原著論文 幼児期の共食の意味理解 幼児は共食をどのように捉えているのか? 瀬尾知子 *, ** 榊原洋一 * * お茶の水女子大学 112-₈₆₁₀ 東京都文京区大塚 2-1-1 ** 秋田大学 010-8502 秋田県秋田市手形学園町 1-1 Developmental of the Perception of Co-eating in Preschool Children : How do Preschool Children Perceive Co-eating? Tomoko Senoo*, ** and Yoichi Sakakihara* *Ochanomizu University 2-1-1 Ohtsuka, Bunkyo-ku, Tokyo 112-8610 **Akita University 1-1 Tegatagakuen-machi, Akita City, Akita 010-8502 This study examines the developmental processes of eating perception in preschool children. We investigated how preschool children perceive co-eating. The results indicate significant differences between co-eating and eating alone. It is found that children who eat with their family prefer eating with their family, in contrast, children who eat alone prefer eating alone. Moreover, we investigated whether the co-eating awareness was different among different age groups. The results indicated that there were significant differences among ages. Three-year-old children didnʼt relate co-eating with taste or emotion. Four-year-old children related co-eating with taste. Five-year-old children related coeating with emotion. These results suggest that the difference in eating experiences of preschool children influenced their understanding of co-eating. : Preschool children, Eating perception, Co-eating, Eating alone, Experiences of eating 子どもへの食育の重要性が明らかになっており 家庭や学校 保育所などで食育の取り組みが盛んに行われている しかし 現代日本においては 社会の変化に伴い 家族で食べる共食の機会が減少し 1) 一人で食べる孤食が増加している 2 ),3 ) ことが問題になっている 基本的な食習慣が確立する幼児期に 家族で食卓を囲む共食を通して 何を どのように食べるかを学ぶことは非常に重要である しかし これまで共食に関する研究は主に子どもの共食の実態と食行動や生活習慣との関連に関して行われており 4 ),5 ) 幼児が共食をどのように捉えているのかといった研究は非常に少ない senoo@ed.akita-u.ac.jp 小学生を対象とした研究では 共食をしている子どもの方が共食を大切と考えており 共食頻度が少ない子どもの方が共食を出来なくても仕方がないと考えていた 6) このように共食状況により 小学生の子どもの共食に関する捉え方が異なることが示されている また 幼児を対象とした研究では 食事場面で母親から子どもに 一緒に食べるとおいしいね などといった 味覚に関する情報が積極的に与えられる時期を経て 食事場面は 食べて食物を摂取するという生理的意味の強い場から 会話を楽しみながら食事をするという文化的社会的な意味の強い場へと変化していくことが示唆されている 7) このように 子どもは共食をし 他者とのやりとりを通して 食経験を広げ共食の意味を理解していくと言える 実際に幼児が共食に関 日本食育学会誌第 8 巻第 1 号 / 平成 26(2014) 年 1 月 3
してどのように理解しているのかといった 幼児の共食の意味理解の発達過程を 幼児の共食状況や年齢の違いから検討することは 子どもの家庭状況や発達段階に応じた食育推進の方策を検討する上で有効な資料となりえることが期待できる 本研究では 以下 2 つの仮説を立て 幼児期の共食の意味理解の発達過程を明らかにすることを目的とする 仮説 1 共食をしている子どもの方が 共食を好む 仮説 2 年齢が高くなるにつれて 共食を楽しいといった感情と関連付けて理解する 2010 年 6 月から 2010 年 10 月にかけて 3 歳児 64 名 ( 平均 3 歳 9か月 男児 29 名 女児 35 名 ) 4 歳児 72 名 ( 平均 4 歳 8か月 男児 36 名 女児 36 名 ) 5 歳児 69 名 ( 平均 5 歳 8 か月 男児 35 名 女児 34 名 ) 合計 205 名を対象に選択課題実験を行った 選択課題実験では 一人で食べている絵カード 1 枚 家族で食べている絵カード 1 枚を使用した ( 図 1) 幼稚園 保育所内の 他の子どもが来ない場所で 評価者 1 名が対象児と個別に面接を実施した 評価者と参加した子どもとのラポールを形成するために, 選択課題実験を実施する 1 週間前から評価者が各園に入 り対象児と活動を共にした そして参加した子どもにリラックスしてもらうために 実験を開始する前に好きな食べ物や好きな遊びについて簡単な質問を行った後で選択課題実験を実施した 選択課題実験は はじめに 今日朝ご飯誰と食べたの 昨日の夜は誰と食べたの と質問して共食状況を確認し その後 一人で食べている絵カード ( 孤食カード ) と家族で食べている絵カード ( 共食カード )2 枚を子どもの前に提示し どっちが好き と尋ね 選好判断を求めた さらに どうして が好き と選択理由を尋ねた 得られたデータに関しては SPSS18.0 J for Windows を用いて統計分析を行った はじめに 家庭での共食状況に関して 朝一人で食事をした 孤食 と朝家族の誰かと一緒に食事をした 共食 の 2 つに分類した 本調査では家族の共食状況に関して夕食に関しても調査を行っているが 夕食を一人で食べる子どもが 1 人 夕食自体を食べない子どもが 2 人であり 幼児のほとんどが夕食を家族の誰かと一緒に食べていた また 児童生徒の食事状況調査 8) でも小中学生の 90% 以上が家族の誰かと食事をしていることが明らかになっており ほとんどの子どもが夕食は共食をしているため 本研究では家庭での朝食の共食状況のみを分析対象とした 次に 孤食と共食のどちらか好きかといった共食選好に関しては 家族で一緒に食べている絵カードを選択した場合に 1 点を与え 一人で食べている絵カードを選択した場合に 0 点を与え 共食選好得点とした そして 共食選好得点について 年齢 3(3 歳児 4 歳児 5 歳児 ) 共食状況 2( 孤食 共食 ) の 2 要因分散分析を行った さらに どのような理由で共食が好きと判断したのか検討を行うために 共食選好の理由づけを表 1 の分類基準にしたがって 5 つの項目に分類した そして年齢と共食選好に関する理由づけの関連についてχ 2 検定を行った なお 統計的検討は有意水準 5% で行った 東京都内の私立幼稚園では園長の承諾を得た上で 園長から保護者に対して保護者会で説明を行い研究協力の了承を得た また 東京都内の公立幼稚園 公立保育所に関しては 区子ども家庭部の課長 幼稚園園長 保育所所長の承諾を得た その上で 公立幼稚園では園長から保護者に対して幼児のお迎えの時間に保護者に対して説明を行い 公立保育所では所長から保護者に対して園便りを通じて説明を行い研究協力の了承を得た 4 日本食育学会誌第 8 巻第 1 号 / 平成 26(2014) 年 1 月
対象児の 20%(41/205 人 ) の子どもが朝ごはんを一人で食べていた 年齢別では 3 歳児は 14%(9/64 人 ) 4 歳児は 22%(16/72 人 ) 5 歳児は 23%(16/69 人 ) が朝 一人で食事をしており 4 歳児と 5 歳児では 23% の子どもが朝一人で食べていた 選択課題実験により 孤食と共食のどちらを好むか判断を求めた結果 対象児の 17%(34/205 人 ) の子どもが一人で食事をしている絵カードを選択し 83% (171/205 人 ) の子どもが家族で食べている絵カードを選択した 年齢別では 3 歳児は 27%(17/64 人 ) 4 歳児は 14%(10/72 人 ) 5 歳児は 10%(7/69 人 ) の子どもが一人で食事をしている絵カードを選択しており 年齢が高くなるにしたがって孤食を選択する子どもの割合が低くなった 家庭での共食状況や年齢の違いにより 共食に関する捉え方が異なるのか検討するために 共食選好得点 について 年齢 3(3 歳児 4 歳児 5 歳児 ) 共食状況 ( 孤食 共食 ) の 2 要因分散分析を行った その結果 共食状況の主効果 (F(1,198)=5.15, p<.01) が有意であった ( 図 2) 朝家族の誰かと一緒に食事をしている幼児は 朝一人で食事をしている幼児より 共食選好得点が有意に高いことが明らかになった 幼児がどのような理由で 共食選好をしたのか検討するために 共食を選好した子ども 171 人を対象として 年齢別に理由づけを表 1 の分類基準にしたがって各項目に分類した ( 表 2) そして 年齢の違いにより 共食選好の理由づけを検討するため 年齢を独立変数とし 子どもの理由づけの各項目の項目数を従属変数としてχ 2 検定を行った その結果 年齢の違いによる偏りは有意であった (χ(8)=49.90 2 p<.01) 残差分析の結果 3 歳児は 無回答 の項目が有意に多く 4 歳児では 味覚 の項目が有意に多く 年長児では 感情 会話 に関する項目が有意に多いことが明らかになった ( 表 2) また 共食選好の理由づけ例を表 3 に示したように 年齢が高くなるにしたがって より詳細に 共食を感情や味覚などと因果的に関連づ 日本食育学会誌第 8 巻第 1 号 / 平成 26(2014) 年 1 月 5
けて説明するようになっていた 幼児がどのような理由で 孤食選好をしたのか検討するために 孤食を選考した子ども 34 名を対象として 年齢別に理由づけを表 4 の分類基準にしたがって各項目に分類した ( 表 5) その結果 4 歳児 5 歳児 になると 孤食選好した子どもの約 1 割弱が 感情と関連付けて孤食選好していることが明らかになった 本研究では 幼児の共食の意味理解を 幼児の共食状況や年齢の違いから検討を行った はじめに 家庭 6 日本食育学会誌第 8 巻第 1 号 / 平成 26(2014) 年 1 月
での共食状況の実態をみると 対象児の 20% が一人で朝食をとっており 80% が家族の誰かと一緒に朝食をとっていた 1999 年に足立らが小学校 5 年生を対象に行った調査では 朝食を一人で食べている子どもが 26% いることが報告されている 9) 本研究で 3 歳から 5 歳の幼児を対象に行った調査でも 20% の子どもが一人で朝食をとっていることが明らかになり 孤食は幼児期に及んでいることが示された また 足立らが行った 1999 年の調査では 一人が一番いい や 落ち着く などの理由で孤食を望む小学生が 1 割弱いることが報告されている 本研究においても 17% (34/205 人 ) の子どもが一人で食事をしている絵カードを選択しており 幼児期から孤食を望む子どもが一定程度いることが明らかになった 次に 家庭での共食状況と共食選好の関連をみると 家庭で共食している子どもの方が 共食を好んでおり 子どもがいつもしている行動を好む傾向があることが示唆された したがって 仮説 1 の 共食をしている子どもの方が共食を好む は支持された 先行知見では 共食をしている子どもの方が食事の好き嫌いが少ない 食事のあいさつをする子どもが多い等 食習慣が良好であることが示されている 10) 本研究では 共食をしている子どもの方が孤食の子どもよりも 共食を好んでおり 家庭での共食状況の違いは 幼児の共食の意味理解といった認知面にも影響を及ぼしていることが示唆された さらに 年齢の違いと共食に関する意味理解の発達過程を検討した結果 年齢の違いにより 共食に関する意味理解は異なっていた 3 歳児では 共食選好をした理由を説明することが難しく 無回答が多かった 3 歳児は身体や健康 摂食といった生物学的知識が確立途上にあり 11) 食べると大きくなるなどといった食事の生物学的な意味を食事に因果的に関連づけて説明することが難しいことが示されている 12) 本研究の結果から 3 歳児は 食事の生物学的意味だけでなく 共食といった食事の社会的意味も因果的に説明をすることは難しい事が明らかになった しかし 4 歳児になると 共食選好をした理由を 一緒に食べるとおいしいから のように共食を味覚と さらに 5 歳児になると 一緒に食べる方が楽しい など共食を感情と因果的に関連付けて説明するようになることが明らかになった 先行知見では 家族と一緒に食べることの理解は 母親から 一緒に食べると美味しいね といった食事場面のはたらきかけによって 子どもは 一緒に食べることは美味しい ということを認識し 次第に美味しいといった味覚から 楽しさといった感情に関連付 けて理解するようになることを示している 7) 本研究の結果も 共食の意味理解は 年齢が高くなるにつれて 美味しさといった味覚から 楽しさといった感情へと関連付けてより詳細に理解していくことが明らかになった したがって 仮説 2 の 年齢が高くなるにつれて 共食を楽しいといった感情と関連付けて理解する は支持された 本研究の結果から 幼児期の共食の意味理解は年齢 家庭での共食状況により異なっており 発達段階や家庭での食事経験が幼児の共食の意味理解に影響を与えていることが示唆された 幼児は 共同体の共有された信念のうちで理解し得るものを取り込む 13) 本研究においても 家庭で共有された信念 例えば みんなで食べることが楽しいことであるということは 幼児が家庭での共食経験を通して理解するものであると言える そして 食事を家族で共有することが幼児期の食事の社会文化的意味の理解に重要な要因の一つであることが示唆された 幼児の共食の意味理解に関しては 母親の養育態度や食育への関心度といった要因が影響を与えていることが考えられる しかし 本研究では 母親の養育態度や食事への関心度といった家庭での子どもの食事に関わる要因を調査していない 孤食選好の理由づけ例を表 6 に示したように 5 歳児になると ぐだぐだ言うから 1 人がいい ママが食べているときにガミガミ言ってくるから 残してもいいから といった家庭での食事のとり方や食事場面における親のしつけとの関連で孤食を選好している様子がみられた したがって 子どもの年齢や家庭での共食状況以外の因子が 幼児の共食に関する認識の差となった可能性が考えられる 今後は 母親の養育姿勢や食育への関心度も要因に含めて幼児の共食の意味理解食事の発達過程を明らかにすることが課題である 本研究では 幼児の共食の意味理解の発達過程を 幼児の家庭での共食状況や年齢の違いから検討を行った その結果 朝食を一人で食べている子どもよりも 朝食を家族の誰かと一緒に食べている方が 共食を好んでいた また 発達に伴い幼児は 共食の意味を美味しさといった味覚から 楽しさといった感情へと関連付けて理解していた 以上の結果から 幼児の共食の意味理解に 子どもの発達段階や家庭での食事経験が影響を及ぼしていることが示唆された 本研究にご協力くださいました幼稚園 保育所の園 日本食育学会誌第 8 巻第 1 号 / 平成 26(2014) 年 1 月 7
児の皆様 園長 所長はじめ諸先生方に心より御礼申し上げます なお 本研究の一部は第 7 回日本食育学会総会 学術大会にて発表したことを記します 1) 外山紀子 : 発達としての共食社会的な食のはじまり ( 新曜社 ) 157-165 貢 (2008) 2) 足立己幸 : なぜひとりで食べるの食生活が子どもを変える ( 日本放送出版協会 ) 18-29 貢 (1983) 3) 足立己幸 : 知っていますか子どもたちの食卓 食生活からからだと心がみえる ( 日本放送出版協会 ) 22-44 貢 (2000) 4) 会退友美 市川三紗 赤松理恵 : 幼児の朝食共食頻度と生活習慣および家族の育児参加との関連 栄養学雑誌 69 巻 6 号 304-311 貢 (2011) 5) 表真実 : 家族の食事の共有が子どもの生活態度に及ぼす影響 日本家庭科教育学会誌 50 巻 2 号 135-141 貢 (2007) 6) 武見ゆかり 足立己幸 : 子供たちの家族との 共食観 からみた孤食の問題 小児内科 26 号 48-56 貢 (1994) 7) 外山紀子 無藤隆 : 食事場面における幼児と母親 の相互交渉 教育心理学研究 38 巻 4 号 395-404 貢 (1990) 8) 独立行政法人日本スポーツ振興センター平成 19 年度児童生徒の食事状況等調査報告書食生活調査編 (2011) 9) 足立己幸 : 知っていますか子どもたちの食卓 食生活からからだと心がみえる ( 日本放送出版協会 ) 216-222 貢 (2000) 10) 森脇弘子 戎淳子 前大道教子 松原知子 :3 歳児と保護者の食生活と共食頻度との関連 日本食生活学会誌 20 巻 1 号 68-73 貢 (2009) 11) 稲垣佳代子 波多野誼余夫 : 子どもの概念発達と変化 素朴生物学をめぐって ( 共立出版 ) 178-202 貢 (2005) 12) 瀬尾知子 榊原洋一 : 幼児の食事の意義理解の発達過程 園での食事経験の違いが幼児の食事の意義理解に与える影響 小児保健研究 72 巻 5 号 663-671 貢 (2013) 13) 外山紀子 : 食事場面における 1~3 歳児と母親の相互交渉 : 文化的な活動としての食事の成立 発達心理学研究 19 巻 3 号 232-242 貢 (2008) ( 平成 25 年 6 月 4 日受付 平成 25 年 9 月 25 日受理 ) 8 日本食育学会誌第 8 巻第 1 号 / 平成 26(2014) 年 1 月