J HOSPITALIST network ニコチンパッチ vs バレニクリン 禁煙効果 副作用に差はあるか Effects of Nicotine Patch vs Varenicline vs Combination Nicotine Replacement Therapy on Smoking Cessation at 26 WeeksA Randomized Clinical Trial JAMA. 2016 Jan 26;315(4):371-9. http://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2484340 2016 年 9 月 5 日東京医療センター総合内科担当者亀井悠一郎監修山田康博
症例 :75 歳男性 禁煙希望で禁煙外来を受診 2 年前にバレニクリン使用歴あり バレニクリンによる胃部不快感あり内服中断 その後は喫煙再開していた 既往に口腔癌 食道癌 胃癌 運転なし 精神科疾患歴なし
本人から相談 胃癌の治療効果にも影響すると言われ 主治医からも禁煙を強く勧められている自分も禁煙したいと思っている前回バレニクリンは副作用で自己中断したできれば違う方法があればと思っている
臨床の疑問 副作用でバレニクリンが使用しづらい患者に対して 他の治療はどの程度禁煙効果がある?
EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し
疑問の定式化 (PICO) Patients Intervention Comparison Outcome 禁煙希望の患者バレニクリンニコチンパッチ禁煙成功率 副作用の出現 治療 の論文を検索
EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し
Step2 論文の検索 Pubmed の Clinical Queries に keywords を入力 nicotine patch varenicline smoking cesation Category を therapy Scope を narrow にして検索
Step2 論文の検索 自分の PICO に合う 論文 を決定
論文決定 PMID:26813210
論文の背景 分かっている事 コクランのメタ解析 バレニクリンとニコチン補充療法製剤 (NRT) の多剤併用療法は NRT 単剤より禁煙成功率が高い 分かってない事 Cochrane Database Syst Rev.2013;5:CD009329 バレニクリン NRT 多剤併用 ニコチンパッチの禁煙効果の直接比較した RCT はない
論文の PICOT P 18 歳以上で禁煙治療を希望する患者 I/C 12 週間のニコチンパッチ I/C 12 週間のバレニクリン I/C 12 週間のニコチン補充療法の組み合わせ O 6ヶ月後の1 週間禁煙率 T RCT unblinded
論文の方法 研究デザイン ランダム化比較試験 (RCT) オープンラベル 期間 対象 参加者は 2012 年 -2015 年にウイスコンシン喫煙者健康研究とメディアや地域より募集
組み入れ基準 inclusion criteria 18 歳以上 1 日 5 本以上の喫煙 英語の読み書きができる 禁煙治療を希望 ( 禁煙治療未施行 )
除外基準 exclusion criteria 呼気 CO4ppm 以下 透析中 5 年以内の自殺企図 10 年以内の精神疾患罹患 血圧 200/100 以上の未治療高血圧 ブプロピオンの使用 脳卒中 心筋梗塞 心不全 糖尿病での 1 年以内の入院歴 電子タバコの使用
患者の選出 ニコチンパッチ群 バレニクリン群 ニコチン置換療法 (combination NRT) 23% 38.5% 38.5% 241 人 424 人 421 人
介入 Intervention / 比較 Comparison バレニクリン群 1-3 日目 4-7 日目 8 日目 12 週 0.5mg 錠 1 日 1 回 0.5mg 錠 1 日 2 回 1mg 錠 1 日 2 回 ニコチンパッチ群 C-NRT 群 1-8 週 9-10 週 11-12 週 21mg (TTS30) 14mg (TTS20) 7mg (TTS10) 1-8 週 9-10 週 11-12 週 21mg (TTS30) 14mg (TTS20) 7mg (TTS10) 2mg or 4mg の Lozenge を 5 錠 / 日以上
共通の介入カウンセリング ( 退薬 副作用 アドヒアランス 一酸化炭素 ) 受診 1-3 回目 :20 分受診 4-5 回目 電話 :10 分禁煙日 1 週目 4 週目 12 週目 8 週目 1 週前受診 1 受診 2 受診 3 受診 4 電話 1 受診 5
Outcome Primary 6ヶ月 (26 週 ) 後の1 週間禁煙率 ( 自己申告および呼気 CO<5ppmで確認 ) Secondary 14 週 12 週 52 週での1 週間禁煙率 2 治療開始 1 週間目の24 時間以上の禁煙率 31 週から26 週まで継続禁煙率
倫理的配慮 書面による Informed consent を得ている 倫理委員会の承認を得ている
Statistical analysis ITT 解析が行われ 脱落分は喫煙とカウント 治療群の優位差を 10% に設定 禁煙率 : パッチ群 24% バレニクリン群 34% C-NRT 群 34% と仮定 検出力 :power80% α エラー 0.05 サンプルサイズ :1001 人
結果は何か
Character 女性 52% 平均年齢 48 歳 平均喫煙本数 17 本 / 日 平均喫煙年数 28 年 呼気 CO15ppm 禁煙薬物治療歴 70%
Primary outcome パッチ群バレニクリン群 C-NRT 群 禁煙率 22.8% 23.6% 26.8% パッチ群 vs バレニクリン群 優位差なし パッチ群 vs C ー NRT 群 優位差なし C ー NRT 群 vs バレニクリン群 優位差なし
Secondary outcome 14 週 12 週 52 週での 1 週間禁煙率 優位差なし 2 治療開始 1 週間目の 24 時間以上の禁煙率パッチ群は C-NRT 群より劣る (-7.5%:-14.3% -0.7%)NNT14 バレニクリン群は C-NRT 群より劣る (-12.4%:-18.2% -6.5%)NNT8 31 週から 26 週まで継続禁煙率 優位差なし
有害事象バレニクリン群 (vs パッチ群 ) 掻痒感 発赤が少ない鮮明な夢 不眠 嘔気 便秘 消化不良が多い
論文結果のまとめ 6 ヶ月後 (26 週 ) 1 年後 (52 週 ) での禁煙率 3 群間薬物治療に優位差は認めず ( パッチ群 バレニクリン群 C-NRT 群 ) 治療開始 1 週間の 24 時間禁煙率 C-NRT 群が優れている (vs パッチ群 NNT14 vs バレニクリン群 NNT8) バレニクリン治療の有害事象 鮮明な夢 不眠 嘔気 便秘 消化不良
EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し
結果は妥当か 介入群と対照群は同じ予後で開始したか 患者はランダム割り付けされていたか ランダム化割り付けは隠蔽化 (concealment) されていたか 既知の予後因子は群間で似ていたか =base lineは同等か研究の進行とともに 予後のバランスは維持されたか 研究はどの程度盲検化されていたか ( 一重 ~ 四重盲検 ) 研究完了時点で両群は 予後のバランスがとれていたか 追跡は完了しているか= 追跡率 脱落率はどうか 患者はIntention to treat 解析されたか 試験は早期中止されたか
結果は妥当か 1 介入群と対照群は同じ予後で開始したか 患者はランダム割り付けされていたか (computer-based randomization) ランダム化割り付けは隠蔽化 (concealment) されていたか ( 無作為隠蔽化についての詳細な記載はない ) 既知の予後因子は群間で似ていたか =base lineは同等か ( 詳細な記載はないが 両群で大きな差はない )
結果は妥当か 2 研究の進行とともに 予後のバランスは維持されたか 研究はどの程度盲検化されていたか ( 一重 ~ 四重盲検 ) unblined( 患者 治療実施者 データ解析者不明 ) 研究完了時点で両群は 予後のバランスがとれていたか 追跡は完了しているか= 追跡率 脱落率はどうか 追跡完了 (52 週のフォロー ) 追跡率 84% 患者はIntention to treat 解析されたか (ITT 解析されている ) 試験は早期中止されたか ( 早期中止されていない )
EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し
症例への適応 自分の患者は論文の患者と似ているか 組み入れ基準に一致する 平均年齢からは 25 歳以上異なる 患者にとって重要なアウトカムは考慮されたか 薬剤の禁煙の効果が評価されている 薬剤の副作用が評価されている 見込まれる治療の利益は考えられる害やコストに見合うか 見合う
費用 12 週間 指定医薬品バレニクリン ( チャンピックス ) 指定医薬品ニコチンパッチ ( ニコチネル TTS) ニコチンパッチ ( ニコチネルパッチ ) ニコチンガム ( ニコレット ) タバコ代 約 15000 円 (3 割負担の場合 ) 約 13000 円 (3 割負担の場合 ) 約 21000 円 約 25000 円 (1 日 5 個 ) 約 35000 円 (1 日 1 箱 )
症例の経過 3 群間での禁煙効果に差はない バレニクリンの有害事象がでた既往あり 3 割負担で費用はニコチンパッチ群が安い ニコチンパッチ開始 ニコチネル TTS を使用し 3 ヶ月間禁煙継続中
EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し
Step1-4 の見直し STEP1 問題の定式化 問題なし STEP2 論文の検索 Clinical Queries を用いて短時間で検索できた STEP3 論文の批判的吟味 ITT 解析されており 妥当な内容と考える STEP4 患者への適応 効果に差がなければ副作用を考慮し薬を選択した
まとめ
まとめ 今回の論文はバレニクリン ニコチンパッチ パッチ + ガムの 3 群間で禁煙率に有意差は認めなかった バレニクリンはニコチンパッチと比べて 掻痒感 発赤が少ない 鮮明な夢 不眠 嘔気 便秘 消化不良の副作用の頻度が多い 上記を踏まえ患者の意向を踏まえたうえで 処方薬を検討する