経済学 第 12 回 井上智弘 2010/6/30 経済学第 12 回 1
注意事項 復習用に, 講義で使ったスライドをホームページにアップしている. http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html 2010/6/30 経済学第 12 回 2
前回の復習 限界費用 (MC) とは, 追加的に 1 単位生産量を増やすときの総費用の増加分のこと. 平均費用 (AC) とは, 生産物 1 単位当たりの総費用のこと. 総費用 AC = = 生産量 TC Q» 限界費用は, さらにもう 1 単位生産するのに生産費用がいくらかかるのかを表す.» 平均費用は, これまで生産した生産物 1 単位につき生産費用がいくらかかっているかを表す. 2010/6/30 経済学第 12 回 3
限界費用 自動車の生産量 Q 固定費用 FC 可変費用 VC 総費用 TC 0 108 0 108 1 108 12 120 2 108 48 156 3 108 108 216 4 108 192 300 5 108 300 408 6 108 432 540 7 108 588 696 8 108 768 876 9 108 972 1,080 10 108 1,200 1,308 限界費用 MC 2010/6/30 経済学第 12 回 4 12 36 60 84 108 132 156 180 204 228
前回の復習 TC MC 1000 200 500 100 108 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 2010/6/30 経済学第 12 回 5
前回の復習 可変投入物の限界生産物が生産量の拡大とともに減少» 生産量が増大すると総生産曲線の傾きが緩やかになる. 生産の限界費用が生産量の拡大とともに増加» 限界費用曲線は右上がりになる. 生産量が増大すると総費用曲線の傾きが急になる. 2010/6/30 経済学第 12 回 6
前回の復習 150 100 50 0 1 AC 最小費用生産量 2 3 4 5 6 7 8 9 10 自動車の生産量 Q 総費用 TC 平均費用 AC=TC/Q 1 120 120.0 2 156 78.0 3 216 72.0 4 300 75.0 5 408 81.6 6 540 90.0 7 696 99.4 8 876 109.5 9 1,080 120.0 10 1,308 130.8 2010/6/30 経済学第 12 回 7
前回の復習 平均費用を平均固定費用 (AFC) と平均可変費用 (AVC) に分割する. AC = TC Q = FC + VC Q = FC Q + VC Q = AFC + AVC 平均費用 = 平均固定費用 + 平均可変費用 2010/6/30 経済学第 12 回 8
生産量 Q 総費用 TC 固定費用 FC 前回の復習 可変費用 VC 平均費用 AC=TC/Q 平均固定費用 AFC=FC/Q 平均可変費用 AVC=VC/Q 1 120 108 12 120.0 108.0 12.0 2 156 108 48 78.0 54.0 24.0 3 216 108 108 72.0 36.0 36.0 4 300 108 192 75.0 27.0 48.0 5 408 108 300 81.6 21.6 60.0 6 540 108 432 90.0 18.0 72.0 7 696 108 588 99.4 15.4 84.0 8 876 108 768 109.5 13.5 96.0 9 1,080 108 972 120.0 12.0 108.0 10 1,308 108 1,200 130.8 10.8 120.0 2010/6/30 経済学第 12 回 9
前回の復習 AVC 100 50 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 AFC 2010/6/30 10
平均固定費用は生産量が増えると減少していく. 拡散効果 平均可変費用は生産量が増えると増加していく. 収穫逓減効果 生産量が少ないときには, 拡散効果 > 収穫逓減効果 平均費用曲線は右下がり 生産量が多いときには, 拡散効果 < 収穫逓減効果 平均費用曲線は右上がり 平均費用曲線は U 字型になる ( 底は最小費用生産量の点 ). 2010/6/30 経済学第 12 回 11
自動車の費用 250 MC 200 150 100 50 M AC AVC AFC 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 最小費用生産量 自動車の生産量 2010/6/30 経済学第 12 回 12
前回の復習 AC>MC のとき,AC は生産拡大とともに減少する. MC AC M AC<MC のとき,AC は生産拡大とともに増加する. AC が最も小さくなる点では,AC=MC となる. 2010/6/30 経済学第 12 回 13
前回の復習 より現実的な費用曲線 MC AC AVC AC が一番小さくなる点で,AC=MC となる. AVC が一番小さくなる点で,AVC=MC となる. 生産量 2010/6/30 経済学第 12 回 14
短期の費用と長期の費用 本日の内容 完全競争 2010/6/30 経済学第 12 回 15
短期の費用と長期の費用 これまでは, 短期的状況について考えてきた.» 企業は固定費用を調整できない. 短期と長期で企業の費用はどの変化するのか? 固定費用を調整できる場合について考える. 2010/6/30 経済学第 12 回 16
短期の費用と長期の費用 自動車製造業者は, さらに機械を導入するかどうかを検討しているとする. 機械の増設が総費用に及ぼす影響 : 1 短期的な固定費用の上昇 2 可変投入物の生産性の上昇による可変費用の低下» ある一定量を生産するのに必要な可変投入物の数量が減るので, どの生産量の水準でも可変費用は低下する. 2010/6/30 経済学第 12 回 17
自動車の生産量 低い固定費用 (FC = 108) 高い固定費用 (FC = 216) 高い可変費用 総費用 平均費用 低い可変費用 総費用 平均費用 1 12 120 120.0 6 222 222.0 2 48 156 78.0 24 240 120.0 3 108 216 72.0 54 270 90.0 4 192 300 75.0 96 312 78.0 5 300 408 81.6 150 366 73.2 6 432 540 90.0 216 432 72.0 7 588 696 99.4 294 510 72.9 8 768 876 109.5 384 600 75.0 9 972 1,080 120.0 486 702 78.0 10 1,200 1,308 130.8 600 816 81.6 2010/6/30 経済学第 12 回 18
短期の費用と長期の費用 生産量が少ないときは, 機械の追加導入による固定費用増大の効果が労働の生産性上昇による可変費用低下の効果より大きい ( 生産量が多いときは反対になる ). それぞれの生産水準に対して平均費用を最小化する固定費用の水準を選ぶことができる. 固定費用の水準を決めたときに導くことができる平均費用曲線のことを, 短期の平均費用曲線 と呼ぶ. 2010/6/30 経済学第 12 回 19
短期の費用と長期の費用 どのような固定費用を選択するかによって, 短期の平均費用曲線が変わる. 企業は, 長期的な生産量の予想に応じて, 平均費用が最小となるように固定費用を選択する.» たとえば, 自動車を 3 台生産していたときに, 当面,8 台への生産拡大を見込めるようになった場合, 長期的にはその生産水準に応じて固定費用を増やす. 2010/6/30 経済学第 12 回 20
短期の費用と長期の費用 長期には, それぞれの生産量について, 平均費用を最小化するように固定費用が選択される. この結果として求められる平均費用曲線のことを 長期の平均費用曲線 (LAC) と呼ぶ.» 長期の平均費用曲線は, 各生産量に対して平均費用を最小化するように固定費用が選ばれた場合の生産量と平均費用の関係を表す.» 選択可能な固定費用がたくさんあるとすれば, 長期の平均費用曲線はスムーズなU 字型になる. 2010/6/30 経済学第 12 回 21
短期の費用と長期の費用 長期では, 生産者は望ましい生産量に応じた適切な固定費用を選択するだけの時間があるため, 生産は長期の平均費用曲線上のどこかで行われる. ただし, 急にその生産量が変化すると, 長期の平均費用曲線上ではなく, 現在選択している短期の平均費用曲線に沿って費用が決まる. 固定費用の再調整を行って, 平均費用を新しい生産水準に対応したものに変更するまでは, 長期の平均費用曲線上から外れる. 2010/6/30 経済学第 12 回 22
自動車の費用 AC 6 LAC B AC 3 AC 8 A E D C 3 6 8 自動車の生産量 2010/6/30 経済学第 12 回 23
AC 3 曲線は生産量が 3 台のときの平均費用を最小にするように固定費用を選んだ場合の短期の平均費用曲線. AC 3 曲線は生産量が 3 台のとき,LAC と接する. 長期的に生産量が 3 台のときの平均費用が最も低くなるように固定費用を選択した場合, その固定費用から導かれる短期平均費用曲線の最小費用生産量が 3 台になるとは限らない. AC 3 曲線は, 最小費用生産量が 3 の短期平均費用曲線であるとは限らない. 2010/6/30 経済学第 12 回 24
企業がもともと AC 6 で生産活動ができるような固定費用を選択していた場合, 生産量が 6 台のときは点 C で生産活動を行う.» 点 C は LAC 上の点である.» 3 台しか生産しなくなると, この企業は AC 6 上の点 B で生産することになり,LAC 上では生産できなくなる.» 固定費用を下げてもっと低い平均費用 (AC 3 ) を実現していれば, 点 B より下の点 A で生産活動ができていた.» 反対に,8 台も生産することになったとすると, 短期的には AC 6 上の点 E で生産することになる.» 固定費用を増やして可変費用を減らし, より低い平均費用 (AC 8 ) を実現していれば, 点 E より下の点 D で生産活動ができていた. 2010/6/30 経済学第 12 回 25
短期の費用と長期の費用 急激な需要増大に対応して生産量を突然増やさなくてはいけないような場合, 企業の短期の平均費用は急激に増大する. しかし, 時間をかければ, 新工場を建設したり, 機械を新たに導入したりして, 平均費用を下げることができる. 2010/6/30 経済学第 12 回 26
規模の経済性 生産量が拡大するにつれて長期の平均費用が減少する場合, 規模の経済性があるという.» 自動車の生産量が 6 台より少ない範囲 生産量が拡大するにつれて長期の平均費用が増加する場合, 規模の不経済性があるという.» 自動車の生産量が 6 台より多い範囲 生産量が拡大しても長期の平均費用が変わらず一定の場合, 規模に対する収穫不変の状況にあるという. このとき, 長期の平均費用曲線は水平になる. 2010/6/30 経済学第 12 回 27
ここまでのまとめ 費用の測り方定義表記 短期固定費用生産量に依存せずかかる費用 FC 平均固定費用生産物 1 単位につきかかる固定費用 AFC = FC/Q 長期と短期可変費用生産物に応じてかかる費用 VC 平均可変費用生産物 1 単位につきかかる可変費用 AVC = VC/Q 総費用 固定費用 ( 短期の場合 ) と可変費用を足し合わせた費用 TC = FC + VC 平均費用生産物 1 単位につきかかる総費用 AC = TC/Q 限界費用 もう 1 単位生産量を増やしたときの総費用の増加額 長期 長期の平均費用 各生産量での平均費用を最小にするよ うに固定費用を選んだ場合の平均費用 MC LAC 2010/6/30 経済学第 12 回 28
完全競争 たとえば, トマトのような生鮮野菜の市場では, 非常にたくさんの農家がトマトを生産して, 非常にたくさんの消費者がトマトを購入している. このような状況で, ある 1 軒のトマト農家がトマトを作るのをやめたり, 例年の 2 倍作ったりすると, トマトの市場価格は変わってしまうだろうか? 2010/6/30 経済学第 12 回 29
完全競争 トマトを生産している農家は非常にたくさんあるので, たった 1 軒のトマト農家が少なく生産しようが, 多く生産しようが, トマトの市場価格は変わらない. 競争相手がたくさんいるため, 自らの行動で財の市場価格を変えることができない. トマト農家は価格受容者 ( プライス テイカー ) である. 2010/6/30 経済学第 12 回 30
完全競争 経済学では, 競争が激しい状態というのは, 非常に多くの競争相手が存在し, 自分の競争相手がだれかを特定することには意味がなくなるような状態を指す.» 2 つ,3 つの企業が互いに優位に立とうとして争っているような状況は, 経済学的にはあまり競争がない状況である. 競争が十分に激しく経済学的に競争が 完全 である状態のとき, すべての生産者は価格受容者である. 2010/6/30 経済学第 12 回 31
完全競争 消費者についても同じように考えて, ある消費者がどれくらい多く買おうが少なく買おうが, その財の市場価格が変化しない状況のとき, その消費者を価格受容者という. 2010/6/30 経済学第 12 回 32
完全競争 生産者であろうと消費者であろうと, すべての市場参加者が価格受容者である市場のことを完全競争市場と呼ぶ.» 需要と供給のモデルで扱ってきた競争市場とは, 完全競争市場のこと. ほとんどの場合に消費者は価格受容者であるが, 生産者は財の価格に影響を及ぼすことができる場合がある. すべての市場が完全競争市場ではないが, ある産業の生産者が価格受容者であれば, その産業は完全競争産業と呼ばれる. 2010/6/30 経済学第 12 回 33
完全競争 すべての生産者が価格受容者になるのはどんなときか? 完全競争産業が成立するためには 2 つの条件がある. さらに, もう 1 つ, 条件が付け加えられることがある. 2010/6/30 経済学第 12 回 34
完全競争 産業が完全競争となる 2 つの必要条件 1. その産業に多くの生産者がいて, どの生産者も大きな市場シェアをもたない. 2. どの生産者の生産物であっても, すべて同じであると消費者が認識している. 2010/6/30 経済学第 12 回 35
完全競争 1. その産業に多くの生産者がいて, どの生産者も大きな市場シェアをもたない.» 市場シェアとは, 産業全体の生産量に占めるその生産者の生産量の割合のこと.» 市場シェアが大きい生産者は, 自分が生産量を変えると市場全体の供給量が大きく変わるため, 市場価格に影響を及ぼすと考える.» すべての生産者が価格受容者であるためには, 市場シェアの大きい生産者がいないという条件が必要になる. 2010/6/30 経済学第 12 回 36
完全競争 2. どの生産者の生産物であっても, すべて同じであると消費者が認識している.» 同じ腕時計であっても, 消費者はロレックスの腕時計と100 円ショップで売っている腕時計が代替品になるとは思わない.» したがって, ロレックスの生産者は,100 円ショップに顧客を丸ごと奪われるかもしれないということを心配することなく, 値段を上げることができる.» しかし, 消費者は, あるトマト農家と別のトマト農家のトマトについては代替可能な財だと思っている.» このときに, ある農家が販売するトマトの値段を上げると, 他の農家に売り上げをすべて奪われてしまうことになる. 2010/6/30 経済学第 12 回 37
完全競争» このように, 消費者が異なる生産者の生産物をまったく同じ財だとみなす場合, その財は同質財と呼ばれる. また, 財が標準化 ( コモディティ化 ) されるという意味で, 標準的製品やコモディティとも呼ばれる.» すべての生産者が価格受容者であるためには, それぞれの生産者の生産物が消費者にとって同じものだとみなされていなければならない. 違うものであれば, 価格に影響を与える余地が出てくるため. 2010/6/30 経済学第 12 回 38
完全競争 完全競争産業の第 3 の必要条件として, 産業には自由参入と自由退出の性質があるという条件がある.» 新規の生産者にとっては, 政府の規制や投入物の資源獲得が難しいなどの市場参入の障壁がない. 自由参入» 既存の生産者にとっては, 会社をたたんで産業から退出するのに余計な費用がかからない. 自由退出 2010/6/30 経済学第 12 回 39
完全競争 自由参入と自由退出は完全競争が成立するために必ず必要というわけではない.» 数多くの生産者が存在すれば, 生産者は価格受容者になる. しかし, 変化し続ける市場で生産者数の調整を可能にするためには, 自由参入と自由退出という条件は重要な性質となる.» 需要が増えれば生産者が市場に参入し, 需要が減れば市場から退出する生産者が出てくる. 2010/6/30 経済学第 12 回 40
まとめ 生産者が価格受容者となり, 完全競争が成立するための必要条件 1 産業には多くの生産者が参加していて, 各生産者はほんの少しの市場シェアしかもっていない. 2 産業では同質財が取引されている. 3 さらに, 完全競争産業には自由参入と自由退出の特性がある. 2010/6/30 経済学第 12 回 41
問題 以下の各状況にある産業は完全競争的と言えるか? a. 世界に 2 社のアルミニウム生産者がある. アルミニウムはいたるところで取引されている. b. 北海で天然ガスを生産しているのはごく少数の企業だ. 天然ガスの価格は世界全体の供給と需要で決まっている. その中で, 北海で生産される天然ガスの占める割合はごく一部だ. クルーグマン ウェルス ミクロ経済学 p.249 より 2010/6/30 経済学第 12 回 42