動物の行動 (I) 生得的行動 生まれながらにとれる行動本能 走性 反射外からの特定の刺激に対し特定の行動をとるヒトの生得的行動は少ない 生得的行動動物が生まれながらにしてとれる行動である 物を食べたり, 歩いたりすることなどがある 日常でいう 本能的なもの がこれにあたる ヒトは習得的行動の方が多く, 生得的行動は少ない 本能定義がややあいまいだが, その動物が本来持つ行動である 色々な種類の反射の組合せという考え方もできる 学習をして知能の高い哺乳類, 特にヒトは少ない 摂食本能, 母性本能などがある イトヨは繁殖の時期になるとオスは胸が赤くなる オスが他の繁殖時期のオスが巣に近づいてくるのを見ると攻撃する 紡錘状で半分が赤いものが行動を引き起こす刺激となっている このような本能行動を引き起こす刺激をかぎ刺激または信号刺激という ヒトは本能が少ない しかし物の食べ方はテーブルマナーなどを除けば習わなくても知っている 摂食本能である 走性光, 水, 化学物質, 熱などある刺激に対し, 一定の方向へ移動することである ミミズは湿った方向へ進む正の湿度走性, 蛾は夜には電灯に集まるが, これは正の光走性である またゾウリムシなど好気性の微生物は二酸化炭素から逃げる方向へ動くが, これは負の化学走性である また人間には走性はないはずであるが, 電車マニアが示す 正の電車走性 のようなものは生まれつきではなく, 過去に電車の何かが面白く感じたという, 学習行動の条件反射に近い 反射特定の刺激に対して行動を起こす現象 壁に止まっているハエをハエタタキで退治しようとすると近づいただけで逃げられる これは人間が近づくことによってできた影や風がハエにとっては刺激になる また哺乳類のヒトでも熱いものに触れた場合思わず手を引っ込めるのは有名な反射である このとき, 感覚細胞 感覚神経 脊髄 運動神経 筋肉と大脳からの指令を待たずに脊髄の判断で筋肉を収縮させている この反射行動が起こるルートを反射弓 ( または反射弧 ) という 基本的に生得的行動は生命を守るための行動が多い b1025-1 新快速のページ講義ノートシリーズ生物
動物の行動 (II) 習得的行動 生得的なものとは別に生後, 刺激を繰り返し受けて新しい行動をとることができる学習行動と知能行動があり, 学習には慣れ, 刷込み, 条件反射, 試行錯誤がある 習得的行動例えばヒトは字を書けるが, これは生まれながら本能的に書けるということではなく, 生後にペンの持ち方, 使い方を覚えて言語を覚えて手の筋肉を何度も動かして字が書けるようになる ペットのイヌやネコはきちんと自分のエサ場やトイレを認識しているがこれも本能的に分かるのではなく, 生後覚えてエサ場やトイレに行くという行為をとっている 習得的行動には学習行動と知能行動がある 学習慣れ, 条件反射, 刷込み, 試行錯誤がある 経験によって新しい行動がとれるようになる 慣れ同じ刺激を繰り返し与えると次第に反応が小さくなる アメフラシのえらやカタツムリの触角をつつくと初めはすぐに引っ込めるが, 何回も繰り返すと引っ込めなくなる, もしくは引っ込める度合が小さくなる 条件反射パブロフの犬が有名 イヌにベルの音を聞かせてその直後にエサを与える これを繰り返すとイヌはベルの音を聞いただけでだ液が分泌されるようになる 駅で改札機を見て無意識に Suica や ICOCA や PASMO や PiTaPa などをタッチしそうになるのも条件反射と考えられる 生得的行動の反射とは全く違い, 条件反射は学習行動であり, 大脳が必要であることを間違えないように 条件反射を引き起こす刺激を条件刺激という 刷込みアヒルなど多くの鳥類のヒナが生後初めて見た動く物を親と思って追いかける現象がこれに当たる 生物学者ローレンツによって提唱された なかなか修正できない 試行錯誤哺乳類などでよく見られる 数々の失敗を繰り返し成功すると次回からは失敗が少なくなる ネズミ, ネコ, イヌなどを迷路に入れると初めは迷うが, 一旦ゴールにたどり着けば次からは短時間でゴールにたどり着くことができるようになる 知能哺乳類のみにみられる高度なテクニックである 今の状況を把握し, これから起こることを予想して行動をとる 霊長類, イルカに特に顕著だが, イヌやネコにも見られる 受験生が毎日行っている, 問題を解くという行為はもちろん知能行動である b1031-2 新快速のページ講義ノートシリーズ生物
ミツバチの行動 8 の字ダンスは幾何学的な考え方で太陽の方向をもとに 地図 を描くダンスの回数でおおよその距離を示す約 100m 以内のときは円形ダンス 8の字ダンスミツバチは仲間に, 餌場の方向と距離を極座標的に知らせる 極座標というのは原点 ( 極という ) からの距離と方向で位置を表すもので, 数学 C で扱うが, 知らなくてもミツバチのダンスには影響がない これは本能行動の一種である 8 の字ダンスの軌道は 8 というよりも 日 や θ に近いが, ミツバチの動きからすると 8 を描いている 真ん中の直進部分が餌場の方向を示している 真ん中の直線部分をしりを振りながら進み, その後は右 ( または左 ) カーブし半周して戻ってきて次に左 ( 右 ) カーブして半周のように, 左右交互に半周ずつする 方向はこの角度で, 距離は 8 の字ダンスをする速さで表現される 方向は文章より図の方が分かりやすいので上図を見てほしい 巣の仲間に見えるよう, 巣の鉛直な壁を 8 の字を描いて歩くようなダンスをする ( 鉛直は水平の対義語 ) ミツバチの直進部分が鉛直線と角度 θ だけずれていた場合, その θ は巣箱から太陽の方向を向いたとき, 餌場は左右どちらにずれた方向にあるかを示す 例のように, ミツバチが右に 30, つまりアナログ時計の 1 時の向きに直進していたら, 巣箱から太陽を見て右に 30 の方向へ行けば餌場があるということである また右に 150 つまりアナログ時計の 5 時の向きなら,150 右に, つまり巣から回れ右をして左へ 30 の場所ということが分かる 太陽を基準とした方角を表している また, 太陽の方角も自分で判断しなければならない問題も多い 試験では日本国内や北半球の話が多いので, 太陽は正午には南中するが,1 時間に 15 ずつ東から西へ動くので例えば 15 時なら 45 分だけ西方であり, 南西の方向になる また, 距離は遠ければ遠いほどゆっくりになる およそ 100m を超えたとき,8 の字ダンスをし,100m 未満なら円形ダンスをする 円形ダンスには方角の情報は示されない b1067-2 新快速のページ講義ノートシリーズ生物
シダ植物とコケ植物 胞子体は胞子を作る 2n 世代配偶体は胞子から発芽したもので n 世代シダ植物の本体は胞子体コケ植物の本体は配偶体胞子母細胞が減数分裂をして胞子に シダ植物代表はイヌワラビ 現代は種子植物よりはマイナーであるが, 都市部でも路地などに雑草として生えている あの有名なつくしんぼことスギナもシダ植物である イヌワラビに話を戻したい あの細かい葉っぱのようなものがたくさん付いたうちわみたいな形のものがシダ植物の本体で, 胞子体とよばれる 胞子体の葉の裏には胞子のうがあり, その中には胞子母細胞が入っている それが減数分裂をし, 胞子をつくる シダ植物を見たら葉の裏を触ってみるといいかもしれない ザラザラするが, それが胞子のうである もちろん胞子は減数分裂したあとのものなので, 核相は n である それが発芽し, 前葉体とよばれる小さな葉のようなものに育つ 前葉体は 1cm にも満たないので見落とすかもしれないが, 注意して見ると結構色々な所に生えている ただ, 湿気の多い所に多く, 直射日光が射すような所にはあまり生えていない 前葉体は卵細胞や精子を作るので, 配偶体とよばれる 減数分裂したものが受精せずに育ったから,DNA は胞子体の半分しかない 前葉体は裏側に造精器と造卵器があり, それぞれ精子と卵細胞をつくる 精子はベン毛を持ち, 雨の日に水中を自ら泳ぎ, 卵細胞のもとへと行き, 受精して 2n の受精卵となる 受精卵は成長し, 胞子体となる これがシダ植物の生活環である 2n と n が変化することを世代交代という コケ植物代表はスギゴケ 都市部でも日の当たらない木の根元近くに生育していることがある 本体は n の配偶体で, 雄株, 雌株の区別がある 胞子体はとても小さく, 葉緑体もないため, 配偶体である雌株の上に寄生してそこで育つ 胞子体の中では胞子母細胞が減数分裂をし, できた胞子はバラまかれる すると配偶体が発芽する このとき造卵器を持つ雌株, 造精器を持つ雄株がそれぞれ成長し, 卵細胞と精細胞を作り, 精細胞は精子に分化して雨の日に水中を泳ぎ, 卵細胞のある雌株の所まで自力で行く そして受精して受精卵は胞子体となる 右の図でいうと, 胞子体と受精卵のみが 2n 世代である 普通の被子植物などは, 本体が花を咲かせる 2n であるから, このあたりを正確に覚えておいてもらいたい b1080-2 新快速のページ講義ノートシリーズ生物
植物ホルモン 成長ホルモン オーキシン ジベレリン サイトカイニン抑制ホルモン アブシシン酸 エチレン花成ホルモン フロリゲン 成長ホルモン植物のホルモンは植物体のある部分で作られる有機物で, 動物のホルモンのように微量で効果がある 育つことができる季節を感知するとそのホルモンが合成され, 細胞分裂を促進したり, 気孔を開いたりする オーキシンインドール酢酸とよばれるものが代表 オーキシンという名の物質があるわけではない 茎の先端で作られ, 細胞分裂を促進する成長ホルモンである このとき, 茎の先端 ( 茎頂 ) はよく育つが, 途中の枝 ( 側芽 ) は成長が抑制される つまり, 枝分かれするよりも高く育つことが優先される これを頂芽優勢という オーキシンは植物の基部に移動する極性がある ジベレリンイネの馬鹿苗病の病原菌から発見 葉や茎をひたすら成長させる 植物の全組織にある 休眠打破の作用もある 多すぎると異常に成長して最終的には自滅してしまう オーキシンのような極性はない 受精しなくても子房を肥大させるはたらきがあるので, 種なしブドウを作るのに用いられる サイトカイニン根で作られ, 植物体全体に運ばれる 細胞分裂の促進や気孔の開孔など 気孔を開けて蒸散させることによって, 細胞内の浸透圧を高くし, 根から無機塩類などを水とともに吸収する 抑制ホルモンしかしそんな植物も成長してばかりはいられない 環境の変化に応じて気孔を閉じたり果実を成熟させたり休眠したりも必要である アブシシン酸休息モードに入るためのホルモンで, 落葉, 気孔の閉孔, 種子なら発芽の抑制など, 成長に対しては消極的になる 数々の成長ホルモンとは拮抗的 ( 対抗的 ) にはたらく またエチレンを誘導する エチレン果実の成熟を促進する また細胞の成長を抑制し, 果実の落下を促進する 完全に成長には消極的になり, 防御し始めるのである ホルモンは分子構造が複雑になるが, エチレンは化学でやっている通り簡単な炭化水素 C 2 H 4 である それでもれっきとしたホルモンとしてはたらく b1060-1 新快速のページ講義ノートシリーズ生物
花芽形成 植物は葉で光を感知し花成ホルモン ( フロリゲン ) を合成する長日植物 短い暗期短日植物 長い暗期明期ではなく暗期の長さ 花芽形成植物が花を咲かすことを花芽形成という 花を咲かす季節は種類によって異なるが, 適切な温度と昼夜の長さによって決まる 光を感知しないと思いもよらない変な季節に花を咲かせてしまい, すぐに枯れてしまう ここでは光について考えたい 限界暗期植物の開花は明期ではなく, どれだけ暗期が続いたかによって決定される 右の図は が開花, が開花しないものである 上から 2 番目と一番下の帯グラフの通り, 暗期の途中に数分程度でも強い光を植物に当てると, 長日植物は開花し, 短日植物は開花しない つまりそれまで体験した暗期はリセットされるのである この処理を光中断とよぶので併せて覚えてもらいたい 短い夜を好む長日植物連続する暗期の時間がある時間より短かったときに花が咲く植物を長日植物といい, その ある時間 のことを限界暗期という 超危ない無理な大放送はやめろ ( 長日 ) アブラナ, ムギ, ダイコン, ホウレンソウ, アヤメ 長い夜を好む短日植物連続する暗期の時間がある時間よりも長ければ花が咲く このような植物を短日植物といい, その ある時間 をやはり限界暗期という 短気なアサちゃん女の子が大好き ( 短日 ) アサガオ, オナモミ, コスモス, ダイズ, キク 昼夜は関係ない中性植物これといったワガママを言わず, いつでも花を咲かす植物が中性植物である 中世ヨーロッパの蕎麦にトマトとキュウリとコーンを運ぼう ( 中性 ) セイヨウ ( 西洋 ) タンポポ, ソバ, トマト, キュウリ, トウモロコシ, ハコベ 植物は光を葉で感知する 葉を短日処理や長日処理するという表現をよく見かけるが, アルミホイルなどで覆うことで植物に暗期と思わせているのである このような操作で本来その季節には咲かないはずの花を咲かすことができる b1004-1 新快速のページ講義ノートシリーズ生物
フィトクロムと光の作用 花芽形成や種子の発芽に関係 Pr 型は赤色光を受け,Pfr 型に Pfr 型は遠赤色光を受け,Pr 型に可逆的に変化するタンパク質 Pfr 型は種子発芽を促進 フィトクロムフィトクロムは多くの植物や藻類が持つ色素タンパク質であり, 光を吸収することにより, 吸収スペクトルが変化する 波長が 660nm 程度の光を赤色光,730nm 程度の人間の目ではギリギリなんとか見える程度の暗い赤い光から見えない 900nm 程度の赤外線を遠赤色光という フィトクロムは Pr 型と Pfr 型とがあり, 上記ポイントの通りである 光発芽種子レタス タバコが有名 入試問題では右の表のようなものがよく出ている 国公立なら論述も必要といえる レタスの種子に水分を十分に染み込ませ, 約 5 分ずつ表のような順に光を当て, 発芽率 [%] を調べる すると表のようになった よく見ると, 最後に遠赤色光を当てた場合は発芽しにくいが, 最後に赤色光を当てた場合はよく発芽する 0 や 100 にならないのは種子の中には天邪鬼的なものもあるからである この実験より, 赤色光を当ててフィトクロムを Pfr 型にしておくと種子が発芽することが分かる このような種子を光発芽種子という 地中の種子に赤色光が届くということは太陽光が地面まで届いているということなので発芽しても日光を浴びて成長できる しかし遠赤色光は他の植物体を通過するため, 種子が遠赤色光を受けるとそれは地上が ライバル となる植物で覆われており, 発芽しても日光を浴びられないと判断する そのため Pr 型は発芽を抑制していると考えられる 処 理 発芽率 [%] 暗所 2 赤 75 遠 2 赤 遠 3 遠 赤 80 遠 赤 遠 4 赤 遠 赤 81 花芽形成花芽形成の実験で光中断すると, そこまで続いた暗期はキャンセルされる 普通, 光のスペクトルの中には赤色光も含まれており, それによって植物が持つフィトクロムが Pfr 型になる 光中断により暗期を分断し, それぞれ限界暗期よりも短くすると長日植物が開花するということを考えれば,Pfr 型は長日植物を開花させることが分かる また, 遠赤色光を当てると短日植物が開花する つまり Pr 型は短日植物を開花させることも分かる b1061-1 新快速のページ講義ノートシリーズ生物
光合成の限定要因 植物は条件がキチンと揃わないと中途半端にしか光合成できない 満たせない条件のことを限定要因という適温で光を当てても二酸化炭素が少ないと光合成は無理 限定要因光合成には水, 光, 二酸化炭素が必要で, さらに酵素を使った種々の反応を経るため, 温度も適切にする必要がある これらの条件が 1 つでも欠けていたら光合成が十分にできない 欠けている条件を限定要因という 図 1 は, ある植物で横軸に二酸化炭素濃度, 縦軸にそのときの光合成速度をとったものである またその植物に 3 段階の強さの光 (x >y>z) を当て,3 回測定した結果を示している 二酸化炭素濃度が a のとき,3 本のグラフが重なっているため光を強くしても, 光合成速度は変わらない しかし二酸化炭素濃度を上げてやれば, いずれの光の強さのときでも光合成速度を上げられる このとき, 二酸化炭素濃度が限定要因である グラフはこの他にも横軸に温度または光の強さをとったバージョンもある 縦軸は光合成速度だが, それを変えるのが二酸化炭素濃度, 温度, 光と 3 つもあるため, 紙に 2 次元のグラフとしては描けない だから複数枚のグラフを組み合わせて考えるのである 少々複雑で, グラフを見比べる練習が必要である 光の強さは L 3 >L 2 >L 1 例題 1 光の強さ L 1, 温度 15, 二酸化炭素濃度 0.03 % のときの限定要因は何か 解答 図 2 と図 4, つまり 15 があるグラフを使う 15,L 1,0.03 の所に をプロットしてみる このとき, グラフの y 座標を大きくするにはどうすればよいのかを考える 図 2 でそのまま温度を 35 にしても変わらないが, 右, つまり光を強くすると y 座標が増える 図 4 でも L 2,L 3 のラインの方が高い所にある だから限定要因は光 例題 2 光の強さ L 2, 温度 35, 二酸化炭素濃度 0.01 % 解答 図 3 と図 5 を使う L 2,35,0.01 % の所に をプロットする 図 3 で, 太く描いた曲線をたどって右に行っても, 図 5 で L 3 のラインを見ても, どちらからも光を強くしても意味がないことが分かる しかし図 3 から二酸化炭素濃度を上げると光合成速度が上がる b2100-1 新快速のページ講義ノートシリーズ生物