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lt = 若年期の労働供給量, t c + = 老年期の消費量, w t = 賃金率, s t = 貯蓄量, r t+ = 資本の レンタル料 ( 貯蓄からの純収益率,δ = 資産の減耗率である. 上記の最適化問題を解くと以下の式が得られる. lt =Ψ ( c t +, c Ψ t+ φ ただし

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米作の非効率性と限界生産物価値 原浩太 草苅仁 ( 神戸大学大学院自然科学研究科 神戸大学大学院農学研究科 ) On the Estton Bs of Shdo Vle Csed fro Ineffen n the Re Prodton n Jn (Kot Hr, Htosh Ksr) 1. はじめに日本の水田には 零細分散錯圃 と言われる特徴がある. 水田 1 枚ごとの面積が小さく, さらに,1 戸の経営する水田が 1 か所にまとまっておらず広範囲に分散している. そのため, 大規模経営における圃場枚数の著しい増大と分散範囲の拡大, 遠距離化等の問題が生じている. それにともない, 圃場間の移動コストのほかに畦草刈り労働の増加, 水見回数の増加, 用排水の維持管理作業の増加, 水利費の増加, 劣等地や小区画田を含む可能性が高まるため, 収量の低下や機械作業の効率低下などコスト増大要因となっている. こうした現状に対し, これまで圃場整備に巨額の資金が投下されてきたが, 現在に至っても 零細分散錯圃 は解消されたとは言えず, 非効率性は存在し続けている. このような非効率性が存在する生産環境のもとでは, 今日まで観察されてきた米作農家の生産点は長期均衡に達しているとは考えにくい. それにもかかわらず, 日本の米作に関しては, 農家の生産点が長期均衡に達していることを仮定した生産関数や費用関数による様々な計量分析が行われ, 規模の経済や技術進歩の偏向性など重要な知見が導き出されてきた. こうした非効率性を明示的に扱うことのできる分析方法としてフロンティア生産関数分析が存在する 日本の米作についても複数の研究が実施されている. それらの先行研究においては米作における非効率性の存在が指摘されてきたが, 非効率性の大きさやその要因の析出に分析の主題があり, 非効率性が土地の限界生産物価値に与える影響を扱った研究は, 私見では見受けられない ( 伊藤, 高橋 5 ). 本稿では土地の限界生産物価値と非効率性の関係について考察する. そのため, 生産フロンティアと現実の観測点における限界生産物価値をともに推計することが可能な確率的フロンティア可変利潤関数を用いて実証分析を行う. ここでは, 零細分散錯圃 によって非効率性がもたらされると特定することで, 生産フロンティアを 土地の断片化による非効率性を最小化した状態 として捉えるとともに, 現実の観測点よりも長期均衡の想定に近い状態として扱う. したがって, 生産フロンティアと観測点の限界生産物価値に乖離がみられる場合, 現実の観測点を長期均衡点として扱うことには問題があると考えられる. また, 零細分散錯圃 による非効率性は作付規模が大きい農家ほどその影響を受けやすいと考えられるため, この点についても検討する.. 分析の枠組み 1) 技術非効率性と土地の限界生産物価値限界生産物価値の計測は, 安定した価格データの得られない生産要素に対する生産者の自己評価額を知るために重要であり, 既存研究で数多く行われてきた. ここでは非効率性と限界生産物価値の関係について図を使って説明する. 第 1 図は土地 z に関する生産フロンティアと技術非効率性 の存在する観測点の関係を表している ( 註 1). は生産物価格, が生産フロンティア上の sz sz C z f ( x, z ) f ( x, z) e 第 1 図生産フロンティアと土地の限界生産物価値 z

生産点 C における生産量であり, 技術非効率性が存在しないときの最適供給量である. は観測点 における生産量を表し 技術非効率性が存在するときの最適供給量である. このとき, 土地の資源制約や減反政策によって z に固定されているとすると, s z は土地の限界生産物価値 ( シャドーバリュー ) であり 農家内部で供給される土地に対する農家の自己評価額であるために内生的に決定される また, フロンティア上の生産点 C における限界生産物価値 sz と観測点 における限界生産物価値 s z は, 技 術非効率性の影響を受けて乖離する. sz > sz であれば, 零細分散錯圃などの技術非効率を解消することにより, 土地の限界生産物価値は大きくなり, 農家が作付規模を拡大する意欲は大きくなると考えられる. ) 確率フロンティアモデル前項で示したフロンティアと観測点の関係を明らかにするため, 以下では Kbhr 3 に従い, 技術非効率性とパラメータの関係を明示的に扱うことのできる確率的フロンティア可変利潤関数を導出する. = f ( x, z) e, (1) 技術非効率性, 観測される生産量, 生産フロンティア f ( xz, ), 可変生産要素ベクトル x, 固定 生産要素ベクトル z とする. は ott-orented tehnl neffen と呼ばれ, e = / f ( x) 1をその尺度とする. 次に,(1) 式の生産関数に対応する技術非効率性の存在を仮定した可変利潤関数を定義する. (,, z, ) = ( e, z, ) () 可変要素価格ベクトル, 生産物価格 とする. 利潤最大化の 1 階の条件は f / x = / e となる. また, 可変要素需要関数は d( e,, z) = x, 供給関数は s( e,, z) = と表される. したがって, 技術非効率性 の存在する可変利潤関数は以下のように定義できる. ( e,, z) = x{ x e = f( x, z)} () e, x = s( e,, z) d( e,, z) = e f( d( e,, z), z) d( e,, z) = ( e,, z) ここで, 観察点における可変利潤 はフロンティア上に存在せず, (, z, ) とすると. (, z, ) は通常の可変利潤関数 ( フロンティア ) として以下のように定義される. (, z, ) = x{ x = f( x, z )} (4) x, 次に, は (, ) について 1 次同次であるので生産物価格 ( ) で基準化し,(5) 式のトランスログ型に定式化し,(6) 式の対称性制約を課す. 添え字, は可変要素の経常財 ( ), 機械 (),, l は固定要素の労働 (L), 土地 ( ) を表す. また,(5) 式のt は技術指数, ln は自然対数である. 1 ln = ln ln z t ln ln t e e e 1 1 l ln z ln z ln ln t ln t ln l l δ z μ t ε t z λ e e tt t (3) (5) =, l l =. (6) 観測される利潤 / をフロンティアにおける利潤 ( /, z) と利潤効率性 h ( / z,, ) に (7) 式のように分離したとき, 利潤効率性は (8) 式のように表される.

ln = ln (, z) ln h(, z, ) (7) ln h(, z, ) = 1 ln( ) ln z t (1/ ) (5) 式からシェア式を導出し, 誤差項, S (8) δ μ t η η を付加する. x = = [ ln δ ln z μ t] b t η (9) S x = = [ ln δ ln z μ t] b η t (1) b =, b = である. ここで, 確率変数 η, を以下のように仮定する. (ⅰ) η = ( η, η )' ~d (, Σ) Σ= E[ ηη ] E[ ηη ] σ σ E[ ηη ] E[ η η ] = σ σ (ⅱ) ~d (, σ ) は非負の半正規分布に従う. (ⅲ)η, は独立である. Σ は分散共分散行列, ダッシュは転置を表す. このとき,η, の密度関数, 結合密度関数は以下のように表される. I は可変要素の数である. 1 1 1 f ( η) = ex{ η' Σ η} 1/ ( ) I Σ, f ( ) = ex{ } ( ) I σ σ 1 1 f ( η, ) = ex{ η' Σ η} ( 1)/ 1/ ( ) I Σ σ σ ( ) Ξ= b η, b η ' とすると, と Ξ の結合密度関数は (1) 式で表される. 1 1 f ( Ξ, ) = ex{ [( Ξ b) ' Σ ( Ξ b) / σ ]} ( I 1)/ 1/ ( ) σ Σ b = ( b, b )' である. Ξ の周辺密度関数を f ( Ξ) とすると, f ( Ξ) = f ( Ξ, ) d σ ex( / ) 1 = Φ( Ξ' Σ bσ 1/ ) Σ σ (11) (1) (13) 1 1 1 1 ここで, σ = (1 / σ b' Σ b), =Ξ' Σ Ξ σ ( Ξ' Σ b) である. 最後に, 密度関数 f ( Ξ) から対数尤度関数を以下のように導出する. ' 1 1 ln L = ln ln Σ ln σ ln Φ( ΞΣ bσ) ln σ (14) は標本数, Φ( ) は標準正規分布関数である.

3. 実証分析 実証分析は以下の手順で行った. はじめに,(9),(1) 式のシェア式を反復 SUR( 見かけ上無相関な回 帰 ) で計測し, パラメータと誤差項 Ξ の分散共分散行列 Σ を求め, 各要素を用いて σ とΣ に初期値を与える. この初期値を (14) 式の対数尤度関数に与えて, 対数尤度関数を最大化するように Dvdson- Flether- Poell の繰り返し最大化法によって (9),(1) 式のパラメータと σ,σ を推計する. こうして得られたパラメータとσ,Σ を用いて,Kbhr 3 に従い, 各標本の技術非効率性 の条件付期待値を (15) 式から求める. E ( Ξ ) = μ σ φ( μ / σ ) Φ ( μ / σ ) ' 1 μ = ΞΣ bσ,φ( ) は標準正規分布関数の密度関数である. 残りのパラメータは (16) 式から求められる. 1 ln ln ln ln δ ln ln z μt tln e e e e e (15) 1 1 = ε λ l ln z tt l ln z ln zl t tln z tt t (16) 以上の手順で推定されたフロンティア利潤関数から得られたパラメータを,(17) 式に代入することで土地の限界生産物価値を推計する. s = = ( ln z ln ) δ ε t δ (17) z z z t (17) 式から土地の限界生産物価値の乖離の方向性は第 1 表フロンティア可変利潤関数の計測結果 Σδ の符号によって決まることがわかる. Σδ が負変数推定値 t 値変数推定値 t 値値をとれば, 技術非効率性が土地の限界生産物価値を 9.68 39.89 t -.1 -.5 低下させていることになる. また,(8) 式の利潤効率性が小さくなると可変利潤 の値が小さくなるので, そ -.3 -.64 μ t -.1 -.1 れに伴い土地の限界生産物価値は低下する. -.35 -.6 μ t -.3 -.1 計測データは, 農林水産省統計情報部 米及び麦類.363.67 ε Lt -.5 -.61 の生産費 の 作付規模別生産費 ( 都府県 ), ならび L.515.7 ε t.41 1.34 に農林水産省統計情報部 農村物価賃金統計 を用い -.4-1.7 λ tt.4.3 る. 計測期間は 1971 年から 3 年までである. 米 及び麦類の生産費 については,.5h 未満層から 5h -.195 -.77 σ.1.8 以上層までの 9 階層をプールして用いる. 経常財 () は -.835-3.48 σ.16 1.89 種苗, 肥料, 農業薬剤, その他諸材料, 建 LL -1.53 -.93 σ.19 1.78 物 を, 機械 ( ) は 農機具, 光熱動力, 賃借料 L 1.161 1.33 σ.31.1 及び料金 を, それぞれ集計した ( 註 ). 経常財価格 ( ) と機械価格 ( は, 上記の項目に ) -1.64-1.87 ついての費用比率をウエイトとするマルチ ラテラル δ L -.11 -.8 対数尤度価格指数である. 労働 ( zl) は 直接労働時間 を用い δ -.1-1. (14) 式 39.4 る. ただし, 男女間の能力差を考慮して, 女子の労働 δ L -.59 -.43 自由度修正済決定係数時間については.8 を乗じて男子単位に調整している. δ -.99 -.96 (16) 式.99 土地 ( z ) は 水稲作付面積 である. また, 技術指数 () t はタイムトレンドで代理した. 米作の可変利潤 ( ) は, 水稲粗収益から経常財費用と機械費用を差し引いた値である.

4. 計測結果 第 表土地の限界生産物価値 (14) 式と (16) 式の計測結果は第 1 表のとおりであ 単位 ( 円 /1) フロンティる ( 註 3).(15) 式の技術非効率性 の期待値の平均値規模階層 1 観測点 /1 アは.119 である.(8) 式から得られる利潤効率性.5h 未満 8,35 33,73 1.19 h ( / z,, ) の平均値は.84 であり, 最小値は.5~1.h 34,3 41,73 1.1 1.~1.5h 38,694 47,65 1.3.761, 最大値は.96 であり, 規模階層が大きい 1.5~.h 41,46 51,53 1.4 ほど非効率性は大きくなる傾向が見られた. これら.~.5h 43,137 54, 1.5.5~3.h 44,361 55,856 1.6 の結果は, 利潤非効率性の要因が零細分散錯圃の影 3.~4.h 45,49 57,614 1.7 響と捉えることを支持する結果であると考えられる. 4.~5.h 45,161 57,711 1.8 第 表には土地の限界生産物価値の階層別平均値 5.h 以上 45,54 58,73 1.3 を示す. その値は, 作付規模とともに大きくなっており, これらの結果は先行研究の計測結果と整合的 である ( 遠藤ほか 1, 草苅 4 ). さらに, フロンティアと観測点の値を比較すると, フロンティア における値の方が 1 当たり 54 円から 13 円ほど大きい. 比率で見ると, フロンティアの値の方 が.5h 未満層で 19%,5.h 以上層で 3% ほど大きくなっている. 以上のことから, フロンティア と観測点の土地の限界生産物価値の乖離は作付規模とともに大きくなっていることが明らかとなった. 5. 結論本稿では, 非効率性の存在が米作における土地の限界生産物価値に与える影響について分析を行った. はじめに, 生産フロンティアと技術非効率性の存在する観測点において土地の限界生産物価値が乖離することを図を用いて整理した. 次に, 図で整理した乖離がどのような方向で起きているかを検証するため, 技術非効率性を明示的に扱ったフロンティア可変利潤関数の計測を行った. その結果, 図で整理したとおりに生産フロンティア上における土地の限界生産物価値の方が現実の観測点と比べて大きな値をとることを示した. また, 規模が大きくなるほどその乖離は大きくなることが明らかとなった. 零細分散錯圃 を要因と捉えた非効率は, 土地の限界生産物価値を下げ, 農家の作付規模の拡大意欲を阻害していると考えられる. 以上の結果から, 土地の断片化による非効率性を最小化した状態 として捉えた生産フロンティアと現実の観測点の土地の限界生産物価値の間には乖離が見られ, 米生産費 の観測点を長期均衡とみなすことに問題があることが示された. ( 註 1) 利潤効率性は技術効率性と配分効率性によって構成される. ただし, 本稿では配分非効率性は存在しないと仮定して分析を行った. このような仮定を置いた理由は, 技術非効率性と配分非効率性を同時に考慮した場合, 計測式が複雑な非線形となり, 推計結果が不安定化するといった実証分析上の制約があるためである. その一方で, 生産調整下の日本の米作では配分非効率性の存在も考えられるため, こうした仮定の緩和は今後の課題として残されている. ( 註 ) 賃借料及び料金 に含まれる労働費は 1995 年以降データが記載されておらず,1994 年以前も 1 当たり 1.4 時間ほどと小さな値であるため分離せずにそのまま計上している ( 註 3) 5 個のパラメータのうち 5% 水準で有意なものは 6 個,1% 水準で有意なものは 1 個であった また, 計測結果から可変利潤関数の要素価格に対する単調性と凸性, および準固定要素投入量に対する単調性と凹性をサンプルの平均値でチェックした結果, すべて満たされていた. 引用文献 1 遠藤幸祐 草苅仁 米作の生産関数分析と要素分配率 5 年度日本農業経済学会論文集 5,.166~171. 伊藤順一 投資による規模拡大と経済効率性の改善 農業投資の収益性と投資決定 農林統計協会,1994,.53~79. 3 Kbhr, S. C. nd C.. K. Lovell, Stohst Fronter nlss, Cbrdge Unverst Press,. 4 草苅仁 生産要素市場と規模の経済 森島賢編著 農業構造の計量分析 富民協会,1994,.77~14. 5 高橋克也 フロンティア生産関数による稲作の効率性分析 農業総合研究 45 巻 3 号,1991,.83~11.