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章ベクトルの表現方法 ベクトルは大きさと方向を持つ量である. 図.に示すように始点 Pから終点 Qに向かう有向線分として で表現する. 大きさは矢印の長さに対応している. Q P 図. ベクトルの表現方法 文字を使ったベクトルの表記方法として, あるいは の表記が用いられるが, このテキストでは太字表示 を採用する. 専門書では太字で書く の表記が一般的であり, 矢印を付ける表記は用いない. なお, ベクトルを太字で書き, 見やすくしたのはヘビサイド (885) である. 大きさを細字の ( = ) で表現するので,と は全く異なることに注意されたい. これを混同するとベクトルとスカラーの区別ができなくなるので, 後で大変な混乱が起こる.. ベクトルが等しいとは 図.2 のように, ベクトル とそれを平行移動したベクトル は互いに等しい. = 図.2 ベクトルの平行移動 = (.) 始点が指定されている場合 ( 例えば原点を始点とし, 終点を空間の位置を表すような場合 ) はベクトル は位置ベクトルとして定義され, 始点が重要になってくるが, ベクトル場で扱うベクトルの場合, 始点は特に重要ではない. 平行移動したベクトルは同じベクトルを表している. /4

.2 ベクトル解析で扱うベクトル.2. 位置ベクトル 3 次元空間のある位置を原点とし, それを基準にして, 任意の点の座標 ( 位置 ) を表すときに用いる. 例えば, 直角座標系で原点をとし, 点 (x, y, z) の位置を表すときに, r =(x, y, z) (.2.) のように用いる. 位置ベクトルは位置を指定するベクトルである..2.2 場のベクトル 3 次元空間のある点におけるベクトル量を表現する際に, 次の表現を用いる. (r) (.2.2) は場のベクトル,() の中の r はその位置を指定する位置ベクトルである. 例えば, 風は3 次元的な速度を持つベクトルである. この風を表す速度ベクトルは, 場所によって大きさと方向が異なる. ベクトル解析で扱うのは, このような場のベクトルである. 位置ベクトルr とは異なる..3 基本的な代数演算.3. ベクトルのスカラー倍 をベクトル,pを任意のスカラーとする. そのとき, ベクトルp は次のように定義されるもし,p >なら,p の方向は と同じ. もし,p < なら,p の方向は と逆. もし,p = なら, = はゼロベクトル もし,p = なら, = : 逆ベクトル. 大きさが同じで, 方向が逆. もし, で,p = なら,u = は単位ベクトルとなる. 単位ベクトルの大きさは( u =) で, 方向は と同じである. それゆえ, ベクトル は = u = 大きさ 単位ベクトル と書くことができる. 2/4

.3.2 ベクトルの和 (ddition, or Sum) 2 つのベクトル まる. と が与えられたとき, その和 C = + は図.3のように唯一に定 C C C = + (.3.) 図.3 ベクトルの和 は平行移動できるから, もし の始点を の終点にもってくれば, 左図のように C = + が描ける. これは3 角形の法則 (principle of triangle, triangle rule) として知られている. また, の始点を の始点にもってくれば, 右図のようになる. これは平行四辺形の原理 (principle of parallelogram) として知られており, 質点に働く合力などを求める時に便利である..3.3 ベクトルの差 (Subtraction) 2つのベクトル と が与えられたとき, その差 C = は図.4のようになる. - C = C = C = = + (.3.2) 図.4 ベクトルの差 をベクトルの差といい, ベクトル とベクトル の和でもある. 和と差の代数演算に関して次の法則が成り立つ. () 結合法則 (ssociative law) + + C = + + C (.3.3) (2) 交換法則 (Commutative law) + = + (.3.4) (3) 分配法則 (Distributive law) p + = p + p (.3.5) p + q = p + q (.3.6) (4) 零ベクトル (Zero vector) + = (.3.7) 3/4

(5) 逆ベクトル (Inverse vector) + = (.3.8) 数学的に, これらの規則を満たす空間を線形空間 (Linear space), または, ベクトル空間 (Vector space) といい, その元を ベクトル と呼んでいる. これは, ベクトルに関する一般化した定義である..4 ベクトルの積.4. ベクトルの内積 (Scalar product, Inner product) 内積 (Scalar product, Dot product, Inner product, スカラー積ともいう ) の定義は式 (.4.) のとおりである. = cos = cos (.4.) ( ドット, あるいは と の内積, スカラー積と読む. ベクトル同士をかけた結果がスカラーになるので, スカラー積とも呼ばれる所以である.) 図.5 ベクトルの内積 射影 は, 図.5のように2つのベクトルのなす角度で, その範囲は である. この定義から, ベクトル と のなす角度は cos = = (.4.2) にて求めることができる. また, これにより, 直交 (orthogonal) するということが容易に理解できる.2つのベクトルが9 をなして交わっていると, = 2 を代入して = cos 2 = (.4.3) このときベクトル と は直交しているという. 直交は, という表記も使う. 直交性は内積がかどうかで判定できる.( 内積を使った直交という考え方は, 幾何学的意味だけでなく, 関数解析で関数同士の直交関係にも使われている.) 4/4

また, 零ベクトルはどんな方向を向いていてもかまわないので, 例えば, =であっても, ベクトル と は直交していると考えてよい. では, 内積は何を意味しているか? (.4.) の右辺から分かるように, 演算結果はスカラー量になる. この値は の 方向成分 ( cos ) と の大きさを掛けたもの, あるいは, の 方向成分 ( cos ) と の大きさを掛けたものになっている. つまり, 一つのベクトル方向に他方を射影した大きさを掛けていることになる. もし, をある方向の単位ベクトルu ( 大きさが) に選ぶと, 内積は u = u cos = cos = u (.4.3) となって,u 方向成分を表すことになる. つまり,u 方向の成分を引き出す働きをもっている. 以下に内積の性質をまとめておく. () = 交換法則 (Commutative law) (.4.4) (2) C + = C + C 分配法則 (Distributive law) (.4.5) (3) p = p = p (.4.6) (4) = 2 = 2 (.4.7) (5) = if and only if = (.4.8).4.2 ベクトルの外積 (Vector product, Cross product, ベクトル積 ) ベクトル と の外積は次式で定義される. = sin u = sin u ( クロス と読む ) (.4.9) 5/4

u sin 図.6 ベクトルの外積 平行四辺形の面積 は図.6に示す2つのベクトルのなす角度である. 方向を表すuは単位ベクトルで, ベクトルを の方に向かって回したときに, 右ネジの進む方向と定義する. ベクトルの大きさは, 右図のようにベクトルと が作る平行四辺形の面積となる. 逆に平行四辺形の面積 S は, の大きさで与えられる. S = = sin (.4.) それゆえ, 外積は方向のある面積を表すベクトルと考えることができる. 外積の概念は, 内積と比べてわかりにくいが, 力による回転作用を表現するように作られたものである. 回転には右回り, 左回りがあるが, 回転軸の方向に一致させたベクトルを考えると都合がよい. 右回り, 左回りで方向を反転すればよい. 右ネジの進む方向を外積ベクトルの方向と決めている. 外積の性質は次のとおりである. () = 順序を入れ替えると符号が逆になる. (.4.) (2) C + = C + C (.4.2) (3) p = p = p (.4.3) (4) = 平行なベクトルの外積は (.4.4) (5) = for any (.4.5).4.3 スカラー 3 重積 3 つのベクトルの積 C は図.7 のように平行 6 面体の体積を表している. ま た, C = のときは,3 つのベクトルが同一平面にあることを示している. 6/4

C C 5 C (.4.6) 図.7 ベクトル 3 重積 理由は以下のとおりである. 外積の定義から Cは面積を表す. これととの内積をとることは,の高さ方向成分を掛けることになる. したがって, 底面積に高さを掛けることと等しくなり, 平行 6 面体の体積を表すことになる. なお, C =のときは体積がゼロであり, 体積がゼロということは高さ方向 の寄与が ということを意味する. つまり の C 方向への射影が ということになる. したがって,は とC の作る面内になければならない. このことから,3つのベクトル が同一平面にあることになる. 逆に3つのベクトルが同一平面にあるかどうかは C の大きさを調べれば分かる. また, C = C (.4.7) の関係にある..4.4 ベクトル 3 重積 C はベクトル 3 重積と呼ばれている. 演算の結果もベクトルになる. C = C C (.4.8) C は る. と Cの両方に垂直なベクトルである. この公式は, 後でよく使われ 7/4

.5 成分を使った表記法 ベクトルの表現方法には, 矢印を使うもの, 成分を使うものがある. 矢印で書くと直観的で分かり易いが, 各種の演算では成分を使わないと対応できない. そのために成分表示がある. 表現方法として =( x, y, z ) (.5.) あるいは = x, y, z t = x y z (.5.2) の行列形式表現がある.tは転置を表す. どちらの表記方法でもかまわない.(.5.) の表現方法で書いてある教科書も多い. しかし, ベクトルで式を展開していく際に,(.5.2) の表現の方が行列演算との整合性がよく便利である. そのため, 特に断らない限り, (.5.2) の表現を用いる. また,(.5.2) の表現を用いると (x, y, z) の各方向を向いた単位ベクトルは, とおけるので, 任意のベクトル は a x = a y = a z = (.5.3) = x y z = x + y + z = x a x + y a y + z a z (.5.4) と行列的に矛盾なく書けることになる. なお, このプリントでは, 単位ベクトルを小文字, 一般のベクトルを大文字で書くことにする. = x a x + y a y + z a z (.5.5) ここで, 単位ベクトルの性質の確認! 単位ベクトルは大きさがで, ある方向を向いたベクトルである. その単位ベクトル同士が直交しているとき, 正規直交空間を張るという. 例えば,x, y, z 軸に沿う単位ベクトルをa x a y a z とすると, a x =, a y =, a z = (.5.6) である. また, 直交条件は内積を使うと 8/4

すなわち, 単位ベクトルは a x a x = a y a y = a z a z = a x a y = a y a x = a x a z = a z a x = a y a z = a y a z = (.5.7) Kronecker delta a m a n = mn = の条件を満たしている. if m = n if m n (.5.8) (.5.8) の性質は行列形式からも理解できる.a x a x = を展開して書くと a x a x = a x t a x = また, 同じベクトルの内積は =++= = t = 2 = x y z y x z = 2 x + 2 2 y + z (.5.9) となるので, その大きさは = x 2 + y 2 + z 2 (.5.) である..5. ベクトルの和と差 = x y = x a x + y a y + z a z z, = x y = x a x + y a y + z a z (.5.) z のとき, ベクトルの和と差は成分同士の和と差で考えることができる. ± = x ± x y ± y = x ± x a x + y ± y a y + z ± z a z (.5.2) z ± z.5.2 ベクトルの内積 ベクトル と の内積は = x a x + y a y + z a z x a x + y a y + z a z (.5.3) 9/4

である. これを展開すると = x x a x a x + x y a x a y + x z a x a z 単位ベクトルの直交性により, + y x a y a x + y y a y a y + y z a y a z + z x a z a x + z y a z a y + z z a z a z = x x + x y + x z + y x + y y + y z + z x + z y + z z したがって, 内積は成分表現を使って次のように書くことができる. 行列形式でも直に = cos = x x + y y + z z (.5.4) = t = x y z x y = x x + y y + z z (.5.5) z と書くことができる. ベクトル と のなす角度 は, 内積を使って cos = = x x + y y + z z 2 x + 2 2 y + z 2 x + 2 2 y + z (.5.6) から求めることができる. さらに, 内積の性質として射影があることを述べたが, 任意ベクトルの内積によって と単位ベクトル a x = x a x + y a y + z a z a x = x a y = x a x + y a y + z a z a y = y a z = x a x + y a y + z a z a z = z (.5.7) となるので, 形式的にはベクトルのみで, = a x a x + a y a y + a z a z (.5.8) と書けることになる. この式は座標変換等に役立つ. /4

.5.3 ベクトルの外積 (Vector product, Cross product, ベクトル積 ) ベクトル と の外積は = x a x + y a y + z a z x a x + y a y + z a z (.5.9) である. これを展開すると = x x a x a x + x y a x a y + x z a x a z + y x a y a x + y y a y a y + y z a y a z + z x a z a x + z y a z a y + z z a z a z 単位ベクトルの外積を使って展開してみる. 大きさが なので右ネジの法則を使って, a x a y = a y a x = a z,a y a z = a z a y = a x,a z a x = a x a z = a y a x a x = a y a y = a z a z = これより, ベクトル と の外積は次の形で与えられる. = y z z y a x + z x x z a y + x y y x a z (.5.2) これを, 公式として記憶することは難しいが, 行列形式で表すと簡単である. a x a y a z = x y z (.5.2) x y z.6 ベクトル基底.6. 線形従属と線形独立 2つのベクトル と があるとき,p + q(p, qは実数 ) を一般にベクトルの線形結合という. ここで,でないベクトル と について p + q = (.6.) を考える. p =q =ならば, 必ず満たされるが,q なる実数が存在すると仮定すると, このとき, 互いにスカラー倍で結ばれ, 従属関係にある. = p q (.6.2) /4

この式を満たす実数がp =q =のみであるとき, と とは互いにスカラー倍で結ぶことはできない. つまり平行でも反平行でもなく, と には従属関係は存在せず, それらは独立に定めることができる. このとき, と の始点を一致させると, と を含む面がただつに定まる. この面に平行なベクトルは適当な実数を用いて C = p + q (.6.3) のように と の線形結合で表すことができる. 即ち, 同一平面上にあるベクトル,,Cは互いに他の線形結合で表すことができる. このようなベクトルの関係を線形従属という. 一方, ベクトルC が平面に平行でなければ,C は と の線形結合で表すことができない. 互いに, 線形結合で表すことができない関係を線形独立と言う. この場合, が成り立ち, これを満たす実数は p = q = r = のみである. p + q + r C = (.6.4) これを一般のn 次元に拡張して, ベクトル i と任意のスカラー p i の線形結合 (linear combination) を考える. p + p 2 2 + + p n n (.6.5), 2, 3, n が線形独立とは, p + p 2 2 + + p n n = (.6.6) を満たし, かつそれを満たすスカラーがp = p 2 = = p n = 以外に存在しないことである. そうでないものは, 線形独立ではない, あるいは線形従属であるという. もし,3 次元空間でベクトルが,non.zeroベクトルu, u 2, u 3 の線形結合で表現できるとするとき,u, u 2, u 3 は空間を張る (span) という. これらが, 線形独立であるとき, 基底 (basis) を作る. 互いに直交したベクトルであれば,u, u 2, u 3 は直交基底 (orthogonal basis) u m u n = for all m n (.6.7) と呼ばれる. 一般に, 正規直交基底 (orthonormal basis) は u m u n = mn = if m = n if m n (.6.8) 2/4

mn :Kronecker delta を満たす..6.2 正規直交基底 (orthonormal basis) の作り方 Gram-Schmidt orthogonalization process 線形独立なベクトルの組, 2, 3 が与えられたら, 正規直交基底ベクトルu, u 2, u 3 は以下の手順で作ることができる., 2, 3 は互いに独立であるから, どれもゼロベクトルでない. u は単位ベクトルなので, u = p = (.6.9) と選ぶ. 次に,u 2 は,, 2 の線形結合で表せると考え, まず,u 2 の元になる v 2 を とおく.p 2 は直交条件より決定されるスカラー量である. v 2 = 2 + p 2 u (.6.) u v 2 ==u 2 + p 2 u u = u 2 + p 2 (.6.) より, p 2 = u 2 (.6.2) v 2 = 2 u 2 u (.6.3) u 3 を決めるのも同様な手続きで行う. p,p 2 は v 3 が u と u 2 に直交する条件で決める. u 2 = v 2 v 2 (.6.4) v 3 = 3 + p u + p 2 u 2 (.6.5) =u 3 + p =u 2 3 + p 2 (.6.6) p = u 3 p 2 = u 2 3 (.6.7) したがって, v 3 = 3 u 3 u u 2 3 u 2 (.6.8) u 3 = v 3 v 3 (.6.9) 以下, 次元が増えても同じ方法で行える. 3/4

問題. ベクトルの和や差はどのように定義しますか?.2 内積の定義はどのようなものですか?.3 ベクトル, が互いに直交するための必要十分条件は = であることを証明しなさい..4 内積によってどのようなことができますか?.5 外積の定義はどのようなものですか?.6 外積はよってどのようなことができますか?.7 = を証明しなさい..8 ( C )=( ) C を証明しなさい..9 ベクトル は にも にも直交することを示しなさい.. Jacobi の恒等式 ( C )+ ( C )+C ( )=を証明しなさい.. nを面に垂直な単位ベクトルとしたとき, ベクトルは面の法線成分と接線成分に分けられる. = n n + n n この式を, ベクトル3 重積を利用して証明しなさい..2 正規直交基底とは何ですか?.3 単位ベクトルとは, 何ですか?.4 ベクトル = 2 3 の単位ベクトルを求めなさい..5 u, u 2, u 3 が正規直交基底を作るとき, これらのベクトルは線形独立であることを示 しなさい..6 どのように3つの独立なベクトルから正規直交基底ベクトルを作りますか?.7 = 2 = 3 = のとき, 正規直交基底ベクトルを作りなさ い. 4/4