第 14 回日本乳癌学会東北地方会 教育セミナー ( 診断部門 ) 山形大学医学部 消化器 乳腺甲状腺 一般外科 鈴木明彦 2017.03.04 仙台
筆頭演者の利益相反状態の開示 すべての項目に該当なし
参考文献
症例 : 66 歳女性 主訴 : 乳がん検診異常指摘既往歴, 家族歴 : 特記すべきことなし現病歴 : 乳がん検診で視触診異常なし, MMGで異常影を指摘され, 要精検となった
Q1. マンモグラフィ提示します
MMG(MLO)
MMG(CC)
MMG( 右 CC) MLO: カテゴリー 1 右 CC O 円形 FAD+ 構築の乱れ ( カテゴリー 4)
構築の乱れのカテゴリー分類 手術などの既往が明らかで, 構築の乱れがそれで説明できる場合 構築の乱れが疑われる場合 カテゴリー 2 カテゴリー 3 明らかに構築の乱れが存在する場合カテゴリー 4 構築の乱れの中心に高濃度の部分を認め, カテゴリー 5 spiculated massとして認識できる場合 マンモグラフィガイドライン第 3 版
構築の乱れを呈する疾患 構築の乱れの原因として最も多いのは術後瘢痕である それ以外で構築の乱れが認められる場合は癌を疑う所見として重要であるが, 良性病変でも構築の乱れを呈する 以下に構築の乱れの原因となる主な病変を示す 悪性 硬癌浸潤性小葉癌乳頭腺管癌非浸潤性乳管癌管状癌など 良性 硬化性腺症放射状瘢痕脂肪壊死膿瘍など マンモグラフィガイドライン第 3 版
乳房超音波検査 右乳房 AB 領域 ( 病変 1) と CD 領域 ( 病変 2) の 2 カ所に所見あり
Q2. 乳房超音波検査を提示します どのような疾患を考えますか?
US ( 病変 1) 5.5x7.0x5.1mm
US ( 病変 2) 5.8x5.4x5.9mm
US ( 病変 1) 5.5x7.0x5.1mm エコーパターン : 充実性形状 : 分葉形縦横比 : 5.5/7.0= 0.78 境界 : 明瞭粗ぞう halo なし内部エコー : 低, 均質後方エコー : 不変前方境界線断裂なし カテゴリー 3
US ( 病変 2) 5.8x5.4x5.9mm エコーパターン : 充実性形状 : 分葉形縦横比 : 5.8/5.4= 1.07 境界 : 明瞭粗ぞう halo なし内部エコー : 低, ほぼ均質後方エコー : やや減弱構築の乱れ前方境界線断裂なし カテゴリー 4
腫瘤の要精査基準 乳房超音波診断ガイドライン改訂第 3 版
境界明瞭粗ぞうな充実性腫瘤の診断 明瞭粗ぞうとは, 境界が一つの線で表され, かつその線がなめらかでないものをいう 周囲への浸潤傾向の弱い乳癌もこの性状を示す 良性 腺症硬化性腺症乳管内乳頭腫濃縮嚢胞 ( 線維腺腫 ) 悪性 非浸潤性乳管癌充実腺管癌乳頭腺管癌硬癌粘液癌浸潤性小葉癌 乳房超音波診断ガイドライン改訂第 3 版
充実性パターンの判定 縦横比と病変の大きさによる判定 5mm 以下の病変は原則的にはカテゴリー 2 とする 5mm より大きく 10mm 以下の腫瘤は縦横比が 0.7 より大きい場合要精査とし,0.7 未満の際には原則としてカテゴリー 2 とする 10mm より大きい腫瘤については縦横比にかかわらず原則として精査とする 乳房超音波診断ガイドライン改訂第 3 版
病変 1. 穿刺吸引細胞診 : 悪性疑い 二相性パターンは, はっきりせず, 一部 N/C 比の増加した細胞を認めます 病変 2. 二相性が不明瞭で,N/C 比高く 微細クロマチン増量, 核形不整を示す小型の上皮細胞を集塊状 一部で孤立性に認めます * 確診を目的とした組織診 (Tm,CNB を含む ) をお勧めします
Q3. 次に行う検査は? 1. 穿刺吸引細胞診 ( 再検 ) 2. 針生検 3. 吸引式針生検 4. CT 5. MRI 6. その他 侵襲の小さい検査から針生検による血腫など
頭側 造影 CT 腋窩リンパ節腫脹なし : 病変 1 : 病変 2 2mm スライス 尾側
CT 所見 右乳房 AB 領域,CD 領域にそれぞれ増強効果の亢進を示す 6mm 大の小腫瘤 腋窩リンパ節腫脹なし 乳癌の疑い
乳腺 MRI T1WI T2WI 病変 1 病変 1 病変 2 病変 2
ダイナミック MRI 病変 2 病変 1 造影前造影早期造影後期 病変 1: rapid - plateau paoern 病変 2: rapid - plateau paoern
MRI 所見 病変 1: 5x6mm, 軽度分葉状病変 2: 7x6mm, 辺縁に線状突起が不整に突出 いずれも乳管進展を認めない T1WI, T2WI 低信号造影ではいずれも rapid- plateau パターン いずれも乳癌の可能性あり
Q4. 次に行うのは? 1. 針生検 (CNB) 2. 吸引式針生検 (VAB) 3. 切除生検 4. 乳房切除
ここまでのまとめ 画像診断 MMG カテゴリー 4 US カテゴリー 3,4 CT 乳癌疑い MRI 乳癌疑い穿刺吸引細胞診 悪性疑い 乳癌疑い ( 病変 2> 病変 1) > 乳腺症 組織診による診断 手術
悪性が疑われる腫瘤に対する組織診 針生検 コア針生検 (CNB) 吸引式針生検 (VAB) 外科的生検 CNB, VAB の診断精度は一般に高く, さらにそれらは外科的生検に比較して簡便で侵襲が少ない このため, CNB,VAB は乳房の病変に対する病理学的診断方法として推奨される ( 乳癌診療ガイドライン 2 疫学 診断編 )
ここで考えたこと ( 今回のケース 私見です ) 悪性を疑う 10mm 以下の 2 カ所の限局性病変 VAB であれば, 針先を固定して複数本検体採取できる CNB をするとすれば, どこから刺す? 何本採取する? (3 本以上 ) サンプリングエラーの問題 病変にヒットしない 圧挫によるアーチファクト 針生検の組織量では診断確定できない可能性 外科生検であれば, 病変を確実に採取して病理診断できる 断端陰性で取り切れば, 治療も兼ねる可能性 この時点での乳房切除は, さすがに過剰診断, 治療である
外科的生検の適応 (1) 画像所見では悪性が強く示唆されるが, 細胞診及び針生検では悪性の診断に至らない場合, 針生検などの再検査もしくは摘出生検を考慮する (2) 針生検などでは悪性の可能性が示唆されるが, 確定できない場合 病変が小さい, 異型が認められるが軽度である (5) 悪性の可能性がある病変 境界悪性病変に 対しては治療的腫瘍切除が行われる 乳腺腫瘍学第 2 版抜粋
手術 ( 切除生検 x2) 1.5cm 離したいわゆる probe lumpectomy 2 1
マクロ所見 ( 病変 1:AB 領域 ) 5mm スライス 拡大
病理組織 : 病変 1
病理組織 : 病変 1
病理組織 : 病変 1
免疫染色 : 病変 1 p63 : 筋上皮マーカー Ki67 2 相性が保たれている ほとんど発現なし
病理診断 ( 病変 1:AB 領域 ) Blunt duct adenosis ( 閉塞性腺症 : 良性 )
マクロ所見 ( 病変 2:CD 領域 ) 5mm スライス 拡大
病理組織 : 病変 2
病理組織 : 病変 2
病理組織 : 病変 2
免疫染色 : 病変 2 ER 強陽性 PgR 強陽性 HER2 陰性 Ki67:10%
病理診断 ( 病変 2:CD 領域 ) 管状癌 (tubular carcinoma) 2x4mm, 切除断端 ( ) 背景にBlunt duct adenosis ER(+), PgR(+), HER2 (-), Ki67 10% Luminal A pt1an0m0, Stage I
腺症 (adenosis) 領域性をもって乳管が増殖し, 腺腫様病巣をつくるものをいう 盲端に終わる小乳管が増生, 集蔟したものを閉塞性腺症 (blunt duct adenosis) といい, 間質に強い線維化を伴うものを硬化性腺症 (sclerosing adenosis) と呼ぶ 硬化性腺症は硬癌との鑑別を要する組織像を呈するが, 診断には筋上皮細胞を伴った 2 相性を有することを確認することが重要である 臨床的にも病理学的にも浸潤癌と誤りやすい病変であり, 診断には十分な注意が必要である 乳腺腫瘍学第 2 版日本乳癌学会
管状癌 管状癌の発生率は約 1% で, 予後は良好である 腫瘍径は 2.0cm 以下のものが多く, 一側多発性あるいは両側発生が多いとされる ER, PgR 陽性で,HER2 陰性を示し,luminal type であることが多い 乳腺腫瘍学第 2 版日本乳癌学会
CQ35. 乳癌特殊型では組織型に応じた 薬物療法を行うことが勧められるか 推奨グレード B 組織型に応じた薬物療法を行うことが勧められる 管状癌に対する薬物療法は, ホルモン受容体陽性 腋窩リンパ節転移陰性であれば, 内分泌療法単独または薬物療法なしが推奨される 日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン薬物療法, 抜粋
解説 (2) 管状癌 (tubular carcinoma) 管状癌の発生頻度は 0.3% であり,ER 陽性,PgR 陽性,HER2 陰性の症例が多い 単施設における管状癌 73 例の報告によると,ER 陽性が約 85%, PgR 陽性が約 93% で, 全症例のうち 47 例 (64%) は手術療法のみで術後薬物療法は施行されなかったにもかかわらず, 中央値 93 カ月のフォローアップ期間で, 死亡例はなく, 局所再発を 4% に認めたのみであった また, 他の単施設での管状癌 307 例の報告では, 約 14% (46/307) に腋窩リンパ節転移を認めたものの, 全症例の 10 年乳癌特異的生存率 (breast cancer specific survival) は約 97% と非常に良好な結果であった この報告では, 全症例のうち 89 例 (29%) は手術のみで術後薬物療法は施行されなかった 日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン薬物療法, 抜粋
術後治療 患者と相談の結果, センチネルリンパ節生検省略 温存乳房照射 (50Gy) ホルモン療法 (Anastorozole) 術後 1 年無再発生存中
まとめ 今回, 乳がん検診を契機に発見された悪性が疑われた 10mm 以下の 2 病変に対する診断アプローチについて考えてみました 悪性を疑った場合でも良性の可能性も考慮して, 過剰診断 治療にならないよう注意する必要があります 閉塞性腺症, 管状癌について解説しました