律神経機能 東北腎不全研究会誌 20-1:72 2009. 10) 金野裕介 能登宏光 佐藤永淑 他 : 心拍変動の透析開始前後の変化から透析時血圧低下を予測出来るか 秋田腎不全研究会誌 13:120-124 2010. 11) 瀬戸美夏 真鍋庸三 窪田智彦 他 : 心拍 血圧変動スペクトル解析を用いた自己採血および輸液後の自律神経機能の評価 日本輸血学会雑誌 48(6):455-464 2002. 55