生理学 Ⅰ 講義 膵臓 2 膵臓の生理 Ⅱ 血糖調節機構 熊本大学大学院生命科学研究部分子生理学富澤一仁 血糖の基礎 生体にとって 糖は生命維持や活動のエネルギーを作り出すために不可欠である 血糖値を調節するホルモン 覚える! 生体が利用する糖は グルコースである 正常血中グルコース濃度は 80 120 mg/dlである 血糖値は 狭い範囲で厳密に制御されている 血糖値は ホルモンで制御されている 血糖値を下げるホルモンはインスリンだけである
血糖値の調節 血糖値の調節に重要な組織は 脂肪 骨格筋 肝臓である 生体は 余剰のグルコースをグリコーゲンとして貯蔵する グリコーゲン グルコース グルカゴンアドレナリン インスリン 膵島 ( ランゲルハンス島 ) のホルモン 4 種類のホルモンが合成 分泌されていている マウス膵島 膵島ホルモンの相互作用 膵島ホルモンは互いに分泌を制御している (α) 細胞グルカゴン血糖値上昇 B(β) 細胞インスリン血糖値抑制 D(δ) 細胞ソマトスタチンインスリンならびにグルカゴンの分泌を抑制 赤 :(α) 細胞グルカゴン抗体で染色緑 :B(β) 細胞インスリン抗体で染色 F 細胞膵液分泌調節
1. プレプロインスリンが リボソームで合成される 2. 小胞体で切断されプロインスリンになる インスリンの構造 インスリンの半減期 インスリンの半減期は 約 6 分と非常に短い すなわち 受容体に結合されなかったインスリンは肝臓で速やかに分解される 3. ゴルジ装置で ペプチドが切断され 鎖と B 鎖ができる 4. 鎖と B 鎖がジスルフィド結合される インスリンとして分泌 ペプチド これは インスリンが長時間持続して機能すると 低血糖を引き起こし 意識消失 昏睡などを引き起こすため それを阻止するための生体の生理機能である 1 インスリン分泌の細胞内機序 1 3 4 インスリン分泌の細胞内機序のまとめ 血中グルコース濃度上昇 LT2 を介して膵 B 細胞内へのグルコース輸送 2 2 6 ミトコンドリアでの TP 産生 5 TP 依存性 K + チャネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 a 2+ チャネルの開口 インスリン分泌
インスリンの作用 : 多機能性である インスリン受容体 細胞内ドメインが チロシンキナーゼになっている インスリンが結合すると キナーゼ活性が ON になる リン酸化による細胞内情報伝達 インスリンの血糖値を下げる効果は 1 脂肪 骨格筋でのグルコース取り込み促進 2 肝 骨格筋でのグリコーゲン合成促進による インスリンのグルコース取り込み促進機構 インスリンの血糖効果作用以外の生理機能 1. 脂肪の貯蔵促進肝細胞 : 脂肪酸の生成促進 脂肪細胞への蓄積促進 2. 蛋白質代謝に対する作用 ( 同化作用 ) 蛋白質合成の促進し 分解を遅らせる IF-1 と似た作用細胞の代謝を活性化
ちょっと一息低 I 食品って何? I:lycemic index 1981 年にトロント大学のデイビット ジェンキンス博士らによって提唱された概念であり 炭水化物摂取後の血糖値の上昇する速さを表した指標である この値が大きいほど 炭水化物を食べた後の血糖値の上昇が早い すなわちIが高いほど インスリンの分泌がされやすい インスリン 脂肪蓄積 同じカロリーの炭水化物を摂取しても低 I 食品のほうが太りにくいという概念 糖尿病 糖尿病 (Diabetes Mellitus: DM) は 糖代謝の異常によって起こるとされ 血糖値が病的に高まることによって 様々な特徴的な合併症をきたす危険性のある病気である 一定以上の高血糖では尿中にもブドウ糖が漏出する ( 尿糖 ) ため糖尿病の名が付けられた 患者数 血糖値が高い状態が持続する疾患 世界の患者数約 1 憶 8000 万人 (2006 年推定患者数 ) 日本の患者数約 700 万人 (2005 年推定患者数 ) * ただし予備軍を加えると1 千万人を超えると推測されている 糖尿病の分類 糖尿病モデルマウス 1 1 型糖尿病 ( 若年 痩せ型の患者が多い ) 自己免疫疾患等によるランゲルハンス島 B 細胞の破壊 1 型糖尿病モデルマウス ( 非活性型 dk5 発現マウス ) 2 型糖尿病モデルマウス ( レプチン受容体欠損マウス ) 2 2 型糖尿病 (40 歳以上の肥満の人に多い ) 過食 運動不足 加齢などが原因で全糖尿病患者の 90% 以上を占める 血中のインスリン濃度は 上昇していることが多い 標準的なインスリン濃度では 血糖値が低下せず ( インスリン抵抗性 ) その代償機構としてインスリン分泌が亢進 インスリン抵抗性 膵 B 細胞の疲弊 インスリン分泌低下 細胞死
なぜ肥満になるとインスリン抵抗性になるのか? 脂肪細胞は 脂肪蓄積以外にたくさんのサイトカインを産生 分泌する機能がある 肥満者の脂肪細胞からは TNFα の分泌が促進 TNFα 例えば レプチン 摂食抑制 アディポネクチン 中性脂肪含量低下 インスリン感受性亢進 TNFα レプチンアディポネクチン等 TNFαR IRS-1 p アジア人は 高度肥満 インスリン抵抗性を示さない 単純にインスリン分泌量が少ないため 2 型糖尿病になることが多い 農耕民族であるアジア人は インスリン分泌量が少ない 清野裕 Dental Diamond 35, 22 (2010)
2 型糖尿病に関する全ゲノム関連解析疫学研究 アジア人種とヨーロッパ人種間における DKL1 リスクアレル頻度の比較 (Nature enetics 2007) SNPs Frequency enotype 0.222 0.083 (Science 2007) rs7756992 sian 0.289 0.333 European : non-risk 0.489 0.583 a : non-risk (Science 2007) (Science 2007) rs7754840 0.156 sian 0.511 0.333 0.083 European 0.467 0.450 aa : risk dkal1 catalyzes trn Lys() entral dogma of protein translation trn Lys() trn Lys() D - D - - m 2 m 2 Ψ mcm 5 s 2 m 1 m 5 m 5 m D Ψ m 7 Ψ ms 2 t 6 D - D - - m 2 m 2 Ψ m 7 Ψ t 6 ** m 1 m 5 m 5 m D Ψ rragain et al., J Biol hem 285, 28425 (2010) mrn (From Molecular Biology of The ell (5th Edition))
The ms 2 i 6 modification is required for decoding fidelity Lys residue is important for the processing of proinsulin (ms 2 ) Proinsulin Jenner LB et al. (2010) Nat Struct Mol Biol. 小胞体ストレスと 2 型糖尿病 過剰な蛋白質合成 異常な折りたたみ構造の蛋白質 DKL1 SNPs が 2 型糖尿病発症の危険因子 になる分子メカニズムの提唱 Wild-type mice and Man with non-risk allele in dkal1 gene dkal1 ms 2 t 6 37 stabilization of mrn-trn interaction Increase in translational accuracy Normal insulin translation and synthesis
DKL1 SNPs が 2 型糖尿病発症の危険因子 になる分子メカニズムの提唱 糖尿病の診断 空腹時血糖 (mg/dl) 75g 経口ブドウ糖負荷試験 (2 時間後血糖 ) 正常型 <110 <140 境界型 110 <126 140 <200 糖尿病型 126 200 日本糖尿病学会基準 N. Engl J Med 365, 1931 (2011) 75g 経口糖負荷試験 300ml の水にグルコース 75g を溶かして 経口投与 静脈血グルコース濃度を測定する Hb1c( ヘモグロビン 1c) ヘモグロビン ヘモグロビンは α サブユニットと β サブユニット それぞれ 2 つから成る四量体 各サブユニットは グロビン ( ポリペプチド )+ ヘムから成る ヘムに酸素が結合し 酸素運搬 ヘモグロビン 1 ヘモグロビンの β 鎖の N 末端に糖が結合したものをいう 糖の種類により 1a1, 1a, 1b, 1c などに分画される 1c は β 鎖 N 末端のバリンとグルコースが結合したもの
Hb1c( ヘモグロビン 1c) Hb1c 目標値 グリコヘモグロビンのうち ヘモグロビンのβ 鎖のN 末端にグルコースが結合した糖化蛋白質 総ヘモグロビンの約 4% を占める ( 理想値 ) 近年 糖尿病の診断 治療効果に良く使われるようになった ヘモグロビンへのグルコース結合は酵素反応ではなく 血中グルコース濃度に依存する 血糖値を反映 ヘモグロビンの寿命は120 日 過去 1か月 2か月の血糖値を表している 2013 年 5 月 16 日 熊本宣言 糖尿病治療法 1 型糖尿病 最初からインスリン投与 + 運動 食事療法 2 型糖尿病 1. 運動 食事療法 2. 薬物療法 経口血糖降下薬 スルフォニル尿素剤フェニルアラニン誘導体 ブドウ糖吸収阻害薬 αグルコジダーゼ阻害薬 インスリン抵抗性阻害薬 ビグアナイド系チアゾリジン系 3. インスリン投与
スルフォニル尿素 (S) 剤 最も良く使われている糖尿病治療薬 S 受容体のに結合し TP 依存性 K + チャネルを抑制 インスリン分泌! 血中グルコース濃度に関わらずインスリン分泌を促進するので 低血糖の副作用がしばし認められる α- グルコシダーゼ阻害 食後過血糖の改善 ( 食直前に服用 ) α- グルコシダーゼ ( イソマルターゼ ) インスリン抵抗性改善薬 肝臓における糖新生抑制 筋肉における糖の吸収促進 腸管におけるブドウ糖吸収抑制など言われているが良く分かっていない 肥満を伴うタイプの 2 型糖尿病に効果 比較的新しい糖尿病治療薬 インクレチン インクレチン : ペプチドホルモン性の消化管ホルモン 1:LP-1(lucagon-like peptide-1) と 2:IP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide) がある 膵 β 細胞 LP-1 LP-1 受容体 cmp 依存性細胞内情報伝達 グルコース依存性インスリン分泌 プロインスリン遺伝子転写 抑制? ただしインクレチンは生体内で急速 (2 分以内 ) に分解される!
Exendin-4 (LP-1 受容体作動薬 ) LP-1: HETFTSDVSSYLEQKEFIWLVKR Exendin-4: HETFTSDLSKQMEEEVRLFIEWLKNPSSPPPS Exendin-4(9-39): DLSKQMEEEVRLFIEWLKN ヒーラ モンスター 特徴 LP-1 と同様の機能 ( インスリン合成 分泌促進 高血糖時のみインスリン分泌促進 ) ペプチダーゼに難分解性 長時間生体内で機能 体重減少作用 201 年に 2 型糖尿病治療薬として承認 欠点として 内服ではなく 自己注射しなければいけない DPP-4 阻害剤 DPP-4: Dipeptidyl Peptidase-4 DPP-4 阻害剤 LP1 DPP-4 分解 失活 IP 最も新しい糖尿病治療薬 : SLT2 阻害剤 阻害 糖の再吸収の約 90% は 近位尿細管の SLT2 を介して行われる 糖の再吸収阻害剤