埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ テーマ H: 単振り子の振動の近似解と厳密解. 運動方程式図 のように, 質量 m のおもりが糸で吊り下げられている時, おもりには重力 W と糸の張力 が作用しています. おもりは静止した状態なので,W と F は釣り合った状態注 ) になっています. すなわち, W です.W は質量 m と重力加速度 の積となるため, W m と表わされます. 注 ): 釣り合った状態 とは, つの力が, 値が等しく方向が正反対である状態をいいます. ここで, おもりを手で水平方向に引張り, 静止位置から角度 だけおもりを振り上げた 状態にしたとき, おもりには, 重力 W, 水平方向の力 f, が作用し, 合力である f が糸の 張力 とつりあいます. すなわち, 図 より, W f () cos となり, なので, 糸の張力 は W から W/cosに増加することが分かります. 糸の cos 張力 は一定ではなく, おもりの位置によって変化します. 次に, 指を放すと, 水平方向 の力 f が無くなるため, 図 の力のつり合いが成立しなくなります. この時, おもりに作 用するのは, 重力 W と糸の張力 のみとなります. これらの力は, 糸に直角な方向に合力 f を発生させ, おもりを運動させることになります. ただし, おもりは糸によって運動 を拘束されるため, 結果として円運動をすることになります. この時, 糸の張力は W cos () であり, cos なので, 手を放したとたんに糸の張力は図 の W/cosから Wcosに減少 することが分かります. 振り子ではおもりが運動している間, 糸の張力 は常に変動し, おもりが図 の状態となった時が最大となります. 最大値は W です. m W f f O s f W x が微小なら s 図 図 図 図 重力 W と糸の張力 の合力 f の向きは, 図 のように半径 の円周の接線方向となり, その大きさは
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ f W m () です. この合力 f により, おもりは円弧を描くように往復運動することになります. そ こで, 運動を x, y 成分で考えるより, 円軌道に沿う運動を考えた方が, 問題が簡単になる ため, 振り子のつりあいの位置 O から円弧に沿って s 軸を取ることにします. この合力 f はおもりを s 軸の負の方向に運動させる力となるため, おもりの運動方程式は すなわち d s m f m () d s () と表わすことができます. 円弧の長さ s, 半径, 角度 には s () の関係があり, 階微分は d s d (7) となるので, 運動方程式はおもりの角度に対して d () と表わすことができます. この式は, 角加速度 [rd/s ] を与える式でもあり, 角加速度は角 度によって変化することが分かります.. 運動方程式の近似解 () 式の運動方程式は簡単な微分方程式のように見えますが, 三角関数を含んでいるため, このままでは解を求めることができません. ただし, 円弧の角度 が微小の場合には解を 求めることができます. 図 において, が微小の場合, 三角形の高さ x は円弧の長さ s にほぼ等しくなり x s (9) とおけるため x s () となり, 運動方程式は, d と近似することができます. この方程式の解は,A と B を定数として, A t B cos t () と表わされます. この式を微分すると d A cos t B t () ()
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ d A t B cos t A t B cos t () となって, 運動方程式を満たすことから証明することができます. A と B は, 初期条件から決定する必要があります. そこで, t で として () 式 に代入すると A B cos B すなわち, B となります. d つぎに, t で として () 式に代入すると A cos B A すなわち, A となり,() 式は cos t () と決定されます. このように, 解が周期関数で表わされる振動を単振動といい, 単振動で 近似できる振り子を単振り子といいます. れます. すなわち, は角振動数 [rd/s] と呼ばれ, 記号 で表わさ () です. 角振動数 を で割った値は, おもりが 秒間に往復する回数を表わし, 振動数 f [Hz] と呼ばれます. すなわち, f (7) Hz はヘルツと呼び,/s と同じ単位です. おもりが一往復するのに必要な時間は, 周期 [s] といい, 振動数の逆数となります. すなわち, () f です.. 運動方程式の数値解 () 式の運動方程式は角度 が微小で が成立する場合に限られ, おもりが大きく振れる場合には, 正確ではありません. 角度 が大きな場合の値を求めるには,() 式を解
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ かなければなりません.() 式の解析解を求めることは容易ではありませんが, 次のように 連立微分方程式に変換すれば, ルンゲクッタ法による常微分方程式の数値解法を適用して, 数値解を得ることができます. ただし, 若干の誤差はどうしても発生してしまいます. d 角速度 : z 角加速度 : (9) dz () ルンゲクッタ 次解法を用いて, 角度, 角速度 z, 振り子の周期 を求めるためのプログラム例を示します. 使用言語 : VisuBsic 計算条件 : 糸の長さ =.m 初期条件 : 角度初期値 =de 角速度初期値 =de/s 変数 t, q, z が時刻 t, 角度, 角速度 zに相当します. Privte Sub Commd_Cick() Dim h, t, q, z, k,, k,, k,, k,, q, q As Doube N = ' 計算繰り返し数 h =. ' 計算刻み [s] t = ' 時刻初期値 [s] q = ' 振れ角 [de] q = q *.9 / ' 初期角度を rd に変換 z = ' 角速度初期値 [rd/s] For i = o N k = h * difeq(t, q, z) = h * difeq(t, q, z) k = h * difeq(t + h /, q + k /, z + / ) = h * difeq(t + h /, q + k /, z + / ) k = h * difeq(t + h /, q + k /, z + / ) = h * difeq(t + h /, q + k /, z + / ) k = h * difeq(t + h, q + k, z + ) = h * difeq(t + h, q + k, z + ) t = t + h q = q + (k + * k + * k + k) / z = z + ( + * + * + ) / If i Mod = he Prit t, q, z ' 回に 回時刻 [s], 角度 [rd], 角速度 [rd/s] を表示する If q <= he ' 角度が負になるとき= 分の 周期 q = * (t - h) ' 周期 = 時刻の 倍 Exit For Ed If Next Prit i, q ' 繰り返し回数と周期を表示 Ed Sub
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ Pubic Fuctio difeq(t, y, z) As Doube difeq = z '(9) 式 Ed Fuctio Pubic Fuctio difeq(t, y, z) As Doube Dim, As Doube = 9. ' 重力加速度 [m/s/s] =. ' 糸の長さ [m] difeq = - / * Si(y) '() 式 Ed Fuctio. 振り子の周期 の厳密解 エネルギー保存の法則から振り子の周期 の式を求めることができます. O x y h h v 振り子の支点より水平方向に x 軸を取り, 鉛直下方に y 軸を取ると, エネルギー保存の 法則から, 次式が成立します. mv mh ただし,v はおもりが円周方向に移動する速度で, h はおもりの落下距離です. ここで, なので さらに なので, より, () h cos cos cos cos () 図 cos cos v cos cos mv m () ds d v () d cos cos ()
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ d () cos cos が得られます. これを積分すると周期を求めることができます. ただし, 左辺の積分範囲 をt から 分のの周期に相当するt とすると, 右辺の積分範囲は, から になります. d cos cos (7) より d () cos cos 右辺の積分が分かれば, 厳密な周期を求めることができますが, そのために変数変換を行 う必要があります. さらに cos cos cos cos (9) とおき, 変数変換を行います. cos () さらに, 変数変換式の全微分を行うと
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -7/ d d d d cos d cos d d cosd cos () さらに, なので となります. cos () d cosd () のとき, より, () のとき, より, () となるので積分範囲は,が から のとき,は からとなります. これらをまとめる と, 積分は次のように変換されます. cosd d d cos cos cos () 最後の式の積分は, 次の楕円積分の公式が適用できます.
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ d I!!!! ただし,!! () 参考 :!! は 重階乗といい, 以下のように計算します.!! 7 7!!!!!!!!!!!!!!!! 結果は, 以下の通りです. d!!!! (7) 具体的には, とおくと 7 99 9 9 7 9 7 7 (). 微小角の範囲ところで, 近似解が成立する微小角 とは何度までをいうのでしょうか? 近似解および数値解を厳密解と比較した結果を表 に示します. 計算条件糸の長さ =.m 重力加速度 =9.m/s 厳密解 :() 式を の項まで使用近似解 :( ) 式より.7 9.. s ( 近似解は振れ角 に関係なく一定です )
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -9/ 数値解 : 第 節のプログラムを使用表 から分かるように,と の値の差は,の増加に従ってどんどん増加して行きます. その様子を図 に示します. 厳密解は近似解 (.7s) より大きな値を示し, 近似解の周期の誤差は, 角度の誤差に比較すると小さいものの, やはり振れ角の増加につれて増加していくことが分かります. その様子を図 7 に示します. 数値解の周期の誤差は, 厳密解に対して.% 以下となり, に関係なくほぼ一定しています. その様子を図 に示します. グラフが変動しているのは, 数値計算上の特性です. なお, 数値解はが de 以下でも厳密解と完全に一致することはありません. これは数値解法の限界といえます. 結局, 微小角が何度を意味するかは, 許容できる誤差の程度しだいと言えそうです....... 7 9 7 9 7 9 7 9 7 9 7 9 図 に対する の誤差 [%] と振れ角 [de] の関係 ( 横軸は振れ角 [de], 縦軸は誤差 [%]). 7 9 7 9 7 9 7 9 7 9 7 9 -. -. -. -. -. -. -7. -. 図 7 周期の厳密解に対する近似解の誤差 [%] と振れ角 [de] の関係 ( 横軸は振れ角 [de], 縦軸は誤差 [%])
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/....9..7...... 7 9 7 9 7 9 7 9 7 9 7 9 図 周期の厳密解に対する数値解の誤差 [%] と振れ角 [de] の関係 ( 横軸は振れ角 [de], 縦軸は誤差 [%])
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 単振り子の振動の近似解と厳密解 -/ 振れ角 [de] [rd] 表 周期の値と誤差 と の誤差 [%] 周期厳密解 [s] 周期数値解 [s] 近似解の誤差 [%] http://www.sit.c.jp/user/koishi/jpn/l_support/supportpdf/simpepeduum.pdf Copyriht c, 小西克享, A Rihts Reserved. 個人的な学習の目的以外での使用, 転載, 配布等はできません. お願い : 本資料は, 埼玉工業大学在学生の学習を支援することを目的として公開しています. 本資料 の内容に関する本学在学生以外からのご質問 ご要望にはお応えできません. 数値解の誤差 [%].7.7... -...97.99...7 -..9..... -...9.97..7. -..9.7.7.7..9 -..7.7.... -.9.9 7.7.9.9.97. -.9.9.9.97... -.. 9.7.... -...7.7... -.9..99.99.7.. -...9.79.7.. -.7.7.9.9...7 -..7..9..7.7 -.7.7.799.9..7.7 -.9.7.79.77..7.7 -.. 7.97.97..7. -..9.9.97... -.7. 9...7.7.9 -..9.9...9.9 -.7..9..7.97. -..7.97.77..7. -.9...97.77.. -.7..79.77.9..7 -.9.97..... -.9.9.7.7...9 -.. 7.79.99.799.9. -.7.7.9.97.9.97. -.9.7 9..... -..9.99..7..7 -.7.....79. -....999.9.97.7 -.97..799.9.7.77. -.7..9.99.9..9 -.9...77..99.9 -..7.9.77.9.9.7 -..7 7.77. 7... -.... 7.7.7. -.7. 9.7.9..7. -.9.79.9.7... -.9..7.9 9.7.9. -.9.9.7.9 9..9. -..9.79.99..7.77 -...779.9..7. -.7..79.777.7.97. -..7..79.9.9. -.7.9 7..7... -.9.9.77.7.7.7. -.7. 9..77.7.9.9 -...7.7.9.9. -.7..9.777.7.79.7 -.9..977.7.7..9 -..7.9.79..7.7 -.7..97.97.97.79.7 -.9..999.9 7..79.7 -.7.7.977.9 7.9.7.7 -.9. 7.99.7..799.7 -.7..9. 9.7.77.77 -.7.7 9.97.77..79.79 -.9.7.79..9.797. -.9.7