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70:634 肝臓 55 巻 10 号 634 644(2014) < 特別寄稿 > C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ; 抜粋 ) 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編 索引用語 :C 型肝炎, ガイドライン, シメプレビル, ダクラタスビル, アスナプレビル 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会 1) 2) 3) 2) 4) 朝比奈靖浩, 泉並木, 熊田博光, 黒崎雅之, 小池和彦, 3) 5 ) 5 )* 6) 7) 鈴木文孝, 滝川一, 田中篤, 田中榮司, 田中靖人, 8) 9) 10) 11) 坪内博仁, 林紀夫, 平松直樹, 四柳宏 ( 五十音順 ) 1) 東京医科歯科大学消化器内科 大学院分子肝炎制御学 2) 武蔵野赤十字病院消化器科 3) 虎の門病院肝臓センター 4) 東京大学大学院医学系研究科消化器内科学 5) 帝京大学医学部内科 6) 信州大学医学部内科学講座 2 7) 名古屋市立大学大学院医学研究科病態医科学 ( ウイルス学 ) 肝疾患センター 8) 鹿児島市立病院 9) 関西労災病院 10) 大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 11) 東京大学大学院医学系研究科生体防御感染症学 * Corresponding author: a-tanaka@med.teikyo-u.ac.jp 委員長特別委員 ( 脚注 ) 一般社団法人日本肝臓学会は, 肝炎の診断 治療に関する公式な見解を表明し, 実臨床における肝炎治療の標準化および充実を図るため, 肝炎診療ガイドライン作成委員会を設立し, 肝炎治療ガイドラインを作成しています.2012 年 5 月には C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 1 版 ) を作成し, 学会ホームページで公開するとともに, 和文誌 肝臓 1) および英文誌 Hepatology Research 2) に論文として公表しました. また,2013 年シメプレビルの発売に伴いガイドラインを改訂し,2013 年 11 月に第 2 版を学会ホームページ上で公開, あわせて改訂部分を論文として Hepatology Research 誌で公表しました 3). 2014 年 9 月, 新規 Direct Acting Antivirals である経口薬, ダクラタスビル アスナプレビルが発売されました. これにより,IFN 投与が困難であった IFN 不適格例に対しても抗ウイルス治療が可能となりましたが, その使用及び対象症例の選択には高度の専門性が必要となります. 日本肝臓学会ではこの経口 2 剤の発売に合わせてガイドラインをさらに改訂, C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ), および第 3 版の中で特に重要である治療フローチャートその他を抜粋した 簡易版 4) を作成し, 学会ホームページ上で公表するとともに, 旧版の簡易版から改訂した内容を学会誌 肝臓 に掲載いたします. 旧版同様, この改訂第 3 版が日常の肝炎診療において活用され,C 型肝炎ウイルス感染者の生命予後と QOL の改善に寄与することを望みます. 本ガイドラインの無断掲載を禁止いたします.

C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ; 抜粋 ) 71:635. 型肝炎の治療目標 型肝炎治療の目標は, 持続感染によって惹起される慢性肝疾患の長期予後の改善, 即ち, 肝発癌ならびに肝疾患関連死を抑止することにある. この治療目標を達成するため抗ウイルス療法を行い, の排除を目指す. 治療による 排除成功例においても, 肝発癌は完全には抑制されない. フリーの によって が排除された場合, 治療と同程度の肝発癌抑制効果が得られるかどうかについては現時点で明らかでない. 抗ウイルス治療によって が排除された後でも, 長期予後改善のため肝発癌に対するフォローアップを行う必要がある. ことに高齢かつ線維化が進行した高発癌リスク群では肝発癌に対する厳重な注意が必要である.. 型肝炎の治療対象 ( 表 ) 値上昇例 ( l 超 ), あるいは血小板数低下例 ( 血小板数 万 μl 未満 ) の 型慢性肝炎患者は, 原則として全例抗ウイルス療法の治療対象である. l 以内, かつ血小板数 万 μl 以上の症例については, 肝発癌リスクが低いことを考慮に入れて抗ウイルス療法の適応を決める. ただし, 高齢者では l 以内かつ血小板数 万 μl 以上でも発癌リスクは低くはないことに留意すべきである. 高発癌リスク群 ( 高齢かつ線維化進展例 ) では, 治療への認容性を考慮しつつ, 可及的速やかに抗ウイルス療法を導入すべきである. 中発癌リスク群 ( 高齢あるいは線維化進展例 ) でも早期の抗ウイルス療法の導入が望ましい. 低発癌リスク群 ( 非高齢かつ非線維化進展例 ) では, 治療効果, 副作用, ならびに肝発癌リスクを考慮に入れて現時点での抗ウイルス療法の適応を決める. ウイルス排除ができない場合, 肝病変進展予防あるいは肝発癌予防を目指して肝庇護療法を行う. また, 肝炎鎮静化を目指した ( ) 少量長期投与も選択肢となる. これらの治療で十分な効果が得られず, 鉄過剰が疑われる場合には, 瀉血療法の併用あるいは同療法への変更を考慮する. 表 1 年齢 線維化による発癌リスクおよび早期治療必要性の決定 年齢 高齢者 (66 歳以上 ) 非高齢者 (65 歳以下 ) 線維化 * 進展例 高発癌リスク群 中発癌リスク群 軽度例 中発癌リスク群 低発癌リスク群 * 線維化進展例 : 肝線維化 F2 以上, または血小板数 15 万 /ml 未満. ( ) シメプレビル ( シメプレビル+ +リバビリン 剤併用 ) 1 国内第 3 相臨床試験における治療成績 ( 図 1) 2 副作用 シメプレビル+ +リバビリン 剤併用療法では, 肝トランスポーター活性の阻害により一過性に軽度のビリルビン上昇がみられることがある. その他の副作用の種類と頻度は +リバビリン 剤併用療法と同等であり, 治療完遂率は高い. 3 薬剤相互作用シメプレビルは主に薬物代謝酵素 CYP3A によって代謝され, また OATP1B1 と P 糖蛋白質を阻害することから, 多くの薬剤が併用禁忌 併用注意とされている. 添付文書を参照し, 投与前によく確認することが必要である.

72:636 肝臓 55 巻 10 号 (2014) 4 薬剤耐性 シメプレビル+ +リバビリン 剤併用療法が無効となった症例では, 高率に耐性変異が検出される. ゲノタイプ では, ほとんどが 変異である. ゲノタイプ において治療開始前に の遺伝子多型があると 率が低下する可能性がある. ゲノタイプ では, 同遺伝子多型は稀である. 図 1 シメプレビル ( シメプレビル+Peg-IFN+リバビリン 3 剤併用 ): 国内第 3 相臨 *1 床試験における治療成績 *1 SVR24 の成績 *2 Peg-IFNa-2b における前治療無効例では総投与期間 48 週. ( ) ダクラタスビル アスナプレビル併用 1 国内第 3 相臨床試験における治療成績 ( 図 2, 図 3) 2 安全性 国内第 相試験では の 上昇, 上昇が, それぞれ ( 例 ), ( 例 ) に出現し, 投与中止例は 例 ( ) であった. 上昇の発現時期に一定の傾向はみられなかった. 投与 週後までは 週間ごと, 以降は 週間ごとに肝機能検査値をモニターし, の 上昇時に投与を中止した結果, 値は全例で改善した. 非代償性肝硬変を対象とした臨床試験は行われておらず, 安全性も確認されていない. 非代償性肝硬変症例では投与を行うべきではない. 3 薬剤相互作用 CYP3A4 の誘導薬 阻害薬,OATP の阻害薬, 治療域の狭い CYP2D6 の基質との併用により, ダクラタスビル, アスナプレビルまたは併用薬の血中濃度が低下ないし上昇する可能性があることから, 多くの薬剤が併用禁忌 併用注意とされている. 添付文書を参照し, よく確認することが必要である. 4 薬剤耐性 ( 図 4A B) プロテアーゼ阻害薬 アスナプレビルの耐性変異として 領域 が, 阻害薬 ダクラタ

C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ; 抜粋 ) 73:637 スビルの耐性変異として 領域 が存在する. 国内第 相試験では, 治療前におけるダイレクトシークエンス法による検討により, が全体の, が に存在した. ダクラタスビル アスナプレビル併用療法の治療不成功例では両剤に対する多剤耐性ウイルスが出現する. 今後の抗ウイルス治療に影響を及ぼす可能性があるため, 極力, 多剤耐性ウイルスを出現させないことが重要である. 図 2 ダクラタスビル アスナプレビル併用療法 : 国内第 3 相試験の成績

74:638 肝臓 55 巻 10 号 (2014) 図 3 ダクラタスビル アスナプレビル併用療法 : 国内第 3 相試験の成績 ( 背景因子別 ) 図 4 ダクラタスビル アスナプレビル併用療法 : 国内第 3 相臨床試験における治療前の NS5A 耐性変異別にみた SVR24. 慢性肝炎における治療方針 ( ゲノタイプ 型 高ウイルス量 ) ダクラタスビル / アスナプレビル治療に当たっては, 以下の 2 点に留意すること. ダクラタスビル アスナプレビル併用療法は, ウイルス性肝疾患の治療に十分な知識 経験をもつ医師により, 適切な適応判断がなされた上で行う. 非代償性肝硬変を対象としたダクラタスビル アスナプレビル併用療法の臨床試験は行われておらず, 安全性も確認されていない. 非代償性肝硬変症例では投与を行うべきではない. 1 初回治療 ( 図 5)

C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ; 抜粋 ) 75:639 2 既治療 IFN(+RBV) 副作用中止 ( 図 6) 3 既治療 前治療再燃 ( 図 7) 4 既治療 前治療無効 ( 前治療 12 週時のウイルス減少量が判明している場合 )( 図 8) 5 既治療 前治療無効 ( 前治療 12 週時のウイルス減少量が不明な場合 )( 図 9) 図 5 初回治療 極力,Y93/L31 変異を測定し, 変異があれば, 治療待機を考慮する. 即ち, 治療待機の場合の発癌リスクならびに変異例に対して DCV/ASV 治療を行う場合の著効率と多剤耐性獲得のリスクを十分に勘案して方針を決定する. 2 ALT 値異常例では肝庇護療法または PEG-IFN(IFN) 少量長期を行う. 図 6 既治療 IFN(+RBV) 副作用中止 極力,Y93/L31 変異を測定し, 変異があれば, 治療待機を考慮する. 即ち, 治療待機の場合の発癌リスクならびに変異例に対して DCV/ASV 治療を行う場合の著効率と多剤耐性獲得のリスクを十分に勘案して方針を決定する. 2 ALT 値異常例では肝庇護療法または PEG-IFN(IFN) 少量長期を行う.

76:640 肝臓 55 巻 10 号 (2014) 図 7 既治療 前治療再燃 現時点で使用可能な抗ウイルス療法はなく,ALT 値異常例では肝庇護療法または PEG- IFN(IFN) 少量長期を行う. 図 8 既治療 前治療無効 ( 前治療 12 週時のウイルス減少量が判明している場合 ) 初回治療例や前治療再燃例に比し治療効果が低く,NS3 耐性ウイルスを惹起するリスクが高いことを説明する. 2 極力,Y93/L31 変異を測定し, 変異があれば, 治療待機を含めた治療方針を考慮する. 治療待機の場合, その発癌リスクと, 変異例に対して DCV/ASV 治療を行う場合の著効率と多剤耐性獲得のリスクを十分に勘案して方針を決定する. 3 ALT 値異常例では肝庇護療法または PEG-IFN(IFN) 少量長期を行う.

C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ; 抜粋 ) 77:641 図 9 既治療 前治療無効 ( 前治療 12 週時のウイルス減少量が不明な場合 ) 初回治療例や前治療再燃例に比し治療効果が低く,NS3 耐性ウイルスを惹起するリスクが高いことを説明する. 2 極力,Y93/L31 変異を測定し, 変異があれば, 治療待機を含めた治療方針を考慮する. 治療待機の場合, その発癌リスクと, 変異例に対して DCV/ASV 治療を行う場合の著効率と多剤耐性獲得のリスクを十分に勘案して方針を決定する. 3 ALT 値異常例では肝庇護療法または PEG-IFN(IFN) 少量長期を行う.. 肝硬変における治療方針 型代償性肝硬変では, 肝発癌と肝不全の抑制を目指し積極的に抗ウイルス治療を行う. 抗ウイルス療法の選択は, 慢性肝炎例 高発癌リスク群に対する治療方針に準ずる ( 図 ). 抗ウイルス療法でもウイルス排除が得られない場合, あるいは抗ウイルス療法の適応がない場合に, が異常値であれば, 肝庇護療法 (, ) を行う. また, 肝炎鎮静化を目指した ( ) 少量長期投与も選択肢となる. ただし, 効果がみられない場合は治療中止基準に従って治療を中止する. 型非代償性肝硬変では 治療の有効性は低い. 特に 分類 では, 治療の認容性は不良であり, 血球減少および感染症などの重篤な副作用の発現がみられる. 非代償性肝硬変に対するダクラタスビル アスナプレビル併用療法の安全性は確認されておらず, 投与を行うべきではない. 血小板値が 万未満の 型代償性肝硬変では, の治療効果を考慮して, 脾摘術あるいは脾動脈塞栓術を施行後に 治療を行うことが可能である.

78:642 肝臓 55 巻 10 号 (2014) 図 10 代償性肝硬変 極力,Y93/L31 変異を測定し, 変異があれば, 治療待機を考慮する. 即ち, 治療待機の場合の発癌リスクならびに変異例に対して DCV/ASV 治療を行う場合の著効率と多剤耐性獲得のリスクを十分に勘案して方針を決定する. 2 原則として, 前治療 PEG-IFN/RBV(48 週投与 ) の場合とする. 3 ALT 値異常例では肝庇護療法または PEG-IFN(IFN) 少量長期を行う. 4 原則として, 前治療 PEG-IFN(IFN)/RBV の Partial responder( 治療開始 12 週時の HCV RNA 低下 2 Log 以上 ) に限り, 治療選択肢とする. 文献 1) 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会.C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 1 版 ). 肝臓 2012; 53: 355 95. 2) Editors of the Drafting Committee for Hepatitis Management Guidelines: The Japan Society of Hepatology. Guidelines for the Management of Hepatitis C Virus Infection: First edition, May 2012, The Japan Society of Hepatology. Hepatol Res 2013; 43: 1 34. 3) Drafting Committee for Hepatitis Management Guidelines, the Japan Society of Hepatology. JSH Guidelines for the Management of Hepatitis C Virus Infection: A 2014 Update for Genotype 1. Hepatol Res 2014; 44 Suppl S1: 59 70. 4) 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会.C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ).2014. http://www.jsh.or.jp/ medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_c. C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ) 肝炎診療ガイドライン作成委員の利益相反 1 2 3 4 報酬額 :1 つの企業 団体から年間 100 万円以上なし株式の利益 :1 つの企業から年間 100 万円以上, あるいは当該株式の 5% 以上保有なし特許使用料 :1 つにつき年間 100 万円以上 ( 株 ) エスアールエル 講演料 :1 つの企業 団体から年間合計 100 万円以上 MSD( 株 ), 大日本住友製薬 ( 株 ), ブリストル マイヤーズ ( 株 ), 田辺三菱製薬 ( 株 ), 東レ ( 株 ), ヤンセ

C 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ; 抜粋 ) 79:643 ンファーマ ( 株 ), 中外製薬 ( 株 ), 第一三共 ( 株 ), バイエル薬品 ( 株 ) 5 原稿料 :1 つの企業 団体から年間合計 100 万円以上なし 6 研究費 助成金などの総額 :1 つの企業 団体からの研究経費を共有する所属部局 ( 講座, 分野あるいは研究室など ) に支払われた年間総額が 200 万円以上なし 7 奨学 ( 奨励 ) 寄付などの総額 :1 つの企業 団体からの奨学寄付金を共有する所属部局 ( 講座, 分野あるいは研究室など ) に支払われた年間総額が 200 万円以上 MSD( 株 ), 田辺三菱製薬 ( 株 ), 中外製薬 ( 株 ), 第一三共 ( 株 ) 8 企業などが提供する寄付講座 :( 企業などからの寄付講座に所属している場合に記載 ) MSD( 株 ), 大日本住友製薬 ( 株 ), ブリストル マイヤーズ ( 株 ), 東レ ( 株 ), 中外製薬 ( 株 ) 9 旅費, 贈答品などの受領 :1 つの企業 団体から年間 5 万円以上なし

80:644 肝臓 55 巻 10 号 (2014) JSH guidelines for the management of hepatitis C virus infection (ver 3; abstract) Drafting Committee for Hepatitis Management Guidelines, the Japan Society of Hepatology : hepatitis C guidelines simeprevir daclatasvir asunaprevir Kanzo 2014; 55: 634 644 Drafting Committee for Hepatitis Management Guidelines, the Japan Society of Hepatology Yasuhiro Asahina 1), Namiki Izumi 2), Hiromitsu Kumada 3), Masayuki Kurosaki 2), Kazuhiko Koike 4 ), Fumitaka Suzuki 3), Hajime Takikawa 5), Atsushi Tanaka 5)**, Eiji Tanaka 6), Yasuhito Tanaka 7), Hirohito Tsubouchi 8), Norio Hayashi 9), Naoki Hiramatsu 10), Hiroshi Yotsuyanagi 11) (In the order of the Japanese syllabary) 1) Department of Gastroenterology and Hepatology, Department for Hepatitis Control, Tokyo Medical and Dental University 2) Division of Gastroenterology and Hepatology, Musashino Red Cross Hospital 3) Department of Hepatology, Toranomon Hospital 4) Department of Gastroenterology, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo 5) Department of Internal Medicine, Teikyo University School of Medicine 6) Department of Internal Medicine, Shinshu University School of Medicine 7) Department of Clinical Molecular Informative Medicine, Nagoya City University Medical School Graduate School of Sciences 8) Kagoshima City Hospital 9) Kansai Rosai Hospital 10) Department of Gastroenterology and Hepatology, Osaka University Graduate School of Medicine 11) Department of Internal Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo **Corresponding autor: a-tanaka@med.teikyo-u.ac.jp ( Chairman, Special Committee Member). C 2014 The Japan Society of Hepatology