Journal club 2016/9/6

Similar documents
スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

HO_edit 重症市中肺炎とステロイド.pptx

市中肺炎に血液培養は必要か?

ROCKY NOTE 敗血症性ショックに対するステロイドの効果 :CORTICUS 他 (130904) 救急に興味のある学生と一緒に抄読会 敗血症性ショックに対するステロイドの有効性については議論のあるところ

ICUにおける酸素療法

PowerPoint プレゼンテーション

(別添様式1)

背景 1) 赤血球輸血は治療の一貫としてよく用いられる 赤血球輸血は免疫能に影響を与え 医療関連感染症のリスクであるとされてきた Blood Cells Mol Dis. 2013;50(1): ) 白血球除去が感染のリスクを減らすともいわれてきた Best Pract Res Clin

PowerPoint プレゼンテーション

めまい

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

要望番号 ;Ⅱ-24 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 8 位 ( 全 33 要望中

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会

救急外来患者におけてqSOFAは院内死亡を予測するか?

PowerPoint プレゼンテーション

172 第 3 部附録と GRADE profiler の用語集 附録 H QUOROM から PRISMA へ 従来,RCT に関するメタアナリシス報告の質を向上させるため,QUOROM (The Quality of Reporting of Meta-Analyses: メタアナリシス報告の質

Journal club

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D D94738C8C8FC782A982E782CC89F1959C82CC8EBF82F08CFC8FE382B382B982E9>

Jhospitalist.key

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

データの取り扱いについて (原則)

日本内科学会雑誌第98巻第12号

未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

h29c04

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

C 型慢性肝炎に対するテラプレビルを含む 3 剤併用療法 の有効性 安全性等について 肝炎治療戦略会議報告書平成 23 年 11 月 28 日

164 SDD & SOD SDD E100 mg 80 mg B500 mg 2 E 2 B 48 /59 81 SDD SOD 10 /63 16 RCT RCT 1992 Gastinne 15 ICU 445 SDD E100 mg 80 mg B 10

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

JHN Journal club 2014年9月3週目 飯塚担当分 急性腰痛.pptx

第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn

PowerPoint プレゼンテーション

インフルエンザ(成人)

EBM Reviews Ovid Ovid EBM Reviews ACP Journal Club Cochrane Database of Systematic Revie

PowerPoint プレゼンテーション

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2


PowerPoint プレゼンテーション

Sepsis-3の予測能と外的妥当性

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

臨床試験の実施計画書作成の手引き

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

Minds_3章.indd

ICU入室と慢性疾患治療薬の中止

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 【参考資料4】安全性に関する論文Ver.6

MEDLINE

課題名

というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

ARCTIC-Interruption

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

栄養について改めて考える

2

重症患者におけるRefeeding症候群

食物アレルギーから見た離乳食の考え方

Journal Club 2017/05/30 Tomohiro Matsumoto PGY-2

アセトアミノフェン オーストラリアとニュージーランドの 38 ICU 2 間の point prevalence study 結果 感染症を疑う 48.9% で使 解熱薬として最も使 頻度が い薬剤 Crit Care Resusc 2013; 15:

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

PubMed 1. CD-ROM MEDLINE MeSH PubMed 2. Automatic Term Mapping MeSH 3. Related Article MeSH Browser MeSH PreMEDLINE MeSH -2-

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

PowerPoint プレゼンテーション

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

「             」  説明および同意書

臨床医・臨床家のための医療情報検索セミナー

_HO_ジャーナル�__%25i%25V%1B%28B3.15%20ver2

JHN Journal Club 手稲渓仁会病院

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

PowerPoint プレゼンテーション

ROCKY NOTE 肺炎球菌 / レジオネラ尿中抗原の感度と特異度 ( ) (140724) 研修医が経験したレジオネラ肺炎症例は 1 群ではなかったとのこと 確かに 臨床的 に問題に

帝京大学 CVS セミナー スライドの説明 感染性心内膜炎は 心臓の弁膜の感染症である その結果 菌塊が血中を流れ敗血症を引き起こす危険性と 弁膜が破壊され急性の弁膜症による心不全を発症する危険性がある 治療には 内科治療として抗生物質の投与と薬物による心不全コントロールがあり 外科治療として 菌を

別紙様式 (Ⅴ)-1-3で補足説明している 掲載雑誌は 著者等との間に利益相反による問題が否定できる 最終製品に関する研究レビュー 機能性関与成分に関する研究レビュー ( サプリメント形状の加工食品の場合 ) 摂取量を踏まえた臨床試験で肯定的な結果が得られている ( その他加工食品及び生鮮食品の場合

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

14栄養・食事アセスメント(2)

既定の事実です 急性高血糖が感染防御機能に及ぼす影響を表 1 に総括しました 好中球の貧食能障害に関しては ほぼ一致した結果が得られています しかしながら その他の事項に関しては 未だ相反する研究結果が存在し 完全な統一見解が得られていない部分があります 好中球は生体内に侵入してきた細菌 真菌類を貧

Effect of a Retrievable Inferior Vena Cava Filter Plus An9coagula9on vs An9coagula9on Alone on Risk of Recurrent Pulmonary Embolism A Randomized Clini

第1 総 括 的 事 項

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

PowerPoint プレゼンテーション

第2次JMARI報告書

重症敗血症に対するステロイド投与は ショックを予防するか

3 スライディングスケール法とアルゴリズム法 ( 皮下注射 ) 3-1. はじめに 入院患者の血糖コントロール手順 ( 図 3 1) 入院患者の血糖コントロール手順 DST ラウンドへの依頼 : 各病棟にある AsamaDST ラウンドマニュアルを参照 入院時に高血糖を示す患者に対して 従来はスライ

CASE 高血圧 糖尿病 脂質異常症のある 69 歳女性 3 年前に心筋梗塞の既往あり EF<30% で ICD 植え込み後 心不全の症状はここ 1 年落ち着いているが NYHAⅢ の症状があ る メインテート ラシックス リピトール レニベース を内服 中である 本日も著変なく 2 ヶ月に一度の定

Transcription:

市中肺炎にステロイドは有効か Journal club 2016/9/6 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター PGY5 堤健

背景 全身性ステロイドで 全身 肺の炎症反応が改善する Eur Respir J.1999;14:218-20. ステロイド投与でサイトカイン放出を抑制する Clin Vaccine Immunol. 2012;19:1532-8. ステロイドの効果は 肺炎のタイプと重症度によって異なるが 多くの場合有益 しかし 死亡率は低下させず Cochrane Database Syst Rev. 2011:CD007720. ステロイド使用で 全体の死亡率は有意な低下なし 重症のみ 死亡率を減らした 高血糖 消化管出血 重複感染 PLoS One. 2012;7:e47926. 市中肺炎治療としてステロイドを推奨するには エビデンスが不十分

ガイドラインでの推奨はなし Septic shock を合併した重症肺炎では stress dose のステロイドが予後を改善 ショックでない重症肺炎でも有益である可能性はあるが 結論はでない IDSA/ATS guideline 2007 肺炎治療でのステロイドは推奨しない ERS/ESCMID guideline 2011 その後 幾つかの重要な RCT が発表された

JAMA. 2015;313:677. 2015/7/28 の Journal club で議論済

PICO P 重症市中肺炎 + 炎症反応高値 ( 入院時 CRP>15 mg/dl) I mpsl 0.5 mg/kg q12h 5 日間 ( 入院 36 時間以内に開始 )+ ガイドライン推奨の抗生剤 C プラセボ O 治療失敗

多施設共同 二重盲検化の RCT 120 名 ( 平均年齢 65 才 ) 重症 :mats criteria severe or PSI Ⅴ 人工呼吸器管理 : ステロイド群 8% プラセボ群 17% Septic shock 合併 : ステロイド群 17% プラセボ群で 31%(p 値記載なし ) 複合アウトカム - 早期治療失敗 : ショック 新規の人工呼吸器導入 3 日以内の死亡 - 晩期治療失敗 : 画像的増悪 重症呼吸不全の持続 ショック 新規の人工呼吸器導入 3 5 日目での死亡

mpsl 群 プラセボ群 早期治療失敗 10% 10% Not significant 晩期治療失敗 3% 25% p=0.001, NNT=5 画像的増悪 2% 15% p=0.007, NNT8 晩期敗血症性ショック 0% 7% p=0.06 入院死亡率 10% 15% Not significant 著者らは ステロイドの使用で晩期 (3 日目以降 ) 治療失敗を減らすと結論 しかし実際に低下していたのは 画像的増悪 死亡率の改善を示しているわけではなく ステロイドの使用は勧められない

Lancet. 2015;385:1511.

PICO P 市中肺炎で入院した成人 I Prednisone 50mg/ 日 7 日間 + ガイドライン推奨抗生剤 C プラセボ O 臨床的に安定するまでの日数 ( 最低 24 時間のバイタルサインの安定化 ) Prednisone の活性代謝物が Prednisolone

多施設 二重盲検化の RCT 802 名 ( 平均年齢 74 才 男性 62%) 腎不全 32% 糖尿病 20% 心不全 18% COPD 17% 重複感染 12% ベースラインの肺炎重症度は同等 - PSI Ⅳ~Ⅴ 48% 17 名 (2.1%) がランダム化後に除外されている

臨床的に安定するまでの日数 ( 中央値 ) Prednisone 群 プラセボ群 3 日 4.4 日 P <0.0001 入院日数 ( 中央値 ) 6 日 7 日 P = 0.012 肺炎の再発 6% 5% NS 再入院 9% 8% NS 肺炎関連合併症 @30 日目 3% 6% P = 0.056 肺炎関連の 30 日死亡 1% 2% NS 入院中の高血糖 19% 11% P = 0.001 著者らは ステロイド使用で臨床的に安定するまでの時間が短縮されると結論 しかし ステロイドには解熱作用があり 見かけ上のバイタルサインの安定化の可能性がある 30 日死亡が差がなく やはりステロイドの効果は疑わしい

今回の論文 Ann Intern Med. 2015;163:519. 前述の RCT を踏まえて 再度 systematic review & meta-analysis を行った

PICO P 市中肺炎で入院となった患者 (VAP 誤嚥性肺炎 PCP の研究 COPD に限定した研究を除外 ) I ステロイド使用群 ( 経口 or 静注 ) C プラセボ or 無治療群 O Outcome として少なくとも下記のうち 1 つを含む - 入院期間 臨床的に安定するまでの時間 全 ( 死因 ) 死亡 人工呼吸の要否 ICU 入室の要否 ARDS の発症

論文選定 検索に用いた文献データベース - MEDLINE, EMBASE, Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) 検索語 研究の種類 - MeSH term で pneumonia, corticosteroid - コクランレビュー (Cochrane Database Syst Rev. 2011:CD007720.) の手法を再現 - RCT - 言語は問わない 期間 :2010/01/01~2015/05/24 リストされている参考文献は Google scholar でも検索

2 人の査読者が独立にタイトルとアブストラクトから 2 重に検索 最終的に 全文を読んで選定 最終的に 13 の RCT を抽出 2005 名 9 つが新規

データの抽出と評価 2 人の査読者がそれぞれ独立にデータを抽出し バイアスのリスクを評価 合意が得られない場合は 議論を行ったうえで解決し 場合によっては 3 人目の査読者に相談 起こりうる有害事象も抽出 - 再入院 治療が必要な高血糖 消化管出血 重症の神経精神症状 ( せん妄 精神病 躁病を含む ) エビデンスの評価に GRADE system を採用 研究の妥当性の評価は Modification of Cochrane tool to assess risk of bias in randomized trials. で施行 ( 参考文献 19) 出版バイアスは funnel plot で評価

データの統合と分析 Random effects model を使用 異質性は結果の見た目 異質性の検査 I 2 統計量を使用 下記が治療効果に大きく関係すると考えた - 文献の出版年 ( 2000 年, 2001 年 ) - 肺炎の重症度 (Severe, Not Severe) - ステロイド使用期間 ( 4 日間 3 日間 ) - バイアスリスク (High, Low) 個々の outcome のイベント発症率は 大規模観察研究のデータを参考にした ( 死亡率 挿管の必要性 ARDS 移行率など )

重症肺炎 の定義 Pneumonia Severity Index: Ⅳ or Ⅴ CURB-65score:2 項目以上 IDSA/ATS guideline 2007:1 major or 3 minor BTS criteria:3 項目以上 ATS 2001 rule:1 major or 2 minor ATS 1993 criteria:1 項目 スコアがなければ 著者判断の 重症 を採用 研究ごとの 重症 の定義 70% 以上の患者が重症肺炎に分類 コントロール群で死亡率が 15% 以上

Result

集められた研究の特徴 国 : ヨーロッパが多い サンプルサイズ :30 700 程度 - Blum(2015),Meijvis(2011), Snijders(2010) で 64% 性別 年齢 - 男性の方が多い - 年齢の中央値 60 代前半 フォローアップ - 60 日 or 入院期間が多い ステロイド投与方法 - 種類は様々 - 経口 静注が両方あり - PSL 換算で 40-50mg が多い - 7 日間程度が多い 除外基準 - 3 ヶ月以内の消化管出血 - 免疫抑制患者 - 妊婦 - これまでのステロイド使用 - HIV, 血液悪性腫瘍, 化学療法 - 熱傷 Appendix Table1 より

バイアスの評価 サンプルの 70.4% がバイアスは low risk すべての結果での出版バイアスの検討はできず 全死亡のみ funnel plot で評価 ( 右図 ) All-cause mortality associated with corticosteroids in communityacquired pneumonia. RR = risk ratio.

全体 ステロイド群 死亡率 52/977 (5.3%) コントロール群 79/997 (7.9%) 全死亡 有効性が高く 途中で中止 PSI class Ⅳ 8.2%, Ⅴ 29.2% CURB 65 2 項目 3%, 3 項目 17%, 4 項目 41.5% 重症のみ ステロイド群 コントロール群 死亡率 16/215 (7.4%) 38/173 (21.9%) 重症肺炎で死亡率低下 軽症 ステロイド群 コントロール群 Moderate certainty 差がない 死亡率 36/762 (4.7%) 41/824 (4.9%)

全体 ステロイド群 コントロール群 人工呼吸器 17/550 (3%) 29/510 (5.6%) 重症 ステロイド群 コントロール群 15/135 (11%) 18/95 (18%) 軽症肺炎で使用率低下 軽症 ステロイド群 コントロール群 Moderate certainty 2/415 (0.4%) RRR 11/415 (2.6%) イベント発症数が少ない 重症 46% 軽症 82% P=0.011

ICU 入室 Moderate certainty ICU 以外から ICU に入室した患者を対象 軽症例 ステロイドを 4 日以上投与

全体 ステロイド群 コントロール群 ARDS 16/945 (1.6%) 2/472 (0.4%) 14/473 (2.9%) 診断基準を特定せず すべての研究でステロイド投与は 4 日間以上 すべて 2001 年以降の研究 Moderate certainty イベント発症数が少ない

入院期間 high certainty 退院は担当医の自由裁量で決定 中央値の平均 Mean difference の代わりに median を使用しても結果は同じであった 高い異質性 入院期間が 1 日減少

臨床的に安定するまでの時間 high certainty すべてのバイタルサインの安定化 ( 酸素不要 ) で定義されることが多い

DM 患者の割合不明 副作用 1: 高血糖 * 長期での有害事象なし 全体 184/1534 (11.9%) ステロイド群 119/784 (15.1%) コントロール群 65/750 (8.6%) high certainty 治療介入必要な高血糖のリスク増加

副作用 2: 消化管出血 全体 ステロイド群 7/628 (1.1%) コントロール群 10/595 (1.6%) 消化管出血のリスク変わらず

副作用 3: 重症神経精神症状 全体 ステロイド群 11/602 (1.8%) コントロール群 8/615 (1.3%) リスクに差はなし

再入院のリスク リスクに差はなし

Discussion Risk difference に相当 RR (95% CI) 推定される絶対的効果 Control Corticosteroid エビデンスの確からしさ 全死亡 0.67 (0.45-1.01) 8.5% 2.8% Moderate 人工呼吸器の要否 0.45 (0.26-0.79) 9.1% 5.0% NNT 20 Moderate ARDS 0.24 (0.10-0.56) 8.1% 6.2% Moderate 入院期間 安定までの時間 MD -1.0d (-1.79 to -0.21 d) MD -1.22d (-2.08 to -0.35 d) 9.1d 1.0 day High 4.7d 1.2 days High 治療必要な高血糖 1.49 (1.01 to 2.19) 7.1% 3.5% more High Table より作成

Discussion ステロイドは市中肺炎の死亡率を下げる可能性はあり - 重症群の結果に引っ張られている - 効果良好のため 途中で中止された研究 (Confalonieri et al, 2005) が影響 過大評価の可能性 - 研究 内 ではなく 研究 間 での違い - 他の結果 ( 人工呼吸器使用 ARDS 発症 ) が重症度と相関していないことが矛盾 重症群に限っては 予後改善の可能性はあるが 結論は出ない - 重症 炎症 であり 病態的には妥当 - しかし 今回の結果はサブグループ解析であり 確立された評価基準 ( 文献 52, 53) によれば 誤っている可能性あり

Discussion 先行研究 (meta-analysis) では ステロイドの ARDS 予防効果は示されていなかった (BMJ. 2008;336:1006.) - 肺炎以外の様々な疾患が含まれていた ステロイド投与時には判明していないことが多いため 原因微生物は考慮しなかった 炎症反応が高い集団に限定するアプローチを支持する専門家もいる - しかし 対象となる研究は 1 つのみ (JAMA. 2015;313:677)

Limitation ステロイドの種類 投与量 投与経路に関しては バラバラであり 不明 除外された免疫不全者 妊婦 最近の消化管出血の既往のある患者 神経精神症状のハイリスク患者での有効性は不明 イベント発生率の低かった 人工呼吸器使用 ICU 入室 ARDS 発症の結果は限定的 出版バイアスを排除できていない

Conclusion 入院するような成人の市中肺炎では 約 3% 死亡率を減少させ 約 5% 人工呼吸器使用を減らし 入院日数を 1 日減らすかもしれない

私見 重症市中肺炎には ステロイド投与をしたほうがいいかもしれないが 結論はまだ出ない - 使う場合は 除外基準を必ず確認 - CRP を指標にするのはあくまで expert opinion レベル 軽症例には ステロイドは不要 インフルエンザ (Cochrane Database Syst Rev.2016;3: CD010406.) やアスペルギルス (Am J Hematol. 2009;84:571.) ではステロイド投与によって悪化させる可能性があり 注意が必要 重症糖尿病も注意が必要 喘息や COPD の合併例には しっかりとステロイドを使うべき

ほぼ同時期に出た 3 本の systematic review

Chest 2016;149:209. ほぼ同時期 (1950/05 ~ 2015/05) のデータベースで行っている 9 RCT 6 cohort study の systematic review で 5762 名の成人を対象 - 9 個の RCT はすべて Siemieniuk et al, 2015 には含まれている

PICO P 市中肺炎の ( 入院となった ) 成人患者 I ステロイド使用群 ( 経口 or 静注 ) - 平均で mpsl 30mg 相当を 7 日間投与 C プラセボ or 無治療群 O Primary outcome: 死亡率 Secondary outcome 有害事象 ( 高血糖 重複感染 消化管出血 膿胸 ARDS) Efficacy outcome( 入院日数 ICU 滞在日数 抗生剤投与期間 臨床症状安定までの時間 再入院 )

GRADE quality Low 死亡率減少せず 重症のみ 5 RCT 347 名 死亡率減少せず GRADE quality Low

まとめ 死亡率は減少せず - 重症に限っても差はなし ARDS の発症を減らす可能性 (RR 0.21, 95% CI 0.08-0.59) 有害事象は増加しなかった 注意事項 本研究の GRADE system による evidence level の評価はすべて Low~ very low 重症群の結果が Siemieniuk et al, 2015 の結果と異なる原因 - 1 重症の定義が異なり 群分けが異なる 2 引用 RCT 数が少ない

PLoS One. 2015;10(12):e0144032.. 14 RCT 2007 名 Siemieniuk et al, 2015 に含まれていない RCT は Bennett,1963 Klastersky, 1971 のみ

PICO P 市中肺炎の成人患者 ( 重症度様々 ) 小児を含む研究 院内肺炎 ウイルス肺炎 ステロイドのレジメンを比較している研究は除外 I ステロイド使用群 (+ 抗生剤 ) C 抗生剤のみ ( 無治療群 ) O Primary outcome:30 日死亡 Secondary outcome: 入院日数 臨床的安定までの時間 重症合併症など

死亡率減少せず 死亡率減少

まとめ 死亡率への影響は不明 - 全体の死亡率は低下させず - ただし 重症例は死亡率を改善させるかもしれない 重症合併症 ( 昇圧剤使用 人工呼吸器使用 ) を減らし 入院期間 臨床的な安定までの時間を減少 重症群の定義は異なる

Sci Rep. 2015;5:14061. 横浜市立大学呼吸器内科グループのメタアナリシス

PICO P 入院が必要な市中肺炎の成人患者免疫抑制者 吸入ステロイド 院内肺炎 小児 原因生物が明記されている研究は除く I ステロイド使用群 (+ 抗生剤 ) C 抗生剤のみ ( 無治療群 ) O 死亡率 ( 複数ある場合 より長い方を選択 ) ICU 滞在日数 入院日数 臨床的に安定するまでの時間

結果 サブグループ解析 10 RCT, 1780 名 Siemieniuk et al, 2015 に全て含まれる 患者群もほぼ同等 バイアスの評価方法に言及なく Unclear が多い (4/10) (95% CI) 全死亡 OR 0.80 (0.53-1.21) 重症群 OR 0.41 (0.19-0.90) ICU 滞在日数 -1.30 日 (-3.04 to 0.44) 入院日数 -0.98 日 (-1.26 to -0.71) 臨床的安定までの時間 -1.16 日 (-1.73 to -0.58) 全死亡は低下しないが 重症群で低下する可能性 入院期間 臨床的安定化までの時間を短縮する可能性

Extended Steroid in CAP(e) (ESCAPe study) 現在進行中の二重盲検化 RCT 1450 名 重症の基準は IDSA/ATS guideline 2007 の基準を使用 ステロイド投与方法についても検討 2016 年 8 月終了予定! P 重症市中肺炎 I mpsl 投与 C プラセボ O Primary outcome:60 日死亡 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/nct01283009

市中肺炎にステロイドは有効か 現時点では 市中肺炎全例へのステロイド投与は不要 重症例に対する使用を否定するものではないが 有効性は証明されていないとすべき - 最近の消化管出血 免疫抑制患者などの除外基準に該当する患者では使用してはならない