中小企業が見直すべき福利厚生とは

Similar documents
個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況

2019年度はマクロ経済スライド実施見込み

あえて年収を抑える559万人

女性活躍による中小企業の生産性向上の余地

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

第62回 福利厚生費調査結果報告

Microsoft PowerPoint - 020_改正高齢法リーフレット<240914_雇用指導・

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ


Microsoft Word - notes①1210(的場).docx

第54回 福利厚生費調査結果報告

26公表用 栃木局版(グラフあり)(最終版)

中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル

23 歳までの育児のための短時間勤務制度の制度普及率について 2012 年度実績の 58.4% に対し 2013 年度は 57.7% と普及率は 0.7 ポイント低下し 目標の 65% を達成することができなかった 事業所規模別では 30 人以上規模では8 割を超える措置率となっているものの 5~2

第 Ⅰ 部本調査研究の背景と目的 第 1 節雇用確保措置の義務化と定着 1. 雇用確保措置の義務化 1990 年代後半になると 少子高齢化などを背景として 希望者全員が その意欲 能力に応じて65 歳まで働くことができる制度を普及することが 政策目標として掲げられた 高年齢者雇用安定法もこの動きを受

第59回 福利厚生費調査結果報告

日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

有償ストック・オプションの会計処理が確定

Microsoft Word - コピー ~ (確定) 61発表資料(更新)_

第57回 福利厚生費調査結果報告

調査実施の背景 わが国では今 女性活躍を推進し 誰もが仕事に対する意欲と能力を高めつつワークライフバランスのとれた働き方を実現するため 長時間労働を是正し 労働時間の上限規制や年次有給休暇の取得促進策など労働時間制度の改革が行なわれています 年次有給休暇の取得率 ( 付与日数に占める取得日数の割合

①公表資料本文【ワード軽量化版】11月8日手直し版【1025部長レク⑤後】平成30年61本文(元データあり・数値1004版)

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

職場環境 回答者数 654 人員構成タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % % 質問 1_ 採用 回答 /654 中途採用 % 新卒採用 % タ

- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

iDeCoの加入者数、対象者拡大前の3倍に

第61回 福利厚生費調査結果報告

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

第56回 福利厚生費調査結果報告

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

あおもり働き方改革推進企業認証制度 Q&A 平成 29 年 12 月 14 日 Vol.1 目次 1 あおもり働き方改革推進企業認証制度全般関係 Q1 県外に本社がある場合はどのように申請できるのか P1 2 あおもり働き方改革宣言企業関係 Q2 次世代法に基づく一般事業主行動計画とはどういうものか

Ⅲ コース等で区分した雇用管理を行うに当たって留意すべき事項 ( 指針 3) コース別雇用管理 とは?? 雇用する労働者について 労働者の職種 資格等に基づき複数のコースを設定し コースごとに異なる配置 昇進 教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます ( 例 ) 総合職や一般職等のコースを設定し

スライド 1

市報2016年3月号-10

<4D F736F F D20819C906C8E96984A96B1835A837E B C8E3693FA816A8E518D6C8E9197BF E646F63>

従業員に占める女性の割合 7 割弱の企業が 40% 未満 と回答 一方 60% 以上 と回答した企業も 1 割以上 ある 66.8% 19.1% 14.1% 40% 未満 40~60% 未満 60% 以上 女性管理職比率 7 割の企業が 5% 未満 と回答 一方 30% 以上 と回答した企業も 1

第55回 福利厚生費調査結果報告

Microsoft PowerPoint - 【資料3-2】高年齢者の雇用・就業の現状と課題Ⅱ .pptx

<4D F736F F F696E74202D C668DDA A8DB293A190E690B62E B8CDD8AB B83685D>

開示府令改正案(役員報酬の開示拡充へ)

2019 年 3 月 経営 Q&A 回答者 Be Ambitious 社会保険労務士法人代表社員飯野正明 働き方改革のポイントと助成金の活用 ~ 働き方改革における助成金の活用 ~ Question 相談者: 製造業 A 社代表取締役 I 氏 当社における人事上の課題は 人手不足 です 最近は 予定

第第第ライフスタイルに対する国民の意識と求められるすがた50 また 働いていないが 今後働きたい と回答した人の割合は 男性では 7.4% であるのに対し て 女性は19.1% である さらに 女性の中では 30 代の割合が高く ( 図表 2-1-2) その中でも 特に三大都市圏で高い割合となってい

スライド 1

CW6_A3657D13.indd

リスク分担型企業年金の導入事例

調査の概要 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男

第3節 重点的な取り組み

平成30年版高齢社会白書(概要版)(PDF版)

労働力調査(詳細集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要

Microsoft PowerPoint - 【セット版】140804保育キャンペーン資料

< B83678E DD96E28D8096DA2E786C7378>

Microsoft PowerPoint

Microsoft Word - H29 結果概要

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

<4D F736F F D DE97C78CA78F418BC B28DB895F18D908F DC58F49817A2E646F63>

少子高齢化班後期総括

スライド 1

順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場

配偶者控除の改正で女性の働き方は変わるか

ダイバーシティ 年に向けた政策展開のポイント テレワークが当たり前になる社会 の実現に向け 多様な主体と連携した普及啓発や導入支援への取組を強化 地域での就労支援やマッチング強化により 女性や高齢者の就業を推進 働き方改革と併せて時差 Biz の定着に向けた取組を推進 強化した政策

Microsoft PowerPoint - 2の(別紙2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保【佐賀局版】

1. 職場愛着度 現在働いている勤務先にどの程度愛着を感じているかについて とても愛着がある を 10 点 どちらでもない を 5 点 まったく愛着がない を 0 点とすると 何点くらいになるか尋ねた 回答の分布は 5 点 ( どちらでもない ) と回答した人が 26.9% で最も多かった 次いで

7 8 O KAYAKU spirit I O K T C % E C O M T O K T T M T I O O T C C C O I T O O M O O

厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

目次. 独立行政法人労働政策研究 研修機構による調査 速報値 ページ : 企業調査 ページ : 労働者調査 ページ. 総務省行政評価局による調査 ページ

中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

税制改正を踏まえた生前贈与方法の検討<訂正版>

資料2(コラム)

みずほインサイト 政策 2013 年 2 月 20 日 希望者全員を 65 歳まで雇用義務化高齢者が活躍できる職場の創設と人材育成が課題 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 年 4 月 1 日に高年齢者雇用安

PowerPoint プレゼンテーション

資料9

つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

「第51回 福利厚生費調査結果(2006年度)」の概要

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

女性の活躍促進や仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業に対するインセンティブ付与等 役員 管理職等への女性の登用促進 М 字カーブ問題の解消には企業の取組が不可欠 このため 企業の自主的な取組について 経済的に支援する 経営上のメリットにつなぐ 外部から見えるようにし当該取組の市場評価を高めるよう政

Microsoft PowerPoint - ★グラフで見るH30年度版(完成版).

調査要領 1. 調査の目的 : 人口減少による労働力不足が懸念されるなかで 昨年 4 月には女性活躍推進法 ( 正式名称 : 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律 ) が施行されるなど 女性の社会進出がさらに進むことが期待されている そこで 女性の活躍に向けた取り組み状況について調査を実施す

高年齢者雇用レポート③ スウェーデン:「より長い労働人生」の実現へ

Microsoft PowerPoint - DL_saiyo_2017

スライド 1


2018年度の雇用動向に関する道内企業の意識調査

<4D F736F F D F815B A F A838A815B A8E718B9F8EE C98AD682B782E992B28DB85B315D2E646F63>

PowerPoint プレゼンテーション

第1回「離婚したくなる亭主の仕事」調査

調査レポート

参考 1 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに

1 なぜ 同一労働同一賃金 が導入されるのか? 総務省統計局労働力調査 ( 詳細集計 ) 平成 30 年 (2018 年 )7~9 月期平均 ( 速報 ) によると 非正規労働者数は 2,118 万人 ( 前年同期比 68 万人増加 ) 正規労働者数は 3,500 万人となっています 役員を除く雇用

女性が働きやすい制度等への見直しについて

滋賀県内企業動向調査 2018 年 月期特別項目結果 2019 年 1 月 滋賀銀行のシンクタンクである しがぎん経済文化センター ( 大津市 取締役社長中川浩 ) は 滋賀県内企業動向調査 (2018 年 月期 ) のなかで 特別項目 : 働き方改革 ~ 年次有給休暇の取得

スライド 1

調査結果 転職決定者に聞く入社の決め手 ( 男 別 ) 入社の決め手 を男 別でみた際 性は男性に比べると 勤務時間 休日休暇 育児環境 服装 オフィス環境 職場の上司 同僚 の項目で 10 ポイント以上 かった ( 図 1) 特に 勤務時間 休日休暇 の項目は 20 ポイント以上 かった ( 図

H30年度 シンポジウム宮城・基調講演(藤波先生)

米国の給付建て制度の終了と受給権保護の現状

Microsoft Word - Notes1104(的場).doc

図表 29 非正規労働者の転職状況 前職が非正規労働者であった者のうち 現在約 4 分の 1 が正規の雇用者となっている 非正規労働者の転職希望理由としては 収入が少ない 一時的についた仕事だから が多くなっている 前職が非正規で過去 5 年以内に転職した者の現職の雇用形態別割合 (07 年 現職役

Microsoft Word 年度評価シート.docx

Transcription:

人と社会 2018 年 6 月 6 日全 5 頁 中小企業が見直すべき福利厚生とは 30 年間で変化した多様な従業員ニーズを捉えた人事施策の重要性 政策調査部研究員菅原佑香 [ 要約 ] 深刻な人手不足と人々のライフスタイルの多様化の中で 企業はいかに人材を確保し定着させるのか その対応に迫られている 事業活動で得た収益を従業員へ還元し 従業 員の定着やモチベーションの向上を図ることが 特に中小企業において求められている が その方法には大きく賃上げと福利厚生の見直しがある 従業員 30~99 人の企業において 法定外福利厚生費の約 3 割は従業員の私的保険料へ の拠出が占めている 従業員 1 人当たりの支給額は 1,000 人以上の企業の約 3 倍だ 結 婚や出産 老後の資産形成などに対する従業員の考え方が多様化する中 私的保険料への拠出にだけ重点を置くのではなく 従業員の多様なニーズに中小企業の福利厚生制度 がこたえていけるよう検討する時期に来ているのではないか 近年の 福利厚生は余暇に利用する施設充実型から 仕事と家庭の両立を支援するサービスへと内容が変化している 従業員が希望するサービスやメニューを選択できる カ フェテリアプラン の導入も広がっている 中小企業のように 限られた人件費で従業 員の多様なニーズに応え 働きやすい制度環境を提供するためには こうした取組みを参考にして福利厚生を見直すことも一案だ 1. 従業員の定着率向上の手段としての福利厚生 深刻な人手不足の中でいかに人材を確保し定着させるか 企業はその対応に迫られている 東京商工リサーチの 2017 年 賃上げに関するアンケート 調査 1 によれば 2017 年 4 月に賃上げを実施した企業は約 8 割であり 従業員を定着させるため を目的として賃上げを実施した企業は資本金 1 億円以上の大企業で 46.7% 1 億円未満の中小企業で 53.8% と 中小企業の方が従業員の定着のための賃上げに積極的であった また 賃上げを実施した結果 7 割強の企業は 従業員のモチベーションが上がった 従業員の離職率が低下した 入社希望者が増えた など効果を実感する一方 2 割程度の企業は 効果はなかった と回答した だが 効果はなかった と答えた企業でも その約 7 割が今後も引き続き賃上げを 実施する予定 と回 1 本調査は 2017 年 5 月 12 日 ~23 日にインターネットでアンケートを実施し 有効回答 5,913 社を集計したも の 株式会社大和総研丸の内オフィス 100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください

2 / 5 答しており 中小企業でその傾向が強い このように従業員の確保や定着を考える際に 第一義的には賃金政策が重要である しかし 人々は賃金だけで勤め先を決めているわけではない 賃金以外にも様々な要素があるが 本稿では 企業の福利厚生に着目し 近年の働き手の多様化やライフスタイルの変化に対応した制度を目指すことの重要性について指摘する 2. 働き手の多様化とライフスタイルの変化 福利厚生について検討するにあたって まず制度を利用する従業員の変化について整理しよう 図表 1 では 1987 年と 2017 年における世帯構造や女性 高年齢者の労働力を比較した かつては 男性が外で働き女性は家庭を守る といった性別役割分業意識のもとで主に男性 ( 夫 ) が働き続け 60 歳を過ぎれば年金を受給することが一般的であった日本社会は この 30 年間で大きく変化した 専業主婦世帯と共働き世帯数を比較すると 専業主婦世帯は 3 割ほど減少する一方 共働き世帯は 6 割ほど増加した これは 15~64 歳女性の労働力率がこの 30 年で約 1.3 倍に上昇したことと整合的である 特に 出産や子育てと仕事のいずれをとるのか葛藤が生じやすかった 25 ~44 歳の女性の労働力率が上昇したのは 女性が仕事と家庭の両立を図りながら男性と同じように働くことが 社会の中で当たり前であると認知されるようになり 働きやすい土壌も整備されてきた証であるだろう 制度面では 1986 年に職場における男女差を禁止する男女雇用機会均等法が施行 (1999 年に一部改正施行 ) されたことや 1991 年にすべての労働者を対象とした育児休業法が成立したことなどが女性の就労環境の整備を後押しした 図表 1 世帯構造や女性 高年齢者の労働力の変化 (1987 年と 2017 年 ) ( 出所 ) 労働政策研究 研修機構 早わかりグラフでみる長期労働統計 総務省統計局 労働力調査 より大和総研作成 さらに 男性の雇用不安などを背景として 家計補助的な役割を担いながら働く主婦パートの女性が増加したことも女性労働力率上昇の一因である 2017 年 10~12 月において女性の 55.8% は非正規雇用として働いているが その比率は 30 年前から 20% ポイントほど上昇した この 30 年間での変化は女性だけではない 30 年前に比べて 労働力人口に占める 60~64 歳の割合は 1.5 倍に高まった 2006 年 4 月に改正高年齢者雇用安定法が施行され 65 歳までの雇

3 / 5 用確保措置を導入することが企業に義務付けられた 2 ことで 60 歳定年を過ぎても意欲と能力があれば働き続けられる社会へと変化してきた 2012 年の同法の改正により 2013 年 4 月以降は定年時に継続雇用を希望する全ての社員を 65 歳まで雇用することが義務付けられている 3 女性や高年齢者の労働参加が進むなど働き手が多様化したことで 性別や年齢にかかわらず家庭生活との両立を図りながら仕事に従事する人が多くなってきた その結果 働く人々のライフスタイルも大きく変化し 多様化してきたと考えられる また 安倍晋三内閣が進める 働き方改革 は こうした社会構造の変化に対応するための制度改革であり 企業文化や風土も含めて変えようとするものである 3. 福利厚生の現状と課題 働く人の多様な価値観やニーズに対応していくために 企業はどのような対策を講じるべきか ここでは福利厚生の現状を整理する 厚生労働省の 平成 28 年就労条件総合調査 から福利厚生の現状を確認すると 企業が独自に実施する 法定外福利費 は 企業規模が大きいほど1 人当たり支給額が多い ( 図表 2 左図 ) 現金給与額に占める法定外福利費の割合を見ると 従業員が 1,000 人以上の規模と 30~99 人の企業では約 1.8 倍の格差が見られる 同調査から法定外福利費の内訳を見ると 30~99 人の企業規模で最も多いのが 私的保険制度への拠出金 であり 全体の約 3 割を占める ( 図表 2 右図 ) 他方 1,000 人以上企業のそれは 4.2% とわずかである 私的保険制度への拠出金 とは 従業員の生命保険等の保険料の一部又は全部を企業が代わりに拠出する場合に計上される費用のことである 中小企業の方が 従業員が日々の暮らしで起こり得る病気やケガなどのリスクによって生じる経済的負担を最小限に抑えられるよう 企業が保険料を負担していると考えられる 従業員 1 人当たりの支出額で見ると 中小企業は従業員の私的保険料に 1,102 円拠出しており 大企業の 386 円の約 3 倍に上る ただ 結婚や出産や老後の資産形成のあり方など 従業員のライフスタイルが多様化する中 現在の福利厚生の内容が 中小企業の従業員にとって望ましいものであるのかはっきりしているわけではないだろう 従業員が求めるものと合致しているか確認を行い もし合致していないのであれば 私的保険への拠出だけに重点を置くのではなく 従業員の多様なニーズに中小企業の福利厚生制度がこたえていけるよう制度を見直す必要があるだろう 他方 住居に関する費用 の割合は企業規模が大きいほど高い 全国に事業所を構える企業では 従業員が定期的に転勤することは少なくないため その際に特に従業員の負担となる住 2 企業は 2006 年 4 月以降 1 定年年齢の引上げ 2 継続雇用制度の導入 3 定年の定めの廃止 のいずれかの措置の実施が義務付けられた 3 改正前は 労使協定により基準を定めた場合 希望者全員を対象としないことが可能であった なお 労使協定により基準を定めている事業主であって 2013 年 4 月 1 日以降 直ちに希望者全員の雇用確保措置を講じることが困難な場合は 2024 年度末までの経過措置が認められている

4 / 5 宅費用を補助するなどの必要性が高く 大企業であるほど社宅や寮の整備 持ち家の補助など が行われていることがうかがわれる 図表 2 左図 : 従業員 1 人 1 か月平均の法定外福利費 現金給与に対する法定外福利費の割合右図 : 法定外福利費の内訳 ( 出所 ) 厚生労働省 平成 28 年就労条件総合調査 より大和総研作成 4. 多様な従業員ニーズにこたえる福利厚生とは 大企業と中小企業の福利厚生制度には 従業員 1 人当たり支給額に差があるだけではなく 福利厚生のなかで重きを置いている項目に違いがあることが分かった こうした実態を踏まえて 中小企業が福利厚生の中身を見直し 従業員の定着やモチベーションの向上を図るためにはどのような取組みが考えられるだろうか 日本経済団体連合会 福利厚生費調査結果報告 から 大企業における福利厚生を 1986 年からの 30 年間でどう変化したかその長期的な傾向を図表 3 で確認すると 住宅関連 や 文化 体育 レク ( 施設 運営 活動への補助 ) などの割合が低下する一方で ライフサポート ( 給食 購買 ショッピング 被服 保険 介護 育児関連 ファミリーサポート 財産形成 通勤バス 駐車場など ) と医療 保健衛生施設運営 ヘルスケアサポートなどが含まれる 医療 健康 を合わせた割合が上昇傾向にある こうした背景には 時代の変化とともに 従来の伝統的な福利厚生である独身寮や社宅 文化 体育 レクリエーションの余暇施設の利用補助といった施設充実型から 働く人の健康や子育て 介護といった家庭との両立を支援するようなサービスの充実へと福利厚生の質が変化してきたことが考えられる 4 さらに カフェテリアプラン のような制度の導入が 2005 年頃 4 労務研究所 (2018) 旬刊福利厚生 (2018 年 1 月下旬号 2240) の 人手不足と福利厚生の役割 において 福利厚生制度に詳しい山梨大学の西久保浩二教授は 従来の伝統的な福利厚生では 衣 食 住 遊 の支援が中心テーマでしたが 現在は 心身両面での 健康 両立支援としての 介護 出産 育児 や ( 中略 ) 労働生産性を高めるための 自己啓発 などの方向に福利厚生という名の人材戦略として 投資 が 大企業 中小企業問わず注目されている と指摘している

5 / 5 から広がっていることも一因だろう カフェテリアプランとは 従業員にポイントが付与され 従業員は提供される様々なサービスからポイントの範囲内で好きなものを選ぶことができるという自由度の高い仕組みである 中小企業のように 限られた人件費で従業員の多様なニーズに応え 働きやすい制度環境を提供するためには こうした取組みを参考にして福利厚生を見直すことも一案だろう 図表 3 法定外福利費の内訳とその推移 (1986~2016 年度 ) ( 出所 ) 日本経済団体連合会 (2017) 第 61 回福利厚生費調査結果報告 より大和総研作成