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人工呼吸器離脱に関する 3 学会合同プロトコル 人工呼吸療法は重症呼吸不全のみならず様々な領域で適応が拡大されてきた しかし 気管挿管期間の長期化は人工呼吸器関連肺炎のリスク因子であり 1 )2) 日本集中治療医学会は 2010 年に我が国独自の人工呼吸器関連肺炎バンドル (VAP バンドル ) を提言した 一方で人工呼吸器からの早期離脱が患者の ADL QOL を改善することも明らかになっている 3) このため人工呼吸療法にたずさわる医療従事者は 人工呼吸器を装着した段階から 原疾患の治療と並行して 人工呼吸器からいかに早期に離脱させるかを計画することが重要である 人工呼吸器から早期離脱するためには 人工呼吸開始後は日々離脱に向けて評価することが必須となる 海外の報告では 医師以外の職種も含め訓練された専門チームを立ち上げてプロトコルに従い継続的に離脱過程を進めれば人工呼吸期間が短縮した 3) また 持続鎮静患者に 1 日 1 回鎮静薬を中断し覚醒を促すことにより 人工呼吸期間が短縮し VAP の発生率も低下した 4) このような持続鎮静薬の中断や安全な人工呼吸器からの早期離脱を推進するためには ベッドサイドでチーム内の情報共有を行うための共通言語となる簡便で利用しやすいプロトコルの存在が必須であるが 我が国の呼吸療法の現状を踏まえたものはまだない そこで 人工呼吸療法を主導する3 学会 ( 日本集中治療医学会 日本呼吸療法医学会 日本クリティカルケア看護学会 ) は 過去の知見をふまえ日常診療へ取り入れやすい実践的な人工呼吸器離脱プロトコルを作成した 本プロトコルの目的は 1 人工呼吸離脱に関する標準的内容を提案し 各施設独自の離脱プロトコル作成を支援するための一助となること 2 医療チームが協働し人工呼吸器からの早期離脱を推進するための手法を示した手順書としてチーム内の共通言語となることである このプロトコルは 集中治療室内外を問わず 人工呼吸器離脱に携わる医療従事者が多職種チームとして標準的な介入ができるようになることを目指しており チーム医療としての人工呼吸器離脱が安全かつ円滑に進まない施設での利用を期待するものである また 本プロトコルは 先述にあるように あくまでも手順書であり 各施設の状況に合わせて本プロトコルを再考し 各施設の現状に応じたプロトコルが作成できるきっかけになればと思う なお 本プロトコルを臨床現場で使用するためには 呼吸管理を含めた一定の教育が必要と考える プロトコル導入に際してはいくつかの条件はあるものの 多職種 ( 医師 看護師 臨床工学技士 理学療法士 薬剤師 栄養士 ) 間での連携こそが基盤になると考える 5) このプロトコルをきっかけとして人工呼吸療法におけるチーム医療がより促進されることを期待する 1

Ⅰ. プロトコルの導入と運用プロトコルの導入にあたっては 施設ごとで運用上の取り決めが必要となる プロトコルの運用にあたって 各施設において実施困難な部分や危険因子の相違などの不適合が生じる可能性がある 本プロトコルは 3 学会合同人工呼吸器離脱ワーキンググループが提案するプロトタイプであり 各施設に合わせた修正を妨げるものではない むしろ 医療従事者間での積極的な意見交換のもと修正が行われることを推奨する 主に次の項目については 医療従事者間で確認しておくことを推奨する 具体的な対象患者 ( 疾患 病態 ) 対象患者の選定方法 ( 誰が選定するか ) 各基準の評価者とプロトコル指示者 プロトコルの中止基準 記録方法 中止になった場合の対処方法 Ⅱ. 人工呼吸器離脱プロトコルと基準本プロトコルは 15 歳以上が対象である プロトコルには 次の 2 つの略語を使用した 自発覚醒トライアル自発覚醒トライアル (Spontaneous Awakening Trial: SAT) とは 鎮静薬を中止または減量し 自発的に覚醒が得られるか評価する試験のことである 6) 麻薬などの鎮痛薬は中止せずに継続し 気管チューブによる苦痛を最小限にすることも考慮する 観察時間は 30 分から 4 時間程度を目安とする 鎮静スケール ( 表 1) を用いて覚醒の程度を評価する 自発呼吸トライアル自発呼吸トライアル (Spontaneous Breathing Trial :SBT) とは 人工呼吸による補助がない状態に患者が耐えられるかどうか確認するための試験のことである 6) 患者が以下の SBT 開始基準を満たせば 人工呼吸器設定を CPAP または T ピースに変更し 30 分から 2 時間観察する SBT 成功基準を満たせば抜管を考慮する 2

表 1:Richmond Agitation-Sedation Scale (RASS) 7) スコア状態臨床症状 +4 +3 +2 +1 闘争的 好戦的 非常に興奮した過度の不穏状態興奮した不穏状態 落ち着きのない不安状態 明らかに好戦的 暴力的 医療スタッフに対する差し迫った危険がある攻撃的 チューブ類またはカテーテル類を自己抜去する 頻繁に非意図的な体動があり 人工呼吸器に抵抗性を示しファイティングが起こる 不安で絶えずそわそわしている しかし動きは攻撃的でも活発でもない 0 覚醒 静穏状態意識清明で落ち着いている -1 傾眠状態 完全に清明ではないが 呼びかけに 10 秒以上の開眼およびアイコンタクトで応答する -2 軽い鎮静状態呼びかけに開眼し 10 秒未満のアイコンタクトで応答する -3 中等度鎮静状態呼びかけに体動または開眼で応答するが アイコンタクトなし -4 深い鎮静状態呼びかけに無反応 しかし身体刺激で体動または開眼する -5 昏睡呼びかけにも身体刺激にも無反応 (1)SAT 開始安全基準 3) 以下の状態でないことを確認する 基準に該当する場合は SAT を見合わせる 興奮状態が持続し 鎮静薬の投与量が増加している 筋弛緩薬を使用している 24 時間以内の新たな不整脈や心筋虚血の徴候 痙攣 アルコール離脱症状のため鎮静薬を持続投与中 頭蓋内圧の上昇 医師の判断 (2)SAT 成功基準 3) 12ともにクリアできた場合を 成功 できない場合は 不適合 として翌日再評価とする 1RASS:-1~0 口頭指示で開眼や動作が容易に可能である 2 鎮静薬を中止して 30 分以上過ぎても 以下の状態とならない 興奮状態 持続的な不安状態 3

鎮痛薬を投与しても痛みをコントロールできない 頻呼吸 ( 呼吸数 35 回 / 分 5 分間以上 ) SpO2<90% が持続し対応が必要 新たな不整脈 (3)SBT 開始安全基準 8)~11) 原疾患の改善を認め 1~5をすべてクリアした場合 SBT を行う それ以外は SBT を行う準備ができていないと判断し その原因を同定し対策を講じたうえで 翌日再度の評価を行う 1 酸素化が十分である FIO2 0.5 かつ PEEP 8cmH2O のもとで SpO2>90% 2 血行動態が安定している 急性の心筋虚血 重篤な不整脈がない心拍数 140 bpm 昇圧薬の使用について少量は容認する (DOA 5μg/kg/min DOB 5μg/kg/min NAD 0.05μg/kg/min) 3 十分な吸気努力がある 1 回換気量 >5ml/kg 分時換気量 <15L/ 分 Rapid shallow breathing index (1 分間の呼吸回数 /1 回換気量 [L])<105 回 /min/l 呼吸性アシドーシスがない (ph>7.25) 4 異常呼吸パターンを認めない 呼吸補助筋の過剰な使用がない シーソー呼吸 ( 奇異性呼吸 ) がない 5 全身状態が安定している 発熱がない 重篤な電解質異常を認めない 重篤な貧血を認めない 重篤な体液過剰を認めない 4

(4)SBT の方法と評価 1SBT の方法患者が以下の条件に耐えられるかどうかを1 日 1 回 評価する 条件 : 吸入酸素濃度 50% 以下の設定で CPAP 5cmH2O(PS 5cmH2O) または T ピース 30 分間継続し 以下の基準で評価する (120 分以上は継続しない ) 耐えられなければ SBT 前の条件設定に戻し 不適合の原因について検討し 対策を講じる 2SBT 成功基準 呼吸数 <30 回 / 分 開始前と比べて明らかな低下がない ( たとえば SpO2 94% PaO2 70mmHg) 心拍数 <140bpm 新たな不整脈や心筋虚血の徴候を認めない 過度の血圧上昇を認めない 以下の呼吸促迫の徴候を認めない (SBT 前の状態と比較する ) 1. 呼吸補助筋の過剰な使用がない 2. シーソー呼吸 ( 奇異性呼吸 ) 3. 冷汗 4. 重度の呼吸困難感 不安感 不穏状態 5

Ⅲ. 抜管 SAT SBT に成功したら 抜管後上気道狭窄や再挿管のリスクを評価した上で 抜管すること が望ましい (1) 抜管後上気道狭窄の評価 : チューブを抜去後に上気道の浮腫や狭窄が発生するリスクがある か事前に評価する 以下の危険因子が存在する場合には 抜管後上気道狭窄の発生に備える 危険因子の存在 が明白 あるいは複数存在する場合には カフリークテスト等により危険性を評価することが望ま れる 長期挿管 (>48 時間 ) 女性 大口径の気管チューブ 挿管困難 外傷症例 など なお 上記は危険因子の一部であり 相対的なものである 患者病態および各施設の特徴や 経験に合わせてリスクを設定することが望ましい (2) 再挿管の危険因子についての評価 抜管の前に 抜管後再挿管の危険因子について評価を行う 再挿管リスクの大きさにより 超 高リスク群 高リスク群 低リスク群 の 3 つに分ける 超高リスク群 : 主に上気道に問題があり抜管直後の再挿管を想定する場合喉頭 ~ 上気道の浮腫残存が否定できない場合や 気道アクセス制限 気道確保困難症などが含まれる ( 例 ) 上気道 ( 口鼻耳咽喉部 ) 手術術後 頸部手術術後出血 両側反回神経麻痺 開口困難 頸椎術後頸部伸展困難 短頸 小顎 挿管困難の既往歴 カフリークテスト陽性など 高リスク群 : 抜管後呼吸不全が徐々に進行し再挿管が危惧される場合気道分泌物クリアランスの低下 呼吸筋疲労 PEEP 依存などが含まれる ( 例 )COPD 慢性呼吸不全 気管支炎 低栄養 肥満 水分過多など 低リスク群 : 上記のどのリスクもない場合ただちに抜管可能と判断される 6

(3) 抜管前対応 : 分類したリスクに応じて対応する 超高リスク群 : 主に上気道に問題となっていることから抜管前から喉頭浮腫の軽減を図り 必要に応じてステロイド投与も考慮する 12-13) < 具体的対応 > 喉頭および周辺組織の浮腫の評価 : 画像評価 喉頭鏡 ファイバースコープによる直接観察を考慮する 頭部挙上 利尿による浮腫軽減 ステロイド投与 再挿管のための特殊な器具の準備 ( 緊急気管切開セットを含む ) 抜管時の麻酔科医の立ち会い 予防的非侵襲的陽圧換気の準備 抜管時のチューブエクスチェンジャーの使用など 高リスク群 : 抜管前に咳漱反射の有無や排痰能力 換気予備能を評価する 長期間の人工 呼吸では 呼吸筋疲労の評価が必要である (p4 SBT 開始安全基準 p5 SBT 成功基準 p7 抜管後チェックリスト参照 ) < 具体的対応 > 排痰促進のための胸部理学療法 ポジショニング 呼吸リハビリテーション 再挿管の準備 予防的非侵襲的陽圧換気の準備 抜管時のチューブエクスチェンジャーの使用など 低リスク群 : 再挿管のリスクは低いものの 抜管時の再挿管の準備を行う 7

(4) 抜管後の評価 <すべての抜管症例 > 抜管後は すべての症例に再挿管のリスクがあると考えて評価し対応することが肝要である また 上気道閉塞に備えて迅速な対応が可能な準備をしておく ( 緊急気管切開等 実施者との連携 ) そのためには医療従事者間の明確な情報伝達と綿密なモニタリングが不可欠である 抜管後 1 時間は 15 分毎に下表 ( 血液ガスを除く ) の項目を評価する 動脈血液ガス分析 超高リスク 高リスク群 : 抜管後 30 分の時点で実施する 抜管後チェックリスト 観察項目 抜管前 抜管後 15 分後 30 分後 45 分後 60 分後 120 分後 呼吸数 SpO2 心拍 血圧 意識呼吸困難感呼吸様式咳嗽能力 誤嚥聴診 ( 頸 胸部 ) 嗄声 喘鳴血液ガス 上記 ( 血液ガスを除く ) は目安となるチェック項目およびそのチェック間隔であり 患者状態や各施設の必 要度に応じて チェックの項目および間隔を変える 超高リスク群 (1) 抜管直後から 1 時間 : より高度な注意が求められる 必要に応じて気道確保の準備のもとに呼吸循環の安全が確認されるまではベッドサイドに 留まる 抜管後 15 分を無事に経過した症例でも 少なくとも 1 時間は十分なモニタリング下に 監視すること 実際に上気道閉塞事象は 30 分以降にも発生している 閉塞や高度な狭窄状態では 直ちに再挿管や緊急気管切開等の対応が可能な医師 チー ムを招集し 気道確保する 再挿管が困難な場合は 躊躇せずに緊急気管切開を実施する (2) 評価項目換気と換気運動が許容範囲に維持されていること 狭窄状態 呼吸筋疲労を把握する 上気道閉塞 ( 窒息 ) や高度な狭窄状態は直ちに判断を下し 迅速な対応を図る 8

(3) モニタリング項目バイタルサイン : 意識レベル 呼吸数 血圧 心拍 呼吸パターン : 上気道閉塞パターン 狭窄パターン 聴診触診所見 : 頸部聴診 胸腹壁触診 SpO2 ECG : 異常を示す場合には緊急性が高い 動脈血血液ガス : 抜管後 30 分で確認 高リスク群 (1) 少しでも上気道閉塞および狭窄所見を認める場合には 直ちに 超リスク群 の評価 対応に準ずる (2) 抜管直後から 1 時間 : 高度な注意が必要換気および酸素化に障害が発生しないことが確認できるまではベッドサイドに留まる 少なくとも1 時間は十分なモニタリング下に監視する (3) 気道分泌物の排出に問題のある症例さらに時間が経過した後の換気 酸素化の障害 呼吸筋疲労が発生する危険性があり 注意を要する (4) 評価項目換気と換気運動が正常 ( 許容範囲 ) に維持されていること 呼吸筋疲労と分泌物排出能力 ( 咳嗽能力と分泌物の性状と量 ) 唾液などの誤嚥 (5) モニタリング項目バイタルサイン : 意識レベル 呼吸数 血圧 心拍呼吸パターン : 閉塞パターン 呼吸筋活動 咳嗽能力聴診触診所見 : 聴診 胸腹壁触診 SpO2 ECG : 酸素化能 循環系負荷動脈血血液ガス : 抜管後 30~60 分で確認 低リスク群 (1) 少しでも上気道閉塞および狭窄所見を認める場合には 直ちに 超リスク群 の評価 対応に準ずる (2) 抜管直後から 15 分 : 換気および酸素化に障害が発生しないことを十分なモニタリング下に監視し 確認する (3) 抜管後 1 時間 9

モニタリング下に定期的 (10~15 分毎 ) に呼吸および循環をアセスメントする (4) 評価項目 換気と換気運動が正常 ( 許容範囲 ) に維持されていること (5) モニタリング項目 バイタルサイン : 意識レベル 呼吸数 血圧 心拍 呼吸パターン : 閉塞パターン 呼吸筋活動 咳嗽能力 聴診触診所見 : 聴診 胸腹壁触診 SpO2 ECG : 酸素化能 循環系負荷 動脈血血液ガス : 必要に応じて実施 < 参考 > カフリークテストの手順と評価方法 : 以下に標準的な手法を示す 15 )16) カフリークテストは 気管チューブのカフエアを注入した状態の 1 回換気量 (Vt1) と カフエアを脱気した状態の 1 回換気量 (Vt2) を測定し Vt1-Vt2 を算出することにより 上気道の狭窄がないかを予測する検査である 上気道狭窄が存在する場合には この値が小さくなる 方法 : 次に示す手順でリークを測定する 1 テストによる誤嚥を防ぐため 口腔内吸引 気管吸引を十分に行う 2 人工呼吸器設定は調節呼吸 (A/C:Assist Control) とする 3 カフを入れた状態で吸気呼気の Vt1 を 人工呼吸器モニターを用いて測定 記録する 4 気管チューブのカフを抜く 5 患者の呼吸状態が安定したところで 連続 6 呼吸サイクルの呼気 Vt を人工呼吸モニターで計測し記録する 6 5の値のうち低いほうから 3 サイクルの測定値の平均値 Vt2 を算出する 評価基準 : カフリークボリューム (Vt1-Vt2) が 110ml 以下 もしくは前後の変化率 (Vt1-Vt2)/Vt1 が 10% 以下の場合は陽性と判断し 抜管後上気道狭窄の発生が予測される 14) ( 注意 ) カフリークテストの目的は 抜管後上気道狭窄の有無を見極めることであり リスクの判別である また 本テストの感度は高いものの特異度は決して高くなく 実施方法も施設間で多少異なる したがって カフリークテストは抜管の必須項目ではない 抜管の決定は 多職種により協議により行うことが望ましい 10

Ⅳ. 人工呼吸器離脱に関する教育のあり方人工呼吸器の離脱は 医師以外の職種であっても訓練された専門チームとしてプロトコルに従い離脱を進めると人工呼吸期間が短縮するという結果が報告されており 3) 人工呼吸器装着患者に関わる医療従事者は 同じ知識で患者を診て 必要なアセスメントをおこなっていく必要がある そのために 以下の能力について 臨床現場で教育の機会を設ける必要性を提案する (1) 安全管理および苦痛を緩和する能力 1 安全 ( 鎮痛鎮静を含む ) および感染管理 2 苦痛緩和 (2) 自発呼吸を確立するための流れに乗せる能力 1 全身状態のアセスメント 2 呼吸器系に関する生理学検査データの解釈 (3) 呼吸サポートの増減を判断する能力 1 呼吸器系および循環器系のモニタリング 2 人工呼吸器の管理 (4) 離脱のテンポをコントロールする能力 1 呼吸維持のための介助やケア 2015 年 2 月 28 日 日本集中治療医学会日本クリティカルケア看護学会日本呼吸療法医学会 11

参考文献 1. 志馬伸朗 : 人工呼吸器関連肺炎の予防策, 日本外科感染症学会雑誌 7(4):345-355,2010. 2. 相馬一亥 : 人工呼吸器関連肺炎 (VAP ) - 予防, 診断, 治療 -,Medical Practice vol.7,1205-1209,2009. 3. Girard TD, Kress JP, Fuchs BD, Thomason JW, Schweickert WD, Pun BT, et al. Efficacy and safety of a paired sedation and ventilator weaning protocol for mechanically ventilated patients in intensive care (Awakening and Breathing Controlled trial): a randomised controlled trial. Lancet. 2008; 371(9607):126-34. Epub 2008/01/15. 4. Kress JP, Pohlman AS,O` Connor MF, et al: Daily interruption of sedative infusions in critically ill patients undergoing mechanical ventilation.n Engl J Med 342:1471-1477,2000. 5. Louise Rose, PhD, Katie N. Dainty, PhD, Joanne Jordan, PhD, and Bronagh Blackwood, PhDWeaning from Mechanical Ventilation:A Scoping Review of Qualitative Studies: American Journal of Critical Care,Vol.23,(5),e54-e70,2014. 6. Esteban A, Frutos F, Tobin MJ, Alia I, Solsona JF, Valverdu I, et al. A comparison of four methods of weaning patients from mechanical ventilation. Spanish Lung Failure Collaborative Group. N Engl J Med. 1995;332(6):345-50. Epub 1995/02/09. 7. Sessler CN, Gosnell MS, Grap MJ, Brophy GM, O'Neal PV, Keane KA, et al. The Richmond Agitation-Sedation Scale: validity and reliability in adult intensive care unit patients. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(10):1338-44. Epub 2002/11/08. 8. MacIntyre NR, Cook DJ, Ely EW, Jr., Epstein SK, Fink JB, Heffner JE, et al. Evidence-based guidelines for weaning and discontinuing ventilatory support: a collective task force facilitated by the American College of Chest Physicians; the American Association for Respiratory Care; and the American College of Critical Care Medicine. Chest. 2001;120(6 Suppl):375S-95S. Epub 2001/12/18. 9. Boles JM, Bion J, Connors A, Herridge M, Marsh B, Melot C, et al. Weaning from mechanical ventilation. Eur Respir J. 2007;29(5):1033-56. Epub 2007/05/02. 10. NIH NHLBI ARDS Clinical Network Mechanical Ventilation Protocol Summary. 2000: http://www.ardsnet.org/system/files/ventilator Protocol%Card.pdf. 11. 日本集中治療医学会. 人工呼吸関連肺炎予防バンドル 2010 改訂版 : http://www.jsicm.org/pdf/2010vap.pdf. 12

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