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背景 β ラクタム系抗菌薬の特徴 MIC の 4-5 倍の血中濃度で最大の抗菌力を発揮する T>MIC(time above MIC:MIC を超える薬剤血中濃度を維持できている時間 ) は治療期間の 50% 以上必要 (50%T>MIC) 投与回数 点滴時間を延ばすほど両者を達成しやすい 一般に行われている間欠投与よりも extended therapy (ex. T/P4.5g を 4 時間化かけて投与 ) や持続投与のほうが高い血中濃度 50%T>MIC を達成できる 高い MIC を示す耐性菌に対して持続投与または extended therapy の有効性が期待されている

背景 動物実験や in vitro では β ラクタム系抗菌薬の持続投与で殺菌効果が増すことが証明されている 2013 年にオーストラリアと香港にわたる 5 つの ICU を対象とした二重盲検化のランダム試験で持続投与の有用性が示唆されている

持続投与 vs 間欠投与 2013 年 Australia と Hong Kong の 5 つの ICU 対象 :sever sepsis 60 人 ( 透析患者を除く ) 無作為二重盲検ダブルダミー比較試験 T/P MEPM チカルシリン クラブラン酸の持続投与群 (30 人 ) と間欠投与群 (30 人 ) に無作為割り付け 一次アウトカム 投与開始から 3,4 日目の抗菌薬の血中濃度 (MIC を超えていたかどうか ) 二次アウトカム 抗菌薬投与から 7-14 日後の臨床効果

投与開始から 3-4 日目の抗菌薬血中濃度が MIC を超えていた患者の割合は持続投与群で有意に多い ただし抗菌薬別に見ると有意差が見られたのは MEPM のみ 臨床効果も持続投与群で高い

背景 Dulhunty らの研究をはじめとしていくつかのヒトを対象とした無作為比較試験で β ラクタム系抗菌薬の持続投与の有効性が示されている ICU の敗血症患者に対する CTRX の 1 回投与と持続投与を比較したオープンラベル RCT( パイロット研究 ) 臨床効果は持続投与のほうが高い J Antimicrob Chemother 2007;59:285 291. しかしメタアナリシスでは持続投与でも間欠投与でも生存率や治癒率には差を認めなかった 死亡率 腎障害に差なし (AG や VCM も含む )Lancet Infect Dis 2005;5:581 589. 臨床効果 死亡率に差なし Crit Care Med 2009;37:2071 2078. 死亡率 感染再燃率などに差なし Cochrane Database Syst Rev 2013;3:CD008481.

背景と目的 過去の研究の問題点 重症患者を対象としていない場合がある パワー不足である 今回 2013 年の研究をもとに さらに多くの ICU の重症敗血症患者を対象として β ラクタム系抗菌薬の持続投与と間欠投与の効果を比較

方法 多施設 ( オーストラリア ニュージーランド 香港の 25 の ICU) Double-blind Double-dummy 無作為比較試験

登録 除外の基準 < 登録 > Severe sepsis PIPC/TAZ,TIPC/CVA,MEPM 使用 < 除外 > 治療開始まで 24 時間以上経過 18 歳未満 研究に使用している薬剤にアレルギーがある 妊娠中 など etable E1andE2

抗菌薬投与方法 初回は両群ともローディングドーズを投与 必要な治療期間 もしくは ICU 転出まで継続 24 時間の総投与量は持続でも間欠投与でも同量 ( 投与量は治療担当医師が決定 ) ダブルダミーとして 一人の患者に間欠投与の点滴と持続投与の点滴を両方行う ( 間欠投与群に割り付けられていれば 持続投与のほうは生食のみ ) 患者 治療に当たる医療スタッフ 治療効果評価者 データ管理者にはどちらの群に割り付けられたか盲検化 3 つの抗菌薬間での変更は 14 日以内なら許容 ( 盲検化は継続 )

細菌学的検査 抗菌薬開始前に血液培養採取 その後毎日血液培養を採取 48 時間陰性が確認できれば血液培養採取を終了

アウトカム <Primary> ランダム化から 28 日までの ICU 生存退出期間 ( 日数 ) <Secondly> 90 日死亡率 抗菌薬終了から 14 日後の臨床的改善 14 日までに臓器障害がなく生存していた日数 ランダム化後の菌血症の持続日数

統計 同じ研究者らの 2013 年の研究結果に基づき 今回のプライマリアウトカムに両群で 3 日以上の差を生じさせるためには各群 210 人が必要と判断 ( パワー 90% α エラー 0.05)

結果 Table 1. 振り分け 432 人が条件に適合し そのうち 422 人が対象となる薬剤を使用 etable 5. Entry した病院の登録人数

結果 患者背景 : 両群間に差はない

抗菌薬 投与期間 : 持続投与群 3.2 日 間欠投与群 3.7 日 投与量 (24 時間 ): PIPC/TAZ:13.5g MEPM:3.0g TIPC/CVA:12.4g 併用抗菌薬 持続投与 (%) 間欠投与 (%) グリコペプチド系 36.3 31.4 マクロライド系 19.8 23.2 ニトロミダゾール系 12.7 14.5 アミノグリコシド系 11.3 15.0 キノロン系 9.4 13.6

起因菌 83 人に血液から起因菌が判明

起炎菌 大腸菌やクレブシエラが多い 抗菌薬投与が有効な可能性がある緑膿菌 アシネトバクターが非常に少ない 抗菌薬持続投与があまり意味のない菌が多い

Primary and secondly outcomes ICU 生存退出期間や 90 日生存率 菌血症持続期間など 2 群間に有意差なし

90 日死亡率 intention-to-treat 解析 生存率 有意差なし ランダム化後の日数

90 日死亡率 modified intention-to-treat 解析 生存率 Modified intention-to-treat 解析でも有意差なし ランダム化後の日数

Discussion 28 日までの ICU 生存退出期間 90 日生存率臨床的回復 14 日までの臓器障害改善菌血症の持続期間 両群間に差がなかった

Discussion 今回の研究で持続投与の有効性が示せなかった原因 1 2013 年の前回の研究と異なり 腎代替療法を行った患者を 26% 程度含んでいる ( 前回は含まず ) 盲検化後の抗菌薬投与期間が短い ( 持続投与群で今回 3 日 前回の研究では 5 日 )

Discussion 今回の研究で持続投与の有効性が示せなかった原因 2 ICU では MIC の高い菌が多いため β ラクタム系抗菌薬持続投与の効果が高いと期待された 今回起炎菌が判明したのは全体の 19% のみ しかも最多分離菌は E. coli, K. pneumoniae で オーストラリアでは耐性化が少ない (0-4.5%) 菌であった ( 今回の研究では MIC は測定していないとのこと ) MIC が低ければ 間欠投与でも効果が期待でき 持続投与にするメリットがない そのため今回の研究では持続投与の効果が示せなかったのではないか

Discussion 本研究の限界 (limitations) ICU 退室以降は追跡できていないため抗菌薬の効果を低く見積もった可能性がある 感染症ではない患者も含んでいる可能性がある 起炎菌の同定が 19% しかできていない ICU 退室後の治療は不明 死亡率を検討するにはパワー不足

結論 様々な背景の severe sepsis 患者を対象とした今回の研究では代表的な 3 種類の β ラクタム系抗菌薬の間欠投与と持続投与を比較しても 28 日までの ICU 生存退室期間は変わらなかった 今後 死亡率を検討するにはさらに大規模な多施設研究が必要 どのような ICU 患者に持続投与が有効なのかサブグループでの検討が必要

補足 : 同時期に報告された β ラクタム持続投与と間欠投与を比較した RCT E pub ahead of print マレーシアの 2 つの ICU Severe sepsis で CFPM MEPM T/P を投与される患者 ( 腎代替療法患者を除外 ) 持続投与群 (70 人 ) と間欠投与群 (70 人 ) に無作為割り付け 一次アウトカム : 抗菌薬中止から 14 日後の臨床的治癒 二次アウトカム :PK/PD 達成度 ICU 退室期間 生存率など

結果 持続投与のほうが間欠投与に比べ臨床的治癒率が有意に高い ( 特に T/P で顕著 )

結果 持続投与のほうが間欠投与に比べ高い T>MIC 維持を示す

結果 14 日 30 日生存率も持続投与のほうが間欠投与よりも高い 結論 : 持続投与は間欠投与よりも臨床効果が高く T>MIC も高く維持できる 間欠投与 持続投与 Dulhunty らの研究との違い : 耐性菌の多いアジアで行われている RRT 患者を除外している PK/PD の検討も行っている 起炎菌として緑膿菌 ( 持続投与群で 37%) アシネトバクター (25%) が多い

St. Marianna ICU として Β ラクタム系抗菌薬の持続投与は本来 MIC の高い菌に対する効果を期待して行われるべきものである ( 緑膿菌 アシネトバクターなど ) たとえば緑膿菌と T/P について言えば

St. Marianna ICU として マリアンナ ICU の 2015 年 1 年間の緑膿菌分離株 27 株の T/P に対する MIC は <8:85.2% 8 以上 16 未満 :7.4% 16 以上 32 未満 :0% 32 以上 64 未満 :7.4% 64<:0% 持続投与 extended therapy と間欠投与で 50%T>MIC に大きく差が出ると思われる MIC>16 の株は 7.4% 50%T>MIC 達成率 T/P の 50%T>MIC 達成率を間欠投与 extended therapy, 持続投与で比較 MIC 今回の研究と同じ投与量

St. Marianna ICU として 当院 ICU では現段階では緑膿菌感染症は多くなく 耐性化も高くないため重症感染症疑い症例すべてに対する抗緑膿菌 β ラクタム系抗菌薬の持続投与は必要ないと考えられる 持続投与ではルートが 1 本抗菌薬に確保されてしまう 看護師の手間が増えるなどの問題もある MIC の高い菌が起炎菌として分離された場合には持続投与を検討する余地はあるかもしれない 緑膿菌に対する T/P については持続投与と extended therapy (4.5g を 4 時間かけて投与 ) では同等の 50%T>MIC 達成率を示すため MIC の高い緑膿菌治療時には T/P の extended therapy をやってみてもよいかもしれない 結論 :β ラクタム系抗菌薬の持続投与は重症感染症疑い患者全例には行わない MIC の高い菌が起炎菌と判明した場合に検討する (extended therapy 含め )