第 10 回未病社会の診断技術研究会 骨 関節の疾患 大阪大学整形外科吉川秀樹
今なぜ 骨 関節 ( 運動器 ) の医療が重要か? 平成 24 年 9 月 日本の高齢者人口 (65 歳以上 ) は初めて 3000 万人に達した 高齢化に伴う骨 関節疾患の増加 寝たきりの予防 介護予防 早期の社会復帰 スポーツ復帰への期待 人工関節など医療費の高騰
骨 関節の疾患 1. 外傷 : 骨折 捻挫 脱臼 靱帯損傷 2. 感染症 : 骨髄炎 関節炎 結核 梅毒 3. 4. 免疫性 膠原病 : 関節リウマチ 強直性脊椎炎 SLE 5. 代謝性 : 痛風 くる病 骨パジェット病 6. 神経筋性 : 脳性麻痺 進行性筋ジストロフィー ポリオ 7. 骨壊死 : 大腿骨頭壊死症 8. 腫瘍 : 骨腫瘍 軟部腫瘍 転移性骨腫瘍 9. 先天性 : 四肢奇形 股関節脱臼 内反足 軟骨無形成症
大腿骨骨折
肘の骨折
関節リウマチ
関節リウマチ
骨肉腫
側彎症 ( そくわんしょう )
腰椎すべり症
頚椎症 椎弓形成術
椎弓形成術
老化に伴う骨 関節の疾患 骨粗鬆症 ( こつそしょうしょう ) 大腿骨頚部骨折 脊椎圧迫骨折 前腕骨折 上腕骨骨折 変形性関節症 膝関節症 股関節症 変形性脊椎症 頚椎症 腰部脊柱管狭窄症 腰椎すべり症
骨粗鬆症
世界の高齢化率の推移 35 30 先進地域 開発途上地域 北部アメリカ ヨーロッパ オーストラリア ニュージーランド 先進地域以外の地域 日本先進地域 高齢化率 ( % ) 25 20 15 中国韓国 10 開発途上地域 5 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 ( 年 ) UN, World Population Prospects. 2008 総務庁総計局 国勢調査 厚生省国立社会保障 人口問題研究所 日本の将来推計人口 ( 平成 20 年 1 月推計 )
平成 20 年度国民生活基礎調査より 寝たきりの原因 介護が必要となった女性の主な原因 脳血管疾患老衰 骨折 転倒 痴呆 関節疾患 パーキンソン病 その他 0 5 10 15 20 25 (%)
骨折発生後の死亡の相対リスク ( 骨折後 3 年間 スウェーデン ) すべての骨折 非椎体骨折大腿骨頸部骨折椎体骨折 6.7(3.08,14.52) 8.6(4.45,16.74) 前腕遠位部骨折 その他の骨折 0.3 1.0 2. 0 5. 0 10. 0 相対リスク (95% 信頼区間 ) 16.0 Cauley JA et al.: Osteoporos Int 11 556-561, 2000
18 Tsuboi M et al.: J Bone Joint Surg 89 461-466, 2007 大腿骨頸部骨折後の生存率 (%) 100 80 歳未満 (%) 100 80 歳以上 80 一般人口 * 80 生存率 60 40 大腿骨頸部骨折患者 生存率 60 40 一般人口 * 20 20 大腿骨頸部骨折患者 0 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10( 年 ) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10( 年 ) 期間 期間 * 一般人口 : 年齢 性別 大腿骨頸部骨折をした時期をマッチさせた集団
各年代別骨粗鬆症の頻度 (%) 60 頻度 40 20 0 男性 女性 山本逸雄 :Osteoporosis Jpn.7(1):10-11,1999
骨粗鬆症の危険因子 内的因子 外的因子 内分泌的因子 身体的因子 女性 高齢 やせ出産数 月経不順 両側卵巣摘出 ( 閉経前 ) 早発閉経 無月経初経から閉経までの年数月経不順 初経年齢 遺伝因子 人種 家族歴 骨粗鬆症 薬剤服用 栄養因子 糖質コルチコイド GnRH アゴニスト 低カルシウム摂取ビタミン D 不足ビタミン K 不足高蛋白摂取 高リン摂取 運動因子 長期臥床日常の身体活動不足 生活習慣 喫煙 飲酒カフェイン多量摂取
骨粗鬆症の病態 骨粗鬆症とは骨強度の低下によって 骨折しやすくなった状態をいう 骨強度は主として骨密度と骨質により規定される NIH Consensus Conference 2000 健常 骨粗鬆症
骨強度に及ぼす骨密度と骨質の関係 約 70% 約 30% = + 骨強度骨密度骨質 BMD 微細構造 骨代謝回転 微小骨折 石灰化 (NIH コンセンサス会議のステートメントより )
骨は絶えず吸収と形成を繰り返している ( 骨改変 リモデリング ) 破骨細胞による骨吸収 骨芽細胞による骨形成
健康な骨における骨改変
閉経後骨粗鬆症の発症メカニズム 骨芽細胞 骨芽細胞 ( 骨形成 ) ( 骨形成亢進 ) 破骨細胞 ( 骨吸収 ) 破骨細胞 ( 骨吸収亢進 ) 骨量 骨量 正常 閉経後骨粗鬆症 東京女子医科大学産婦人科太田博明監修
骨粗鬆症の診断
骨粗鬆症の鑑別診断 : 低骨量を呈する疾患 原発性骨粗鬆症 続発性骨粗鬆症 その他の疾患 閉経後骨粗鬆症老人性骨粗鬆症特発性骨粗鬆症 内分泌性 栄養性 薬物 甲状腺機能亢進症性腺機能不全 Cushing 症候群 壊血病蛋白質欠乏ビタミン A または D 過剰 コルチドステロイドメソトレキセートヘパリン 骨軟化症原発性 続発性副甲状腺機能亢進症悪性腫瘍の骨転移多発性骨髄腫脊椎血管腫脊椎カリエス可能性脊椎炎その他 不動性 全身性 ( 安静臥床 対麻痺宇宙旅行 ) 局所性 ( 骨折後等 ) 先天性 骨形成不全症 Marfan 症候群 その他 関節リウマチ糖尿病肝疾患等
原発性骨粗鬆症診療で健康保険が適用される骨代謝マーカー マーカー名略語測定法 骨粗鬆症診療で算定される保険点数 骨吸収マーカー 血清血清 血漿血清 血漿 尿尿尿 Ⅰ 型コラーゲン架橋 N テロペプチド Ⅰ 型コラーゲン架橋 C テロペプチド酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ デオキシピリジノリン Ⅰ 型コラーゲン架橋 N テロペプチド Ⅰ 型コラーゲン架橋 C テロペプチド NTX CTX TRACP 5b DPD NTX CTX EIA,CLEIA EIA,ECLIA EIA EIA,CLEIA EIA EIA 160 点 170 点 160 点 200 点 160 点 170 点 骨形成マーカー 血清血清 血漿 骨型アルカリホスファターゼ Ⅰ 型プロコラーゲン N プロペプチド BAP P1NP CLEIA,EIA RIA 170 点 170 点 骨マトリックス関連マーカー 血清低カルボキシル化オステオカルシン ucoc ECLIA 170 点
CXD ( 中手骨 ) 499 台 その他 79 台 骨量測定機器普及状況 (2006 年 1 月現在 ) 超音波法 1,156 台 DXA ( 橈骨等 ) 1,353 台 DXA ( 全身骨 腰椎 大腿骨 ) 6,354 台 合計 :9,441 台 財団法人骨粗鬆症財団 骨塩定量分析装置設置医療機関名簿 (2006 年 1 月現在 ) より
DXA( 骨密度測定装置 ) pqct 超音波骨密度測定器 マイクロ CT
骨粗鬆症の診断基準 (2000 年度改訂版 ) Ⅰ. 脆弱性骨折あり Ⅱ. 脆弱性骨折なし 骨密度値 脊椎 X 線像での骨粗鬆化 正 常 YAM の 80% 以上 なし 骨量減少 骨粗鬆症 YAM の 70% 以上 ~80% 未満 YAM の 70% 未満 疑いあり あり YAM: 若年成人平均 折茂肇 他 : 日本骨代謝学会雑誌 18:76-82,2001
好発部位 4 2 3 1 大腿骨頚部骨折 橈骨遠位端骨折 脊椎圧迫骨折
大腿骨頚部骨折 人工骨頭置換術
脊椎圧迫骨折 下肢麻痺
骨粗鬆症での人工関節のゆるみ 骨折 72 才 女性
人工関節術後の骨折 72 才 女性変形性膝関節症 骨粗鬆症 TKA 術後 2 週頃より大腿骨内顆部の疼痛出現 歩行困難となった
骨粗鬆症の予防と治療
高齢者 (65 歳以上 ) の家庭内事故 - 発生場所別内訳 - 総数 14,915 人 ( 平成 20 年の統計東京消防庁 ) 庭 865 人 (5.8%) 廊下 946 人 (6.3%) その他 1.462 人 (9.8%) 階段 1,257 人 (8.4%) 居室 10,385 人 (69.6%) 居室 10,385 人 (69.6%)
骨粗鬆症の予防 運動療法 ( 歩行 体操 水泳など ) 食事療法 ( カルシウム ビタミン 蛋白質など ) 装具療法 ( ヒッププロテクターなど ) ヒッププロテクター
治療の目的 骨折のリスクをへらす 重篤な骨折の予防がより大事 歩けなくなる骨折の予防 大腿骨頸部骨折の予防 椎体骨折後の下肢麻痺の予防
薬物治療開始の選択骨粗鬆症の治療 ( 薬物療法 ) に関するガイドラインより < 骨量減少者 > リスク評価 非薬物治療法による経過観察 高リスク者 骨量急速減少 薬物治療 < 骨粗鬆症者 > 積極的に薬物治療を考慮特に骨折高リスク者 薬物治療
1. カルシウム剤 骨粗鬆症治療薬の分類 2. 骨吸収抑制を主たる作用とする薬剤ビスフォスフォネート ( ダイドロネル フォサマック ボナロン アクトネル ベネット ボノテオ リカルボン ) SERM ( エビスタ ビビアント ) カルシトニン 3. 骨形成刺激を主たる作用とする薬剤 PTH ( フォルテオ テリボン ) 4. 上記 2,3 のいずれにも分類できない薬剤活性型ビタミン D ( アルファロール ワンアルファ エディロール ) イプリフラボン ( オステン ) ビタミン K ( グラケー )
ビスホスホネート (BP) 系薬剤の効力比 分類一般名骨吸収抑制作用の効力比 第一世代 第二世代 第三世代 エチドロネート 1 クロドロネート 1~10 パミドロネート 10~100 アレンドロネート 100~1,000 イバンドロネート 1,000~10,000 チルドロネート 1~10 インカドロネート 100~1,000 リセドロネート 1,000~10,000 ゾレドロネート >10,000 ミノドロン酸水和物 >10,000 Fleisch H: Bisphosphonates in Bone Disease From the Laboratory to the Patien 2000
骨折抑制効果 ( 骨折のある患者 ) (%) 2.5 大腿骨頸部骨折 (%) 5 橈骨遠位端骨折 骨折発生率 2.0 1.5 1.0 0.5 2.2% 51% (22/1,005) 骨折リスク低下 (p=0.047) # 1.1% (11/1,022) 4 3 2 1 4.1% 48% (41/1,005) 骨折リスク低下 (p=0.013) # 2.2% (22/1,022) 0 偽薬 アレンドロネート (1,005 例 ) (1,022 例 ) 0 #:p 値 vs. プラセボ (Log Rank test) 偽薬 アレンドロネート (1,005 例 ) (1,022 例 ) Black,D.M.,et al.:lancet348:1535-1541,1996
正常
骨粗鬆症
骨吸収抑制薬投与時
変形性関節症
変形性膝関節症 (1000 万人以上 / 日本 ) 4-5 倍 女性に多い ( 原因 ) 加齢による関節軟骨の変性 物理的な関節内の損傷 靱帯のゆるみ これに続く炎症 ( 症状 ) 疼痛腫れ ( 関節水腫 ) 可動域制限変形 (O 脚 ) ( 発赤 熱感がないのが特徴 ) 軟骨が摩耗して 軟骨下骨が露出
膝関節のレントゲン像 ( 正面 ) 大腿骨 関節軟骨 腓骨 脛骨
変形性膝関節症とは? 膝の軟骨がすり減り 関節の変形が生じて炎症を起こし 痛みが起こる病気
治療方法 1. 保存的治療 体重のコントロール日常生活動作の注意運動療法 ( 大腿四頭筋の強化 ) 装具療法 ( 膝サポーター 足底板など ) 物理療法 ( ホットパック 温泉など ) 薬物療法 ( 消炎鎮痛薬 関節内注射 ) 2. 外科的治療関節鏡による手術高位脛骨骨切り術人工関節置換術
軽度 変形性膝関節症の治療 中等度 重度 保存的治療 ( リハビリ 装具療法 薬物療法 ) 関節鏡 骨切り術 人工関節
高位脛骨骨切り術
術直後術後 6 ヶ月術後 12 ヶ月
手術創の大きさ 従来法 低侵襲手術 15cm 前後 8~10cm
両側人工膝関節全置換術 高い機能をもった膝関節の再建が可能!!
変形性股関節症 人工股関節
ROBODOC
ロボット手術の実際 ( 人工股関節全置換術 )
健康寿命 : 介護を必要としない 自立した生活ができる 生存期間 男性 :72.3 歳 女性 :77.7 歳 ( 平均 75 歳 日本は世界第一位 ) 健康寿命の延伸 骨 関節疾患の新たな診断技術 予防法 治療法の開発が急務 ( 文化勲章授賞 森光子 92 歳 )